説明

腸管出血性大腸菌の簡易測定法

【課題】腸管出血性大腸菌の検出法の提供する。
【解決手段】抗ベロ毒素抗体感作粒子と大腸菌菌体を反応させ、反応混合物の凝集の程度を測定することを含む腸管出血性大腸菌の検出方法であって、反応混合物の凝集の程度を吸光度変化又は散乱光の強度変化で測定することを含む腸管出血性大腸菌の検出方法。また大腸菌菌体の細胞壁を破壊する工程を含み、分析測定装置を用いた測定を行う腸管出血性大腸菌の検出方法。さらには大腸菌菌体をポリミキシンBで処理し、抗ベロ毒素抗体感作粒子とベロ毒素が菌体表面に結合している大腸菌菌体とを反応させ、反応混合物の凝集の程度を測定することを含む腸管出血性大腸菌の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸管出血性大腸菌の検出法に関する。具体的には、抗ベロ毒素抗体を感作させた担体粒子と大腸菌とを反応させ、大腸菌菌体のベロ毒素を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腸管出血性大腸菌は、ベロ毒素を産生することを特徴とし、出血性大腸炎、溶血性尿毒症症候群(HUS)による急性腎不全、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)等を引き起こし、しばしば感染者に死をもたらす。従って、腸管出血性大腸菌の感染の有無を早期に診断し、適切な治療を施し重篤な症状への移行を防止するために、腸管出血性大腸菌の感染の有無を短時間かつ正確に検出する必要がある。
【0003】
大腸菌はその表面LPS抗原のO抗原の血清型により約170種類に分類され、そのうちの約90種類がベロ毒素を産生する。ベロ毒素を産生する腸管出血性大腸菌の血清型は、O157:H7、O157:NM、O26:H11、O91:H21、O111:NM、O113:H21、O145:NM等がある。従来大腸菌O抗原の血清型を測定し、上記血清型の大腸菌が検出された場合、腸管出血性大腸菌に感染していると診断を下す方法があった(特許文献1等)。しかし、腸管出血性大腸菌の血清型を有する大腸菌のすべての菌体がベロ毒素を産生しているのではなく、ある血清型を有する腸管出血性大腸菌のうちにベロ毒素を産生する菌体としない菌体がある。例えば、大腸菌O157は約95%がベロ毒素を産生し、他の血清型の大腸菌ではベロ毒素を産生する割合はもっと低い。従って、血清型からだけではベロ毒素産生大腸菌すなわち腸管出血性大腸菌か否かは判断できない。
【0004】
これに対して、ベロ毒素に対する抗体等を用いてベロ毒素の産生を検出することにより腸管出血性大腸菌の感染を間接的に診断する方法もあった。この方法においては、大腸菌を培養し、培養上清または菌体抽出液中の遊離したベロ毒素を検出する。しかし、ベロ毒素の分泌量は少なく培養上清中に検出できる程度のベロ毒素が産生分泌されるには、1日から数日の培養を要し、また抽出にも時間と手間がかかっていた。ベロ毒素を産生し得る大腸菌は、全大腸菌の一部に過ぎないので、ベロ毒素を検出する方法では、最初に糞便等の検体から大腸菌を分離培養して血清型を検出し、ついでベロ毒素を産生し得る大腸菌についてのみさらに培養し、ベロ毒素を検出していた。このような2段階の方法によれば、全ての大腸菌についてベロ毒素の検出を行う必要がないという利点があるものの、2回の培養を要するので、検出までにさらに時間を要していた。この方法は、菌体より一旦ベロ毒素を遊離させ単離するため、ベロ毒素を産生している菌体を直接検出しているのではなかった。特に、ベロ毒素は、2種類のタンパク質が6個集合して、はじめて有毒性を示すので、遊離したベロ毒素を検出する免疫化学的な方法は、個々のタンパク質に対して反応するため、時として、誤った測定結果を与える。また、検体の取り違え等により検出の正確度が低下し得るという問題があった。菌体より遊離したベロ毒素の検出法としては、逆受身ラテックス凝集法、EIA法、イムノクロマト法等があった。
【0005】
また、ベロ毒素遺伝子をPCR等の遺伝子増幅等により増幅し、ベロ毒素遺伝子を検出する方法もあった(特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5)。しかし、この方法においては擬陽性を防ぐために検体の前処理を必要とするため、操作が煩雑であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-339731号公報
【特許文献2】特開平07-008280号公報
【特許文献3】特開平11-009281号公報
【特許文献4】特開平11-332599号公報
【特許文献5】特開2001-095576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ベロ毒素産生大腸菌すなわち腸管出血性大腸菌の検出に関する。具体的には、ベロ毒素を産生している腸管出血性大腸菌を直接ラテックス凝集法により検出する方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述の従来法の問題点を解決し、短時間で正確に腸管出血性大腸菌を検出する方法について鋭意検討を行った結果、抗ベロ毒素抗体を用いたスライド凝集法により、ベロ毒素を菌体から遊離させることなく、検体に菌体そのものを用いて、直接、腸管出血性大腸菌表面にあるベロ毒素を検出することにより、腸管出血性大腸菌を迅速かつ正確に検出し得る本発明を完成させるに至った。
上述のように、従来は、ベロ毒素を特異的に検出しようとする場合、腸管出血性大腸菌型ベロ毒素を遊離させ菌体と分離し、抗ベロ毒素抗体を感作させたラテックス粒子を用いた逆受身ラテックス凝集法等により検出していた。
【0009】
本発明者らは、ベロ毒素を遊離させずに大腸菌菌体そのものを検体として大腸菌表面に存在するベロ毒素を検出する方法について検討を行った。腸管出血性大腸菌により産生されたベロ毒素は、大腸菌の細胞壁と細胞膜の間のペリプラズミックスペースに貯えられる。ペリプラズミックスペースに貯えられたベロ毒素は、表面に露出しにくいため、菌体上のベロ毒素を抗体を用いて直接検出することは困難であった。本発明者等は、大腸菌の細胞壁を部分的に壊すことにより、ベロ毒素を露出させ、抗ベロ毒素抗体で測定できるようになることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1) 抗ベロ毒素抗体感作粒子と大腸菌菌体を反応させ、反応混合物の凝集の程度を測定することを含む腸管出血性大腸菌の検出方法、
(2) 大腸菌菌体をポリミキシンBで処理することを含む(1)の腸管出血性大腸菌の検出方法、
(3) 粒子がラテックス粒子である(1)または(2)の腸管出血性大腸菌の検出方法、
(4) ラテックス粒子の直径が0.1〜1μmである(3)の腸管出血性大腸菌の検出方法、
(5) スライド凝集法である(3)または(4)の腸管出血性大腸菌の検出方法、
(6) 抗ベロ毒素抗体感作粒子を含む、大腸菌菌体上のベロ毒素を検出するための腸管出血性大腸菌検出キット、および
(7) 感作粒子が感作ラテックス粒子である(6)の腸管出血性大腸菌検出キット。
また、本発明は以下の通りである。
[1] 抗ベロ毒素抗体感作粒子とベロ毒素が菌体表面に結合している大腸菌菌体とを反応させ、反応混合物の凝集の程度を測定することを特徴とする腸管出血性大腸菌の検出方法。
[2] 反応混合物の凝集の程度を吸光度変化又は散乱光の強度変化で測定することを含む[1]の腸管出血性大腸菌の検出方法。
[3] 大腸菌菌体の細胞壁を破壊する工程を含む[1]又は[2]の腸管出血性大腸菌の検出方法。
[4] 分析測定装置を用いた測定を行うことを特徴とする[1]〜[3]のいずれかの腸管出血性大腸菌の検出方法。
[5] 大腸菌菌体をポリミキシンBで処理し、抗ベロ毒素抗体感作粒子とベロ毒素が菌体表面に結合している大腸菌菌体とを反応させ、反応混合物の凝集の程度を測定することを含む[1]〜[4]のいずれかの腸管出血性大腸菌の検出方法。
[6] 反応混合物中のポリミキシンB濃度が1,000〜10,000unit/mLである[1]〜[5]のいずれかの腸管出血性大腸菌の検出方法。
[7] 測定をプラスチックセル又はガラスセル内で行うことを特徴とする[1]〜[6]のいずれかの腸管出血性大腸菌の検出方法。
[8] 抗ベロ毒素抗体感作粒子の担体がラテックスである[1]〜[7]のいずれかの腸管出血性大腸菌の検出方法。
[9] 抗ベロ毒素抗体感作粒子に用いるラテックス粒子が直径が0.1〜1μmのポリスチレン系ラテックス粒子である[8]の腸管出血性大腸菌の検出方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、実施例2に示すように腸管出血性大腸菌の菌体そのものを試料として表面のベロ毒素を検出することができ、余分な培養操作を必要としないため簡便かつ迅速に腸管出血性大腸菌を検出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
1.抗ベロ毒素抗体感作粒子の調製
本発明は、抗ベロ毒素抗体を担体粒子に感作、すなわち結合または吸着させ、該感作粒子と腸管出血性大腸菌菌体を混合して反応させ、凝集体を作らせ、該凝集体の形成の有無により大腸菌の壁内に存在するベロ毒素を直接検出する。
【0013】
抗ベロ毒素抗体を感作する担体粒子としては、不溶性で、非特異的な反応を起こさず、かつ安定である限り、いかなる担体を使用してもよい。例えば、ラテックス粒子、ベントナイト、コロジオン、カオリン、固定羊赤血球等を使用することができるが、ラテックス粒子を使用するのが好ましい。ラテックス粒子としては、例えば、塩化ビニル、アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等のビニル系モノマーの単一重合体及び/又は共重合体の粒子、ポリスチレンラテックス粒子、スチレン-ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体等のブタジエン系共重合体ラテックス粒子、ポリビニルトルエンラテックス粒子等が挙げられる。なかでも、各種タンパク質、又は、ポリペプチド類等の吸着性に優れており、かつ生物学的活性を長期間安定に保持できる点で、ポリスチレン系のラテックス粒子が好ましい。上記ラテックス粒子の粒径は、好ましくは0.01〜1μmであり、さらに好ましくは0.1〜1μmである。粒径が0.01μm未満であると、微凝集が多発し、見かけの粒径が不均一となり、同時再現性等に悪影響が及ぶことがあり、また、抗体の数に対して充分な凝集が得られないことがある。粒径が1μmを超えると、自己凝集が進み、分散性が低下する。ラテックス粒子を使用する場合には、特別な処理をしなくても容易に抗体を担体に感作できるとともに、対象菌体と担体の反応により生じる凝集像が明瞭となり、対象菌体の担体に対する反応性を容易かつ精度よく判別できる点でさらに有利である。
【0014】
抗ベロ毒素抗体は、腸管出血性大腸菌よりベロ毒素を精製して、精製ベロ毒素を免疫原として公知の方法により得ることができる。ベロ毒素の精製は、例えばItoら、Microbial Pathogenesis 1988; 5: 189-195、Nodaら、Microbial Pathogenesis 1987; 2: 339-349等の方法で行うことができる。また、遺伝子工学的手法により作製した組換えベロ毒素を用いることもできる。ベロ毒素はベロ毒素1型(VT1)およびベロ毒素2型(VT2)の2種類が存在し、VT1のみまたはVT2のみを産生する腸管出血性大腸菌が存在するので、VT1を認識する抗体およびVT2を認識する抗体のどちらも調製する必要がある。VT1およびVT2を別々に免疫原として抗体を作製し、混合して用いることもできるし、両方を混合して免疫原として一度に両方を作製してもよい。また、抗VT1抗体と抗VT2抗体を別々に調製し、別々にラテックス粒子を感作して用いてもよい。この場合、各々の感作ラテックス粒子によりVT1とVT2を別々に検出し得る。VT1感作ラテックス粒子およびVT2感作ラテックス粒子を混合して用いてVT1およびVT2を同時に検出することもできる。また、VT1およびVT2はサブユニットAおよびBからなっているので、サブユニットを免疫原として用いてもよい。抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。ポリクローナル抗体は、精製したベロ毒素を免疫原として、ヤギ、ウサギ等の動物を免疫し、抗血清を得て抗血清から硫安塩析法、DEAEセルロース等の陰イオン交換体を利用するイオン交換クロマトグラフィー、分子量や構造によってふるいわける分子ふるいクロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の公知の方法を適宜に選択して、またはこれらを組み合わせることにより精製することができる。モノクローナル抗体は、ケーラーとミルステインの方法(Kohler, G. and Milstein, C.,Nature, 256, 495-497, 1975)等の公知の方法により作製し得る。この際、精製したベロ毒素を免疫原として用いてもよいし、ベロ毒素を産生する腸管出血性大腸菌体をそのまま免疫原として用いても抗ベロ毒素モノクローナル抗体を得ることができる。上記免疫原で免疫したマウスの脾細胞またはリンパ節細胞とマウスのミエローマ細胞との細胞融合により得られるハイブリドーマを作製し、該ハイブリドーマの培養上清又は該ハイブリドーマを腹腔内に投与したマウスの腹水から調製することができる。被免疫動物は、マウスに限定されずラット、モルモット等も利用可能である。ミエローマ細胞は、一般に被免疫動物と同種の動物より得られたものを用いるが、異種間でも可能な場合がある。また、免疫されていない動物の脾細胞またはリンパ節をin vitroで免疫して、感作細胞を得ることもできる。ハイブリドーマのスクリーニングは、種々の免疫化学的方法で実施することができ、例えばELISA法、ウエスタンブロット法等が利用できる。抗体の精製が必要とされる場合は、上述の方法で精製することができる。また、市販のベロ毒素抗体を用いてもよい。市販の抗ベロ毒素抗体として例えば、バイロスタット社製のものが入手可能である。
【0015】
担体に抗体を感作する方法は、特に限定されない。例えば、抗体を担体に物理的に吸着させてもよいし、化学的に結合させてもよい。より具体的には、例えば、抗体と担体とを混和した後、30〜37℃で1〜2時間加温振盪することにより、抗体を担体に感作させることができる。更に、30〜37℃で1〜2時間加温振盪後、50℃、30分加温することが望ましい。担体に感作する抗体の量は、使用する担体の粒径に応じて適宜設定することができる。例えば、1重量%に調製したラテックス粒子懸濁液に0.1〜数mg/mLの抗体溶液を等量混合することによりラテックス粒子を感作し得る。抗体を担体に感作した後、担体表面上の未感作部分をウシ血清アルブミン、ヒト血清アルブミン、ウサギ血清アルブミン、卵白アルブミン等でブロッキングするのが好ましい。抗体を感作した担体は、対象菌株と反応させる時まで媒体分散液として保持しておくのが好ましい。この際、媒体としては、例えば、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液等を使用することができる。モノクローナル抗体に感作した担体の含有量は、通常、媒体分散液に対して0.1〜1.0重量%とすることができるが、0.2〜0.5重量%とするのが好ましい。媒体中には、必要に応じてウシ血清アルブミン、ゼラチン、アラビアゴム等を添加してもよい。
【0016】
2.ラテックス凝集法
本発明の腸管出血性大腸菌検出法の検体としては、大腸菌に汚染されている試料を用いることができ、例えば、糞便、尿、血液、組織ホモジェネートなどを用いる。また、食品材料を用いてもよい。これらの検体の一部を採取し寒天培地上で培養する。この際、分離培地としてはDHL寒天やマッコンキー寒天などを用いることができる。
【0017】
6〜20時間培養後、寒天培地上に出現したコロニーを白金耳等で1〜3白金耳程度分を採取する。採取した大腸菌を大腸菌の細胞壁を溶解し得る試薬で処理し、細胞壁を破壊する。大腸菌の細胞壁を溶解し得る試薬として例えば、酵素、アルカリ溶液、ポリミキシンB溶液が挙げられる。ポリミキシンBを用いる場合は、1,000〜10,000 unit/mL、好ましくは3,000〜7,000 unit/mL、特に好ましくは4,000〜6,000 unit/mLの濃度で用いる。前記採取した大腸菌をポリミキシンB溶液中に懸濁させればよい。この際、反応を行わせるスライドガラス等の上にポリミキシンを数十μL、好ましくは10〜50μL滴下しておき、そこに採取した大腸菌を懸濁させればよい。
【0018】
大腸菌と抗ベロ毒素感作粒子との凝集反応は、スライドガラス上で行う。この場合、担体粒子の凝集程度は目視により測定することができる。また、プラスチックセル若しくはガラスセル内で行うこともできる。この場合、セル外部より可視光から近赤外域の光を照射し、吸光度変化又は散乱光の強度変化を検出して担体粒子の凝集の程度を測定する。凝集の測定は、例えば三菱化学株式会社のLPIA-S500ラテックス凝集全自動測定器、ロシュ・ダイアグノスティック・システムズ社のCOBAS FARA装置及びCOBAS MIRA装置、及び日立製作所の日立7070分析装置等を用いて行うことができる。
【0019】
凝集反応は、生理食塩液、pH5.0〜10の適当な緩衝液、例えば、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、トリス緩衝液等の溶液中で行わせればよい。この際、感作粒子と大腸菌との非特異的結合を抑制するために、TritonX-100、Tween20、Tween80等の適当な界面活性剤を添加してもよい。
【0020】
(実施例)
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
感作粒子の調製
ラテックス粒子は、直径0.34μmのポリスチレンラテックス粒子を用いた(PROLABO社、estaporK035)。ラテックス粒子への感作抗体は抗ベロ毒素ウサギ血清を精製ベロ毒素を結合させたアフィニティ カラムを用いて以下のようにして精製して得た精製抗体を用いた。
【0022】
A) 抗ベロ毒素血清作製方法
精製ベロ毒素1型または2型を下記スケジュールでウサギに接種し、採血した血液を1晩静置後、遠心上清を抗血清とした。
1週〜4週:精製ベロ毒素1型又は2型をアジュバントと混合しウサギ四肢皮下に毎週接種する。
5型〜8週:精製ベロ毒素1型又は2型をウサギ耳静脈に毎週接種する。
【0023】
B) 精製抗体作製方法
0.5M塩化ナトリウム含有0.075Mリン酸緩衝液(pH7.2)により5倍に希釈した抗ベロ毒素血清を精製ベロ毒素を結合して作製したアフィニティゲルに流し込み、抗ベロ毒素抗体を抗原抗体反応でゲルに結合させた後、2Mチオシアン酸ナトリウム水溶液により抗ベロ毒素抗体を溶出させた。次いで、この溶出液をPBSで平衡化したセファデックスG-25に加え、PBSで溶出し、精製抗体とする。
【0024】
精製した抗体を以下の方法でラテックス粒子へ感作した。
PBSで1重量%に調整したラテックス浮遊液に精製抗体溶液(1mg/mL)を等量混合し、37℃で1時間保温し更に50℃で30分間加温する。その後、0.5重量%ウシ血清アルブミン含有PBSを添加し16時間静置し、遠心によりラテックス粒子を集め0.5重量%アルブミン含有PBSに再浮遊して感作ラテックス液とする。
【実施例2】
【0025】
抗ベロ毒素抗体感作ラテックス粒子を用いた腸管出血性大腸菌の検出
大腸菌O26株、O1株、O18株、O157株、OUT株(ベロ毒素産生性株またはベロ毒素非産生株)をブレインハートインフュージョン寒天培地(DIFCO社製)上で培養した。
スライドグラスをガラス鉛筆で数区画に分割し、5,000unit/mLのポリミキシンB(ファイザー社製)を含む生理食塩液を各区画に25μL滴下した後、寒天培地上の上記大腸菌を白金耳で1白金耳分採取し、スライドグラス上のポリミキシンB溶液中に懸濁した。次いで、実施例1で作製した抗ベロ毒素抗体感作ラテックス粒子懸濁液を25μL添加し、スライドミキサーで5分間攪拌し凝集の形成状態を目視で観察し判定した。表1に結果を示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1に示すように、ベロ毒素を産生する大腸菌は陽性となり、ベロ毒素を産生しない大腸菌は陰性となった。
なお、ベロ毒素産生大腸菌をポリミキシンB処理した後に遠心を行い、その上清中にベロ毒素が含まれていることを、逆受身ラテックス凝集法(RPLA)(デンカ生研製のキットを使用)で確認後、本発明の抗ベロ毒素感作ラテックス粒子と混合したところ凝集は認められなかった。しかし、同量の同株の大腸菌の菌体と実施例1の抗ベロ毒素抗体感作ラテックス粒子と反応させたところ、凝集が認められた。さらに、該大腸菌をポリミキシンBの代わりに生理食塩液で処理した後に、大腸菌の菌体と実施例1の抗ベロ毒素抗体感作ラテックスと反応させたところ凝集は認められなかった。この結果は、ポリミキシンB処理により、ベロ毒素が遊離するとともに、菌体表面に結合したベロ毒素が露出し菌体そのものを本発明の凝集法で検出できるようになることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ベロ毒素抗体感作粒子とベロ毒素が菌体表面に結合している大腸菌菌体とを反応させ、反応混合物の凝集の程度を測定することを特徴とする腸管出血性大腸菌の検出方法。
【請求項2】
反応混合物の凝集の程度を吸光度変化又は散乱光の強度変化で測定することを含む請求項1に記載の腸管出血性大腸菌の検出方法。
【請求項3】
大腸菌菌体の細胞壁を破壊する工程を含む請求項1又は請求項2に記載の腸管出血性大腸菌の検出方法。
【請求項4】
分析測定装置を用いた測定を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の腸管出血性大腸菌の検出方法。
【請求項5】
大腸菌菌体をポリミキシンBで処理し、抗ベロ毒素抗体感作粒子とベロ毒素が菌体表面に結合している大腸菌菌体とを反応させ、反応混合物の凝集の程度を測定することを含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の腸管出血性大腸菌の検出方法。
【請求項6】
反応混合物中のポリミキシンB濃度が1,000〜10,000unit/mLである請求項1〜5のいずれか1項に記載の腸管出血性大腸菌の検出方法。
【請求項7】
測定をプラスチックセル又はガラスセル内で行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の腸管出血性大腸菌の検出方法。
【請求項8】
抗ベロ毒素抗体感作粒子の担体がラテックスである請求項1〜7のいずれか1項に記載の腸管出血性大腸菌の検出方法。
【請求項9】
抗ベロ毒素抗体感作粒子に用いるラテックス粒子が直径が0.1〜1μmのポリスチレン系
ラテックス粒子である請求項8に記載の腸管出血性大腸菌の検出方法。

【公開番号】特開2009−145357(P2009−145357A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21918(P2009−21918)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【分割の表示】特願2002−94266(P2002−94266)の分割
【原出願日】平成14年3月29日(2002.3.29)
【出願人】(591125371)デンカ生研株式会社 (72)