説明

膜電極組立体の製造方法およびそれにより製造された膜電極組立体

【課題】固体高分子形燃料電池におけるシールの信頼性、機械的強度および取扱性を向上させる膜電極組立体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明による膜電極組立体の製造方法は、高分子電解質膜と、該電解質膜の一方の面側に設けられた第1の電極層と、該第1の電極層の該電解質膜とは反対側に設けられた第1の多孔質ガス拡散層と、該電解質膜の他方の面側に設けられた第2の電極層と、該第2の電極層の該電解質膜とは反対側に設けられた第2の多孔質ガス拡散層とを含む膜電極接合体を用意し、そして、該膜電極接合体に対して、型成形により、該電解質膜の外周縁の全部ならびに該第1および第2のガス拡散層の外周縁の少なくとも該第1および第2の電極層の近傍を包囲するように樹脂枠を設けるに際し、当該樹脂枠材料の該ガス拡散層および/または該電極層への侵入を抑制または防止することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池のための膜電極組立体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高効率のエネルギー変換装置として、燃料電池が注目を集めている。燃料電池は、用いる電解質の種類により、アルカリ形、固体高分子形、リン酸形等の低温作動燃料電池と、溶融炭酸塩形、固体酸化物形等の高温作動燃料電池とに大別される。これらのうち、電解質としてイオン伝導性を有する高分子電解質膜を用いる固体高分子形燃料電池(PEFC)は、コンパクトな構造で高出力密度が得られ、しかも液体を電解質に用いないこと、低温で運転することが可能なこと等により簡易なシステムで実現できるため、定置用、車両用、携帯用等の電源として注目されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、高分子電解質膜の片面を燃料ガス(水素等)に、その反対面を酸化剤ガス(空気等)に暴露し、高分子電解質膜を介した化学反応により水を合成し、これによって生じる反応エネルギーを電気的に取り出すことを基本原理としている。高分子電解質膜の両面に多孔質触媒電極を配置し、これを熱プレス等で一体形成したものを一般に膜電極接合体(MEA)と呼ぶ。MEAは独立して取り扱うことができ、MEAとセパレータとの間にパッキンを配置して、反応ガスの外部漏洩を防止している。高分子電解質膜は、イオン伝導性を有するが、通気性および電子伝導性がないことにより、燃料極と酸素極とを物理的かつ電子的に隔絶する働きをもつ。高分子電解質膜の大きさが多孔質触媒電極より小さい場合には、MEAの内側で、多孔質触媒電極同士が電気的に短絡し、また酸化剤ガスと燃料ガスとが混合(クロスリーク)するため、電池としての機能を失うことになる。さらにメタノール等の液体燃料を直接供給するタイプの燃料電池の場合には、液体燃料が燃料極側から酸素極側へ漏出することにより、電池としての機能が損なわれる。このため、高分子電解質膜の面積は、多孔質触媒電極の面積と同等またはそれ以上にする必要がある。そこで通常は、高分子電解質膜を多孔質触媒電極の周縁部を越えて延在させ、それをパッキンとセパレータとで挟持することによりガスシールおよび支持構造を構成している。
【0004】
ところで、高分子電解質膜は極めて薄いフィルム状の素材であるためその取扱いが難しく、電極との接合時、複数の単電池を積層してスタックとして組み合わせる組立作業時等の際に、反応ガスのシーリングにとって重要なその周縁部に、しわが発生してしまうことがしばしば生じる。このようなしわが発生した状態の高分子電解質膜を用いて組み立てられた単電池、あるいはスタックでは、しわが発生した部位から反応ガスが漏洩する可能性が高い。また、しわ等が全くない状態であっても、高分子電解質膜は、スタックを構成する全構成部材の中で最も機械的強度の低い部材であるため、損傷を受けやすい。したがって、固体高分子形燃料電池の信頼性、保守性等の向上を図るためには、高分子電解質膜部位を補強することが望まれる。さらに、上述したように高分子電解質膜の周縁部での電気的短絡を防止するため、従来、高分子電解質膜が電極層の端部を越えて横に延在するように電極層より面積が大きな電解質膜を組み込んだMEAが製造されている。しかしながら、電解質膜と電極層の大きさが異なるMEAを製作する場合、これらを別々に切り出して位置合わせをする必要があるため、工程数の増大により生産性の低下を招くことになる。
【0005】
ガス拡散電極と同サイズの、またはガス拡散電極より大きな、高分子電解質膜を有するMEAの周縁部に熱可塑性ポリマーを射出成形や圧縮成形等の手段で適用することにより、該熱可塑性ポリマーが、ガス拡散支持体のシーリング端部の内部に含浸され、かつ、ガス拡散支持体の双方の周囲領域と高分子電解質膜とを包み込み、よって熱可塑性ポリマーの流体不浸透性シールを有する一体化された膜電極組立体を形成する方法が知られている(特許文献1)。
【0006】
また、高分子電解質膜を有効に補強し、燃料電池構造体の取扱作業性を大幅に向上させるため、高分子電解質膜の両面に固定される多孔質体の外周縁部に枠部材を圧入し、多孔質体と枠部材とを強固かつ確実に一体化する方法が知られている(特許文献2)。
【0007】
【特許文献1】特表2005−516350号公報
【特許文献2】特開平10−199551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の方法において、ガス拡散電極より大きな高分子電解質膜を有するMEAの周縁部に熱可塑性ポリマーを射出成形で適用すると、ガス拡散電極の周縁部を越えて延在する電解質膜が、射出成形時の樹脂流れによって移動して表面に露出し、或いはガス拡散電極のエッジ部分の電解質膜部分に負荷がかかって破損が生じる等に起因して、ガスが漏洩するおそれがある。また、成形樹脂の成形圧、浸透圧によっては、樹脂がガス拡散電極内に過度に侵入する。ガス拡散電極内に過度に侵入した樹脂は、当該MEAが燃料電池セルに組み込まれた際に、MEAの電解質膜を圧迫し、或いはセルの締結圧を分散させる結果、MEAを損傷し、その性能を低下させるおそれがある。一方、ガス拡散電極の周辺部分は、型内の空間が非常に狭いため、成形樹脂がガス拡散電極の一部に到達することがなく、シール部分の形状が精密に成形できない場合もある。
【0009】
また、特許文献1に記載の方法において、ガス拡散電極と同サイズの高分子電解質膜を有するMEAの周縁部に熱可塑性ポリマーを射出成形で適用する場合であって、アノード側とカソード側とでガス拡散電極の大きさが異なる場合には、大側ガス拡散電極に接合している高分子電解質膜が、成形樹脂の流れによってガス拡散電極から剥離することもある。さらに、大側ガス拡散電極に接合している高分子電解質膜の上部の型空間が狭いため、樹脂の充填不良が発生しやすい。
【0010】
特許文献2に記載の方法においては、多孔質体の外周縁部に枠部材を十分に圧入させ強固に一体化させることが難しく、枠部材とMEAとの境界面を確実にシールすることが極めて困難であるため、接合部からのガス漏洩、セルの破壊等の問題が起こり得る。
【0011】
したがって、本発明の第1の目的は、MEAに補強用の樹脂枠を設けるに際し、ガス拡散層および/または電極層への成形樹脂の侵入を制御することにある。本発明の第2の目的は、アノード側とカソード側とでガス拡散層の大きさが異なるMEAに補強用の樹脂枠を設けるに際し、樹脂流れによる高分子電解質膜のガス拡散層および/または電極層からの剥離を防止し、また、樹脂の充填性を向上することにある。全体として、本発明は、固体高分子形燃料電池におけるシールの信頼性、機械的強度および取扱性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によると、
(1)高分子電解質膜と、該電解質膜の一方の面側に設けられた第1の電極層と、該第1の電極層の該電解質膜とは反対側に設けられた第1の多孔質ガス拡散層と、該電解質膜の他方の面側に設けられた第2の電極層と、該第2の電極層の該電解質膜とは反対側に設けられた第2の多孔質ガス拡散層とを含む膜電極接合体を用意し、そして、該膜電極接合体に対して、型成形により、該電解質膜の外周縁の全部ならびに該第1および第2のガス拡散層の外周縁の少なくとも該第1および第2の電極層の近傍を包囲するように樹脂枠を設けるに際し、当該樹脂枠材料の該ガス拡散層および/または該電極層への侵入を抑制または防止することを特徴とする、固体高分子形燃料電池用の補強された膜電極組立体の製造方法が提供される。
【0013】
また本発明によると、
(2)該型成形に用いられる型に突起部を設けることにより該樹脂枠材料の該ガス拡散層および/または該電極層への侵入を抑制または防止する、(1)に記載の方法が提供される。
【0014】
また本発明によると、
(3)該突起部が該樹脂枠材料の流れに対してバッフルとして作用する、(2)に記載の方法が提供される。
【0015】
また本発明によると、
(4)該突起部が該ガス拡散層を少なくとも部分的に圧縮する、(2)または(3)に記載の方法が提供される。
【0016】
また本発明によると、
(5)該型成形に用いられる型にガス導入部を設け、該樹脂枠材料の流れに抗するようにガスを吹き込む、またはガスで加圧することにより該樹脂枠材料の該ガス拡散層および/または該電極層への侵入を抑制または防止する、(1)に記載の方法が提供される。
【0017】
また本発明によると、
(6)該ガス拡散層および/または該電極層と該樹脂枠との間に遮蔽物を配置することにより該樹脂枠材料の該ガス拡散層および/または該電極層への侵入を抑制または防止する、(1)に記載の方法が提供される。
【0018】
また本発明によると、
(7)該遮蔽物が、該高分子電解質膜の周縁部を折り曲げることにより構成されたものである、(6)に記載の方法が提供される。
【0019】
また本発明によると、
(8)該ガス拡散層および/または該電極層の多孔部の少なくとも一部を部分的に閉塞することにより該樹脂枠材料の該ガス拡散層および/または該電極層への侵入を抑制または防止する、(1)に記載の方法が提供される。
【0020】
また本発明によると、
(9)該ガス拡散層および/または該電極層の周縁部をテーパー状にすることにより該樹脂枠材料の該ガス拡散層および/または該電極層への侵入を抑制または防止する、(1)に記載の方法が提供される。
【0021】
また本発明によると、
(10)該ガス拡散層および/または該電極層の周縁部を逆テーパー状にすることにより該樹脂枠材料の該ガス拡散層および/または該電極層への侵入を抑制または防止する、(1)に記載の方法が提供される。
【0022】
また本発明によると、
(11)高分子電解質膜と、該電解質膜の一方の面側に設けられた第1の電極層と、該第1の電極層の該電解質膜とは反対側に設けられた第1のガス拡散層と、該電解質膜の他方の面側に設けられた第2の電極層と、該第2の電極層の該電解質膜とは反対側に設けられた第2のガス拡散層とを含む膜電極接合体であって、該第1のガス拡散層および該第1の電極層が、該第1のガス拡散層の外周縁全体が該電解質膜の外周縁の範囲内に収まると共に該第1の電極層の外周縁全周に亘って該第1の電極層の外周縁と該電解質膜の外周縁との間に該電解質膜の表面領域が残るように該電解質膜の表面上に配置されており、かつ、該第2のガス拡散層が、該電解質膜の外周縁全周に亘って該表面領域とは反対側の少なくとも一部にまで延在している膜電極接合体を用意し、そして、該膜電極接合体に対して、型成形により、該電解質膜の外周縁の全部ならびに該第1および第2のガス拡散層の外周縁の少なくとも該第1および第2の電極層の近傍を包囲し、かつ、該表面領域の少なくとも一部に固着するように樹脂枠を設けるに際し、当該樹脂枠材料の流動先端部が該電解質膜と該第2の電極層との界面に当たらないようにすることを特徴とする、固体高分子形燃料電池用の膜電極組立体の製造方法が提供される。
【0023】
また本発明によると、
(12)該型成形に用いられる型に凹部を設けることにより、該樹脂枠材料の流動先端部が該電解質膜と該第2の電極層との界面に当たらないようにする、(11)に記載の方法が提供される。
【0024】
また本発明によると、
(13)該樹脂枠材料の充填後、さらに該凹部を圧縮することにより該樹脂枠を平坦化する、(12)に記載の方法が提供される。
【0025】
また本発明によると、
(14)該樹脂枠が該第1のガス拡散層側へオフセットされるように型を構成することにより、該樹脂枠材料の流動先端部が該電解質膜と該第2の電極層との界面に当たらないようにする、(11)に記載の方法が提供される。
【0026】
また本発明によると、
(15)該型成形を2回に分けて実施し、1回目の型成形により該第2のガス拡散層の外周縁の少なくとも該第2の電極層の近傍を包囲し、2回目の型成形により該第1のガス拡散層の外周縁の少なくとも該第1の電極層の近傍を包囲し、かつ、該表面領域の少なくとも一部に固着するように該樹脂枠を設ける、(11)に記載の方法が提供される。
【0027】
また本発明によると、
(16)該型成形により該第1のガス拡散層の外周縁の少なくとも該第1の電極層の近傍を包囲し、かつ、該表面領域の少なくとも一部に固着するように該樹脂枠を設ける、(11)に記載の方法が提供される。
【0028】
また本発明によると、
(17)該型成形に用いられる型の該第1のガス拡散層に接する部分の近傍に排出口を設ける、(11)に記載の方法が提供される。
【0029】
また本発明によると、
(18)該排出口を多孔質材料で構成する、(17)に記載の方法が提供される。
【0030】
また本発明によると、
(19)該第2のガス拡散層の厚さを該第1のガス拡散層より薄くする、(11)に記載の方法が提供される。
【0031】
また本発明によると、
(20)該第2のガス拡散層をその周縁部でより薄くした、(11)に記載の方法が提供される。
【0032】
また本発明によると、
(21)該型成形にアウトサートを設置し、かつ、該表面領域に向けて該樹脂枠材料を射出する、(11)に記載の方法が提供される。
【0033】
また本発明によると、
(22)該型成形に段差付きアウトサートを設置し、かつ、該アウトサートの段差部に向けて該樹脂枠材料を射出する、(11)に記載の方法が提供される。
【0034】
また本発明によると、
(23)(1)〜(22)のいずれか1項に記載の方法により製造された、固体高分子形燃料電池用の補強された膜電極組立体が提供される。
【発明の効果】
【0035】
本発明によると、MEAに補強用の樹脂枠を設けるに際し、ガス拡散層および/または電極層への成形樹脂の過度の侵入が防止される。また本発明によると、アノード側とカソード側とでガス拡散層の大きさが異なるMEAに補強用の樹脂枠を設けるに際し、樹脂流れによる高分子電解質膜のガス拡散層および/または電極層からの剥離が防止され、また、樹脂の充填性が向上する。したがって、本発明によると、固体高分子形燃料電池におけるシールの信頼性、機械的強度および取扱性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。なお、各図面は、発明を理解しやすいように模式的に描かれたものであり、図示した各部材の大きさの相対的な関係は、実施態様における実際の大きさの関係を正確に表示したものではないことに留意されたい。
【0037】
本発明の第1の目的を達成する膜電極組立体の製造方法は、高分子電解質膜と、該電解質膜の一方の面側に設けられた第1の電極層と、該第1の電極層の該電解質膜とは反対側に設けられた第1の多孔質ガス拡散層と、該電解質膜の他方の面側に設けられた第2の電極層と、該第2の電極層の該電解質膜とは反対側に設けられた第2の多孔質ガス拡散層とを含む膜電極接合体を用意し、そして、該膜電極接合体に対して、型成形により、該電解質膜の外周縁の全部ならびに該第1および第2のガス拡散層の外周縁の少なくとも該第1および第2の電極層の近傍を包囲するように樹脂枠を設けるに際し、当該樹脂枠材料の該ガス拡散層および/または該電極層への侵入を抑制または防止することを特徴とする。
【0038】
本発明による、樹脂枠材料のガス拡散層および/または電極層への侵入を抑制または防止する手段の一つを、図1に示す。図1は、膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。図1(A)には、膜電極接合体の一部である高分子電解質膜13と、第1の電極層12と、第1のガス拡散層11とが示され、さらに型成形のための上部型10が示されている。上部型10には突起部20が設けられており、この突起部20がバッフルとして作用し、破線矢印が示す樹脂枠材料の流れを阻害することにより、ガス拡散層11および/または電極層12への樹脂枠材料の侵入を抑制または防止することができる。図1(B)は、型に設けた突起部の形状が異なることを除き、図1(A)と同様の部分横断面図である。図1(B)に示した突起部21はテーパー形状を有する。このため、破線矢印が示す樹脂枠材料の流れにブレーキがかかり、ガス拡散層11および/または電極層12への樹脂枠材料の侵入を抑制または防止することができる。図1(C)は、型に設けた突起部の形状が異なることを除き、図1(A)と同様の部分横断面図である。図1(C)に示した突起部22は半円形状を有する。このため、破線矢印が示す樹脂枠材料の流れにブレーキがかかり、ガス拡散層11および/または電極層12への樹脂枠材料の侵入を抑制または防止することができる。
【0039】
本発明による、樹脂枠材料のガス拡散層および/または電極層への侵入を抑制または防止する別の手段を、図2に示す。図2は、膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。図2(A)には、膜電極接合体の一部である高分子電解質膜13と、第1の電極層12と、第1のガス拡散層11とが示され、さらに型成形のための上部型10が示されている。上部型10には突起部30が設けられており、この突起部30により、破線矢印が示す樹脂枠材料の流れを阻害すると同時に、ガス拡散層11が少なくとも部分的に圧縮されることにより、ガス拡散層11および/または電極層12への樹脂枠材料の侵入を抑制または防止することができる。図2(B)は、型に設けた突起部の位置が異なることを除き、図2(A)と同様の部分横断面図である。図2(B)に示した突起部31は、破線矢印が示す樹脂枠材料の流れを阻害する位置にはない。しかし、突起部31はガス拡散層11を少なくとも部分的に圧縮し、ガス拡散層11および/または電極層12への樹脂枠材料の侵入を抑制または防止することができる。
【0040】
本発明による、樹脂枠材料のガス拡散層および/または電極層への侵入を抑制または防止するさらに別の手段を、図3に示す。図3は、膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。図3には、膜電極接合体の一部である高分子電解質膜13と、第1の電極層12と、第1のガス拡散層11とが示され、さらに型成形のための上部型10が示されている。上部型10にはガス導入部40が設けられており、このガス導入部40から、破線矢印が示す樹脂枠材料の流れに抗するようにガスを吹き込む、またはガスで加圧することにより、ガス拡散層11および/または電極層12への樹脂枠材料の侵入を抑制または防止することができる。
【0041】
本発明による、樹脂枠材料のガス拡散層および/または電極層への侵入を抑制または防止するさらに別の手段を、図4に示す。図4は、膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。図4には、膜電極接合体の一部である高分子電解質膜13と、第1の電極層12と、第1のガス拡散層11とが示され、さらに型成形のための上部型10が示されている。本態様では、ガス拡散層11および/または電極層12と形成される樹脂枠との間に遮蔽物50を配置する。遮蔽物50は、膜電極接合体を型にセットする際にガス拡散層11および/または電極層12に近接するように配置される物体であってもよい。また、図4に示したように、樹脂枠成形に先立ち、ガス拡散層11および/または電極層12の近傍に実線矢印が示す方向から高粘度樹脂等を成形することにより遮蔽物50を配置してもよい。このような遮蔽物50により、ガス拡散層11および/または電極層12への樹脂枠材料の侵入を抑制または防止することができる。
【0042】
本発明による、樹脂枠材料のガス拡散層および/または電極層への侵入を抑制または防止するさらに別の手段を、図5に示す。図5は、膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。図5には、膜電極接合体の一部である高分子電解質膜13と、第1の電極層12と、第1のガス拡散層11とが示され、さらに型成形のための上部型10が示されている。本態様では、高分子電解質膜13の周縁部を折り曲げて、ガス拡散層11および/または電極層12と形成される樹脂枠との間に遮蔽物を構成する。このように折り曲げた高分子電解質膜13が遮蔽物となり、ガス拡散層11および/または電極層12への樹脂枠材料の侵入を抑制または防止することができる。
【0043】
本発明による、樹脂枠材料のガス拡散層および/または電極層への侵入を抑制または防止するさらに別の手段を、図6に示す。図6は、膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。図6には、膜電極接合体の一部である高分子電解質膜13と、第1の電極層12と、第1のガス拡散層11とが示され、さらに型成形のための上部型10が示されている。本態様では、予めガス拡散層11および/または電極層12の樹脂枠と接する部分の多孔部の少なくとも一部60を部分的に閉塞させておく。多孔部の閉塞にはゴム、樹脂等を使用することができる。このようにガス拡散層11および/または電極層12を予め閉塞させておくことにより、ガス拡散層11および/または電極層12への樹脂枠材料の侵入を抑制または防止することができる。
【0044】
本発明による、樹脂枠材料のガス拡散層および/または電極層への侵入を抑制または防止するさらに別の手段を、図7に示す。図7は、膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。図7には、膜電極接合体の一部である高分子電解質膜13と、第1の電極層12と、第1のガス拡散層11とが示され、さらに型成形のための上部型10が示されている。本態様では、ガス拡散層11および/または電極層12の樹脂枠と接する部分をテーパー状にする。このようにガス拡散層11および/または電極層12をテーパー状にすることにより、樹脂枠材料のガス拡散層11および/または電極層12に対する成形圧が緩和され、ガス拡散層11および/または電極層12への樹脂枠材料の侵入を抑制または防止することができる。
【0045】
本発明による、樹脂枠材料のガス拡散層および/または電極層への侵入を抑制または防止するさらに別の手段を、図8に示す。図8は、膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。図8には、膜電極接合体の一部である高分子電解質膜13と、第1の電極層12と、第1のガス拡散層11とが示され、さらに型成形のための上部型10が示されている。本態様では、ガス拡散層11および/または電極層12の樹脂枠と接する部分を逆テーパー状にする。このようにガス拡散層11および/または電極層12を逆テーパー状にすることにより、型成形に際し樹脂枠材料に押された空気70がテーパー奥に溜まる。テーパー奥に溜まった空気70が樹脂枠材料の流れに抗することにより、ガス拡散層11および/または電極層12への樹脂枠材料の侵入を抑制または防止することができる。
【0046】
本発明の第2の目的を達成する膜電極組立体の製造方法は、高分子電解質膜と、該電解質膜の一方の面側に設けられた第1の電極層と、該第1の電極層の該電解質膜とは反対側に設けられた第1のガス拡散層と、該電解質膜の他方の面側に設けられた第2の電極層と、該第2の電極層の該電解質膜とは反対側に設けられた第2のガス拡散層とを含む膜電極接合体であって、該第1のガス拡散層および該第1の電極層が、該第1のガス拡散層の外周縁全体が該電解質膜の外周縁の範囲内に収まると共に該第1の電極層の外周縁全周に亘って該第1の電極層の外周縁と該電解質膜の外周縁との間に該電解質膜の表面領域が残るように該電解質膜の表面上に配置されており、かつ、該第2のガス拡散層が、該電解質膜の外周縁全周に亘って該表面領域とは反対側の少なくとも一部にまで延在している膜電極接合体を用意し、そして、該膜電極接合体に対して、型成形により、該電解質膜の外周縁の全部ならびに該第1および第2のガス拡散層の外周縁の少なくとも該第1および第2の電極層の近傍を包囲し、かつ、該表面領域の少なくとも一部に固着するように樹脂枠を設けるに際し、当該樹脂枠材料の流動先端部が該電解質膜と該第2の電極層との界面に当たらないようにすることを特徴とする。
【0047】
本発明による、樹脂枠材料の流動先端部が高分子電解質膜と第2の電極層との界面に当たらないようにする手段の一つを、図9に示す。図9は、膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。図9には、膜電極接合体の一部である高分子電解質膜130と、第1の電極層120と、第1のガス拡散層110と、該電解質膜の他方の面側に設けられた第2の電極層140と、第2のガス拡散層150が示され、さらに型成形のための上部型100および下部型160が示されている。図9に示した態様では、第2のガス拡散層150に対応する部分を掘り込んだ下部型160を使用する。このように下部型160を掘り込むことにより、樹脂枠材料の流動先端部(破線矢印)が高分子電解質膜130と第2の電極層140との界面に当たらないようにすることができる。これにより、型成形に際して、樹脂流れによる高分子電解質膜130のガス拡散層150および/または電極層140からの剥離が防止される。
【0048】
本発明による、樹脂枠材料の流動先端部が高分子電解質膜と第2の電極層との界面に当たらないようにする別の手段を、図10に示す。図10は、膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。図10には、膜電極接合体の一部である高分子電解質膜130と、第1の電極層120と、第1のガス拡散層110とが示され、さらに型成形のための上部型100が示されている。上部型100には凹部200が設けられている。この凹部200により、樹脂枠材料の流動先端部(破線矢印)の流れが凹部200側に寄る結果、樹脂枠材料の流動先端部(破線矢印)が高分子電解質膜130と第2の電極層140との界面に当たらないようにすることができる。
【0049】
本発明による、樹脂枠材料の流動先端部が高分子電解質膜と第2の電極層との界面に当たらないようにするさらに別の手段を、図11に示す。図11は、膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。図11には、膜電極接合体の一部である高分子電解質膜130と、第1の電極層120と、第1のガス拡散層110とが示され、さらに型成形のための上部型100が示されている。上部型100には、樹脂充填中に凹部を構成し、樹脂充填後には樹脂枠を平坦化することができる圧縮手段300が設けられている。この圧縮手段300により、樹脂充填中は樹脂枠材料の流動先端部(破線矢印)の流れが圧縮手段300側に寄る結果、樹脂枠材料の流動先端部(破線矢印)が高分子電解質膜130と第2の電極層140との界面に当たらないようにすることができる。樹脂充填後には、圧縮手段300を圧縮することにより、該凹部に対応して形成された樹脂枠の凸部を平坦化することができる。
【0050】
本発明による、樹脂枠材料の流動先端部が高分子電解質膜と第2の電極層との界面に当たらないようにするさらに別の手段を、図12に示す。図12は、膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。図12には、膜電極接合体の一部である高分子電解質膜130と、第1の電極層120と、第1のガス拡散層110と、該電解質膜の他方の面側に設けられた第2の電極層140と、第2のガス拡散層150が示され、さらに型成形のための上部型100および下部型160が示されている。図12に示した態様では、形成される樹脂枠が第1のガス拡散層110側へオフセットされるように構成された型を使用する。図12に示した態様では、図9に示したように下部型160を掘り込むと共に、第1のガス拡散層110に対応する樹脂枠部分が比較的厚くなるように掘り込んだ上部型100を使用する。このように樹脂枠が第1のガス拡散層110側へオフセットされるように構成された型を使用することにより、樹脂枠材料の流動先端部(破線矢印)が高分子電解質膜130と第2の電極層140との界面に当たらないようにすることができる。
【0051】
樹脂枠材料の流動先端部が高分子電解質膜と第2の電極層との界面に当たらないようにするため、型成形を2回に分けて実施し、1回目の型成形により第2のガス拡散層の外周縁の少なくとも第2の電極層の近傍を包囲し、2回目の型成形により第1のガス拡散層の外周縁の少なくとも第1の電極層の近傍を包囲し、かつ、表面領域の少なくとも一部に固着するように樹脂枠を設けることもできる。本態様を、図13に示す。図13は、膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。図13には、膜電極接合体の一部である高分子電解質膜130と、第1の電極層120と、第1のガス拡散層110と、該電解質膜の他方の面側に設けられた第2の電極層140と、第2のガス拡散層150が示され、さらに型成形のための上部型100および下部型160が示されている。図13に示した態様では、図13(A)に示したように、1回目の型成形により第2のガス拡散層の外周縁の少なくとも第2の電極層の近傍を包囲する。1回目の型成形においては、第1のガス拡散層側に型空間が無いため、樹脂枠材料の流動先端部(破線矢印)は高分子電解質膜130と第2の電極層140との界面には当たらない。次いで、図13(B)に示したように、2回目の型成形により第1のガス拡散層の外周縁の少なくとも第1の電極層の近傍を包囲する。2回目の型成形においても、第2のガス拡散層側が既に樹脂枠400で包囲されているため、樹脂枠材料の流動先端部(破線矢印)は高分子電解質膜130と第2の電極層140との界面には当たらない。
【0052】
本発明による、樹脂枠材料の流動先端部が高分子電解質膜と第2の電極層との界面に当たらないようにするさらに別の手段を、図14に示す。図14は、膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。図14(A)には、膜電極接合体の一部である高分子電解質膜130と、第1の電極層120と、第1のガス拡散層110とが示され、さらに型成形のための上部型100が示されている。上部型100には、第1のガス拡散層に接する部分の近傍に排出口500が設けられている。この排出口500により実線矢印方向に樹脂枠材料および型空間内のガスを抜き出すことにより、樹脂枠材料の流動先端部(破線矢印)の流れが排出口500側に寄る結果、樹脂枠材料の流動先端部(破線矢印)が高分子電解質膜130と第2の電極層140との界面に当たらないようにすることができる。別法として、排出口500の代わりに、図14(B)に示したように、多孔質材料で構成された排出口510を設けてもよい。
【0053】
樹脂枠材料の流動先端部が高分子電解質膜と第2の電極層との界面に当たらないようにするため、図15に示したように、第2のガス拡散層の厚さを第1のガス拡散層より薄くすることができる。図15は、膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。図15には、膜電極接合体の一部である高分子電解質膜130と、第1の電極層120と、第1のガス拡散層110と、該電解質膜の他方の面側に設けられた第2の電極層140と、第2のガス拡散層150が示され、さらに型成形のための上部型100および下部型160が示されている。本態様では、第2のガス拡散層150の厚さを第1のガス拡散層110より薄くする。こうすることにより、膜電極接合体の第1のガス拡散層側の空間が広げられ、樹脂枠材料の流動先端部(破線矢印)が高分子電解質膜130と第2の電極層140との界面に当たらないようにすることができる。また、膜電極接合体の第1のガス拡散層側の空間が広げられる結果、比較的狭い部分である第1のガス拡散層側での樹脂枠材料の充填性が向上する。
【0054】
樹脂枠材料の流動先端部が高分子電解質膜と第2の電極層との界面に当たらないようにするため、図16に示したように、第2のガス拡散層をその周縁部でより薄くしてもよい。図16は、膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。図16には、膜電極接合体の一部である高分子電解質膜130と、第1の電極層120と、第1のガス拡散層110と、該電解質膜の他方の面側に設けられた第2の電極層140と、第2のガス拡散層150が示され、さらに型成形のための上部型100および下部型160が示されている。本態様では、第2のガス拡散層150をその周縁部でより薄くする。図16には、第2のガス拡散層150の周縁部をC面形状にしたものが示されているが、第2のガス拡散層150が、場合により第2の電極層140と共に、その周縁部でより薄くなる限り、R形状、階段形状その他の形状を採用してもよい。第2のガス拡散層をその周縁部でより薄くすることにより、膜電極接合体の第1のガス拡散層側の空間が広げられ、樹脂枠材料の流動先端部(破線矢印)が高分子電解質膜130と第2の電極層140との界面に当たらないようにすることができる。また、膜電極接合体の第1のガス拡散層側の空間が広げられる結果、比較的狭い部分である第1のガス拡散層側での樹脂枠材料の充填性が向上する。
【0055】
本発明による、樹脂枠材料の流動先端部が高分子電解質膜と第2の電極層との界面に当たらないようにするさらに別の手段を、図17に示す。図17は、膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。図17には、膜電極接合体の一部である高分子電解質膜130と、第1の電極層120と、第1のガス拡散層110と、該電解質膜の他方の面側に設けられた第2の電極層140と、第2のガス拡散層150が示され、さらに型成形のための上部型100および下部型160が示されている。本態様では、膜電極接合体の外側にアウトサート700を設置し、上部型100に設けた射出口600から高分子電解質膜130の表面領域に向けて樹脂枠材料を射出する。射出された樹脂枠材料の流動先端部(破線矢印)は、高分子電解質膜130と第2の電極層140との界面には当たらない。また、比較的狭い部分である第1のガス拡散層側に直接樹脂を射出するので、樹脂枠材料の充填性が向上する。
【0056】
本発明による、樹脂枠材料の流動先端部が高分子電解質膜と第2の電極層との界面に当たらないようにするさらに別の手段を、図18に示す。図18は、膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。図18には、膜電極接合体の一部である高分子電解質膜130と、第1の電極層120と、第1のガス拡散層110と、該電解質膜の他方の面側に設けられた第2の電極層140と、第2のガス拡散層150が示され、さらに型成形のための上部型100および下部型160が示されている。本態様では、膜電極接合体の外側に段差付きアウトサート700を設置し、上部型100に設けた射出口600からアウトサート700の段差部に向けて樹脂枠材料を射出する。射出された樹脂枠材料の流動先端部(破線矢印)は、高分子電解質膜130と第2の電極層140との界面には当たらない。
【0057】
本発明による膜電極組立体に用いられる高分子電解質膜は、イオン伝導性が高く、電子絶縁性であり、かつ、ガス不透過性であるものであれば、特に限定はされず、公知の高分子電解質膜であればよい。代表例として、含フッ素高分子を骨格とし、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン基等の基を有するプロトン(H)伝導性の樹脂が挙げられる。高分子電解質膜の厚さは、抵抗に大きな影響を及ぼすため、電子絶縁性およびガス不透過性を損なわない限りにおいてより薄いものが求められ、具体的には、5〜50μm、好ましくは10〜30μmの範囲内に設定される。高分子電解質膜の代表例としては、側鎖にスルホン酸基を有するパーフルオロポリマーであるナフィオン(登録商標)膜(デュポン社製)およびフレミオン(登録商標)膜(旭硝子社製)が挙げられる。また、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜にイオン交換樹脂を含浸させた補強型高分子電解質膜であるGORE−SELECT(登録商標)(ジャパンゴアテックス社製)を好適に用いることもできる。
【0058】
本発明による膜電極組立体に用いられる電極層は、触媒粒子とイオン交換樹脂を含むものであれば特に限定はされず、従来公知のものを使用することができる。触媒は、通常、触媒粒子を担持した導電材からなる。触媒粒子としては、水素の酸化反応あるいは酸素の還元反応に触媒作用を有するものであればよく、白金(Pt)その他の貴金属のほか、鉄、クロム、ニッケル等、およびこれらの合金を用いることができる。導電材としては炭素系粒子、例えばカーボンブラック、活性炭、黒鉛等が好適であり、特に微粉末状粒子が好適に用いられる。代表的には、表面積20m/g以上のカーボンブラック粒子に、貴金属粒子、例えばPt粒子またはPtと他の金属との合金粒子を担持したものがある。特に、アノード用触媒については、Ptは一酸化炭素(CO)の被毒に弱いため、メタノールのようにCOを含む燃料を使用する場合には、Ptとルテニウム(Ru)との合金粒子を用いることが好ましい。電極層中のイオン交換樹脂は、触媒を支持し、電極層を形成するバインダーとなる材料であり、触媒によって生じたイオン等が移動するための通路を形成する役割をもつ。このようなイオン交換樹脂としては、先に高分子電解質膜に関連して説明したものと同様のものを用いることができる。アノード側では水素やメタノール等の燃料ガス、カソード側では酸素や空気等の酸化剤ガスが触媒とできるだけ多く接触することができるように、電極層は多孔性であることが好ましい。また、電極層中に含まれる触媒量は、0.01〜1mg/cm、好ましくは0.1〜0.5mg/cmの範囲内にあることが好適である。電極層の厚さは、一般に1〜20μm、好ましくは5〜15μmの範囲内にあることが好適である。
【0059】
本発明による膜電極組立体に用いられるガス拡散層は、導電性および通気性を有するシート材料である。代表例として、カーボンペーパー、カーボン織布、カーボン不織布、カーボンフェルト等の通気性導電性基材に撥水処理を施したものが挙げられる。また、炭素系粒子とフッ素系樹脂から得られた多孔性シートを用いることもできる。例えば、カーボンブラックを、ポリテトラフルオロエチレンをバインダーとしてシート化して得られた多孔性シートを用いることができる。ガス拡散層の厚さは、一般に50〜500μm、好ましくは100〜200μmの範囲内にあることが好適である。
【0060】
電極層とガス拡散層と高分子電解質膜とを接合することにより膜電極接合体または膜電極接合前駆体シートを作製する。接合方法としては、高分子電解質膜を損なうことなく接触抵抗が低い緻密な接合が達成されるものであれば、従来公知のいずれの方法でも採用することができる。接合に際しては、まず電極層とガス拡散層を組み合わせてアノード電極またはカソード電極を形成した後、これらを高分子電解質膜に接合することができる。例えば、適当な溶媒を用いて触媒粒子とイオン交換樹脂を含む電極層形成用コーティング液を調製してガス拡散層用シート材料に塗工することによりアノード電極またはカソード電極を形成し、これらを高分子電解質膜にホットプレスで接合することができる。また、電極層を高分子電解質膜と組み合わせた後に、その電極層側にガス拡散層を組み合わせてもよい。電極層と高分子電解質膜とを組み合わせる際には、スクリーン印刷法、スプレー塗布法、デカール法等、従来公知の方法を採用すればよい。
【0061】
本発明による膜電極組立体に用いられる樹脂枠のための樹脂材料は、燃料電池の使用環境において十分な安定性、具体的には耐熱性、耐酸性、耐加水分解性、耐クリープ性等、を示すことが前提条件となる。また、該樹脂材料は、型成形に適した特性を具備していること、特に成形時の流動性が高いことが好ましい。さらに、該樹脂材料が熱可塑性樹脂である場合には、その成形収縮が小さいことが好ましく、また熱硬化性樹脂である場合には、その硬化収縮が小さいことが好ましい。熱可塑性樹脂の具体例としては、液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PI)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミド(PA)、ポリプロピレン(PP)、ポリウレタン、ポリオレフィン等のプラスチックまたはエラストマーが挙げられる。熱硬化性樹脂の具体例としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、シリコンゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)等のプラスチックまたはエラストマーが挙げられる。
【0062】
本発明による膜電極組立体に用いられる樹脂枠は、型成形により設けられる。型成形には、射出成形、反応射出成形、トランスファー成形、直圧成形、注型成形等が含まれ、当業者であれば、用いる樹脂の性状に応じた成形法を適宜選択することができる。樹脂枠が設けられるMEAは数百μmレベルの薄さであることから、樹脂枠を画定する型をこれに適合するように製作する必要はある。また、強度の低いMEAが型締め時に潰れるのを防ぐため、型に入れ子構造を設けてMEA部分の厚さを調整することが好ましい。さらに、型締め時にMEAがずれないよう型にMEA固定用の吸引機構を設けることが好ましい。特に、射出成形、反応射出成形およびトランスファー成形は、インサートの配置、成型、成型品の取出し等の一連の作業が全自動で可能である点で有用である。
【0063】
上述のようにして得られた膜電極組立体を、従来公知の方法に従い、そのアノード側とカソード側が所定の側にくるようにセパレータ板および冷却部と交互に10〜100セル積層することにより燃料電池スタックを組み立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】第1の目的を達成する本発明による方法において膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。
【図2】本発明の別態様による方法において膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。
【図3】本発明の別態様による方法において膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。
【図4】本発明の別態様による方法において膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。
【図5】本発明の別態様による方法において膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。
【図6】本発明の別態様による方法において膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。
【図7】本発明の別態様による方法において膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。
【図8】本発明の別態様による方法において膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。
【図9】第2の目的を達成する本発明による方法において膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。
【図10】本発明の別態様による方法において膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。
【図11】本発明の別態様による方法において膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。
【図12】本発明の別態様による方法において膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。
【図13】本発明の別態様による方法において膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。
【図14】本発明の別態様による方法において膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。
【図15】本発明の別態様による方法において膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。
【図16】本発明の別態様による方法において膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。
【図17】本発明の別態様による方法において膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。
【図18】本発明の別態様による方法において膜電極接合体を型にセットした状態を示す部分横断面図である。
【符号の説明】
【0065】
10 上部型
11 第1のガス拡散層
12 第1の電極層
13 高分子電解質膜
20 突起部
21 突起部
22 突起部
30 突起部
31 突起部
40 ガス導入部
50 遮蔽物
60 閉塞部
70 空気
100 上部型
110 第1のガス拡散層
120 第1の電極層
130 高分子電解質膜
140 第2の電極層
150 第2のガス拡散層
160 下部型
200 凹部
300 圧縮手段
400 樹脂枠
410 シール部材
500 排出口
510 多孔質排出口
600 射出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜と、該電解質膜の一方の面側に設けられた第1の電極層と、該第1の電極層の該電解質膜とは反対側に設けられた第1の多孔質ガス拡散層と、該電解質膜の他方の面側に設けられた第2の電極層と、該第2の電極層の該電解質膜とは反対側に設けられた第2の多孔質ガス拡散層とを含む膜電極接合体を用意し、そして、該膜電極接合体に対して、型成形により、該電解質膜の外周縁の全部ならびに該第1および第2のガス拡散層の外周縁の少なくとも該第1および第2の電極層の近傍を包囲するように樹脂枠を設けるに際し、当該樹脂枠材料の該ガス拡散層および/または該電極層への侵入を抑制または防止することを特徴とする、固体高分子形燃料電池用の補強された膜電極組立体の製造方法。
【請求項2】
該型成形に用いられる型に突起部を設けることにより該樹脂枠材料の該ガス拡散層および/または該電極層への侵入を抑制または防止する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該突起部が該樹脂枠材料の流れに対してバッフルとして作用する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
該突起部が該ガス拡散層を少なくとも部分的に圧縮する、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
該型成形に用いられる型にガス導入部を設け、該樹脂枠材料の流れに抗するようにガスを吹き込む、またはガスで加圧することにより該樹脂枠材料の該ガス拡散層および/または該電極層への侵入を抑制または防止する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
該ガス拡散層および/または該電極層と該樹脂枠との間に遮蔽物を配置することにより該樹脂枠材料の該ガス拡散層および/または該電極層への侵入を抑制または防止する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
該遮蔽物が、該高分子電解質膜の周縁部を折り曲げることにより構成されたものである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
該ガス拡散層および/または該電極層の多孔部の少なくとも一部を部分的に閉塞することにより該樹脂枠材料の該ガス拡散層および/または該電極層への侵入を抑制または防止する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
該ガス拡散層および/または該電極層の周縁部をテーパー状にすることにより該樹脂枠材料の該ガス拡散層および/または該電極層への侵入を抑制または防止する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
該ガス拡散層および/または該電極層の周縁部を逆テーパー状にすることにより該樹脂枠材料の該ガス拡散層および/または該電極層への侵入を抑制または防止する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
高分子電解質膜と、該電解質膜の一方の面側に設けられた第1の電極層と、該第1の電極層の該電解質膜とは反対側に設けられた第1のガス拡散層と、該電解質膜の他方の面側に設けられた第2の電極層と、該第2の電極層の該電解質膜とは反対側に設けられた第2のガス拡散層とを含む膜電極接合体であって、該第1のガス拡散層および該第1の電極層が、該第1のガス拡散層の外周縁全体が該電解質膜の外周縁の範囲内に収まると共に該第1の電極層の外周縁全周に亘って該第1の電極層の外周縁と該電解質膜の外周縁との間に該電解質膜の表面領域が残るように該電解質膜の表面上に配置されており、かつ、該第2のガス拡散層が、該電解質膜の外周縁全周に亘って該表面領域とは反対側の少なくとも一部にまで延在している膜電極接合体を用意し、そして、該膜電極接合体に対して、型成形により、該電解質膜の外周縁の全部ならびに該第1および第2のガス拡散層の外周縁の少なくとも該第1および第2の電極層の近傍を包囲し、かつ、該表面領域の少なくとも一部に固着するように樹脂枠を設けるに際し、当該樹脂枠材料の流動先端部が該電解質膜と該第2の電極層との界面に当たらないようにすることを特徴とする、固体高分子形燃料電池用の膜電極組立体の製造方法。
【請求項12】
該型成形に用いられる型に凹部を設けることにより、該樹脂枠材料の流動先端部が該電解質膜と該第2の電極層との界面に当たらないようにする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
該樹脂枠材料の充填後、さらに該凹部を圧縮することにより該樹脂枠を平坦化する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
該樹脂枠が該第1のガス拡散層側へオフセットされるように型を構成することにより、該樹脂枠材料の流動先端部が該電解質膜と該第2の電極層との界面に当たらないようにする、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
該型成形を2回に分けて実施し、1回目の型成形により該第2のガス拡散層の外周縁の少なくとも該第2の電極層の近傍を包囲し、2回目の型成形により該第1のガス拡散層の外周縁の少なくとも該第1の電極層の近傍を包囲し、かつ、該表面領域の少なくとも一部に固着するように該樹脂枠を設ける、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
該型成形により該第1のガス拡散層の外周縁の少なくとも該第1の電極層の近傍を包囲し、かつ、該表面領域の少なくとも一部に固着するように該樹脂枠を設ける、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
該型成形に用いられる型の該第1のガス拡散層に接する部分の近傍に排出口を設ける、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
該排出口を多孔質材料で構成する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
該第2のガス拡散層の厚さを該第1のガス拡散層より薄くする、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
該第2のガス拡散層をその周縁部でより薄くした、請求項11に記載の方法。
【請求項21】
該型成形にアウトサートを設置し、かつ、該表面領域に向けて該樹脂枠材料を射出する、請求項11に記載の方法。
【請求項22】
該型成形に段差付きアウトサートを設置し、かつ、該アウトサートの段差部に向けて該樹脂枠材料を射出する、請求項11に記載の方法。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の方法により製造された、固体高分子形燃料電池用の補強された膜電極組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−181951(P2009−181951A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22903(P2008−22903)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発/実用化技術開発/固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の高生産性量産技術開発」に係わる共同開発業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000107387)ジャパンゴアテックス株式会社 (121)
【Fターム(参考)】