説明

膨張性組成物およびコンクリート用膨張材の製造方法

【課題】 石灰系膨張材の製造における原料調合や生石灰を2度焼きするという煩雑さやエネルギー効率が悪く製造コストが高くなるという問題や焼成度のバラツキが生じ易くなるために製造された石灰系膨張材の膨張性制御が難しいという問題を解消するための膨張性組成物の製造方法及びコンクリート用膨張材の製造方法を提供する。
【解決手段】 結晶質石灰を有効成分とする膨張性組成物の製造方法であって、酸化珪素を2質量%以上含有する石灰石を珪酸三カルシウムが反応生成する温度で焼成し、該温度から焼成物を徐冷する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬質の膨張性組成物の製造方法に関するものであり、また、例えば、鋼橋梁のPC場所打ち床版、PC橋梁、橋脚、橋台、壁高欄、トンネル、上下水道施設、長大壁、立体駐車場のデッキスラブ等に用いられるコンクリートのひび割れ抑制のために混和使用するコンクリート用膨張材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の耐久性を向上する上で、耐久性低下の主要原因であるひび割れを抑制することが有効であり、そのための方策のひとつとして、コンクリート用膨張材を用いてひび割れ発生に繋がる収縮を抑制することが注目され、その使用量が伸びている。
【0003】
コンクリート用の膨張材としては、様々な膨張成分のものが提唱されているが、昨今ではカルシウムサルホアルミネート等のエトリンガイト生成物質を有効成分とするエトリンガイト系膨張材と遊離生石灰を有効成分とする石灰系膨張材の二種類が実用性の高い代表的なものとして使用されている。石灰系膨張材は水和反応活性が高いため、コンクリートに発生する自己収縮、乾燥収縮、温度応力に対する抑制効果が大きいとされている。また、高炉セメントを使用したコンクリートの場合では、エトリンガイト系膨張材がカルシウムサルホアルミネートと反応すべき酸化カルシウムが不足して膨張が発現しにくいことや、エトリンガイト生成によるスランプロスが起りやすいことから、石灰系膨張材の使用へ移行してきている。
【0004】
石灰系膨張材として遊離生石灰を珪酸三カルシウム(エーライト)が内包する形で生成させた膨張性組成物が知られている。(例えば、特許文献1参照。)この膨張性組成物は、遊離生石灰を内包させずに生成させた生石灰系膨張材に比べ、膨張制御が容易であり、強度低下が少ないという特性がある。その製造は、従来、原料の石灰石を一旦焼成し、膨張有効成分である生石灰を生成させた後、更に珪石粉末や酸化アルミニウム、酸化鉄、石膏等のフラックス成分を調整して混合せしめたものを焼成し、クリンカとして得られるものであった。
【0005】
また、石灰系膨張材として、石灰石を高温で焼きしめた硬焼生石灰を粉砕し、無水石膏と混合することにより、コンクリート用膨張材を製造する方法も知られている。(例えば特許文献2、3参照。)この場合、硬焼生石灰の遊離生石灰の焼成度にばらつきがあることから、膨張性能をあわせこむために、硬焼生石灰の粉末度の調整や無水石膏、普通セメントといった副材料を調整する必要があった。従って、所定の膨張性能を有するコンクリート用膨張材を安定して製造するには複雑な工程管理と粉末化や複数回の焼成処理などの煩雑な作業工程が必要になり、高い生産性を得ることが困難という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭50−24320号公報
【特許文献2】特開2001−294406号公報
【特許文献3】特開2007−297226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題を解決するものであり、即ち、安定した膨張性能を有する膨張組成物を製造歩留まりの良く製造でき、且つ作業工程の煩雑さや製造コストも著しく軽減された製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の(1)〜(2)に示す手段によって課題を解決したものである。
(1)結晶質石灰を有効成分とする膨張性組成物の製造方法であって、酸化珪素を2質量%以上含有する石灰石を珪酸三カルシウムが反応生成する温度で焼成し、該温度から焼成物を徐冷することを特徴とする膨張性組成物の製造方法。
(2)20μm〜60μmの結晶質石灰と無水石膏を有効成分とするコンクリート用膨張材の製造方法であって、酸化珪素を2質量%以上含有する石灰石を珪酸三カルシウムが反応生成する温度で焼成し、該温度から焼成物を徐冷し、得られた徐冷物を粉末度1800cm2/g〜4000cm2/gに粉砕し、この粉砕物と無水石膏を混合することを特徴とするコンクリート用膨張材の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の膨張性組成物の製造方法は、特に限定されることなく様々な焼成装置を用いて製造でき、例えば通常の生石灰を製造できるメルツ炉、ベッケンバッハ炉、混焼炉、シャフトキルン等の縦型炉やロータリーキルンのような回転窯も使用できるので、例えば焼成炉の稼働率向上や遊休焼成設備の活用化への期待ができる。また、石灰石に内在する酸化珪素によって、遊離生石灰への反応生成温度が下がることから原料を必ずしも微細化して反応活性を高める必要はない。また、遊離生石灰の結晶成長が促進され、その周囲に、珪酸二カルシウムや珪酸三カルシウムの結晶が共存生成する。そのため遊離石灰の水和反応が遅延し、セメントが水和し強度発現するとともに反応して膨張性能を向上させる効果を安定して発揮できる。以上の如く、本発明によれば所定の膨張性能を有する膨張組成物を製造歩留まりの良く製造でき、且つ製造上の煩雑さも解消できる。さらに、本法で製造された膨張性組成物は、例えば硬焼生石灰を使用した石灰系膨張材と比較して、膨張の制御が遙かに容易である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は結晶質石灰を有効成分とする膨張性組成物の製造方法である。原料としては酸化珪素を2質量%以上含有する石灰石を用いる。酸化珪素が2質量%以上の石灰石であればフラックス成分として適当な量の存在となるため、焼成温度を低下できる。焼成温度の低下は、焼成に必要な燃料原単位がより少なく済むことから経済性に優れ、また炉の温度損傷・劣化も軽減できる。さらに、膨張性組成物中の遊離石灰の硬焼度が低く、結晶径も小さくなり膨張性能が小さくなる。石灰石が酸化珪素含有量2質量%未満のものでは酸化カルシウムと酸化珪素のモル比(CaO/SiO2)が23以上になって、エーライトの結晶成長が小さく、遊離石灰が内包せずに水和反応の制御が難しくなることがあるので適当でない。酸化珪素の含有量上限は特に限定されないが、大量含有は所望の膨張力が発現し難くなることから、好ましくは概ね20質量%とする。
【0011】
上記石灰石原料は、最大粒径がおよそ0.1〜10cm程度になるよう粗砕した後、例えばメルツ炉、ベッケンバッハ炉、混焼炉、シャフトキルン等の縦型炉で焼成する。または、上記石灰石原料を粉末度約1500〜6000cm2/g にボールミルやロッドミルを使用して粉砕した後、その粉末を望ましくはプレヒーター付きのロータリーキルンで焼成する。焼成条件は、少なくともCaOとSiO2から珪酸三カルシウムが反応生成する温度であって、好ましくは遊離生石灰結晶径が最大60μm、より好ましくは20〜60μmに成長する温度と当該温度での炉内保持又は炉内通過の時間を設定する。具体的な焼成温度は、原料中の酸化珪素の含有量に応じて変わる。このため、例えば、原料に用いる石灰石に対し、予め熱分析若しくは焼成実験等を行い、珪酸三カルシウムが反応生成する温度を定めるのが望ましい。また、焼成時間も、炉などの焼成様式や温度等で異なる可能性があり、例えば、前記同様、焼成予備実験などで事前に決めておくのが望ましい。焼成条件の一例として、酸化珪素含有量が約4質量%の石灰石を縦型炉で焼成する場合を挙げれば、温度1350〜1400℃で30〜90分間程度の焼成が適当である。
【0012】
焼成された膨張性組成物は、該焼成温度より、例えば空冷式クーラー等を経て、クリンカサイロやクリンカホールなどで徐冷される工程を経る。徐冷せずに水中冷却等の急冷操作を行うと結晶質の遊離生石灰の円滑な生成を妨げる虞が高いので好ましくない。
【0013】
前記工程で徐冷してなる冷却物を以て、本法で製造された膨張性組成物とする。該冷却物は通常はクリンカ塊の状態で得られるため、必要に応じて粉砕処理等を施しても良い。該膨張性組成物は、遊離生石灰と珪酸三カルシウム(エーライト3CaO・SiO2;以下、C3Sと略記。)を生成相として含む組成物である。本法で得られる膨張性組成物では、遊離生石灰がC3Sに内包状態で共存するものが多くなるため、膨張性組成物を粉砕しても生石灰粒が大幅に露出せず、その水和反応を適切に制御できる。
【0014】
また、本発明で製造された膨張性組成物は遊離生石灰を内包したC3Sの他に、例えば、C3Sによって内包されていない遊離生石灰、珪酸二カルシウム、カルシウムアルミネート相、フェライト相の何れか1種または2種以上を含むものでも良い。
【0015】
また、本発明は、20μm〜60μmの結晶質石灰を有効成分とするコンクリート用膨張材の製造方法である。本製造方法では先ず、前記の膨張性組成物の製造方法と同様の石灰石原料を用い、かつ同様の粉砕処理とそれに応じた同様の焼成炉を用い、原料粉砕物を焼成する。焼成条件は少なくとも珪酸三カルシウムが反応生成する温度であって、遊離生石灰結晶径が20〜60μmに成長する温度と炉内留置又は炉内通過の時間を設定する。焼成によって生石灰の結晶径が実質的に20μm未満になるものではコンクリート膨張材としては耐久性向上に繋がる膨張力が得難くなるため好ましくなく、また生石灰の結晶径が60μmを超えるものでは膨張発現性が著しく遅延し、硬化後にコンクリートが膨張して亀裂を起こすこともあるので好ましくない。
【0016】
次いで、焼成物を除冷却し、得られた徐冷物はボールミル等の粉砕機で粉末度1800cm2/g〜4000cm2/gになるよう粉砕する。粉末度4000cm2/gを超えると反応活性過剰となり、膨張量の制御が困難になるので好ましくない。また、粉末度1800cm2/g未満では水和の際、ポップアウトを起こす虞があるので好ましくない。粉砕して得た粉末は無水石膏の粉末と混合する。混合する無水石膏の粉末度は特に限定されないが、好ましくは4000cm2/g〜8000cm2/g、より好ましくは6000cm2/g〜8000cm2/gの無水石膏を使用するとコンクリートの強度発現性を維持しつつ収縮を抑制し易くなる。無水石膏の混合割合はコンクリート用膨張材の15〜85質量%が好ましい。コンクリート用膨張材の15質量%未満だと無水石膏配合効果が得られず、85質量%を超えると収縮抑制作用が不足し、ひび割れ発生の虞があるので適当ではない。
【0017】
本発明で製造されたコンクリート用膨張材は、無水石膏と遊離生石灰を内包したC3S相の他に、例えば、C3Sによって内包されていない遊離生石灰、珪酸二カルシウム、カルシウムアルミネート(以下、C3Aと略記する。)、フェライト(以下、C4AFと略記する。)の何れか1種または2種以上を含むものでも良い。このうち、C3Sは早期強度の発現性に優れるので、コンクリート等への混合量も少なくて済むなどの利点を有する。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例によってより詳しく説明する。
表1に表す化学成分(化学分析による算出値。)の石灰石を原料(本発明方法を充当する原料;A1〜A4、本発明方法外の原料;B1〜B3)とし、これをボールミルとステンレス篩を用いて最大粒径約1.5mmになるよう粉砕した。各粉砕物を180g秤量して白金ルツボにて、電気炉(光洋リンドバーグ株式会社製ボックス炉形式KFB624N)を用い、温度約1390℃で70分間焼成した。焼成物は炉中で自然放冷し、塊状の冷却物を得た。冷却物はベッセル粉砕機にて粉末度約3000cm2/gに粉砕して粉末状にし、該粉末中の遊離生石灰の結晶径とC3Sの成長による遊離生石灰の内包の有無を顕微鏡により観察した。観察結果から得た遊離生石灰の結晶径とC3Sへの内包の有無及び各冷却物粉末の鉱物組成を表2に示す。尚、該鉱物組成は酸化珪素が全てC3Sになると仮定して、ボーグ式により求めた。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
表2に示すように、酸化珪素が2%以上の石灰石を用いれば、遊離生石灰(f-CaO)の結晶が20μm以上に成長していると共にC3Sも遊離生石灰の周囲に結晶成長して、遊離生石灰を内包した焼成冷却物が得られた(実施品1〜4)ことが確認された。
【0022】
次に、表2に表す各冷却物の粉末(本発明方法に基づく実施品1〜4、本発明方法にはよらない方法で得た参考品1〜3)と表3に表す無水石膏(粉末度7100cm2/g;太平洋マテリアル社製)とを質量比で冷却物粉末:無水石膏=80:20に混合したものをコンクリート用膨張材試料(以下、Eと略記する。)とした。JIS A 6202コンクリート用膨張材附属書1に規定された膨張材のモルタルによる膨張性試験方法に準じた方法で、膨張性能を確認した。尚、膨張性能確認試験に使用するモルタルは、前記コンクリート用膨張材試料と市販の普通ポルトランドセメント(以下、Cと略記する。)とISO標準砂(以下、Sと略記する。)及び水(以下、Wと略記する。)を表3に表す配合量となるよう混練して得た。ここで、JIS A 6202では膨張材試料は45gが規定値であるが、本発明では膨張性の大きい膨張材が得られるため、従来の2/3すなわち30gを配合量とした。また、JIS A 6202に規定のコンクリート用膨張材のモルタル圧縮強さ試験に準じた方法で、本発明の膨張性組成物を使用したコンクリート用膨張材が膨張によって引き起こされる圧縮強度低下の有無も確認した。尚、圧縮強さ試験に用いたモルタルは表4に表す配合量となるよう混練して得た。以上の結果は表5に併せて表す。
【0023】
【表3】

【0024】
【表4】

【0025】
【表5】

【0026】
表5に示すように実施例1〜4については、モルタルの拘束膨張量材齢7日が6×10-4以上であり良好な膨張性能が発揮されている。一方、比較例1〜3では、使用した石灰石に含まれる酸化珪素量が不足しているため、フラックス効果が少ない。このため遊離石灰の焼成度が低くなり、遊離生石灰の結晶径も小さくなっていることから、膨張量が小さくなっている。また、C3S結晶の成長が小さく、質量的にも少ないことから遊離石灰を十分に内包できていなかった。そのため遊離生石灰の水和反応がセメントの水和よりも早くなって、セメントが水和反応によってマトリックスが形成される前に反応が進行してしまい十分な膨張性能を得られなかった。実施例1〜4については膨張性能が得られていてもモルタルの圧縮強さの低下がなく、膨張材として十分な性能を有していることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶質石灰を有効成分とする膨張性組成物の製造方法であって、酸化珪素を2質量%以上含有する石灰石を珪酸三カルシウムが反応生成する温度で焼成し、該温度から焼成物を徐冷することを特徴とする膨張性組成物の製造方法。
【請求項2】
20μm〜60μmの結晶質石灰と無水石膏を有効成分とするコンクリート用膨張材の製造方法であって、酸化珪素を2質量%以上含有する石灰石を珪酸三カルシウムが反応生成する温度で焼成し、該温度から焼成物を徐冷し、得られた徐冷物を粉末度1800cm2/gから4000cm2/gに粉砕し、この粉砕物と無水石膏を混合することを特徴とするコンクリート用膨張材の製造方法。

【公開番号】特開2010−228971(P2010−228971A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78583(P2009−78583)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】