説明

自動溶接機

【課題】磁石移動・静止を容易とし且つ作業者負担を緩和し且つ位置決め作業を容易とする。
【解決手段】捩りコイルバネ12により、磁石11が走行面3から離れる方向に移動するように回動軸9を付勢し、磁石11を走行面3から離れる方向に移動させる際に捩りコイルバネ12を磁石移動の補助として働かせると共に、磁石移動後には捩りコイルバネ12を磁石戻りを阻止するように働かせる。また、捩りコイルバネ12に加えて、回動軸9と同期回動可能に設けた操作杆13に一端が連結されると共に他端が走行台車2の固定部15に連結され捩りコイルバネ12に比して衝撃に強い引っ張りコイルバネ14により、磁石11が走行面3から離れる方向に移動するように操作杆13を付勢することで、走行台車2を走行面3に対して勢い良く降ろしても、磁石11が走行面3に接近する方向に移動するのを防止でき、磁石11を効かせない状態での位置決め作業を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動溶接機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶接トーチを搭載した走行台車が走行面を走行しながら溶接トーチより溶接を行う自動溶接機として、以下の特許文献1に記載のものが知られている。この自動溶接機は、走行台車を構成する台車本体内に配置された磁石と、この磁石を台車本体の底面に対して離接させる移動手段と、を具備し、この移動手段は、操作レバーと、この操作レバーの先端に固着されると共に台車本体に対して回動可能に支持された回動軸と、磁石の上部に取り付けられたブラケットと、このブラケットに一端が枢着されると共に他端が回動軸に固着されたヒンジと、を備える構成とされ、自動溶接をするにあたっては、作業者により操作レバーが一方向に回動操作され、これにより磁石が台車本体の底面(走行面)に接近し、走行台車に強い磁力を効かせた状態で、電源コードや各種ホース等により振り回されない安定した走行による溶接を可能とする一方で、走行台車を別の場所に移動する等の場合には、作業者により操作レバーが一方向とは反対の他方向に回動操作され、これにより磁石が台車本体の底面から離れ、磁力の効きを弱くした状態で、走行台車を走行面から容易に引き離せるというものである。
【特許文献1】特開平7−276091号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記自動溶接機にあっては、磁石を走行面から離れる方向に移動させる場合には、強い磁力が効いているため、磁石を容易に移動できないという課題があると共に、この磁石の走行面から離れる方向への移動後に当該磁石を静止しておくのが難しいという課題がある。
【0004】
また、溶接トーチの先端を、これから溶接する部位に対して位置決めするという作業を行う場合に、走行台車を走行面に対して勢い良く降ろしてしまうと、慣性により磁石が勝手に下がってしまい、このように磁石が下がって走行面に対して磁力がある程度効いてしまうと、走行台車を動かすのが難しく、よって、溶接トーチの位置決め作業が難いという課題がある。そして、この場合には、一旦操作レバーを他方向に回動して磁石を十分弱めた状態とし、溶接トーチの位置決め作業後に、操作レバーを一方向に回動し磁石を効かせた状態として自動溶接を行うか、若しくは、走行台車を走行面に慎重に置く必要があり、何れにしても、作業が面倒になったり、作業者に対する肉体的、精神的負担が大きくなってしまう。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するために成されたものであり、磁石を走行面から離れる方向に移動させる際の磁石の移動が容易とされると共に移動後の磁石の静止が容易とされ、且つ、走行台車を走行面に降ろす際の作業者の肉体的、精神的負担が緩和されると共に位置決め作業が容易とされる自動溶接機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による自動溶接機は、溶接トーチを搭載した走行台車が走行面を走行しながら溶接トーチより溶接を行う自動溶接機において、走行台車に設けられ回動可能に支持された回動軸と、回動軸の回動に伴い走行面に対して離接する方向に移動する磁石と、回動軸と同期回動可能に設けられ、一方向に回動されると磁石を走行面に接近させる方向に移動させ、一方向とは反対の他方向に回動されると磁石を走行面から離れる方向に移動させる操作杆と、回動軸に対して設けられ当該回動軸を他方向に回動するように付勢する捩りコイルバネと、一端が操作杆に連結されると共に他端が走行台車の固定部に連結され、操作杆を他方向に回動するように付勢する引っ張りコイルバネと、を具備したことを特徴とする。
【0007】
このような自動溶接機によれば、回動軸に対して設けられた捩りコイルバネにより、磁石が走行面から離れる方向に移動するように回動軸が付勢されるため、磁石を走行面から離れる方向に移動させる場合には、捩りコイルバネが磁石の移動の補助として働き、当該磁石の移動が容易とされると共に、磁石の移動後にあっては、捩りコイルバネが磁石を元の位置に戻すのを阻止するように働き、当該磁石の静止が容易とされる。また、このように、捩りコイルバネにより、磁石が走行面から離れる方向に移動するように回動軸が付勢されているのに加えて、回動軸と同期回動可能に設けられた操作杆に一端が連結されると共に他端が走行台車の固定部に連結され捩りコイルバネに比して衝撃に強い引っ張りコイルバネにより、磁石が走行面から離れる方向に移動するように操作杆が付勢されるため、走行台車を走行面に対して勢い良く降ろしても、磁石が走行面に接近する方向に移動するのが妨げられ、よって、磁石を効かせないそのままの状態で、溶接トーチの位置決め作業を行うことができ、走行台車を走行面に降ろす際の作業者の肉体的、精神的負担を緩和できると共に位置決め作業を容易にできる。
【発明の効果】
【0008】
このように本発明によれば、磁石を走行面から離れる方向に移動させる際の磁石の移動を容易とすると共に移動後の磁石の静止を容易とし、且つ、走行台車を走行面に降ろす際の作業者の肉体的、精神的負担を緩和すると共に位置決め作業を容易とする自動溶接機を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明による自動溶接機の好適な実施形態について図1〜図8を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態に係る自動溶接機の外観構成を示す正面図、図2は、図1に示す自動溶接機の平面図、図3は、図1及び図2中の走行台車を示す一部破断正面図であって磁石セット後の状態を示す図、図4は、図3に示す走行台車の一部破断平面図、図5は、図3に示す走行台車の一部破断右側面図、図6は、図1及び図2中の走行台車を示す一部破断正面図であって磁石セット前の状態を示す図、図7は、図6に示す走行台車の一部破断平面図、図8は、図6に示す走行台車の一部破断右側面図であり、図1及び図2に示すように、本実施形態の自動溶接機100は、走行台車2に溶接トーチ1を備えるもので、走行台車2が走行面3を自動走行しながら溶接トーチ1より溶接を行うものである。なお、図3以降の図においては、図が煩雑になるのを避けるために、溶接トーチ1は省略され、走行台車2のみが描かれている。
【0010】
図1及び図2に示すように、走行台車2は、箱状の台車本体4に四個の車輪5を回転自在に有するもので、台車本体4上に溶接トーチ1を搭載している。この走行台車2は、作業者により底板6上に降ろされ、台車本体4内に設置されたモータ(不図示)の駆動に従い、底板6上の走行面3を自走しながら(図1の紙面垂直方向(図2の上下方向)に走行しながら)溶接トーチ1により底板6と立板7との合わせ部を隅肉溶接する。なお、走行台車2の走行は、遠隔操作によるものであっても、台車本体4に付設されたスイッチによるものであっても良い。
【0011】
台車本体4の上面には、支柱15が立設され、この支柱15の上端部に、パイプ状の把手8が水平方向に延びるように連結されている。把手8は、作業者が掴むためのものであり、この把手8を作業者が掴み、走行台車2の上げ下ろしを行う。
【0012】
また、台車本体4内には、図3〜図8に示すように、走行台車2の進行方向(図3、図6の紙面垂直方向;図5、図8の左右方向)に延在するように回動軸9が配置されている。この回動軸9は、台車本体4に回動可能に支持されている。
【0013】
この回動軸9の軸線方向略中央には、一対のブラケット10,10が軸線方向に所定長離間して配置され、ピン16により各々固着されている。この一対のブラケット10、10は各々平板状に構成され、各先端部間に磁石11を挟むようにして当該磁石11を枢着し備えている。すなわち、回動軸9の軸線方向略中央には、一対のブラケット10,10を介して、磁石11が連結されている。
【0014】
従って、磁石11は、回動軸9の回動に伴い走行面3に対して離接する方向に移動し、具体的には、回動軸9が図6の反時計回り(一方向)に回動すると、図3に示すように、磁石11が走行面3に接近するように移動し、回動軸9が図3の時計回り(一方向とは反対の他方向)に回動すると、図6に示すように、磁石11が走行面3から離れる方向に移動する。
【0015】
この回動軸9に対しては、捩りコイルバネ12が設けられている。この捩りコイルバネ12は、回動軸9に巻き付くように配置され、その一端が回動軸9に固着されると共にその他端が台車本体4内の固定部に固着され、回動軸9を図3、図6の時計回り(他方向)に回動するように付勢する。
【0016】
回動軸9の一端は、台車本体4から外部に突出し、この突出した部分に操作杆(操作レバー)13の下端部が固着され回動軸9と同期回動可能とされている。この操作杆13は、作業者に上端部が掴まれ回動軸9を支点としての引き上げ/押し下げが可能とされているものである。
【0017】
このような操作杆13に対して引っ張りコイルバネ14を設ける。この引っ張りコイルバネ14は、その一端が操作杆13の上端側に係止し連結されると共にその他端が把手8の支柱15(走行台車の固定部)に係止し連結され、操作杆13を回動軸9を支点として引き上げる方向に付勢する。この引っ張りコイルバネ14は、人力により操作杆13を押し下げたときに、当該引っ張りコイルバネ14が容易に延びるように配置されているのが好ましい。
【0018】
なお、引っ張りコイルバネ14の付勢力は、人力で容易に押し下げられる程度であり、且つ、衝撃(走行台車2を走行面3に対して勢い良く降ろした場合のような衝撃)の作用時に、磁石11が下がってしまわない程度の付勢力に設定されている。
【0019】
このように構成された自動溶接機100によれば、自動溶接をするにあたっては、作業者により操作杆13が一方向(図3、図6の反時計回り)に回動操作されて押し下げられ、これにより、図3〜図5に示すように、磁石11が走行面3に対して接近し、走行台車2(台車本体4)に強い磁力を効かせた状態で、電源コードや各種ホース等により振り回されない安定した走行による自動溶接が行われる。
【0020】
ここで、走行台車2を別の場所に移動する等の場合には、作業者により把手8が掴まれ走行台車2が持ち上げられる。すると、磁石11が走行面3から離れていき、回動軸9を図3の反時計回りに付勢しようとする磁石11による磁力が弱まる一方で、捩りコイルバネ12が回動軸9を図3の時計回りに付勢し磁石11の上方への移動の補助として働くことになるため、磁石11は捩りコイルバネ12により上方に容易に移動される。また、磁石11の移動後にあっては、捩りコイルバネ12が、磁石11が走行面3から離れる方向に移動するように回動軸9を付勢し、磁石11を元の位置に戻すのを阻止するように働くため、当該磁石11は容易に静止される。
【0021】
また、このように、捩りコイルバネ12により、磁石11が走行面3から離れる方向に移動するように回動軸9が付勢されているのに加えて、回動軸9と同期回動可能に設けられた操作杆13に一端が連結されると共に他端が走行台車2の固定部である支柱15に連結され捩りコイルバネ12に比して衝撃に強い引っ張りコイルバネ14により、磁石11が走行面3から離れる方向に移動するように操作杆13が付勢されている。従って、自動溶接をするに先だって、図6〜図8に示すように、走行台車2を走行面3に対して勢い良く降ろしてしまった場合であっても、磁石11が走行面3に接近する方向に移動するのが妨げられ、よって、磁石11を効かせないそのままの状態で、溶接トーチ1の位置決め作業を行うことができる。従って、走行台車2を走行面3に降ろす際の作業者の肉体的、精神的負担を緩和できると共に位置決め作業を容易にできる。
【0022】
因みに、引っ張りコイルバネ14を設けずに、捩りコイルバネ12を設けるだけで、走行台車2を走行面3に対して勢い良く降ろしても磁石11が走行面3に接近しないようにするのは、捩りコイルバネ12はこのような衝撃に弱いこともあって当該捩りコイルバネ12をかなり太くする必要があり、走行台車2内に対する収容が困難であり現実的ではない。
【0023】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、上記実施形態においては、特に好ましいとして、引っ張りコイルバネ14の他端を、把手8の支柱15に連結するようにしているが、走行台車2の固定部であれば支柱15で無くても良い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る自動溶接機の外観構成を示す正面図である。
【図2】図1に示す自動溶接機の平面図である。
【図3】図1及び図2中の走行台車を示す一部破断正面図であり、磁石セット後の状態を示す図である。
【図4】図3に示す走行台車の一部破断平面図である。
【図5】図3に示す走行台車の一部破断右側面図である。
【図6】図1及び図2中の走行台車を示す一部破断正面図であり、磁石セット前の状態を示す図である。
【図7】図6に示す走行台車の一部破断平面図である。
【図8】図6に示す走行台車の一部破断右側面図である。
【符号の説明】
【0025】
1…溶接トーチ、2…走行台車、3…走行面、9…回動軸、11…磁石、12…捩りコイルバネ、13…操作杆、14…引っ張りコイルバネ、15…支柱(走行台車の固定部)、100…自動溶接機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチを搭載した走行台車が走行面を走行しながら前記溶接トーチより溶接を行う自動溶接機において、
前記走行台車に設けられ回動可能に支持された回動軸と、
前記回動軸の回動に伴い前記走行面に対して離接する方向に移動する磁石と、
前記回動軸と同期回動可能に設けられ、一方向に回動されると前記磁石を前記走行面に接近させる方向に移動させ、前記一方向とは反対の他方向に回動されると前記磁石を前記走行面から離れる方向に移動させる操作杆と、
前記回動軸に対して設けられ当該回動軸を前記他方向に回動するように付勢する捩りコイルバネと、
一端が前記操作杆に連結されると共に他端が前記走行台車の固定部に連結され、前記操作杆を前記他方向に回動するように付勢する引っ張りコイルバネと、を具備した自動溶接機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−307574(P2008−307574A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157730(P2007−157730)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(503218067)住友重機械マリンエンジニアリング株式会社 (55)
【出願人】(000185374)小池酸素工業株式会社 (64)