説明

自動車の走行制御装置

【目的】 車速制御と車間距離制御との間で制御の切換えが繰り返されるのを防止し、前後加減速度の発生を防止して乗り心地の向上を図る。
【構成】 所定の目標車速で定速走行するよう車速を制御する車速制御部と、自車と先行車との車間距離を車間距離検出装置で検出し上記車間距離が所定の目標車間距離となるよう制御する車間距離制御部とを備え、上記車間距離制御部による制御中に自車または先行車の車速が上記車速制御部による制御の目標車速より高くなったとき車速制御部による制御に切換える。更に、先行車の車速VSPが車速制御の目標車速VSPO付近で変動する状況を判断する判断手段31と、上記状況の時車速制御と車間距離制御との間の切換えを規制する規制手段32とを設ける。該規制手段32は、車速制御に切換えた後再度車間距離制御に切換えることを所定時間Tt 禁止する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、所定の目標車速で定速走行するよう車速を制御する車速制御部と、自車と先行車との車間距離が所定の目標距離となるよう制御する車間距離制御部とを備えた自動車の走行制御装置に関し、特に、車速制御と車間距離制御との切換え時の制御に係わるものである。
【0002】
【従来の技術】近年、自動車の走行制御装置として、車速を一定に保って走行する車速制御機能に加えて、自車と先行車との車間距離を検出する赤外線レーザレーダ装置等の車間距離検出装置を搭載し、単独走行のみならず他の自動車がいる場合でも安全な車間距離を保って走行する車間距離制御機能を備えたものが種々開発されている(特開平1−114550号公報参照)。
【0003】そして、このような走行制御装置においては、通常、車速制御中に遅い先行車を検知すると車間距離制御に移行するが、逆にこの車間距離制御中に先行車が加速し、自車及び先行車の車速が車速制御で予め設定した目標車速(設定車速)を越えたときには、それ以上先行車に追従せず、上記目標車速での定速走行つまり車速制御に移行するようになっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来のものでは、車速制御と車間距離制御との切換え時の制御に問題がある。すなわち、先行車の加速が非常に緩やかな場合、また先行車が長い時間で見ると加速しているが、瞬間瞬間では加減速を繰り返している場合には、自車が車速制御の目標車速付近でうろつく可能性がある。その場合、車間距離制御と車速制御との間の切換えが繰り返して行われ、車体前後方向の加減速度が発生して乗り心地が悪くなるという問題である。
【0005】本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、先行車に追従して自車が車速制御の目標車速付近でうろつくとき、車速制御と車間距離制御との間で制御の切換えが繰り返されるのを防止することにより、前後加減速度の発生を防止して乗り心地の向上を図り得る自動車の走行制御装置を提供せんとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、所定の目標車速で定速走行するよう車速を制御する車速制御部と、自車と先行車との車間距離を車間距離検出装置で検出し上記車間距離が所定の目標車間距離となるよう制御する車間距離制御部とを備え、上記車間距離制御部による制御中に自車または先行車の車速が上記車速制御部による制御の目標車速より高くなったとき車速制御部による制御に切換えるように構成された自動車の走行制御装置において、先行車の車速が上記記車速制御部による制御の目標車速付近で変動する状況を判断する判断手段と、上記状況の時上記車速制御部による制御と上記車間距離制御部による制御との間の切換えを規制する規制手段とを備える構成とする。
【0007】請求項2及び3記載の発明は、いずれも請求項1記載の発明に従属し、その一つの構成要素である規制手段による規制の具体的な内容を示すものである。
【0008】すなわち、請求項2記載の発明では、上記規制手段は、車速制御部による制御に切換えた後再度車間距離制御部による制御に切換えることを所定時間禁止するものである。ここで、上記所定時間は、請求項4記載の発明では自車または先行車の車速の変化量が小さい程長く設定されている。
【0009】また、請求項3記載の発明では、上記規制手段は、制御ゲインを小さくすることで制御の切換えを規制するものである。
【0010】
【作用】上記の構成により、請求項1記載の発明では、先行車の車速が車速制御部による制御つまり車速制御の目標車速付近で変動するときには、判断手段が先行車の車速に基づいてその状況を判断し、該判断手段の判断結果を受ける規制手段によって上記車速制御と車間距離制御部による制御つまり車間距離制御との間の切換えが規制される。
【0011】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0012】図1は本発明の一実施例に係わる自動車の走行制御装置の全体構成を示し、1はエンジン吸気系のスロットル弁(図示せず)の開度を自動調整するスロットル制御装置、2は電子制御式自動変速機(EAT)の制御装置、3は各車輪に付与する制動力を自動調整するブレーキ制御装置であり、これら三種類の制御装置1〜3は、いずれも図示していないがアクチュエータを有し、該各アクチュエータは、コントロールユニット4により制御される。すなわち、コントロールユニット4は、スロットル制御装置1のアクチュエータに対し目標スロットル開度信号を出力して制御を行うとともに、ブレーキ制御装置3のアクチュエータに対し目標ブレーキ量信号を出力して制御を行う。またコントロールユニット4は、EAT制御装置2のシフト位置を検出するセンサ(図示せず)からのシフト位置信号を受けつつ、該EAT制御装置2のアクチュエータに対しシフト制御信号を出力して制御を行う。
【0013】また、6は車室内のインストルメントパネル等に設けられる情報表示装置であって、該情報表示装置6は、図示していないが、上記コントロールユニット4からの警報信号を受けて点灯する警報ランプと、コントロールユニット4からの自己診断信号を受けて画面表示する表示部とを備えている。7は自車と先行車との車間距離を検出する車間距離検出装置であって、該車間距離検出装置7は、本実施例の場合レーザレーダ装置からなり、自車の前方に向けてレーザ光を発信するとともに、先行車に当たって反射してくるレーザ光を受信し、このレーザ光の受信時点と発信時点との遅れ時間によって自車と先行車との車間距離を検出するように構成されており、その検出信号である車間距離信号はコントロールユニット4に入力される。
【0014】さらに、11はスロットル弁の開度を検出するスロットル開度センサ、12は車速を検出する車速センサ、13はハンドル舵角を検出する舵角センサ、14はブレーキペダルの踏込み時にON作動するブレーキスイッチ、15はヨーレートを検出するヨーレートセンサ、16は自動車の横加速度を検出する横Gセンサ、17はクラッチの作動状態に応じてON作動するクラッチスイッチであり、これらセンサ・スイッチ類11〜17の検出信号は、いずれもコントロールユニット4に入力される。尚、図示していないエンジン回転数センサ等その他のセンサ・スイッチ類の検出信号もコントロールユニット4に入力される。
【0015】上記コントロールユニット4は、図2に示すように、車間距離検出装置7からの検出信号を始め、各種のセンサ・スイッチ類11〜17からの検出信号を受けて所定の情報処理を行う入力情報処理部21と、ドライバー操作による通常の制御を行う通常制御部22と、所定の目標車速で定速走行するよう車速を制御する車速制御部23と、自車と先行車との車間距離が所定の目標距離となるよう車速を制御する車間距離制御部24と、上記入力情報処理部21で得られた情報に基づいて、上記三種類の制御部22〜24のいずれか一つに対し制御指令を発して制御を切換える制御切換え部25と、上記各制御部22〜24からの信号を受け、スロットル制御装置1等の作動部(アクチュエータ等)に出力する出力情報を処理する出力情報処理部26とを備えている。
【0016】ここで、上記制御切換え部25による制御の切換えを、図3を用いて説明するに、自車と先行車との車間距離DISが所定の車間距離La よりも短いときには、車間距離制御部24による制御つまり車間距離制御を行い、自車と先行車との車間距離DISが所定の車間距離La よりも長いときには、車速制御部23による制御つまり車速制御を行う。また、車間距離制御中に先行車の車速が車速制御の目標車速以上になったとき、上記制御切換え部25は車速制御に切換える。尚、車間距離制御領域のうち、自車と先行車との相対速度RELが正の方向(接近方向)に大きく危険度の高いA領域では警報表示装置6の作動による警報とブレーキ制御装置3の作動による制動とが行われ、危険度が中程度のB領域ではブレーキ制御装置3の作動による制動とEAT制御装置2の作動によるシフトダウンとが行われ、危険度の低いC領域ではスロットル制御装置1の作動によるスロットル開度調整のみが行われる。
【0017】次に、車間距離制御中に先行車の車速が車速制御の目標車速以上になったとき、上記制御切換え部25による車速制御への切換えについて、図4に示すフローチャートに従って説明する。
【0018】図4において、先ず初めに、ステップS1 において車速センサ12で検出された自車の車速(以下、自車速という)VSP及び車間距離検出装置24で検出された自車と先行車との車間距離DISを読み込んだ後、ステップS2 で自車と先行車との相対速度RELを演算する。この相対速度RELは、自車と先行車との車間距離DISの時間当たりの変化量であり、車間距離DISの前回値に対する今回値の差分をサンプリング周期Δt(例えば7ms)で除して算出される。
【0019】続いて、ステップS3 で先行車の車速(以下、先行車速という)VSPFを演算する。この先行車速VSPFは、自車速VSPから上記相対速度RELを減算することで算出される。つまり、VSPF=VSP−RELの関係式が成り立つのである。
【0020】続いて、ステップS4 で先行車の加速度GFVを演算する。この加速度GFVは、先行車速VSPFの前回値に対する今回値の差分をサンプリング周期Δtで除して算出される。しかる後、ステップS5 で車速制御の予めセットされた目標車速VSPOを認識するとともに、ステップS6 で目標車間距離DISOを演算する。目標車間距離DISOは、図5に示すようなマップを用いて演算される。このマップでは、目標車間距離DISOは、先行車速VSPFの増加に伴い二次曲線的に増加する。
【0021】続いて、ステップS7 で先行車速VSPFが目標車速VSPOより高いか否かを判定する。本実施例では、先行車速VSPFが目標車速VSPOより高いとき、常に先行車速VSPFが目標車速VSPO付近で変動する状況にあると判断するものであり、よってステップS7 は、請求項1記載の発明にいう、先行車速VSPFが目標車速VSPO付近で変動する状況を判断する判断手段31を構成している。
【0022】そして、上記ステップS7 の判定がNOのときには、ステップS8 でフラグFが0であるか否かを判定する。このフラグFは、車速制御から車間距離制御への切換わりを禁止するためのものであって、車間距離制御中は0にセットされている。ステップS8 の判定がYESのときには、ステップS9 で目標車間距離DISOと実際の車間距離DISとの差分に応じた車間距離制御の制御量DACTP(=f(DISO−DIS))を算出し、しかる後、ステップS16で上記制御量DACTPに対応する要求スロットル開度TVP(=f(DACTP))を演算し、リターンする。
【0023】一方、上記ステップS7 の判定がYESのときには、ステップS10でフラグFを1にセットした後、ステップS11でタンマーTt の初期値を設定する。このタンマーTt の初期値は、図6に示すように、先行車速の変化量である先行車の加速度GFVを関数とする双曲線をなし、先行車の加速度GFVが小さい程大きな値(正の整数)に設定される。
【0024】続いて、ステップS12で目標車速VSPOと実際の自車速VSPとの差分に応じた車速制御の制御量DACTP(=f(VSPO−VSP))を算出する。しかる後、ステップS13でタイマーTt を1カウントダウンし、ステップS14でタイマーTt が0であるか否かを判定する。この判定がNOのときには、ステップS16へ移行して上記制御量DACTPに対応する要求スロットル開度TVPを演算する一方、判定がYESのときには、ステップS15でフラグFを0にセットした後、ステップS16へ移行して上記制御量DACTPに対応する要求スロットル開度TVPを演算する。
【0025】以上のフローチャートのうち、ステップS7 ,S8 ,S10〜S16の制御フローにより、先行車速VSPFが目標車速VSPO付近で変動する状況の時(本実施例では先行車速VSPFが目標車速VSPOより高いとき)車速制御に切換えた後再度車間距離制御に切換えることを所定時間(サンプリング周期とタイマーTt の初期値との積算した値)禁止することで車速制御と車間距離制御との間の切換えを規制する規制手段32が構成されている。
【0026】次に、上記実施例の作用・効果について説明するに、車間距離制御中に先行車が加速し先行車速VSPFが車速制御の目標車速VSPO付近で変動するときには、車速制御に切換えられるが、判断手段31がその状況を判断し、該規制手段32の判断結果を受ける規制手段32によって、車速制御から再度車間距離制御に切換えることが所定時間禁止される。この結果、車間距離制御と車速制御との間で切換えが頻繁に行われることはなく、制御切換えに伴う車体前後方向の加減速度の発生を防止することができ、乗り心地の向上を図ることができる。
【0027】ここで、先行車速VSPFの変化量である加速度GFVが小さいときは、大きいときと比較して、先行車速VSPFが車速制御の目標車速VSPO付近で変動することが長い時間に亘って続くことが多い。従って、本実施例の場合、上記切換え禁止の所定時間は、先行車速VSPFの変化量である加速度GFVが小さい程長く設定され、変動時間に対応するようになっているので、制御の切換え及び禁止を適切に行うことができ、安全性の確保と乗り心地の向上との両立化を有効に図ることができる。
【0028】尚、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、その他種々の変形例を包含するものである。例えば、上記実施例では、先行車速VSPFが目標車速VSPO付近で変動する状況を判断する判断手段31において、先行車速VSPFが目標車速VSPOより高いとき常に先行車速VSPFが目標車速VSPO付近で変動する状況にあると判断したが、本発明は、先行車速VSPFが目標車速VSPOより高いとき、その際の先行車の加速度GFV等を加味して先行車速VSPFが目標車速VSPO付近で変動する状況にあるか否かを判断するようにしてもよい。
【0029】また、上記実施例では、先行車速VSPFが目標車速VSPO付近で変動する状況の時、規制手段32において、車速制御に切換えた後再度車間距離制御に切換えることを所定時間禁止することで車速制御と車間距離制御との間の切換えを規制するようにしたが、本発明は、制御ゲインを小さくすることで車速制御と車間距離制御との間の切換えを規制するようにしてもよいのは言うまでもない。
【0030】
【発明の効果】以上の如く、本発明における自動車の走行制御装置によれば、先行車の車速が車速制御の目標車速付近で変動するときには、先行車の車速からその状況を判断し、車速制御と車間距離制御との間の切換えが規制されるので、制御の頻繁な切換えによる前後加減速度の発生を防止することができ、乗り心地の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例に係わる自動車の走行制御装置のブロック構成図である。
【図2】コントロールユニットのブロック構成図である。
【図3】車間距離等と制御方式との関係を説明するための図である。
【図4】車間距離制御中に先行車の車速が車速制御の目標車速以上になったとき車速制御に切換える制御内容を示すフローチャート図である。
【図5】車間距離制御における目標車間距離の演算に用いられるマップを示す図である。
【図6】タンマーの初期値の設定に用いられるマップを示す図である。
【符号の説明】
7 車間距離検出装置
23 車速制御部
24 車間距離制御部
31 判断手段
32 規制手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】 所定の目標車速で定速走行するよう車速を制御する車速制御部と、自車と先行車との車間距離を車間距離検出装置で検出し上記車間距離が所定の目標車間距離となるよう制御する車間距離制御部とを備え、上記車間距離制御部による制御中に自車または先行車の車速が上記車速制御部による制御の目標車速より高くなったとき車速制御部による制御に切換えるように構成された自動車の走行制御装置において、先行車の車速が上記車速制御部による制御の目標車速付近で変動する状況を判断する判断手段と、上記状況の時上記車速制御部による制御と上記車間距離制御部による制御との間の切換えを規制する規制手段とを備えたことを特徴とする自動車の走行制御装置。
【請求項2】 上記規制手段は、車速制御部による制御に切換えた後再度車間距離制御部による制御に切換えることを所定時間禁止するものである請求項1記載の自動車の走行制御装置。
【請求項3】 上記規制手段は、制御ゲインを小さくすることで制御の切換えを規制するものである請求項1記載の自動車の走行制御装置。
【請求項4】 上記所定時間は、自車または先行車の車速の変化量が小さい程長く設定されている請求項2記載の自動車の走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【公開番号】特開平7−17293
【公開日】平成7年(1995)1月20日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−160897
【出願日】平成5年(1993)6月30日
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)