説明

航空機用空調装置

【課題】キャビン内の空気が乾燥するため、乗客・乗員の健康に悪影響を生じたり、静電気が発生して電子機器に誤動作を生ずることがある。また、加湿用の水を搭載すると重量制限オーバーや飛行中の燃費が悪くなるなどの問題がある。
【解決手段】エンジン抽気の冷却手段と、エンジン抽気の圧縮膨張手段と、空気中の水分を分離する空気中水分分離手段とを備えた空調装置において、空気中から分離した水分を貯留する水分貯留タンクと、前記水分貯留タンクに貯留した水分で加湿する加湿装置と、キャビンの湿度と温度を計測する湿温測定器と、加湿装置と温調装置を制御するコントローラとを設けたもので、キャビン内の湿度と温度を同時に監視し、キャビン内の健康問題、電子機器の誤動作問題を解決するとともに加湿のための水を搭載しないので飛行中の燃費の向上と加湿による水分の気化熱による冷房効果の向上による空調システムのコンパクト化がはかれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機用空調装置に係わり、特に機内の湿度を調節する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大型航空機の航空機用空調装置は、航空機が地上から高高度を飛行する範囲の機外環境に対応して機内の「与圧」「換気」「温度調節」の機能を発揮しなければならない。そのため一般的に他分野ではあまり用いられていない空気自身を冷媒とした「エアサイクル方式」が採用されている。
【0003】
図3に「エアサイクル方式」を採用した大型ジェット機48における空調システムの系統図の一例を示す。ジェット・エンジン40からの抽気(ブリードエア)50は、一次熱交換器41に送られ、機外から導入された低温のラムエア51で一次冷却される(約100℃〜140℃)。一次冷却された空気52は、エアサイクルマシン(ACM)へ向かう空気53とACMを通過せずバイパス流路を経てミキシングチャンバー47へ向かう一次冷却空気54とに分けられる。ACMに送られた空気53は圧縮機42の断熱圧縮により、昇温・昇圧され二次熱交換器43に送られる。二次熱交換器43で二次冷却された空気56は、再びACMの膨張タービン44に送られ、膨張タービン44を回転して圧縮機42を駆動するとともに断熱膨張により0℃近くまで三次冷却されてACMから送出される。
【0004】
航空機が地上にある時や低空飛行時など、外気温度が高く、空気中の水分含有量も多い条件において、三次冷却空気57中には、水分が凝縮して霧状の水滴が発生する。また、飛行条件によっては必要な冷却性能を確保するために氷点以下に冷却することがあり、その場合には水滴が氷結し配管内部に堆積して空気通路を閉塞する。また発生した氷が乗客、乗員、電子機器等に衝突して大惨事になる恐れもある。
【0005】
そのためミキシングチャンバー47にて高温の一次冷却空気54と混合し、適温にしたのち下流の水分分離装置45を通して除湿し、乾燥した適温空気59としてキャビン61やコックピット62に送り出される。なお、ミキシングチャンバー47に送り込まれる一次冷却空気54の供給流量はバイパス流路に設けられた流量調整弁46で最適な温度になるよう流量制御される。
【0006】
航空機が高高度の飛行時には、一次熱交換器41および二次熱交換器43への機外のラムエア51の取込みを抑え、ACMをバイパスする一次冷却空気54のミキシングチャンバー47への供給量を増大して暖房する。
【0007】
しかし、上記のエアサイクル過程で行う除湿によりキャビン61やコックピット62の空気の乾燥が過剰になると、いろいろな悪影響を生じる。例えば、高高度飛行中は暖房をする必要があるが、暖房時にキャビン61やコックピット62内が乾燥していると人体からの水分の蒸発により暖かさを感じにくくなる。また、乾燥に弱い乗客、乗員には肌荒れや喉の痛みを起こす恐れがある。さらに、冷房時には静電気の発生により電子機器の誤動作を生ずる恐れがある。
【0008】
こうした理由からキャビンやコックピットに送る空気の湿度を最適にするため、水分子を吸着する吸着剤で水分分離装置を構成し、吸着時の温度より高温になると吸着剤から空気中に水分子を放出する性質を利用して、水分分離装置をキャビンに流入する空気流路側に接続する方式と、キャビンから流出する空気流路側に接続する方式とを切り替える空気流路切替機構と、前記空気流路切替機構を制御するコントローラを設け、キャビンから流出する空気流路を接続した場合には空気中に含まれる水分を吸収し、キャビンへ流入する空気流路を接続した場合には空気中に水分を放出する航空機用空調装置が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−160098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
キャビン内の空気が乾燥することによって、乗客・乗員の健康に悪影響を生じることがあり、乾燥時の冷房では静電気が発生しやすくなりさらに電子機器に誤動作を生ずることがある。また、加湿するための水を地上で搭載する場合は、離陸時の重量制限オーバーや飛行中の燃費が悪化するなどの問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため本発明の航空機用空調装置は、エンジン抽気を冷却するエンジン抽気冷却手段と、エンジン抽気を圧縮・膨張させる抽気圧縮膨張手段と、空気中の水分を分離する空気中水分分離手段とを備えた空調装置において、空気中から分離した水分を貯留する水分貯留タンクと、前記水分貯留タンクに貯留した水分で加湿する加湿装置と、キャビンの湿度と温度を計測する湿温計測器と、加湿装置を制御する湿度コントローラと、温調装置を制御する温度コントローラとを設けたものである。
【0012】
本発明は、空気を冷却する際に発生する水分を分離し貯留しておき、コックピットを含むキャビン(以下キャビンという)内の湿度が低下したときに貯留した水分で加湿し、さらに加湿による温度の低下を調整して常にキャビン内の湿度と温度を最適に保つことによって課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0013】
加湿により乗客・乗員の肌荒れや喉の痛みなど健康上の問題および静電気による電子機器の誤動作問題を解決することができる。また、空気冷却時の除湿による水分を加湿用に利用するため、予め加湿用の水を搭載する必要がなく、離陸時の重量制限や飛行中の燃費問題を改善する効果がある。さらに、水分の気化熱による冷却効果で予め冷却器の能力を小さく設定できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態のシステム構成を表すブロック図である。
【図2】加湿装置の構成を示す模式図である。
【図3】従来のシステム構成を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。図1は実施の形態のシステム構成を表すブロック図であり、図2は本発明の加湿装置の構成を示す模式図である。
【0016】
本発明の航空機用空調装置1は図1に示すとおり、エンジン2からの抽出空気を予冷する一次熱交換器3と、シャフト4で連結された圧縮機5と膨張タービン6とを備えたエアサイクル冷却装置(以下単にACMという)と、ACMの圧縮機5を通過した空気を冷却する二次熱交換器7と、空気中の水分を分離する旋回式水分分離装置8と、分離された水分を貯留する水分貯留タンク9と、貯留された水を使って加湿する加湿装置10と、ACMで冷却された低温空気とACMを通過しない高温空気とを混合する温調装置31と、キャビン12内に設けられた湿度計測器13および温度計測器14とから構成される。
【0017】
すなわち、エンジン2からの抽気は一次熱交換器3で機外から導入した低温のラムエアと熱交換を行い、約100℃〜140℃に予冷後、ACMの圧縮機5へ通ずる主流路19へ送られる空気と、ACMを通過せずバイパス流路20へ送られる空気とに分けられる。ACMの圧縮機5へ送られた主流路19の空気は、圧縮機5の断熱圧縮により昇温・昇圧され次段の二次熱交換器7に送られる。二次熱交換器7において機外から導入した低温のラムエアと二度目の熱交換を行い冷却されてACMの膨張タービン6へ送られる。膨張タービン6で断熱的に膨張させて三度目の冷却が行われ、ここまでの工程で0℃近くまで冷却される。
【0018】
航空機が地上時あるいは低空飛行時など、機外の気温が高く、多湿である場合ACMの膨張タービン6での三度目の冷却で空気中の水分が凝縮して霧状の水滴が発生する。空気中に霧状の水滴を含んだ状態でキャビン12に供給されるとキャビン内部の電子機器に故障を招く恐れがあり、また飛行条件によっては必要な冷却性能を確保すべく、低温空気を氷点以下に冷却することがある。この場合、空気中の水滴が氷結して配管の内壁に付着し空気通路を閉塞して冷却空気が供給できなくなる場合や、さらに氷結した氷がキャビン12の乗客・乗員や電子機器に衝突する事故が生じる可能性もある。そのためACMの膨張タービン6の下流に温調装置31を設置し、適温に温調された空気を次工程の高速回転により遠心力で比重の重い水分を分離する旋回式水分分離装置8に送る。分離された水分は水分貯留タンク9に貯留される。
【0019】
温調装置31は図1に示すとおり、ミキシングチャンバー11と、流量調節弁15と、温度コントローラ16とから構成されている。すなわちミキシングチャンバー11において、ACMを通過した0℃近くに冷却された主流路19から供給される低温空気と、ACMを通過しない100℃〜140℃のバイパス流路20から供給される高温空気とが混合される。バイパス流路20から供給される高温空気は、キャビン12に設置された温度計測器14の計測値に対応した温度コントローラ16からの指示によりキャビン12が最適な温度になる流量を流量調節弁15から供給される。
【0020】
加湿装置10は図2に示すとおり、加湿部21と、制御部22から構成されており、旋回式水分分離装置8とキャビン12を結ぶ主流路19の中間部に設置されている。
【0021】
加湿部21には主流路19の入口23と、出口24と、空気を加湿するための水を噴霧する二流体ノズル25の噴霧口26が設けられている。二流体ノズル25は、中央に水を噴霧する小径の水用ノズル27と水用ノズル27の極近傍に同心円のスリット状をした空気用ノズル28からなり、空気用ノズル28から高速の空気を吹き出すことで水用ノズル27の口元に負圧を発生させ、水を吸引して空気とともに噴霧するものである。
【0022】
制御部22は、加湿部21に隣接して設けられており、二流体ノズル25の本体部と、水用ノズル27へ水分貯留タンク9から貯留された水を取込むための水配管口29と、旋回式水分分離装置8の出力空気の一部を取り込んで空気用ノズル28に送り込むための空気配管口30と、送り込む空気の量を制御する流量調節弁17と、湿度計測器13の出力信号を受けて流量調節弁17を制御する湿度コントローラ18とから構成されている。
【0023】
以上の加湿装置の構成により、湿度計測器13からの出力信号を受けて湿度コントローラ18が流量調節弁17に指令を出力すると、その指令に基づいた流量の空気を空気用ノズル28に送ることで水用ノズル27に適度の水が吸い込まれ、噴霧口26より主流路19の空気に噴霧されてキャビン12に適度の湿度の空気が供給される。
【0024】
加湿装置10を通過した空気は水の気化熱で温度が下がるがその分ACMでの冷却負荷を軽減することができ、空調装置のコンパクト化が可能である。
【0025】
本実施例では、加湿装置を空調装置の流路途中に設置したが、キャビン内に設置することも可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 航空機用空調装置
2 エンジン
3 一次熱交換器
4 シャフト
5 圧縮機
6 膨張タービン
7 二次熱交換器
8 旋回式水分分離装置
9 水分貯留タンク
10 加湿装置
11 ミキシングチャンバー
12 キャビン
13 湿度計測器
14 温度計測器
15 流量調節弁
16 温度コントローラ
17 流量調節弁
18 湿度コントローラ
19 主流路
20 バイパス流路
21 加湿部
22 制御部
23 入口
24 出口
25 二流体ノズル
26 噴霧口
27 水用ノズル
28 空気用ノズル
29 水配管口
30 空気配管口
31 温調装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン抽気を冷却するエンジン抽気冷却手段と、エンジン抽気を圧縮・膨張させる抽気圧縮膨張手段と、空気中の水分を分離する空気中水分分離手段とを備えた航空機用空調装置において、空気中から分離した水分を貯留する水分貯留タンクと、前記水分貯留タンクに貯留した水分によって加湿する加湿装置と、キャビンの湿度と温度を計測する湿温計測器と、加湿装置を制御する湿度コントローラと、温調装置を制御する温度コントローラとを設けたことを特徴とする航空機用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−240526(P2012−240526A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111625(P2011−111625)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)