説明

腫瘍細胞増殖抑制剤

【課題】 腫瘍細胞に作用してその増殖を抑制することのできる薬剤を提供する。
【解決手段】 マトリックスメタロプロテアーゼ類(MMPs)の阻害剤であるティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ類(TIMPs)から成る群から選ばれたものの少なくとも一つを含有する医薬は、腫瘍細胞に直接作用してその増殖を抑制する活性を持っている。特にTIMP−2は、医薬として優れた特性を有しており、またヒトrTIMP−2は実用的な抗腫瘍剤、特には悪性腫瘍増殖抑制剤や癌の治療剤として非常に有用である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ類(tissue inhibitors of metalloproteinases:TIMPs)からなる群から選ばれた少なくとも一つのティシュ インヒビターオブ メタロプロテアーゼ(tissue inhibitor of metalloproteinases:TIMP)を有効成分として含有することを特徴とする医薬組成物に関わるものであり、腫瘍細胞増殖抑制性医薬組成物、特には悪性腫瘍細胞増殖抑制性医薬組成物に関する。特には本発明は、各種の癌を有する患者に適用されてその治療や予防に用いられる抗癌剤に関する。さらに詳しく言えば、本発明は、ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−1(tissue inhibitor of matalloproteinases−1:TIMP−1)あるいはティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−2(tissue inhibitor of matalloproteinases−2:TIMP−2)を主たる有効成分として含有する製剤で、その主成分は腫瘍細胞に直接作用して、腫瘍細胞の増殖を抑制するのに有効であり、原発巣および転移巣での腫瘍の縮小化を特徴とする治療剤に関する。
【0002】本発明は、別の面ではリコンビナント ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ類(rTIMPs)からなる群から選ばれた少なくとも一つのTIMPを有効成分として含有することを特徴とする腫瘍細胞増殖抑制剤、特には悪性腫瘍細胞増殖抑制剤に関する。特にはリコンビナント ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−1(rTIMP−1)及びリコンビナントティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−2(rTIMP−2)から成る群から選ばれたもの少なくとも一つを有効成分として含有することを特徴とする抗癌剤、更にはその主成分が直接腫瘍細胞に作用して、対象腫瘍細胞の増殖を抑制するのに有効であり、原発巣および転移巣での腫瘍の縮小化などの増殖抑制を示して癌などの悪性腫瘍を予防及び治療するのための医薬に関する。
【0003】
【従来の技術】マトリックスメタロプロテアーゼ類(MMPs)は、ファミリーを形成する一群の中性プロテアーゼであり、活性中心にZn2+を有する。細胞外マトリックスの分解にMMPsが重要な役割を担っていることは周知のことであり、現在までに10数種類のMMPが知られている。MMPsによる細胞外マトリックスの破壊は、組織破壊を伴う難治性疾患の治癒を遅延させている主要な原因の一つであり、このMMP活性の上昇は、内在性のMMPsインヒビターであるTIMPsとの量的不均衡の結果生じていると考えられている。この他血液細胞由来の炎症細胞のうちでも、好中球やマクロファージでは多種類のMMPsの分泌能を有しているが、炎症時に発現の昂進している増殖因子をはじめとする種々のサイトカインによって、MMPs産生誘導は複雑に調節を受けている。こうした場面においてもMMPsに対する阻害剤としてTIMPsは重要な役割を果たしているものと想像される。
【0004】こうしたTIMPsに関する様々な生体内での働きの精力的な研究が現在進められている中で、上記したようにMMPsによる細胞外マトリックスの破壊などと関連してこれらTIMPsが浸潤性の腫瘍の転移などに対して大きな働きを持つのではないかとして研究がなされ幾つかの報告がなされてきている。ところが、例えば、特表平4−500683号にはTIMP−2は腫瘍転移動物モデル実験で静脈内に移植された腫瘍細胞の肺への転移を抑制するが、腫瘍細胞の増殖や再構成基底膜成分マトリゲルへの接着にはまったく影響を与えなかったと記載されている。あるいは以下のような報告のようにこれまで腫瘍細胞の増殖を直接阻止することを示すようなことは知られていなかった:
【0005】(1) TIMP−2はMMPsとの均衡破綻により、細胞の細胞外マトリックスへの接着や細胞の運動能は干渉され、結果的に、腫瘍細胞の転移結節の形成に影響を与えている(Ray, et al., Annals of the New York Academy of Sciences,732(1994)pp. 233−247);
(2) 細胞外マトリックス成分を分解し、腫瘍細胞の侵入をしやすくするIV型コラゲナーゼなどの酵素の働きを阻害する(特表平4−500683号);
(3) 高転移性のヒト・メラノーマ細胞にTIMP−2の遺伝子を人工的に導入し、その細胞中でその導入遺伝子を高度に発現させると、免疫不全マウスの皮膚に移植された腫瘍細胞が肺やリンパ節への転移することは抑制できなかったが、腫瘍細胞の増殖は抑制された;その原因は間質性コラーゲンが腫瘍細胞を取り巻くことにより、腫瘍細胞が正常細胞に分化し、結果的に腫瘍細胞的特徴のひとつである無軌道な細胞増殖がなくなり、増殖速度が遅くなったと推察される(Montgomery, et al, Cancer Research,54(1994)pp. 5467−5473);
(4) 血管新生を完全に抑制する(Albini, et al., AIDS,8(1994)pp.1237−1244);
【0006】(5) 卵殻膜におけるスペルミン依存性の血管新生をTIMP−1あるいはTIMP−2が妨害する(Takigawa, et al., Biochemical and Biophysical Research Communications,171(1990)pp. 1264−1271);
(6) 後天性免疫不全症候群(エイズ)患者由来のカポジ肉腫細胞が誘導する血管内皮細胞の浸潤をTIMP−2やメタロプロテアーゼ由来合成ペプチドが抑制する(Benelli, et al., Oncology Research, 6(1994)pp. 251−257);
(7) 同様に、カポジ肉腫細胞由来の分泌成分の血管新生作用をTIMP−2が約65%阻害した(Albini, et al., AIDS, 8(1994)pp. 1237−1244);
(8) 血清共存下での塩基性線維芽細胞増殖因子に依存性の微小血管内皮細胞増殖をトリチウム標識チミジンの細胞内取り込みで試験したところ、TIMP−2は最大で(塩基性線維芽細胞増殖因子処理後24時間目)増殖を45−60%抑制した(Murphy, et al., The Journal of Cellular Physiology, 157(1993)pp. 351−358);
(9) メラノーマ細胞が細胞外マトリックスへ接着したり、伸展したりすることを制御するゼラチナーゼB(MMP−9)をTIMP−2が抑制することにより、腫瘍細胞が移動したり、浸潤していき易くしている(Ray, et al., EMBO Journal 14(1995)pp. 908−917)。
【0007】その他、例えば、(10)TIMP−2はヒト線維肉腫細胞HT−1080や正常組織由来皮膚線維芽細胞の増殖を促進する(Corcoran, et al., The Journal of Biological Chemistry,270(1995)pp. 13453−13459)とか、その効果はTIMP−2で処理をして2時間後に顕著であり、処理後48時間まで持続するとか、(11)TIMP−1および−2はヒト、ウシおよびマウス由来の細胞など幅広くその増殖を促進する(Hayakawa,et al., FEBS letter, 298(1992)p.29−;Hayakawa,et al., The Journal of Cell Science, 107(1994)pp.2373−2379)とか、(12)SV40で形質転換させたヒト線維芽細胞はTIMP−2を産生し、自己細胞の増殖を促進している(Nemeth, et al., Experimental Cell Research, 207(1993)pp. 376−382)及び(13)赤血球系細胞の増殖因子として作用する(Stetler-Stevenson, et al., FEBS Letter, 296(1992)pp. 231−234)といったその増殖促進因子としての報告が散見されるだけである。
つまり、TIMPs、特にTIMP−2に関してはMMPsの作用や働きと関係付けて腫瘍の転移を抑制する等による結果、腫瘍増殖を抑制する作用があるとか、癌などの悪性腫瘍部位への酸素及び栄養補給に大きな貢献をする新生血管の形成を抑制することに関連付けての論議が見出されるだけである。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】腫瘍細胞の増殖を効果的に抑制する物質は数多く研究開発が試みられているが、必ずしも満足のいく結果が得られていないのが実情である。これまでその治療が困難であった癌などの悪性腫瘍に有効な薬物が求められている。特に実際の生体内で固形癌と呼ばれるものは生体マトリックス中に浸潤して生長するので、そうした臨床上で普通見出される腫瘍に効果的に働きそして抗腫瘍剤として利用できる活性物質が求められている。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明の目的は、TIMPsを主な有効成分として含有する医薬組成物により、腫瘍細胞の増殖を抑制する手段を提供するにある。特には癌などの悪性腫瘍を有する者の治療や予防処置を提供すること、さらには種々の癌などの腫瘍細胞の増殖を抑制し、原発巣および転移巣での腫瘍を縮小化することを特徴とした治療手段を提供することにある。本発明者らは、TIMPsがヒトおよび齧歯類由来のメラノーマ細胞や線維肉腫細胞などの各種腫瘍細胞の増殖を、試験管内で抑制すること、さらには動物実験モデルでも原発巣や転移巣の腫瘍細胞の増殖を抑制することを見出し、その臨床的有用性から、TIMPsを有効成分とする腫瘍細胞増殖抑制剤、特には悪性腫瘍を有する患者の治療剤を提供すること並びに抗癌剤による療法を提供するに至った。
【0010】本発明者らは、従来ヒトを含めた動物由来の組織あるいは培養細胞、血液からでは大量に入手することが困難で、なかなかその実際の厳密な適用あるいは利用が困難であったTIMPsを組換えDNA技術を利用して大量に得ると共に、こうして大量に得られたrTIMPsを用いてそれが実際に直接腫瘍細胞に作用して増殖抑制作用を有することを確認し、本発明を完成した。本発明で使用されるTIMPsは、MMPsに対するインヒビターを含んでいてよく、例えばTIMP−1、TIMP−2といったMMPsに対するインヒビターを用いることができる。特にTIMP−2は腫瘍細胞増殖抑制剤、特には抗癌剤として多くの優れた特性を持っている。またとりわけrTIMP−2は優れた性状を示す。
【0011】本発明は(1) ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ類から成る群から選ばれた少なくとも一つのティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼを有効成分とすることを特徴とする腫瘍細胞増殖抑制剤、(2) 腫瘍が原発巣のものあるいは転移したものであることを特徴とする上記(1)記載の剤、(3) 腫瘍が固形癌に分類されるものであることを特徴とする上記(1)記載の剤、(4) 腫瘍がメラノーマ、扁平上皮癌、大腸癌、結腸癌、胃癌、絨毛癌、前立腺癌、腎細胞癌、精巣癌、乳癌、子宮癌、膵臓癌、肝臓癌、肺癌、神経芽細胞腫及び脳腫瘍からなる群から選ばれたものであることを特徴とする上記(3)記載の剤、(5) ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼが直接に腫瘍細胞に働いてその増殖を抑制するものであることを特徴とする上記(3)記載の剤、
【0012】(6) 有効成分としてティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−1を含有することを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか一記載の剤、(7) ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−1としてリコンビナント ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−1を含有することを特徴とする上記(6)記載の剤、(8) リコンビナント ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−1が宿主細胞として酵母、大腸菌、CHO細胞又はCOS−1細胞を用いて得られた形質転換体細胞により発現され、得られた遺伝子産物を精製したものであることを特徴とする上記(7)記載の剤、(9) 有効成分としてティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−2を含有することを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか一記載の剤、(10) ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−2としてリコンビナント ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−2を含有することを特徴とする上記(9)記載の剤、(11) リコンビナント ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−2が宿主細胞として酵母、大腸菌、CHO細胞又はCOS−1細胞を用いて得られた形質転換体細胞により発現され、得られた遺伝子産物を精製したものであることを特徴とする上記(10)記載の剤、
【0013】(12) ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ類としてティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−1及びティシュ インヒビターオブ メタロプロテアーゼ−2の混合物を有効成分とすることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか一記載の剤、(13) ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−1としてリコンビナント ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−1をそしてティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−2としてリコンビナントティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−2をそれぞれ含有することを特徴とする上記(12)記載の剤、及び(14) リコンビナント ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−1及びリコンビナント ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−2がそれぞれ宿主細胞として酵母、大腸菌、CHO細胞又はCOS−1細胞を用いて得られた形質転換体細胞により発現され、得られた遺伝子産物を精製したものであることを特徴とする上記(13)記載の剤に関する。
【0014】
【発明の実施の形態】TIMP−1は糖タンパク質であり、ヒト、ウシその他の動物由来の軟骨、歯髄、歯肉、子宮、胎盤、皮膚等の組織中や、関節軟骨細胞、骨芽細胞、各種組織由来線維芽細胞、上皮細胞等の培養細胞、羊水、血清、血漿、血小板、単球、マクロファージ等から産生され、これらの組織や培養細胞のコンディション培養液から調製することができる。例えば、Kodama et al.,Collagen Rel.Res.,7,341〜350,1987及びKishi et al.,J.Biochem.,96,395〜404,1984に記載の方法に準じて、ウシ歯髄由来細胞の培養液やヒト血清からモノクローナル抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィー等により単離できる。また、Kodama et al.,J.Immunol.Methods,127,103〜108,1990に記載の方法に従いヒト胎盤などからも得ることができる。
【0015】TIMP−2は、比較的最近になって見出され、TIMP−1とアミノ酸配列上約40%の相同性を有するが、TIMP−1と異なりN−結合型オリゴ糖鎖を結合していない。TIMP−2もTIMP−1の場合と同様の種々の組織、組織由来培養細胞の培養液等から得ることが出来る。例えば、Fujimoto et al.,Clin.Chim.Acta,220,31〜45,1993、特開平6−300757号公報等に記載の方法に従い、ヒト胎盤などからモノクローナル抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィー等により得ることができる。TIMP−2は、TIMP−1と異なる性状及びN−結合型オリゴ糖鎖を持たないという異なる分子構造を有するにも拘らず、直接的に腫瘍細胞に作用し、インビボ及びインビトロでその増殖を抑制するという薬効をもった組成物として有用であり、そして抗腫瘍剤、腫瘍形成及び腫瘍の発生予防剤などとして非常に有用である。
【0016】TIMP−1及びTIMP−2は組換えDNA技術(Maniatis,etal.,Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York,1982)を用いることにより得ることもできる。従来の培養細胞のコンディション培養液や血清、さらには胎盤などから得る場合にはそれらに固有のある種の制約があるが、組換えDNA技術を適用しての製造方法ではこうした制約を受けることがなく、医薬の製造承認に必要とされる動物実験や臨床試験に用いることのできる量及び質のTIMPsを得ることができる。特に悪性腫瘍が生体内で増殖する場合は複雑な多段階の過程が関与し、そして各段階でそれぞれ異なる各種の生体内細胞や生理活性因子が関与している。正常な場合それらは様々なバランスを保って作用しているが、癌などの悪性腫瘍が増殖するような病的な状態下ではTIMPsが実際に如何なる役割を担い、どの様な薬理活性や生理活性を持ち、そしてどの様な病気に有効かを確かめるのは困難であることは理解されるべきである。組換えDNA技術を用いることにより、直接的形態で製造され、そして腫瘍細胞の増殖を直接的に抑制していることが確認できるに十分な量及び質で得られ、更に医薬の製造承認に必要とされる動物実験や臨床試験に用いることのできる量及び質で得られるし、そうして得られたrTIMPsを用いることで腫瘍細胞増殖の抑制活性、特には抗腫瘍活性及び抗癌活性を見出したことは注目される。
【0017】例えばTIMP−1及びTIMP−2をコードする核酸配列を利用し、酵母、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)などの真核細胞宿主や大腸菌などの原核細胞宿主、Sf21などの昆虫細胞等、通常組換えDNA技術に用いられる全ての宿主と宿主に応じた発現ベクターを用いることにより得ることができる。糖タンパク質であるTIMP−1の場合は、好ましくは真核細胞を宿主とした宿主ベクター系を使用する。組換えDNA法によるrTIMP−1及びrTIMP−2の取得は、例えばWilliamson,et al.,Biochem.J.,268,267〜274,1990、Boone,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,87,2800〜2804,1990に記載の方法を参考にすることができる。
【0018】例えばrTIMP−1は、ヒト正常歯肉線維芽細胞(Gin−1細胞)より調製したポリA+ mRNAを鋳型、オリゴdT(15〜18個)をプライマーとした逆転写反応により1st strand cDNAの合成を行い、次にPCRプライマー、例えばプライマーTlFl;5′−ATGGCCCCCTTTGAGCCCCTG−3′及びプライマーTlRl;5′−CAGGATTCAGGCTATCTG−3′を用いPCR反応により適宜TIMP−1遺伝子の増幅を行い、得られたTIMP−1遺伝子を適当なクローニングベクター、例えばpUC13にサブクローニング後、適当な発現ベクター、例えばpMEMneo(Lee et al.,Nature,294,228〜232,1981)にクローニングし、一般的なリン酸カルシウム共沈法等によりCHO細胞等に導入した。TIMP−1遺伝子導入酵母、CHO細胞等の形質転換体をマイクロキャリヤー培養や高密度連続培養など適当な方法で培養し、得られたコンディション培地からrTIMP−1を調製する。発現ベクターを導入した宿主細胞に対応して、遺伝子産物の糖鎖構造は天然物と異なったものが得られることは理解されるべきである。
【0019】また、rTIMP−2は、例えばヒトGin−1細胞より調製したポリA+ mRNAを鋳型、オリゴdT(15〜18個)をプライマーとした逆転写反応により1st strand cDNAの合成を行い、次にPCRプライマー、例えばプライマーT2F7;5′−AAAGTCGACCATGGGCGCCGCGGCCCGCACCCT−3′及びプライマーT2R5;5′−TTAAGATCTGTCGACTTAAGGATCCTCGATATCGAGGAATTCTTGC−3′を用いPCR反応により適宜TIMP−2遺伝子の増幅を行い、得られたTIMP−2遺伝子を適当なクローニングベクター、例えばpUC13にサブクローニング後、適当な発現ベクター、例えばpKGにクローニングし、一般的なリン酸カルシウム共沈法等によりCHO細胞等に導入した。TIMP−2遺伝子導入CHO細胞などの形質転換体をマイクロキャリヤー培養や高密度連続培養など適当な方法で培養し、得られたコンディション培地からrTIMP−2を調製する。組換えDNA技術を用いることにより得られるrTIMPsは、本発明の目的に合致する限り、その構成アミノ酸における1個以上の変異、例えば欠失、置換、挿入、転位もしくは付加により、アミノ酸配列が相違したものであることができる。組換えDNA技術を用いれば、例えば基本となるDNA配列の特定の部位に突然変異を誘発することにより、1個又は複数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入を図ることが可能である。代表的な方法としては、位置指定変異導入法(日本生化学会編、「新生化学実験講座2、核酸III 、組換DNA技術」、東京化学同人、233頁〜251頁、1992年10月5日)が挙げられる。
【0020】これら種々の起源に由来するTIMPsは、従来公知の通常タンパク質の精製に用いられる方法、例えば、硫酸アンモニウムや硫酸ナトリウムを用いた塩析法、ゲルろ過担体やイオン交換担体を用いたクロマトグラフィー法、電気泳動法、各TIMPsに対するモノクローナル抗体、ConAなどを用いたアフィニティークロマトグラフィー法、高速液体クロマトグラフィー法などを各TIMPの性質に合わせ、単独または任意の組合わせにより使用して適宜精製することができる。ところで、ミクロ的には天然物は、均一の産物として得ることには限界があり、例えば天然物質であるTIMP−1は、本来的あるいは単離の過程における処理の影響で分子中に各種の形態の糖鎖を有し、それに起因して様々な分子量等をもつ物質からなる産物であるのが実情である。微量で生物活性を持ち、完全な分離精製が困難であることから非組換え細胞(非形質転換体)において普通には随伴するような夾雑物を、rTIMPsは含まないと考えられる。特にrTIMP−2は、精製単離処理を加えて、変成タンパク質などを含むことの少ない最終産物として得ることが可能である。rTIMP−2は、腫瘍細胞に作用して、腫瘍の増殖抑制活性を確認できるに十分な量及び純度で得られ、更に医薬の製造承認に必要とされる動物実験や臨床試験に用いることのできるに十分な量及び純度で得られるという特性が認められ、医薬の有効成分として優れている。
【0021】本発明は、TIMPsを有効成分とし薬学的、製剤的に許容される医薬品添加物を含有する薬剤組成物を提供する。有効成分のTIMPsから成る群から選ばれたものは、1日当たり約0.001ng〜約100mgの範囲で投与することが可能であるが、もちろん症状、年齢、疾患の程度、併用する薬剤などに応じ、副作用などを生じないようにその投与量を選択することができるし、投与回数も1日当たり1回からそれ以上の複数回といったように適宜選択することができる。有効成分のTIMPsから成る群から選ばれたものは、製剤に0.0001%〜50%の範囲で配合することができるが、必要に応じその量は適宜選択することは可能である。本発明の薬剤組成物は混合などによって調製され、適宜必要に応じて安定化剤、pH調節剤、界面活性剤、緩衝剤、香料、防腐剤、基剤、溶剤、希釈剤、充填剤、増量剤、溶解補助剤、可溶化剤、等張化剤、乳化剤、懸濁化剤、分散剤、増粘剤、ゲル化剤、硬化剤、吸収剤、粘着剤、弾性剤、可塑剤、結合剤、崩壊剤、噴射剤、保存剤、抗酸化剤、遮光剤、保湿剤、緩和剤、帯電防止剤、無痛化剤などを単独もしくは組合わせて含有させることができる。安定化剤としては、グリシンなどのアミノ酸あるいはその塩、ブドウ糖、ショ糖などの糖、マンニトール、ソルビトールなどの糖アルコール、オリゴ糖、多糖、アルブミン、ゼラチン、グロブリン、プロタミンなどのタンパク質、ペプチドなどが挙げられる。pH調節剤としては、塩酸、硫酸、燐酸、炭酸などの無機酸、クエン酸などの有機酸、あるいはそれらの塩が挙げられる。その他、医薬品に配合されて用いることが知られているものから適宜必要に応じ選択して用いることが出来る。 本発明の医薬組成物は、好ましくは塩類(塩化ナトリウム、リン酸塩など)、賦形剤(乳糖、トウモロコシデンプンなど)、軟膏基剤(白色ワセリン、パラフィン、オリーブ油、マクロゴール400、マクロゴール軟膏など)、溶解剤(注射用蒸留水、アセトン、エーテル、プロピレングリコールなど)、矯味・矯臭・着色剤(単シロップ、l−メントール、ハッカ油、クエン酸など)を配合することができる。
【0022】本発明の医薬組成物は、もちろん他の抗腫瘍薬や抗癌剤薬、免疫増強剤などの薬剤と併用することも可能である。こうしたものとしては、例えば、各種代謝拮抗剤(例、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、チオイノシンなどのプリン代謝拮抗剤、フルオロウラシル、テガフール、テガフール・ウラシル、カルモフール、ドキシフルリジン、ブロクスウリジン、シタラビン、エノシタビンなどのピリミジン代謝拮抗剤、メトトレキサート、トリメトレキサートなどの葉酸代謝拮抗剤など、および、その塩もしくは複合体)、抗腫瘍性抗生物質(マイトマイシンC、ブレオマイシン、ペプロマイシン、ダウノルビシン、アクラルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、THP−アドリアマイシン、4’−エピドキソルビシン、エピルビシンなどのアントラサイクリン系抗生物質抗腫瘍剤、クロモマイシンA3 、アクチノマイシンDなど、および、その塩もしくは複合体)、その他抗腫瘍剤(例、シスプラチン、カルボプラチン、タモキシフェン、カンプトテシン、イホスファミド、シクロホスファミド、メルファラン、L−アスパラギナーゼ、アセクラトン、シゾフィラン、ピシバニール、ウベニメクス、クレスチンなど、および、その塩もしくは複合体)、抗腫瘍性植物成分(ビンデシン、ビンクリスチン、ビンブラスチンなどのビンカアルカロイド類、エトポシド、テニポシドなどのエピポドフィロトキシン類、および、その塩もしくは複合体)、サイトカインやリンフォカイン類などを含むBRM(生物学的応答性制御物質)(例、腫瘍壊死因子、インターロイキン−1,−2,−8,−12,インドメタシンなど、および、その塩もしくは複合体)、血管新生阻害剤(フマジロール誘導体、および、その塩もしくは複合体)、細胞接着阻害剤(例、RGD配列を有する物質、および、その塩もしくは複合体)、マトリックス・メタロプロテアーゼ阻害剤(例、マリマスタット、バチマスタットなど、および、その塩もしくは複合体)、ホルモン(ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プラステロン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、オキシメトロン、ナンドロロン、メテノロン、ホスフェストロール、エチニルエストラジオール、クロルマジノン、メドロキシプロゲステロンなど、および、その塩もしくは複合体)、ビタミン(ビタミンC、ビタミンA、および、その塩もしくは複合体)、抗菌性抗生物質および化学療法剤などが挙げられる。抗癌剤としては、上記したようなものの他、さらにアルキル化剤(例えば、ナイトロジェンマスタード、ナイトロジェンマスタードN−オキシド、クロラムブチル、アジリジン系アルキル化剤(例、カルボコン、チオテパなど)、エポキシド系アルキル化剤(例、ディブロモマンニトール、ディブロモダルシトールなど)、ブスルファン、トシル酸インプロスルファン、ダカルバジン、ニトロソウレア系アルキル化剤(例、カルムスチン、ロムスチン、セムスチン、ニムスチンハイドロクロライド、ストレプトゾシン、クロロゾトシン、ラニムスチンなど)など)、プロカルバジン、ピポブロマン、ネオカルチノスタチン、ヒドロキシウレアなども挙げることができる。
【0023】またサイトカイン及びリンフォカイン類としては、さらに、例えばPDGF、TGF−α、TGF−β、IGF−I、CSF、IL−8、EGF,bFGF、KGFなどの増殖因子をはじめとするものあるいはその他の生理活性物質を配合することも本発明の腫瘍細胞増殖抑制に有効であるならば可能である。本発明の医薬組成物は、経口、局所、経皮、静脈内、筋肉内、皮下、皮内もしくは腹腔内投与に適用し得るが、腫瘍患部への直接投与も可能であり、またある場合には好適でもある。また好ましくはヒトを含む哺乳動物に経口的に、あるいは非経口的(例、腫瘍内、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、腹腔内、胸腔内、脊髄腔内、点滴静脈内、注腸、経直腸、点眼や点鼻、皮膚や粘膜への塗布など)に投与することができる。本発明の医薬組成物は、散剤、顆粒剤、錠剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、マイクロカプセル剤、軟膏製剤、硬膏製剤、溶液剤、水剤、油剤、クリーム剤、パスタ剤、パップ剤、リニメント剤、ローション剤、エアゾール剤、スプレー剤、点鼻剤、懸濁剤、乳濁剤、チンキ剤、皮膚用水剤、点眼剤、埋込剤、直腸坐剤、灌注剤、貼付剤、輸液剤、注射剤、注射用液剤などのための粉末剤、凍結乾燥製剤等を任意に選択することができる。医薬品製造にあたっては、その添加剤等や調製法などは、例えば財団法人日本公定書協会監修、第十二改正 日本薬局方解説書、平成3年7月29日発行、株式会社廣川書店発行;一番ヶ瀬 尚 他編 医薬品の開発12巻(製剤素剤〔I〕)、平成2年10月15日発行、株式会社廣川書店;同、医薬品の開発12巻(製剤素材〔II〕)平成2年10月28日発行、株式会社廣川書店などの記載を参考にしてそれらのうちから必要に応じて適宜選択して適用することができる。
【0024】錠剤、カプセル剤などの固体の単位投与形態では、慣用の形態のものでよいが、例えば本発明のTIMPs、例えば、TIMP−2と、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ゼラチンなどの崩壊剤、デキストリン、アラビアゴム、トラガント、トウモロコシデンプン、白糖、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)などの結合剤、ステアリン酸塩(Al、K、Na、Ca、Mg)などの滑沢剤、乳糖、結晶セルロース、微結晶セルロース、セラックなどの担体と混合され、製剤化されて錠剤、カプセル剤などの固体製剤にされる。非経口投与には、界面活性剤及びその他の薬学的に許容される助剤を加えるか、あるいは加えずに、水、エタノール又は油のような無菌の薬学的に許容される液体中の溶液あるいは懸濁液の形態に製剤化される。製剤に使用される油としては、天然、半合成あるいは合成の油脂類が挙げられ、例えばピーナッツ油、トウモロコシ油、大豆油、ゴマ油などの植物油が挙げられる。一般的には、水、食塩水、デキストロース水溶液、その他関連した糖の溶液、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのグリコール類が好ましい注射剤用液体担体として挙げられる。
【0025】本発明では腫瘍細胞増殖抑制に有効であるならば、当該分野で知られた如何なる方法、手段をも用いることが出来る。本発明の薬剤組成物に含まれるTIMPsは、MMPs活性を阻害するTIMPsであればどのようなTIMPsでも使用することができるが、好ましくは大量に均質なTIMPsが得られる点で人為的に調製したrTIMPsを使用することができる。特にrTIMP−2は均質でかつ直接的に腫瘍細胞に作用して、増殖を抑制するに有効な量及び純度で得られ、さらにその取扱いにおいても優れた性状を有している。医薬として用いるにあたっては製剤の安定性などについても厳しい要件が必要とされるが、rTIMP−2はこうした点でもすぐれた性状を有している。TIMP−2は、その投与量を広範囲にわたって選択して投与できるが、その投与量及び投与回数などは、処置患者などの症状、性別、年齢、投与方法などに応じて決めることが可能である。TIMP−2の有効量は、任意でありうるが、例えば、マウスでは0.5−500mg/kg/回、ヒトでは0.005−50mg/kg/回の投与量で、1日1−3回、連日もしくは2−3回/週の頻度で、静脈内に点滴注入することができる。
【0026】本発明に関わる薬剤組成物の調製に必要なTIMPsの定量は、特開昭63−210665号公報及び特開平5−244985号公報に記載の方法に従い、TIMP−1あるいはTIMP−2それぞれで異なるエピトープを特異的に認識する2種類のモノクローナル抗体を用いたサンドイッチアッセイ系により酵素免疫化学的に行うことができる。本発明に関わる薬剤組成物は、種々の腫瘍細胞あるいは腫瘍細胞由来の株化細胞、腫瘍細胞を移植した動物モデルなどを用い、さらにその活性を評価するのに適した系を用いてその作用・効果の確認を行うことができる。こうした株化細胞の例としては、マウス白血病由来細胞株L−1210、P388、ザルコーマ180(腹水型)、ザルコーマ180(固形)、ヒト結腸癌のヌードマウス移植系、ヒト乳癌のヌードマウス移植系、ヒト肺癌のヌードマウス移植系、マウス結腸癌、マウス乳癌、マウス肺癌、マウスB16メラノーマ、マウス白血病L1210、ヒト乳癌異種移植系(MX−1)などを挙げることができるが、これらには限定されない。特に本発明に関わるrTIMP−2は、ヒト線維肉腫細胞、ヒト・メラノーマ細胞などのヒト由来腫瘍細胞の培養系を用いたり、あるいはマウスなどの実験動物にそうしたヒト由来腫瘍細胞を移植したモデル系を用いてその作用・効果の確認を行うことができるが、他に様々な手法を用いることが出来ることは理解されるべきである。例えば、古江尚ら編著、「癌化学療法の基礎と臨床」、昭和53年4月1日発行、癌と化学療法社を参考にして必要に応じそのうちから適当なものを選んで適用することができる。
【0027】こうしてTIMPsから成る群から選ばれた少なくとも一つのTIMPを有効成分とする薬剤は、ヒトおよび齧歯類由来のメラノーマ細胞や線維肉腫細胞などの各種腫瘍細胞の増殖を、試験管内で抑制すること、および、動物実験モデルでも原発巣や転移巣の腫瘍細胞の増殖を抑制するなど癌等に対する予防作用あるいは治療作用、症状改善作用などを有していると判断される。TIMPsから成る群から選ばれた少なくとも一つのTIMPを有効成分とする薬剤は、単独で直接腫瘍細胞に作用し、強力な効果を示す薬剤として有用である。またTIMPsから成る群から選ばれた少なくとも一つのTIMPを有効成分とする薬剤は、癌等の発生予防や転移に対しても予防活性を示し、その上直接的増殖抑制作用をもった抗腫瘍剤として有用である。対象腫瘍としては、肺の扁平上皮癌、胃の転移性腺癌、腎癌、メラノーマ、平滑筋肉腫、消化管腫瘍、唾液腺腫瘍、神経芽腫、肺小細胞癌、卵巣腺癌、網膜芽腫、骨肉腫、Wilms腫瘍、膀胱癌などがあげられる。特にTIMP−2は、腫瘍を保持する哺乳動物(例えば、マウス、ラット、家兎、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、ヤギ、サル、ヒト等)の治療に有用であり、これら担癌動物における原発および転移巣の癌細胞の増殖抑制、および担癌動物の延命に奏効する。かかる対象疾患として各種悪性および良性腫瘍、例えば、メラノーマ、悪性リンパ腫、白血病、消化器(例、胃、結腸、肝臓、膵臓など)癌、肺癌、食道癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌、前立腺癌、脳腫瘍、カポジ肉腫、血管腫、骨肉腫、筋肉腫、線維肉腫などが挙げられる。さらにrTIMPsから成る群から選ばれた少なくとも一つのTIMP、特にrTIMP−2を有効成分として含有する医薬は、その製剤としての加工などを含めた有利な点に加え、各種の固形癌、例えばメラノーマ、扁平上皮癌、大腸癌、結腸癌、胃癌、絨毛癌、前立腺癌、腎細胞癌、精巣癌、乳癌、子宮癌、膵臓癌、肝臓癌、肺癌、神経芽細胞腫及び脳腫瘍等に優れた活性を示す。rTIMP−2含有腫瘍細胞増殖抑制剤は、長期間の保存の後でも安定した生理活性が期待でき、患部に適用した後も優れた生物活性の作用効果が期待できる。
【0028】
【実施例】以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されること無く様々な態様が含まれることは理解されるべきである。
実施例1 TIMPsの調製TIMP−1は、例えばKodama et al.,Collagen Rel.Res.,7,341〜350,1987に記載の方法に従い、ヒト正常歯肉線維芽細胞(Gin−1細胞)のコンディション培養液よりUltrogel AcA−44(LKB),Con Aセファロース、抗TIMP−1モノクローナル抗体(例えば特開昭63−219392号公報に開示のクローンNo.7−21B12など)結合セファロース4B・アフィニティーカラムを用いて精製し、最後に、35℃、30分間、4Mグアニジン−塩酸中で処理した後、Bio−gel P60カラムに供試しTIMP−1に結合している可能性のあるタンパク性因子を解離、分画により除去し調製した。
【0029】TIMP−2は、例えばFujimoto et al.,Clin.Chim.Acta,220,31〜45,1993及び特開平6−300757号公報に記載の方法に従い、胎盤を細断後、緩衝液中で撹拌し、得られた上清を抗TIMP−2モノクローナル抗体(例えば特開平5−244985号公報に開示のクローンNo.67−4Hllなど)結合セファロース4B・アフィニティーカラムに供試した後、Ultrogel AcA−44(LKB)を用いて調製した。
【0030】rTIMP−1は、例えば特開平5−199868号公報に記載の方法に準じて調製した。ヒト正常歯肉線維芽細胞(Gin−1細胞)より調製した全RNA画分からオリゴ(dT)−セルロースカラムによりポリA+ mRNA精製濃縮した。ポリA+ mRNAを鋳型、オリゴdT(15〜18個)をプライマーとした逆転写反応により1st strand cDNAの合成を行った。Docherty et al.,Nature,318,66〜69,1985に記載されているTIMP−1のcDNA配列を参考にPCRプライマー、プライマーTlFl;5′−ATGGCCCCCTTTGAGCCCCTG−3′及びプライマーTlRl;5′−CAGGATTCAGGCTATCTG−3′を作成し、これらのPCRプライマーを用い、先に調製した1st strand cDNAを鋳型としたPCR反応によりTIMP−1遺伝子の増幅を行った。
【0031】得られたTIMP−1遺伝子を適当なクローニングベクター、例えばpUC13にサブクローニング後、適当な発現ベクター、例えばpMEMneo(Leeet al.,Nature,294,228〜232,1981)にクローニングし、一般的なリン酸カルシウム共沈法によりCHO細胞に導入した。TIMP−1遺伝子導入CHO細胞をマイクロキャリヤー培養や高密度連続培養など適当な方法で培養し、得られたコンディション培地からrTIMP−1を調製した。調製されたrTIMP−1は、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミド電気泳動(SDS−PAGE、12%均一ゲル、還元条件)上で約30kDaの単一バンドとして認められ、ペルオキシダーゼ標識マウス抗ヒトTIMP−1抗体を用いたウエスタンブロッティングにおいても約30kDaの単一バンドとして認められた。rTIMP−1のヒト線維芽細胞(CCD−41SK細胞)由来MMP−1に対する阻害活性は、IC50が約1×10-9Mであった。
【0032】rTIMP−2は、例えばAokiらの方法(Conective Tissue,26,281〜290,1995)に準じて調製した。ヒトGin−1細胞より調製した全RNA画分からオリゴ(dT)−セルロースカラムによりポリA+ mRNAを精製濃縮した。ポリA+ mRNAを鋳型、オリゴdT(15〜18個)をプライマーとした逆転写反応により1st strand cDNAの合成を行った。Boone,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,87,2800〜2804,1990に記載のTIMP−2のcDNA配列を参考にPCRプライマー、プライマーT2F7;5′−AAAGTCGACCATGGGCGCCGCGGCCCGCACCCT−3′及びプライマーT2R5;5′−TTAAGATCTGTCGACTTAAGGATCCTCGATATCGAGGAATTCTTGC−3′を作成し、これらのPCRプライマーを用い、先に調製した1st strand cDNAを鋳型としたPCR反応によりTIMP−2遺伝子の増幅を行った。
【0033】得られたTIMP−2遺伝子を適当なクローニングベクター、例えばpUC13にサブクローニング後、適当な発現ベクター、例えばpKGにクローニングし、一般的なリン酸カルシウム共沈法によりCHO細胞に導入した。TIMP−2遺伝子導入CHO細胞をマイクロキャリヤー培養や高密度連続培養など適当な方法で培養し、得られたコンディション培地からrTIMP−2を調製した。調製されたTIMP−2はSDS−PAGE(12%均一ゲル、還元条件)上で約24kDaの単一バンドとして認められ、マウス抗ヒトTIMP−2モノクローナル抗体によるウエスタンプロッティングにおいても約24kDaの単一バンドとして認められたものであった。CCD−41SK細胞由来MMP−1に対する阻害活性は、IC50が約1.1×10-9Mであった。本発明に提供される薬剤組成物には、MMPs活性を阻害するTIMPsであればどのようなTIMPsでも使用することができるが、好ましくは大量に均質なTIMPsが得られる点で人為的に調製したrTIMPsを使用できる。
【0034】実施例2 TIMP−2含有液剤の調製処方例(1回量): ヒトrTIMP−2 20μg ヒト血清アルブミン 0.05g 乳糖 1g 注射用生理食塩液 適量────────────────────────── 全量 50ml以上の成分を溶解して注射剤を調製した。
【0035】実施例3 rTIMP−1含有軟膏の調製軟膏製剤としては、公知公用の各種軟膏基剤を使用することができるが、例えばrTIMP−1をマクロゴール軟膏に加えて以下の様にして製剤化することができる。マクロゴール400及びマクロゴール4000の同量から製したマクロゴール軟膏にパラオキシ安息香酸エチル5mg及び実施例1で得られたTIMP−11mgを加え全量を10gとし、常法により均一に混合して軟膏剤を調製した。
【0036】実施例4 ヒトrTIMP−2含有軟膏の調製ヒトrTIMP−2含有軟膏は、実施例3に記載の方法と同様にして実施例1で得られたrTIMP−2をマクロゴール軟膏に加えて製剤化することができる。
【0037】実施例5 ヒトrTIMP−1含有液剤の調製0.005%塩化ベンザルコニウム含有生理食塩水(0.005%塩化ベンザルコニウム含有0.15M NaCl溶液、pH7.2)に、実施例1で得られたrTIMP−1を最終濃度0.1%となるように加え調製する。調製した液剤は、ポアサイズ0.1μmのメンブレンフィルターで滅菌した後、使用時まで冷蔵(4℃)で保存した。
【0038】実施例6 ヒトrTIMP−2含有液剤の調製rTIMP−2含有液剤は、実施例5に記載の方法と同様にして実施例1で得られたrTIMP−2を用いて製剤化することができる。
【0039】実施例7ヒトrTIMP−2の腫瘍細胞増殖抑制活性(1)ヒトrTIMP−2含有試験薬の調製rTIMP−2含有試験薬として、実施例6で調製したrTIMP−2含有液剤を使用した。対照として0.005%塩化ベンザルコニウム含有生理食塩液をポアサイズ0.1μmのメンブレンフィルターで滅菌したものを使用した。
【0040】(2)培養ヒト線維肉腫細胞に対する増殖抑制活性5%牛胎児血清(FCS)を添加したイーグル最少必須培地(MEM)に10000個/mlとなるように懸濁したヒト線維肉腫細胞あるいはマウスメラノーマ細胞を96穴マイクロプレートに0.1ml/穴ずつ播種し、一晩5%炭酸ガス環境下で培養装置にて培養する。培養液を取り除き、各種濃度のヒトrTIMP−2を含む当該培養液に置換し、さらに、3日間培養する。1/10量の生細胞数計数試薬WST−1(和光純薬工業)を添加し、4時間培養後、その吸光度を測定し、細胞数を算出した。図1は複数回の独立した実験結果をまとめたもので、各点はそれらの平均値±1標準誤差で示してある。ヒトrTIMP−2は、0.4−100μg/mlの範囲で用量依存的に、FCS共存下の腫瘍細胞増殖を抑制し、その効果は100μg/mlで最大で、増殖抑制率はヒトrTIMP−2無添加対照と比較しておよそ40%であった。
【0041】(3)培養ヒト・メラノーマ細胞に対する増殖抑制活性培養ヒト・メラノーマ細胞に対する増殖抑制活性についての本実施例は上記実施例7(2)とほぼ同様に試験を実施した。すなわち、10%牛胎児血清(FCS)あるいは0.1%牛血清アルブミン(BSA)を添加したRPMI1640培地に25000個/mlとなるように懸濁した各種のヒト・メラノーマ細胞を96穴マイクロプレートに0.1ml/穴ずつ播種し、同時に、各種濃度のヒトrTIMP−2を含む当該培養液0.1ml/穴ずつ加え、3日間培養する。0.025mlの生細胞数計数試薬MTT溶液を添加し、4時間培養後、ホルマザンをDMSOで抽出し、その吸光度を測定し、細胞数を算出した。各種のヒト・メラノーマ細胞(A375M、C8161、MeWoおよびA2058)を使用した実験の結果を図2〜図5に示す。この際に使用した生細胞数計数試薬はWST−1と同系統のMTT(シグマ)である。図1の結果と同様で、腫瘍細胞増殖を0.1−10μg/mlの範囲で、用量依存的に抑制した。図6はヒトrTIMP−2の細胞増殖抑制効果をA375Mヒトメラノーマ細胞のコロニー形成能により評価した結果である。100個/ml/皿となるように細胞を播種し、1/10量のヒトrTIMP−2を添加した。10日間の培養後、ギムザ染色し、コロニー数を計測した。結果は図2〜図5と同様で、腫瘍細胞増殖を0.1−10μg/mlの範囲で、用量依存的に抑制した。図7R>7はA375Mヒトメラノーマ細胞に対するヒトrTIMP−2の効果を経日的に観察した結果である。10000個/mlの細胞懸濁液を6穴プレートに2ml/穴ずつ播種し、経日的に培養液を取り除き、0.05%EDTAで細胞を剥離させ、血球計算盤を使用し、顕微鏡下にて計数した。50μg/mlのヒトrTIMP−2はそれが存在しない場合と比較して、顕著に腫瘍細胞の増殖を抑制した。表1はその際の各細胞分裂周期の細胞の割合をpropidium iodine染色し、フローサイトメーターで解析した結果である。この結果はヒト リコビナント TIMP−2(ヒトrTIMP−2)が特定の細胞周期に作用しているのではないことを示している。
【0042】
【表1】


【0043】(4)移植腫瘍細胞に対する増殖抑制活性(a)1%FCS/MEMに懸濁したB16−BL6マウス・メラノーマ細胞(3000000個/0.1ml/頭)をマウス(C57BL/6)の皮内に移植して、ヒトrTIMP−2を100μg/頭ずつ投与した時の結果を図8に示した。図8に示した投与スケジュールで、1群当り5匹のマウスを使用し、腫瘍移植後28日目の原発腫瘍塊の大きさをノギスを使用し、計測した。腫瘍移植直後より連日5回(day 0−4)、あるいは、移植後3日目より隔日に5回(days3,5,7,9,および,11)投与することにより、無処置群と比較して、腫瘍細胞の増殖が約30%抑制された。
(b)1%FCS/MEMに懸濁したB16−BL6マウス・メラノーマ細胞(100000個/0.1ml/頭)をマウス(C57BL/6)の尾静脈に移植して、人為的に転移させ、その結果生じた転移結節の大きさに及ぼすヒトrTIMP−2の効果を検討した。1群当り4−5匹のマウスを使用し、腫瘍細胞移植1日前より連日5回、10−1000μg/頭の範囲で、静脈内、皮下、筋肉内、および、腹腔内投与した。移植後2週間目に安楽死させ、肺を取り出し、Bouin 液にて固定し、肺表面の転移結節の大きさを無処置群と比較したが、いずれの投与経路においても、100−1000μg/頭の範囲で顕著に抑制されていた。
尚、これらの試験において観察所見上判断される副作用は全く認められなかった。
【0044】
【発明の効果】本発明は、TIMPsを主たる有効成分とする薬剤組成物を提供する。TIMPsから成る群から選ばれた少なくとも一つのTIMP、特にrTIMP−2を有効成分として含有する医薬は、その製剤としての加工などを含めた有利な点に加え、上記したような各種の腫瘍細胞、特にはメラノーマ細胞などの悪性固形腫瘍細胞等に対して優れた増殖抑制活性を示す。rTIMP−2含有腫瘍細胞増殖抑制剤は、長期間の保存の後でも安定した生理活性が期待でき、患部に適用した後も優れた生物活性の作用効果が期待できる。こうしてTIMPsから成る群から選ばれた少なくとも一つのTIMPを有効成分とする薬剤、特にTIMP−2を有効成分とする薬剤は、腫瘍を保持する哺乳動物(例えば、マウス、ラット、家兎、ネコ、ウシ、ウマ、ヤギ、サル、ヒト等)の治療に有用であり、これら担癌動物における原発および転移巣の癌細胞の増殖抑制、および担癌動物の延命に奏効する。本発明の組成物は各種悪性および良性腫瘍、例えば、メラノーマ、悪性リンパ腫、白血病、消化器(例、胃、結腸、肝臓、膵臓など)癌、肺癌、食道癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌、前立腺癌、脳腫瘍、カポジ肉腫、血管腫、骨肉腫、筋肉腫、線維肉腫などの治療剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】ヒトrTIMP−2の培養ヒト線維肉腫細胞(HT−1080)又は培養マウスメラノーマ細胞(B16−BL6)に対する増殖抑制活性(抑制%)を示す。
【図2】ヒトrTIMP−2の培養ヒト・メラノーマ細胞(MeWo)に対する増殖抑制活性を示す。
【図3】ヒトrTIMP−2の培養ヒト・メラノーマ細胞(A2058)に対する増殖抑制活性を示す。
【図4】ヒトrTIMP−2の培養ヒト・メラノーマ細胞(C8161)に対する増殖抑制活性を示す。
【図5】ヒトrTIMP−2の培養ヒト・メラノーマ細胞(A375M)に対する増殖抑制活性を示す。
【図6】腫瘍細胞のコロニー形成能により評価したヒトrTIMP−2の培養ヒト・メラノーマ細胞(A375M)に対する増殖抑制活性を示す。
【図7】ヒトrTIMP−2の培養ヒト・メラノーマ細胞(A375M)に対する増殖抑制活性を経日的に観察した結果を示す。
【図8】マウスに移植したB16−BL6マウス・メラノーマ細胞に対するヒトrTIMP−2の増殖抑制活性の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ類からなる群から選ばれた少なくとも一つのティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼを有効成分として含有することを特徴とする腫瘍細胞増殖抑制剤。
【請求項2】 腫瘍が原発巣のものあるいは転移したものであることを特徴とする請求項1記載の剤。
【請求項3】 腫瘍が固形癌に分類されるものであることを特徴とする請求項1記載の剤。
【請求項4】 腫瘍がメラノーマ、扁平上皮癌、大腸癌、結腸癌、胃癌、絨毛癌、前立腺癌、腎細胞癌、精巣癌、乳癌、子宮癌、膵臓癌、肝臓癌、肺癌、神経芽細胞腫及び脳腫瘍からなる群から選ばれたものであることを特徴とする請求項3記載の剤。
【請求項5】 ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼが直接に腫瘍細胞に働いてその増殖を抑制するものであることを特徴とする請求項3記載の剤。
【請求項6】 有効成分としてティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−1を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一記載の剤。
【請求項7】 ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−1としてリコンビナント ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−1を含有することを特徴とする請求項6記載の剤。
【請求項8】 リコンビナント ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−1が宿主細胞として酵母、大腸菌、CHO細胞又はCOS−1細胞を用いて得られた形質転換体細胞により発現され、得られた遺伝子産物を精製したものであることを特徴とする請求項7記載の剤。
【請求項9】 有効成分としてティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−2を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一記載の剤。
【請求項10】 ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−2としてリコンビナント ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−2を含有することを特徴とする請求項9記載の剤。
【請求項11】 リコンビナント ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−2が宿主細胞として酵母、大腸菌、CHO細胞又はCOS−1細胞を用いて得られた形質転換体細胞により発現され、得られた遺伝子産物を精製したものであることを特徴とする請求項10記載の剤。
【請求項12】 ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ類としてティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−1及びティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−2の混合物を有効成分とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一記載の剤。
【請求項13】 ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−1としてリコンビナント ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−1をそしてティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−2としてリコンビナント ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−2をそれぞれ含有することを特徴とする請求項12記載の剤。
【請求項14】 リコンビナント ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−1及びリコンビナント ティシュ インヒビター オブ メタロプロテアーゼ−2がそれぞれ宿主細胞として酵母、大腸菌、CHO細胞又はCOS−1細胞を用いて得られた形質転換体細胞により発現され、得られた遺伝子産物を精製したものであることを特徴とする請求項13記載の剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開平10−17492
【公開日】平成10年(1998)1月20日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−189886
【出願日】平成8年(1996)7月2日
【出願人】(390010205)富士薬品工業株式会社 (23)