説明

膨張黒鉛製ガスケット

【課題】ジョイントシートガスケットのように圧縮率が低く且つ復元率が高い膨張黒鉛製ガスケットを提供すること。
【解決手段】膨張黒鉛を加圧成形してなるガスケットであって、前記加圧成形後の膨張黒鉛の密度が1.4g/cm3以上であり、好ましくは1.6g/cm3以上であることを特徴とする膨張黒鉛製ガスケットである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は膨張黒鉛製ガスケットに関し、より詳しくは、圧縮率が低く且つ復元率が高い膨張黒鉛製ガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、石油化学プラント、原子力発電所、火力発電所等における各種配管の接合部には、内部を流通する流体の漏洩を防止するためにガスケットが装着されている。
これらのガスケットとしては、従来より、石綿ジョイントシートガスケット及び非石綿ジョイントシートガスケットが使用されている。
【0003】
これらのジョイントシートガスケットは、ゴム又は樹脂をバインダーとしてアスベスト繊維、ロックウール、ガラス繊維、アラミド繊維、セラミックス繊維などを混入し、且つ各種の充填剤を配合したものである。そのため、常温では固く、圧縮率が低く(歪量が小さく)、復元率が高いという特性を備えている。
そのため、配管フランジ(F)の接合面にジョイントシートガスケット(G)を装着してフランジを繋ぐボルト(B)を締め付けると(図8参照)、急激に締め付けトルクが増大して締め付けが行えなくなり、締め付け作業者は締め付けが完了した感覚(ロック感)をはっきりと感じることができる。
これにより、複数本のボルトを均等に締め付けることが可能となり、片締めが生じることがなく、配管内部の流体の漏洩を防止することが可能となる。
【0004】
このように、ジョイントシートガスケットは、圧縮率が低く復元率が高いために、フランジの接合面に装着した際に締め付けを確実に行うことができ、流体の漏洩を防止できるという点で優れている。
しかし、石綿ジョイントシートガスケットは石綿の発癌性の問題があるため現在国内での製造は行われていない。一方、非石綿ジョイントシートガスケットは石綿ジョイントシートガスケットの代替品としても使用されているが、耐熱性が低く(約260℃)、高温環境下で使用するには適していないという問題がある。
【0005】
これに対して、膨張黒鉛シートガスケット(例えば特許文献1参照)は、非石綿ジョイントシートガスケットに比べて耐熱性が高く(約400℃)、高温環境下で使用するのに適している。加えて、耐薬品性や応力緩和性にも優れている。
しかし、一般に使用されている膨張黒鉛シートガスケットは、膨張黒鉛の密度が0.8〜1.3g/cm3程度であり(参考:JPI−7S−79−1988(配管用膨張黒鉛シートガスケット))、圧縮率が約35〜45%と高く、復元率が低い。
【0006】
図9は、石綿ジョイントシートガスケット及び非石綿ジョイントシートガスケットと、膨張黒鉛シートガスケットについて、歪量(mm)と締付面圧(MPa)の関係の一例を示すグラフである。図中、(A)は石綿ジョイントシートガスケット、(B)は非石綿ジョイントシートガスケット、(C)は膨張黒鉛シートガスケットを示す。
図9より、膨張黒鉛シートガスケットは、石綿ジョイントシートガスケット及び非石綿ジョイントシートガスケットに比べて圧縮率がかなり高いことが分かる。
【0007】
このように圧縮率が高いため、配管フランジ(F)の接合面に膨張黒鉛シートガスケット(G)を装着してフランジを繋ぐボルト(B)を締め付けた場合、締め付けトルクが急激に増大することがなく、締め付け作業者はロック感をはっきりと感じることができず、片締め(図10参照)や過剰な締め付けによる圧縮破壊を起こす虞がある。
また、圧縮率が高いため、石油化学プラント、原子力発電所、火力発電所等の配管ラインが長くてガスケットの使用個数が多い箇所において、定期保守の際に従来のジョイントシートから膨張黒鉛ガスケットに替えると長さ不足が生じるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−130626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、ジョイントシートガスケットのように圧縮率が低く且つ復元率が高い膨張黒鉛製ガスケットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、膨張黒鉛を加圧成形してなるガスケットであって、前記加圧成形後の膨張黒鉛の密度が1.4g/cm3以上であることを特徴とする膨張黒鉛製ガスケットに関する。
【0011】
請求項2に係る発明は、2枚の膨張黒鉛シートの間に金属板を挟んだ構造を有する積層体を加圧成形してなるガスケットであって、前記加圧成形後の膨張黒鉛の密度が1.4g/cm3以上であることを特徴とする膨張黒鉛製ガスケットに関する。
【0012】
請求項3に係る発明は、前記積層体の複数が重ねられて一体化されていることを特徴とする請求項2記載の膨張黒鉛製ガスケットに関する。
【0013】
請求項4に係る発明は、前記積層体の複数がグロメットにより一体化されていることを特徴とする請求項3記載の膨張黒鉛製ガスケットに関する。
【0014】
請求項5に係る発明は、前記加圧成形後の膨張黒鉛の密度が1.6g/cm3以上であることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の膨張黒鉛製ガスケットに関する。
【0015】
請求項6に係る発明は、前記複数の積層体が、ガスケットの上面及び下面に位置する一対の表面積層体と、該一対の表面積層体の間に挟まれた中間積層体とから構成されており、前記中間積層体の膨張黒鉛の密度が1.6g/cm3以上であり、前記表面積層体の膨張黒鉛の密度が1.4g/cm3以上1.6g/cm3未満であることを特徴とする請求項3又は4記載の膨張黒鉛製ガスケットに関する。
【0016】
請求項7に係る発明は、前記膨張黒鉛に防錆油又は防錆剤が含浸されてなることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の膨張黒鉛製ガスケットに関する。
【0017】
請求項8に係る発明は、表面が粘土膜により被覆されていることを特徴とする請求項1乃至7いずれかに記載の膨張黒鉛製ガスケットに関する。
【0018】
請求項9に係る発明は、表面が焼き付き防止剤により被覆されており、前記焼き付き防止剤が、無機質粒子と、該無機質粒子をガスケット表面に定着させるための定着用高分子物質とからなることを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載の膨張黒鉛製ガスケットに関する。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る発明によれば、膨張黒鉛の密度が1.4g/cm3以上であることにより、ジョイントシートガスケットのように圧縮率が低く且つ復元率が高い膨張黒鉛製ガスケットとなる。
圧縮率が低く且つ復元率が高いことにより、配管フランジの接合面にガスケットを装着してフランジを繋ぐボルトを締め付けた時、締め付け作業者はロック感をはっきりと感じることができる。そのため、片締めや過度の締め付けが生じることがなく、配管内部の流体の漏洩やガスケットの圧縮破壊を防止することが可能となる。
また、膨張黒鉛の空隙率が減少することでガスの透過が抑制されるため、高いシール性能を発揮することができる。加えて、引張強度にも優れたものとなる。
【0020】
請求項2に係る発明によれば、膨張黒鉛の密度が1.4g/cm3以上であることにより、ジョイントシートガスケットのように圧縮率が低く且つ復元率が高く、加えてシール性及び引張強度にも優れた膨張黒鉛製ガスケットとなる。
また、2枚の膨張黒鉛シートの間に金属板を挟んだ構造を有することから、金属板により膨張黒鉛が補強されて機械的強度に優れた膨張黒鉛製ガスケットとすることができる。
【0021】
請求項3に係る発明によれば、積層体の複数が重ねられて一体化されていることから、任意の厚みのガスケットを容易に得ることができる。
【0022】
請求項4に係る発明によれば、積層体の複数がグロメットにより一体化されていることから、任意の厚みのガスケットを容易に得ることができるとともに、グロメットの締め付けにより膨張黒鉛の空隙率を減らすことができてシール性を高めることが可能となる。
【0023】
請求項5に係る発明によれば、膨張黒鉛の密度が1.6g/cm3以上であることにより、圧縮率が十数%以下と非常に低く且つ復元率が50%超と非常に高い膨張黒鉛製ガスケットとなる。
【0024】
請求項6に係る発明によれば、複数の積層体が、ガスケットの上面及び下面に位置する一対の表面積層体と、該一対の表面積層体の間に挟まれた中間積層体とから構成されており、中間積層体の膨張黒鉛の密度が1.6g/cm3以上であり、表面積層体の膨張黒鉛の密度が1.4g/cm3以上1.6g/cm3未満であることから、中間積層体により圧縮率が低く且つ復元率が高い特性が発揮されるとともに、表面積層体により、なじみ性に優れ、高いシール性が発揮される膨張黒鉛製ガスケットとなる。
【0025】
請求項7に係る発明によれば、膨張黒鉛に防錆油又は防錆剤が含浸されているため、膨張黒鉛の内部の空隙が防錆油又は防錆剤により満たされることとなり、ガスケットのシール性を高めることができる。
【0026】
請求項8に係る発明によれば、表面が粘土膜により被覆されていることから、耐熱性、耐食性、ガスバリア性、耐酸性に優れた膨張黒鉛製ガスケットとなる。
【0027】
請求項9に係る発明は、表面が焼き付き防止剤により被覆されており、該焼き付き防止剤が、無機質粒子と、該無機質粒子を表面定着させるための定着用高分子物質とからなることから、耐焼き付き性に優れた膨張黒鉛製ガスケットとなる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る膨張黒鉛製ガスケットの第一実施形態を示す図であって、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【図2】膨張黒鉛の密度と圧縮復元率との関係を示すグラフである。
【図3】200℃加熱条件下における膨張黒鉛の密度(g/cm3)と応力緩和率(%)の関係を示すグラフである。
【図4】本発明に係る膨張黒鉛製ガスケットの別の実施形態を示す断面図であって、(a)は第二実施形態、(b)は第三実施形態を示している。
【図5】本発明に係る膨張黒鉛製ガスケットの更に別の実施形態を示す断面図であって、(a)は第四実施形態、(b)は第五実施形態を示している。
【図6】実施例1,2の膨張黒鉛製ガスケットについての圧縮復元試験の結果を示すグラフである。
【図7】実施例3〜6の膨張黒鉛製ガスケットについてのシール試験の結果を示すグラフである。
【図8】配管フランジの接合面にジョイントシートガスケットを装着してフランジを繋ぐボルトを締め付けた時の状態を示す説明図である。
【図9】石綿ジョイントシートガスケット及び非石綿ジョイントシートガスケットと、膨張黒鉛シートガスケットについて、歪量(mm)と締付面圧(MPa)の関係の一例を示すグラフである。
【図10】配管フランジの接合面に膨張黒鉛シートガスケットを装着してフランジを繋ぐボルトを締め付けた時の状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る膨張黒鉛製ガスケットの好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は本発明に係る膨張黒鉛製ガスケットの第一実施形態を示す図であって、(a)は平面図、(b)は断面図である。
第一実施形態に係る膨張黒鉛製ガスケットは、膨張黒鉛を加圧成形してなるガスケットであって、加圧成形後の膨張黒鉛の密度が1.4g/cm3以上、より好ましくは1.6g/cm3以上である。
【0030】
本発明(後述する全ての実施形態を含む)に係る膨張黒鉛製ガスケットは、膨張黒鉛の密度が従来の膨張黒鉛製ガスケットの密度に比べて高く設定されている。
すなわち、従来の膨張黒鉛製ガスケットにおける膨張黒鉛の密度が0.8〜1.3g/cm3程度であるのに対して、本発明に係る膨張黒鉛製ガスケットにおける膨張黒鉛の密度は1.4g/cm3以上、より好ましくは1.6g/cm3以上である。
【0031】
図2は、膨張黒鉛の密度(g/cm3)と圧縮復元率(%)の関係を示すグラフである。
図示の如く、膨張黒鉛は、密度が大きくなるに従って、圧縮率が低くなり、復元率が高くなる。
より具体的には、膨張黒鉛の密度が1.3g/cm3を超えた辺りで圧縮率と復元率が等しくなり、1.4g/cm3以上となると圧縮率より復元率が高くなる。そのため、膨張黒鉛の密度を1.4g/cm3以上とすることにより、ジョイントシートガスケットのように圧縮率が低く且つ復元率が高い、より詳しくは圧縮率より復元率が高い膨張黒鉛製ガスケットとなる。
また、膨張黒鉛の密度が大きくなるとシール性及び引張強度が高くなるため、膨張黒鉛の密度を1.4g/cm3以上とすることにより、シール性及び引張強度にも優れた膨張黒鉛製ガスケットとなる。
【0032】
また、膨張黒鉛の密度を1.6g/cm3以上とすることにより、圧縮率が十数%以下と非常に低く且つ復元率が50%超と非常に高い膨張黒鉛製ガスケットとなる。
ここで、膨張黒鉛の密度が1.75g/cm3を超えると圧縮率が略一定となる。そのため、本発明においては膨張黒鉛の密度の上限値を1.75g/cm3に設定することができる。この場合、密度の設定範囲は1.4〜1.75g/cm3、好ましくは1.6〜1.75g/cm3となる。
【0033】
図3は、200℃加熱条件下における膨張黒鉛の密度(g/cm3)と応力緩和率(%)の関係を示すグラフである。
一般の非石綿ジョイントシートの応力緩和率は、常温では数%であるが、200℃では15〜25%と大きくなる。
図3に示す如く、膨張黒鉛は、密度が小さい場合(1.1g/cm3)でも非石綿ジョイントシートより応力緩和率が小さいが、密度が大きくなると応力緩和率はより小さくなり、締付面圧が20MPaの場合には密度が1.54g/cm3で応力緩和が殆ど無くなる。
このことから、膨張黒鉛の密度が1.4g/cm3以上である膨張黒鉛製ガスケットは、高温条件下での応力緩和性能に非常に優れていると言える。
【0034】
図4は本発明に係る膨張黒鉛製ガスケットの別の実施形態を示す断面図であって、(a)は第二実施形態、(b)は第三実施形態を示している。尚、平面図は第一実施形態のものと同様である。
第二及び第三実施形態に係る膨張黒鉛製ガスケットは、2枚の膨張黒鉛シート(1)の間に金属板(2)を挟んだ構造を有する積層体を加圧成形してなるガスケットであって、加圧成形後の膨張黒鉛の密度が1.4g/cm3以上、より好ましくは1.6g/cm3以上である。
金属板(2)の材質としては、鉄、銅、銅合金、ステンレス、アルミニウムなどを例示することができるが、耐食性の観点からステンレスを用いることが最も好ましい。
【0035】
第二実施形態のものと第三実施形態のものは金属板(2)の形状が異なっている。
具体的には、第二実施形態のものは金属板(2)が平らな薄板からなり、第三実施形態のものは金属板(2)が上下に突起を有するフック板からなる。
第二及び第三実施形態に係る膨張黒鉛製ガスケットによれば、金属板(2)により膨張黒鉛の強度が補強されるため、機械的強度に優れた膨張黒鉛製ガスケットとすることができる。
【0036】
膨張黒鉛シート(1)及び金属板(2)の厚みは特に限定されないが、第二実施形態の場合、例えば膨張黒鉛シート(1)の厚みを0.75mm、金属板(2)の厚みを0.05mmとすることができる。これらを貼り合わせた後に加圧成形して膨張黒鉛の密度を1.4g/cm3以上とすることにより、第二実施形態の膨張黒鉛製ガスケットが得られる。
第三実施形態の場合、例えば膨張黒鉛シート(1)の厚みを0.75mm、金属板(2)の厚みを0.1mmとすることができる。これらを貼り合わせた後に加圧成形して膨張黒鉛の密度を1.4g/cm3以上とすることにより、第三実施形態の膨張黒鉛製ガスケットが得られる。
【0037】
図5は本発明に係る膨張黒鉛製ガスケットの更に別の実施形態を示す断面図であって、(a)は第四実施形態、(b)は第五実施形態を示している。尚、平面図は第一実施形態のものと同様である。
第四及び第五実施形態に係る膨張黒鉛製ガスケットは、2枚の膨張黒鉛シート(1)の間に金属板(2)を挟んだ構造を有する積層体(3)を、複数枚(図示例では3枚)重ねてグロメット(4)により一体化したものである。
複数の積層体(3)は、ガスケットの上面及び下面に位置する一対の表面積層体(3a)と、該一対の表面積層体(3a)の間に挟まれた中間積層体(3b)とから構成されている。中間積層体(3b)は図示例では一枚であるが複数枚としてもよい。
【0038】
第四実施形態に係る膨張黒鉛製ガスケットは、2枚の膨張黒鉛シート(1)の間に平らな薄板からなる金属板(2)を挟んだ構造を有する積層体(3)を3枚重ねてグロメット(4)により挟んで一体化したものである。
第五実施形態に係る膨張黒鉛製ガスケットは、2枚の膨張黒鉛シート(1)の間に平らな薄板からなる金属板(2)を挟んだ構造を有する2枚の積層体(3)の間に、2枚の膨張黒鉛シート(1)の間に上下に突起を有するフック板からなる金属板(2)を挟んだ構造を有する1枚の積層体(3)を挟むように3枚重ねてグロメット(4)により挟んで一体化したものである。
金属板(2)の材質としては、鉄、銅、銅合金、ステンレス、アルミニウムなどを例示することができるが、耐食性の観点からステンレスを用いることが最も好ましい。
【0039】
グロメット(4)は、図示例ではリング状のガスケットの内径部分に嵌着されているが、内径部分と外径部分の両方に嵌着されていてもよい。
グロメット(4)は、SUS304、SUS316、SUS316L等のステンレス板から形成されており、その厚みは0.2mm以下(好適には0.1mm)とすることが好ましい。
グロメット(4)の厚みを0.2mm以下に設定することにより、ガスケット表面の馴染み性が良好なものとなる。
【0040】
グロメット(4)のガスケット半径方向の長さは、図5(a)に示すようにガスケット表面側と裏面側とで同じとしてもよいし、図5(b)に示すように異ならせてもよい。異ならせた場合には、作業者がガスケットの表面と裏面とを容易に区別できるようになるという利点や、横方向(水平方向)に延びる配管の接合面に取り付けたときにガスケットがずれた場合でもグロメットが外れないという利点がある。
【0041】
上記した第四及び第五実施形態において、複数枚の積層体(3)を一体化する方法として、グロメット(4)を用いない他の方法を使用してもよい。
一体化のための他の方法としては、圧着や接着等の方法を用いることができる。
接着により一体化する場合に用いられる接着剤は特に限定されず、フェノール系、ゴム系、有機系等の各種接着剤を適宜選択して使用することができる。
【0042】
本発明においては、表面積層体(3a)と中間積層体(3b)の膨張黒鉛の密度を同じとしてもよいが、表面積層体(3a)の膨張黒鉛の密度を中間積層体(3b)の膨張黒鉛の密度より小さくすることが好ましい。具体的には、中間積層体(3b)の膨張黒鉛の密度を1.6g/cm3以上とし、表面積層体(3a)の膨張黒鉛の密度を1.4g/cm3以上1.6g/cm3未満とすることが好ましい。
これにより、中間積層体(3b)により圧縮率が低く且つ復元率が高い特性が発揮されるとともに、表面積層体(3a)により、なじみ性に優れ、高いシール性が発揮される膨張黒鉛製ガスケットとなる。
【0043】
本発明においては、上記した全ての実施形態のガスケットにおいて、膨張黒鉛に防錆油又は防錆剤を含浸させてもよい。
膨張黒鉛に防錆油又は防錆剤を含浸させることによって、膨張黒鉛の内部の空隙が防錆油又は防錆剤により満たされることとなり、ガスケットのシール性を高めることができる。
【0044】
また、本発明においては、上記した全ての実施形態のガスケットにおいて、表面(上下面)を粘土膜により被覆してもよい。
粘土膜を構成する粘土としては、天然粘土、合成粘土、変性粘土のうちの一種以上を用いることができる。
より具体的には、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、マガディアイト、アイラライト、カネマイト、イライト、セリサイト、ノントロナイトのうちの一種以上が好適に用いられる。
【0045】
変性粘土に用いられる粘土としては、天然或いは合成物、好適には、例えば、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、マガディアイト、アイラライト、カネマイト、イライト、セリサイトのうちの一種以上、更に好適には、それらの天然或いは合成物のいずれか或いはそれらの混合物が例示される。
【0046】
変性粘土に用いられる有機カチオンとしては、第四級アンモニウムカチオン或いは第四級ホスホニウムカチオンを含むものが例示される。その際、変性粘土における有機カチオン組成を30重量%未満とする構成を採用することができる。
また、本発明では、変性粘土にシリル化剤を反応させたものを使用することもできる。この場合、粘土とシリル化剤の総重量に対するシリル化剤組成を30%重量未満とする構成を採用することができる。
【0047】
変性粘土に含まれる有機物としては、第四級アンモニウムカチオン、第四級ホスホニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピリジウムカチオンが挙げられる。第四級アンモニウムカチオンとしては、特に限定されるものではないが、ジメチルオクタデシルタイプ、ジメチルステアリルベンジルタイプ、トリメチルステアリルタイプが例示される。また、類似の有機物として、第四級ホスホニウムカチオンが例示される。これらの有機物は、原料粘土のイオン交換によって粘土に導入される。
【0048】
変性粘土に含まれるシリル化剤としては、特に限定されるものではないが、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシランを例示することができる。
【0049】
粘土膜は、厚みが例えば3〜100μm、好適には3〜30μmに設定される。
粘土膜のガスバリア性能は、厚さ30μmで酸素透過度0.1cc/m・24hr・atm未満、水素透過度0.1cc/m・24hr・atm未満であり、ヘリウム、水素、酸素、窒素、空気の室温におけるガス透過係数は3.2×10−11cm−1cmHg−1未満である。
また、遮水性は、遮水係数が2×10−11cm/s以下であり、可撓性に優れ、250℃以上600℃までの高温においても構造変化しないものである。
【0050】
また、本発明においては、上記した全ての実施形態のガスケットにおいて、表面(上下面)を焼き付き防止剤により被覆してもよい。
焼き付き防止剤は、無機質粒子と、該無機質粒子をガスケットの表面に定着させるための定着用高分子物質とからなる
【0051】
無機質粒子の種類は、耐熱性に優れているものであれば特に限定されないが、600℃以上の耐熱性を有するものが好適に使用される。
具体的には、シリカ、アルミナ、ガラス、アルミノシリケート、シラスバルーン、カオリン、クレー、タルク、炭酸カルシウム、黒鉛、雲母、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、チタン酸カリウム、珪藻土、バーミキュライトのうちの1種又は2種以上を選択して使用することが好ましい。
【0052】
上記した無機質粒子のうち、本発明においては、シリカ、アルミナ、タルク、カオリン、クレー、黒鉛のうちの1種又は2種以上を選択して使用することが好ましい。
これらの無機質粒子は入手が比較的容易であり、汎用性・価格・取扱い性の点で優れたものとなるからである。
【0053】
無機質粒子の配合量は、焼き付き防止剤全量に対して0.1〜30重量%であることが好ましく、0.5〜10重量%であることがより好ましい。
配合量が0.1重量%未満であると焼き付き防止効果が充分に得られず、30重量%を超えると焼き付き防止層が厚くなりすぎてシール性が損なわれる虞があり、いずれの場合も好ましくない。
【0054】
無機質粒子の粒径は、0.1〜30μmであることが好ましく、0.5〜20μmであることがより好ましい。
粒径が0.1μm未満であると粒子の凝集現象の発生や配合時の飛散現象等の発生により取扱い性が低下するとともに製造コストが高くなり、30μmを超えると粒子間の空隙が大きくなってシール性が損なわれる虞があり、いずれの場合も好ましくない。
【0055】
定着用高分子物質としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、高級脂肪酸等が好適に使用されるが、セルロース系高分子物質が最も好適に使用される。その理由は、無機質粒子の定着性に優れており、皮膜強度、柔軟性、溶解性、安全性に優れるからである。
セルロース系高分子物質としては、具体的にはエチルメチルセルロース、酢酸セルロース、メチルセルロース、エチルセルロースが好適に使用される。
【0056】
定着用高分子物質の配合量は、焼き付き防止剤全量に対して0.01〜10重量%であることが好ましく、0.01〜5重量%であることがより好ましい。
配合量が0.01重量%未満であると、塗布した無機質粒子の定着が悪くなって脱落し易くなり、焼き付き防止機能が低下する虞があり、10重量%を超えると定着用高分子物質の割合が多くなって焼き付きが生じ易くなり、いずれの場合も好ましくない。
【0057】
無機質粒子と定着用高分子物質の配合比(重量比)は、無機質粒子を1としたときに定着用高分子物質が0.01〜2.0の範囲であることが好ましい。
無機質粒子を1としたときの定着用高分子物質の比率が0.01未満であると塗布した無機質粒子の定着が悪くなって脱落し易くなり、焼き付き防止機能が低下する虞があり、2.0を超えると焼き付き防止効果が充分に得られないため、いずれの場合も好ましくない。
【実施例】
【0058】
以下、本発明に係る膨張黒鉛製ガスケットの実施例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。但し、本発明は以下の実施例には限定されない。
【0059】
<実施例1〜6:膨張黒鉛のみからなるガスケット>
膨張黒鉛のみからなるガスケットを作製して、圧縮復元試験及びリーク試験を行った。
1.圧縮復元試験
(実施例1)
厚み3.05mmで密度1.0g/cm3の膨張黒鉛シートを加圧成形し、厚み1.85mmで密度1.65g/cm3の実施例1の膨張黒鉛製ガスケットを作製した。
(実施例2)
厚み3.18mmで密度1.0g/cm3の膨張黒鉛シートを加圧成形し、厚み1.83mmで密度1.74g/cm3の実施例2の膨張黒鉛製ガスケットを作製した。
【0060】
実施例1,2の膨張黒鉛製ガスケットについて、EN13555に規定される方法に従って圧縮復元試験を行い、歪み(mm)と締付面圧(MPa)の関係を測定した。
結果を図6に示す。
図6に示される通り、実施例1,2の膨張黒鉛製ガスケットは、圧縮率が低く且つ復元率が高く、図9に示したジョイントシートガスケットに近い圧縮復元特性を有することが確認された。
【0061】
2.リーク試験
(実施例3)
厚み2.0mmで密度1.0g/cm3の膨張黒鉛シートを加圧成形し、厚み1.72mmで密度1.41g/cm3の実施例3の膨張黒鉛製ガスケットを作製した。
(実施例4)
厚み2.0mmで密度1.0g/cm3の膨張黒鉛シートを加圧成形し、厚み1.60mmで密度1.54g/cm3の実施例4の膨張黒鉛製ガスケットを作製した。
(実施例5)
厚み2.0mmで密度1.0g/cm3の膨張黒鉛シートを加圧成形し、厚み1.53mmで密度1.67g/cm3の実施例5の膨張黒鉛製ガスケットを作製した。
(実施例6)
厚み2.0mmで密度1.0g/cm3の膨張黒鉛シートを加圧成形し、厚み1.37mmで密度1.74g/cm3の実施例6の膨張黒鉛製ガスケットを作製した。
【0062】
実施例3〜6の膨張黒鉛製ガスケットについて、EN13555に規定される方法に従ってガスケットシール試験機(ドイツ・アムテック社製、TA−LOFT認定機)を用いてシール試験を行い、締付面圧(MPa)と漏洩量(atm・cc/s)の関係を測定した。内圧はヘリウム1MPaとした。
結果を図7に示す。
図7に示される通り、膨張黒鉛の密度が大きくなるに従って漏洩量が少なくなることが確認された。
【0063】
<実施例7〜10:膨張黒鉛と金属板からなるガスケット>
膨張黒鉛と金属板からなるガスケットを作製して、圧縮復元試験及びリーク試験を行った。
(実施例7〜9)
厚み0.05mmのSUS316製の平らな薄板の両面に厚み0.75mmで密度1.0g/cm3の膨張黒鉛シートを接着した厚み1.5mmの積層体を3枚貼り合せて総厚み4.5mmとした。これを加圧成形して厚み3.0mm、2.7mm、2.5mmとしたものをそれぞれ実施例7,8,9の膨張黒鉛製ガスケットとした。
【0064】
実施例7〜9の膨張黒鉛製ガスケットについて、実施例1〜6と同様の方法で圧縮率(%)、復元率(%)、漏洩量(atm・cc/s)を測定した。尚、漏洩量測定におけるガスケット締付面圧は20MPa、内圧はヘリウム1MPaとした。
測定結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1に示されるように、実施例7〜9の膨張黒鉛製ガスケットはいずれも圧縮率が低く、復元率が高く、シール性に優れており、密度が高くなるほどこれらの特性が顕著となった。
【0067】
(実施例10)
厚み0.10mmのSUS316製のフック板の両面に厚み0.75mmで密度1.0g/cm3の膨張黒鉛シートを接着し、更にその両面に厚み0.05mmのSUS316製の平らな薄板の両面に厚み0.75mmで密度1.0g/cm3の膨張黒鉛シートを接着した厚み1.5mmの積層体をそれぞれ貼り合せて総厚み4.5mmとした。これを加圧成形して厚み2.7mmとしたものを実施例10の膨張黒鉛製ガスケットとした。
【0068】
実施例10の膨張黒鉛製ガスケットについて、実施例7〜9と同様の方法で圧縮率(%)、復元率(%)、漏洩量(atm・cc/s)を測定した。尚、漏洩量測定におけるガスケット締付面圧は20MPa、内圧はヘリウム1MPaとした。
測定結果を表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
表2に示されるように、実施例10の膨張黒鉛製ガスケットは、圧縮率が低く、復元率が高く、シール性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明に係る膨張黒鉛製ガスケットは、石油化学プラント、原子力発電所、火力発電所等における各種配管の接合部において、従来の石綿ジョイントシートガスケットの代替品として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 膨張黒鉛シート
2 金属板
3 積層体
3a 表面積層体
3b 中間積層体
4 グロメット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張黒鉛を加圧成形してなるガスケットであって、
前記加圧成形後の膨張黒鉛の密度が1.4g/cm3以上であることを特徴とする膨張黒鉛製ガスケット。
【請求項2】
2枚の膨張黒鉛シートの間に金属板を挟んだ構造を有する積層体を加圧成形してなるガスケットであって、
前記加圧成形後の膨張黒鉛の密度が1.4g/cm3以上であることを特徴とする膨張黒鉛製ガスケット。
【請求項3】
前記積層体の複数が重ねられて一体化されていることを特徴とする請求項2記載の膨張黒鉛製ガスケット。
【請求項4】
前記積層体の複数がグロメットにより一体化されていることを特徴とする請求項3記載の膨張黒鉛製ガスケット。
【請求項5】
前記加圧成形後の膨張黒鉛の密度が1.6g/cm3以上であることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の膨張黒鉛製ガスケット。
【請求項6】
前記複数の積層体が、ガスケットの上面及び下面に位置する一対の表面積層体と、該一対の表面積層体の間に挟まれた中間積層体とから構成されており、
前記中間積層体の膨張黒鉛の密度が1.6g/cm3以上であり、
前記表面積層体の膨張黒鉛の密度が1.4g/cm3以上1.6g/cm3未満である
ことを特徴とする請求項3又は4記載の膨張黒鉛製ガスケット。
【請求項7】
前記膨張黒鉛に防錆油又は防錆剤が含浸されてなることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の膨張黒鉛製ガスケット。
【請求項8】
表面が粘土膜により被覆されていることを特徴とする請求項1乃至7いずれかに記載の膨張黒鉛製ガスケット。
【請求項9】
表面が焼き付き防止剤により被覆されており、
前記焼き付き防止剤が、無機質粒子と、該無機質粒子をガスケット表面に定着させるための定着用高分子物質とからなることを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載の膨張黒鉛製ガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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