説明

自己シールド型粒子加速器システム

【課題】 製造が容易で、且つ周辺機器の取付位置の変更を可能とする自己シールド型粒子加速器システムを提供する。
【解決手段】 自己シールド型粒子加速器システム1は、粒子加速器40と、粒子加速器40を取り囲んで放射線を遮蔽するための壁体10と、を備える。このシステム1において壁体10は、壁体16,18,20,22,28,30,32,34は、枠体70,90,110,130,170,150,190,210内部にコンクリートを充填したコンクリート充填枠体から構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己シールド型粒子加速器システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポジトロン断層撮影(PET;Positron Emission Tomography)に用いる放射性同位元素で標識された検査用薬剤の製造や、放射線治療においては、サイクロトロン等の粒子加速器が使用される。粒子加速器の稼動時には、中性子線やガンマ線などの放射線が発生するため、放射線を遮蔽する必要がある。
【0003】
放射線の遮蔽は、従来より、粒子加速器が設置される建屋自体を放射線遮蔽媒体により被覆することで行ってきたが、近年、建屋の重量及びコストの低減を図る観点から、粒子加速器自体を放射線遮蔽壁体により取り囲んで遮蔽する、いわゆる自己シールド型の粒子加速器システムが開発されてきている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このような自己シールド型粒子加速器システムにおいて、放射線遮蔽壁体は、上壁部及び側壁部を有し、これら上壁部及び側壁部により形成される内部空間に粒子加速器を収容するようになっている。放射線遮蔽壁体を構成する上壁部及び側壁部はコンクリートから形成される。
【0005】
このような従来の自己シールド型粒子加速器システムにおいて、放射線遮蔽壁体は、型枠にコンクリートを流し込み、コンクリートが固化した後に型枠を撤去して製作される。このようにして作成される放射線遮蔽壁体には、センサ類を収容するキャビネット等の周辺機器を固定するための取付座(アタッチメント)や、自身を搬送するための搬送用の穴等が設けられる。
【特許文献1】特開2000−105293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
型枠を使った放射線遮蔽壁体の製造においては、型枠を取り外したとき、コンクリートの一部が欠けていたり、ひびが入っていたりすることがある。このような一部の欠けやひび等は、放射線の遮蔽には問題を生じないものがほとんどである。しかしながら、従来の自己シールド型粒子加速器システムでは、放射線遮蔽壁体のコンクリートが外部に露出していたため、外観上、これら全てを修正する必要があり、非常に手間が掛かっていた。また、型枠の変形により各小ブロック間で精度よい合わせ面が出来ていないことがあり、修正が面倒であった。
【0007】
更に、放射線遮蔽壁体の製造後に、都合により周辺機器の取付位置を変更したい場合が生じることがあるが、コンクリートに後から取付座を設けることは、コンクリートが欠ける恐れがあるため難しく、実質的に周辺機器の取付位置を変更することはできなかった。
【0008】
本発明は、上記した事情に鑑みて為されたものであり、製造が容易で、且つ周辺機器の取付位置の変更を可能とする自己シールド型粒子加速器システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る自己シールド型粒子加速器システムは、粒子加速器と、粒子加速器を取り囲んで放射線を遮蔽するための壁体と、を備える。このシステムにおいて壁体は、枠体内部にコンクリートを充填したコンクリート充填枠体から構成されており、壁体は、固定側のブロックと可動側のブロックとを含み、可動側のブロックが固定側のブロックから離れるようにその移動を案内するガイドレールを設けたことを特徴とする。
【0010】
このシステムでは、壁体がコンクリート充填枠体から構成されているため、枠体内にコンクリートを充填して固化させた後、これをそのまま壁体を構成する部材として使用することができる。このようにして、コンクリートから枠体を外す手間が省けることから、製造が容易になる。また、コンクリートの欠けやひび等は枠体により隠れるため、これら不具合を修正する必要がなくなり、製造が容易になる。更に、枠体には周辺機器を取り付けるための取付座を自在に取り付けできるため、周辺機器の取付位置の変更が可能になる。
【0011】
また、可動側のブロックが固定側のブロックから離れるようにその移動を案内するガイドレールを設けたため、可動側のブロックの移動が容易になり、メンテナンス性の向上が図られる。
【0012】
本発明に係る自己シールド型粒子加速器システムにおいて、固定側のブロックと可動側のブロックは、複数のブロックから構成されていると好ましい。このようにすれば、壁体を一体物で構成する場合に比べて、搬送や保管などの取り扱いが容易になる。
【0013】
本発明に係る自己シールド型粒子加速器システムにおいて、複数のブロックのうち隣接するブロックそれぞれの接合面には、互いに嵌り合う段差部が設けられていると好ましい。このようにすれば、隣接するブロックの間から放射線が漏れるおそれを低減することができる。
【0014】
本発明に係る自己シールド型粒子加速器システムにおいて、複数のブロックは、上壁を構成するブロックと側壁を構成するブロックとを含み、上壁を構成するブロックと側壁を構成するブロックとの接合面には固着材が塗布されていることを特徴としてもよい。このようにすれば、上下に接合されるブロックの間から放射線が漏れるおそれを低減することができる。
【0015】
本発明に係る自己シールド型粒子加速器システムにおいて、壁体を構成するコンクリート充填枠体には、壁体の内外を連通する通路が設けられていることを特徴としてもよい。このようにすれば、上記通路を介して、粒子加速器への電源を供給するためのケーブルを通したり、粒子加速器から出る熱を逃がしたりすることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、製造が容易で、且つ周辺機器の取付位置の変更を可能とする自己シールド型粒子加速器システムが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
図1は、本実施形態に係る自己シールド型粒子加速器システムとして、サイクロトロンシステムが備える放射線シールドの構成を示す分解斜視図である。サイクロトロンシステム(図6の1)は、サイクロトロン(粒子加速器)(図5の40)と、サイクロトロン40を取り囲んで放射線を遮蔽するための放射線シールド(壁体)10と、を備えている。放射線シールド10は、図1に示すように、リア壁体12とフロント壁体14とを備えている。
【0019】
リア壁体12は、図2に示すように、右上壁(RRU : Rear Right Upper)ブロック16と、左上壁(RLU : Rear Left Upper)ブロック18と、右側壁(RRS : Rear Right Side)ブロック20と、左側壁(RLS : Rear Left Side)ブロック22と、を有している。RRSブロック20及びRLSブロック22は、鉛直方向に立設されており、平断面が略L字型をなす。RRUブロック16及びRLUブロック18は、水平方向に延設されており、RRSブロック20及びRLSブロック22の上部を覆っている。これらRRUブロック16、RLUブロック18、RRSブロック20及びRLSブロック22は、図2及び図3に示すように、複数箇所において連結部C同士をボルト24及びナット26で締め付けることで連結されている。
【0020】
フロント壁体14は、図4に示すように、右上壁(FRU : Front Right Upper)ブロック28と、左上壁(FLU : Front Left Upper)ブロック30と、右側壁(FRS : Front Right Side)ブロック32と、左側壁(FLS : Front Left Side)ブロック34と、を有している。FRSブロック32及びFLSブロック34は、鉛直方向に立設されており、平断面が略L字型をなす。FRUブロック28及びFLUブロック30は、水平方向に延設されており、FRSブロック32及びFLSブロック34の上部を覆っている。これらFRUブロック28、FLUブロック30、FRSブロック32及びFLSブロック34は、リア壁体12と同様に、複数箇所において連結部C同士をボルト24及びナット26で締め付けることで連結されている。
【0021】
これらリア壁体12及びフロント壁体14を接合することで、放射線シールド10が形成される。この放射線シールド10により形成される内部空間内にサイクロトロン40が収容され、自己シールド型のサイクロトロンシステム1が構成されている。このように、「自己シールド型」とは、サイクロトロン等の粒子加速器が設置される建屋の壁とは別に、粒子加速器それ自体を遮蔽するために設けられた壁体により粒子加速器を遮蔽する形式をいう。その意味で、粒子加速器を遮蔽する壁体が建屋の一部を構成するような粒子加速器システムとは異なるものである。
【0022】
サイクロトロン40は、図5に示すように、いわゆる縦型のサイクロトロンであり、一対の磁極42と、真空箱44と、これら一対の磁極42及び真空箱44を取り囲む環状のヨーク46と、を有している。一対の磁極42は、一部が真空箱44内に挿通され、真空箱44内で上面同士が所定間隙を於いて対面している。これら一対の磁極42の間隙内で、陽子や重陽子などの粒子が多重加速される。
【0023】
図6は、放射線シールド10内にサイクロトロン40が収容されている様子を示す平面図である。なお、図6においては、説明の便宜上、RRUブロック16、RLUブロック18、FRUブロック28、及びFLUブロック30を取り外した状態を示している。
【0024】
図6に示すように、サイクロトロン40は放射線シールド10内の略中央に配置されている。リア壁体12とフロント壁体14とが接合された状態で、このようにサイクロトロン40を収容する空間を画成する壁面を、それぞれ内前面48、内背面50、内側面52,54、及び内上面(図1の56)と呼ぶとする。このとき、内前面48には、ヨーク46と対面する部分を除いて、鉛(Pb)層58及びポリエチレン(PE)層60が順次積層されている。また内側面52,54には、Pb層58及びPE層60が順次積層されている。また内背面50には、PE層60のみが積層されている。更に、図1、図2及び図4に示すように、内上面56には、ヨーク46と対面する部分を除いて、Pb層58及びPE層60が順次積層されている。
【0025】
次に、図7から図10を参照して、フロント壁体14を構成するFRUブロック28、FLUブロック30、FRSブロック32及びFLSブロック34について更に詳細に説明し、また、図11から図14を参照して、リア壁体12を構成するRRUブロック16、RLUブロック18、RRSブロック20及びRLSブロック22について更に詳細に説明する。
【0026】
図7は、FRUブロック28を構成する枠体70を示す斜視図である。図7に示すように、枠体70は上端が開放された箱として構成されている。この枠体70内にコンクリートを充填することで、FRUブロック28が形成される。この枠体70のFLUブロック30と接合される接合面には、凹状の段差部72が設けられている。また枠体70のRRUブロック16と接合される接合面には、凹状の段差部74が設けられている。なお、枠体70の底壁面にも、凹状の段差部76が設けられている。この段差部76は、ヨーク46との干渉を避けるためのものである。また枠体70内にはリブ78が立設されており、補強が図られている。
【0027】
また、枠体のFLUブロック30と接合される側壁には、ボルト24を挿通するための孔80が貫通形成されている。そして、この孔80の近傍には、ボルト24とナット26の締結作業を行うためのスペースが画成されている。このように、孔80とスペースとでFLUブロック30との連結を図るための連結部Cが構成されている。また、枠体70のFRSブロック32と接合される底壁には、ボルト24を挿通するための孔82が貫通形成されている。そして、この孔82の近傍には、ボルト24とナット26の締結作業を行うためのスペースが画成されている。このように、孔82とスペースとでFRSブロック32との連結を図るための連結部Cが構成されている。
【0028】
次に、図8は、FLUブロック30を構成する枠体90を示す斜視図である。図8に示すように、枠体90は上端が開放された箱として構成されている。この枠体90内にコンクリートを充填することで、FLUブロック30が形成される。この枠体90のFRUブロック28と接合される接合面には、凸状の段差部92が設けられている。この段差部92は、FRUブロック28の凹状の段差部72と嵌まり合う。また枠体90のRLUブロック18と接合される接合面には、凹状の段差部94が設けられている。なお、枠体90の底壁面にも、凹状の段差部96が設けられている。この段差部96は、ヨーク46との干渉を避けるためのものである。また枠体90内にはリブ98が立設されており、補強が図られている。
【0029】
また、枠体90のFRUブロック28と接合される側壁には、ボルト24を挿通するための孔100が貫通形成されている。そして、この孔100の近傍には、ボルト24とナット26の締結作業を行うためのスペースが画成されている。このように、孔100とスペースとでFRUブロック28との連結を図るための連結部Cが構成されている。また、枠体90のFLSブロック34と接合される底壁には、ボルト24を挿通するための孔102が貫通形成されている。そして、この孔102の近傍には、ボルト24とナット26の締結作業を行うためのスペースが画成されている。このように、孔102とスペースとでFLSブロック34との連結を図るための連結部Cが構成されている。
【0030】
次に、図9は、FLSブロック34を構成する枠体110を示す斜視図である。図9に示すように、枠体110は上端が開放された箱として構成されている。この枠体110内にコンクリートを充填することで、FLSブロック34が形成される。この枠体110のFRSブロック32と接合される接合面には、凸状の段差部112が設けられている。また枠体110のFRSブロック32と接合される側壁には、ボルト24を挿通するための孔114が貫通形成されている。そして、この孔114の近傍には、ボルト24とナット26の締結作業を行うためのスペース(図3で示すのと同様である)が画成されている。このように、孔114とスペースとでFRSブロック32との連結を図るための連結部Cが構成されている。また枠体110のRLSブロック22と接合される接合面には、凹状の段差部116が設けられている。なお、枠体110の内側面にも、凹状の段差部118が設けられている。この段差部118は、ヨーク46との干渉を避けるためのものである。また枠体110内にはリブ120が立設されており、補強が図られている。
【0031】
また、枠体110のFLUブロック30と接合される上部開口には、ボルト24を挿通するための孔122が貫通形成された補助板124が取り付けられている。そして、この孔122の近傍には、ボルト24を挿通する作業を行うためのスペースが画成されている。このように、孔122とスペースとでFLUブロック30との連結を図るための連結部Cが構成されている。
【0032】
次に、図10は、FRSブロック32を構成する枠体130を示す斜視図である。図10に示すように、枠体130は上端が開放された箱として構成されている。この枠体130内にコンクリートを充填することで、FRSブロック32が形成される。この枠体130のFLSブロック34と接合される接合面には、凹状の段差部132が設けられている。この段差部132は、FLSブロック34の凸状の段差部112と嵌まり合う。また枠体130のFLSブロック34と接合される側壁には、ボルト24を挿通するための孔(図示しない)が貫通形成されている。そして、この孔の近傍には、ボルト24とナット26の締結作業を行うためのスペース(図示しない)が画成されている。このように、孔とスペースとでFLSブロック34との連結を図るための連結部Cが構成されている。また枠体130のRRSブロック20と接合される接合面には、凹状の段差部136が設けられている。なお、枠体130の内側面にも、凹状の段差部138が設けられている。この段差部138は、ヨーク46との干渉を避けるためのものである。また枠体130内にはリブ140が立設されており、補強が図られている。
【0033】
また、枠体130のFRUブロック28と接合される上部開口には、ボルト24を挿通するための孔142が貫通形成された補助板144が取り付けられている。そして、この孔142の近傍には、ボルト24を挿通する作業を行うためのスペースが画成されている。このように、孔142とスペースとでFRUブロック28との連結を図るための連結部Cが構成されている。
【0034】
上記したFRSブロック32とFLSブロック34とが、接合面に設けられた段差部112,132を嵌合させた状態で、連結部C同士をボルト24及びナット26で締め付けることで連結されている。更に、上記したFRUブロック28とFLUブロック30とが、接合面に設けられた段差部72,92を嵌合させた状態で、連結部C同士をボルト24及びナット26で締め付けることで連結されている。そして、FRSブロック32とFLSブロック34の上部に、FRUブロック28とFLUブロック30が載置された状態で、連結部C同士をボルト24及びナット26で締め付けることで、フロント壁体14が構成されている。
【0035】
なお、FRSブロック32とFLSブロック34の上部に、FRUブロック28とFLUブロック30を載置するときには、接合面にモルタル等の固着剤を予め塗布しておくと好ましい。このようにすれば、FRSブロック32及びFLSブロック34の上部開口にて露出するコンクリートと、FRUブロック28及びFLUブロック30の下面との間に隙間が生じるおそれを低減することができる。
【0036】
次に、図11は、RRUブロック16を形成する枠体150の構成を示す斜視図である。図11に示すように、枠体150は上端が開放された箱として構成されている。この枠体150内にコンクリートを充填することで、RRUブロック16が形成される。この枠体150のRLUブロック18と接合される接合面には、凹状の段差部152が設けられている。また枠体150のFRUブロック28と接合される接合面には、凸状の段差部154が設けられている。この段差部154は、FRUブロック28の凹状の段差部(図7の74)と嵌まり合う。なお、枠体150の底壁面にも、凹状の段差部156が設けられている。この段差部156は、ヨーク46との干渉を避けるためのものである。また枠体156内にはリブ158が立設されており、補強が図られている。
【0037】
また、枠体150のRLUブロック18と接合される側壁には、ボルト24を挿通するための孔160が貫通形成されている。そして、この孔160の近傍には、ボルト24とナット26の締結作業を行うためのスペースが画成されている。このように、孔160とスペースとでRLUブロック18との連結を図るための連結部Cが構成されている。また、枠体150のRRSブロック20と接合される底壁には、ボルト24を挿通するための孔162が貫通形成されている。そして、この孔162の近傍には、ボルト24とナット26の締結作業を行うためのスペースが画成されている。このように、孔162とスペースとでRRSブロック20との連結を図るための連結部Cが構成されている。更に、枠体150の底壁には、貫通孔164が形成されている。この貫通孔164には、コンクリートを充填する際にパイプを挿通することで、図1に示すように、RRUブロック16内を鉛直方向に貫通する通路Tが形成される。この通路Tは、サイクロトロン40から発する熱を逃がしたり、サイクロトロン40に電源を供給するためのケーブルを通したりするのに利用される。このような通路Tは、必要に応じて複数形成してもよい。また、RLUブロック18、FRUブロック28、及びFLUブロック30にも、必要に応じて同様の通路Tを形成してもよい。
【0038】
次に、図12は、RLUブロック18を構成する枠体170を示す斜視図である。図12に示すように、枠体170は上端が開放された箱として構成されている。この枠体170内にコンクリートを充填することで、RLUブロック18が形成される。この枠体170のRRUブロック16と接合される接合面には、凸状の段差部172が設けられている。この段差部172は、RRUブロック16の凹状の段差部152と嵌まり合う。また枠体170のFLUブロック30と接合される接合面には、凸状の段差部174が設けられている。この段差部174は、FLUブロック30の凹状の段差部(図8の94)と嵌まり合う。なお、枠体170の底壁面にも、凹状の段差部176が設けられている。この段差部176は、ヨーク46との干渉を避けるためのものである。また枠体170内にはリブ178が立設されており、補強が図られている。
【0039】
また、枠体170のRRUブロック16と接合される側壁には、ボルト24を挿通するための孔180が貫通形成されている。そして、この孔180の近傍には、ボルト24とナット26の締結作業を行うためのスペースが画成されている。このように、孔180とスペースとでRRUブロック16との連結を図るための連結部Cが構成されている。また、枠体170のRLSブロック22と接合される底壁には、ボルト24を挿通するための孔182が貫通形成されている。そして、この孔182の近傍には、ボルト24とナット26の締結作業を行うためのスペースが画成されている。このように、孔182とスペースとでRLSブロック22との連結を図るための連結部Cが構成されている。
【0040】
次に、図13は、RLSブロック22を構成する枠体190を示す斜視図である。図13に示すように、枠体190は上端が開放された箱として構成されている。この枠体190内にコンクリートを充填することで、RLSブロック22が形成される。この枠体190のRRSブロック20と接合される接合面には、凹状の段差部192が設けられている。また枠体190のRRSブロック20と接合される側壁には、ボルト24を挿通するための孔194が貫通形成されている。そして、この孔194の近傍には、ボルト24とナット26の締結作業を行うためのスペースが画成されている。このように、孔194とスペースとでRRSブロック20との連結を図るための連結部Cが構成されている。また枠体190のFLSブロック34と接合される接合面には、凸状の段差部196が設けられている。この段差部196は、FLSブロック34の凹状の段差部(図9の116)と嵌まり合う。なお、枠体190内にはリブ198が立設されており、補強が図られている。
【0041】
また、枠体190のRLUブロック18と接合される上部開口には、ボルト24を挿通するための孔200が貫通形成された補助板202が取り付けられている。そして、この孔200の近傍には、ボルト24を挿通する作業を行うためのスペースが画成されている。このように、孔200とスペースとでRLUブロック18との連結を図るための連結部Cが構成されている。
【0042】
次に、図14は、RRSブロック20を構成する枠体210を示す斜視図である。図14に示すように、枠体210は上端が開放された箱として構成されている。この枠体210内にコンクリートを充填することで、RRSブロック20が形成される。この枠体210のRLSブロック22と接合される接合面には、凸状の段差部212が設けられている。この段差部212は、RLSブロック22の凹状の段差部192と嵌まり合う。また枠体210のRLSブロック22と接合される側壁には、ボルト24を挿通するための孔214が貫通形成されている。そして、この孔214の近傍には、ボルト24とナット26の締結作業を行うためのスペースが画成されている。このように、孔214とスペースとでRLSブロック22との連結を図るための連結部Cが構成されている。また枠体210のFRSブロック32と接合される接合面には、凸状の段差部216が設けられている。この段差部216は、FRSブロック32の凹状の段差部(図10の136)と嵌まり合う。なお、枠体210内にはリブ218が立設されており、補強が図られている。
【0043】
また、枠体210のRRUブロック16と接合される上部開口には、ボルト24を挿通するための孔220が貫通形成された補助板222が取り付けられている。そして、この孔220の近傍には、ボルト24を挿通する作業を行うためのスペースが画成されている。このように、孔220とスペースとでRRUブロック16との連結を図るための連結部Cが構成されている。
【0044】
上記したRRSブロック20とRLSブロック22とが、接合面に設けられた段差部192,212を嵌合させた状態で、連結部C同士をボルト24及びナット26で締め付けることで連結されている。更に、上記したRRUブロック16とRLUブロック18とが、接合面に設けられた段差部152,172を嵌合させた状態で、連結部C同士をボルト24及びナット26で締め付けることで連結されている。そして、RRSブロック20とRLSブロック22の上部に、RRUブロック16とRLUブロック18が載置された状態で、連結部C同士をボルト24及びナット26で締め付けることで、リア壁体12が構成されている。
【0045】
なお、RRSブロック20とRLSブロック22の上部に、RRUブロック16とRLUブロック18を載置するときには、接合面にモルタル等の固着剤を予め塗布しておくと好ましい。このようにすれば、RRSブロック20及びRLSブロック22の上部開口にて露出するコンクリートと、RRUブロック16及びRLUブロック18の下面との間に隙間が生じるおそれを低減することができる。
【0046】
そして、図1に示すように、フロント壁体14とリア壁体12とを接合することで、放射線シールド10が構成される。なお、フロント壁体14とリア壁体12との間には、図3で示すような連結手段は設けられていない。これは、リア壁体12を固定側とし、フロント壁体14を可動側として、ガイドレールWにより案内しながらフロント壁体14を前方に引き出すことで、内部に収容されたサイクロトロン40のメンテナンスを可能とするためである。なお、このように可動側のブロックの移動を案内するガイドとしては、上記したガイドレールW以外にも、決まったライン上を移動するように案内可能なものを利用することが可能である。例えば、可動側のブロックが観音開き式に移動するものであれば、ヒンジ等を利用することができる。
【0047】
上記した各ブロックを構成する枠体70,90,110,130,170,150,190,210を形成するための材料としては、鉄等の金属材料、FRP等を使用することができる。但し、コスト及び強度の観点から鉄が好ましい。
【0048】
また枠体70,90,110,130,170,150,190,210を鉄により形成する場合は、鉄には放射線遮蔽能が殆どないため、軽量化の観点から1.0mm〜10.0mm程度が好ましい。
【0049】
また枠体70,90,110,130,170,150,190,210内に充填されるコンクリートとしては、放射線遮蔽能の観点から比重の大きいコンクリート、例えば、磁鉄鋼などの比重が大きい骨材を使用した高密度の遮蔽用コンクリートを使用すると好ましい。
【0050】
また枠体70,90,110,130,170,150,190,210内にコンクリートを充填するときには、枠体70,90,110,130,170,150,190,210内にアンカーGを針金等で吊り下げておき、図2及び図4に示すように、アンカーGの一部がコンクリートにより固定されるようにすると好ましい。このようにすれば、このアンカーGに着脱可能な吊り具Jを取り付けることで、ブロックの搬送が可能となる。
【0051】
以上、詳述したように、本実施形態に係るサイクロトロンシステム1では、サイクロトロン40を取り囲む放射線シールド10が、枠体70,90,110,130,170,150,190,210内部にコンクリートを充填したコンクリート充填枠体から構成されているため、枠体70,90,110,130,170,150,190,210内にコンクリートを充填して固化させた後、これをそのまま放射線シールドを構成する部材として使用することができる。このように、コンクリートから枠体を外す手間が省けることから、放射線シールド10の製造が容易になり、曳いてはサイクロトロンシステム1の製造が容易になる。また、コンクリートの欠けやひび等は枠体70,90,110,130,170,150,190,210により隠れるため、これら不具合を修正する必要がなくなり、製造が容易になる。更に、枠体70,90,110,130,170,150,190,210には周辺機器を取り付けるための取付座を自在に取り付けることができるため、周辺機器の取付位置の変更が可能になる。
【0052】
また本実施形態に係るサイクロトロンシステム1では、放射線シールド10が複数のブロック16,18,20,22,28,30,32,34から構成されているため、壁体を一体物で構成する場合に比べて、搬送や保管などの取り扱いが容易になる。
【0053】
更に、本実施形態に係るサイクロトロンシステム1では、隣接するブロックそれぞれの接合面に段差部(72と92、112と132、152と172、192と212、74と154、94と174、116と196、136と216)が設けられており、これらが嵌合した状態で接合されているため、隣接するブロックの間から放射線が漏れるおそれを低減することができる。また、このような段差部を設け難い上部のブロックと下部のブロックとの接合面にはモルタル等の固着剤を塗布するようにしているため、放射線が漏れるおそれを一層低減することができる。更に、枠体70,90,110,130,170,150,190,210を鉄により形成すれば、各ブロックの変形を抑制して接合面における合わせ精度を向上することができ、放射線が漏れるおそれを一層低減することができる。
【0054】
また放射線シールド10の内面には、中性子線の遮蔽に効果的なPb層58と、ガンマ線の遮蔽に効果的なPE層60とが適宜積層されているため、コンクリートによるこれら放射線の遮蔽を補強して、放射線遮蔽能の向上を図ることができる。なお、放射線減衰特性及び体積/重量比を考慮して、コンクリート、Pb層58、及びPE層60の厚み等を設計すると好ましい。
【0055】
またRRUブロック16には、壁体の内外を連通する通路Tが設けられているため、サイクロトロン40への電源を供給するためのケーブルを通したり、サイクロトロンから出る熱を逃がしたりすることが可能となる。
【0056】
また、可動側のフロント壁体14の移動を案内するガイドレールWを設けたため、フロント壁体14の移動が容易になり、メンテナンス性の向上が図られる。
【0057】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されることなく、種々の変形が可能である。例えば、上記した実施形態では放射線シールド10を8つのブロック16,18,20,22,28,30,32,34から構成したが、これ以外の数のブロックから形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明に係る自己シールド型粒子加速器システムでは、サイクロトロン以外の他の粒子加速器を放射線シールドで遮蔽してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施形態に係るサイクロトロンシステムが備える放射線シールドの構成を示す分解斜視図である。
【図2】リア壁体の構成を示す分解斜視図である。
【図3】隣接するブロックを連結するための連結手段を示す図である。
【図4】フロント壁体の構成を示す分解斜視図である。
【図5】放射線シールド内に収容されるサイクロトロンの構成を示す斜視図である。
【図6】放射線シールド内にサイクロトロンが収容されている様子を示す平面図である。
【図7】図7(a)は、FRUブロックを構成する枠体を上方から見た斜視図であり、図7(b)は、この枠体を下方から見た斜視図である。
【図8】図8(a)は、FLUブロックを構成する枠体を上方から見た斜視図であり、図8(b)は、この枠体を下方から見た斜視図である。
【図9】FLSブロックを構成する枠体を示す斜視図である。
【図10】FRSブロックを構成する枠体を示す斜視図である。
【図11】図11(a)は、RRUブロックを構成する枠体を上方から見た斜視図であり、図11(b)は、この枠体を下方から見た斜視図である。
【図12】図12(a)は、RLUブロックを構成する枠体を上方から見た斜視図であり、図12(b)は、この枠体を下方から見た斜視図である。
【図13】RLSブロックを構成する枠体を示す斜視図である。
【図14】RRSブロックを構成する枠体を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0060】
1…サイクロトロンシステム、10…放射線シールド、16…RRUブロック、18…RLUブロック、20…RRSブロック、22…RLSブロック、28…FRUブロック、30…FLUブロック、32…FRSブロック、34…FLSブロック、40…サイクロトロン、70,90,110,130,170,150,190,210…枠体、72,74,92,94,112,116,132,136,152,154,172,174,192,196,212,216…段差部、W…ガイドレール、T…通路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子加速器と、該粒子加速器を取り囲んで放射線を遮蔽するための壁体と、を備える自己シールド型粒子加速器システムであって、
前記壁体は、枠体内部にコンクリートを充填したコンクリート充填枠体から構成されており、
前記壁体は、固定側のブロックと可動側のブロックとを含み、前記可動側のブロックが前記固定側のブロックから離れるようにその移動を案内するガイドレールを設けたことを特徴とする自己シールド型粒子加速器システム。
【請求項2】
前記固定側のブロックと可動側のブロックは、複数のブロックから構成されていることを特徴とする請求項1に記載の自己シールド型粒子加速器システム。
【請求項3】
前記複数のブロックのうち隣接するブロックそれぞれの接合面には、互いに嵌り合う段差部が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の自己シールド型粒子加速器システム。
【請求項4】
前記複数のブロックは、上壁を構成するブロックと側壁を構成するブロックとを含み、前記上壁を構成するブロックと前記側壁を構成するブロックとの接合面には固着材が塗布されていることを特徴とする請求項2に記載の自己シールド型粒子加速器システム。
【請求項5】
前記壁体を構成する前記コンクリート充填枠体には、該壁体の内外を連通する通路が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の自己シールド型粒子加速器システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−85970(P2009−85970A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318629(P2008−318629)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【分割の表示】特願2003−364588(P2003−364588)の分割
【原出願日】平成15年10月24日(2003.10.24)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】