自動縫いミシンの布押え装置
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、自動縫いミシンにおいて被縫製物を挟持する布押え装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来のこの種のミシンの全体構成を、図4に示す。図4において、1はミシンのアーム、2はベッド、3はXY駆動装置、4はミシンベッド2を備えたミシンテーブル、5は布押え装置、6は記憶装置、7は記憶装置6を含みミシン頭部1,2及びXY駆動装置3を制御するための制御装置である。布押え装置5は被縫製物を挟持し制御装置7によりXY駆動装置3を介して、記憶装置6に予め記憶されたパターンにしたがってX−Y方向に駆動される。8は運転条件や縫製パターンを設定する操作盤、9はミシンを運転するための足動形の操作スイッチである。9aは操作スイッチ9に設けられた挟持スイッチ、9aは押えスイッチ、9cは縫製開始スイッチである。また、10は上記アーム1等を搭載した本体のフレームである。
【0003】図5に、動力により被縫製物を挟持する従来の布押え装置5の詳細を示す。布押え装置5は、押え押圧機構11と押え開閉機構12とから構成される。押え押圧機構11において、13はミシンアーム1に固定された複数の案内軸受け、14は案内軸受け13に上下動自在に軸承されたガイドバー、15はミシンアーム1に固定されたブラケット、16はブラケット15に取付けられた押圧用のエアシリンダ、17は複数のガイドバー14に支持されると共にエアシリンダ16のロッド16aに連結された押え摺動板である。
【0004】押え開閉機構12において、18はXY駆動装置3に搭載固定された押え台、19はブリッジ状の押え腕、20は上押え板である。押え腕19の基端側は揺動軸21で押え台18に回動自在に連結され、先端には上押え板20が押え軸22に遊嵌して取り付けられている。23は押え台18に固定されたスタンド、24はスタンド23に固着された取付台、25は挟持用の複動式エアシリンダ(以下、単にエアシリンダと呼ぶ)である。
【0005】エアシリンダ25の原理的構成図が、図6に示されている。図6において、25aはエアシリンダ25のロッド、25cはヘッド、25dはピストンである。エアシリンダ25のヘッド25cは取付台24に連結され(以下、流体回路の接続図が示された図12も参照のこと)、ロッド25aは駆動軸26により押え腕19の基部に連結されている。30は電磁弁、31は空気圧源、32は2つの流量調整弁である。また、P,A、Bは電磁弁30の入出力ポートと排出ポート、C,Dはエアシリンダ25の入出力ポートである。2つの流量調整弁32は、それぞれエアシリンダ25のヘッド25c側のポートDとロッド25a側のポートCに接続され、エアシリンダ25の流入流量と流出流量が調整される。
【0006】この外、空気圧を駆動源とする従来から公知のエアシリンダ25には、図7の(A) と(B) に示す構造のものもある。図7の(A) と(B) の25bは、戻しバネである。図(A) と(B) に示されたエアシリンダ25は、それぞれエアでロッド25aを押出す押出し形と引込む引込み形で、共に戻しバネ25bでロッド25aを元に戻す構造の流入用の単一のDポートとCポートを有する単動式エアシリンダである。単動式エアシリンダ25の戻しバネ25bの弾性力は極めて小さく、単にロッド25aを原位置に戻す機能を果たすだけで外部負荷に対する力を備えていない。
【0007】一方、この種のエアシリンダに流量調整弁を接続して流量を調整する公知の接続方式には、供給側の流量を調整するメータイン方式と排出側の流量を調整するメータアウト方式がある。図8の(A) は押出し形の単動式エアシリンダ25に、メータイン方式の流量調整弁32aを接続したものである。また、図8の(B) は引込み形の単動式エアシリンダ25に、上記と同じメータイン方式の流量調整弁32aを接続したものである。流量調整弁32aのsは逆止弁、rは可変絞りである。単動式エアシリンダの場合は前述したようにエアの供給ポートが単一のために、ロッド25aの押出し式と引込み式の動作形式に無関係で、いずれもメータイン方式の流量調整弁32aに限られる。
【0008】メータイン方式の流量調整弁32aとメータアウト方式の流量調整弁32bを接続した公知の複動式エアシリンダ25が、図9(A) (B) に示されている。図9(A) のメータイン方式では、ロッド25aを押出すときに右側の流量調整弁32aの可変絞りrで供給側のDポートの流量を変えてロッド25aの速度を調整する。この時、排出側のCポートからの排出エアが、左側の流量調整弁32aに内蔵された逆止弁sをフリーで通過して放出される。逆に、ロッド25aを引込み操作するときは、可変絞りrで供給側のCポートの流量を絞り、排出側の排出エアはDポートから逆止弁sを経てフリーで放出される。
【0009】また、同図(B) のメータアウト方式の流量調整弁32bでは、図(A) とは逆に供給側を右側の逆止弁sをフリーで通過させ、左の排出側を可変絞りrで流量を絞ってロッド25aの速度を調整する。したがって、ロッド25aは押出しと引込みの往復において流量が絞られて、移動速度の調整が行われる。複動式エアシリンダにおける2つの方式は、シリンダのボアサイズや外部負荷の大きさによってメータインとメータアウトの構成が選定される。一般には、外部負荷が大きい時に、メータアウト方式の絞りが採用される。
【0010】再び図4と図5に戻り、28は下押え板で一端を押え台18に固着され、他端はミシンテーブル4上に延設されて押え板20に対向している。上押え板20と下押え板28には共に図4に示されるような四角形の開口穴が設けられ、上押え板20と下押え板28がミシンベッド2の平面に沿って2軸方向に移動してこの開口穴の範囲内で縫製加工が行われる。また、押え腕19の上面の中央付近には摺動機構29が取付けられていて、押え摺動板17の摺動面17aに押圧されながら摺動するようになっている。
【0011】上記のような構成の従来のミシンの動作を、主に図10乃至図12を用いて次に説明する。なお、図12では電磁弁30の励磁状態が、示されている。図10は縫製開始前の状態を示したもので、開放状態の上押え板20と下押え板28との間に被縫製物をセットする。電源スイッチを操作して図4に示された制御装置7の制御回路に電圧を印加し、操作スイッチ9の挟持スイッチ9aにより布押えの始動を指令する。この指令を受けて図12の電磁弁30から空気圧源31の圧縮空気が、エアシリンダ25のヘッド25c側に供給される。エアシリンダ25のロッド25aが押し出されて、駆動軸26で基端を連結した押え腕19が揺動軸21を中心に揺動して図10の矢印E方向へ旋回する。押え腕19の旋回動作で上押え板20が矢印Fで示されたように下降して、下押え板28との間に被縫製物が挟持される。
【0012】挟持用のエアシリンダ25による押え腕19の旋回動作の挟持力は、押え腕19が長尺のために強い力が加えられない。挟持力を強くするためにエアシリンダ25の出力を高めることは簡単であるが、出力に比例して押え腕19等の構造を堅牢にすることが必要になる。縫製時の動作の応答性等を考慮しての軽量化などから押え腕19の強化は避け、押え腕19を上下方向に開閉させる程度の出力に留めるのが一般的である。こうした理由から、ミシンアーム1に押え押圧機構11が設けてある。
【0013】一方、上記の押えスイッチ9bの投入に同期して、圧縮空気が押圧用のエアシリンダ16にも供給される。そして、エアシリンダ16のロッド16aが押出されて、押え摺動板17がガイドバー14に案内されて下降する。下降する押え摺動板17によって、押え腕19の上部に取付けられた摺動機構29への押圧が開始される。この結果、エアシリンダ16の押圧力が押え腕19を経て垂直上方から上押え板20に伝わり、下押え板28との間に被縫製物が挟まれてミシンテーブル4上に押付けられて挟持される。
【0014】図11は、布押え装置5の被縫製物挟持後の動作を示したものである。XY駆動装置3はX−Yの2軸方向に駆動する機能を備え、図示のようにミシンベッド2並びにミシンテーブル4と平行に設置されている。押え開閉機構12が点線で示した位置からXY駆動装置3によって矢印G方向へ移動する時、押圧用のエアシリンダ16の出力を得て押え摺動板17を下降の下限位置で被縫製物を保持している。押え摺動板17は押え台18の移動平面と対応した広さを持ち、その摺動面17aから摺動機構29の離脱するのを防いでいる。伝達された押圧力はミシンベッド2或いはミシンテーブル4で受け止められ、上押え板20と下押え板28とで被縫製物の挟持状態を維持しつつ、操作スイッチ9の縫製開始スイッチ9cの投入により、XY駆動装置3が縫いピッチ毎に二次元的な起動と停止とを頻繁に繰り返しながら縫製加工が行われる。
【0015】記憶装置6にプログラムされたパターンにより縫製が終了すると、原点位置(縫製開始位置)に復帰して被縫製物の押え(挟持)を解放する。この押え解放動作を図12で説明する。布押え解除指令により、押え押圧機構11(図5)が押え開閉機構12の押圧を解除すると共に、電磁弁30を消磁する。消磁と同時に電磁弁30のスプールが移動してPポートが図示のAポートからBポートに切換えられ、空気圧源31からの圧縮空気がBポートに供給される。Bポートを通った空気圧が、流量調整弁(通称:スピードコントローラ)32を経てエアシリンダ25のCポートへ流入する。しかして、ロッド25aがエアシリンダ25内に引込み、駆動軸26で連結された押え腕19が揺動軸21を中心に矢印J方向へ回動される。この結果、上押え板20が矢印K方向に上昇し破線の位置に移って、被縫製物の挟持を解放する。
【0016】ここで、上押え板20等で構成する挟持部に作用する荷重をW、揺動軸21から押え軸22と駆動軸26までの距離をL1 とL2 とすると、エアシリンダ25の推力Mは次式で与えられる(図12)。
M=L2×W/L1 …(a)因みに、上記荷重W等の諸元の値を一実施例で示せば、次の通りである。
W=10kgL1=11cmL2=80cmこれらの数値を、(a) 式に代入するとほぼM=73(kg)になる。上記のMの数値が示すように、押え軸22に加わる作動時のモーメントは極めて大きい値になる。挟持動作に係る開閉駆動について、押さえ腕19が長くL1が大きいので挟持力を強くできない旨を前述したとおり、挟持動作時においては、押え腕19の荷重Wにエアシリンダ25の推力(出力)Mが加算されて押さえ腕19に作用するから、エアシリンダ25の推力(出力)は極力低くおさえた方が得策である。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】従来の布押え装置5は以上のように構成されているので、押え開閉機構12の重量はXY駆動装置3の制御特性を左右し、重量が重くなるに連れて制動特性の低下による縫いピッチの乱れを招くことになる。また、縫い速度も制限されるために、縫製作業の能率改善にも支障を来すことになる。
【0018】一方、従来の布押さえ装置は図9(B) のように、メータアウトの絞り方式を採用した構成のものもある。しかしながら、押え腕19が長尺なるがゆえに作動時のモーメントが大きくなり、押え腕19の下降動作にモーメントが影響する。この結果、エアシリンダ25の速度よりも押え腕19の方が早くなる“先走り現象”が生じ、圧縮空気の流量調整でエアシリンダ25を減速させることが困難になる等の問題点があった。本発明はこのような従来の布押さえ装置の上記したような不都合を解消するためになされたものである。
【0019】
【課題を解決するための手段】本発明は、XY駆動装置に搭載されて一体にXY方向に駆動される押え開閉機構の押え台と、押え台に基端が枢支され先端に上押え板を枢着し途中が摺動機構を介して押え押圧機構の押え摺動板に摺接されて下方に向う押圧力が加えられる押え腕と、押え腕と押え台との間に介装されシリンダ内に供給された流体圧により押え腕を揺動させる挟持用の流体シリンダと、押え台に固定されミシンテーブル上に延設されて上押え板に対向して流体シリンダと押え押圧機構の押圧力により被縫製物を挟持する下押え板とを備えた自動縫いミシンの布押え装置において、流体シリンダを、ロッドの押出し推力に抵抗して押え腕を下降させて被縫製物を挟持すると共に、引込み推力を付勢して押え腕を上昇させて被縫製物を解放するコイルスプリングを内蔵した複動式の流体シリンダで構成した自動縫いミシンの布押え装置を構成したものである。
【0020】また、上記の自動縫いミシンの布押え装置において、複動式の流体シリンダのヘッド側とロッド側にメータイン方式とメータアウト方式の流量調整弁を設け、両流量調整弁によりロッドの押出し推力を調整すると共に、引込み推力を無調整にする自動縫いミシンの布押え装置を構成したものである。
【0021】
【作用】複動式の流体シリンダのコイルスプリングは、押え腕が下降して挟持するときは流体シリンダの押出し推力に抵抗する。また、押え腕が上昇して被縫製物を解放するときは複動式の流体シリンダのコイルスプリングが、ロッド引き込み推力を付勢する。
【0022】また、流体シリンダがロッドの押出し動作を行うときは、流入側と流出側に設けられた流量調整弁が流体シリンダへの供給流量と排出流量との両流量を抑制する。
【0023】
【実施例】
実施例1.この発明の実施例1の構成を図1を用いて、図5を参照しながら説明する。図1は押え開閉機構12を開閉する駆動部の付近を示すもので、18はXY駆動装置3(図5)に搭載固定された押え台、19は押え腕、21は押え台18と押え腕19を揺動自在に枢着した揺動軸、23は押え台18に固定されたスタンド、24はスタンド23に固着された取付台である。
【0024】40は電磁弁、41は油圧のような流体圧源である。流体圧源41には、アキュムレータやタンクを備えた油圧ポンプ等が用いられる。50は,例えば油圧を利用した複動式の流体シリンダ(以下、油圧シリンダと呼ぶ)である。50aは油圧シリンダ50のロッド、50bはコイルスプリング、50cはヘッド、50dはピストンである。油圧シリンダ50のピストン50dと一体のロッド50aは、駆動軸26で押え腕19に回動可能に連結されている。また、油圧シリンダ50のヘッド側50cは、軸27で取付台24に枢着されている。コイルスプリング50bは油圧シリンダ25に内蔵され、ロッド50aに同軸的に嵌装されてロッド50aが引込む方向のやや強い弾性力を作用している。51と52は流量調整弁である。流量調整弁51は油圧シリンダ50のヘッド側50cにメータイン方式で接続され、流量調整弁52は油圧シリンダ50のロッド側50cにメータアウト方式で接続されされている。
【0025】上述以外は従来と同じ構成で、図1には図示されていないが、押え腕19の先端には上押え板20が押え軸22により揺動自在に枢着されている。また、押え台18には下押え板28が固着され、上押え板20と下押え板28が対向する位置関係にあって被縫製物を挟持する。このような押え開閉機構12は、押え押圧機構11と組合わされて布押え装置5を成してXY駆動装置3に搭載固定されていることも従来装置と同様である。
【0026】次に、上述のような構成の本発明の動作を説明する。挟持スイッチ9a(図4)の投入から縫製パターンのプログラム終了までの一連の動作は、従来と同一なため再説明を省略する。
【0027】図2はこの発明に係る油圧シリンダ50で、ロッド50aをコイルスプリング50bと油圧とで戻す複動式の押出し形である。図1にその取り付け状態を示してある。前記挟持スイッチ9aの投入で電磁弁40が励磁されると、内部のスプール(図示せず)が移動してPポートがAポートに切換えられる。ポートの切換えで油圧源41から供給された油圧がAポートから流量調整弁51を経て、油圧シリンダ50のDポートに供給される。油圧シリンダ50のヘッド50c側に供給された油圧によってピストン50dが左方に加圧され、コイルスプリング50bの反発力に抗してロッド50aが押出される。そして、駆動軸26でロッド50aに連結された押え腕19が、揺動軸21を支点として矢印E方向に旋回する。この押え腕19の旋回動作で被縫製物挟持部が矢印F方向へ下降して、被縫製物が挟持される。
【0028】縫製サイクルの終了で被縫製物の挟持を押え腕19から解放するときは、電磁弁40が消磁されて回路が図1の状態に切換えられる。回路の切換えで油圧源41の油圧がPポートからBポートに送られて、左の流量調整弁52を経て油圧シリンダ50のCポートに供給される。ロッド50a側に供給された油圧がコイルスプリング50bの弾性力と共同して、ロッド50aをシリンダ50内のP2 方向に引込ませて押え腕19をK方向へ上昇させる。
【0029】この場合、コイルスプリング50bの弾性力(拡張力)Fを前記荷重Wと等しく選べば、押え腕19の駆動力を小さくすることができる。しかしながら、前述の実施例で示した推力M=73kgに対応するような弾性力Fのコイルスプリング50bを油圧シリンダ50に内蔵させると、油圧シリンダ50が徒に大型化して実用的ではない。従って、本発明は全体構造を考慮して油圧シリンダ50のサイズを決定し、選択した油圧シリンダ50の推力で出力が不足する力をコイルスプリング50bで補う構成を採用したものである。
【0030】このような本発明によれば、押え腕19の上昇時は所要出力からコイルスプリング50bの弾性力分を差し引いた値の推力Mの油圧シリンダ50を用いれば良い。こうして決定された油圧シリンダ50の推力Mは押え腕19が下降するときに、コイルスプリング50bの弾性力が反発作用するから、油圧シリンダ50からこの弾性力分を差し引いた値が押え腕19の下降時の出力となる。挟持動作の駆動出力が低くなれば、挟持部を昇降させる押え腕19の曲げ応力に対する強度を下げることも可能となり、この強度の低減は押え腕19の軽量化に大きく貢献することになる。
【0031】実施例2.前述したが図3にも示されているように、本発明実施例2の複動式油圧シリンダ50には、ヘッド50C側のDポートにメータイン方式の流量調整弁51が接続されている。また、ロッド50a側のCポートには、メータアウト方式の流量調整弁52が接続されている。この構成の押え開閉機構12の押え腕19を下降させて被縫製物を挟持するときは、2つの流量調整弁51と52の各可変絞りrによってDポート側の供給流量とCポート側排出流量の両方が絞られる。
【0032】本願発明者の種々の実験結果により、次のことが明らかにされた。前述の図8(A) と図9(B) のような公知の従来方式で排出側を可変絞りrで絞っただけでは、押さえ腕19の“先走り現象”を抑えることができない。その理由は、従来公知のエアシリンダ25の場合のロッド25aが移動するに必要な流量が、供給側から供給されているためであるとの結論を得た。そこで、本発明はロッド50aが押え腕19側のモーメントで引出される所謂ゆる“先走り現象”を防止する手段として、Dポート側にメータイン方式の流量調整弁51に設けた構成を採用したものである。
【0033】本発明のメータイン・メータアウト方式の油圧シリンダ50の流量調整では、押え腕19の下降時だけ各可変絞りrによって調整される。しかし、上昇時にはCポートとDポートの流量調整弁52、51を油圧がフリーで通過させ、従来装置のようなロッド25aの力が上昇と降下に作用するものではない。しかし都合の良いことに、加わるモーメントの大きい押え腕19の上昇速度を低下させるだけで、上昇時の流量調整が無くても特別支障がない。
【0034】
【発明の効果】本発明は、XY駆動装置に搭載されて一体にXY方向に駆動される押え開閉機構の押え台と、押え台に基端が枢支され先端に上押え板を枢着し途中が摺動機構を介して押え押圧機構の押え摺動板に摺接されて下方に向う押圧力が加えられる押え腕と、押え腕と押え台との間に介装されシリンダ内に供給された流体圧により押え腕を揺動させる挟持用の流体シリンダと、押え台に固定されミシンテーブル上に延設されて上押え板に対向して流体シリンダと押え押圧機構の押圧力により被縫製物を挟持する下押え板とを備えた自動縫いミシンの布押え装置において、流体シリンダを、ロッドの押出し推力に抵抗して押え腕を下降させて被縫製物を挟持すると共に、引込み推力を付勢して押え腕を上昇させて被縫製物を解放するコイルスプリングを内蔵した複動式の流体シリンダで構成した自動縫いミシンの布押え装置を構成した。
【0035】また、上記の自動縫いミシンの布押え装置において、複動式の流体シリンダのヘッド側とロッド側にメータイン方式とメータアウト方式の流量調整弁を設け、両流量調整弁によりロッドの押出し推力を調整すると共に、引込み推力を無調整にする自動縫いミシンの布押え装置を構成した。
【0036】この結果、この発明の実施例1によれば、流体シリンダにコイルスプリングを内蔵して押え腕の駆動に必要な出力を低く抑えたので、押え腕自体の強度を下げて軽量化を実現することができる。また、押え押圧機構等の布押え装置全体の慣性エネルギーが減少し、駆動装置の制動特性が向上して高速で円滑な縫製加工が実施できる。
【0037】また、挟持用の流体シリンダの流量調整をメータイン・メータアウト方式にしたので、絞り効率の高いものが得られて押え腕の下降動作の衝撃を緩和してスムーズな減速調整ができる効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施例1の押え開閉機構の側面図である。
【図2】この発明の実施例1の流体シリンダの構成図である。
【図3】この発明の実施例2の流体シリンダの構成図である。
【図4】従来の自動縫いミシンの全体構成を示す斜視図である。
【図5】従来の布押え装置を示す側面図である。
【図6】図5で示した従来のエアシリンダの原理的構成図である。
【図7】(A) ,(B) は公知の単動式流体シリンダの回路図である。
【図8】(A) ,(B) は公知の単動式流体シリンダの接続方式を示す回路図である。
【図9】(A) ,(B) は公知の複動式流体シリンダの接続方式を示す回路図である。
【図10】従来の布押え装置の挟持前の状態を示す説明図である。
【図11】従来の布押え装置の挟持後の動作を示す説明図である。
【図12】従来の布押え装置の解放動作を示す説明図である。
【符号の説明】
1 ミシンアーム
2 ミシンベッド
3 XY駆動装置
7 制御装置
11 押え押圧機構
12 押え開閉機構
17 押え摺動板
18 押え台
19 押え腕
29 摺動機構
50 挟持用の流体シリンダ
50a ロッド
50b コイルスプリング
50c ヘッド
50d ピストン
51 メータイン方式流量調整弁
52 メータアウト方式流量調整弁
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、自動縫いミシンにおいて被縫製物を挟持する布押え装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来のこの種のミシンの全体構成を、図4に示す。図4において、1はミシンのアーム、2はベッド、3はXY駆動装置、4はミシンベッド2を備えたミシンテーブル、5は布押え装置、6は記憶装置、7は記憶装置6を含みミシン頭部1,2及びXY駆動装置3を制御するための制御装置である。布押え装置5は被縫製物を挟持し制御装置7によりXY駆動装置3を介して、記憶装置6に予め記憶されたパターンにしたがってX−Y方向に駆動される。8は運転条件や縫製パターンを設定する操作盤、9はミシンを運転するための足動形の操作スイッチである。9aは操作スイッチ9に設けられた挟持スイッチ、9aは押えスイッチ、9cは縫製開始スイッチである。また、10は上記アーム1等を搭載した本体のフレームである。
【0003】図5に、動力により被縫製物を挟持する従来の布押え装置5の詳細を示す。布押え装置5は、押え押圧機構11と押え開閉機構12とから構成される。押え押圧機構11において、13はミシンアーム1に固定された複数の案内軸受け、14は案内軸受け13に上下動自在に軸承されたガイドバー、15はミシンアーム1に固定されたブラケット、16はブラケット15に取付けられた押圧用のエアシリンダ、17は複数のガイドバー14に支持されると共にエアシリンダ16のロッド16aに連結された押え摺動板である。
【0004】押え開閉機構12において、18はXY駆動装置3に搭載固定された押え台、19はブリッジ状の押え腕、20は上押え板である。押え腕19の基端側は揺動軸21で押え台18に回動自在に連結され、先端には上押え板20が押え軸22に遊嵌して取り付けられている。23は押え台18に固定されたスタンド、24はスタンド23に固着された取付台、25は挟持用の複動式エアシリンダ(以下、単にエアシリンダと呼ぶ)である。
【0005】エアシリンダ25の原理的構成図が、図6に示されている。図6において、25aはエアシリンダ25のロッド、25cはヘッド、25dはピストンである。エアシリンダ25のヘッド25cは取付台24に連結され(以下、流体回路の接続図が示された図12も参照のこと)、ロッド25aは駆動軸26により押え腕19の基部に連結されている。30は電磁弁、31は空気圧源、32は2つの流量調整弁である。また、P,A、Bは電磁弁30の入出力ポートと排出ポート、C,Dはエアシリンダ25の入出力ポートである。2つの流量調整弁32は、それぞれエアシリンダ25のヘッド25c側のポートDとロッド25a側のポートCに接続され、エアシリンダ25の流入流量と流出流量が調整される。
【0006】この外、空気圧を駆動源とする従来から公知のエアシリンダ25には、図7の(A) と(B) に示す構造のものもある。図7の(A) と(B) の25bは、戻しバネである。図(A) と(B) に示されたエアシリンダ25は、それぞれエアでロッド25aを押出す押出し形と引込む引込み形で、共に戻しバネ25bでロッド25aを元に戻す構造の流入用の単一のDポートとCポートを有する単動式エアシリンダである。単動式エアシリンダ25の戻しバネ25bの弾性力は極めて小さく、単にロッド25aを原位置に戻す機能を果たすだけで外部負荷に対する力を備えていない。
【0007】一方、この種のエアシリンダに流量調整弁を接続して流量を調整する公知の接続方式には、供給側の流量を調整するメータイン方式と排出側の流量を調整するメータアウト方式がある。図8の(A) は押出し形の単動式エアシリンダ25に、メータイン方式の流量調整弁32aを接続したものである。また、図8の(B) は引込み形の単動式エアシリンダ25に、上記と同じメータイン方式の流量調整弁32aを接続したものである。流量調整弁32aのsは逆止弁、rは可変絞りである。単動式エアシリンダの場合は前述したようにエアの供給ポートが単一のために、ロッド25aの押出し式と引込み式の動作形式に無関係で、いずれもメータイン方式の流量調整弁32aに限られる。
【0008】メータイン方式の流量調整弁32aとメータアウト方式の流量調整弁32bを接続した公知の複動式エアシリンダ25が、図9(A) (B) に示されている。図9(A) のメータイン方式では、ロッド25aを押出すときに右側の流量調整弁32aの可変絞りrで供給側のDポートの流量を変えてロッド25aの速度を調整する。この時、排出側のCポートからの排出エアが、左側の流量調整弁32aに内蔵された逆止弁sをフリーで通過して放出される。逆に、ロッド25aを引込み操作するときは、可変絞りrで供給側のCポートの流量を絞り、排出側の排出エアはDポートから逆止弁sを経てフリーで放出される。
【0009】また、同図(B) のメータアウト方式の流量調整弁32bでは、図(A) とは逆に供給側を右側の逆止弁sをフリーで通過させ、左の排出側を可変絞りrで流量を絞ってロッド25aの速度を調整する。したがって、ロッド25aは押出しと引込みの往復において流量が絞られて、移動速度の調整が行われる。複動式エアシリンダにおける2つの方式は、シリンダのボアサイズや外部負荷の大きさによってメータインとメータアウトの構成が選定される。一般には、外部負荷が大きい時に、メータアウト方式の絞りが採用される。
【0010】再び図4と図5に戻り、28は下押え板で一端を押え台18に固着され、他端はミシンテーブル4上に延設されて押え板20に対向している。上押え板20と下押え板28には共に図4に示されるような四角形の開口穴が設けられ、上押え板20と下押え板28がミシンベッド2の平面に沿って2軸方向に移動してこの開口穴の範囲内で縫製加工が行われる。また、押え腕19の上面の中央付近には摺動機構29が取付けられていて、押え摺動板17の摺動面17aに押圧されながら摺動するようになっている。
【0011】上記のような構成の従来のミシンの動作を、主に図10乃至図12を用いて次に説明する。なお、図12では電磁弁30の励磁状態が、示されている。図10は縫製開始前の状態を示したもので、開放状態の上押え板20と下押え板28との間に被縫製物をセットする。電源スイッチを操作して図4に示された制御装置7の制御回路に電圧を印加し、操作スイッチ9の挟持スイッチ9aにより布押えの始動を指令する。この指令を受けて図12の電磁弁30から空気圧源31の圧縮空気が、エアシリンダ25のヘッド25c側に供給される。エアシリンダ25のロッド25aが押し出されて、駆動軸26で基端を連結した押え腕19が揺動軸21を中心に揺動して図10の矢印E方向へ旋回する。押え腕19の旋回動作で上押え板20が矢印Fで示されたように下降して、下押え板28との間に被縫製物が挟持される。
【0012】挟持用のエアシリンダ25による押え腕19の旋回動作の挟持力は、押え腕19が長尺のために強い力が加えられない。挟持力を強くするためにエアシリンダ25の出力を高めることは簡単であるが、出力に比例して押え腕19等の構造を堅牢にすることが必要になる。縫製時の動作の応答性等を考慮しての軽量化などから押え腕19の強化は避け、押え腕19を上下方向に開閉させる程度の出力に留めるのが一般的である。こうした理由から、ミシンアーム1に押え押圧機構11が設けてある。
【0013】一方、上記の押えスイッチ9bの投入に同期して、圧縮空気が押圧用のエアシリンダ16にも供給される。そして、エアシリンダ16のロッド16aが押出されて、押え摺動板17がガイドバー14に案内されて下降する。下降する押え摺動板17によって、押え腕19の上部に取付けられた摺動機構29への押圧が開始される。この結果、エアシリンダ16の押圧力が押え腕19を経て垂直上方から上押え板20に伝わり、下押え板28との間に被縫製物が挟まれてミシンテーブル4上に押付けられて挟持される。
【0014】図11は、布押え装置5の被縫製物挟持後の動作を示したものである。XY駆動装置3はX−Yの2軸方向に駆動する機能を備え、図示のようにミシンベッド2並びにミシンテーブル4と平行に設置されている。押え開閉機構12が点線で示した位置からXY駆動装置3によって矢印G方向へ移動する時、押圧用のエアシリンダ16の出力を得て押え摺動板17を下降の下限位置で被縫製物を保持している。押え摺動板17は押え台18の移動平面と対応した広さを持ち、その摺動面17aから摺動機構29の離脱するのを防いでいる。伝達された押圧力はミシンベッド2或いはミシンテーブル4で受け止められ、上押え板20と下押え板28とで被縫製物の挟持状態を維持しつつ、操作スイッチ9の縫製開始スイッチ9cの投入により、XY駆動装置3が縫いピッチ毎に二次元的な起動と停止とを頻繁に繰り返しながら縫製加工が行われる。
【0015】記憶装置6にプログラムされたパターンにより縫製が終了すると、原点位置(縫製開始位置)に復帰して被縫製物の押え(挟持)を解放する。この押え解放動作を図12で説明する。布押え解除指令により、押え押圧機構11(図5)が押え開閉機構12の押圧を解除すると共に、電磁弁30を消磁する。消磁と同時に電磁弁30のスプールが移動してPポートが図示のAポートからBポートに切換えられ、空気圧源31からの圧縮空気がBポートに供給される。Bポートを通った空気圧が、流量調整弁(通称:スピードコントローラ)32を経てエアシリンダ25のCポートへ流入する。しかして、ロッド25aがエアシリンダ25内に引込み、駆動軸26で連結された押え腕19が揺動軸21を中心に矢印J方向へ回動される。この結果、上押え板20が矢印K方向に上昇し破線の位置に移って、被縫製物の挟持を解放する。
【0016】ここで、上押え板20等で構成する挟持部に作用する荷重をW、揺動軸21から押え軸22と駆動軸26までの距離をL1 とL2 とすると、エアシリンダ25の推力Mは次式で与えられる(図12)。
M=L2×W/L1 …(a)因みに、上記荷重W等の諸元の値を一実施例で示せば、次の通りである。
W=10kgL1=11cmL2=80cmこれらの数値を、(a) 式に代入するとほぼM=73(kg)になる。上記のMの数値が示すように、押え軸22に加わる作動時のモーメントは極めて大きい値になる。挟持動作に係る開閉駆動について、押さえ腕19が長くL1が大きいので挟持力を強くできない旨を前述したとおり、挟持動作時においては、押え腕19の荷重Wにエアシリンダ25の推力(出力)Mが加算されて押さえ腕19に作用するから、エアシリンダ25の推力(出力)は極力低くおさえた方が得策である。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】従来の布押え装置5は以上のように構成されているので、押え開閉機構12の重量はXY駆動装置3の制御特性を左右し、重量が重くなるに連れて制動特性の低下による縫いピッチの乱れを招くことになる。また、縫い速度も制限されるために、縫製作業の能率改善にも支障を来すことになる。
【0018】一方、従来の布押さえ装置は図9(B) のように、メータアウトの絞り方式を採用した構成のものもある。しかしながら、押え腕19が長尺なるがゆえに作動時のモーメントが大きくなり、押え腕19の下降動作にモーメントが影響する。この結果、エアシリンダ25の速度よりも押え腕19の方が早くなる“先走り現象”が生じ、圧縮空気の流量調整でエアシリンダ25を減速させることが困難になる等の問題点があった。本発明はこのような従来の布押さえ装置の上記したような不都合を解消するためになされたものである。
【0019】
【課題を解決するための手段】本発明は、XY駆動装置に搭載されて一体にXY方向に駆動される押え開閉機構の押え台と、押え台に基端が枢支され先端に上押え板を枢着し途中が摺動機構を介して押え押圧機構の押え摺動板に摺接されて下方に向う押圧力が加えられる押え腕と、押え腕と押え台との間に介装されシリンダ内に供給された流体圧により押え腕を揺動させる挟持用の流体シリンダと、押え台に固定されミシンテーブル上に延設されて上押え板に対向して流体シリンダと押え押圧機構の押圧力により被縫製物を挟持する下押え板とを備えた自動縫いミシンの布押え装置において、流体シリンダを、ロッドの押出し推力に抵抗して押え腕を下降させて被縫製物を挟持すると共に、引込み推力を付勢して押え腕を上昇させて被縫製物を解放するコイルスプリングを内蔵した複動式の流体シリンダで構成した自動縫いミシンの布押え装置を構成したものである。
【0020】また、上記の自動縫いミシンの布押え装置において、複動式の流体シリンダのヘッド側とロッド側にメータイン方式とメータアウト方式の流量調整弁を設け、両流量調整弁によりロッドの押出し推力を調整すると共に、引込み推力を無調整にする自動縫いミシンの布押え装置を構成したものである。
【0021】
【作用】複動式の流体シリンダのコイルスプリングは、押え腕が下降して挟持するときは流体シリンダの押出し推力に抵抗する。また、押え腕が上昇して被縫製物を解放するときは複動式の流体シリンダのコイルスプリングが、ロッド引き込み推力を付勢する。
【0022】また、流体シリンダがロッドの押出し動作を行うときは、流入側と流出側に設けられた流量調整弁が流体シリンダへの供給流量と排出流量との両流量を抑制する。
【0023】
【実施例】
実施例1.この発明の実施例1の構成を図1を用いて、図5を参照しながら説明する。図1は押え開閉機構12を開閉する駆動部の付近を示すもので、18はXY駆動装置3(図5)に搭載固定された押え台、19は押え腕、21は押え台18と押え腕19を揺動自在に枢着した揺動軸、23は押え台18に固定されたスタンド、24はスタンド23に固着された取付台である。
【0024】40は電磁弁、41は油圧のような流体圧源である。流体圧源41には、アキュムレータやタンクを備えた油圧ポンプ等が用いられる。50は,例えば油圧を利用した複動式の流体シリンダ(以下、油圧シリンダと呼ぶ)である。50aは油圧シリンダ50のロッド、50bはコイルスプリング、50cはヘッド、50dはピストンである。油圧シリンダ50のピストン50dと一体のロッド50aは、駆動軸26で押え腕19に回動可能に連結されている。また、油圧シリンダ50のヘッド側50cは、軸27で取付台24に枢着されている。コイルスプリング50bは油圧シリンダ25に内蔵され、ロッド50aに同軸的に嵌装されてロッド50aが引込む方向のやや強い弾性力を作用している。51と52は流量調整弁である。流量調整弁51は油圧シリンダ50のヘッド側50cにメータイン方式で接続され、流量調整弁52は油圧シリンダ50のロッド側50cにメータアウト方式で接続されされている。
【0025】上述以外は従来と同じ構成で、図1には図示されていないが、押え腕19の先端には上押え板20が押え軸22により揺動自在に枢着されている。また、押え台18には下押え板28が固着され、上押え板20と下押え板28が対向する位置関係にあって被縫製物を挟持する。このような押え開閉機構12は、押え押圧機構11と組合わされて布押え装置5を成してXY駆動装置3に搭載固定されていることも従来装置と同様である。
【0026】次に、上述のような構成の本発明の動作を説明する。挟持スイッチ9a(図4)の投入から縫製パターンのプログラム終了までの一連の動作は、従来と同一なため再説明を省略する。
【0027】図2はこの発明に係る油圧シリンダ50で、ロッド50aをコイルスプリング50bと油圧とで戻す複動式の押出し形である。図1にその取り付け状態を示してある。前記挟持スイッチ9aの投入で電磁弁40が励磁されると、内部のスプール(図示せず)が移動してPポートがAポートに切換えられる。ポートの切換えで油圧源41から供給された油圧がAポートから流量調整弁51を経て、油圧シリンダ50のDポートに供給される。油圧シリンダ50のヘッド50c側に供給された油圧によってピストン50dが左方に加圧され、コイルスプリング50bの反発力に抗してロッド50aが押出される。そして、駆動軸26でロッド50aに連結された押え腕19が、揺動軸21を支点として矢印E方向に旋回する。この押え腕19の旋回動作で被縫製物挟持部が矢印F方向へ下降して、被縫製物が挟持される。
【0028】縫製サイクルの終了で被縫製物の挟持を押え腕19から解放するときは、電磁弁40が消磁されて回路が図1の状態に切換えられる。回路の切換えで油圧源41の油圧がPポートからBポートに送られて、左の流量調整弁52を経て油圧シリンダ50のCポートに供給される。ロッド50a側に供給された油圧がコイルスプリング50bの弾性力と共同して、ロッド50aをシリンダ50内のP2 方向に引込ませて押え腕19をK方向へ上昇させる。
【0029】この場合、コイルスプリング50bの弾性力(拡張力)Fを前記荷重Wと等しく選べば、押え腕19の駆動力を小さくすることができる。しかしながら、前述の実施例で示した推力M=73kgに対応するような弾性力Fのコイルスプリング50bを油圧シリンダ50に内蔵させると、油圧シリンダ50が徒に大型化して実用的ではない。従って、本発明は全体構造を考慮して油圧シリンダ50のサイズを決定し、選択した油圧シリンダ50の推力で出力が不足する力をコイルスプリング50bで補う構成を採用したものである。
【0030】このような本発明によれば、押え腕19の上昇時は所要出力からコイルスプリング50bの弾性力分を差し引いた値の推力Mの油圧シリンダ50を用いれば良い。こうして決定された油圧シリンダ50の推力Mは押え腕19が下降するときに、コイルスプリング50bの弾性力が反発作用するから、油圧シリンダ50からこの弾性力分を差し引いた値が押え腕19の下降時の出力となる。挟持動作の駆動出力が低くなれば、挟持部を昇降させる押え腕19の曲げ応力に対する強度を下げることも可能となり、この強度の低減は押え腕19の軽量化に大きく貢献することになる。
【0031】実施例2.前述したが図3にも示されているように、本発明実施例2の複動式油圧シリンダ50には、ヘッド50C側のDポートにメータイン方式の流量調整弁51が接続されている。また、ロッド50a側のCポートには、メータアウト方式の流量調整弁52が接続されている。この構成の押え開閉機構12の押え腕19を下降させて被縫製物を挟持するときは、2つの流量調整弁51と52の各可変絞りrによってDポート側の供給流量とCポート側排出流量の両方が絞られる。
【0032】本願発明者の種々の実験結果により、次のことが明らかにされた。前述の図8(A) と図9(B) のような公知の従来方式で排出側を可変絞りrで絞っただけでは、押さえ腕19の“先走り現象”を抑えることができない。その理由は、従来公知のエアシリンダ25の場合のロッド25aが移動するに必要な流量が、供給側から供給されているためであるとの結論を得た。そこで、本発明はロッド50aが押え腕19側のモーメントで引出される所謂ゆる“先走り現象”を防止する手段として、Dポート側にメータイン方式の流量調整弁51に設けた構成を採用したものである。
【0033】本発明のメータイン・メータアウト方式の油圧シリンダ50の流量調整では、押え腕19の下降時だけ各可変絞りrによって調整される。しかし、上昇時にはCポートとDポートの流量調整弁52、51を油圧がフリーで通過させ、従来装置のようなロッド25aの力が上昇と降下に作用するものではない。しかし都合の良いことに、加わるモーメントの大きい押え腕19の上昇速度を低下させるだけで、上昇時の流量調整が無くても特別支障がない。
【0034】
【発明の効果】本発明は、XY駆動装置に搭載されて一体にXY方向に駆動される押え開閉機構の押え台と、押え台に基端が枢支され先端に上押え板を枢着し途中が摺動機構を介して押え押圧機構の押え摺動板に摺接されて下方に向う押圧力が加えられる押え腕と、押え腕と押え台との間に介装されシリンダ内に供給された流体圧により押え腕を揺動させる挟持用の流体シリンダと、押え台に固定されミシンテーブル上に延設されて上押え板に対向して流体シリンダと押え押圧機構の押圧力により被縫製物を挟持する下押え板とを備えた自動縫いミシンの布押え装置において、流体シリンダを、ロッドの押出し推力に抵抗して押え腕を下降させて被縫製物を挟持すると共に、引込み推力を付勢して押え腕を上昇させて被縫製物を解放するコイルスプリングを内蔵した複動式の流体シリンダで構成した自動縫いミシンの布押え装置を構成した。
【0035】また、上記の自動縫いミシンの布押え装置において、複動式の流体シリンダのヘッド側とロッド側にメータイン方式とメータアウト方式の流量調整弁を設け、両流量調整弁によりロッドの押出し推力を調整すると共に、引込み推力を無調整にする自動縫いミシンの布押え装置を構成した。
【0036】この結果、この発明の実施例1によれば、流体シリンダにコイルスプリングを内蔵して押え腕の駆動に必要な出力を低く抑えたので、押え腕自体の強度を下げて軽量化を実現することができる。また、押え押圧機構等の布押え装置全体の慣性エネルギーが減少し、駆動装置の制動特性が向上して高速で円滑な縫製加工が実施できる。
【0037】また、挟持用の流体シリンダの流量調整をメータイン・メータアウト方式にしたので、絞り効率の高いものが得られて押え腕の下降動作の衝撃を緩和してスムーズな減速調整ができる効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施例1の押え開閉機構の側面図である。
【図2】この発明の実施例1の流体シリンダの構成図である。
【図3】この発明の実施例2の流体シリンダの構成図である。
【図4】従来の自動縫いミシンの全体構成を示す斜視図である。
【図5】従来の布押え装置を示す側面図である。
【図6】図5で示した従来のエアシリンダの原理的構成図である。
【図7】(A) ,(B) は公知の単動式流体シリンダの回路図である。
【図8】(A) ,(B) は公知の単動式流体シリンダの接続方式を示す回路図である。
【図9】(A) ,(B) は公知の複動式流体シリンダの接続方式を示す回路図である。
【図10】従来の布押え装置の挟持前の状態を示す説明図である。
【図11】従来の布押え装置の挟持後の動作を示す説明図である。
【図12】従来の布押え装置の解放動作を示す説明図である。
【符号の説明】
1 ミシンアーム
2 ミシンベッド
3 XY駆動装置
7 制御装置
11 押え押圧機構
12 押え開閉機構
17 押え摺動板
18 押え台
19 押え腕
29 摺動機構
50 挟持用の流体シリンダ
50a ロッド
50b コイルスプリング
50c ヘッド
50d ピストン
51 メータイン方式流量調整弁
52 メータアウト方式流量調整弁
【特許請求の範囲】
【請求項1】 XY駆動装置に搭載されて一体にXY方向に駆動される押え開閉機構の押え台と、該押え台に基端が枢支され先端に上押え板を枢着し途中が摺動機構を介して押え押圧機構の押え摺動板に摺接されて下方に向う押圧力が加えられる押え腕と、該押え腕と前記押え台との間に介装されシリンダ内に供給された流体圧により押え腕を揺動させる挟持用の流体シリンダと、前記押え台に固定されミシンテーブル上に延設されて上押え板に対向して前記流体シリンダと押え押圧機構の押圧力により被縫製物を挟持する下押え板とを備えた自動縫いミシンの布押え装置において、前記流体シリンダを、ロッドの押出し推力に抵抗して前記押え腕を下降させて被縫製物を挟持すると共に、引込み推力を付勢して押え腕を上昇させて被縫製物を解放するコイルスプリングを内蔵した複動式の流体シリンダで構成したことを特徴とする自動縫いミシンの布押え装置。
【請求項2】 前記複動式の流体シリンダのヘッド側とロッド側にメータイン方式とメータアウト方式の流量調整弁を設け、該両流量調整弁によりロッドの押出し推力を調整すると共に、引込み推力を無調整にすることを特徴とする請求項1記載の自動縫いミシンの布押え装置。
【請求項1】 XY駆動装置に搭載されて一体にXY方向に駆動される押え開閉機構の押え台と、該押え台に基端が枢支され先端に上押え板を枢着し途中が摺動機構を介して押え押圧機構の押え摺動板に摺接されて下方に向う押圧力が加えられる押え腕と、該押え腕と前記押え台との間に介装されシリンダ内に供給された流体圧により押え腕を揺動させる挟持用の流体シリンダと、前記押え台に固定されミシンテーブル上に延設されて上押え板に対向して前記流体シリンダと押え押圧機構の押圧力により被縫製物を挟持する下押え板とを備えた自動縫いミシンの布押え装置において、前記流体シリンダを、ロッドの押出し推力に抵抗して前記押え腕を下降させて被縫製物を挟持すると共に、引込み推力を付勢して押え腕を上昇させて被縫製物を解放するコイルスプリングを内蔵した複動式の流体シリンダで構成したことを特徴とする自動縫いミシンの布押え装置。
【請求項2】 前記複動式の流体シリンダのヘッド側とロッド側にメータイン方式とメータアウト方式の流量調整弁を設け、該両流量調整弁によりロッドの押出し推力を調整すると共に、引込み推力を無調整にすることを特徴とする請求項1記載の自動縫いミシンの布押え装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図6】
【図5】
【図7】
【図4】
【図8】
【図9】
【図12】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図6】
【図5】
【図7】
【図4】
【図8】
【図9】
【図12】
【図10】
【図11】
【特許番号】第2903446号
【登録日】平成11年(1999)3月26日
【発行日】平成11年(1999)6月7日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−79506
【出願日】平成4年(1992)4月1日
【公開番号】特開平5−277272
【公開日】平成5年(1993)10月26日
【審査請求日】平成7年(1995)12月21日
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【参考文献】
【文献】特開 昭53−23752(JP,A)
【文献】特開 昭62−283257(JP,A)
【文献】特開 平2−72201(JP,A)
【文献】特開 昭63−318302(JP,A)
【文献】特開 平2−297396(JP,A)
【文献】実開 昭62−163308(JP,U)
【文献】実開 平2−54903(JP,U)
【文献】特公 昭62−41751(JP,B2)
【文献】特公 昭60−21755(JP,B2)
【登録日】平成11年(1999)3月26日
【発行日】平成11年(1999)6月7日
【国際特許分類】
【出願日】平成4年(1992)4月1日
【公開番号】特開平5−277272
【公開日】平成5年(1993)10月26日
【審査請求日】平成7年(1995)12月21日
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【参考文献】
【文献】特開 昭53−23752(JP,A)
【文献】特開 昭62−283257(JP,A)
【文献】特開 平2−72201(JP,A)
【文献】特開 昭63−318302(JP,A)
【文献】特開 平2−297396(JP,A)
【文献】実開 昭62−163308(JP,U)
【文献】実開 平2−54903(JP,U)
【文献】特公 昭62−41751(JP,B2)
【文献】特公 昭60−21755(JP,B2)
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