説明

自動水栓装置

【課題】電波センサを用いた自動水栓装置であって、デザイン自由度を損なうことがなく、連通管の形状によらず、外部衝撃による誤吐水を確実に防止することができる自動水栓装置を提供する。
【解決手段】水栓本体1Aと、水管20と、使用者の動作状態を検知するための電波センサ40と、吐水弁30の開閉を切り替えて吐水と止水を行う制御部50を備えた自動水栓装置1において、連通管10内と水管20との間に形成された電波通過用空間と、吐水口部10cに形成された電波放射口27と、電波通過用空間を通して電波を出力する電波センサ40と、電波通過用空間のうち、少なくとも連通管10の屈曲部10bに対応する部位において、水管20と並設されるように配置された同軸ケーブル60とを備え、電波放射口にアンテナが設けられ、このアンテナを介して同軸ケーブルによって伝送された電波を外部に放射するよう構成された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動水栓装置に関し、特に電波センサを用いて吐水・止水を自動的に行う自動水栓装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、使用者の手の存在を検知して吐水・止水を自動的に行う自動水栓装置が知られている。例えば、特許文献1に記載された自動水栓装置では、連通管内に、洗浄水を供給する水管と共に、超音波センサの検知信号を伝送する導波管が配置され、洗浄水及び検知信号が吐水口部から出力されるようになっている。
【0003】
しかしながら、上記自動水栓装置では、超音波センサの発信素子及び受信素子が連通管内に設けられ、さらに送信用と受信用の2本の導波管が連通管内で先端に向けて延びているので、連通管内に多くの部品を配置しなければならず、自動水栓装置のデザイン自由度が極めて制限されてしまうという問題があった。
【0004】
このような問題を解決するために、本願出願人は、先の出願(特願2010−200615)において、洗浄水を供給する水管を内部に通した連通管と、水栓装置の基端側に設けた電波センサとを有する自動水栓装置を提案している。
【0005】
この先の出願に係る自動水栓装置では、水栓装置の基端側に設けられた電波センサの出力電波を、吐水口部に形成された電波放射口まで伝送させるために、専用の導波管を用いておらず、その代わりに連通管内と水管との間に形成された電波通過用空間を導波管として利用している。このため、自動水栓装置のデザイン自由度を大幅に向上させることができる。また、電波センサを用いているため応答性を良好とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−265324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本願発明者は、本願出願人の先の出願に係る上記自動水栓装置において、掃除作業時や物を置くときに連通管やその取付台に外部衝撃が加わったり、ウォータハンマ現象によって水管へ外部衝撃が加わったりして、連通管内の電波通過用空間で水管が相対的に振動した場合に、水栓装置特有の課題があることを見出した。
【0008】
すなわち、連通管内の電波通過用空間はデザイン性確保のため大きくすることができない。このため、上記振動がたとえ小さな振動であっても、デザイン性向上のため電波通過用空間を小さくすればするほど水管に当たる電波の電力量は大きくなり、水管の振動を人の手の動きと誤検知し、誤吐水が生じるおそれがあるという新たな課題を本願発明者は見出した。この課題は、洗浄水を供給する水管を内部に通した連通管と、水栓装置の基端側に設けた電波センサとを有する自動水栓装置ならではの特有の新たな課題である。なお、このような誤検知は、受信信号をフィルタ処理することによりある程度防止することができるが、電波センサの良好な応答性を低減することになるので、好ましいものではない。
【0009】
一方、特許文献1に係る自動水栓装置のように導波管を用いた自動水栓装置の場合、導波管が、その内部電波通路の電波通過特性が安定する直線状であれば、外部衝撃が加わった際の誤検知のおそれを低減することができる。したがって、本願出願人の先の出願に係る上記自動水栓装置において、連通管内に導波管を配置することも考えられる。
【0010】
しかしながら、本願発明者は、連通管及び導波管が屈曲する場合には、外部衝撃を受けた際に誤検知が生じ易くなることを見出した。すなわち、自動水栓装置のデザインによっては、連通管が屈曲した形状を有し、その内部に配置される導波管も屈曲した形状を有する必要がある。そして、自動水栓装置の組み付けにおいて、狭い内径の屈曲した連通管にフレキシブルな導波管及び水管を挿入していくと、屈曲部で導波管が捩れたり、一部が凹んだりするおそれがある。特に、連通管の内径が小さい場合には顕著である。導波管の設計は、電波の波長に対する寸法が重要であるので、捩れや凹みは、不安定な電波通過特性につながってしまう。本願発明者は、このような不安定な電波通過特性を有する導波管が外部衝撃によって振動すると、誤検知を生じ易くなってしまうと考えられる。
【0011】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、電波センサを用いた自動水栓装置であって、デザイン自由度を損なうことがなく、連通管の形状によらず、外部衝撃による誤吐水を確実に防止することができる自動水栓装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するために、本発明は、支持体に基端部が固定され使用者側に向けて延在する連通管と吐水弁を備えた水栓本体と、連通管内に配置され、水栓本体の端部である吐水口部に形成された吐水口に洗浄水を供給する水管と、使用者の動作状態を検知するための電波センサと、電波センサの信号に基づいて吐水弁の開閉を切り替えて、吐水口からの洗浄水の吐水と止水を行う制御手段と、を備えた自動水栓装置において、連通管内と水管との間に形成された電波を通過させるための電波通過用空間と、吐水口部に形成された電波放射口と、水栓本体の基端部側に設けられ、電波通過用空間を通して電波を出力するように配置された電波センサと、電波通過用空間内で水管と並設されるように配置された同軸ケーブルであって、この同軸ケーブルを介して電波センサーからの電波を電波放射口に伝送するように構成された前記同軸ケーブルと、を備え、電波放射口に電波の指向性を調整するアンテナが設けられ、このアンテナを介して同軸ケーブルによって伝送された電波を外部に放射するよう構成されたことを特徴としている。
【0013】
上述のように、連通管内に配置した導波管を介して電波センサから電波放射口まで電波を伝播させる方式では、連通管の形状によっては、電波センサによる誤検知が発生し易くなることを本願発明者は見出した。すなわち、上記特許文献1の導波管のように、導波管が略直線状であれば誤検知は発生しないが、連通管が屈曲した形状を有し、連通管内部に配置された導波管も連通管の屈曲形状に合わせて屈曲するような場合においては誤検知が発生し易くなる。
【0014】
具体的には、連通管の屈曲部に導波管を配置する際には導波管が捩れたり一部が凹んだりするおそれがある。そして、このような捩れや凹みを有し、電波通過特性が不安定になった導波管においては、水栓装置や洗面台等が振動すると、この振動によって導波管内を伝播する電波も変位し、この変位量が使用者による手の検知範囲への出し入れと誤って判断されてしまい、誤吐止水が発生し易くなるという問題が見つかった。
この問題を解決するため、電波センサによる検出信号を処理する特別なフィルタを設けることも考えられるが、吐止水の反応速度が犠牲になるため、電波センサの応答性の良さというメリットを損なってしまう。
【0015】
このため、本発明の自動水栓装置では、連通管の内部に水管と並設して同軸ケーブルを配置し、この同軸ケーブルによって電波センサからの電波を電波放射口に伝送するように構成されている。これにより、水栓や洗面台等が振動して、連通管,水管,同軸ケーブル等が互いに相対移動しても、同軸ケーブル内を伝送する電波信号は連通管、水管の振動を検知することがないため、振動の影響による誤判定を防止することができる。また、導波管と比べて同軸ケーブルを採用する方が、捩れや凹みによる電波通過特性の変化への影響が小さいので、連通管の屈曲部形状の設計自由度が大きくなり、デザイン性の高い自動水栓装置を提供することができる。
【0016】
このように、本発明では、同軸ケーブルで電波信号を伝送することにより、振動の影響による誤判定を防止することができるが、その反面、同軸ケーブル内を伝送中に電波出力が低減することは避けられない。しかしながら、本発明では、同軸ケーブル中の伝送によって低減した電波信号をアンテナを介して外部へ放射するように構成しているので、電波センサからの電波出力が同軸ケーブルを伝送することにより低減したとしても、アンテナの指向性を有利に利用して、検知範囲を所定形状に最適化し、最適化された検知範囲内においては電波出力の低下による影響を回避することができる。
【0017】
また、本発明において好ましくは、電波放射口は、電波が前記水管内へ入り込まないように水管とは独立した導波管として作用する導波管部を有し、この導波管部内にアンテナが設けられ、このアンテナと導波管部によって電波が外部に放射されるように構成されている。
本発明では、導波管部とその内部に配置されたアンテナの組み合わせによって、適切な電波の指向性を作り出し、理想的な検知範囲を設定することができる。したがって、同軸ケーブル内の伝送による電波出力の低下を、デザイン性を損なうことなく補償することができる。
【0018】
また、本発明において好ましくは、電波放射口の内部には、連通管内への電波の侵入を抑制する遮蔽部材が設けられ、この遮蔽部材は反射面を有しており、アンテナは、導波管部内で反射面側に近接して配置されると共に、電波放射口側に電波を放射し、反射面側には電波を放射しないように構成されている。
【0019】
水管や同軸ケーブルが振動している状態で送信波や反射波が連通管内に侵入してしまうと、反射波が振動によって変化し誤判定の原因となるおそれがある。しかしながら、本発明では、アンテナから電波放射口側へ電波が放射されるように構成されているが、電波の一部が反射面側へ回り込んでしまった場合に、電波が連通管内に侵入することを遮蔽部材で防止することができる。また、本発明では、反射面によって、反射面側へ回り込んだ電波を反射して外部への放射に用いることができるので、同軸ケーブル内の伝送による電波出力の低下を補うことができる。また、本発明では、遮蔽部材に反射面を構成したことにより遮蔽部材及び連通管の小型化を図ることができる。このように、本発明では、連通管内への電波の侵入を遮蔽部材によって抑制することにより、より確実に振動に起因する誤検知を防止することができ、さらに遮蔽部材に反射面が設けられたことにより、装置の小型化を図りつつ、電波出力の低下を補うことができる。
【0020】
また、本発明では、アンテナが反射面側に近接して配置されているから、導波管部を長さ方向に有効に利用することができ、外部への電波ビームパターンの指向性や検知範囲の形状を有利に設定することができる。また、本発明では、遮蔽部材と、遮蔽部材の反射面に近接してアンテナを配置するという簡易な構成であるので、デザイン性の低下も防止することができる。
【0021】
また、本発明において好ましくは、電波放射口は、導波管部が水管の少なくとも両側部を取り囲む二重管構成として形成され、アンテナは、水管の中心を通る仮想垂直軸線上の上下一方側に設けられている。
本発明では、水管を導波管部が取り囲む二重管構成であり、水管の上下どちらかにアンテナが設けられる。これにより、デザイン性を損なうことなく、吐止水中における左右対称で理想的な検知範囲を形成することができる。より具体的には、止水中には、吐水方向に沿った細長い検知範囲を形成して、検知ポイントに集中させて電波を放射することができる。一方、吐水中には、洗浄水を取り囲むように検知範囲が形成され、洗浄水と電波が干渉する。この干渉により、電波が反射して上下一方に検知範囲が変位すると共に左右方向へも検知範囲が拡がり、また、電波が減衰して有効に電波が届く距離が短くなり、応答性に優れ誤検知のない吐水中における理想的な検知範囲を作り出すことができる。
【0022】
また、本発明において好ましくは、電波センサの出力電波は、電波センサから第2アンテナを介して導波管内に出力され、さらに同軸ケーブルを介して伝送された後、同軸ケーブルからアンテナを介して導波管部内へ伝送されるように構成されている。
本発明では、電波センサの出力信号は、導波管、同軸ケーブル、導波管部を順に経由して伝送される。これにより、伝送中における信号劣化の程度が比較的大きい同軸ケーブルの長さを短くすることができ、デザイン性を悪化させることなく出力ロスを低減することができる。また、電波センサを同軸ケーブルへ直接接続すると出力ロスが大きくなるので、アンテナ及び導波管を間に挟むことにより出力ロスを更に低減することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、電波センサを用いた自動水栓装置において、デザイン自由度を確保でき、連通管の形状によらず、外部衝撃による誤吐水を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態における自動水栓装置の全体構成図である。
【図2】本発明の実施形態における自動水栓装置の吐水口付近の断面図である。
【図3】本発明の実施形態における自動水栓装置の連通管の入口部分の断面図である。
【図4】本発明の実施形態における検出信号の時間変化を示すグラフである。
【図5】本発明の実施形態における送受信アンテナを示す図である。
【図6】導波管の肉厚とアンテナゲインの関係を示すグラフである。
【図7】本発明の実施形態における自動水栓装置の電波放射口を示す図である。
【図8】本発明の実施形態における自動水栓装置の連通管の断面図である。
【図9】本発明の実施形態における外部衝撃付与時の検知信号を示す図である。
【図10】本発明の実施形態における自動水栓装置の止水中における説明図である。
【図11】本発明の実施形態における自動水栓装置の吐水中における説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、図1乃至図11を参照して、本発明の実施形態による自動水栓装置を説明する。
図1に示すように、本実施形態の自動水栓装置1は、シンク2の基台(支持体)3に基端部が固定され使用者側に向けて延びる連通管(スパウト)10及び吐水弁30を備えた水栓本体1Aと、連通管10内に挿入された水管20及び同軸ケーブル60と、使用者の存在又は使用の有無を含む使用者の動作状態を検出するための電波センサ40と、吐水弁30の開閉動作を制御する制御部50とを備えている。
【0026】
連通管10は、中空の断面円形の管部材であり、例えば鋼材等の金属材料で形成されている。連通管10は、少なくともその内面が電波を反射する材料で形成されている。連通管10は、基台3から鉛直方向に延びる直線部10aと、直線部10aの端部から使用者側へ向けて延在するように屈曲された屈曲部10bと、屈曲部10bの端部から延びて先端開口がシンク2の底部を向くように形状された吐水口部10cとを有している。連通管10の吐水口部10cは、斜め下方向へ向けられている。
【0027】
水管20は、吐水弁30に連結され、水栓本体1Aの端部である吐水口部10cに形成された吐水口26へ洗浄水を供給する。水管20は、全体として可撓性を有する管状部材であり、先端部に取り付けられた吐水キャップ21と、フレキシブル管22と、吐水キャップ21とフレキシブル管22を接続する吐水継手23から構成されている。フレキシブル管22の上流端は、吐水弁30に接続されている。吐水キャップ21の吐水口26から、洗浄水が斜め下方向の吐水方向Aに吐出され、これにより、洗浄水は受水部であるシンク2の底部に向けて供給される。
なお、本実施形態では洗浄水が吐水口26から斜め下方向に吐出されるように構成されているが、洗浄水が吐水口26からほぼ真下に向けて吐出されるように構成してもよい。
【0028】
フレキシブル管22は、可撓性を有する管状部材であり、一部又は全部が電波透過性の部材で形成されている。本実施形態では、フレキシブル管22はゴムホースである。したがって、吐水中、フレキシブル管22を透過した電波をフレキシブル管22を通る洗浄水によって減衰することができる。すなわち、本実施形態では、水管20は、電波減衰部としてのフレキシブル管22を有している。
【0029】
吐水弁30は、電磁弁であり、制御部50からの制御信号により、開閉動作を行うように構成されている。また、吐水弁30は、定流量弁であり、開動作時には一定流量の洗浄水が吐水口26に向けて供給される。
【0030】
同軸ケーブル60は、長手方向に延びる内部導体及び外部導体と、これらの間に配置された誘電体とを備えた断面円形の可撓性を有する長尺な部材である。同軸ケーブル60は、電波センサ40で使用する周波数に合わせて選択されている。同軸ケーブル60は、連通管10の基端部から直線部10a内及び屈曲部10b内を通って先端部の吐水口部10cまで水管20と並設されて延びており、同軸ケーブル60及び水管20は、基端部側で固定部材12,先端部側で遮蔽部材13によって連通管10に固定支持されている(図2及び図3参照)。また、同軸ケーブル60の先端には送受信アンテナ48が取り付けられている。送受信アンテナ48は、連通管10の先端の吐水口部10c内で、吐水口26近傍に配置されている。
【0031】
電波センサ40は、水栓本体1A内に配置され、かつ、水栓本体1Aの基端部側に設けられている。本実施形態では、電波センサ40は、連通管10の基端部側に固定されている(固定状態は図示せず)。電波センサ40は、マイクロ波ドップラーセンサである。使用周波数は、例えば約10GHz又は約24GHzである。図3に示すように、電波センサ40は、内部に局部発信器,混合器(検波器)等を有する電子部品であるセンサ本体部41と、送受信アンテナ42とを備えている。また、センサ本体部41には電波の伝送通路が直線状の導波管44が接続され、導波管44には導波管同軸変換コネクタ45を介して同軸ケーブル60が接続されている。
【0032】
電波センサ40は、センサ本体部41内の局部発振器で生成したマイクロ波(送信信号)を、送受信アンテナ42から送信波として放射する。この電波は導波管44を介してコネクタ45へ伝播される。そして、この送信波は、コネクタ45を介して同軸ケーブル60内へ伝送され、同軸ケーブル60を介して送受信アンテナ48へ伝送される。送信信号は、送受信アンテナ48から電波として放射され、連通管10の吐水口部10c内の吐水口26近傍に設けられた電波放射口27からシンク2へ向けて放射される(図2の放射方向B1参照)。
【0033】
また、外部へ放射された電波は、対象物(例えば、人の手)で反射し、反射波(受信信号)が電波放射口27から連通管10内へ入り、送受信アンテナ48で受信される。送受信アンテナ48で受信された受信波は、同軸ケーブル60内を伝播し、コネクタ45を介して導波管44へ伝播され、さらに導波管44を介して電波センサ40へ伝播され、電波センサ40の送受信アンテナ42によって受信される。
【0034】
電波センサ40のセンサ本体部41は、混合器(検波器)が、受信信号と送信信号とを混合し、ドップラー信号を検出する。
対象物が静止している場合は、送信波(送信信号)と反射波(受信信号)の周波数が同一であるので、電波センサ40は対象物の有無を検出しにくい。しかしながら、対象物が動いている場合は、反射波の周波数が変化するため、混合器の出力に差分信号があらわれる。この差分信号により、電波センサ40は、対象物の有無及び移動方向(接近又は離反)を検出し、検出信号(図4参照)を制御部50へ出力する。検出信号は、対象物の移動速度に応じた周波数成分を有する信号であり、移動している対象物が存在することをあらわすものである。
【0035】
波長に対して最適に設計された場合、電波は、導波管を伝播するよりも、同軸ケーブル60内を伝送される方が、減衰が大きい。このため、本実施形態では、電波センサ40から直接同軸ケーブル60へ出力するのではなく、電波センサ40の出力を導波管44を介して同軸ケーブル60へ伝送するように構成されており、信号の減衰量を低減している。すなわち、本実施形態では、電波センサ40と同軸ケーブル60との間に導波管44を設けて、同軸ケーブル60の長さを導波管44の長さ分だけ短くし、信号の減衰量を低減している。
なお、本実施形態では、導波管44が連通管10の外部に配置されているが、これに限らず、伝播長さのより長い導波管44を連通管10の内部途中まで挿入して配置することによって、同軸ケーブル60の長さをさらに短くし、信号の減衰を小さくするように構成してもよい。
【0036】
制御部50は、マイコン等で構成されており、電波センサ40から検出信号をフィルタ回路51を介して受け取る。制御部50は、図4に示すように、基準値(例えば0V)に対して、ある電圧閾値(絶対値)以上の信号値を有する検出信号を受け取ると、吐水弁30を開状態にする駆動信号を出力し、基準値に対して、ある電圧閾値(絶対値)未満の信号値を有する検出信号を受け取ると、吐水弁30を閉状態にする駆動信号を出力するようにプログラムされている。すなわち、制御部50は、電圧閾値に対する検出信号の信号値に基づいて後述する電波センサ40の検知範囲を決定している。これにより、対象物が検出されているときには、吐水弁30が開状態に保持され吐水状態となる。一方、対象物が検出されていないときは、吐水弁30が閉状態に保持され止水状態となる。
【0037】
フィルタ回路51は、所定の周波数範囲の検出信号のみを通過させるバンドパスフィルタを有する。このフィルタ回路51により、人の手の動きに対応する周波数範囲の検出信号のみが制御部50へ送られるので、誤検出を抑制することができる。
【0038】
上述のように、本実施形態では、屈曲形成された連通管10の内面と、内部に通された水管20の外面との間には、電波を通過させるための電波通過用空間が形成されており、この電波通過用空間に同軸ケーブル60が通されている。
【0039】
本実施形態では、同軸ケーブル60を介して電波通過用空間に電波を通すように構成されているので、連通管10が屈曲していて、同軸ケーブル60が非直線状に配置されても安定的に電波を送受信することができる。また、同軸ケーブル60を連通管10に組み付ける際には、連通管10の一方の端部から所定の長さの同軸ケーブル60を挿入すればよく、組み付け性を良好とすることができる。さらに、このとき同軸ケーブル60が捩れたとしても、同軸ケーブル60の場合は、電波通路の構造上、導波管に比べて電波通過特性への影響が小さいので、電波通過特性を良好に維持することができる。
【0040】
この構造により、本実施形態では、水管20が挿入された剛体である連通管10内に、導波管を組み込む必要がなくなり組立性が良好となる。また、本実施形態では、導波管が不要であるので、小型化及びデザイン性の向上を図ることができると共に、製造コストを低減することが可能となる。さらに、本実施形態では、電波センサ40を連通管10の先端部分以外に配置することができるので、連通管10の先端部分を特に小型化することができる。なお、電波センサ40は、連通管10の外部に配置することが望ましいが、連通管10の内部に配置することも可能である。
【0041】
以下に、本実施形態の自動水栓装置1の細部の構造について説明する。
本実施形態では、図2に示すように、連通管10の先端部位(電波放射口27の内部)には、導波管部15が形成されている。この導波管部15は、連通管10と遮蔽部材13とによって囲まれた部位であり、電波が水管20に入り込まないように水管20とは独立している。また、導波管部15は、電波放射方向(吐水方向)に沿って直線状の電波の伝送通路を形成しており、電波を集めて外部へ向けて放射する電波集束部として機能する。
なお、本実施形態では、連通管10が導波管部15を形成しているが、これに限らず、別体の導波管を連通管10内に配置して導波管部15を形成してもよい。
【0042】
遮蔽部材13は、電波を反射する金属材料で形成されており、連通管10の内面の形状と略一致するような略円形の外形を有し、連通管10の内面と遮蔽部材13との間に隙間がないように構成されている。遮蔽部材13は、連通管10の先端側を向く面が電波反射面13aとなっているので、別途電波反射面を設ける必要がなく製品の小型化を図ることができる。また、電波反射面13aは、電波放射口27側からの電波を反射させて指向性を調整するように構成されている。
【0043】
また、遮蔽部材13は、同軸ケーブル60及び水管20を通す孔が形成されており、それぞれの孔に同軸ケーブル60と水管20(本例では、吐水継手23)が通され固定されている。同軸ケーブル60は、遮蔽部材13によって固定された部位から、さらに内部導体60aが前方に延びて導波管部15内に位置し、送受信アンテナ48に接続されている。
【0044】
本実施形態では、導波管部15と、導波管部15内で電波反射面13aに近接して配置された送受信アンテナ48との組み合わせにより、電波放射口27から放射される電波の、後述する理想的な電波ビームパターンを形成している。特に送受信アンテナ48と導波管部15によって適切な指向性を作り出し、検知範囲を所定形状に最適化し、最適化された検知範囲内においては同軸ケーブル60内の伝送による電波出力の低減を補償することができる。その際、送受信アンテナ48は、電波反射面13aに近接して配置されているので、導波管部15を長さ方向に有効に利用することができ、外部への電波ビームパターンの指向性や検知範囲の形状を有利に設定することができる。
【0045】
送受信アンテナ48は、図5(a)に示すようなパッチアンテナであり、プリント基板48aと、表面(アンテナ面)に形成された金属箔のパターン48bと、裏面(グランド面)に形成された金属箔のパターン(図示せず)を有する。同軸ケーブル60の内部導体60aは、パターン48bに接続されている。また、同軸ケーブル60の外部導体は、裏面(グランド面)に形成されたパターンへ直接又は他の導体を介して接続するなどして、グランド面のパターンと同電位にすることが望ましい。このような構成の送受信アンテナ48では、電波がパターン48bの形成されたアンテナ面側から放射される。
【0046】
本実施形態では、送受信アンテナ48は、プリント基板48aの両面が連通管10の長さ方向に沿い、且つ、プリント基板48aの厚さ方向が連通管10の径方向に対して略垂直となるように、連通管10と水管20の間に形成された隙間に配置されている。このように配置することにより、連通管10と水管20の隙間の径方向寸法が小さくても、送受信アンテナ48を配置することが可能であり、装置の小型化及びデザイン自由度を向上させることができる。
【0047】
本実施形態の導波管部15では、連通管10の先端から電波反射面13aまでの距離や、送受信アンテナ48から電波反射面13aまで距離等を最適に設定することにより、送受信アンテナ48から導波管部15内に放射された電波を集束させた状態で外部へ向けて、指向性を調整して放射するように構成されている。これにより、本実施形態では、同軸ケーブル60を介して伝送されてきた送信波が、導波管部15によって所定の電波ビームパターンに調整されて外部へ出力される。
【0048】
また、本実施形態のように同軸ケーブル60を伝送経路として用いると、電波センサ40からの電波出力が同軸ケーブル60中を伝送する間に減衰される。この減衰による出力低減を補うために電波センサ40からの出力を増大させると、消費電力が大きくなり、電池を備えている場合には電池寿命が短くなり電池の取替えを頻繁に行う必要が生じ、発電機を備えている場合には発電機を大型化する必要が生じる。
【0049】
このため、本実施形態では、送受信アンテナ48から放射される、出力が低減された電波を効率よく所望の検知範囲内の検知ポイントに集中させて放射できるように、導波管部15で電波を集束させて外部へ向けて放射する構成とすることにより、電池寿命の短縮や発電容量の増大といった問題を解決している。
【0050】
本実施形態では、送受信アンテナ48のアンテナ面が連通管10の径方向外側を向くように配置されている。したがって、アンテナ面から送信された電波は、連通管10の内面方向へ放射され、連通管10の内面で反射されて、電波放射口27及び遮蔽部材13の電波反射面13aへ向けて伝播する。電波が遮蔽部材13よりも上流側の電波通過用空間内へ侵入すると、外部衝撃によって水管20が振動した場合に、侵入した電波が変化し誤検知が生じるおそれがある。
【0051】
しかしながら、本実施形態では、電波反射面13aが設けられているため、電波通過用空間内へ侵入しようとする電波は、電波放射口27へ向けて反射される。これにより、時送受信アンテナ48は、導波管部15と協働して外部へ向けた理想的な電波ビームパターンを作り出すと共に、送受信アンテナ48からの送信波及び外部からの受信波(反射波)が、連通管10の電波通過用空間内へ侵入しないようにして、誤検知を防止することができる。
【0052】
また、本実施形態では、水管20のフレキシブル管22が電波透過性材料で形成されているため、仮に電波通過用空間内に電波が侵入したとしても、水管20内を流れる洗浄水によって侵入電波が減衰されるので、誤検知をより確実に防止することができる。
【0053】
なお、本実施形態では、送受信アンテナ48のアンテナ面が連通管10の内面を向くように内面に正対して配置されているが、これに限らず、アンテナ面が吐水方向A(図2参照)を向くように配置してもよい。この場合、送受信アンテナ48からの出力電波を、吐水方向Aに指向性を有するように放射させることができるので、導波管部15等の構成をより簡易に設定しても、良好な電波ビームパターンを得ることができる。
【0054】
また、送受信アンテナ48をパッチアンテナとする代わりに、図5(b)に示すように、内部導体60aを所定長さ露出させ、その先端部位61を所定の長さに折り曲げてポールアンテナを形成してもよい。この場合、電波は、同図に矢印で示すように、折り曲げた先端部位61の延びる方向と直交する向きに放射される。したがって、先端部位61が連通管10の径方向に対して直交するように折り曲げて送受信アンテナ48を形成すれば、電波を電波放射口27へ向けて放射することができ、さらに連通管10と水管20の隙間の径方向寸法が小さくても送受信アンテナ48を配置することができる。
【0055】
また、図5(c)に示すように、プリント基板62aに図5(b)と同様な折り曲げ形状のパターン62bを形成して、ポールアンテナを形成してもよい。図5(b)の例では、複数の自動水栓装置1に対して、先端部位61の折り曲げ長さ及び角度を精度良く同一に形成することが難しいのでアンテナ精度のバラつきが大きくなるが、図5(c)の例では同一のポールアンテナ部品を製造して、同軸ケーブル60の内部導体60aを接続すればよいので、アンテナ精度のバラつきを小さくすることができる。
【0056】
なお、同軸ケーブル60から電波を放射するには、特別なアンテナを設けることなく、単に使用電波周波数に適合させた所定長さの内部導体60aのみ、又は誘電体と内部導体60aを露出させた構成であってもよい。しかしながら、電波のロスが少なく、良好な指向性を得るためには、図5(a)−(c)のようなアンテナを設けることが好ましい。
【0057】
次に、導波管部15の構成の詳細について説明する。
本実施形態では、止水中において、図10に示された検知範囲a1内の対象物を検知できるように、連通管10の電波放射口27から放射される電波ビームパターンが設定されている。詳しくは、この検知範囲a1は、放射方向B1に指向性を有しており、放射方向B1に沿って細長く延びるように設定されている。本実施形態では、この放射方向B1は吐水方向Aとほぼ一致している。
【0058】
本実施形態では、このような止水中における検知範囲a1を形成するように、自動水栓装置1には指向性調整手段である導波管部15及び送受信アンテナ48が設けられている。本実施形態では、この指向性調整手段としての導波管部15は、反射部材28と、連通管10内(すなわち、電波放射口27内)に水管20を配置した二重管構造を含んでいる。
【0059】
図2に示すように、本実施形態では、連通管10の電波放射口27に別体部品である環状の反射部材28が取り付けられている。この反射部材28は、電波を反射する材料で構成されており、本実施形態では、金属材料で形成されている。反射部材28は、反射面(反射部)28aを有している。反射面28aは、シンク2側を向く環状面である。本実施形態では、反射部材28の壁(径方向の厚さ)は、連通管10の壁(径方向の厚さ)よりも厚く設定されている。
【0060】
図6(A)は、断面矩形の導波管(図6(B)参照)から出力される電波センサのアンテナゲインを示している。図6(A)は、導波管の出口部分の壁の肉厚tを変化させた場合に、肉厚tが厚くなるにしたがって、アンテナゲインが増大していることを示している。これは、肉厚tが大きくなるにしたがって、電波ビームが鋭くなり、放射方向への指向性が増していることを示している。
【0061】
上述したように、管体から単に電波が放射される場合、その電波ビームパターンは、無指向性に近く、球状に広がるようになる。このため、本実施形態では、図6の結果に基づいて、電波放射口27に反射部材28を取り付けている。この反射部材28の壁の厚さは、連通管10の内径に応じて、検知範囲a1が形成されるように設定されている。
【0062】
反射面28aは、送受信アンテナ48から放射され、導波管部15内を伝播してきた電波が、連通管10を出た後に連通管10の上流側(放射方向B1と逆方向)へ回り込むことを抑制すると共に、電波の指向方向を設定する。すなわち、反射面28aが、上流側へ進もうとする電波をシンク2の底部の方向へ反射させて当該方向へ指向方向を差し向け、電波ビームパターンに放射方向B1の指向性を持たせる役割を果たす。このように、反射部材28は、放射方向B1へ電波ビームパターンを鋭くして、適切な放射パターンを形成する機能を有する。
【0063】
本実施形態では、反射部材28により、電波を吐水方向Aに沿って集中させることにより、検知範囲a1内で樹脂製の歯ブラシやコップ等の電波を透過し易い対象物をより検知し易くなる。一方、検知範囲a1は、吐水口26から離れた位置にある手を誤検知することで誤って吐水させないように、吐水方向Aに沿うように細長く設定されている。
【0064】
なお、本実施形態では、連通管10の先端に、別体の反射部材28を取り付けているが、反射部材28を取り付ける代わりに、連通管10の先端部分の肉厚を厚く形成してもよい。さらには、連通管10の肉厚が電波の回り込みを抑制できる程度に厚ければ、別体の反射部材を取り付けたり、連通管10の先端部分のみを厚く形成しなくてもよい。
【0065】
次に、図7及び図8を参照して、二重管構造について説明する。図7は、連通管10の出口部分(下流端部分)を示しており、図8は、連通管10の任意の途中部分でのVIII−VIII線断面図(図1参照)である。
本実施形態では、水管20は、連通管10の内側面11に当接するように配置されている。図1から分かるように、連通管10の出口部分は、シンク2の底部に向かって斜め下方へ延びている。また、連通管10の出口部分が延びる方向に、自動水栓装置1を使用する際に使用者が立つ位置が設定されている。
【0066】
したがって、連通管10の出口部分において、水管20は、連通管10の内側面11の内(もしくは電波放射口27の内面の内)、使用者の存在する方向C(図2及び図7参照)とは真逆方向に位置する内側面11の部分に当接されている。また、図8に示すように、連通管10の他の部位においても、水管20は、連通管10の内側面11に当接している。
本実施形態では、電波放射口27付近において、水管20が連通管10の内部に配置された二重管構造により、電波ビームパターンが調整されている。
【0067】
次に、本実施形態の自動水栓装置1の作用について説明する。
まず、図9に基づいて、本実施形態の自動水栓装置1が外部衝撃に対して誤検知を発生し難いことを説明する。
図9は、(a)連通管へ衝撃を与えた場合と、(b)基台へ衝撃を与えた場合と、(c)基台を揺らした場合と、(d)電波センサ自体へ衝撃を与えた場合(ウォータハンマを想定)において、電波センサが出力する検出信号の電圧の大きさ(基準値に対する差の電圧)を示している。図9中、線Lは本実施形態の自動水栓装置1の場合であり、線Mは本願出願人の先の出願(特願2010−200615)に記載された自動水栓装置(導波管を使用せず、連通管と水管の間の電波通過用空間自体を電波通路として使用)の場合である。どちらの場合も、電波センサ自体は同一の条件で駆動している。これらの自動水栓装置において、人の手の動きを判断する際の検出信号の閾値は、0.4Vに設定されている。
【0068】
図9から分かるように、先の出願の自動水栓装置では、(c)基台を揺らした場合には、誤吐水が開始されなかったが、(a)連通管へ衝撃を与えた場合,(b)基台へ衝撃を与えた場合及び(d)電波センサ自体へ衝撃を与えた場合において、検出信号が閾値に達し、誤吐水が開始された。
【0069】
一方、本実施形態の自動水栓装置1では、いずれの場合であっても、検出信号は閾値に達せず、誤吐水は発生しなかった。
これにより、外部衝撃によって水管20や連通管10等が振動しても、誤検出に基づく誤吐水を確実に防止することができる。本実施形態では、屈曲部を有する連通管10を有しているが、少なくともこの屈曲部に同軸ケーブル60を配置したので、振動による影響を確実に抑制することができた。
【0070】
次に、本実施形態の自動水栓装置1による検知範囲について説明する。
図10は、止水中の状況を示している。図10(A)には、電波センサ40の検知範囲a1が示されている。この検知範囲a1は、止水中において、連通管10の電波放射口27から放射される電波ビームにより対象物を検知できる範囲を示している。
【0071】
本実施形態では、止水中において、電波放射口27から放射される電波ビームの空間的な放射パターンが、指向性調整手段により、放射方向B1に指向性を有するように設定されている。なお、本実施形態では、止水中には、放射方向B1は、吐水口26から吐水される洗浄水の吐水方向Aとほぼ一致している。
【0072】
したがって、止水中における電波ビームは、吐水方向Aに沿って指向性を有し、検知範囲a1が吐水方向Aに沿って延びる楕円球体のような細長い形状となるように設定されている。すなわち、検知範囲a1内において、等電波強度面が吐水方向Aに沿って延びる楕円球体のような細長い形状となる。図10(B)に示すように、検知範囲a1の放射方向B1に直交する断面は、ほぼ円形となっている。なお、図10(B)は、図10(A)の矢印部分における検知範囲a1の断面図である。
【0073】
なお、本明細書では、等電波強度面は、電波ビームの等しい電波強度を有する空間点を繋いで形成される面である。また、本明細書では、細長い形状は、楕円球体のようにある方向の長さが、この方向と直交する任意の方向の長さよりも長い形状を意味している。
【0074】
検知範囲a1は、このような等電波強度面の内、反射波により電波センサ40が有意に人の手の動きを検知できる最も外側の等電波強度面で画定される空間範囲である。使用者が手洗いのために、この検知範囲a1に手を差し入れると、電波センサ40が手の動きを検知し、検知信号を制御部50へ送信する。制御部50は、検知信号を受け取ると、吐水弁30へ駆動信号を送り、吐水弁30を開状態に切り替える。これにより、手が吐水口26近傍に到達するのに合わせて、洗浄水が吐水口26からタイミング良く吐水される。
【0075】
従来、光電センサを用いた自動水栓装置では、吐水方向Aに対して径方向の検知範囲が狭かったため、使用者の手の接近に合わせてタイミング良く吐水を開始できなかった。しかしながら、本実施形態によれば、吐水方向Aに対して径方向に膨らむように検知範囲a1が設定されているので、如何なる方向から手が差し入れられても、吐水口26から吐水方向Aに延ばした延長線上にある洗浄ポイントに手が到達する前に、使用者の手の接近をより早く検知することができ、タイミング良く吐水を開始することが可能となる。
【0076】
また、単に連通管10の出口端部から電波が放射した場合には、電波ビームは検知範囲bのように、後ろ側に回り込むと共に、球状に広がるので、吐水口26付近における使用者の水切り動作を検知してしまう。
【0077】
しかしながら、本実施形態では、止水中における検知範囲a1が、吐水方向Aに向けて楕円球体のような縦長に設定されているので、吐水口26からの距離が同じでも、洗浄ポイントの電波の放射強度を高くすることができる。よって、水切り動作が検知範囲a1の外側で行われることになるので、水切り動作中に、洗浄水が吐水されることを防止することができる。このように、本実施形態では、吐水させたい位置に存在する使用者の手を検知し易くすることができ、吐水してほしくない位置に存在する手を検知し難くすることができる。
【0078】
図11は、吐水口26から洗浄水Wが吐水されている状況を示している。図11(A)には、吐水中に、電波ビームにより対象物の動きを検知できる検知範囲a2が示されている。
本実施形態では、吐水口26から吐水された洗浄水と検知範囲a1の電波との干渉を利用して、電波の一部を減衰させると共に、電波を洗浄水によって反射させることにより、検知範囲a2を設定している。電波の減衰は電波の放射強度を弱めて放射パターンを小さくし、電波の反射は電波の放射パターンの位置を変位させ、洗浄水Wの流れよりも上側へずらす。これにより、検知範囲a2は、検知範囲a1と一部領域が重なるが、異なった角度方向に延びており位置が異なっている。
【0079】
本実施形態では、図11(A)に示すように、放射方向B2の放射強度が相対的に大きくなり、かつ、検知範囲a2の放射方向B2の検知可能距離が検知範囲a1の放射方向B1の検知可能距離よりも短くなるように検知範囲a2を設定している。このとき、本実施形態では、電波センサ40や制御部50での電圧閾値や電波強度等のパラメータを変更することなく、反射部材28による電波の指向方向、電波と洗浄水Wとの干渉の角度や程度、洗浄水Wの流量、吐水口26に対する電波放射口27の寸法等を予め設定しておくことで、検知範囲a2の大きさ,位置(放射方向B2),形状等を設定している。したがって、本実施形態では、付加的な機能部品を必要とせず、吐水の有無のみによって検知範囲a1及びa2を切り替えることができ、自動水栓装置1のデザイン自由度を損ねることなく、止水中及び吐水中に応じた所望の検知範囲を簡単な構成で実現することが可能である。
【0080】
図7に示すように、電波放射口27は、吐水口26に対して使用者側Cに位置するように構成されている。すなわち、本実施形態では、吐水口26が、電波放射口27に対して使用者と反対側に位置するので(図2,図7参照)、電波ビームは、洗浄水Wによって反射され、使用者側の放射方向B2に向きが変えられる。
【0081】
詳しくは、電波放射口27内の領域の内、図7において吐水口26の直上に位置する領域から放射される電波が、洗浄水によって放射方向B2に反射されるので、吐水中の検知範囲a2は、放射方向B2に向けられる。したがって、検知範囲a2に設定されることにより、手を洗浄水Wに差し入れている間は、検知範囲a2内に手が確実に存在するので、洗浄中には手を検知し続けることができる。
【0082】
また、図7に示すように、電波放射口27は、吐水口26の側方又は横方向にも位置している。この構造により、電波放射口27内の領域の内、図7において吐水口26の側方又は横方向に位置する領域から放射される電波ビームが、洗浄水Wの流れによって横方向又は水平方向に反射されるので、電波ビームの放射パターンが横方向又は水平方向に広げられる。一方、洗浄水Wにより電波は減衰されるので、電波ビームの放射パターンは、厚さ方向にはむしろ小さくされる。これにより、図11(B)に示すように、電波ビームの放射パターン(検知範囲a2)は、図10(B)と比べると、放射方向B2と直交する断面が横方向に伸ばされたような偏平な形状となる。なお、図11(B)は、図11(A)の矢印部分における検知範囲a1の断面図である。
【0083】
本実施形態では、吐水中は検知範囲a2が、横方向に広げられ、かつ、上方に移動するので、手洗い中に手もみ動作等のために手を吐水口26から水平方向に又は上方向にずらしても、吐水を継続させることができる。これにより、手を洗い終わって確実に手が吐水口26付近から離れるまでは、手を検知し続け、吐水状態に保つことが可能となる。
なお、本明細書では、幅方向又は横方向とは、連通管10に正対した使用者の左右方向を意味し、図1及び図2では紙面に垂直な方向であり、図7及び図8では紙面に対して左右方向である。
【0084】
また、本実施形態では、上述のように、吐水中には、洗浄水Wによる電波の減衰により電波ビームの検知範囲を狭くすると共に、洗浄水Wによる電波の反射により電波ビームを上方へ変位させており、よって、吐水方向Aにおいて、止水中と比べて吐水中の検知可能距離を短く設定している。
【0085】
本実施形態では、止水中は検知可能距離を長く設定することで、使用者が遠い位置から吐水口26に向けて手を接近させていっても、早期に手を検知して吐水を開始することができる。一方、吐水中は検知可能距離を短く設定することで、吐水口26の近くにある手を確実に検知することができると共に、吐水口26から遠く離れた手や水流の誤検知、及びこれに伴う止水遅れを防止することができる。
【0086】
また、図11(A)に示すように、吐水口26から吐水された洗浄水Wは、流量に応じて、シンク2に近い下流側ほど自然に流れが乱れる。すなわち、洗浄水Wは、シンク2側で粒状になり、水粒が径方向に広がる。また、シンク2から洗浄水が跳ね返ってくる。したがって、電波センサ40が、洗浄水Wの流れの乱れや、跳ね返りの洗浄水が人の手の動きであると誤検知されるおそれがある。
【0087】
しかしながら、本実施形態では、吐水中において電波ビームが上方へ変位し、検知可能距離が短く設定されるので、洗浄水Wの流れの乱れや跳ね返りの洗浄水に起因する誤検知を回避して、止水遅れを防止することができる。
【0088】
また、図7に示すように、電波放射口27の一部に吐水口26が配置されており、電波放射口27は吐水口26よりも幅方向の長さが大きいので、電波の一部は、止水中とほぼ同様に放射方向B1(すなわち吐水方向A)に向けて放射される。これにより、使用者が容器に水を溜める場合には、吐水方向Aに放射された電波が、容器内の水表面で反射されるので、電波センサ40は、水表面の揺らぎによって対象物の検知を行うことができる。このため、容器への水溜め動作中において、吐水状態を継続させることができる。
【0089】
また、図7に示すように、吐水口26が断面円形であるので、電波は、わずかではあるが、図7において吐水口26の下側付近(真下を除く)からも放射方向B1に向けて放射される。これにより、電波ビームの放射パターンを縦方向(洗浄水Wの流れの下側を含む)にも確保できる。ただし、本実施形態では、吐水口26が、図7において電波放射口27の最下の内面部分に当接されているので、止水中に吐水口26の真下方向に向けて電波が伝播することは抑制されている。したがって、止水後に吐水口26から水滴が滴下したような場合であっても、この水滴の動きは検知されず、不必要に吐水が開始されることが防止されている。
【0090】
本発明は、以下のように改変することができる。
上記実施形態では、連通管10及び水管20の断面が円形であったが、これに限らず、円形、矩形等の形状としてもよい。
また、連通管10の出口部分において、電波放射口を吐水口に対して、明確に使用者側のみに配置してもよい。さらにこの場合、電波放射口の横幅を、吐水口の横幅と同じか、小さく設定してもよい。例えば、連通管10の断面を半円形に二分して、これら断面半円部分にそれぞれ電波放射口及び吐水口を配置してもよいし、連通管10の出口部分の内、使用者側に小径の電波放射口を設けてもよい。
【0091】
このように構成することにより、吐水中においては、電波ビームと洗浄水の流れとの干渉(反射)によって、電波ビームをほぼ完全に使用者側に向けることができる。これにより、検知範囲が、吐水口の下方に存在しなくなるので、吐水口から離れた位置における大流量時の洗浄水の流れの乱れを電波センサ40が誤って検出してしまうことを防止することができ、手洗いが終わった後に、確実に止水させることが可能となる。
【0092】
また、上記実施形態では、少なくとも連通管10の吐水口部10cにおいて、水管20を連通管10内のうち、非使用者側(図7のC方向と逆側)に配置し、水管20の中心を通る仮想垂直軸線上の上方側に送受信アンテナ48を設けているが、これに限らず、水管20を使用者側(図7のC方向側)に配置し、水管20の中心を通る仮想垂直軸線上の下方側に送受信アンテナ48を設けてもよい。
【0093】
このように構成すると、止水時の検知範囲は、図10の検知範囲a1と同様に吐水方向Aに沿って細長い形状に設定することができる。一方、吐水時の検知範囲は、図11の検知範囲a2が洗浄水Wの流れの上側へ変位したのとは異なり、洗浄水Wの流れの下側へ変位する。
このように構成することにより、吐水中に電波が使用者側へ漏れることを確実に抑制することができるので、吐水中の検知範囲の形状が使用者側にほとんど広がらなくなり、手洗い終了後に引き戻される手を検知し難くすることができる。
【符号の説明】
【0094】
1 自動水栓装置
1A 水栓本体
10 連通管
10a 直線部
10b 屈曲部
10c 吐水口部
13 遮蔽部材
13a 電波反射面
15 導波管部
20 水管
26 吐水口
27 電波放射口
30 吐水弁
40 電波センサ
41 センサ本体部
42 送受信アンテナ(第2アンテナ)
44 導波管
48 送受信アンテナ
50 制御部
60 同軸ケーブル
A 吐水方向
a1,a2 検知範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体に基端部が固定され使用者側に向けて延在する連通管と吐水弁を備えた水栓本体と、
前記連通管内に配置され、前記水栓本体の端部である吐水口部に形成された吐水口に洗浄水を供給する水管と、
使用者の動作状態を検知するための電波センサと、
前記電波センサの信号に基づいて前記吐水弁の開閉を切り替えて、前記吐水口からの洗浄水の吐水と止水を行う制御手段と、を備えた自動水栓装置において、
前記連通管内と前記水管との間に形成された電波を通過させるための電波通過用空間と、
前記吐水口部に形成された電波放射口と、
前記水栓本体の前記基端部側に設けられ、前記電波通過用空間を通して電波を出力するように配置された前記電波センサと、
前記電波通過用空間内で前記水管と並設されるように配置された同軸ケーブルであって、この同軸ケーブルを介して前記電波センサーからの電波を前記電波放射口に伝送するように構成された前記同軸ケーブルと、を備え、
前記電波放射口に電波の指向性を調整するアンテナが設けられ、このアンテナを介して前記同軸ケーブルによって伝送された電波を外部に放射するよう構成されたことを特徴とする自動水栓装置。
【請求項2】
前記電波放射口は、電波が前記水管内へ入り込まないように前記水管とは独立した導波管として作用する導波管部を有し、この導波管部内に前記アンテナが設けられ、このアンテナと前記導波管部によって電波が外部に放射されるように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の自動水栓装置。
【請求項3】
前記電波放射口の内部には、前記連通管内への電波の侵入を抑制する遮蔽部材が設けられ、この遮蔽部材は反射面を有しており、
前記アンテナは、前記導波管部内で前記反射面側に近接して配置されると共に、前記電波放射口側に電波を放射し、前記反射面側には電波を放射しないように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の自動水栓装置。
【請求項4】
前記電波放射口は、前記導波管部が前記水管の少なくとも両側部を取り囲む二重管構成として形成され、
前記アンテナは、前記水管の中心を通る仮想垂直軸線上の上下一方側に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の自動水栓装置。
【請求項5】
前記電波センサの出力電波は、前記電波センサから第2アンテナを介して導波管内に出力され、さらに前記同軸ケーブルを介して伝送された後、前記同軸ケーブルから前記アンテナを介して前記導波管部内へ伝送されるように構成されていることを特徴とする請求項4に記載の自動水栓装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−202160(P2012−202160A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69388(P2011−69388)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】