説明

自動メッキ装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、被メッキ物に自動的にメッキを施す自動メッキ装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来のメッキ装置の一例を図18の斜視図及び図18の縦断正面図である図19によって説明すると、メッキ槽1の上には引っ掛け棒2,3が掛け渡してあって、引っ掛け棒3には枠状の陰極4を吊り下げている。そしてこの陰極4には、固定治具5によって被メッキ物6が取り付けられている。
【0003】固定治具5は、メッキの種別に対応して、銅、ニッケル等で作られており、図20に示すように被メッキ物6の上縁部と下縁部とを上下から挟持する形態のものや、図21に示すように被メッキ物6の上縁部近傍と下縁部とを両面から挟持する形態のものがある。なお、図20において7は、固定治具5の被メッキ物6に接しない側に取り付けられている絶縁物である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】このようなメッキ装置において、被メッキ物6に対する通電は固定治具5との接触面に関係することになるが、個々の固定治具5と被メッキ物6との接触面積は極めて小さいので、その接触面積を大きくするために多くの固定治具5を使用する必要がある。したがって従来のメッキ装置においては、被メッキ物6を固定するために手間がかかり、作業工程上に問題があった。
【0005】さらに従来のメッキ装置においては固定治具5にもメッキされ、特に図22、図23に示すように平面形状の被メッキ物6よりも、突起部分のある固定治具5に余剰メッキ層8が形成されてしまい、固定治具5の弾力性がなくなると共に通電性能も低下し、固定治具5は数回の使用で破棄するようになって長期使用に耐えない問題があった。本発明はこのような従来の問題を解決し、手間がかからず、部品の取換を必要としない自動メッキ装置を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、メッキ液を満たしたメッキ槽と、該メッキ槽内に設けられた陽極と、前記メッキ槽の外部に設けられた陰極と、前記メッキ槽の槽壁に設けられた対のスリットと、該スリットに設けられ前記メッキ液のメッキ槽外への洩れを防ぐ液密手段と、前記メッキ槽の中に設けられた区画室と、該区画室内に設けられた第2の陰極と、前記区画室の室壁に設けられた対の第2のスリットと、該第2のスリットに設けられ前記メッキ液の区画室内への侵入を防ぐ液密手段とを備え、被メッキ物が前記陰極に接しスリットを通ってメッキ槽内に入って陽極に接し、第2のスリットを通って区画室内に入り、第2の陰極接し第2のスリットを通って区画室を通過し、陽極に接しスリットを通ってメッキ槽外に出て陰極に接するようにしたことを特徴とする自動メッキ装置に係るもので、更に、陽極に揺動機構を接続したり、切り欠きを有する被メッキ物の送り機構を備えたり、メッキ槽内の下部に設けられた被メッキ物の受台と、該受台の上方に設けられ被メッキ物を通過させるスリットを有する遮蔽板と、を備えたりすることができる。かかる本発明の装置では陰極はメッキ槽の外部にあってメッキ液に浸されなくなり、被メッキ物がこの陰極に接しスリットを通ってメッキ槽内を通過するため固定治具が不要となり、手間がかからず、余剰メッキ層も形成されなくなる。
【0007】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を、図に基づいて説明する。
【0008】図1は、本発明の実施の形態の一例を示す横断平面図、図2は、図1の縦断正面図であって、メッキ槽9の内部にはメッキ液10(図2参照)が満たされており、さらに複数の陽極11がメッキ液10に浸るようにメッキ槽9の内部に設けられている。この陽極11は管状形で先端は封じられており、互いに向き合っている面には無数の小径孔があけられている。この孔からメッキ液が噴射される様になっている。この陽極11はチタンなどで形成されており、陽極表面又は内層面が白金で被覆されている。その範囲はメッキ液10に浸漬されている範囲内であればよい。
【0009】被メッキ物12がメッキ槽9の外部からメッキ槽9の内部に入り、複数の陽極11の間を通って再びメッキ槽9の外部へ通過できるようにするため、メッキ槽9の槽壁には縦方向に対のスリット13(図1参照)が設けられている。
【0010】そしてこのスリット13の近傍のメッキ槽9の外部には、スリット13を通る被メッキ物12にメッキ槽9の外部で接することができるようにした陰極14が設けられており、メッキ槽9の内部のスリット13の近傍には、メッキ液10がスリット13からメッキ槽9の外部に洩れないようにするため、ゴムローラー、弾力性のあるプラスチックローラー、密閉袋ローラー等の液密手段15が設けられている。
【0011】一方のスリット13を通ってメッキ槽9の内部に入った被メッキ物12は、リング状の回転送り機構16によって、他方のスリット13に向けて送られるようになっている。回転送り機構16は被メッキ物12の両面に接していて、図示しない原動機によって循環駆動される駆動チェーン17から伝導チェーン18を介して回転駆動されるようになっている。
【0012】図2に示すように回転送り機構16の下方には、被メッキ物12の重量を支持する受台19が被メッキ物12の下縁に沿うように設けられており、受台19の下方には、メッキ液10を撹拌するための空気噴射管20が受台19と平行に設けられている。
【0013】複数の陽極11の上端部には、板状の揺動機構21が接続されていて、この揺動機構21は原動機22によって水平に往復動し、陽極11を揺動させてメッキ液10を撹拌するようになっている。ただし、液の揺動だけではスルホール内の空気の除去は十分に除去されない。これは小径穴になればなる程、基板の両側から液が入り込むと穴中の空気は閉じ込められてしまい、この空気が堰のようになって穴壁の濡れも邪魔し、液侵入が妨害されメッキ処理されなくなる。
【0014】この様な問題を防ぐために、強制的な空気除去、液流入をさせるため基板面に超音波を与える方法を採る。すなわち周波数は20kHz〜30kHzの振動子としてフェライト又はニッケルを、400kHz〜500kHzのジルコン酸チタン酸鉛(PZT)を用い、超音波進行方向が基板面に当たる様に超音波発生器40を受台19の両側に設置している。なお図2において、23はメッキ液供給管、24は瀘渦装置につながっている排液管である。
【0015】前述したメッキ槽9の外部に設けられている陰極14としては、図3に示すように円柱状の芯金25の外周全面に導体26を固着したもの、図4に示すように円柱状の芯金25の外周にリング状の導体26を嵌め、二点鎖線で示すように芯金25に沿ってリング状の導体26を摺動して位置が変えられるようにしたもの、図5に示すように分割した導体26にスプリング27でクッション性を付与したもの、図6に示すように円柱状の芯金25の外周にスパイラル状に導体26を固着したもの、等を用いることができる。
【0016】また前述した回転送り機構16としては、図7に示すようにリング状の円周断面を半円形にしたり、図8に示すようにリング状の円周断面を鋭角にして、回転送り機構16の被メッキ物12に接する面積をなるべく少なくし、被メッキ物12のメッキが均一な平滑面になるようにする。そして図9に示すように回転送り機構16には複数の切り欠き孔28を穿設し、回転送り機構16の回転によってメッキ液10が撹拌されるようにする。
【0017】さらに前述した受台19としては例えば塩化ビニル樹脂を使用し、図10の(イ)に示すように被メッキ物12を支える溝に銅箔、ニッケル箔等のメッキの種別に対応した金属箔29を固着し、受台19の直上には、被メッキ物12を通過させるスリット30を有する遮蔽板31を設け、金属箔29に対してメッキ液10が直進して当たらないようにする。この(イ)のような構成では金属箔29上を被メッキ物12が滑り移動するが、被メッキ物12の切断面が粗い場合、滑りが悪く、通電にも問題が生じることがある。そこで、(ロ)に示すように被メッキ物の下端をV型にコロで支え、その上面を導電性ベルトを回転することによって、移動をスムースにすることができる。(ハ)はV型の案内溝を有する導電性コロで移動をさせるものであり、同(ニ)は被メッキ物の下端を両側からV型で保持し、導電性コロでスムースに移動できるようにしたものである。なお図2に示すメッキ槽9内部のメッキ液10の液面調節は調整板39によって調節され、液面は被メッキ物12の高さより約50mm上に設定される。又、図2中41は仕切板である。
【0018】図1で説明したメッキ槽9のスリット13,13を結ぶ線上に位置するようにして、メッキ槽9の中にガラス繊維強化樹脂等の電気絶縁物で作った区画室33が設けてあって、この区画室33の壁には、メッキ槽9のスリット13,13と同一平面上に並ぶように、対のスリット34が縦方向に設けられている。
【0019】そしてスリット34の近傍には、メッキ液10がスリット34を通って区画室33の内部に侵入しないようにするために液密手段35を設け、メッキ液10が侵入しないようにされている区画室33内には、スリット34と同一平面上に並ぶように第2の陰極36が設けられている。
【0020】図1の区画室33に設ける液密手段35並びに第2の陰極36としては、図12ないし図17に示す構成のものを用いることができる。
【0021】図12は、液密手段35としてゴムローラー、弾力性のあるプラスチックローラー、密閉袋ローラー等を使用し、第2の陰極36として半円形に曲げた板ばねを使用したものである。図13は、液密手段35として弾力のある複数のゴム板を使用し、第2の陰極36として銅製のブラシを使用したものである。
【0022】図14は、液密手段35として弾力性のある複数のゴム板を使用し、第2の陰極36として半円形に曲げた板ばねを使用したものである。図15は、区画室33の中に、ガラス繊維強化樹脂等の電気絶縁物で作った内部区画室37を設けて二重の区画室とし、スリット34の液密手段35としてゴムローラー、弾力性のあるプラスチックローラー、密閉袋ローラー等を使用し、内部区画室37にもスリット34と同一平面上に並ぶように液密手段35を有するスリット38を設け、内部区画室37の中に、ばねを備えた第2の陰極36を設けたものである。
【0023】図16は、弾力性のあるゴム、プラスチックの板状体を傾斜角度を持たせて対向させ、液密手段35としてスリット34に取り付けたものであり、図17は弾力性のあるゴム、プラスチックの板状体を同一平面に並べて対向させ、液密手段35としてスリット34に取り付けたものである。
【0024】次に、図1、図2に示す装置の作用を説明する。メッキ槽9の内部にメッキ液10を満たし、駆動チェーン17は図1において時計方向に循環駆動して回転送り機構16を回転させ、陽極11と陰極14及び第2の陰極36とを直流電源に接続する。
【0025】この状態で図1の上方の陰極14,14の間に被メッキ物12を差し込み、さらにこの被メッキ物12をスリット13、液密手段15,15の間を通してメッキ槽9の内部に入れていくと、被メッキ物12は図2R>2の受台19の上を滑りながら回転送り機構16によって図1の下方に送られる。
【0026】陰極14,14の間、スリット13、液密手段15,15の間通ってメッキ槽9の内部に入れられた被メッキ物12は、区画室33のスリット34を通って区画室33の内部に入り、区画室33の内部で第2の陰極36に接した後、区画室33から出て再びメッキ槽9の内部を通過し、メッキ槽9の外に出て陰極14に接することになる。
【0027】このため、長さの短い被メッキ物12であっても、メッキ槽9を通過し終わるまでの間の被メッキ物12は、陰極14または第2の陰極36のいずれかに接している状態になるため、短い被メッキ物12がメッキ槽9の内部を通過している間にメッキが施されることになる。
【0028】図11は本発明の実施の形態の他の例を示す横断平面図であって、陽極11が籠状になっており、その中に陽極用金属球32を入れるようになっているほかは、図1に示す実施の形態と同様の構成になっている。
【0029】
【発明の効果】請求項1の発明は、固定治具を用いることなく被メッキ物を陰極と同じ電位にしてメッキを通すことができるため手間がかからず、被メッキ物を通すためにメッキ槽の槽壁に設けられているスリットには液密手段が取り付けてあるため、メッキ液がメッキ槽の外部に洩れることがなく、陰極はメッキ槽の外部に設けてあるため余剰メッキ層が形成されず、メッキ槽の内部においても被メッキ物が第2の陰極にも接するため、長さの短い被メッキ物にもメッキを施すことができ、しかも第2の陰極はメッキ液の侵入しない区画室に設けてあるため、第2の陰極にも余剰メッキ層が形成されない効果がある。
【0030】請求項2の発明は、メッキ液が陽極によって撹拌されるため、むらのないメッキを施すことができる効果がある。請求項3の発明は、回転送り機構の回転によってさらにメッキ液が撹拌されるため、極めて均一なメッキを施すことができる効果がある。
【0031】請求項4の発明は、被メッキ物の重量は受台によって支持され、しかも受台の上方には遮蔽板があってメッキ液が直進して受台に当たらないため受台に余剰メッキ層が形成されず、メッキ槽の内部で被メッキ物を円滑に移動させることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す横断平面図である。
【図2】図1の縦断正面図である。
【図3】本発明に使用する陽極の実施の形態の一例を示す斜視図である。
【図4】本発明に使用する陽極の実施の形態の他の例を示す斜視図である。
【図5】本発明に使用する陽極の実施の形態のさらに他の例を示す斜視図である。
【図6】本発明に使用する陽極の実施の形態のさらに他の例を示す斜視図である。
【図7】本発明に使用する回転送り機構の実施の形態の一例を示す正面図である。
【図8】本発明に使用する回転送り機構の実施の形態の他の例を示す正面図である。
【図9】図7、図8の横断平面図である。
【図10】本発明に使用する被メッキ物の受台および遮蔽板の実施の形態の一例を示す縦断正面図である。
【図11】本発明の実施の形態の他の例を示す横断平面図である。
【図12】本発明に使用する区画室の実施の形態の一例を示す横断平面図である。
【図13】本発明に使用する区画室の実施の形態の他の例を示す横断平面図である。
【図14】本発明に使用する区画室の実施の形態のさらに他の例を示す横断平面図である。
【図15】本発明に使用する区画室の実施の形態のさらに他の例を示す横断平面図である。
【図16】本発明に使用する液密手段の一例を示す横断平面図である。
【図17】本発明に使用する液密手段の他の例を示す横断平面図である。
【図18】従来のメッキ装置の一例を示す斜視図である。
【図19】図18の縦断正面図である。
【図20】図19のA−A拡大断面図である。
【図21】図20とは異なる例を示す図19のA−A拡大断面図である。
【図22】図20の部分拡大図である。
【図23】図21の部分拡大図である。
【符号の説明】
9 メッキ槽
10 メッキ液
11 陽極
12 被メッキ物
13 スリット
14 陰極
15 液密手段
16 回転送り機構
19 受台
21 揺動機構
30 スリット
31 遮蔽板
33 区画室
34 スリット
35 液密手段
36 第2の陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】 メッキ液を満たしたメッキ槽と、該メッキ槽内に設けられた陽極と、前記メッキ槽の外部に設けられた陰極と、前記メッキ槽の槽壁に設けられた対のスリットと、該スリットに設けられ前記メッキ液のメッキ槽外への洩れを防ぐ液密手段と、前記メッキ槽の中に設けられた区画室と、該区画室内に設けられた第2の陰極と、前記区画室の室壁に設けられた対の第2のスリットと、該第2のスリットに設けられ前記メッキ液の区画室内への侵入を防ぐ液密手段とを備え、被メッキ物が前記陰極に接しスリットを通ってメッキ槽内に入って陽極に接し、第2のスリットを通って区画室内に入り、第2の陰極接し第2のスリットを通って区画室を通過し、陽極に接しスリットを通ってメッキ槽外に出て陰極に接するようにしたことを特徴とする自動メッキ装置。
【請求項2】 陽極に揺動機構が接続されていることを特徴とする請求項1記載の自動メッキ装置。
【請求項3】 切り欠き孔を有する被メッキ物の回転送り機構を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の自動メッキ装置。
【請求項4】 メッキ槽内の下部に設けられた被メッキ物の受台と、該受台の上方に設けられ被メッキ物を通過させるスリットを有する遮蔽板と、を備えたことを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3記載の自動メッキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【特許番号】特許第3037179号(P3037179)
【登録日】平成12年2月25日(2000.2.25)
【発行日】平成12年4月24日(2000.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−22709
【出願日】平成9年2月5日(1997.2.5)
【公開番号】特開平10−273799
【公開日】平成10年10月13日(1998.10.13)
【審査請求日】平成10年7月14日(1998.7.14)
【出願人】(391065770)栄電子工業株式会社 (1)
【出願人】(592074511)
【参考文献】
【文献】特開 平2−182895(JP,A)