説明

腹盤木及び船舶の支持方法

【課題】横支柱を用いることなく耐震性を向上させることができる腹盤木及び船舶の支持方法を提供する。
【解決手段】入渠した船舶の船底を支持する腹盤木1であって、船底に接触する盤木体2と、盤木体2を支持する支持台と、を有し、支持台は、接地状態と非接地状態とに切り替え可能なキャスター部31と、水中で浮力を生じさせる浮力部32と、を備えている。また、前記キャスター部31は、一対の車輪31a,31aと、車輪31aの車軸を回動可能に支持する回動軸31bと、回動軸31bを支持するとともに支持台の側面部に接続された軸受け部31cと、回動軸31bを回動させることにより車輪31aの接地状態と非接地状態とを切り替えるレバー31dと、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入渠した船舶を支持する腹盤木及び船舶の支持方法に関し、特に、横支柱が不要な腹盤木及び該腹盤木を用いた船舶の支持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ドック内で船体や船底のメンテナンスを行う際には、渠底に配置された主盤木(キール盤木)及び腹盤木によって船体を支持する。主盤木は、船体の中心線に沿って配置される盤木であり、主として船体の重量を支持する機能を有する。また、腹盤木は、主盤木の両脇に配置される盤木であり、主として船体のバランスを保持する機能を有する。さらに、大型船舶の場合や十分な耐震荷重が求められる場合には、船体側面と渠壁との間に横支柱を配置することが多い(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平3−23918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、大型のドックの場合には、船体側面と渠壁との距離が長く、横支柱を支える支柱を渠底に配置しなければならない、複数の横支柱を継ぎ足さなければならない等の問題があり、横支柱の配置が困難かつ面倒であった。また、横支柱を使用した場合には、ドック内に部品や設備を搬入する際に横支柱が邪魔になるという問題もあった。さらに、近年では、入渠中の船舶に対する耐震荷重が引き上げられており、横支柱では構造的に耐震性の向上がし難いという問題もあった。
【0005】
本発明は、上述した問題点に鑑み創案されたものであり、横支柱を用いることなく耐震性を向上させることができる腹盤木及び船舶の支持方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、入渠した船舶の船底を支持する腹盤木であって、前記船底に接触する盤木体と、該盤木体を支持する支持台と、を有し、前記支持台は、接地状態と非接地状態とに切り替え可能なキャスター部と、水中で浮力を生じさせる浮力部と、を備えていることを特徴とする腹盤木が提供される。
【0007】
前記キャスター部は、例えば、少なくとも一対の車輪と、該車輪の車軸を回動可能に支持する回動軸と、該回動軸を支持するとともに前記支持台の側面部に接続された軸受け部と、前記回動軸を回動させることにより前記車輪の接地状態と非接地状態とを切り替えるレバーと、を有し、前記キャスター部が前記支持台の一対の側面部に配置されている。また、前記支持台に配置された係止部と、前記レバーに配置されたフックと、を有し、前記レバーを起こしたときに前記フックを前記係止部に係止させて前記レバーの位置を保持させるようにしてもよい。さらに、前記回動軸と前記支持台の側面部との間には、前記回動軸を把持可能な隙間が形成されていることが好ましい。
【0008】
また、前記キャスター部は、前記支持台の下部に配置された少なくとも三個以上の車輪と、該車輪と前記支持台との間に配置された弾性体と、を有し、前記弾性体に一定の荷重が負荷された場合に、前記車輪を停留状態に切り替えるとともに前記支持台を接地させるように構成されていてもよい。
【0009】
また、前記支持台は、構造部材を略格子状に組み付けた構成をなしていることが好ましい。さらに、前記浮力部は、前記構造部材の内部に形成された閉鎖空間であることが好ましい。また、前記盤木体は、前記支持台上でスライド可能に配置されていてもよい。
【0010】
また、本発明によれば、入渠した船舶を主盤木及び腹盤木で支持する船舶の支持方法であって、前記主盤木及び前記腹盤木を渠底に配置する配置工程と、ドック内に前記船舶を進入させる進入工程と、前記船舶を前記主盤木上に着底させる着底工程と、前記腹盤木を前記船舶の船底に接近させる移動工程と、前記腹盤木を前記船底に宛がう設置工程と、前記ドック内の水を排水する排水工程と、を有し、前記腹盤木は、接地状態と非接地状態とに切り替え可能なキャスター部を有し、前記配置工程では前記キャスター部を非接地状態とし、前記移動工程では前記キャスター部を接地状態とし、前記設置工程では前記キャスター部を非接地状態とする、ことを特徴とする船舶の支持方法が提供される。
【0011】
前記配置工程において前記腹盤木の移動経路上に目印を配置し、前記移動工程において前記目印を辿りながら前記腹盤木を移動させるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
上述した本発明の腹盤木及び船舶の支持方法によれば、接地状態と非接地状態とを切り替え可能なキャスター部を配置したことにより、腹盤木を移動状態と停留状態とに切り替えることができ、腹盤木を水中で移動させることができるとともに、腹盤木を水圧や水流に耐え得る状態に保持することができ、容易に腹盤木を船底に設置して船体を支持することができる。また、船体支持時にキャスター部を非接地状態とすることにより、腹盤木の耐荷重を向上させることができ、横支柱を用いることなく耐震性を向上させることができる。また、腹盤木に浮力部を配置することにより、水中における腹盤木の重量を軽くすることができ、キャスター部の切り替えを容易に行うことができるとともに腹盤木の移動を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る腹盤木の第一実施形態の非接地状態を示す図であり、(A)は側面図、(B)は図1(A)におけるZ−Z断面図、である。
【図2】本発明に係る腹盤木の第一実施形態の接地状態を示す図であり、(A)は側面図、(B)は図2(A)におけるZ−Z断面図、である。
【図3】本発明に係る船舶の支持方法を示す図であり、(A)は配置工程、(B)は進入工程、(C)は着底工程、(D)は移動工程の初期段階、を示している。
【図4】本発明に係る船舶の支持方法を示す図であり、(A)は移動工程の中間段階、(B)は移動工程の最終段階、(C)は設置工程、(D)は排水工程、を示している。
【図5】本発明に係る腹盤木の他の実施形態を示す図であり、(A)は第二実施形態、(B)は第三実施形態、である。
【図6】第三実施形態の腹盤木を用いた船舶の支持方法を示す図であり、(A)は移動工程の中間段階、(B)は移動工程の最終段階、(C)は設置工程、を示している。
【図7】本発明に係る腹盤木の第四実施形態を示す側面図であり、(A)は停留状態、(B)は移動状態、を示している。
【図8】第四実施形態の腹盤木を用いた船舶の支持方法を示す図であり、(A)は移動工程の中間段階、(B)は移動工程の最終段階、(C)は設置工程、を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図1〜図8を用いて説明する。ここで、図1は、本発明に係る腹盤木の第一実施形態の非接地状態を示す図であり、(A)は側面図、(B)は図1(A)におけるZ−Z断面図、である。また、図2は、本発明に係る腹盤木の第一実施形態の接地状態を示す図であり、(A)は側面図、(B)は図2(A)におけるZ−Z断面図、である。
【0015】
図1及び図2に示すように、本発明の腹盤木1は、入渠した船舶の船底を支持する腹盤木1であって、船底に接触する盤木体2と、盤木体2を支持する支持台3と、を有し、支持台3は、接地状態と非接地状態とに切り替え可能なキャスター部31と、水中で浮力を生じさせる浮力部32と、を備えている。
【0016】
前記盤木体2は、腹盤木1の最上部に配置され船底と接触する部品である。したがって、盤木体2は、船体を傷つけないように、全体として楔状に形成された米松等の材木により構成される。盤木体2の船底と接触する面の形状は、船舶の種類や腹盤木1の配置位置等により適宜設定される。なお、盤木体2はゴム素材のような弾性体により構成するようにしてもよい。
【0017】
前記支持台3は、構造部材を略格子状に組み付けた構成をなしている。具体的には、構造部材は、四本の脚部33と、隣接する脚部33同士を連結する補強材34と、脚部33の上部に接続された台座35と、台座35の下部に接続された浮力タンク36と、により構成されている。
【0018】
各脚部33は、下部に向かって間隔が広くなるように傾斜して配置されており、上部に台座35が接続され、下部に平板37が接続されている。また、各脚部33は、中空の鋼材により構成されており、上部が台座35により蓋をされ、下部が平板37により蓋をされている。したがって、各脚部33は、内部に閉鎖空間を有することとなり、浮力部32を構成している。
【0019】
各補強材34は、中空の鋼材により構成されており、両端が脚部33に接続されて蓋をされている。したがって、各補強材34は、内部に閉鎖空間を有することとなり、浮力部32を構成している。図1及び図2に示した第一実施形態では、下段に四本の補強材34を配置し、中段に四本の補強材34を配置しているが、かかる構成に限定されるものではない。また、補強材34と脚部33との間に補強リブ38を配置するようにしてもよい。なお、キャスター部31に隣接する補強材34aには、他の補強材34よりも細い鋼材を使用している。
【0020】
台座35は、盤木体2を支持する部材であり、脚部33に接続された天板と、天板の側面に配置された一対の側板と、により構成されている。盤木体2は、支持する船舶によって変更される部材であるため、台座35は天板及び側板により溝形状に形成され、台座35上で盤木体2をスライドできるように構成されている。また、台座35と脚部33との間には補強リブ38が配置されている。
【0021】
浮力タンク36は、台座35の下面及び脚部33に接続された鋼板と、鋼板により形成された箱部を塞ぐ底板と、により構成されている。したがって、浮力タンク36は、内部に閉鎖空間を有することとなり、浮力部32を構成している。この浮力タンク36は、腹盤木1の浮力部32を構成する主たる部材であり、腹盤木1に必要な浮力の調整はこの浮力タンク36の容積によって行う。
【0022】
前記キャスター部31は、一対の車輪31a,31aと、車輪31aの車軸を回動可能に支持する回動軸31bと、回動軸31bを支持するとともに支持台3の側面部に接続された軸受け部31cと、回動軸31bを回動させることにより車輪31aの接地状態と非接地状態とを切り替えるレバー31dと、を有している。かかるキャスター部31は、図1及び図2に示すように、対になって支持台3の一対の側面部に配置される。具体的には、支持台3の対峙する側面部を構成する一対の脚部33に軸受け部31cが接続されて、キャスター部31が配置される。
【0023】
回動軸31bの両端には車輪31aが接続され、回動軸31bの一端にはレバー31dが接続されていることから、レバー31d、回動軸31b及び車輪31aが一体化されている。したがって、レバー31dを傾倒させることにより、車輪31aを回動軸31bと一緒に回動させることができる。
【0024】
ここで、図1(A)及び(B)は、キャスター部31の非接地状態を示している。図示したように、非接地状態では、レバー31dは略水平となる位置に配置されている。このとき、支持台3の下段の補強材34にストッパー31eを接続しておくことにより、レバー31dの回り過ぎを防止することができる。なお、車輪31aは、レバー31dを略水平となる位置に配置したときに、床面から離れた状態(非接地状態)となるように回動軸31bに接続されている。
【0025】
また、図2(A)及び(B)は、キャスター部31の接地状態を示している。図示したように、接地状態では、レバー31dは脚部33の傾斜に沿った位置に配置されている。このとき、支持台3に配置された係止部31fと、レバー31dに配置されたフック31gと、を配置することにより、レバー31dを起こしたときにフック31gを係止部31fに係止させてレバー31dの位置を保持することができる。フック31gは、レバー31dの軸に沿って移動可能に配置されており、レバー31dを起こすときに上部に逃がしておき、レバー31dが係止部31fの位置に到達したらフック31gをスライドさせて係止部31fに係止させる。このように、レバー31dを係止部31fに固定することにより、車輪31aが床面に接触した状態(接地状態)を保持することができる。なお、車輪31aは、レバー31dを図2(A)に示したように固定したときに、床面に対して略垂直となるように回動軸31bに接続されている。
【0026】
上述したキャスター部31の構成によれば、レバー31dを倒して図1(A)及び(B)に示した状態にすることにより、車輪31aを床面から離間させて非接地状態にすることができ、腹盤木1は脚部33で床面上に接地される。なお、このときストッパー31eにフック31gを係止させてレバー31dを固定するようにしてもよい。また、レバー31dを起こして図2(A)及び(B)に示した状態にすることにより、車輪31aを床面上に降ろして接地状態にすることができ、脚部33を床面から離間した状態にすることができ、車輪31aで腹盤木1を移動させることができる。
【0027】
また、図2(B)に示したように、回動軸31bに隣接する補強材34aは他の補強材34よりも細く形成されている。かかる構成により、回動軸31bと支持台3の側面部との間には、回動軸31bを把持可能な隙間が形成されている。これは、腹盤木1を水中で移動させる場合に、潜水したダイバーが脚部33の隙間に頭部を挿入し、補強材34aを把持しながら腹盤木1を押し進めることを考慮したものである。
【0028】
さらに、図2(B)に示したように、支持台3の下段の補強材34,34aはロ字状に配置されている。かかる構成により、腹盤木1を水中で移動させる場合に、潜水したダイバーが脚部33の隙間に頭部を挿入した状態であっても渠底の目印を目視で確認しながら腹盤木1を押し進めることができる。
【0029】
次に、上述した腹盤木1を用いた船舶の支持方法について説明する。ここで、図3は、本発明に係る船舶の支持方法を示す図であり、(A)は配置工程、(B)は進入工程、(C)は着底工程、(D)は移動工程の初期段階、を示している。また、図4は、本発明に係る船舶の支持方法を示す図であり、(A)は移動工程の中間段階、(B)は移動工程の最終段階、(C)は設置工程、(D)は排水工程、を示している。なお、各図において、図1及び図2に示した腹盤木1の第一実施形態と同じ部品については同じ符号を付し、重複した説明を省略する。
【0030】
図3及び図4に示した本発明の船舶Sの支持方法は、入渠した船舶Sを主盤木4及び腹盤木1で支持する船舶Sの支持方法であって、主盤木4及び腹盤木1を渠底Fに配置する配置工程と、ドック内に船舶Sを進入させる進入工程と、船舶Sを主盤木4上に着底させる着底工程と、腹盤木1を船舶Sの船底に接近させる移動工程と、腹盤木1を船底に宛がう設置工程と、ドック内の水を排水する排水工程と、を有し、腹盤木1は、接地状態と非接地状態とに切り替え可能なキャスター部31を有し、配置工程ではキャスター部31を非接地状態とし、移動工程ではキャスター部31を接地状態とし、設置工程ではキャスター部31を非接地状態とすることを特徴とする。
【0031】
図3(A)に示した配置工程は、船舶Sを入渠させるドックの渠底Fに主盤木4及び腹盤木1を配置する工程である。主盤木4及び腹盤木1の配置は、入渠予定の船舶Sの種類や大きさ等により予め計画されている。主盤木4は、一般に、船舶Sの中心線に沿って配置される。また、腹盤木1は、船舶Sのドック進入時に、船底から突出したプロペラやビルジキール等の突出物と接触しない位置に配置される。また、腹盤木1のキャスター部31は、図1に示した非接地状態に切り替えられている。したがって、渠底Fに主盤木4及び腹盤木1を配置した後、ドック内に水を注水した場合であっても、腹盤木1は所定の配置位置に停留した状態を保持することができる。なお、注水時における水流や水圧の変化を考慮して腹盤木1に鋼板等のウェイトを負荷するようにしてもよい。
【0032】
かかる配置工程において、腹盤木1の移動経路上に目印を配置するようにしてもよい。ここでは、目印としてガイドロープ5を渠底F上に張った状態を図示している。目印は、ガイドロープ5に代えて、渠底F上に描画したガイドラインでもよいし、経路上に飛び飛びに配置されたガイドウェイトであってもよい。
【0033】
図3(B)に示した進入工程は、ドック内に船舶Sを進入させる工程である。例えば、ソナードームを備えた船舶Sでは、後進入渠させる場合が多く、船尾側からドック内に進入され、船舶Sを主盤木4上に移動される。このとき、腹盤木1は、船舶Sの中心線から離れた位置に配置されているため、プロペラ等の突出物と接触せずに船舶Sをドック内に進入させることができる。また、腹盤木1を船舶Sと接触しない位置に配置していることから、船舶Sの喫水Wを深く設定することもできる。
【0034】
図3(C)に示した着底工程は、船舶Sを主盤木4上に載置する工程である。具体的には、ドック内を排水することにより船舶Sの位置を徐々に主盤木4に接近させ、船舶Sが主盤木4上に着底した状態で排水を一旦停止し、腹盤木1を設置する作業に移行する。
【0035】
図3(D)に示した移動工程の初期段階は、腹盤木1のキャスター部31を図2に示した接地状態に切り替える段階である。具体的には、ドック内に潜水したダイバーが、キャスター部31のレバー31dを起こすことによって車輪31aを回動させ、フック31gを係止部31fに係止させてレバー31dの位置を固定する。かかる動作により車輪31aを渠底Fに接地させるとともに、脚部33を渠底Fから離間させることができる。
【0036】
図4(A)に示した移動工程の中間段階は、腹盤木1を移動させて船舶Sの船底に接近させる段階である。このとき、ドック内は視認性に乏しいため、ガイドロープ5を目印にして辿りながら腹盤木1を移動させることが好ましい。また、ダイバーは、脚部33の間に頭部を挿入し、補強材34aを把持しながら腹盤木1を押し進めることになる。このとき、支持台3は構造部材を格子状に組み付けた構成をなしていることから、上述した姿勢を容易に取ることができるとともに、渠底Fのガイドロープ5を支持台3の中から視認することができる。
【0037】
図4(B)に示した移動工程の最終段階は、腹盤木1のキャスター部31を図1に示した非接地状態に切り替える段階である。具体的には、ドック内に潜水したダイバーが、フック31gを係止部31fから外し、レバー31dを略水平に倒すことによって車輪31aを回動させる。かかる動作により車輪31aを渠底Fから離間させるとともに、脚部33を渠底Fに接地させることができる。
【0038】
図4(C)に示した設置工程は、腹盤木1を船舶Sの船底に宛がう工程である。具体的には、キャスター部31を非接地状態にした腹盤木1を主盤木4に向かって押し込むことにより、腹盤木1の盤木体2を船底に接触させる。腹盤木1は上述したように浮力部32を有することから、水中における重量は地上のときよりも軽くなっており、ダイバーの力で腹盤木1をわずかの距離であれば移動させることができる。したがって、浮力部32は、水中でダイバーがキャスター部31を使用せずに腹盤木1を移動させることができる容積(浮力)に設定される。
【0039】
図4(D)に示した排水工程は、ドック内の水を抜く工程である。このとき、船舶Sは主盤木4及び腹盤木1により支持されているため、傾倒することなく安定して姿勢が保持される。また、腹盤木1の支持台3は、鋼材等の丈夫な部材により構成されるとともに、四本の脚部33が渠底Fに接地されていることから、例えば、地震等により生じる大きな荷重に耐え得ることができ、横支柱を用いることなく耐震性を向上させることができる。また、支持台3の素材や組み付け構造、腹盤木1の設置個数等を適宜変更することにより、船舶Sの種類や大きさ、船底の形状等に合わせて腹盤木1を容易に設定することができる。
【0040】
さらに、上述した本発明の船舶Sの支持方法によれば、横支柱を用いることなく船舶Sを容易に支持することができる。したがって、船体側面と渠壁との距離が長い大型のドックの場合であっても、船舶Sを容易に支持することができる。また、横支柱を用いないことから、ドックに部品や設備の搬入も容易に行うことができる。
【0041】
なお、船舶Sを出渠させる場合には、ドック内に水を張って主盤木4及び腹盤木1から船舶Sを浮上させ、腹盤木1のキャスター部31を接地状態にして船舶Sの出渠時に接触しない位置まで移動させ、キャスター部31を非接地状態に切り替えてから、船舶Sを前進させて出渠させればよい。
【0042】
次に、本発明に係る腹盤木1の他の実施形態について説明する。ここで、図5は、本発明に係る腹盤木の他の実施形態を示す図であり、(A)は第二実施形態、(B)は第三実施形態、である。なお、腹盤木1の第一実施形態と同じ部品については同じ符号を付し、重複した説明を省略する。
【0043】
図5(A)に示した腹盤木1の第二実施形態は、盤木体2を支持台3上でスライド可能に配置したものである。具体的には、支持台3の台座35の幅Dを盤木体2の幅dよりも長く設定し、台座35上で盤木体2をスライド可能に構成している。幅Dは、例えば、d<D≦2dの範囲に設定される。
【0044】
ここで、図6は、第二実施形態の腹盤木を用いた船舶の支持方法を示す図であり、(A)は移動工程の中間段階、(B)は移動工程の最終段階、(C)は設置工程、を示している。なお、第二実施形態の腹盤木を用いた船舶の支持方法において、配置工程、進入工程、着底工程、移動工程の初期段階、排水工程に関しては第一実施形態と同じであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0045】
図6(A)に示した移動工程の中間段階は、腹盤木1を移動させて船舶Sの船底に接近させる段階である。このとき、支持台3上の盤木体2は船舶Sから遠い位置に配置されていることから、支持台3を第一実施形態の場合よりも船舶Sに近い位置に移動させることができる。
【0046】
図6(B)に示した移動工程の最終段階は、腹盤木1のキャスター部31を図1に示した非接地状態に切り替える段階である。具体的には、ドック内に潜水したダイバーが、フック31gを係止部31fから外し、レバー31dを略水平に倒すことによって車輪31aを回動させる。かかる動作により車輪31aを渠底Fから離間させるとともに、脚部33を渠底Fに接地させることができる。
【0047】
図6(C)に示した設置工程は、腹盤木1を船舶Sの船底に宛がう工程である。具体的には、盤木体2を台座35上で船舶Sに向かって押し込んでスライドさせることにより、盤木体2を船底に接触させる。かかる第二実施形態では、設置工程において腹盤木1の全体を押し込む必要がないため、第一実施形態よりも容易に盤木体2を船底に宛がうことができる。
【0048】
図5(B)に示した腹盤木1の第三実施形態は、車輪31aの個数を増やしたものである。ここでは、各回動軸31bの中間に二個ずつ車輪31aを追加している。また、図示しないが、車軸を共通にした複数の車輪31aを回動軸31bに接続するようにしてもよい。なお、車輪31aの個数は片側に二個以上あればよい。
【0049】
次に、本発明に係る腹盤木1の第四実施形態について説明する。ここで、図7は、本発明に係る腹盤木の第四実施形態を示す側面図であり、(A)は移動状態、(B)は停留状態、を示している。なお、腹盤木1の第一実施形態と同じ部品については同じ符号を付し、重複した説明を省略する。
【0050】
図7に示した第四実施形態の腹盤木1は、キャスター部31が、支持台3の下部に配置された四個の車輪31aと、車輪31aと支持台3との間に配置された弾性体39と、を有し、弾性体39に一定の荷重が負荷された場合に、車輪31aを停留状態に切り替えるとともに支持台3を接地させるように構成されている。なお、車輪31aは、少なくとも三個以上あればよく、五個以上配置するようにしてもよい。
【0051】
図7(A)の移動状態に示したように、支持台3上に盤木体2のみが載せられている状態において、車輪31aは弾性体39の弾性力により渠底Fに押し付けられており、その反作用として支持台3の脚部33を渠底Fから離間した状態(非接地状態)となっている。かかる移動状態は、図2に示した第一実施形態の接地状態と同じ状態であり、支持台3を押すことにより車輪31aを駆動させて腹盤木1を移動させることができる。
【0052】
一方、図7(B)の停留状態に示したように、盤木体2を船舶Sの船底に接触させて腹盤木1で船舶Sを支持したような状態では、支持台3を渠底Fに押し付ける力が弾性体39の弾性力よりも大きく、脚部33が渠底Fに押し付けられた状態(接地状態)となっている。したがって、かかる停留状態は、車輪31aが渠底Fに接地した状態であるが、脚部33も接地した状態であるため、腹盤木1は自由に移動できない状態となっており、図1に示した第一実施形態の非接地状態と同じ状態になっている。
【0053】
ここで、図8は、第四実施形態の腹盤木を用いた船舶の支持方法を示す図であり、(A)は移動工程の中間段階、(B)は移動工程の最終段階、(C)は設置工程、を示している。なお、第四実施形態の腹盤木を用いた船舶の支持方法において、配置工程、進入工程、着底工程、移動工程の初期段階、排水工程に関しては第一実施形態と同じであるため、ここでは詳細な説明を省略する。ただし、配置工程において、支持台3の脚部33を接地状態にする場合には、鋼板等のウェイトを負荷するようにすればよい。
【0054】
図8(A)に示した移動工程の中間段階は、腹盤木1を移動させて船舶Sの船底に接近させる段階である。このとき、支持台3には盤木体2しか負荷されていないため、車輪31aにより腹盤木1を円滑に移動させることができる。
【0055】
図8(B)に示した移動工程の最終段階は、盤木体2が船舶Sの船底に接触するまで腹盤木1を移動させる段階である。車輪31aは弾性体39を介して支持台3に接続されているため、盤木体2が船舶Sの船底に接触するまでは移動工程の中間段階と同様の動作により腹盤木1を移動させることができる。
【0056】
図8(C)に示した設置工程は、腹盤木1を船舶Sの船底に宛がう工程である。具体的には、船舶Sの船底に盤木体2が接触した腹盤木1を船舶Sに向かって押し込むことにより、支持台3に生じる負荷を大きくし、脚部33を渠底Fに接地させる。かかる動作により、船舶Sの重量を腹盤木1で確実に受け止めることができる。かかる第四実施形態では、腹盤木1を船舶Sに押し付けるだけでキャスター部31を停留状態に切り替えることができ、第一実施形態のレバー31dを操作する必要がなく、容易に盤木体2を船底に宛がうことができる。
【0057】
本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0058】
1…腹盤木
2…盤木体
3…支持台
4…主盤木
5…ガイドロープ
31…キャスター部
31a…車輪
31b…回動軸
31c…軸受け部
31d…レバー
31e…ストッパー
31f…係止部
31g…フック
32…浮力部
33…脚部
34,34a…補強材
35…台座
36…浮力タンク
37…平板
38…補強リブ
39…弾性体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
入渠した船舶の船底を支持する腹盤木であって、
前記船底に接触する盤木体と、該盤木体を支持する支持台と、を有し、
前記支持台は、接地状態と非接地状態とに切り替え可能なキャスター部と、水中で浮力を生じさせる浮力部と、を備えていることを特徴とする腹盤木。
【請求項2】
前記キャスター部は、少なくとも一対の車輪と、該車輪の車軸を回動可能に支持する回動軸と、該回動軸を支持するとともに前記支持台の側面部に接続された軸受け部と、前記回動軸を回動させることにより前記車輪の接地状態と非接地状態とを切り替えるレバーと、を有し、前記キャスター部が前記支持台の一対の側面部に配置されている、ことを特徴とする請求項1に記載の腹盤木。
【請求項3】
前記支持台に配置された係止部と、前記レバーに配置されたフックと、を有し、前記レバーを起こしたときに前記フックを前記係止部に係止させて前記レバーの位置を保持する、ことを特徴とする請求項2に記載の腹盤木。
【請求項4】
前記回動軸と前記支持台の側面部との間には、前記回動軸を把持可能な隙間が形成されている、ことを特徴とする請求項2に記載の腹盤木。
【請求項5】
前記キャスター部は、前記支持台の下部に配置された少なくとも三個以上の車輪と、該車輪と前記支持台との間に配置された弾性体と、を有し、前記弾性体に一定の荷重が負荷された場合に、前記車輪を停留状態に切り替えるとともに前記支持台を接地させる、ことを特徴とする請求項1に記載の腹盤木。
【請求項6】
前記支持台は、構造部材を略格子状に組み付けた構成をなしている、ことを特徴とする請求項1に記載の腹盤木。
【請求項7】
前記浮力部は、前記構造部材の内部に形成された閉鎖空間である、ことを特徴とする請求項5に記載の腹盤木。
【請求項8】
前記盤木体は、前記支持台上でスライド可能に配置されている、ことを特徴とする請求項1に記載の腹盤木。
【請求項9】
入渠した船舶を主盤木及び腹盤木で支持する船舶の支持方法であって、
前記主盤木及び前記腹盤木を渠底に配置する配置工程と、ドック内に前記船舶を進入させる進入工程と、前記船舶を前記主盤木上に着底させる着底工程と、前記腹盤木を前記船舶の船底に接近させる移動工程と、前記腹盤木を前記船底に宛がう設置工程と、前記ドック内の水を排水する排水工程と、を有し、
前記腹盤木は、接地状態と非接地状態とに切り替え可能なキャスター部を有し、前記配置工程では前記キャスター部を非接地状態とし、前記移動工程では前記キャスター部を接地状態とし、前記設置工程では前記キャスター部を非接地状態とする、ことを特徴とする船舶の支持方法。
【請求項10】
前記配置工程において前記腹盤木の移動経路上に目印を配置し、前記移動工程において前記目印を辿りながら前記腹盤木を移動させる、ことを特徴とする請求項9に記載の船舶の支持方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−274873(P2010−274873A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131860(P2009−131860)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(502422351)株式会社アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド (159)