説明

臍帯組織から間葉系前駆細胞の亜集団を含む単核細胞および内皮前駆細胞の亜集団を含む血管細胞を単離する方法

臍帯組織からのホウォートンゼリーからの間葉系細胞および血管前駆細胞の単離、加工、および凍結保存のための方法およびキットが、本明細書において提供される。本発明の方法により入手した、単離された間葉系細胞または血管前駆細胞、およびそれらの組成物も、提供される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
発明の領域
本発明は、一般に、間葉系細胞および内皮前駆細胞に関し、より具体的には、臍帯組織から間葉系細胞および血管前駆細胞を単離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景情報
間葉系間質細胞または前駆細胞または幹細胞の優れた供給源が、臍帯の間質であるホウォートンゼリーであることは、既に確立されている。臍帯は、胚発生13日目に胚外中胚葉から発生し、2本の動脈および1本の静脈から構成されており、それらは全て、プロテオグリカンおよびムコ多糖に富む独特の結合組織間質であるホウォートンゼリーにより取り囲まれている。コラーゲンに富むマトリックスに埋め込まれたこれらの間質細胞は、典型的な繊維芽細胞ではなく、むしろ筋線維芽細胞である。最近の研究において、臍帯間質細胞が間葉系幹細胞の特徴を保有しており、臍帯間質細胞が心筋形成型、軟骨形成型、骨形成型、および脂肪形成型のような間葉系細胞系統へと分化することが報告された。ヒト血管周囲臍細胞および得られた骨形成性結節の単離、培養、および分化の挙動は、数人の研究者により既に証明されている。ヒト臍帯間葉系幹細胞のドーパミン作動性ニューロンへの分化能も証明されている。最近、ブタ臍帯マトリックス細胞において、Oct-4、Sox-2、およびNanogのような胚性幹細胞マーカーのうちのいくつかが証明された。同様に、臍帯の血管系から得られた内皮前駆細胞は、他の供給源から得られた類似の前駆細胞の特性を保有していることが示されている。
【0003】
間葉系間質細胞(MSC)は、International Society for Cellular Therapyにより定義されるように、特異的な表面表現型を有するプラスチック付着性細胞であり、増殖(自己再生)能を有し、骨、軟骨、脂肪を含む様々な系統への分化能を有する。そのような細胞は、海綿骨、脂肪組織、滑膜、骨格筋、真皮、周皮細胞、血液、および骨髄のようないくつかの異なる供給源に由来し得る。骨髄および脂肪組織に由来するMSCは、広範囲に研究されている。骨髄に由来するMSCは、骨、軟骨、腱、筋肉、脂肪組織、および造血細胞を支持する間質へと分化することができる。従って、それは、骨障害、心不全等に罹患した患者を処置するための候補である。MSCは、相当数、成人から単離され得るため、治療的利用可能性について詳細に調査されている。例えば、MSCは、造血幹細胞のエクスビボ増大を支持し、免疫モジュレーターとして作用し、サイトカインおよび増殖因子を放出し、かつ病理学的部位へと集合する。多様な適応症、例えば、急性心筋梗塞、発作、および移植片対宿主病のための骨髄由来MSCを使用した相当数の治験が進行中である。にも関わらず、細胞に基づく治療のための骨髄由来MSCに関連する限界が存在する。例えば、骨髄からのMSCの収集は、侵襲性で痛みを伴う手技である。正常な加齢において、骨髄腔には黄色の脂肪が充満する。従って、高齢の個体からMSCを得ることには問題がある場合がある。同様に、胎児から収集された骨髄由来MSCと、成人由来のMSCとの間には、違いが見出されている。例えば、胎児MSCは、成人由来MSCと比較して、より長くインビトロで生存し、成人由来MSCでは、インビトロの有益な使用期間は約5継代である。
【0004】
研究者らは、臍帯のホウォートンゼリーに由来する細胞(いわゆる、臍帯マトリックス細胞またはUCMSC)が、MSCの特性を有することを証明した。UCMSCは、骨髄および脂肪に由来するMSCに類似した表面表現型、分化能、および免疫特性を有しているが、UCMSCは、インビトロ増大可能性に関しては胎児MSCにより類似している。骨髄および脂肪に由来するMSCとは対照的に、UCMSCは、生後に臍帯から単離され、正常な経膣分娩または帝王切開のいずれかの後に収集され得る。UCMSCは、インビトロで容易に増大可能であり、低温保管、解凍、および再生が可能である。UCMSCはプラスチック付着性細胞として増殖し、他のMSCに類似した表面表現型を発現し、複数の系統へと分化する。臍帯マトリックス細胞は、パーキンソン病、心停止/蘇生に関連した神経傷害、網膜疾患、および全脳虚血の動物モデルにおいて、安全に移植され、症状を改善した。
【0005】
臍帯MSC
MSCは、臍帯のいくつかのコンパートメント(図1)から単離されている。具体的には、MSCは、臍帯血、臍静脈内皮下層、およびホウォートンゼリー(図1)から単離されている。ホウォートンゼリー内では、MSCは、比較的不明瞭な三つの領域:血管周囲ゾーン、血管間ゾーン、および羊膜下から単離されている。臍帯の異なるコンパートメントから単離されたMSCが異なる集団を表すか否かは未知である。この考察は、ホウォートンゼリー細胞(WJC;図1のゾーン3〜5)から単離されたMSCに制限される。ホウォートンゼリー細胞(WJC)の亜集団は、MSC表面マーカーを示し、従って、それらはMSCファミリーであることが示唆される。
【0006】
WJCは、胚外間葉、即ち、原始ホウォートンゼリーとして、胚形成の初期段階に由来する間質支持特性を有し、卵黄嚢領域から大動脈性腺中腎(AGM)への遊走の間、遊走中の胚性血島細胞を取り囲んでいる。エクスビボの血球増大およびHSCのインビボ生着における役割により証明されるように、WJCは、この特性を保持している。WJCが、BMSCのものと類似のサイトカインを産生すること、そしてWJCが、BMSCが合成しない顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)および顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を合成することが報告されている。WJCの方が脂肪細胞への分化が遅いため、WJCはBMSCと異なる。(以下にリストされる)この特色およびその他は、臍帯血(UCB)に由来するMSCと共通であるため、UCBに由来するMSCが、ホウォートンゼリーに見出されるものと異なるか否かは不明である。UCB-MSCおよびWJCは、脂肪細胞への乏しい分化能、BMSCより短い倍化時間、およびより大きい老化までの継代数のような、いくつかの共有の特性を有する。WJCと同様に、UCB-MSCもGM-CSFを作成する場合があるが、これは一貫して見出されてはいない。HSCが、UCBおよびWJCの両方からのMSCにより増大し得ることは明らかである(図1)。
【0007】
臍帯内コンパートメント
五つの別々の領域が間葉系間質細胞を含有していることが示されている:(1)MSCは、臍帯血から新鮮に調製された単核細胞画分の20〜50%から単離され得る;(2)MSCは、臍静脈内皮下層から単離されている;(3)MSCは、臍血管の外層、例えば、血管周囲領域の酵素消化の後、単離され得る;(4)健康な個体において、血管内空間は一貫してMSCを産生する;(5)羊膜下領域。ホウォートンゼリーはゾーン3〜5を含む。この概説は、臍帯血(ゾーン1)または臍静脈内皮下層(ゾーン2)に由来するMSCではなく、ホウォートンゼリー由来細胞に焦点を当てる。
【0008】
BMSCとUCB-MSCとWJCとの間には違いがある。第一に、骨髄からのコロニー形成単位(CFU)-Fの単離頻度は、106単核細胞(MNC)当たり1〜10 CFU-Fの範囲内にあると推定されるが、臍帯血においては、108MNC当たりほぼ1 CFU-Fクローン〜106MNC当たり1〜3 CFU-Fであると報告されている。[注:妊娠第1期胎児血液由来MSCからの単離頻度は、106MNC当たり8.2 CFU-Fであった]。対照的に、ホウォートンゼリーに由来する細胞は、CFU-Fのより高い頻度を有する。従って、WJからの最初の単離において、骨髄または臍帯血からのMSCより多くホウォートンゼリー由来間質細胞が見出され得る。第二に、より大きなCFU-F頻度に加え、WJCおよびUCB-MSCの倍化時間は成人骨髄由来MSC(BMSC)より短い。より速い倍化時間は、胎児血液、臍帯血、およびホウォートンゼリーに由来するMSCの共通の特色であり、この共通の特色は、成人のBMSCと比較して比較的原始的なこれらのMSCの性質を反映していると考えられる。UCB-MSCとWJCとの間の重要な違いは、WJCが、ほぼ100%の試料から単離され得、48時間まで加工が遅延した臍帯からですら単離され得るという点である。
【0009】
ホウォートンゼリー細胞は、骨髄間質細胞およびその他の間葉系細胞と同様に、プラスチック付着性であり、CD10、CD13、CD29、CD44、CD90、およびCD105のような間葉系細胞のマーカーについて陽性に染色され、造血系統のマーカーについては陰性である。さらに、WJCは形態学的にMSCに類似しており、培養中、骨髄由来MSCより多く増大することができる。ヒトWJCは、ネスチンのような前駆細胞マーカーを発現する。WJCは、脂肪組織、骨、軟骨、骨格筋細胞、心筋細胞様細胞、および神経細胞を形成するよう誘導され得、医用生体工学の適用を受け入れる。従って、これらの細胞は、原始間質細胞のカテゴリーに適合し;ホウォートンゼリーは、豊富で低コストの細胞源であるため、再生医療、バイオテクノロジー、および農業のような領域に影響を与える可能性を有する。WJCがインビボで長期生着し、自己再生および多能性を示すか否かを決定し、従って、WJCが真の幹細胞集団であることを証明するには、さらなる研究が必要である。
【発明の概要】
【0010】
発明の要約
本発明は、臍帯組織からのホウォートンゼリーからの間葉系幹細胞の亜集団を含有している単核細胞および内皮前駆細胞の亜集団を含有している血管細胞の単離、加工、および凍結保存のための方法および専用キットに関する。
【0011】
本発明の一つの態様において、臍帯組織から異なる細胞型を単離する方法が提供される。方法は、臍帯の試料からのホウォートンゼリー(WJ)マトリックスから血管組織を分離する工程;組織を解離させ、解離した細胞を未解離の細胞およびマトリックスから分離する工程;ならびに解離し分離した細胞を凍結保存し、それにより、臍組織から間葉系細胞を含有している細胞集団を単離する工程を含む。
【0012】
本発明のもう一つの態様において、臍帯組織から血管前駆細胞を単離する方法が提供される。方法は、臍帯の試料からのホウォートンゼリー(WJ)マトリックスから血管組織を分離する工程;血管組織から血管前駆細胞を解離させ、血漿中に懸濁させる工程;および解離した細胞を凍結保存し、それにより、臍組織から血管前駆細胞を単離する工程を含む。
【0013】
本発明のもう一つの態様において、本明細書に提供される方法により入手された間葉系細胞および血管前駆細胞が提供される。
【0014】
さらなる態様において、細胞治療生成物が提供される。一つの局面において、間葉系前駆細胞が濃縮された組成物が提供される。もう一つの局面において、血管前駆細胞が濃縮された組成物が提供される。一方または両方の局面は、臍帯血造血細胞治療組成物を補足するか、または別々の細胞治療生成物として医学的適用を有することができる。
【0015】
本発明のさらにもう一つの態様において、臍帯組織を獲得するためのキットが提供される。キットは、獲得時の充填用の無菌の容器、輸送中に獲得生成物に対して使用される2個の無菌の鉗子、無菌のガーゼ、アルコールスワブまたはアルコールワイプ、無菌の使い捨てのハサミ、および輸送媒体としての生理食塩水溶液を含む。温度データ計測器が温度モニタリングのために含まれる。キットは、生物学的材料の輸送に関する国際規制に準拠した断熱容器に含有され、輸送される生物学的材料(獲得生成物)の完全性を保存する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】臍帯コンパートメントの模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
本発明の組成物、方法、および培養方法論を記載する前に、本発明は、記載された特定の組成物、方法、および実験条件に限定されず、従って、組成物、方法、および条件は変動し得ることが理解されるべきである。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲においてのみ限定されるため、本明細書において使用される用語法は、特定の態様を記載することのみを目的とし、限定的なものではないことも理解されるべきである。
【0018】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用されるように、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」には、情況がそうでないことを明白に指示しない限り、複数形への言及が含まれる。従って、例えば、「方法」との言及には、この開示を参照することにより当業者に明白になるであろう、本明細書に記載された型の一つまたは複数の方法および/または工程が含まれ、他も同様である。
【0019】
他に定義されない限り、本明細書において使用される技術用語および科学用語は、全て、本発明が属する分野の当業者により一般的に理解されるのと同一の意味を有する。修飾および変形が、本開示の本旨および範囲に包含されることが理解されるため、本明細書に記載されたものと類似しているかまたは等価である任意の方法および材料が、本発明の実施または試行において使用され得る。
【0020】
最も純粋な形態で保持され、適用前に増大させられてもよいし、インビトロ培養なしの直接適用にも適当であり得、または治療的/医学的適用前に組織工学技術もしくは遺伝子治療プロトコルにおいて適用されてもよい生成物を凍結保存するアプローチが、本明細書に提供される。
【0021】
本明細書に提供される方法は、以下の理由のため、最小限の操作および組織培養技術における細胞の増大の回避を可能にする。例えば、適当な無血清増殖培地の入手可能性は限定されており、高いコストを伴う。動物に基づく血清を含有している増殖培地は、プリオンまたはウイルスによる汚染のリスクを保持しており、従って、細胞治療生成物の基準も、メディカルグレードの細胞治療生成物の作製のためのGMP技術も満たさない。自己血漿における細胞培養は、形態学的変化を引き起こすことが公知であり、適切な細胞増大を可能にしない。培養中の汚染のリスクは、経済的な(そして恐らく倫理的な)結果を有する、そのような生成物の破壊および損失を意味するであろう。細胞培養に由来する生成物は、7〜21日を必要とし、それは、作業の流れ、および臍帯と並行した貯蔵管理(banking)の計画に影響を与え、いくつかの培養が全て異なる成長段階で実行されるため、追跡可能性が損なわれる可能性、および混乱のリスクを提供する。
【0022】
本明細書において使用されるように、「試料」という用語は、本発明により提供される方法にとって適当な任意の試料をさす。試料は、臍組織または臍帯を含み得る、任意の試料であり得る。試料、例えば、ヒト対象からの試料は、周知のルーチンの臨床的方法(例えば、生検手法)を使用して得られる。
【0023】
本発明の一つの態様において、間葉系細胞のような異なる細胞型を臍帯組織から単離する方法が提供される。方法は、臍帯の試料からのホウォートンゼリー(WJ)マトリックスから血管組織を分離する工程;組織を解離させ、解離した細胞を未解離の細胞およびマトリックスから分離する工程;ならびに解離し分離した細胞を凍結保存し、それにより、臍組織から間葉系細胞を含有している細胞集団を単離する工程を含む。
【0024】
本発明のもう一つの態様において、臍帯組織から血管前駆細胞を単離する方法が提供される。方法は、臍帯の試料からのホウォートンゼリー(WJ)マトリックスから血管組織を分離する工程;血管組織から血管前駆細胞を解離させ、血漿中に懸濁させる工程;および解離した細胞を凍結保存し、それにより、臍組織から血管前駆細胞を単離する工程を含む。
【0025】
特に、臍帯の血管組織から血管前駆細胞を単離する方法が提供される。いくつかの態様において、方法は、GMP(Good Manufacturing Practice)技術を取り入れ、最終生成物は細胞治療生成物の国際基準(International Cellular Therapy Product Standards)を満たす。
【0026】
「前駆細胞」とは、一連の細胞分裂により別個の細胞系統を生じる親細胞をさす。
【0027】
「分化細胞」とは、特定の分化状態、即ち、非胚性状態を保有する非胚性細胞をさす。最も初期の三つの分化細胞型は、内胚葉、中胚葉、および外胚葉である。
【0028】
「単離」または「分離」または「解離」とは、物理的な力または化学処理等により細胞凝集物を分離する過程をさす。いくつかの態様において、解離は、非ヒト材料を含有している可能性のある酵素(またはその他の細胞切断産物)の使用を排除するであろう、機械的解離により達成され得る。
【0029】
当業者は、組織および細胞の解離が、手動の解離により実行されてもよいし、または自動化された解離により実行されてもよいことを理解するであろう。一つの態様において、解離は、Miltenyi Biotecより市販されているgentleMACS(商標)Dissociatorのような組織解離装置を使用した自動化された解離により実行される。試料をさらに解離させ、かつ解離した細胞をマトリックスから分離するため、解離した組織は、その後、篩過されてもよい。一つの態様において、試料は、約1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、またはそれ以上、篩過される。
【0030】
様々な態様において、解離した組織から単一細胞懸濁物が生成される。例えば、解離の後、解離した細胞は、単一細胞懸濁物が形成されるよう、血漿のような液体に懸濁させられ得る。
【0031】
様々な態様において、単一細胞懸濁物を提供するために使用される血漿は、自己血漿である血漿である。例えば、使用される血漿は、解離した細胞のものと同一の個体に由来する。これは、「非自己」成分が導入される(他種からの)異種移植および(同一種の他の個体からの)同種移植の手法とは対照的である。
【0032】
凍結保存は、当技術分野において公知であるような多様な方法により実行され得る。一つの態様において、凍結保存のための細胞の制御された再現性のある調製を提供するため、全て自動化された混合および冷却のための装置が利用される。例えば、方法は、Biosafe Coolmix(商標)装置を利用し得る。
【0033】
様々な態様において、解離した細胞は、適当な凍結保存溶液または凍結保護剤を使用して凍結保存される。多数のそのような溶液が当技術分野において公知であり、本発明の方法において使用するために適当である。本明細書において使用されるように、「凍結保存溶液」または「凍結保護剤」とは、細胞膜に浸透し、凍結中、細胞を保護する一つまたは複数の型の物質を含有している溶液または薬剤をさす。そのような物質には、グリセロール、プロピレングリコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコール、ブタンジオール等が含まれ得る。凍結保存溶液または凍結保護剤には、デキストラン、ショ糖、トレハロース、パーコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ウシ血清アルブミン、フィコール等を含む、細胞膜に浸透せず、凍結中、細胞を保護する一つまたは複数の物質が含まれ得る。一つの態様において、凍結保護剤は、DMSOおよびデキストランの混合物である。
【0034】
様々な態様において、凍結保護剤は、試料を凍結させる前に、血漿に懸濁させられた解離した細胞に添加される。細胞は、液体窒素槽等の凍結保管場所で凍結させられ保管され得る。細胞試料が汚染物質を含まないことを確実にするため、凍結保護剤を含む最終細胞懸濁物の試料を、嫌気性または好気性の汚染を決定するために培養することができる。
【0035】
本発明のもう一つの態様において、本明細書に提供される方法により入手された間葉系細胞および血管前駆細胞が提供される。従って、間葉系細胞または血管前駆細胞を含む、濃縮された試料とは、試料が加工されない場合と比較して、例えば、未加工の組織試料に比べて、そのような細胞の相対的な集団を増加させかつ/または精製するため、本明細書に記載されるようにして加工された試料を意味するものとする。例えば、試料中の細胞の相対的な集団は、未加工の組織と比較して、少なくとも約10%、25%、50%、75%、100%、または少なくとも2倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、もしくは200倍にも、増加させられかつ/または精製されていてよい。例示的な局面において、細胞が完全ままでありかつ/または溶解されておらず、少なくとも約10%、25%、50%、75%、100%、または少なくとも2倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、もしくは200倍にも、増加させられかつ/または精製されている試料が作製される。
【0036】
加工された試料の中の細胞の総数は、利用される組織の初期量、および懸濁物を形成させるために使用される血漿の量に一部依存する。様々な局面において、広範囲の初期組織量の使用が、血漿容量と同様に意図される。従って、一つの態様において、加工された細胞の組成物は、試料1ml当たり約1個、100個、1000個、10,000個、100,000個、または1,000,000個より多い細胞を含む。
【0037】
本開示は、臍帯切片の獲得のための適切な装置と共に、医療サービス提供者(医師/産婦人科医/産科医/助産婦)が使用するためのキットをさらに提供する。一つの態様において、キットは次のものを含有している:獲得時の充填用の無菌の容器(例えば、Sterilin製品コード190DB/IRR無菌250容器が使用される);獲得時に臍帯の両端に固定される2個の無菌の鉗子;液体(例えば、血液/羊水/膣液)を除去するための無菌のガーゼ;充填前の除染のためのアルコール/70%エタノールまたは類似のあらかじめパックされたスワブ;輸送中に臍帯に添加される洗浄/注射用生理食塩水(例えば、メディカルグレード0.9%NaCl溶液)(例えば、約100ml);および使い捨ての無菌のハサミ。ヒトにおける使用/適用のために適当な全ての成分。
【0038】
以下の実施例は、本発明を例示するものであって、限定するものではない。
【実施例】
【0039】
実施例1
凍結保存された細胞の生成
間葉系細胞および血管前駆細胞を単離する方法は、以下のようにして、以下の試薬、装置、および消耗品を用いて、実施され得る。
【0040】
医療サービス提供者(医師/産婦人科医/産科医/助産婦)に、臍帯切片の収集のための適切な装置が供給される。キットは以下のものを含有し得る:
i. 獲得時の充填用の無菌の容器(例えば、Sterilin製品コード190DB/IRR無菌250ml容器);
ii. 獲得時に臍帯の両端に固定される2個の無菌の鉗子;
iii. 液体(例えば、血液/羊水/膣液)を除去するための無菌のガーゼ;
iv. 充填前の除染のためのアルコール/70%エタノールまたは類似のあらかじめパックされたスワブ;
v. 洗浄/注射用生理食塩水(例えば、輸送中に臍帯に添加される約100mlのメディカルグレード0.9%NaCl溶液);および
vi. 無菌のハサミ(好ましくは、使い捨て)。
【0041】
試薬、消耗品、および装置
試薬、消耗品、および装置には、表1に示される以下のものが含まれ得る。
【0042】
【表1】

【0043】
責任
LOは、加工の全体を通したUCTの追跡可能性、およびSOP-01手法で決定された指定された細胞保管場所への細胞治療生成物の安全な貯蔵管理(banking)を維持する責任を負う。
【0044】
LOは、手法の全体を通して、GLP(Good Laboratory Practice/優良試験所基準)マニュアルインストラクションを適用し、GMP(Good Manual Practice/優良製造所基準)条件の下で作業する責任を負う。
【0045】
手法
以下の手法は、GentleMACS(商標)テクノロジーを使用した自動化された細胞解離、および組織の手動の細砕(mincing)の両方に適用される。
【0046】
データ確証およびSOP-01における加工についての承認の後、UCTは、F-SOP-10/1フォームおよびF-SOP-10/2フォームと共にクリーンルームに移される。
【0047】
LOは、無菌技術を使用して、上記の全ての成分を調製し、層流キャビネットに置かなければならない。
【0048】
鉗子を使用して、容器から臍帯を取り外す。
【0049】
無菌ガーゼを使用して、臍帯全体を拭いてきれいにする。
【0050】
ハサミを使用して、固定された組織を切り離し、当該固定された組織は処分する。
【0051】
30秒間、エタノールを含む50mlビーカーに臍帯を挿入し、空気乾燥させる。鉗子も確実に除染する。
【0052】
長さ2.5〜3cmの臍帯片4片を切り取り、無菌生理食塩水溶液を含有している50mlディッシュに置く。
【0053】
4片の各々について:
静脈を同定し、端から端までモスキート鉗子を挿入する。2本の動脈を同定する。有鈎トリーブ(trieve)を使用して、1本の動脈およびその血管周囲ゼリーの一部を固定する。静脈を拡大させたまま、モスキート鉗子を除去する。他の有鈎トリーブを使用して、拡大した静脈を固定し、動脈および血管周囲組織を臍帯切片から解離させるため、動脈を保持しているトリーブを引く。
【0054】
解離した動脈をペトリ皿に置き、上記と同様にもう1本の動脈を除去するためにモスキート鉗子を挿入する。
【0055】
モスキート鉗子を静脈に挿入する。有鈎トリーブにより、静脈の近傍のホウォートンゼリーを固定する。モスキート鉗子を取り去り、他のトリーブを使用して、静脈の周囲を固定する。
【0056】
静脈を保持し、静脈の周囲のゼリーを解離させるため、ゼリーを保持しているトリーブを引く。静脈が完全に露出し、ゼリーが排除されるまで、繰り返す。
【0057】
同様にして2本の動脈をトリミングし、ホウォートンゼリーを合わせてペトリ皿に蓄積する。
【0058】
トリミングされた血管系を、生理食塩水溶液を含有しているペトリ皿に置く。
【0059】
他の3片の臍帯片についても手法を繰り返す。
【0060】
トリミングの完了後、ハサミを使用して、全てのホウォートンゼリー片を2〜4mm片に切り刻む。
【0061】
Miltenyi(商標)Cチューブを計量し、メモリをゼロにあわせる。ホウォートンゼリー1.0g、および生理食塩水または臍帯血漿またはそれら両方の混合物1.5mlを挿入する。Gentle MACS Cell Dissociator(商標)でプログラムCを選び、2回(2×)運転する。
【0062】
プログラムの終了後、解離したゼリーを、50mlファルコンチューブに取り付けられた100μm篩に注ぐ。解離した細胞および血漿の溶液が16〜17mlに達するまで、4回繰り返す。ファルコンチューブ内のレベルが2〜21mlに達するまで、3〜4mlの生理食塩水溶液により篩を洗浄する。
【0063】
20mlルアーロック注射器を使用して溶液を引き、OriGen(商標)20mlクリオバッグに接続し、クリオバッグに溶液を移す。
【0064】
臍帯血のためのSOP-04に従って、凍結保護剤の添加に進み、同一の手法に従って、細菌学のためのサンプリングを行う。MET-04に従って、インキュベートする。
【0065】
血管組織をホウォートンゼリーと同様の切片に細砕し、プログラムCにより解離する。4℃に冷却された1.8mlクリオチューブに溶液を注入し、DMSO/デキストラン溶液250μlをピペットで移し、よく混合する。臍帯血試料のためのSOP-04に従って、低速凍結に進む。
【0066】
あるいは、抽出されたWJ組織を、手動で微細な「ペースト」へと細砕し、遠心管内の自己血漿5mlに溶解させ、20ml注射器を使用して、クリオバッグへ導入してもよい。
【0067】
次いで、クリオバッグを計量し、F-SOP-10/1に重量を記録する。LOは、20mlルアーロック注射器で適切な容量のDMSO/デキストラン溶液を調製し、Coolmix装置を使用した凍結保護剤の投与に進む。臍帯血調製と同様に、SOP-04に記載された手法に従って、手法を進め、凍結保護剤を投与し、オーバーバッグへと真空密封し、低速凍結装置へ導入し、最終的に、液体窒素槽内の予定された凍結保存場所(バンク)に導入する。
【0068】
SOP-04に従って、DMSO/デキストラン溶液を含む最終生成物の試料を、嫌気性および好気性の汚染のため培養する。
【0069】
上記の実施例を参照して本発明を説明したが、修飾および変形が、本発明の本旨および範囲に包含されることが理解されるであろう。従って、本発明は、以下の特許請求の範囲によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、臍帯組織から間葉系細胞を単離する方法:
(a)臍帯の試料由来のホウォートンゼリー(WJ)マトリックスから血管組織を分離する工程、
(b)WJマトリックスから細胞を解離させ、血漿中に懸濁させる工程、
(c)解離した細胞を未解離の細胞およびマトリックスから分離する工程、ならびに
(d)解離し分離した細胞を凍結保存し、それにより、臍組織から間葉系細胞を単離する工程。
【請求項2】
凍結保存が、凍結保護剤を解離し分離した細胞と混和する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
解離し分離した細胞が汚染菌を含まないことを確証する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法により得た、単離された間葉系細胞。
【請求項5】
以下を含む、臍帯組織から血管前駆細胞を単離する方法:
(a)臍帯の試料由来のホウォートンゼリー(WJ)マトリックスから血管組織を分離する工程、
(b)血管組織から血管前駆細胞を解離させ、血漿中に懸濁させる工程、および
(c)解離した血管前駆細胞を凍結保存し、それにより、臍組織から血管前駆細胞を単離する工程。
【請求項6】
凍結保存が、凍結保護剤を解離した血管前駆細胞と混和する工程を含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
解離した血管前駆細胞が汚染菌を含まないことを確証する工程をさらに含む、請求項5記載の方法。
【請求項8】
請求項5記載の方法により得た、単離された血管前駆細胞。
【請求項9】
以下を含むキット:
(a)獲得時の充填用の無菌の容器、
(b)2個の無菌の鉗子、
(c)無菌のガーゼ、
(d)アルコールスワブ、
(e)生理食塩水溶液、および
(f)無菌のハサミ。

【図1】
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【公表番号】特表2013−514072(P2013−514072A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543785(P2012−543785)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【国際出願番号】PCT/EP2010/070072
【国際公開番号】WO2011/073388
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(512157933)シー.ビー.ビー.ライフライン バイオテク リミテッド (1)
【Fターム(参考)】