説明

自動二輪車の燃料タンク

【課題】座席シートと燃料タンクとの隙間を大きくすることなくブリーザ装置を設置し、ブリーザ装置の気液分離効果を十分に発揮する構造を提供する。
【解決手段】燃料タンク5のブリーザ装置54は、タンク本体51の上面部515に上方に向けて突設された中空形状のセパレータハウジング541と、タンク本体の貯留空間S1を通り、一端側がタンク本体の上面部からセパレータハウジングの内部空間S2に突出し、他端側がタンク本体から外部に延出するブリーザパイプ542とを備え、セパレータハウジングには、タンク本体の貯留空間とセパレータハウジングの内部空間とを連通する細孔563が形成されており、ブリーザパイプの一端側の開口端566が、セパレータハウジングの天井面564に対向するように構成された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車の燃料タンクに関し、特にブリーザ装置を備えた燃料タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に対する影響を考慮して、燃料タンク内からの燃料蒸気(エバポレーションガス)の排出を抑えることが望まれている。この燃料蒸気を抑制するために、車両には燃料蒸気吸着用の活性炭が詰め込まれたキャニスターが搭載されている。キャニスターを安定的に機能させるためには、気体だけをキャニスターに送る必要がある。このため、燃料タンクには、気体だけをキャニスターに送るように気液分離するブリーザ装置が設けられている。
【0003】
この種のブリーザ装置として、タンク上面にセパレータハウジングを外方に向けて突設し、セパレータハウジングの側面にブリーザパイプを貫通させたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のブリーザ装置では、セパレータハウジングの内部空間とタンクの貯留空間とが細孔によって連通されており、細孔を通じて貯留空間からの燃料蒸気がセパレータハウジングに取り込まれる。セパレータハウジング内の燃料蒸気は上昇に伴って気液分離され、ブリーザパイプを通じてキャニスターに送られる。このブリーザ装置ではタンクの外側に設置されることで、タンク内の容積が広く確保されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−321677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ビジネスタイプ等のアンダーボーン車両では、燃料タンクの上方に座席シートが配置される。上記したブリーザ装置では、ブリーザパイプがタンク上方を通るため、燃料タンクと座席シートとの間にブリーザパイプとの干渉を避けるために大きな隙間を確保しなければならなかった。また、ブリーザ装置に十分な気液分離効果を発揮させるには、タンク内の燃料液面からの距離(水頭差)を稼ぐことが重要となっている。しかしながら、ハウジングの側面をブリーザパイプが貫通するため、ハウジングの高い位置にブリーザパイプを設けても、パイプ径分だけ燃料液面からの距離が短くなっていた。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、座席シートと燃料タンクとの隙間を大きくすることなくブリーザ装置を設置でき、ブリーザ装置の気液分離効果を十分に発揮できる自動二輪車の燃料タンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の自動二輪車の燃料タンクは、燃料が貯留されるタンク本体にブリーザ装置を設置した自動二輪車の燃料タンクにおいて、前記ブリーザ装置は、前記タンク本体の上面部に上方に向けて突設された中空形状のハウジングと、前記タンク本体の貯留空間を通り、一端側が前記タンク本体から前記ハウジングの内部空間に突出し、他端側が前記タンク本体から外部に延出するブリーザパイプとを備え、前記ハウジングには、前記タンク本体の貯留空間と前記ハウジングの内部空間とを連通する貫通孔が形成されており、前記ブリーザパイプの一端側の開口端が、前記ハウジングの天井面に対向することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、ブリーザパイプがタンク本体外の上方を通るように延在するのではなく、タンク本体の貯留空間を通るように延在している。よって、座席シートと燃料タンクとの間にブリーザパイプとの干渉を回避するために大きな隙間を確保する必要がない。また、座席シートと燃料タンクとの間に大きな隙間を確保せずに、ハウジングの高さ寸法を十分に確保することができる。さらに、ハウジングの内部空間においてブリーザパイプの一端側の開口端が天井面に対向するため、タンク本体の燃料液面から開口端までの距離(水頭差)を稼ぐことができ、ブリーザ装置の気液分離効果を十分に発揮できる。
【0009】
また本発明の上記自動二輪車の燃料タンクにおいて、前記タンク本体は、上側半体と下側半体とを接合して構成され、前記上側半体に前記ハウジング及び前記ブリーザパイプが取り付けられる。この構成によれば、上側半体にハウジング及びブリーザパイプを取り付けた後に、上側半体と下側半体とを組み付けることで、組み付けが容易となり製造コストを削減できる。
【0010】
また本発明の上記自動二輪車の燃料タンクにおいて、前記タンク本体は、前記座席シートと後輪との間に配置されており、前記タンク本体の底面部には、前記後輪に対応して上向きに凹む凹部が設けられる。この構成によれば、タンク本体の底面部に形成された凹部によって、後輪との接触を回避しつつ燃料タンクの容積を大きくすることができる。
【0011】
また本発明の上記自動二輪車の燃料タンクにおいて、前記タンク本体の上面部に給油管が設けられており、前記ハウジングは、前記給油管に対して車幅方向において重なるように配置される。この構成によれば、タンク本体の上面部におけるハウジング及び給油管の設置領域を車両前後方向において狭くして、ハウジング及び給油管に対応して座席シートに形成される逃げ部の前後長を短くできる。このため、運転者の体重を支持するクッション領域から外れた位置に逃げ部を配置することができ、運転者の乗り心地を向上できる。
【0012】
また本発明の上記自動二輪車の燃料タンクにおいて、前記ハウジングは、車幅方向において、車両を傾けて自立させるサイドスタンドに対して逆側に設けられる。この構成によれば、サイドスタンドによって車両が傾いた状態では、傾いた側でタンク本体内の燃料液面が高くなる。よって、サイドスタンドと逆側にハウジングを設けることで、ハウジング内に燃料が侵入することを確実に防止できる。
【0013】
また本発明の上記自動二輪車の燃料タンクにおいて、前記タンク本体における車両前方側に取り付けられた燃料ポンプを備え、前記タンク本体は、車両前方に向って深くなるように形成される。この構成によれば、タンク本体の深い位置に燃料ポンプの吸入口を配置することで、タンク本体内に貯留された燃料を残ることなくエンジンに供給できる。
【0014】
また本発明の上記自動二輪車の燃料タンクにおいて、前記ハウジングは、前記タンク本体における車両後方側に設けられる。この構成によれば、慣性力によってタンク本体内の燃料液面が変動して、タンク本体内からのハウジング内への燃料の侵入を抑制できる。燃料液面に作用する慣性力のうち最も影響が大きいのは車両制動時に作用する前方への慣性力であり、車両加速時の後方への慣性力よりも強くて持続時間が長い。このため、車両後方側にハウジングが設けられることで、車両制動時におけるハウジング内への燃料の侵入を抑制し、十分な気液分離効果を維持できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の自動二輪車の燃料タンクによれば、座席シートとタンク本体との隙間を大きくすることなくブリーザ装置を設置でき、ブリーザ装置に気液分離効果を十分に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施の形態に係る自動二輪車の右側面図である。
【図2】本実施の形態に係る自動二輪車の左側面図である。
【図3】本実施の形態に係る燃料タンクの上面図である。
【図4】図3のA−A線に沿う断面図である。
【図5】図3のB−B線に沿う断面図である。
【図6】本実施の形態に係るブリーザ装置周辺の斜視図である。
【図7】本実施の形態に係るブリーザ装置の設置位置と燃料液面との関係を示す説明図である。
【図8】本実施の形態にブリーザ装置による気液分離構造の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。なお、以下においては、本発明に係る燃料タンクをビジネスタイプの自動二輪車に適用した例について説明するが、適用対象はこれに限定されることなく変更可能である。例えば、本発明に係る燃料タンクを、他のタイプの自動二輪車に適用しても良い。
【0018】
図1及び図2を参照して、本実施の形態に係る自動二輪車全体の構成について説明する。図1は、本実施の形態に係る自動二輪車の右側面図であり、図2は、本実施の形態に係る自動二輪車の左側面図である。なお、以下の図においては、車体前方を矢印FR、車体後方を矢印RE、車両右側を矢印R、車両左側を矢印Lでそれぞれ示す。
【0019】
図1及び図2に示すように、ビジネスタイプの自動二輪車1は、鋼製又はアルミ合金製のアンダーボーン型の車体フレーム(不図示)に車体外装としての各種カバーを装着して構成されている。この自動二輪車1は、前方に運転者の足回りを保護するレッグシールド21が設けられている。レッグシールド21の後方には、センターフレームカバー22が設けられている。センターフレームカバー22の後方には、サイドフレームカバー23が設けられている。
【0020】
車体前方には、ステアリングシャフト(不図示)を介してフロントフォーク31が回転可能に支持されている。フロントフォーク31の上方には、前輪3を操舵するためのハンドルバー32が設けられている。車体右側のハンドルバー32にはブレーキレバー33が設けられており、ハンドルバー32の前方にはヘッドランプ34が設けられている。フロントフォーク31の下部には前輪3が回転可能に支持されると共に、前輪3の上部を覆うフロントフェンダ35が設置されている。前輪3には、ブレーキディスク36とブレーキディスク36を挟持するキャリパー37とが設けられている。
【0021】
サイドフレームカバー23の上側には、座席シート8が設けられている。サイドフレームカバー23の側部には、座席シート8の後側に対応して同乗者用のグラブバー46が設けられている。サイドフレームカバー23の後部にはテールランプ44及びリヤフェンダ45が設けられている。サイドフレームカバー23の内側には、座席シート8の下方に燃料タンク5が配置されている。
【0022】
サイドフレームカバー23の下側には、スイングアーム41が上下方向に揺動可能に支持されており、車体フレームとスイングアーム41との間にはサスペンション42が取り付けられている。車両左側のスイングアーム41には、リヤスプロケット及びチェーンが格納されるチェーンカバー43が設けられている。このリヤスプロケット及びチェーンによってエンジン10の動力が後輪4に伝達される。また、チェーンカバー43の前方側には、車両を支持するサイドスタンド47が設けられている。
【0023】
センターフレームカバー22の内側には、エアクリーナボックス(不図示)が配置されている。レッグシールド21は、フロントフェンダ35との隙間からエアクリーナボックスに空気を取り込むように形成されている。エアクリーナボックスに導かれた空気は、インテークパイプ(不図示)を通じてレッグシールド21の後方下側に配置されるエンジン10に送り込まれる。
【0024】
エンジン10は、シリンダを前方に向けて略水平方向に倒した状態で車体フレームに懸架されている。エンジン10には、インテークパイプを通じて空気が取り込まれ、燃料噴射装置にて空気と燃料とが混合されて燃焼室に供給される。燃焼後の燃焼ガスは、エンジン10の右側面において後方に延出されたエキゾーストパイプ101を経てマフラ102から排気ガスとして排出される。
【0025】
図3から図5を参照して燃料タンクについて説明する。図3は、本実施の形態に係る燃料タンクの上面図である。図4は、図3のA−A線に沿う断面図である。図5は、図3のB−B線に沿う断面図である。
【0026】
図3から図5に示すように、燃料タンク5のタンク本体51は、下面を開放したアッパシェル(上側半体)511と上面を開放したロアシェル(下側半体)512とをフランジ513、514で接合して構成される。タンク本体51には、アッパシェル511とロアシェル512との接合によって、エンジン10に供給される燃料の貯留空間S1が形成される。タンク本体51の貯留空間S1は、車両前方に向って深くなっており、タンク本体51における車両前側において車両後側よりも多くの燃料を貯留可能に形成されている。
【0027】
アッパシェル511における車両後側には、上面部515を貫通するようにしてインレットパイプ(給油管)52が設けられている。インレットパイプ52の上端側には、給油口が形成されており、この給油口を閉塞するようにタンクキャップ53が取り付けられている。タンクキャップ53を外した状態で、インレットパイプ52の給油口に不図示の給油ガンが接続されることで、タンク本体51の貯留空間S1に燃料が供給される。燃料は、インレットパイプ52の下端面に燃料液面Pが接する高さになるまで供給される。
【0028】
アッパシェル511には、インレットパイプ52の近傍に、タンク本体51内からの燃料蒸気を気液分離するブリーザ装置54が設けられている。ブリーザ装置54は、アッパシェル511の上面部515に突設するセパレータハウジング(ハウジング)541を有している。セパレータハウジング541は、アッパシェル511の上面部515に形成された開口に取り付けられている。セパレータハウジング541には、タンク本体51の貯留空間S1を通って外部に延出するブリーザパイプ542が接続されている。
【0029】
セパレータハウジング541には、一対の細孔(貫通孔)563を介してタンク本体51からの燃料蒸気が取り込まれ、セパレータハウジング541からブリーザパイプ542に入る際に燃料蒸気が気液分離される。ブリーザパイプ542内の燃料蒸気は、ブリーザホース543を介してキャニスター(不図示)に送られる。この場合、ブリーザホース543に設けられたパージバルブ544によって、キャニスターに対する燃料蒸気の送り量が調整される。なお、ブリーザ装置54の詳細については後述する。
【0030】
アッパシェル511における車両前側には、上端側の一部分を除いてタンク本体51内に収容されるように燃料ポンプ55が設けられている。燃料ポンプ55の下端部には、ロアシェル512の底面部516近傍で燃料を吸い込むストレーナ551が設けられている。燃料ポンプ55の駆動により、下端部のストレーナ551から燃料が汲み上げられ、上端部のジョイント部552に接続されたホース(不図示)を介してエンジン10に燃料が圧送される。ストレーナ551は、タンク本体51の深い位置から燃料を汲み上げるように車両前側に位置付けられるため、エンジン10に対して限界まで燃料を供給可能となっている。
【0031】
ロアシェル512の底面部516は、車両前方に向って貯留空間S1を広くするように前下がりに形成されている。また、ロアシェル512の底面部516には、車幅方向の中央部分において、上向きに凹むアーチ状の凹部517が設けられている。凹部517は、タンク本体51の下方に位置する後輪4に対応するように車両前後方向に延在する。この凹部517によって、スイングアーム41が上動した場合でも後輪4とロアシェル512との接触が回避される。また、凹部517が後輪4に対応したアーチ状に形成されることで、凹部517による貯留空間S1の容積の減少が最小限に抑えられる。
【0032】
燃料タンク5の上方には、タンク本体51との間に隙間Cを設けるように座席シート8が配置されている。本実施の形態では、ブリーザパイプ542がタンク本体51の貯留空間S1を通るため、タンク本体51外(アッパシェル511外)の上方にブリーザパイプ542が延在することがない。よって、座席シート8とブリーザパイプ542との干渉が回避され、タンク本体51と座席シート8の隙間Cが狭く設けられている。
【0033】
座席シート8には、ブリーザ装置54及びインレットパイプ52から逃げる逃げ部518が形成されている。この場合、セパレータハウジング541及びインレットパイプ52は、車幅方向において部分的に重なるように配置されている。セパレータハウジング541及びインレットパイプ52の設置領域を車両前後方向で狭くすることで、座席シート8に形成される逃げ部518の前後長を短くできる。このため、運転者の体重を支持するクッション領域から外れた位置に逃げ部518を配置することが可能となり、運転者の乗り心地を向上できる。
【0034】
タンク本体51は、アッパシェル511に対してのみブリーザ装置54が取り付けられている。この場合、セパレータハウジング541やブリーザパイプ542をアッパシェル511に取り付けた後に、アッパシェル511とロアシェル512とを接合すればよいので、燃料タンク5の組み立て作業を簡略化できる。これに対して、アッパシェル511及びロアシェル512の両方にブリーザパイプ542が取り付けられる場合、ブリーザパイプ542の取り付け位置が上下するため、燃料タンク5の組み立て作業が複雑になる。このように、本実施の形態に燃料タンク5では、組み立て作業が簡略化されることで、製造コストが軽減されている。
【0035】
図6及び図7を参照して、ブリーザ装置について詳細に説明する。図6は、本実施の形態に係るブリーザ装置周辺の斜視図である。図7は、本実施の形態に係るブリーザ装置の設置位置と燃料液面との関係を示す説明図である。
【0036】
図6に示すように、ブリーザ装置54は、アッパシェル511における車両後方側で、インレットパイプ52(タンクキャップ53)の右側に設けられている。ブリーザ装置54のセパレータハウジング541は、下面を開放した略円筒状に形成されたアッパハウジング561に円板状のロアプレート562を取り付けて構成される。ロアプレート562には、セパレータハウジング541の内部空間S2とタンク本体51の貯留空間S1とを連通する一対の細孔563が形成されている。アッパシェル511及びロアプレート562には、タンク本体51の貯留空間S1においてU字状に延在するブリーザパイプ542の両端側が取り付けられている。
【0037】
ブリーザパイプ542の一端側は、タンク本体51の貯留空間S1からアッパハウジング561内に突き出るようにロアプレート562に接続されている。ブリーザパイプ542の一端側の開口端566は、アッパハウジング561の天井面564(図8参照)に対向するように上方に向けられている。このため、ブリーザパイプ542の一端側の開口端566は、僅かな隙間を残してアッパハウジング561の天井面564に近付けられている。このように、ブリーザパイプ542の一端側の開口端566がアッパハウジング561の天井面564に近付けられるため、タンク本体51に貯留された燃料液面Pからの距離(水頭差)を稼ぐことができ、気液分離効果を十分に発揮することが可能となっている。また、燃料液面Pからの距離を稼ぐことができるため、アッパハウジング561の高さ寸法を小さくすることもできる。
【0038】
ブリーザパイプ542の他端側は、タンク本体51の貯留空間S1から外部に突き出るようにアッパシェル511に接続されている。ブリーザパイプ542の他端側の先端部分には、ブリーザホース543が接続されるニップル565が形成されている。このように構成されたブリーザ装置54では、ロアプレート562の細孔563から入り込んだ燃料蒸気が、アッパハウジング561内を上昇する間にガス中の油分が分離される。そして、油分が分離された燃料蒸気がブリーザパイプ542の開口端566とアッパハウジング561の天井面564との隙間からブリーザパイプ542内に入り込んでキャニスター(不図示)に送られる。
【0039】
また図7A、Bに示すように、ブリーザ装置54は、アッパシェル511における上面部515において、車両右側に偏倚して配置されている。すなわち、ブリーザ装置54は、車両左側に設けられたサイドスタンド47に対して逆側に設けられている。図7Aに示すように、車両が直立した状態では、タンク本体51における左右両側において燃料液面Pの高さが略均等になる。このため、タンク本体51の右側に位置するセパレータハウジング541と燃料液面Pとの距離が確保されるため、セパレータハウジング541の内部空間S2への燃料の侵入が抑制される。
【0040】
図7Bに示すように、車両停止時にサイドスタンド47によって車両が左側に傾けられた状態では、タンク本体51の左側よりも右側において燃料液面Pが低くなる。このため、タンク本体51の右側に位置するセパレータハウジング541と燃料液面Pとの距離が十分に離されるため、セパレータハウジング541の内部空間S2への燃料の侵入が抑制される。なお、本実施の形態では、サイドスタンド47を車両左側に設けたが、車両右側に設けてもよい。この場合、ブリーザ装置54をサイドスタンド47とは逆側の車両右側に設けるようにする。
【0041】
図7C、Dに示すように、ブリーザ装置54は、アッパシェル511における上面部515で、車両後方に偏倚して配置されている。タンク本体51に貯留された燃料は、走行中に受ける慣性力によって燃料液面が変動し、セパレータハウジング541の内部空間S2に侵入するおそれがある。図7Cに示すように、車両加速時には燃料液面Pに対して後方に慣性力が作用する。しかしながら、車両加速時の慣性力は比較的弱く、タンク本体51における車両後方側で燃料液面Pが急激に高くなることはない。よって、セパレータハウジング541が車両後方側に位置する場合でも、セパレータハウジング541と燃料液面Pとの距離が確保され、セパレータハウジング541の内部空間S2への燃料の侵入が抑制される。
【0042】
一方、図7Dに示すように、車両制動時には燃料液面Pに対して前方に強い慣性力が作用する。車両制動時の慣性力は、燃料液面Pに作用する慣性力の中で最も影響が大きく、車両加速時の慣性力よりも強くて持続時間も長い。この場合、タンク本体51における車両前方側で燃料液面Pが急激に高くなり、車両後方側で燃料液面Pが低くなる。セパレータハウジング541が車両後方側に位置するため、セパレータハウジング541と燃料液面Pとの距離が確保され、セパレータハウジング541の内部空間への燃料の侵入が抑制される。このように、ブリーザ装置54は、アッパシェル511の上面部515において、燃料液面Pの変動によって燃料が侵入し難い位置に設けられ、ブリーザ装置54による気液分離効果が十分に発揮される。
【0043】
図8を参照して、ブリーザ装置による気液分離構造について説明する。図8は、本実施の形態に係るブリーザ装置による気液分離構造の説明図である。なお、図8Aは、比較例に係るブリーザ装置による気液分離構造を示し、図8Bは、本実施の形態に係るブリーザ装置の気液分離構造を示す。
【0044】
図8Aに示すように、比較例に係るブリーザ装置83は、ブリーザパイプ86をセパレータハウジング87の側面に貫通させている点で、本実施の形態に係るブリーザ装置54と異なっている。このブリーザ装置83は、セパレータハウジング87の天井面88付近にブリーザパイプ86を設けているが、ブリーザパイプ86のパイプ径θ分だけ燃料液面Pからの距離L2(水頭差)が短くなる。したがって、比較例に係るブリーザ装置83では、燃料液面Pからの距離を確保して気液分離効果を発揮するためには、セパレータハウジング87の高さ寸法を大きくとる必要がある。
【0045】
セパレータハウジング87から突出したブリーザパイプ86のニップルには、ブリーザホース89が接続されている。この場合、タンク本体84の上面部85には、インレットパイプ等も配置されるため、ブリーザホース89の引き回しが困難となっている。また、タンク本体84外の上方を通るようにブリーザホース89が延在するため、座席シートと燃料タンク81との間にブリーザホース89との干渉を回避するために大きな隙間を確保する必要がある。
【0046】
図8Bに示すように、本実施の形態に係るブリーザ装置54では、セパレータハウジング541の天井面564に対向するようにブリーザパイプ542の開口端566が上方に向けられている。ブリーザパイプ542の開口端566は、アッパハウジング561の天井面564に対して僅かな隙間を残して限界まで近付けられている。このため、燃料液面Pからブリーザパイプ542の開口端566までの距離L1を稼ぐことができる。したがって、本実施の形態に係るブリーザ装置54では、セパレータハウジング541の高さ寸法を大きくすることなく、ブリーザ装置54の気液分離効果が十分に発揮される。
【0047】
ブリーザパイプ542は、アッパシェル511の上面部515に配置されたインレットパイプ52や燃料ポンプ55等を避けるようにして、タンク本体51の貯留空間S1を通って外部に延出している。外部に突出したブリーザパイプ542のニップル565には、ブリーザホース543が接続される。インレットパイプ52等を避けた位置でブリーザパイプ542にブリーザホース543が接続されるため、インレットパイプ52等によってブリーザホース543の引き回しが阻害されることがない。
【0048】
また、ブリーザパイプ542は、タンク本体51の貯留空間S1を通るため、座席シート8と燃料タンク5との間にブリーザパイプ542との干渉を回避するために大きな隙間Cを確保する必要がない(図4、図5参照)。このように、本実施の形態に係るブリーザ装置54は、セパレータハウジング541の高さ寸法を小さくでき、さらに燃料タンク5と座席シート8との隙間を小さくできるため、タンク本体51の貯留空間S1を大きくすることもできる。
【0049】
以上のように、本実施の形態に係る燃料タンク5によれば、ブリーザパイプ542がタンク本体51外の上方を通るように延在するのではなく、タンク本体51の貯留空間S1を通るように延在している。よって、座席シート8と燃料タンク5との間にブリーザパイプ542との干渉を回避するために大きな隙間Cを確保する必要がない。また、セパレータハウジング541の内部空間S2においてブリーザパイプ542の一端側の開口端566が天井面564に対向するため、タンク本体51の燃料液面Pから開口端566までの距離を稼ぐことができ、ブリーザ装置54の気液分離効果を十分に発揮できる。
【0050】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0051】
例えば、本実施の形態に係る燃料タンクでは、ブリーザパイプの開口端をセパレータハウジングの天井面に僅かな隙間を残して近付ける構成としたが、この構成に限定されない。ブリーザパイプの開口端は、燃料蒸気の通路が形成されるように、セパレータハウジングの天井面に対向すればよい。例えば、ブリーザパイプの開口端を部分的に切り欠いてハウジングの天井面に接触させてもよい。
【0052】
また、本実施の形態に係る燃料タンクでは、ロアプレートに形成された細孔を介してタンク本体の貯留空間とセパレータハウジングの内部空間とが連通する構成としたが、この構成に限定されない。タンク本体の貯留空間からセパレータハウジングの内部空間に燃料蒸気が取り込まれる構成であれば、どのような構成でもよい。
【0053】
また、本実施の形態に係る燃料タンクでは、ブリーザパイプがアッパシェルの上面部を貫通して外部に延出する構成としたが、この構成に限定されない。ブリーザパイプは、アッパシェルの側面部を貫通して外部に延出してもよいし、ロアシェルを貫通して外部に延出してもよい。
【0054】
また、本実施の形態に係る燃料タンクでは、ロアシェルの底面部にアーチ状に凹んだ凹部を有する構成としたが、この構成に限定されない。凹部は、ロアシェルと後輪との接触を回避するように凹んでいれば、どのような形状でもよい。
【0055】
また、本実施の形態に係る燃料タンクでは、アッパシェルの上面部において、車両後方側かつ車両右側にセパレータハウジングを設ける構成としたが、この構成に限定されない。タンク本体の貯留空間からセパレータハウジングの内部空間に燃料が侵入しない程度にブリーザ装置の開口端から燃料液面が離間していれば、セパレータハウジングの配置場所は限定されない。
【符号の説明】
【0056】
1 自動二輪車
5 燃料タンク
8 座席シート
10 エンジン
47 サイドスタンド
51 タンク本体
52 インレットパイプ(給油管)
53 タンクキャップ
54 ブリーザ装置
55 燃料ポンプ
511 アッパシェル(上側半体)
512 ロアシェル(下側半体)
515 上面部
516 底面部
517 凹部
518 逃げ部
541 セパレータハウジング(ハウジング)
542 ブリーザパイプ
551 ストレーナ
561 アッパハウジング
562 ロアプレート
563 細孔(貫通孔)
564 天井面
565 ニップル
566 開口端
S1 貯留空間
S2 内部空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料が貯留されるタンク本体にブリーザ装置を設置した自動二輪車の燃料タンクにおいて、
前記ブリーザ装置は、
前記タンク本体の上面部に上方に向けて突設された中空形状のハウジングと、
前記タンク本体の貯留空間を通り、一端側が前記タンク本体から前記ハウジングの内部空間に突出し、他端側が前記タンク本体から外部に延出するブリーザパイプとを備え、
前記ハウジングには、前記タンク本体の貯留空間と前記ハウジングの内部空間とを連通する貫通孔が形成されており、
前記ブリーザパイプの一端側の開口端が、前記ハウジングの天井面に対向することを特徴とする自動二輪車の燃料タンク。
【請求項2】
前記タンク本体は、上側半体と下側半体とを接合して構成され、
前記上側半体に前記ハウジング及び前記ブリーザパイプが取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の自動二輪車の燃料タンク。
【請求項3】
前記タンク本体は、前記座席シートと後輪との間に配置されており、
前記タンク本体の底面部には、前記後輪に対応して上向きに凹む凹部が設けられることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自動二輪車の燃料タンク。
【請求項4】
前記タンク本体の上面部に給油管が設けられており、
前記ハウジングは、前記給油管に対して車幅方向において重なるように配置されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の自動二輪車の燃料タンク。
【請求項5】
前記ハウジングは、車幅方向において、車両を傾けて自立させるサイドスタンドに対して逆側に設けられることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の自動二輪車の燃料タンク。
【請求項6】
前記タンク本体における車両前方側に取り付けられた燃料ポンプを備え、
前記タンク本体は、車両前方に向って深くなるように形成されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の自動二輪車の燃料タンク。
【請求項7】
前記ハウジングは、前記タンク本体における車両後方側に設けられることを特徴とする請求項6に記載の自動二輪車の燃料タンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−95231(P2013−95231A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238654(P2011−238654)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)