説明

腫瘍再発の予防ための腫瘍崩壊性ウイルス療法

腫瘍、好ましくは悪性脳腫瘍または膵臓腫瘍の再発を予防するためのパルボウイルスを記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍、好ましくは悪性脳腫瘍または膵臓癌の再発を予防するためのパルボウイルスを提供する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍の長期的な治療がしばしば成功しないのは、腫瘍再発のためである。これは特に、悪性脳腫瘍の治療において問題となっている。腫瘍の外科的除去が成功してMRIで残存腫瘍が示されない場合であっても、90%より多くの患者は、最初の治療後の2〜3年以内に再発性腫瘍を発症する。この状況を改善するための現在の標準的な戦略としては、放射線-化学療法の使用が挙げられる。しかしながら、この治療は、3〜4ヶ月の生存の改善を示すのみで、腫瘍再発率または長期生存者の改変を示さない。現在、種々の実験的薬物および戦略が、生存を長期化し、腫瘍再発率を下げるために試験中であるが、今日まで、何らかの大きな躍進についての報告はない。
【発明の概要】
【0003】
従って、腫瘍再発の予防手段を提供することが本発明の目的である。
【0004】
本発明によると、このことは、特許請求の範囲に規定される主題により達成される。本発明は、自発的な腫瘍の再発および腫瘍特異的免疫の誘導が、実験的グリオーマおよび膵臓癌について例示される、パルボウイルスH-1を用いた腫瘍崩壊性ウイルス療法により達成され得るという本出願人の発見に基づくものである。腫瘍崩壊性パルボウイルスH-1を用いた腫瘍の治療により、腫瘍特異的免疫の発生がもたらされる。この効果は、頭蓋内RG-2グリオーマを有する免疫応答性Wistar-ラットにおいて検出された。パルボウイルスH-1を用いた脳腫瘍の成功裡の治療後の腫瘍特異的免疫の誘導は、これまで説明されていなかった。
【0005】
H-1PV治療の免疫学的効果を分析するために、いくつかの異なる実験を行なった。
【0006】
実験1には、成功裡に治療したWistarラットへのRG-2腫瘍細胞での再攻撃(re-challenge)が記載される。大きな頭蓋内RG-2グリオーマを有する雌Wistarラット(n=7)をパルボウイルスH-1PVで治療した(腫瘍内注射:n=4;静脈内注射:n=3)。腫瘍寛解の完了がMRIにより示され、成功裡の治療後の6ヶ月より長い追跡の後、動物をRG-2腫瘍細胞で再攻撃し(頭蓋内注射)、MR画像化などの腫瘍形成を観察した。この実験の目的は、第一の治療により動物の再発性腫瘍増殖が予防されたかどうかを評価することであった。
【0007】
実験2には、成功裡のパルボウイルスH-1PV治療後の動物における、腫瘍再攻撃後の腫瘍特異的免疫効果の分析が記載される。この実験の目的は、RG-2細胞での再攻撃時に、H-1PV注射により実験的グリオーマから治療を受けた動物が、腫瘍特異的免疫応答を示したかどうかを評価することであった。このことを試験するために、リンパ節から排出したリンパ球を回収し精製した。精製したリンパ球を、放射線照射したRG-2細胞、放射線照射して以前にH-1PV注射したRG-2細胞または凍結融解したRG-2細胞で刺激した。リンパ球のコンカナバリンA処理を、特異的リンパ球生存力を検証するための対照とした。それぞれの抗原に曝露した48時間後、細胞に3H-チミジンを適用して、72時間後に回収した。
【0008】
実験3には、H-1PVの腫瘍抑制効果におけるT細胞の関与が記載される。
【0009】
実験4には、腫瘍特異的免疫細胞を未感染腫瘍保持ラットに養子免疫伝達することにより、免疫抑制効果がもたらされることが示される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、成功裡の治療(頭蓋内(i.c.))および再攻撃後のMR画像化の例である。A1: H-1PV治療の1日前のMR(頭尾方向の3つの切片);A2: 腫瘍の寛解を示す、H-1PVでの頭蓋内治療の3日後のMR;A3: ほぼ完全な腫瘍寛解を有する、H-1PVでの治療の7日後のMR;A4: 可視的な腫瘍がない、腫瘍再攻撃の150日後のMR。
【図2a】図2aは、2回再攻撃動物におけるリンパ球と腫瘍抗原の共培養後の絶対計数(3Hチミジン取り込み)である。LN=リンパ節排出由来のリンパ球
【図2b】図2bは、2回再攻撃動物におけるリンパ球と腫瘍抗原の共培養後のリンパ球活性の相対変化である(対照動物に対する%差)。
【図3】図3は、治療ドナー由来の脾臓細胞の、未処理レシピエントへの養子免疫伝達である。(A) ドナーの治療プロトコルの模式的表示。膵臓腫瘍を有するラット(n=16)をPBS(n=8)またはH-1PV(1x109プラーク形成単位/動物、n=8)のいずれかで腫瘍内治療した。この時点で、脾臓細胞レシピエントとして使用した16匹のラットで腫瘍が誘導された。(B) 腫瘍摂取の220日後のレシピエントラットの生存指数。レシピエントの腫瘍が発症して21日後(矢印)に養子免疫伝達を行なった。PBS対照(黒丸)またはH-1PV治療(白丸)ドナー由来の脾臓細胞を受けたラット。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、腫瘍の再発を予防するための方法における使用のためのパルボウイルスを提供する。
【0012】
好ましくは、前記パルボウイルス(パルボ治療(parvotherapeutic)剤)は医薬組成物として調製され、ここでパルボウイルスは有効用量で存在し、薬学的に許容され得る担体と合わされる。「薬学的に許容され得る」は、活性成分の生物学的活性の効果を妨害せず、投与を受けた患者に対して毒性でない任意の担体を包含することを意味する。適切な医薬担体の例は当該技術分野に周知であり、リン酸緩衝化食塩水、水、油/水エマルジョンなどのエマルジョン、種々の湿潤剤、滅菌水溶液等が挙げられる。さらなる薬学的に適合され得る担体としては、ゲル、生物吸収性マトリックス物質、治療剤を含む埋め込み要素、または任意の他の適切なビヒクル、送達もしくは分散のための手段または物質(1つまたは複数)が挙げられ得る。かかる単体は、従来の方法により調製され得、有効用量で被験体に投与され得る。
【0013】
「有効用量」は、腫瘍の再発を予防するのに充分な活性成分の量をいう。「有効用量」は、当業者に公知の方法を使用して決定され得る(例えば、Fingl et al., The Pharmocological Basis of Therapeutics, Goodman and Gilman編. Macmillan Publishing Co., New York, pp. 1-46 ((1975)参照)。
【0014】
化合物の投与は、種々の方法、例えば、静脈内、腫瘍内、腹腔内、皮下、筋内または皮内の投与により実施され得る。当然ながら、投与経路は、治療の種類および医薬組成物に含まれる化合物の種類に応じる。好ましい投与経路は、静脈内投与である。パルボウイルス(パルボ治療剤)の投与計画は、患者データ、観察および他の臨床的な要因、例えば患者の体格、体表面積、年齢、性別、投与される具体的なパルボウイルス等、投与の時間および経路、腫瘍の型および特徴、患者の一般的な健康状態、ならびに患者に供される他の薬物療法などに基づいて、主治医により、当業者には容易に決定可能である。
【0015】
本発明のパルボ治療剤(1つまたは複数)が、血液脳関門を通過する能力を有する感染性ウイルス粒子を含む場合は、治療は、ウイルス治療剤、例えばH1ウイルスの静脈注射により行なわれ得るかまたは少なくとも開始され得る。好ましい投与経路は、腫瘍内、または脳腫瘍の場合は、頭蓋内もしくは脳内投与である。
【0016】
別の具体的な投与技術として、パルボ治療剤は、患者に埋め込まれた供給源から患者へと投与され得る。例えばシリコーンまたは他の生体適合性物質のカテーテルを、腫瘍除去中に患者に挿入された小さな皮下レザバー(Rickhamレザバー)に連結し得るか、またはさらな外科的介入なく種々の時点でのパルボ治療組成物の局所注射を可能にする他の手段により連結し得る。定位固定外科的技術または神経誘導標的化技術によってもパルボウイルスを腫瘍に注射し得る。
【0017】
パルボ治療剤の投与は、適切なポンプシステム、例えば蠕動輸液ポンプもしくは対流増大送達(CED)ポンプを使用して、埋め込みカテーテルを介して低流速で、ウイルス粒子またはウイルス粒子を含む液体の連続輸液によっても実施され得る。
【0018】
パルボ治療剤のさらに別の投与方法は、パルボ治療剤を所望の腫瘍組織に分配するように構築および配列された埋め込みデバイスによるものである。例えば、パルボ治療組成物、例えばパルボウイルスH-1PVを充填したウェハー(wafer)を使用することができ、ここで該ウェハーは、外科的腫瘍除去の終わりに切断腔の端に接続される。かかる治療介入には、多数のウェハーを使用し得る。能動的にパルボ治療剤、例えばパルボウイルスH1を産生する細胞を、腫瘍または腫瘍除去後の腫瘍腔に注射し得る。
【0019】
本発明による治療は、腫瘍、特に脳腫瘍および膵臓腫瘍の再発の予防に有用であるので、前記疾患の予後を有意に改善し得る。腫瘍崩壊性パルボウイルスの感染による抗腫瘍応答の増加は、このウイルスの腫瘍細胞(健常細胞ではない)に対する直接的かつ特異的な細胞毒性を、腫瘍特異的免疫の誘導に基づく二次的で長期的な抗腫瘍活性に結びつける。
【0020】
本発明の好ましい態様において、パルボウイルスは、グリオーマ、髄芽腫および髄膜腫などの脳腫瘍の再発の予防に使用される。好ましいグリオーマは、悪性ヒトグリア芽腫である。しかしながら、本発明の治療は、原則的にパルボウイルス治療剤、例えばパルボウイルスH-1PVに感染され得る任意の腫瘍に適用可能である。かかる腫瘍には、膵臓腫瘍、前立腺腫瘍、肺腫瘍、腎臓腫瘍、肝臓癌、リンパ腫、乳腫瘍、神経芽腫、結腸腫瘍および黒色腫が含まれる。
【0021】
用語「パルボウイルス」または「パルボ治療剤」は、本明細書で使用する場合、野生型ウイルス、その改変複製コンピテント誘導体、例えばCpG外装ウイルス、ならびにかかるウイルスまたは誘導体を基にした関連複製コンピテントもしくは非複製ウイルスもしくはベクターを含む。適切なパルボウイルス、誘導体等ならびに前記パルボウイルスを能動的に産生するために使用し得る、かつ治療に有用である細胞は、本明細書の開示に基づいて、過度の実験的な努力なく、当業者に容易に決定され得る。
【0022】
本発明の別の好ましい態様において、該組成物のパルボウイルスは、パルボウイルスH-1(H-1PV)またはLuIII、マウス微小ウイルス(MMV)、マウスパルボウイルス(MPV)、ラット微小ウイルス(RMV)、ラットパルボウイルス(RPV)もしくはラットウイルス(RV)などの関連パルボウイルスを含む。
【0023】
本発明のパルボ治療剤により治療可能な患者としては、ヒトおよび非ヒト動物が挙げられる。後者の例としては、限定されないが、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、イヌおよびネコなどの動物が挙げられる。
【0024】
最終的に、本発明はまた、腫瘍の再発の予防のための医薬組成物の調製のためのパルボウイルス、例えばH-1(H-1PV)または関連パルボウイルス、例えばLuIII、マウス微小ウイルス(MMV)、マウスパルボウイルス(MPV)、ラット微小ウイルス(RMV)、ラットパルボウイルス(RPV)もしくはラットウイルス(RV)の使用に関する。
【0025】
パルボ治療剤を用いた治療は、さらなる種類の治療、例えば、例えばゲムシタビンなどの化学療法剤を使用する化学療法、放射線療法または免疫療法と組み合わされ得る。
【0026】
以下の実施例により、本発明をより詳細に説明する。
【実施例】
【0027】
実施例1
材料および方法
(A)細胞株
ラット神経膠芽腫細胞株RG-2を10%のFCS(Biochrom KG、Berlin、Germany)および1%の抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシン; Gibco、Invitrogen Corporation、Karlsruhe、Germany)を添加したDMEM(Sigma-Aldrich、Steinheim、Germany)中で、5%のCO2加湿雰囲気中、37℃で培養した。ラット脳に注射する対数増殖期のRG-2細胞をトリプシン処理し、遠心分離し(1000rpm/10分)、ペレットを、添加物なしのDMEM中に再懸濁した。
【0028】
(B)RG-2細胞への照射
リンパ球とのRG-2細胞の共培養の前に、細胞増殖が停止され得る線量である3000cGyを該細胞に照射した。
【0029】
(C)パルボウイルスH-1(H-1PV)の作製および感染
H-1PVをヒトNBK細胞において増幅し、先に記載(Faisst et al.,J Virol 69(1995)、4538-43)のヨードキサノール勾配で精製した。プラークアッセイによってH-1PVをNBK指示細胞において滴定し、プラーク形成単位(pfu)/細胞で示される感染多重度(MOI)で、さらに使用した。
【0030】
(D)インビトロ刺激アッセイ
この試験は、腫瘍抗原との共培養によるリンパ球の特異的活性化をアッセイするために使用した。LN細胞を排液リンパ節から、シリンジプランジャーでの該リンパ節の機械的破壊およびメッシュでの残屑の濾過によって収集した。0.1%のウシ血清アルブミン(BSA; Sigma Chemical Co、St Louis、MO)を添加したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液を、すべてのインビトロでのリンパ球操作に使用した。LN細胞を96ウェル丸底プレート内に2.5 x 105細胞/ウェルで播種し、さらに、10%のウシ胎仔血清、2mmol/L グルタミン、50 U/mL ペニシリン、50μg/mL ストレプトマイシン、Hepes 25 mM、および0.05mmol/L 2-メルカプトエタノールを添加したRPMI 1640培地中で培養した。培養物を、完全RPMI培地中で37℃および7%のCO2にて48時間インキュベートし、1μCi [3H]TdR/ウェルを各ウェルに添加した。72時間目、細胞を、Harvester 96(TomTec、Orange、CT)を有するガラス繊維フィルター(Wallac Oy、Turku、Finland)上に収集し、1205 Beta-Plateリーダー(Wallac、Gaithersburg、MD)において計測した。結果を、四重培養物の平均CPM ± 標準偏差(SD)として示した。
【0031】
(E)動物実験
すべての動物実験は、施設内および国のガイドラインに従って行なった。
【0032】
(F)腫瘍細胞の大脳内移植
再攻撃実験の6〜12ヶ月前にパルボウイルスH-1PVで成功裡に処理した8匹の雌Wistarラット(Charles River、Sulzfeld、Germany)(5匹ラットには腫瘍内治療を与え、3匹のラットには静脈内治療を与えた)を使用した。雌Wistar近交系ラットにイソフルラン(初期用量2.5%、維持1.6%)で麻酔し、定位枠に乗せた。頭皮の線状切開後、正中の2mm右側および冠状縫合に対して1mm前方に0.5mmの穿頭孔を作製し、10μlのHamiltonシリンジの針を穿頭孔から前頭葉内の硬膜レベルの5mm下の深さまで定位的に導入し、RG-2神経膠腫細胞(5μlの容量中1000000細胞)を5分間で注射した。針をゆっくり抜き取り、穿頭孔を骨蝋で密封した。
【0033】
実施例2
成功裡に処理したWistarラットのRG-2 腫瘍細胞での再攻撃
合計7ラットをH-1PVで成功裡に処理し、頭蓋内の神経膠腫を完全寛解にした。これらの7匹のラットのうち、4匹のラットは大脳内(i.e.)治療を受け、3匹のラットは静脈内(i.v.)治療を受けた。i.v.治療ラットでは、中和抗体の形成によってインタクトな体液性免疫応答が示された(表1)。神経膠腫の再増殖なしの6ヶ月の観察期間後、ラットに100,000個のRG-2 腫瘍細胞の大脳内注射を再攻撃した。2匹の対照動物には同数の腫瘍細胞を注射した。7匹の再攻撃動物のうち0匹でRG-2神経膠腫が発生し、対照的に、2匹の対照動物のうち2匹が腫瘍細胞の注射後、14日目および15日目に腫瘍の形成によって死亡した。生存した再攻撃動物の追跡期間は>3ヶ月とし、MRIでは、いずれの再攻撃ラットでも腫瘍の成長は示されなかった(表2および図1)。
【0034】

【0035】

【0036】
実施例3
成功裡のパルボウイルスH-1PV治療後の動物における腫瘍再攻撃後の腫瘍特異的免疫細胞の検出
再攻撃実験の6ヶ月前にH-1PVで成功裡に治療した動物の排液リンパ節由来のリンパ球のインキュベーションにより、RG-2細胞によるリンパ球活性化の強い増大がもたらされる。この腫瘍特異的効果は、照射RG-2細胞または凍結/解凍処理後のRG-2細胞を抗原として使用した場合に検出され得た。絶対数は、凍結/解凍処理RG-2細胞よりも照射RG-2細胞とのリンパ球のインキュベーション後の方が高かった(図2a)。しかしながら、対照と比べたリンパ球比活性の相対増加は、RG-2神経膠腫細胞の凍結/解凍処理後の方が高かった(図2b)。
【0037】
実施例4
単回腫瘍内用量のH-1 PVでの動物の治療後の神経膠腫抑制におけるT細胞の役割
RG2神経膠腫を有するWistarラットにおける一時的なCD8細胞枯渇を、単回H-1 PV腫瘍内注射後の確立された神経膠腫の運命に対する効果について試験した。この条件下で、非枯渇動物における神経膠腫塊の完全寛解を観察した。対照的に、CD8陽性T細胞を特異的抗体のi.p.注射によってブロックした場合、枯渇ラットにおいて、H-1 PV感染で腫瘍抑制は引き起こされなかった。だが、続いて、これらの腫瘍を有する感染動物をCD8陽性T細胞で再構成した場合(抗CD8抗体の注射の中止)、さらなるH-1 PV注射なしで完全腫瘍寛解が起こった。重要なことに、H-1 PV治療なしでは、実験条件で神経膠腫を有する動物において自然な腫瘍寛解が観察されなかったため、T細胞の存在単独は回復に充分でなかった。これらのデータから、パルボウイルスH-1PV感染による宿主抗腫瘍T細胞応答の活性化は、神経膠腫の成功裡のH-1 PV系治療に必須であると結論づけることができる。
【0038】
実施例5
H-1PVでの膵臓癌の治療
H-1 PV治療膵臓腫瘍を有するラット由来の脾細胞を、同じ型の腫瘍を有する未処理レシピエントに移入した。移入された免疫細胞は、受動的(細胞傷害性リンパ球)または能動的(抗原提示細胞)にレシピエントを腫瘍発生から保護されることが予測された。実際、H-1 PV処理ドナーからの養子移入により、未処理腫瘍を有するラット由来の脾細胞を受けた対照レシピエントと比較して、これらの動物においてメジアン生存期間のほぼ倍加が引き起こされた。
【0039】
腫瘍モデル
すべての外科および画像形成手順は、エーロゾル麻酔下で行なった。体重180〜200gの免疫応答性雄Lewisラット(Janvier、Le Genest Saint Isle、France)を膵臓癌移植に使用した。移植HA-RPC細胞によって形成した皮下腫瘍から200μlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中5x106細胞の懸濁液を調製し、膵臓実質に注射した。移植後、最初の3週間、膵尾まで腫瘍の進行が確認され、第4週の間にリンパ節浸潤に至った。5〜6週間後に肝臓転移が現れ、6〜9週目に起こった肺転移により死亡した。
【0040】
養子移入
脾臓をインタクトで取り出し、滅菌技術を用いてPBS中でばらばらにした。ストレーナーの上面でプランジャーを用いて脾臓を細分した後、1000rpmで15分間の遠心分離によって単細胞懸濁液を得た。脾臓細胞を添加物を含むRPMI 1640中に再懸濁し、血球計算板で、生存能を確保するためのトリパンブルー中にて計測した。平均生存能は>90%であった。PBSまたはH-1PVで処理した腫瘍を有するラットから単離された脾細胞を腫瘍を有するレシピエントラットに麻酔動物において静脈内および腹腔内で注射した(合計1x107細胞/動物)。
【0041】
結果
膵臓腫瘍のH-1PV感染の免疫調節性の特徴は、H-1PV処理動物の脾臓由来の免疫細胞の養子移入を使用することにより評価した。膵臓に腫瘍の発生の2週間後、ラットにH-1PV腫瘍内注射を与えた(図3A)。3週間後、進行中の免疫反応を示し、末梢組織からのH-1PVのクリアランスをもたらす(データ示さず)抗ウイルス中和抗体が出現した時点で、動物の脾臓を収集し、3週目の膵臓腫瘍を有する未処理レシピエント動物への細胞移入に使用した。H1-1PV処理ドナー由来の脾細胞によりレシピエント動物が保護され得、対照ドナー由来の細胞と比べて、腫瘍の成長の遅滞および生存期間の有意な(p<0.01)延長(152日対90日)がもたらされた。移入の3週間後、レシピエントの血清を、H-1PVに対する中和抗体の存在について細胞毒性保護アッセイによって評価した。抗体力価の上昇は観察されず、脾細胞とともにウイルスは移入されなかったことが示された(データ示さず)。これにより、H-1PV媒介性腫瘍崩壊効果がレシピエント動物で観察された抗腫瘍効果に関与している可能性が排除された。
【0042】
したがって、膵臓癌では、以前に使用されていた肝細胞癌モデルと同様、H-1PVは、腫瘍に対して免疫系を刺激して反応させ得る免疫賦活効果を有する。上記の養子移入実験は、ウイルス処理ドナーの免疫系により、同じ腫瘍実体を有する未処理動物が保護され得ることを明白に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍の再発を予防するための方法における使用のためのパルボウイルス。
【請求項2】
前記腫瘍が脳腫瘍または膵臓腫瘍である、請求項1記載のパルボウイルス。
【請求項3】
前記脳腫瘍が神経膠腫、髄芽腫または髄膜腫である、請求項2記載のパルボウイルス。
【請求項4】
前記神経膠腫が悪性ヒト神経膠芽腫である、請求項3記載のパルボウイルス。
【請求項5】
H-1(H-1PV)または関連パルボウイルスである、請求項1または4いずれか記載のパルボウイルス。
【請求項6】
LuIII、マウス微小ウイルス(MMV)、マウスパルボウイルス(MPV)、ラット微小ウイルス(RMV)、ラットパルボウイルス(RPV)またはラットウイルス(RV)である、請求項5記載のパルボウイルス。
【請求項7】
静脈内(i.v.)、腫瘍内、頭蓋内または大脳内投与によって投与される、請求項1〜6いずれか記載のパルボウイルス。
【請求項8】
腫瘍の再発の予防のための医薬組成物の調製のための請求項1〜7いずれか記載のパルボウイルスまたは関連齧歯類パルボウイルスの使用。



【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−528806(P2012−528806A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513488(P2012−513488)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【国際出願番号】PCT/EP2010/003069
【国際公開番号】WO2010/139400
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(500030655)
【出願人】(511289921)ループレヒト−カールス−ウニヴェルジテート ハイデルベルク (1)
【Fターム(参考)】