説明

膜電極接合体

【課題】膜電極接合体に関し、クロスオーバーの抑制と、電圧低下の抑制とを両立可能な膜電極接合体を提供する。
【解決手段】横軸はEm(電解質膜に用いる高分子電解質の貯蔵弾性率)/Ei(触媒層のアイオノマーに用いる高分子電解質の貯蔵弾性率)を、縦軸は0.1A/cmの時の電圧値をそれぞれ示している。Em/Eiが1.0に近いほど、電圧が高くなることが分かる。また、Em/Eiが0.7以下の場合や、2.5以上の場合には電圧が低くなることが分かる。従って、Em/Eiを1.0以上1.4以下に設定すれば、低電流域において確実に高電圧を得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、膜電極接合体に関し、より詳細には、固体高分子形燃料電池に用いられる膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、金属触媒にポリマアイオノマー、アルコール系溶媒及び沸点が30〜200℃の極性有機溶媒を混合して触媒層形成用組成物を調製し、調製した触媒層形成用組成物を、電解質膜の両面に直接コーティングして触媒層を形成して膜電極接合体(MEA)を製造する方法が開示されている。MEAの製造に際し、電解質膜と触媒層とをホットプレスする場合、ホットプレス時の温度や圧力が、電解質膜を構成する高分子の物性に悪影響を及ぼすことがある。この点、特許文献1の方法によれば、電解質膜の両面に直接コーティングして触媒層を形成できるので、ホットプレスを省略できる。従って、電解質膜の材質に囚われないMEAの製造が可能となる。例えば、電解質膜を構成する高分子と、ポリマアイオノマーを構成する高分子の各物性を異ならせたMEAを製造することも可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−146367号公報
【特許文献2】特開2009−123579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、異なる物性の高分子でMEAを構成する場合、ガスのクロスオーバーの抑制や、触媒層における反応性向上のために、電解質膜とポリマアイオノマーとにガス透過性の異なる高分子を用いることが望ましい。具体的に、電解質膜には、ガスのクロスオーバーを少なくするためにガス透過性の低い(ガス遮断性の高い)高分子を用いることが望ましい。また、ポリマアイオノマーには、触媒層における反応性を向上させるためにガス透過性の高い(ガス遮断性の低い)高分子を用いることが望ましい。
【0005】
しかしながら、ガス透過性の異なる高分子でMEAを構成する場合、電解質膜とポリマアイオノマーの界面においてプロトンパスが不連続となることが考えられる。プロトンパスが不連続となった場合、プロトンがスムーズに移動できず、結果として電池電圧が低下する可能性がある。この点に関し、上記特許文献1には何ら触れられていない。従って、ガス透過性の異なる高分子でMEAを構成する場合、電圧低下の抑制ための改良の余地があった。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、クロスオーバーの抑制と、電圧低下の抑制とを両立可能なMEAを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、MEAであって、
第1の固体高分子からなる電解質膜と、
前記電解質膜と対向配置され、前記電解質膜との対向面が前記第1の固体高分子よりもガス透過性の高い第2の固体高分子によって被覆された触媒層と、を備え、
前記第2の固体高分子の60℃における貯蔵弾性率に対する前記第1の固体高分子の60℃における貯蔵弾性率の比が、0.7よりも大きく2.5よりも小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1の発明によれば、電解質膜及び触媒層にガス透過性の異なる高分子を用いた場合であっても、クロスオーバーの抑制と、電圧低下の抑制とを両立できるMEAを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態のMEAが設けられた燃料電池の断面構成の模式図である。
【図2】図1の電解質膜及びカソード触媒層の接合部近傍の拡大模式図である。
【図3】Em(電解質膜に用いる高分子電解質の貯蔵弾性率)/Ei(触媒層のアイオノマーに用いる高分子電解質の貯蔵弾性率)の異なる9種類のMEAの性能評価試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図1〜図3を参照して、本実施の形態の詳細を説明する。
図1は、本実施形態のMEAが設けられた燃料電池の断面構成の模式図である。図1に示すように、燃料電池10は、電解質膜12の両側に、これを挟むようにアノード触媒層14、カソード触媒層16が、それぞれ設けられている。アノード触媒層14の外側には、ガス拡散層18、セパレータ20が順に設けられている。同様に、カソード触媒層16の外側には、ガス拡散層22、セパレータ24が順に設けられている。電解質膜12と、これを挟む一対のアノード触媒層14、カソード触媒層16とにより、MEA26が構成される。MEA26と、ガス拡散層18,22とからMEGA28が構成される。
【0011】
電解質膜12は、プロトンをアノード触媒層14からカソード触媒層16へ伝導する役割をもつプロトン交換膜である。電解質膜12は、一般に、側鎖にリン酸基、スルホン酸基やホスホン酸基といった酸性官能基を側鎖に有する炭化水素系又はフッ素系の高分子電解質から構成される。
【0012】
炭化水素系又はフッ素系の高分子電解質としては、(i)主鎖が脂肪族炭化水素からなる炭化水素系高分子、(ii)主鎖が脂肪族炭化水素からなり、主鎖の一部又は全部の水素原子がフッ素原子で置換された高分子や、(iii)主鎖が芳香環を有する高分子等が挙げられる。また、高分子電解質としては、酸性基を有する高分子電解質、塩基性基を有する高分子電解質のいずれも用いることができる。このうち、酸性基を有する高分子電解質を用いると、発電性能に優れた燃料電池が得られる傾向にあるため好ましい。酸性基としては、スルホン酸基、スルホンイミド基、カルボン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、フェノール性水酸基などが挙げられる。このうち、スルホン酸基又はホスホン酸基が好ましく、スルホン酸基が特に好ましい。
【0013】
このような電解質膜12としては、具体的に、NAFION(デュポン社、登録商標)、FLEMION(旭硝子(株)、登録商標)、ACIPLEX(旭化成ケミカルズ(株)、登録商標)等が挙げられる。
【0014】
アノード触媒層14、カソード触媒層16は、燃料電池10における電極として機能する層である。アノード触媒層14、カソード触媒層16の両方には、カーボン粒子に担持された触媒が設けられている。また、これらアノード触媒層14、カソード触媒層16には、上記触媒を被覆するようにアイオノマーが設けられている。尚、カソード触媒層16の詳細については後述する。
【0015】
ガス拡散層18,22は、反応ガスや水をその厚み方向に通過可能にする無数の孔を有する多孔質カーボンから構成される。ガス拡散層18,22は、アノード触媒層14、カソード触媒層16に反応ガスを均一に拡散させると共に、MEA26の乾燥を抑制する能を有する。ガス拡散層18,22としては、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等の炭素系多孔体、ポリイミドを炭化したもの、カーボンブラックとフッ素樹脂との混合物やカーボン不織布にフッ素をコートしたもの等が使用できる。
【0016】
セパレータ20,24は、電子伝導性を有する材料から構成されている。セパレータ20,24に使用できるこのような材料としては、例えば、カーボン、樹脂モールドカーボン、チタン、ステンレス等が挙げられる。セパレータ20のガス拡散層18側の表面には、燃料ガスとしての水素を流通させるための燃料ガス流路が形成されている。同様に、セパレータ24のガス拡散層22側の表面には、酸化剤ガスとしての空気(酸素)を流通させるための酸化剤ガス流路が形成されている。
【0017】
図1においては、上記のように構成されたMEGA28とその両側に配置された一対のセパレータ20,24を1組のみ図示したが、実際の燃料電池は、MEGA28がセパレータ20,24を介して複数積層されたスタック構造を有している。
【0018】
図2は、図1の電解質膜12及びカソード触媒層16の接合部近傍の拡大模式図である。尚、アノード触媒層14の構造については、カソード触媒層16と同様であるため、カソード触媒層16の構造の説明をもってアノード触媒層14の構造の説明に代えることとする。
【0019】
図2に示すように、カソード触媒層16は、多孔質のカーボン粒子161を含んでいる。カーボン粒子161としては、カーボンブラックが最も一般的であるが、その他にも黒鉛、炭素繊維、活性炭等やこれらの粉砕物、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等の炭素化合物等が使用できる。
【0020】
また、図2に示すように、カーボン粒子161の外表面には、触媒粒子162が設けられている。触媒粒子162としては、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスニウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、又はそれらの合金等が挙げられる。好ましくは、白金、及び白金と例えばルテニウムなど他の金属とからなる合金である。
【0021】
また、図2に示すように、カーボン粒子161の外表面には、触媒粒子162を被覆するようにアイオノマー163が設けられている。アイオノマー163としては、プロトン導電性を有する高分子材料であって、例えば電解質膜12として挙げた炭化水素系又はフッ素系の高分子電解質が用いられる。
【0022】
ところで、触媒粒子162を構成する主な金属は貴金属であり高価である。そのため、特に、触媒粒子162に白金を用いる場合、その使用量を減らすことができれば、燃料電池のコスト低減が期待できる。しかしながら、触媒使用量を減らした場合、各種電池特性の低下が想定される。
【0023】
低触媒化による各種電池特性の低下を補償する方法の一つに、アイオノマー163と電解質膜12に用いる高分子電解質の酸素透過性を異ならしめる方法がある。具体的には、酸素透過性の高い高分子電解質をアイオノマー163に、酸素透過性の低い高分子電解質を電解質膜12に、それぞれ用いる方法である。
【0024】
酸素透過性の高い高分子電解質をアイオノマー163に用いれば、アイオノマー163に多くの酸素を透過できる。また、酸素透過性の低い高分子電解質を電解質膜12に用いれば、電解質膜12としては、酸素のクロスオーバーを抑制できる。酸素のクロスオーバーを抑制できれば、アノード触媒層14からカソード触媒層16側へプロトンをスムーズに伝導させることも可能となる。従って、酸素透過性の高い高分子電解質をアイオノマー163に、酸素透過性の低い高分子電解質を電解質膜12にそれぞれ用いれば、上述した効果が同時に得られるので、低触媒化による各種電池特性の低下を補償可能となる。
【0025】
しかしながら、実際のところ、酸素透過性の異なる高分子電解質を電解質膜12及びアイオノマー163にそれぞれ適用して作製したMEAは、特に低電流域において、高い電圧値が得られないという問題があった。その理由としては、酸素透過性を異ならしめるためには、電解質膜12及びアイオノマー163に別材料が要求されるところ、特性の大きく異なる別材料を用いると、膜/触媒層の界面でプロトンパスが不連続となることが考えられた。
【0026】
そこで、本実施の形態では、酸素透過性の異なる高分子電解質のうち、貯蔵弾性率が近いものを電解質膜12及びアイオノマー163にそれぞれ適用することとした。ここで、貯蔵弾性率が近いとは、具体的に、電解質膜12に用いる高分子電解質の貯蔵弾性率をEmとし、アイオノマー163に用いる高分子電解質の貯蔵弾性率をEiとした場合に、Em/Eiが0.7よりも大きく2.5よりも小さい範囲(好ましくは、1.0〜1.4の範囲)にあることを指す。尚、貯蔵弾性率は、動的弾性率とも呼ばれ、ポリマー試験片に対して正弦波状に変化する歪みを与えたときに示す応答を測定して得られる複素弾性率の実数部分として測定できる。
【0027】
下表に示す9種類のMEA(実施例1〜3、比較例1〜6)は、酸素透過性及び弾性率の異なる高分子電解質を、電解質膜12及びアイオノマー163にそれぞれ適用して作製したものである。尚、表中の酸素透過係数は、M. Inaba et.al ECS Transactions, 1682) 881-889(2008)を参考に測定し、アイオノマーAを基準(=1.0)とした相対値として示す。また、貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定装置を用い60℃Dry雰囲気において測定し、酸素透過係数同様、アイオノマーAを基準とした相対値として示す。
【表1】

【0028】
これら9種類のMEAに対し、性能評価試験を行った。性能評価試験は、両極60℃フル加湿条件下(セル温60℃、アノード60℃、カソード60℃)で行った。図3は、これら9種類のMEAの性能評価試験の結果を示す図である。図3の横軸はEm/Eiを、縦軸は0.1A/cmの時の電圧値をそれぞれ示している。図3から、Em/Eiが1.0に近いほど、電圧が高くなることが分かる。また、Em/Eiが0.7以下の場合や、2.5以上の場合には電圧が低くなることが分かる。従って、1.0以上1.4以下に設定すれば、低電流域において確実に高電圧を得られることが明らかとなった。
【0029】
以上、本実施の形態によれば、Em/Eiが上記範囲となる高分子電解質を、電解質膜12及びアイオノマー163にそれぞれ適用することで、低触媒化による各種電池特性の低下を補償することが可能となる。特に低電流域において、高電圧を得られる。
【0030】
尚、本実施の形態においては、カソード触媒層16に着目し、低触媒化による各種電池特性の低下を補償可能なEm/Eiの範囲について説明した。しかし、電解質膜12とアイオノマー163との間に成立する貯蔵弾性率の関係は、電解質膜12とアノード触媒層14のアイオノマーとの間にも成立する。即ち、水素透過性の高い高分子電解質をアノード触媒層14のアイオノマーに、水素透過性の低い高分子電解質を電解質膜12に用いる際に、Em/アノード触媒層14のアイオノマーを上記範囲となるように電解質膜12及びアイオノマー163を選択すれば、本実施の形態同様、低触媒化による各種電池特性の低下の補償が期待できる。
【符号の説明】
【0031】
12 電解質膜
14 アノード触媒層
16 カソード触媒層
26 MEA
161 カーボン粒子
162 触媒粒子
163 アイオノマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の固体高分子からなる電解質膜と、
前記電解質膜と対向配置され、前記電解質膜との対向面が前記第1の固体高分子よりもガス透過性の高い第2の固体高分子によって被覆された触媒層と、を備え、
前記第2の固体高分子の60℃における貯蔵弾性率に対する前記第1の固体高分子の60℃における貯蔵弾性率の比が、0.7よりも大きく2.5よりも小さいことを特徴とする膜電極接合体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate