説明

自動車用サイドバイザー

【課題】成形時の反り変形を防止する。
【解決手段】サイドウィンドウの上部に沿って取付けられる帯状の当接板部に沿うように延びる溝部を庇部に形成した。一般部より溝部が薄肉であるため、成形時には先ず溝部が固化して全体を支えるので反り変形が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のサイドドア上部に取付けられる樹脂製のサイドバイザーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のサイドドアには、日除けや雨除けとして機能するサイドバイザーが取付けられている。このサイドバイザーは、透明樹脂から射出成形によって形成され、両面接着テープやクリップを介して車体に取付けられる。
【0003】
ところで自動車用サイドバイザーは、外部から目立ちやすいために外観品質を高くする必要があり、成形によって生じるヒケや反りなどの問題を回避する必要がある。例えば特開2002−200918号公報には、サイドウィンドウの上部に沿って取付けられる帯状の当接板部を有するサイドバイザーにおいて、両面接着テープによる接着面積を大きくするために当接板部の面積を大きくしたサイドバイザーが記載されている。しかし当接板部の面積を大きくすると、当接板部の肉厚も厚くなるために成形収縮率が本体より大きくなり、ヒケが生じるという問題があった。そこで同公報には、当接板部を溝によって2分させ、2分された当接板部の肉厚を本体の肉厚と近似させることで、ヒケを軽減したことが記載されている。
【0004】
また特開2009−040344号公報には、取付金具が係合する係合突起をもつサイドバイザーが記載されている。このようなサイドバイザーにおいては、係合突起の部位が厚肉となるためその反対側表面にヒケが生じ易い。そこで同公報には、二種類の樹脂からサイドバイザーを形成し、ヒケが目立ちにくい部位を構成する樹脂から係合突起を形成したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−200918号公報
【特許文献2】特開2009−040344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
成形時のヒケの問題は、サイドバイザーの肉厚が均一になるように形状を設計することで容易に回避することができる。しかしサイドバイザーは自動車のサイドウィンドウの上部に沿って配設されるものであるため、特にフロントウィンドウの上部に配設されるものは上に凸の円弧状となる。そのため成形時には、円弧の曲率が小さくなる方向への反り変形が生じる場合がある。そうするとフロントウィンドウの形状との間にずれが生じ、取付けが困難となってしまう。
【0007】
またサイドバイザーは長尺状であるために、成形時に車幅方向(厚さ方向)の反りが発生する場合がある。反りの程度が小さい場合には、反りを強制しながら取付けることも可能であるものの、反りの程度が大きくなると接着部位からの剥離が問題となる場合もある。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、成形時の反り変形を防止できるサイドバイザーとすることを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の自動車用サイドバイザーの特徴は、サイドウィンドウの上部に沿って取付けられる帯状の当接板部と、当接板部の下端縁に沿って延び外向きに膨出する庇部と、を有する樹脂製で長尺状の自動車用サイドバイザーであって、庇部には少なくとも当接板部に沿うように延びる溝部が形成されていることにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明のサイドバイザーは、庇部に当接板部に沿うように延びる溝部を有している。溝部の底部は庇部の肉厚より薄肉となっているため、射出成形時には溝部の冷却速度が他の部位より大きくなる。したがって溝部が先ず固化し、固化した部分が骨格あるいは支柱として機能するため、他の部位の変形が抑制されると考えられる。その結果、実施例でも示すように、自動車の高さ方向の反り変形と、自動車の車幅方向の反り変形との両方を効果的に低減することができる。
【0011】
庇部は上部に塗装により形成された塗膜を有し、塗膜の見切り線が溝部に形成されていることが望ましい。サイドバイザーは、庇部の上部にブラックアウト塗装が施されることが多い。したがって塗膜の見切り線が溝部に位置するようにすれば、溝部が見えにくくなるので意匠性が向上する。また塗装の際には、マスキングするための塗装治具を用いるが、溝部の一内表面に塗装治具の表面が当接する治具当接面を形成しておけば、塗装治具の位置決めが容易となるとともに塗装不良を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例に係るサイドバイザーを裏面側から見た斜視図である。
【図2】本発明の一実施例に係るサイドバイザーをサイドドアに取付けた状態で示す断面図である。
【図3】本発明の一実施例に係るサイドバイザーの要部拡大断面図である。
【図4】本発明の一実施例に係るサイドバイザーの要部拡大断面図である。
【図5】本発明の一実施例に係るサイドバイザーの製造時に用いた塗装治具の斜視図である。
【図6】塗装治具を用いてマスキングした様子を示す断面図である。
【図7】車幅(W)方向の反り量を示すグラフである。
【図8】車両高さ(H)方向の反り量を示すグラフである。
【図9】本発明の第2の実施例に係るサイドバイザーを裏面側から見た平面図である。
【図10】本発明の第3の実施例に係るサイドバイザーを裏面側から見た平面図である。
【図11】本発明の第4の実施例に係るサイドバイザーを裏面側から見た平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の自動車用サイドバイザーは、当接板部と、当接板部の下端縁に沿って延び外向きに膨出する庇部と、を有している。当接板部は帯状をなし、サイドウィンドウの上辺に沿う形状とされている。この当接板部は、両面接着テープなどを用いてサイドウィンドウの上部でドアフレームに固定される。
【0014】
庇部は、当接板部の下端縁に沿って延び外向きに膨出している。この庇部によって日除け効果が発現され、またサイドウィンドウガラスを僅かに下げた状態で雨除け効果が発現される。当接板部と庇部の上部には、ブラックアウト塗装などを施して、ドアフレームとサイドバイザーとの一体感と日除け効果を高めることが望ましい。また庇部の車両前後方向両端部にも、サイドウィンドウの窓枠と当接する縦当接板部を形成することが望ましい。このようにすることでサイドバイザーの三辺を固定することができ、固定をさらに強固とすることができるとともに、風切り音を防止することができる。
【0015】
当接板部と庇部とは、射出成形などによって一体に形成されている。成形材料としては、透明性に優れたアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂などを用いることができる。
【0016】
本発明の最大の特徴は、庇部に当接板部に沿うように延びる溝部を有するところにある。この溝部は、長手方向に長く形成し、庇部の両端部近傍まで略全長に形成することが望ましい。また車両前後方向両端部に縦当接板部を有する場合には、当接板部に沿って延びた後に縦当接板部の内側で縦当接板部に沿って延びる略コ字状の溝部としてもよい。また溝部は、1本でもよいし車両高さ方向に複数本形成することもできる。複数本形成すれば、反り変形をさらに防止することができる。溝部は、庇部の表面又は裏面のどちらに形成してもよいが、意匠性及び風切り音対策の観点からは裏面側に形成するのが望ましい。
【0017】
溝部を挟む両側をリブ状に厚肉とするとヒケが生じる場合があるので、全体に略均一な厚さを有する庇部に溝部のみを形成することが望ましい。この場合、溝部の深さは庇部の強度が損なわれない範囲で深くし、かつ底部に向かって溝幅が狭くなるテーパ形状の溝部とすることが好ましい。このようにすることで、成形時における溝部の底部の冷却速度を大きくすることができ、また冷却速度が徐変することで応力集中が緩和されるため、反り変形を効果的に防止することができる。
【0018】
庇部は上部に塗装により形成された塗膜を有し、塗膜の見切り線が溝部に形成されていることが望ましい。また車両前後方向両端部に縦当接板部を有する場合には、縦当接板部に沿うように縦溝部を形成し、縦当接板部に形成された塗膜の見切り線が縦溝部に形成されていることが望ましい。このようにすることで、溝部と縦溝部が見えにくくなるので意匠性が向上する。
【0019】
さらに塗装治具の一辺が溝部と係合し、溝部の一内表面に塗装治具の表面が当接する治具当接面を形成しておけば、塗装治具の位置決めが容易となるとともにマスキングを確実に行うことができる。そして塗装治具の少なくとも二辺が溝部と縦溝部にそれぞれ係合するように構成すれば、塗装治具の位置決めがさらに容易となりマスキングをさらに確実に行うことができる。
【0020】
以下、実施例により本発明の実施態様を具体的に説明する。
【実施例1】
【0021】
図1に本実施例に係る自動車用サイドバイザーの斜視図を、図2にその断面図を示す。このサイドバイザーは、フロントウィンドウの上辺から前辺に沿って円弧状に延びる帯状の当接板部1と、当接板部1の車両前後方向両端部でフロントウィンドウの前辺及び後辺に沿って延びる一対の縦当接板部10と、当接板部1の下端縁に沿って延び外向きに膨出する横膨出部2と、縦当接板部10の内側に沿って延び外向きに膨出する前後一対の縦膨出部20と、横膨出部2と一対の縦膨出部20とを連結しフロントウィンドウガラスGと間隔を隔てて略平行に延びる覆い部3と、から構成されている。横膨出部2、一対の縦膨出部20及び覆い部3が請求項1にいう庇部を構成している。図2に示すように、当接板部1及び一対の縦当接板部10は、両面接着テープTを介してフロントドアフレームDに接着固定される。
【0022】
覆い部3の裏面には、当接板部1に沿って車両前後方向に円弧状に延びる横溝部4と、車両前後方向両端部で横溝部4が曲折して覆い部3の端面まで延びる一対の縦溝部40とが形成されている。一対の縦溝部40は、覆い部3の下端面に開口している。
【0023】
横溝部4は、サイドバイザーの横膨出部2と覆い部3との境界部に形成されている。また一対の縦溝部40は、それぞれ横溝部4の両端に連続して設けられ、縦膨出部20と覆い部3との境界部に形成されている。このように横溝部4と縦溝部40を略コ字状に形成することで、上下方向及び前後方向の反り変形を防止することができ、反り変形をより効果的に防止することができる。また横溝部4と縦溝部40を境界部に形成したことで、溝部自体の存在を目立ちにくくすることができる。
【0024】
横膨出部2、一対の縦膨出部20及び覆い部3における一般部の厚さは3mmであり、横溝部4及び一対の縦溝部40の深さはそれぞれ1mmである。また横溝部4及び一対の縦溝部40の幅寸法は、表面で2mm、底部で1mmであり、底部に向かって溝幅が狭くなるテーパ形状をなしている。
【0025】
横溝部4は、図3に拡大断面図を示すように、横膨出部2の裏面に対して鈍角の角度αで傾斜する下側傾斜面41と、横膨出部2の裏面に対して鈍角の角度βで傾斜する上側傾斜面42を備えている。角度αは略直角であって角度βより小さい。また縦溝部40は、図4に拡大断面図を示すように、覆い部3の裏面に対して横溝部4と同様に鈍角の角度αで傾斜する内側傾斜面43と、覆い部3の裏面に対して鈍角の角度βで傾斜する外側傾斜面44を備えている。
【0026】
そして当接板部1、縦当接板部10、横膨出部2、縦膨出部20の裏面と、横膨出部2及び縦膨出部20から横溝部4及び縦溝部40までの覆い部3の裏面には、図2に示すようにブラックアウト塗膜5が形成され、ブラックアウト塗膜5の見切り線は下側傾斜面41と上側傾斜面42との間及び内側傾斜面43と外側傾斜面44との間に形成されている。
【0027】
本実施例のサイドバイザーを製造するにあたり、先ず当接板部1と、縦当接板部10と、当横膨出部2と、縦膨出部20と、覆い部3と、からなる基体を射出成形により形成した。成形条件を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
得られた基体には、スプレー塗装によってブラックアウト塗膜5が形成された。このとき、覆い部3をマスクするための板状の塗装治具が用いられる。図5に示す塗装治具6は、角度αで裏面側へ曲折され横溝部4と同じ長さの横縁60と、横縁60の両端から同様に角度αで裏面側へ曲折して延びる縦縁61を備えている。
【0030】
この塗装治具6は、図6に示すように、横縁60が横溝部4に係合し、縦縁61が縦溝部40に係合するように覆い部3の裏面側に載置される。これにより塗装治具6の位置決めを容易に行うことができる。そして、横縁60及び縦縁61の内表面がそれぞれ下側傾斜面41及び内側傾斜面43と当接しているので、塗料ミストが塗装治具6と横膨出部2及び覆い部3との間に進入することがなく、塗装の見切りを確実に行うことができる。
<比較例と比較試験>
横溝部4及び縦溝部40をもたないこと以外は実施例1と同一形状をなす比較例のサイドバイザーを実施例1と同様に製造し、実施例1のサイドバイザーと共に反り量を測定した。
【0031】
反り量は、車幅(W)方向の反り量と車両高さ(H)方向の反り量を計測した。計測は、覆い部3の車両前側端部から車両後側端部までの1000mm間の長手方向の複数箇所で、覆い部3の端部の反り量を計測した。結果を図7,8に示す。
【0032】
図7,8から、溝部をもたない比較例のサイドバイザーは長手方向中央部で最も反り量が大きく、大きく湾曲していることがわかる。しかし実施例1のサイドバイザーは、比較例に比べて反り量が小さく湾曲程度も小さいことがわかり、これは横溝部4を形成したことによる効果であることが明らかである。
【実施例2】
【0033】
本実施例のサイドバイザーを図9に示す。このサイドバイザーは、両端が覆い部3の内側で閉じられて端面に開口していない横溝部70を有すること、縦溝部40をもたないこと以外は実施例1とほぼ同様である。横溝部70は当接板部1の下端縁に沿って延びている。このようにしても、実施例1と同様に反り変形を防止することができる。また塗装治具についても、横縁60の長さを実施例1より短くするだけで、同様に塗装の見切りを行うことができる。
【実施例3】
【0034】
本実施例のサイドバイザーを図10に示す。このサイドバイザーは、両端が覆い部3の内側で閉じられて端面に開口していない2本の横溝部71,72をもつこと、縦溝部40をもたないこと以外は実施例1とほぼ同様である。横溝部71と横溝部72とは当接板部1の下端縁に沿って互いに平行に延びている。このように溝部を複数本形成すれば、成形時の反り変形をさらに防止することができる。またそれぞれの溝部に塗装治具を係合させてマスキングすることで、塗色を2段階に変化させることもできる。
【実施例4】
【0035】
本実施例のサイドバイザーを図11に示す。このサイドバイザーは、両端が覆い部3の内側で閉じられて端面に開口していない2本の横溝部73,74をもつこと、縦溝部40をもたないこと以外は実施例1とほぼ同様である。横溝部73と横溝部74とは当接板部1の下端縁に沿って互いに平行に延びている。
【0036】
横溝部73は覆い部3の前端から中央部のやや後端よりの位置まで形成され、横溝部74は覆い部3の後端から中央部のやや前端よりの位置まで形成され、覆い部3の中央部では横溝部73と横溝部74とが重なり合っている。したがって覆い部3の長手方向でほぼ全長に溝部が形成されているので、成形時の反り変形を防止することができる。
【符号の説明】
【0037】
1:当接板部 2:横膨出部(庇部) 3:覆い部(庇部)
4:横溝部 5:ブラックアウト塗膜 6:塗装治具
10:縦当接板部 20:縦膨出部(庇部) 40:縦溝部
41:下側傾斜面(治具当接面) 43:内側傾斜面(治具当接面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイドウィンドウの上部に沿って取付けられる帯状の当接板部と、該当接板部の下端縁に沿って延び外向きに膨出する庇部と、を有する樹脂製で長尺状の自動車用サイドバイザーであって、
該庇部には少なくとも該当接板部に沿うように延びる溝部が形成されていることを特徴とする自動車用サイドバイザー。
【請求項2】
前記庇部は前記当接板部の下端縁に沿って延び外向きに膨出する膨出部と、該膨出部からサイドウィンドウガラスと略平行に下方に延びる覆い部とからなり、前記溝部は該膨出部と該覆い部との境界部に形成されている請求項1に記載の自動車用サイドバイザー。
【請求項3】
前記溝部は前記当接板部に沿って延び両端で曲折された略コ字形状をなす請求項1又は請求項2に記載の自動車用サイドバイザー。
【請求項4】
前記庇部は上部に塗装により形成された塗膜を有し、該塗膜の見切り線が前記溝部に形成されている請求項1〜3のいずれかに記載の自動車用サイドバイザー。
【請求項5】
前記溝部の一内表面には、塗装治具の表面が当接する治具当接面が形成されている請求項5に記載の自動車用サイドバイザー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−106688(P2012−106688A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258680(P2010−258680)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)