説明

腹盤木及び船舶の支持方法

【課題】大型化に対応可能かつ調整容易な腹盤木及び該腹盤木を用いた効率的な船舶の支持方法を提供する。
【解決手段】入渠した船舶の船底を支持する腹盤木1であって、腹盤木1は高さ方向に積載可能な複数の盤木体(例えば、下段盤木体11,中段盤木体12,上段盤木体13)により多段に構成され、最下段以外の盤木体(中段盤木体12及び上段盤木体13)は、一段下の盤木体(下段盤木体11及び中段盤木体12)の側面及び上面に沿ってスライド可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入渠した船舶を支持する腹盤木及び船舶の支持方法に関し、特に、設置しやすい腹盤木及び該腹盤木を用いた効率的な船舶の支持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ドック内で船体や船底のメンテナンスを行う際には、渠底に配置された主盤木(キール盤木)及び腹盤木によって船体を支持する。主盤木は、船体の中心線に沿って配置される盤木であり、主として船体の重量を支持する機能を有する。また、腹盤木は、主盤木の両脇に配置される盤木であり、主として船体のバランスを保持する機能を有する。これらの盤木を用いて船舶をドック内で支持する場合には、前記主盤木及び前記腹盤木を渠底に配置し、ドック内に前記船舶を進入させ、前記ドック内の水を排出しながら、前記船舶を前記主盤木上に着底させた後、前記腹盤木を前記船舶の船底に宛がうようにしている。
【0003】
ところで、船底の形状(傾斜の勾配等)は、船体の全長に渡って均一ではないし、船舶の種類やサイズによっても船底の形状は様々であり、入渠する船舶の種類に応じて腹盤木を配置する位置を設定しなければならない。加えて、主盤木上に船体を着底させてから、腹盤木を船底に宛がうため、水中で腹盤木の位置、高さ、支持面の傾斜等を調整しなければならない。かかる調整は、潜水したダイバーが、盤木間に楔を打ち込んだり、車輪付の腹盤木を移動させたりする場合が多い。また、かかる腹盤木の調整を容易にすべく、スライド式の腹盤木装置(特許文献1参照)、回動式の腹盤木装置(特許文献2参照)、ピストン式の腹盤木装置(特許文献3,4参照)等が既に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭60−188096号公報
【特許文献2】実開昭62−93号公報
【特許文献3】特開平7−232696号公報
【特許文献4】特開平8−34391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、近年では、入渠中の船舶の耐震強度が引き上げられており、腹盤木の耐震荷重も従来よりも大きく設計しなければならず、腹盤木が大型化する傾向にある。一方で、船舶の大型化や性能強化の観点から、ベースラインより下方に突出するような物がある場合、例えば、船首にソナードームが形成されたり、船底に複数のビルジキールやフィンスタビライザーが配置されたり、船底に複数の推進プロペラ及びプロペラ軸が配置されたり等、背の高い腹盤木を船底付近に配置しておくと、ドック内に船舶を進入させる際に、腹盤木が船底や突出物(プロペラ、ビルジキール等)と接触してしまうという問題が生ずる。
【0006】
かかる場合に、船底から離れた位置に腹盤木を配置することも考えられるが、水中での移動距離が長くなってしまい、作業に時間がかかる、ダイバーへの負担が大きい、視界が悪く腹盤木を所定の位置に配置することが困難である等の問題が生ずる。
【0007】
また、特許文献1に記載のスライド式の腹盤木装置を使用した場合には、上段の盤木のスライド量が不十分であり、腹盤木装置の高さを十分に低くすることができないという問題がある。
【0008】
また、特許文献2に記載の回動式の腹盤木装置では、背の高さを半分程度までしか低くすることができず、船底との接触を回避するには不十分であるという問題がある。
【0009】
また、特許文献3及び特許文献4に記載のピストン式の腹盤木装置では、動力を必要とするためエネルギー効率が低下する、油圧ジャッキでは耐震荷重の向上に限界がある等の問題がある。
【0010】
本発明は、上述した問題点に鑑み創案されたものであり、大型化に対応可能かつ調整容易な腹盤木及び該腹盤木を用いた効率的な船舶の支持方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、入渠した船舶の船底を支持する腹盤木であって、前記腹盤木は高さ方向に積載可能な複数の盤木体により多段に構成され、最下段以外の盤木体は、一段下の盤木体の側面及び上面に沿ってスライド可能に構成されている、ことを特徴とする腹盤木が提供される。ここで、前記盤木体は前記船舶の入渠時に前記船底及び前記船底からの突出物と接触しない高さに形成されていることが好ましく、最下段以外の盤木体は浮力を調整できるように構成されていることが好ましい。
【0012】
また、例えば、最上段以外の盤木体は、側面に沿って高さ方向に配置された第一レールと、上面に沿って前記船舶の中心線と交差する方向に配置された第二レールと、前記第一レールに沿ってスライドされた盤木体を前記第二レールに沿ってスライド可能とするために停止させるストッパーと、を有し、最下段以外の盤木体は、一段下の盤木体に配置された第一レールに沿ってスライド可能に配置される第一スライダと、一段下の盤木体に配置された第二レールに沿ってスライド可能に配置される第二スライダと、を有するように構成される。
【0013】
また、本発明によれば、入渠した船舶を主盤木及び腹盤木で支持する船舶の支持方法であって、前記主盤木及び前記腹盤木を渠底に配置する配置工程と、ドック内に前記船舶を進入させる進入工程と、前記ドック内の水を排出する排水工程と、前記船舶を前記主盤木上に着底させる着底工程と、前記腹盤木を前記船舶の船底に宛がう調整工程と、を有し、前記腹盤木は高さ方向に積載可能な複数の盤木体を有し、前記配置工程において、前記盤木体は前記渠底に個々配置され、前記調整工程において、前記盤木体は上段から順に積載されて前記腹盤木に組み立てられる、ことを特徴とする船舶の支持方法が提供される。
【0014】
前記配置工程において、前記盤木体は前記船舶の中心線から遠ざかる方向に下段から順に一列に配置されることが好ましい。また、前記調整工程において、前記盤木体は一段下の盤木体の側面及び上面に沿ってスライドされることにより積載されることが好ましい。さらに、前記調整工程において、前記盤木体は浮力を調整して積載されることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
上述した本発明の腹盤木によれば、腹盤木を多段の盤木体により構成したことにより、各盤木体を個々に渠底に配置することができ、腹盤木の背の高さを一時的に低くすることができ、腹盤木が大型化しても船体と接触しないように複数の盤木体により腹盤木の高さを調整することができる。また、各盤木体を一段下の盤木体に沿ってスライドさせることにより、容易に各盤木体を積載することができる。したがって、本発明の腹盤木によれば、大型化に対応可能かつ調整容易な腹盤木を提供することができる。また、腹盤木の高さを任意に低く設定することができ、入渠時制限喫水を深くすることができ、入渠作業の効率化を図ることができる。
【0016】
上述した本発明の船舶の支持方法によれば、複数の盤木体を個々に配置して上段から順に積載するようにしたことにより、一段下の盤木体に沿って盤木体をスライドさせるだけで腹盤木を組み立てることができ、効率よく腹盤木を配置及び調整することができ、入渠作業の効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る腹盤木の第一実施形態を示す部品構成図である。
【図2】本発明に係る腹盤木の第一実施形態を示す腹盤木の組立状態を示す斜視図である。
【図3】図2に示した腹盤木のA矢視図である。
【図4】入渠時における盤木体と船底の位置関係を示す図である。
【図5】腹盤木の組立方法を示す図であり、(A)は腹盤木を平面展開した状態、(B)は上段盤木体のウェイト調整状態、(C)は上段盤木体を中段盤木体に積載した状態、(D)は中段盤木体のウェイト調整状態、(E)は中段盤木体を下段盤木体に積載した状態、を示している。
【図6】本発明に係る腹盤木の他の実施形態を示す図であり、(A)は第二実施形態、(B)は第三実施形態、(C)は第四実施形態、を示している。
【図7】本発明に係る船舶の支持方法を示す図であり、(A)は配置工程、(B)は進入工程、(C)は排水工程及び着底工程、(D)は調整工程、(E)は支持状態、を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図1〜図7を用いて説明する。ここで、図1は、本発明に係る腹盤木の第一実施形態を示す部品構成図である。また、図2は、本発明に係る腹盤木の第一実施形態を示す腹盤木の組立状態を示す斜視図である。また、図3は、図2に示した腹盤木のA矢視図である。
【0019】
図1に示すように、本発明の腹盤木1は、入渠した船舶の船底を支持する腹盤木1であって、腹盤木1は高さ方向に積載可能な複数の盤木体(例えば、下段盤木体11,中段盤木体12,上段盤木体13)により多段に構成され、最下段以外の盤木体(中段盤木体12及び上段盤木体13)は、一段下の盤木体(下段盤木体11及び中段盤木体12)の側面及び上面に沿ってスライド可能に構成されている。
【0020】
前記下段盤木体11は、腹盤木1の最下段に配置される盤木体である。かかる下段盤木体11は、他の盤木体(例えば、中段盤木体12及び上段盤木体13)が積載される土台となる盤木体である。したがって、下段盤木体11は、船舶の入渠時に所定の位置に配置された状態を維持できることが好ましく、浮力が発生し難い構造をなしている。具体的には、下段盤木体11は、鋼板により形成された箱状の重量物であり、その側面11bに流通孔11aが形成されている。かかる流通孔11aにより、下段盤木体11の内部に水を侵入させることができ、空気が溜まらないようにしている。流通孔11aは、図示した側面11bに形成されたものに限定されず、他の側面に形成されていてもよいし、上面11cに形成されていてもよいし、複数形成されていてもよい。
【0021】
また、下段盤木体11は、側面11bの両脇に沿って高さ方向に配置された一対の第一レール111,111と、上面11cに沿って船舶の中心線と交差する方向に配置された一対の第二レール112,112と、第一レール111に沿ってスライドされた中段盤木体12を第二レール112に沿ってスライド可能とするために停止させるストッパー113と、を有する。
【0022】
第一レール111及びストッパー113は、L字形状の鋼材により形成されており、鉛直部が第一レール111を構成し、水平部がストッパー113を構成している。かかる鋼材は、L字形状が上下反転された状態で、ストッパー113を構成する水平部が下段盤木体11の上面11cに配置された第二レール112に沿って配置され、第一レール111を構成する鉛直部が下段盤木体11の長手方向の側面11bの両脇部に溶接されることにより、下段盤木体11に固定される。
【0023】
第二レール112は、断面L字形状の鋼材により構成される。かかる鋼材は、水平部が下段盤木体11の上面11cと隙間を有するように短手方向内向きに互いに対峙するように配置され、鉛直部が下段盤木体11の上面11cの長手方向に沿って配置され、かかる鉛直部を下段盤木体11の上面11cに溶接することにより、下段盤木体11に固定される。かかる構成によって、下段盤木体11の上面11cに、中段盤木体12の一部を長手方向に挿入可能な差込スロット状の第二レール112が形成される。また、第二レール112には、長手方向に沿って複数のセットボルト114が配置されており、挿入された中段盤木体12の一部を固定できるようになっている。また、下段盤木体11の両脇に配置されているL型材は、下段盤木体11をクレーン等で持ち上げるための張り出し部115である。なお、第二レール112に形成されている切欠部112aは、下段盤木体11をクレーン等で運搬する際に使用する開口部である。
【0024】
前記中段盤木体12は、下段盤木体11の一段上に配置される盤木体である。かかる中段盤木体12は、一段下の下段盤木体11の側面11b及び上面11cに沿ってスライド可能に構成されている。具体的には、下段盤木体11に配置された第一レール111に沿ってスライド可能に配置される一対の第一スライダ121,121と、下段盤木体11に配置された第二レール112に沿ってスライド可能に配置される一対の第二スライダ122,122と、を有する。
【0025】
第一スライダ121は、例えば、中段盤木体12の短手方向の側面12aから延出された第一支持部材121aと、中段盤木体12の側面12aと略平行に第一支持部材121aから下段盤木体11に向かって延出するように連結された第二支持部材121bと、下段盤木体11の第一レール111に係合可能に第二支持部材121bの内側に接続されたスライダ本体部121cと、から構成される。図3に示すように、第一スライダ121は、中段盤木体12の長手方向の側面12bよりも突出するように形成される。かかる構成により、中段盤木体12の側面12bを下段盤木体11の側面11bと対峙するように配置した場合に、第一スライダ121のスライダ本体部121cが第一レール111と係合させることができる。
【0026】
第二スライダ122は、例えば、中段盤木体12の下面に接続され、少なくとも短手方向の両側に突出した板部材により構成される。この板部材の突出部が第二スライダ122を構成し、下段盤木体11に形成された第二レール112と上面11cとの隙間に挿入される。また、第一スライダ121、第二スライダ122及びストッパー113の位置関係は、第一スライダ121のスライダ本体部121cを第一レール111に沿って上昇させてストッパー113に接触させた状態で、第二スライダ122が第二レール112と上面11cとの隙間に挿入できる位置に配置されるように構成される。
【0027】
また、中段盤木体12は、上段盤木体13の一段下に配置される盤木体でもある。したがって、中段盤木体12は、側面12c及び上面12dに沿って上段盤木体13をスライドできるように、側面12cに沿って高さ方向に配置された一対の第一レール123,123と、上面12dに沿って船舶の中心線と交差する方向に配置された一対の第二レール124,124と、第一レール123に沿ってスライドされた上段盤木体13を第二レール124に沿ってスライド可能とするために停止させるストッパー125と、を有する。
【0028】
第一レール123は、断面T字形状に組み合わされた鋼材により構成される。かかる鋼材は、T字形状の脚部分が側面12cの高さ方向に沿って配置されて溶接により、中段盤木体12に固定される。かかる構成により、鋼材のT字形状の面材と側面12cとの間に隙間を形成することができ、鋼材の面材に沿って上段盤木体13の一部を挿通させることができる。
【0029】
第二レール124は、下段盤木体11の第二レール112と同様に断面L字形状の鋼材により構成されており、下段盤木体11の第二レール112と同様にして中段盤木体12の上面12dに固定されている。ただし、第二レール124は、第一レール123が配置された側面12c側に突出するように配置されている。この第一レール123が突出した部分がストッパー125を構成している。かかるストッパー125は、第一レール123に沿って上昇された上段盤木体13の一部と接触して上段盤木体13の上昇を停止させることができる。また、第二レール124には、長手方向に沿って複数のセットボルト126が配置されており、挿入された上段盤木体13の一部を固定できるようになっている。なお、第二レール124に形成されている切欠部124aは、中段盤木体12をクレーン等で運搬する際に使用する開口部である。
【0030】
また、中段盤木体12は、船舶の入渠前は水中で固定した状態を保持し、下段盤木体11の上に積載する場合には、ダイバーが水中で持ち上げやすくする必要があるため、浮力を調整できるように構成されている。具体的には、中段盤木体12は、密閉された中空部を有するように鋼板により形成された箱状を有する。したがって、中段盤木体12は、中空部に貯留された空気により、浮力を生じる構造体に形成されている。また、中段盤木体12の側面12aには、複数のウェイトポケット127が配置されており、かかるウェイトポケット127に所定のウェイトを配置することにより、中段盤木体12の浮力を抑制することができるように構成されている。すなわち、渠底に配置した状態を保持したい場合には、ウェイトポケット127に所定のウェイトを配置しておき、中段盤木体12を下段盤木体11上に積載したい場合には、ウェイトを取り外して浮力を利用して中段盤木体12を上昇させる。なお、中段盤木体12は上段盤木体13を積載した状態で移動されるため、中段盤木体12に生じる浮力は、中段盤木体12及び上段盤木体13の総重量に対して、水中で移動可能な適切な重量バランスとなるように中空部の容積が設計される。なお、ウェイトポケット127の張り出し部は、ダイバーが中段盤木体12を水中で持ち上げたり、中段盤木体12をクレーン等で持ち運んだりするための機能も有する。
【0031】
前記上段盤木体13は、腹盤木1の最上段に配置される盤木体である。したがって、上段盤木体13は、船底と接触する傾斜面13aを有し、船体を傷つけないように、全体として楔状に形成された米松等の材木により構成される。
【0032】
また、上段盤木体13は、一段下の中段盤木体12の側面12c及び上面12dに沿ってスライド可能に構成されている。具体的には、中段盤木体12に配置された第一レール123に沿ってスライド可能に配置される一対の第一スライダ131,131と、中段盤木体12に配置された第二レール124に沿ってスライド可能に配置される一対の第二スライダ132,132と、を有する。
【0033】
第一スライダ131及び第二スライダ132は、例えば、上段盤木体13の下面に接続され、短手方向及び長手方向の両側に突出した板部材により形成される。具体的には、中段盤木体12の側面12c側に突出した板部材の先端に、中段盤木体12の第一レール123に挿通可能なT字形状の切欠部が形成されており、この切欠部が第一スライダ131を構成する。また、板部材の短手方向の突出部が第二スライダ132を構成し、中段盤木体12に形成された第二レール124と上面12dとの隙間に挿入される。また、第一スライダ131、第二スライダ132、第一レール123及びストッパー125の位置関係は、第一スライダ131の切欠部を第一レール123に挿通して上昇させ、第一スライダ131がストッパー125に接触させた状態で、第一スライダ131は第一レール123から離脱し、第二スライダ132が第二レール124と上面12dとの隙間に挿入できる位置に配置されるように構成される。
【0034】
また、上段盤木体13は、上述したように、材木により構成される比率が大きく、浮力を生じ易い構造になっている。したがって、船舶の入渠前は水中で固定した状態を保持しなければならず、浮力を調整するために、上段盤木体13の側面にはウェイトポケット133が配置されている。かかるウェイトポケット133に所定のウェイトを配置することにより、上段盤木体13の浮力を抑制することができるように構成されている。すなわち、渠底に配置した状態を保持したい場合には、ウェイトポケット133に所定のウェイトを配置しておき、上段盤木体13を中段盤木体12上に積載したい場合には、ウェイトを取り外して浮力を利用して上段盤木体13を上昇させる。なお、上段盤木体13の両脇に配置されているL型材は、ダイバーが水中で上段盤木体13を持ち上げるための張り出し部134である。
【0035】
ここで、図4は、入渠時における盤木体と船底の位置関係を示す図である。本図に示すように、本発明の腹盤木1を構成する下段盤木体11、中段盤木体12及び上段盤木体13は、渠底2上に船舶の中心線に対して略垂直方向(腹盤木1の長手方向)に一列に配置されており、下段盤木体11は位置α、中段盤木体12は位置β、上段盤木体13は位置γに配置されているものとする。また、入渠する船舶の船底3には、プロペラ31、ビルジキール32等の突出物が配置されており、船舶の入渠時に、プロペラ31は位置α付近を通過し、ビルジキール32は位置β付近を通過するものとする。
【0036】
いま、下段盤木体11の高さをh1、中段盤木体12の高さをh2、上段盤木体13の高さをh3とし、プロペラ31と渠底2との距離をD1、ビルジキール32と渠底2との距離をD2、位置αにおける船底3と渠底2との距離をD3とする。本発明では、高さh1<距離D1、高さh2<距離D2、(高さh1+高さh2+高さh3)≦距離D3の関係を満たすように、各盤木体11〜13の高さh1〜h3が設定されている。すなわち、各盤木体11〜13は、船舶の入渠時に船底3及び船底3からの突出物(例えば、プロペラ31、ビルジキール32、バルバス・バウ等)と接触しない高さh1〜h3に形成される。このように盤木体11〜13の高さh1〜h3を設定して腹盤木1を多段に形成することにより、盤木体11〜13を個別に渠底2に配置することにより、船底3に突出物が存在する場合であっても、盤木体11〜13と船底3又は突出物と接触することなく船舶を入渠させることができるとともに、腹盤木1の大型化にも対応させることができる。また、入渠時における腹盤木1の高さが低いため、船舶の入渠時制限喫水を深くすることができ、入渠作業の効率化を図ることもできる。
【0037】
次に、腹盤木の組立方法について説明する。ここで、図5は、腹盤木の組立方法を示す図であり、(A)は腹盤木を平面展開した状態、(B)は上段盤木体のウェイト調整状態、(C)は上段盤木体を中段盤木体に積載した状態、(D)は中段盤木体のウェイト調整状態、(E)は中段盤木体を下段盤木体に積載した状態、を示している。
【0038】
図5(A)に示したように、腹盤木1を平面展開した状態において、腹盤木1は、下段盤木体11、中段盤木体12、上段盤木体13ごとに個別に平面上に配置される。このとき、下段盤木体11と中段盤木体12とは、下段盤木体11の第一レール111と中段盤木体12の第一スライダ121とで連結されており、中段盤木体12と上段盤木体13とは、中段盤木体12の第一レール123と上段盤木体13の第一スライダ131とで連結されている。また、中段盤木体12及び上段盤木体13には、浮力を調整するためのウェイト4が配置されている。ウェイト4は、船舶の入渠時に中段盤木体12及び上段盤木体13に生じる浮力や水流によって移動しない程度の重量に設定される。
【0039】
図5(B)に示したように、上段盤木体13のウェイト調整状態は、上段盤木体13からウェイト4を取り外した状態である。したがって、上段盤木体13は、自身の浮力によって水中で持ち上げやすくなっており、容易に上段盤木体13を移動できるようになっている。
【0040】
そして、上段盤木体13を中段盤木体12の第一レール123及び第二レール124に沿ってスライドさせると、図5(C)に示したように、上段盤木体13を中段盤木体12に積載した状態となる。なお、図示しないが、上段盤木体13を中段盤木体12に積載した状態で、中段盤木体12のセットボルト126を締め付けることにより、上段盤木体13を中段盤木体12に固定している。
【0041】
図5(D)に示したように、中段盤木体12のウェイト調整状態は、中段盤木体12からウェイト4を取り外した状態である。したがって、上段盤木体13を積載した中段盤木体12は、自身の浮力によって水中で持ち上げやすくなっており、容易に中段盤木体12及び上段盤木体13を移動できるようになっている。
【0042】
そして、中段盤木体12を下段盤木体11の第一レール111及び第二レール112に沿ってスライドさせると、図5(E)に示したように、上段盤木体13及び中段盤木体12を下段盤木体11に積載した状態となる。かかる組立状態の詳細については、図2の斜視図に示してある。なお、中段盤木体12を下段盤木体11に積載した状態で、下段盤木体11のセットボルト114を締め付けることにより、中段盤木体12を下段盤木体11に固定している。
【0043】
次に、本発明に係る腹盤木1の他の実施形態について説明する。ここで、図6は、本発明に係る腹盤木の他の実施形態を示す図であり、(A)は第二実施形態、(B)は第三実施形態、(C)は第四実施形態、を示している。なお、各図において、図1等に記載した第一実施形態と同じ部品については、同じ符号を付し重複した説明を省略する。
【0044】
図6(A)に示した第二実施形態は、下段盤木体11の第一レール111及びストッパー113を、中段盤木体12の第一レール123及びストッパー125と同じ形状とし、中段盤木体12の第一スライダ121を上段盤木体13の第一スライダ131と同じ形状にしたものである。かかる構造であっても、第一実施形態と同様に、中段盤木体12を下段盤木体11に沿ってスライドさせることができる。
【0045】
図6(B)に示した第三実施形態は、上段盤木体13を中段盤木体12の短手方向の側面12aに沿ってスライドできるように配置したものである。かかる第三実施形態では、中段盤木体12の第一レール123は側面12aに配置されており、第二レール124は中段盤木体12の上面12dの短手方向に沿って配置されている。また、上段盤木体13の第一スライダ131は、中段盤木体12の第一レール123と対峙する位置に配置されている。かかる構成によっても、各盤木体11〜13を個々に渠底に配置することができ、腹盤木1の背の高さを一時的に低くすることができ、腹盤木1が大型化しても船体と接触しないように各盤木体11〜13により腹盤木1の高さを調整することができるとともに、容易に各盤木体11〜13を積載することができる。
【0046】
図6(C)に示した第四実施形態は、腹盤木1を2段に構成したものである。具体的には、腹盤木1は下段盤木体11と上段盤木体13とにより構成される。ここでは、図6(A)に示した第二実施形態の下段盤木体11と上段盤木体13の組み合わせにより構成したものを図示したが、図1等に示した第一実施形態の下段盤木体11と上段盤木体13の組み合わせにより構成してもよいことは勿論である。
【0047】
図6(D)に示した第五実施形態は、腹盤木1を4段に構成したものである。具体的には、腹盤木1は下段盤木体11と第二段盤木体14と第三段盤木体15と上段盤木体13とにより構成される。ここで、第二段盤木体14は、第一実施形態の中段盤木体12に相当する。すなわち、第五実施形態の腹盤木1は、第一実施形態の中段盤木体12と上段盤木体13の間に第三段盤木体15を追加したものでもある。また、上段盤木体13は、第一スライダ131及び第二スライダ132により、第三段盤木体15の第一レール153及び第二レール154に沿ってスライド可能に配置される。第三段盤木体15は、第一スライダ151及び第二スライダ152により、第二段盤木体14の第一レール143及び第二レール144に沿ってスライド可能に配置される。第二段盤木体14は、第一スライダ141及び第二スライダ142により、下段盤木体11の第一レール111及び第二レール112に沿ってスライド可能に配置される。なお、腹盤木1は、その使用状況に応じて5段以上の盤木体により構成してもよいことは勿論である。
【0048】
最後に、本発明に係る船舶の支持方法について説明する。ここで、図7は、本発明に係る船舶の支持方法を示す図であり、(A)は配置工程、(B)は進入工程、(C)は排水工程及び着底工程、(D)は調整工程、(E)は支持状態、を示している。なお、各図において、図1等に記載した第一実施形態と同じ部品については、同じ符号を付し重複した説明を省略する。
【0049】
図7(A)〜(E)に示した本発明に係る船舶の支持方法は、入渠した船舶6を主盤木5及び腹盤木1で支持する船舶6の支持方法であって、主盤木5及び腹盤木1を渠底2に配置する配置工程と、ドック内に船舶6を進入させる進入工程と、ドック内の水を排出する排水工程と、船舶6を主盤木5上に着底させる着底工程と、腹盤木1を船舶6の船底3に宛がう調整工程と、を有し、腹盤木1は高さ方向に積載可能な複数の盤木体(下段盤木体11、中段盤木体12、上段盤木体13)を有し、配置工程において、各盤木体11〜13は渠底2に個々配置され、調整工程において、各盤木体11〜13は上段から順に積載されて腹盤木1に組み立てられる、ことを特徴とする。
【0050】
図7(A)に示した配置工程は、ドック内に主盤木5及び腹盤木1を配置する工程である。主盤木5及び腹盤木1の配置位置は、入渠予定の船舶6の種類、大きさ等により予め計画されている。例えば、主盤木5は、船舶6の中心線に沿って配置される。また、腹盤木1は、船舶6の中心線に対して略垂直な方向に、下段盤木体11、中段盤木体12、上段盤木体13が船舶6の中心線から遠ざかる方向に下段から順に一列に配置される。このとき、下段盤木体11の位置が腹盤木1の配置位置に相当する。また、中段盤木体12及び上段盤木体13は、中段盤木体12の第一スライダ121が下段盤木体11の第一レール111に係合し、上段盤木体13の第一スライダ131が中段盤木体12の第一レール123に係合するように配置される(図5参照)。なお、各盤木体11〜13の配置方向は、腹盤木1を配置する位置や船底3の形状等によって定まるものであり、船舶6の中心線に対して略平行な方向であってもよいし、船舶6の中心線と交差する方向であってもよい。
【0051】
図7(B)に示した進入工程は、ドック内に船舶6を進入させる工程である。かかる進入工程により、船舶6を主盤木5及び腹盤木1上に配置する。このとき、腹盤木1は、各盤木体11〜13に分割されて渠底2に配置されているため、高さが低くなるように配置されている。したがって、船舶6が、船底3から突出したプロペラやビルジキール等の突出物を有し、突出物の進路上に腹盤木1が配置されていたとしても、突出物が腹盤木1と接触することがなく、入渠時の喫水Wを従来よりも深く設定することができる。
【0052】
図7(C)に示した排水工程及び積載工程は、ドックから水を外部に排出することにより船舶6を渠底2に接近させ、船舶6を主盤木5上に着底させる工程である。このままドック内の水を完全に排水してしまうと、船舶6が不安定な状態になるため、後述する調整工程により船底3を腹盤木1で支持し、船舶6を安定させる。また、ドック内の水は濁っていることが多く視界が悪いところ、本発明の腹盤木1を使用すれば、上段盤木体13及び中段盤木体12を所定のレールに沿って浮上させてスライドさせるだけでよく、容易に腹盤木1を組み立てることができる。
【0053】
図7(D)に示した調整工程は、下段盤木体11、中段盤木体12及び上段盤木体13を積載して腹盤木1を組み立て、腹盤木1を船舶6の船底3に宛がう工程である。具体的には、図5に示した腹盤木1の組立方法により、各盤木体11〜13を積載して腹盤木1を組み立てる。本発明の腹盤木1を用いることにより、容易に腹盤木1を組み立てることができ、ダイバーの負担を効果的に軽減することができ、作業時間を短縮することができる。また、油圧シリンダ等の駆動力を利用していないため、エネルギー効率に優れるとともに、腹盤木1の大型化にも容易に対応させることができる。なお、上段盤木体13を船底3に接触させるようにするには、上段盤木体13を中段盤木体12上でスライドさせる、上段盤木体13及び中段盤木体12を下段盤木体11上でスライドさせる、腹盤木1を渠底2上でスライドさせる、上段盤木体13に楔を打ち込む等の処理を行えばよい。
【0054】
図7(E)に示した支持状態は、ドック内の水を完全に排水した状態である。船舶6は、主盤木5及びその両側に配置された腹盤木1(図では片側のみを図示している)により、安定した状態に支持されており、所望のメンテナンスを安全に行うことができる。
【0055】
なお、船舶6を出渠させる場合には、(1)ドック内に水を張って主盤木5及び腹盤木1から船舶6を浮上させ、腹盤木1を再び各盤木体11〜13に分割して平面上に配置してから船舶6を移動させるようにしてもよいし、(2)腹盤木1を組み立てた状態で船舶6を移動させても突出物が接触しない程度までドック内に水を張るか又は船舶6を軽くしてから船舶6を移動させるようにしてもよい。
【0056】
本発明は上述した実施形態に限定されず、例えば、レール、スライダ及びストッパーの構造は図示したものに限られない等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0057】
1…腹盤木
2…渠底
3…船底
4…ウェイト
5…主盤木
6…船舶
11…下段盤木体
11a…流通孔
11b…側面
11c…上面
12…中段盤木体
12a…側面
12b,12c…側面
12d…上面
13…上段盤木体
13a…傾斜面
14…第二段盤木体
15…第三段盤木体
31…プロペラ
32…ビルジキール
111,123,143,153…第一レール
112,124,144,154…第二レール
112a,124a…切欠部
113,125…ストッパー
114,126…セットボルト
115,134…張り出し部
121,131,141,151…第一スライダ
121a…第一支持部材
121b…第二支持部材
121c…スライダ本体部
122,132,142,152…第二スライダ
127,133…ウェイトポケット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
入渠した船舶の船底を支持する腹盤木であって、
前記腹盤木は高さ方向に積載可能な複数の盤木体により多段に構成され、最下段以外の盤木体は、一段下の盤木体の側面及び上面に沿ってスライド可能に構成されている、ことを特徴とする腹盤木。
【請求項2】
前記盤木体は、前記船舶の入渠時に、前記船底及び前記船底からの突出物と接触しない高さに形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の腹盤木。
【請求項3】
最下段以外の盤木体は、浮力を調整できるように構成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の腹盤木。
【請求項4】
最上段以外の盤木体は、側面に沿って高さ方向に配置された第一レールと、上面に沿って前記船舶の中心線と交差する方向に配置された第二レールと、前記第一レールに沿ってスライドされた盤木体を前記第二レールに沿ってスライド可能とするために停止させるストッパーと、を有し、
最下段以外の盤木体は、一段下の盤木体に配置された第一レールに沿ってスライド可能に配置される第一スライダと、一段下の盤木体に配置された第二レールに沿ってスライド可能に配置される第二スライダと、を有することを特徴とする請求項1に記載の腹盤木。
【請求項5】
入渠した船舶を主盤木及び腹盤木で支持する船舶の支持方法であって、
前記主盤木及び前記腹盤木を渠底に配置する配置工程と、ドック内に前記船舶を進入させる進入工程と、前記ドック内の水を排出する排水工程と、前記船舶を前記主盤木上に着底させる着底工程と、前記腹盤木を前記船舶の船底に宛がう調整工程と、を有し、
前記腹盤木は高さ方向に積載可能な複数の盤木体を有し、
前記配置工程において、前記盤木体は前記渠底に個々配置され、
前記調整工程において、前記盤木体は上段から順に積載されて前記腹盤木に組み立てられる、ことを特徴とする船舶の支持方法。
【請求項6】
前記配置工程において、前記盤木体は前記船舶の中心線から遠ざかる方向に下段から順に一列に配置される、ことを特徴とする請求項5に記載の船舶の支持方法。
【請求項7】
前記調整工程において、前記盤木体は一段下の盤木体の側面及び上面に沿ってスライドされることにより積載される、ことを特徴とする請求項5に記載の船舶の支持方法。
【請求項8】
前記調整工程において、前記盤木体は浮力を調整して積載される、ことを特徴とする請求項5に記載の船舶の支持方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−167800(P2010−167800A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−9541(P2009−9541)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(502422351)株式会社アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド (159)