説明

船倉側壁構造部材の点検装置

【課題】 持ち運びや収納が簡単で、バルクキャリアの船倉側壁の高所に容易に近づくことができ、構造部材の点検を容易かつ確実に行うことができる船倉側壁構造部材の点検装置を提供する。
【解決手段】 下部バラストタンク11の傾斜部12に立て掛ける第1の梯子1と、船側側壁構造部材(ホールドフレーム14)に横架されたレール3a、3bに沿って移動可能で、該レールに対し着脱可能な第2の梯子2とを備えた構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ばら積み貨物船の船倉側壁構造部材の点検装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ばら積み貨物船(以下、バルクキャリアという)の船倉側壁の構造部材すなわちホールドフレームは船倉内に露出しているため、隅肉溶接部の腐食衰耗を発生することは避けられない。その結果、フレーム強度や溶接強度が低下するため、沈没等の事故が発生している。
【0003】
従来、ホールドフレームの点検のために、固定式の足場や梯子が用いられていたが、固定式の足場や梯子では、点検箇所ごとに設置する必要があるという設備上の問題があるだけでなく、それらの足場や梯子と船倉側壁との隙間にばら積みの貨物(鉄鉱石、石炭、穀物類)が残存したり、足場や梯子それ自体が障害物となるため、貨物の荷役作業の際の邪魔になるという問題がある。
一方、このような問題点を解決するために、船側外板の内面または内壁に船首尾方向に設けられた縦骨を利用し、点検のための作業用ゴンドラを吊り下げて移動するようにした走行揚重装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平7−144688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示されるような点検装置では、縦骨方式の船体構造にしか適用できず、ホールドフレーム方式(肋骨方式)の船体構造には適用できないという問題がある。
一方、バルクキャリアの沈没事故等に鑑み、バルクキャリアの安全性に関し、船側を二重構造にする提案もあったが合意に至らず、本年5月の国際海事機関(IMO)の決議では、船倉側壁の構造部材の点検手段としてポータブル梯子の使用が認められることになった。
【0006】
本発明は、上記IMOの決議に伴い案出されたもので、持ち運びや収納が簡単で、バルクキャリアの船倉側壁の高所に容易に近づくことができ、構造部材の点検を容易かつ確実に行うことができる船倉側壁構造部材の点検装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明に係る船倉側壁構造部材の点検装置は、下部バラストタンクの傾斜部に立て掛ける第1の梯子と、船側側壁構造部材に横架されたレールに沿って移動可能で、該レールに対し着脱可能な第2の梯子とを備えたことを特徴とする。
【0008】
また、前記第1および第2の梯子は、FRPなどの軽量かつ高強度の材料により構成されているものである。
【0009】
また、前記第2の梯子は、上下部に溝付きの車輪を備え、これらの車輪を上下のレールに係合し懸架させることを特徴とする。
【0010】
前記レールは、そのレール面の断面形状が円弧状または山形状となっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の船倉側壁構造部材の点検装置は、上記のように構成されているので、検査員もしくは作業者は第1の梯子から第2の梯子に上っていき、船倉側壁の構造部材に対する腐食衰耗の程度、状況等を点検することができる。また、第2の梯子は構造部材に横架されたレールに沿って横移動することができるので、その船倉の全ての構造部材の点検を確実に行うことができる。さらに、第1および第2の梯子は、使用しないときは船倉外の適当な保管場所に収納しておけばよいので、荷役作業の邪魔にならない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態の一例を図面に基づいて説明する。図1はこの実施の形態を示す船倉側壁構造部材の点検装置の概要図で、バルクキャリアの断面図とともに示してある。図2、図3はこの点検装置をわかりやすく拡大して示す側面図と正面図である。
【0013】
本発明の船倉側壁構造部材の点検装置は、第1および第2の2つの梯子1、2からなる。第1の梯子1は、バルクキャリア10の下部バラストタンク11の傾斜部12に立て掛けて船倉13内の傾斜部12を検査員もしくは作業者が昇降するために使用される。第1の梯子1の設置位置は特に限定されない。一般には、検査しようとするホールドフレーム14の近傍の傾斜部12に設置される。
【0014】
第2の梯子2は、ホールドフレーム14の前面に沿って移動する垂直な梯子であり、ホールドフレーム14の全長にほぼ等しい長さを有する。ホールドフレーム14は一般にT形鋼等の部材から構成されており、船側外板15の内面に船首尾方向に所定の間隔でウェブを隅肉溶接により固着されている。このホールドフレーム14の隅肉溶接部が長年月が経過すると腐食衰耗するので、その腐食衰耗の程度、状況等(減肉や変形、錆の発生等)を点検し、隅肉溶接部の腐食衰耗の程度等によってはホールドフレーム14の補強や修理・補修等を行う。
【0015】
第2の梯子2を横移動できるようにするために、ホールドフレーム14の上下部にレール3a、3bを横架する。上下のレール3a、3bはそれぞれ複数の支持部材4により支持されており、支持部材4はホールドフレーム14のフランジ面に溶接またはボルト等で固定されている。レール3a、3bと支持部材4も同様に溶接やボルト等で固定されている。レール3a、3bは船倉13の両側の側壁のホールドフレーム14に支持部材4により取り付けられている。
なお、第2の梯子2の横移動は手動で行っているが、これに限定されるものではない。例えば、エアモータまたは電動モータ駆動によるポータブルウィンチによって移動させることもできる。また、船体前後の船倉に対しては、その船倉の側壁のカーブに合わせてレール3a、3bを設置する。
【0016】
第2の梯子2には、これらのレール3a、3b上を移動する車輪5a、5bが設けられている。また、脱輪を防ぎ安定して移動できるように、レール面に合わせた円環状の溝6を持つ溝付きの車輪5a、5bとなっている。上部車輪5aおよび下部車輪5bは、第2の梯子2の上下部に設けられた車輪ホルダー部7a、7bにそれぞれ回転自在に軸支されている。第2の梯子2は、車輪5a、5bを介してレール3a、3bと着脱される。
なお、レール面の断面形状は特に限定するものではないが、レール3a、3b上に鉄鉱石や石炭等のばら積み貨物が堆積しないように円弧状もしくは山形状に尖った、あるいはばら積み貨物が滑り落ちやすいような形状にすることが好ましい、
【0017】
第2の梯子2は、ホールドフレーム14の上下部に取り付けられたレール3a、3bに車輪5a、5bをそれぞれ係合させて垂直に懸架される。そのため、持ち運びが容易なように、第2の梯子2は、車輪5a、5bや軸を除く少なくとも本体部分が、軽量かつ高強度の材料、例えばFRPにより構成されている。また、上記第1の梯子1も同様の材料で構成されている。
【0018】
この実施の形態の点検装置は上記のように構成されている。そこで、船倉側壁の構造部材であるホールドフレーム14を点検する際には、まず、点検対象の船倉13のばら積み貨物を搬出後、格納場所から第1の梯子1および第2の梯子2を、点検対象の船倉13内に開口部16から搬入する。
そして、検査員または作業者が第1の梯子1を点検しようとするホールドフレーム14部分の近辺の傾斜部12に立て掛け、ついで第2の梯子2を持って第1の梯子1を上っていき、第2の梯子2をホールドフレーム14の上下部に取り付けられているレール3a、3bに車輪5a、5bを係合させて懸架する。
【0019】
以上により、点検前の梯子掛けの作業が終わるので、検査員は第1の梯子1から第2の梯子2へ上っていき、当該ホールドフレーム14の溶接部などの状況を検査する。第2の梯子2を上り下りして当該ホールドフレーム14の点検が終了した後は、隣のホールドフレーム14へ第2の梯子2を横移動させる。このとき、検査員は第2の梯子2に上ったままで手または棒などで押しやることにより横移動することができる。横移動後は、そのホールドフレーム14に対して上記同様の検査を行う。この点検動作をホールドフレーム14ごとに繰り返すことにより、その船倉13内の全てのホールドフレーム14に対して検査を行うことができる。
【0020】
上述のように、船倉13の片側側壁のホールドフレーム14に対する点検が終わったら、第1の梯子1および第2の梯子2を掛け替えて、同様に反対側の側壁のホールドフレーム14に対する点検を行う。
そして、各船倉13ごとに、順番に、または同時並行的に、ホールドフレーム14の点検を行う。点検終了後は、第2の梯子2をレール3a、3bから外し、船倉外に搬出し保管する。第1の梯子1も船倉外に搬出し保管する。
【0021】
以上のように、この点検装置によれば、船倉側壁の高所に容易に上っていきホールドフレーム14の点検や補強作業などを行うことができる。また、点検等の作業は、バルクキャリアがドック内に入っている間だけでなく、船倉が空であれば停泊中や航海中であっても随意に実施することができる。また、船体構造が肋骨方式、縦骨方式の如何に拘わらず適用することができる。
さらに、第1および第2の梯子は、FRPなどの軽量な材料で構成されているので持ち運びが容易であり、また使用しないときには船倉外の保管場所に収納しておけばよいので、船倉側壁の構造部材にはレール3a、3bおよび支持部材4が残っているだけであり、これらの隙間にばら積み貨物が残存するようなことはない。また、レール3a、3bや支持部材4がばら積み貨物の荷役作業の邪魔になることもない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態による船倉側壁構造部材の点検装置の概要図。
【図2】図1の点検装置の拡大側面図。
【図3】図1の点検装置の拡大正面図。
【符号の説明】
【0023】
1 第1の梯子
2 第2の梯子
3a、3b レール
4 支持部材
5a、5b 車輪
6 溝
7a、7b 車輪ホルダー部
10 バルクキャリア
11 下部バラストタンク
12 傾斜部
13 船倉
14 ホールドフレーム
15 船側外板
16 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部バラストタンクの傾斜部に立て掛ける第1の梯子と、船側側壁構造部材に横架されたレールに沿って移動可能で、該レールに対し着脱可能な第2の梯子とを備えたことを特徴とする船倉側壁構造部材の点検装置。
【請求項2】
前記第1および第2の梯子は、軽量かつ高強度の材料により構成されていることを特徴とする請求項1記載の船倉側壁構造部材の点検装置。
【請求項3】
前記第2の梯子は、上下部に溝付きの車輪を備え、これらの車輪を上下のレールに係合し懸架させることを特徴とする請求項1または2記載の船倉側壁構造部材の点検装置。
【請求項4】
前記レールは、そのレール面の断面形状が円弧状または山形状となっていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の船倉側壁構造部材の点検装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−21721(P2006−21721A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203561(P2004−203561)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(502116922)ユニバーサル造船株式会社 (172)