説明

船舶の風圧抵抗低減構造及び船舶

【課題】風圧を受け易い上部構造物の風圧を低減することにより、船舶の風圧抵抗を低減することができる、船舶の風圧抵抗低減構造及び船舶を提供する。
【解決手段】船体の上甲板Dに立設された上部構造物1を有する船舶の風圧抵抗低減構造であって、上部構造物1の一部に、船体の前後方向に貫通する通風孔2を形成したことを特徴とする。通風孔2は、例えば、上部構造物1の正面側に形成された船首側開口部21と、上部構造物1の背面側に形成された船尾側開口部22と、船首側開口部21と船尾側開口部22とを連通する空間を形成する壁面部と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の風圧抵抗低減構造及び船舶に関し、特に、船舶の甲板上に立設された上部構造物が受ける風圧を低減可能な船舶の風圧抵抗低減構造及び該風圧抵抗低減構造を有する船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な船舶は、甲板上に立設された上部構造物を有し、該上部構造物には居住区や操舵室等が配置されている。かかる上部構造物は、船舶の進行方向に対して正対するように立設されており、風圧を受け易く、抵抗になり易い。そこで、これらの風圧抵抗を低減するために種々の方法が既に提案されている(例えば、特許文献1乃至特許文献4参照)。
【0003】
例えば、特許文献1には、船舶の上部構造物の前壁に複数本の半円筒体を垂直に取り付けて、下端を空気吸込口とすると共に上端を空気吐出口とする中空構造体を構成したことを特徴とする船舶の風圧抵抗低減装置が記載されている。
【0004】
特許文献2には、船体の甲板上に設置された居住区の正面に、所定幅の帯状プレートが突設されたことを特徴とする船舶の風圧抵抗低減装置が記載されている。
【0005】
特許文献3には、船体の甲板上に設置された居住区の正面と側面とのなす隅角部の各々に、所定寸法の幅で切り落とした斜面状部を形成したことを特徴とする船舶の風圧低減構造が記載されている。
【0006】
特許文献4には、居住区よりも高さの低い船首ウインドスクリーンを備えるとともに、中間層居住区の前側上部に中間層ウインドスクリーンを設けることにより、中間層からの空気流れの剥離を大きくし、最上層居住区より上方に風を流し、最上層で生じる剥離層の幅を小さくすることにより、居住区前面への風圧抵抗を低減するようにした船舶の風圧抵抗低減構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−183392号公報
【特許文献2】特開平11−129976号公報
【特許文献3】特開平11−129977号公報
【特許文献4】特開2010−111209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1に記載の風圧低減構造では、上部構造物の下方に滞留した空気を上方に排出することにより風圧抵抗を低減している。しかしながら、船舶の風を受け易い上部構造物の中間部の風圧を低減することが難しいという問題があった。
【0009】
また、特許文献2に記載の風圧低減構造では、帯状プレートで囲まれた部分で風の流れを淀ませて擬似的に構造体を形成し、段階的に風を後方に流すことにより、風の流れの剥離を抑制し、風圧抵抗を低減している。しかしながら、帯状プレートで囲まれた部分で風を受けて淀ませなければならない、安定して風を淀ませることが難しい、上部構造物の正面で受けた風圧そのものを低減することが難しい等の問題があった。
【0010】
また、特許文献3に記載の風圧低減構造では、隅角部に斜面状部を形成することによって、風の流れの剥離を抑制し、風圧抵抗を低減している。しかしながら、上部構造物の正面で受けた風圧そのものを低減することが難しいという問題があった。
【0011】
また、特許文献4に記載の風圧低減構造では、船首ウインドスクリーンと中間層ウインドスクリーンとの協働によって風圧抵抗を低減している。しかしながら、船首部から離れた位置に居住区が形成された船舶には適用することができないという問題があった。
【0012】
本発明は、上述した問題点に鑑み創案されたものであり、風圧を受け易い上部構造物の風圧を低減することにより、船舶の風圧抵抗を低減することができる、船舶の風圧抵抗低減構造及び船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、船体の上甲板に立設された上部構造物を有する船舶の風圧抵抗低減構造であって、前記上部構造物の一部に、前記船体の前後方向に貫通する通風孔を形成した、ことを特徴とする船舶の風圧抵抗低減構造が提供される。
【0014】
また、本発明によれば、船体の上甲板に立設された上部構造物を有する船舶であって、前記上部構造物の一部に、前記船体の前後方向に貫通する通風孔を形成した、船舶の風圧抵抗低減構造を有する、ことを特徴とする船舶が提供される。
【0015】
上述した船舶の風圧抵抗低減構造及び船舶において、前記通風孔は、前記船体の上下方向又は左右方向に複数形成されていてもよい。また、前記通風孔は、前記船体の左右方向に扁平状に形成されていてもよい。また、前記通風孔は、前記上部構造物内に形成されたデッキの天井部又は床面部に沿って形成されていてもよい。
【0016】
前記通風孔は、例えば、配置された高さにおける前記上部構造物の横幅に対して、70%以上100%未満の開口幅を有する。また、前記通風孔は、例えば、前記上部構造物の高さ対して、10%以上90%以下、20%以上80%以下、30%以上70%以下又は40%以上60%以下の高さのいずれかの範囲内に形成されている。また、前記通風孔は、例えば、500mm以上1000mm以下の開口高さを有する。
【0017】
また、前記通風孔は、例えば、前記上部構造物の正面側に形成された船首側開口部と、前記上部構造物の背面側に形成された船尾側開口部と、前記船首側開口部と前記船尾側開口部とを連通する空間を形成する壁面部と、を有する。
【0018】
また、前記船首側開口部の上部に配置されたスクリーンを有していてもよいし、前記船首側開口部又は前記船尾側開口部に向かって流路が拡張した拡張部を有していてもよい。
【発明の効果】
【0019】
上述した本発明に係る船舶の風圧抵抗低減構造及び船舶によれば、船舶の上部構造物に通風孔を形成したことにより、上部構造物が風を受ける表面積を低減することができるとともに、上部構造物の外周を迂回しようとする風の一部を取り込んで後方に送流することができ、上部構造物が受ける風圧を低減することができ、船舶の風圧抵抗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る船舶の風圧抵抗低減構造の第一実施形態を示す図であり、(a)は上部構造物の正面図、(b)は上部構造物の背面図、を示している。
【図2】通風孔が形成された部分における上部構造物の水平断面図である。
【図3】本発明に係る船舶の風圧抵抗低減構造における他の実施形態を示す図であり、(a)は第二実施形態、(b)は第三実施形態、(c)は第四実施形態、である。
【図4】本発明に係る船舶の風圧抵抗低減構造における他の実施形態を示す図であり、(a)は第五実施形態、(b)は第六実施形態、である。
【図5】本発明に係る船舶の風圧抵抗低減構造における他の実施形態を示す図であり、(a)は第七実施形態、(b)は第八実施形態、(c)は第九実施形態、(d)は第十実施形態、である。
【図6】本発明に係る船舶の風圧抵抗低減構造における他の実施形態を示す図であり、(a)は第十一実施形態、(b)は第十二実施形態、である。
【図7】本発明に係る船舶の実施形態を示す図であり、(a)はタンカーの概略側面図、(b)はカーゴシップの概略側面図、を示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る船舶の風圧抵抗低減構造の第一実施形態について、図1乃至図2を用いて説明する。ここで、図1は、本発明に係る船舶の風圧抵抗低減構造の第一実施形態を示す図であり、(a)は上部構造物の正面図、(b)は上部構造物の背面図、を示している。また、図2は、通風孔が形成された部分における上部構造物の水平断面図である。
【0022】
本発明の第一実施形態に係る船舶の風圧抵抗低減構造は、図1及び図2に示したように、船体の上甲板Dに立設された上部構造物1を有する船舶の風圧抵抗低減構造であって、上部構造物1の一部に、船体の前後方向に貫通する通風孔2を形成したことを特徴とする。なお、図1において、上部構造物1の窓や扉等の設備については、図を省略している。
【0023】
前記上部構造物1は、居住区11及び操舵室12を有する。居住区11は、一般に、複数階に区切られており、上甲板D側から、例えば、Aデッキ11a、Bデッキ11b、Cデッキ11c、ナビゲーションデッキ11dを有する。これらのデッキは、船橋甲板、ボート甲板、航海船橋甲板等のように称されることもある。操舵室12は、一般に、居住区11の上部に配置される。操舵室12の上面には、コンパス甲板12aが形成されている。また、操舵室12の下の階における居住区11には、船体の左右両側に張り出したウィング部11eが形成されている。なお、図示した上部構造物1の構造は、単なる一例であり、階数の低いものや高いもの、居住区11と操舵室12とが一体に形成されたもの、ウィング部11eがないもの等、種々の形態のものが採用され得る。
【0024】
前記通風孔2は、上部構造物1の正面側に形成された船首側開口部21と、上部構造物1の背面側に形成された船尾側開口部22と、船首側開口部21と船尾側開口部22とを連通する空間を形成する複数の壁面部23と、を有する。
【0025】
船首側開口部21は、図1(a)及び図2に示したように、上部構造物1の正面を構成する壁面の一部に、船体の左右方向に扁平状に形成される。ここでは、船体の左舷側と右舷側のそれぞれに船首側開口部21を形成している。なお、扁平状とは、スリット形状やスロット形状等の細長い形状を含む意味である。
【0026】
いま、船首側開口部21の開口幅(左右方向長さ)をXf、開口高さ(上下方向長さ)をZf、上甲板Dに対する配置高さをHf、とする。居住区11の有効空間を維持しつつ、開口面積を広くするためには、船首側開口部21を左右方向に長く、上下方向に短く形成することが好ましい。その結果、船首側開口部21は扁平状、すなわち、開口幅Xf>開口高さZfを満たす形状に形成される。具体的には、船首側開口部21は、例えば、長方形、角丸長方形、エッジカットされた長方形、楕円形等の形状を有する。なお、船首側開口部21を正方形又は円形に形成して、船体の左右方向に複数並べて配置するようにしてもよい。
【0027】
また、居住区11の内部には、図2に示したように、煙突、配管、階段等を案内するための吹抜部11fが形成されている場合がある。そこで、この吹抜部11fを避けて通風孔2を形成するために、中心線Lの両側(左舷側及び右舷側)にそれぞれ船首側開口部21を形成している。なお、吹抜部11fは、通風孔2と吹抜部11fとを区切る壁面(壁面部23)により外周が覆われている。
【0028】
船尾側開口部22は、図1(b)及び図2に示したように、上部構造物1の背面を構成する壁面の一部に、船体の左右方向に扁平状に形成される。ここでは、船体の左舷側と右舷側とに跨るように幅広の船尾側開口部22を形成している。いま、船尾側開口部22の開口幅(左右方向長さ)をXa、開口高さ(上下方向長さ)をZa、上甲板Dに対する配置高さをHa、とする。船尾側開口部22は、船首側開口部21と同様に、例えば、開口幅Xa>開口高さZaを満たす形状に形成される。
【0029】
壁面部23は、居住区11を構成する壁面、床面、天井面等により構成される。また、吹抜部11fを囲む壁面も壁面部23の一部を構成する。図1に示したように、通風孔2は、上部構造物1内に形成されたBデッキ11bの天井部(Cデッキ11cの下面)に沿って形成されている。したがって、壁面部23は、Bデッキ11bとCデッキ11cとの間に配置された仕切面11gと、Cデッキ11cの下面と、仕切面11g及びCデッキ11cの外周に配置された居住区11の壁面と、吹抜部11fを囲む壁面と、により構成されている。このように、居住区11の一部(デッキ面及び壁面)を壁面部23として利用することにより、仕切面11gを配置するだけで通風孔2を構成する空間を容易に形成することができる。なお、仕切面11gとCデッキ11cとの間には、柱部材や船体の前後方向に長い板部材を配置して、通風孔2の強度を向上させるようにしてもよい。
【0030】
また、通風孔2は、配置された高さにおける上部構造物1の横幅に対して、70%以上の開口幅を有することが好ましい。ここで、船首側開口部21の配置高さはHf、船尾側開口部22の配置高さはHaであり、Hf=Haの関係を有し、その配置高さにおける上部構造物1の横幅をXsとする(図2参照)。上述した第一実施形態では、船首側開口部21は二つ形成されているため、船首側開口部21の開口幅の合計は2Xfとなる。したがって、2Xf≧0.7Xsの関係を有することが好ましい。また、船尾側開口部22の開口幅はXaであるから、Xa≧0.7Xsの関係を有することが好ましい。
【0031】
また、通風孔2は、500mm以上1000mm以下の開口高さを有することが好ましい。具体的には、船首側開口部21の開口高さはZf、船尾側開口部22の開口高さはZaであるから、500mm≦Zf≦1000mm、500mm≦Za≦1000mm、の関係を有することが好ましい。一般に、居住区11におけるデッキ間は約3m程度であることが多く、約2m程度の高さは居住空間として確保したいことに鑑みれば、通風孔2の開口高さは1000mm以下とすることが好ましい。勿論、デッキ間の間隔が十分に広い場合には、通風孔2の開口高さを1000mmより大きくしてもよい。
【0032】
また、上述したように、通風孔2をBデッキ11bとCデッキ11cとの間であって、Bデッキ11bの天井部(Cデッキ11cの下面)に沿って形成した場合には、上部構造物1の高さをHsとすれば、図1(b)に示したように、通風孔2の配置高さは上部構造物1の高さHsに対して半分程度の高さに相当する。より具体的には、通風孔2は、上部構造物1の高さHsに対して40%以上60%以下の高さの範囲内、より正確には、50%以上60%以下の高さの範囲内に形成されている。このように、通風孔2を上部構造物1の高さHsに対して半分程度の高さに形成することにより、上部構造物1の風圧が高くなり易い部分の表面積を低減することができるとともに、上部構造物1の受ける風を効果的に取り込むことができる。なお、上部構造物1の高さHsは、上甲板Dからコンパス甲板12aまでの高さを意味している。また、図1(b)中の目盛(%)は上部構造物1の高さHsに対する割合を示したものである。
【0033】
上述した本発明の第一実施形態に係る船舶の風圧抵抗低減構造によれば、船舶の上部構造物1に船首側開口部21及び船尾側開口部22を有する通風孔2を形成したことにより、上部構造物1が風を受ける表面積を低減することができるとともに、上部構造物1の外周を迂回しようとする風の一部を取り込んで後方に送流することができ、上部構造物1が受ける風圧を低減することができ、最終的に船舶の風圧抵抗を低減することができる。
【0034】
次に、図3乃至図6を参照しつつ、本発明に係る船舶の風圧抵抗低減構造における他の実施形態について説明する。ここで、図3乃至図6は、本発明に係る船舶の風圧抵抗低減構造における他の実施形態を示す図であり、図3(a)は第二実施形態、図3(b)は第三実施形態、図3(c)は第四実施形態、図4(a)は第五実施形態、図4(b)は第六実施形態、図5(a)は第七実施形態、図5(b)は第八実施形態、図5(c)は第九実施形態、図5(d)は第十実施形態、図6(a)は第十一実施形態、図6(b)は第十二実施形態、である。
【0035】
また、図3及び図4に示した各図は、上部構造物1の正面図であり、図5に示した各図は通風孔2が形成された部分における上部構造物1の水平断面図であり、図6に示した各図は上部構造物1の概略断面図である。また、図3及び図4の各図に記載された目盛(%)は上部構造物1の高さHsに対する割合を示したものである。なお、各図において、上述した第一実施形態と同じ構成部品については、同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0036】
図3(a)に示した第二実施形態は、通風孔2の船首側開口部21の形状を中心線L側が狭く、外側が広くなるように形成したものである。かかる第二実施形態によれば、船首側開口部21の形状に合わせて仕切面11gを配置することにより、居住区11の中央部の空間を広く形成することができ、実用性に優れる。また、上部構造物1の両側面に近い部分の船首側開口部21の開口高さを大きくしていることから、上部構造物1の側面に迂回しようとする風を船首側開口部21で効果的に取り込むことができる。
【0037】
図3(b)に示した第三実施形態は、通風孔2を船体の上下方向に二段に配置したものである。例えば、通風孔2は、Aデッキ11a及びBデッキ11bの天井部に沿うように形成される。具体的には、Aデッキ11aとBデッキ11bとの間及びBデッキ11bとCデッキ11cとの間にそれぞれ仕切面11gを配置することにより、通風孔2を構成する空間を形成している。このように、通風孔2を船体の上下方向に複数形成することにより、上部構造物1の表面積を低減することができるとともに、後方に送流できる流量を増大させることができ、風圧抵抗をより低減することができる。
【0038】
かかる第三実施形態では、通風孔2は、上部構造物1の高さHsに対して30%以上60%以下の高さの範囲内に形成されている。このように、上部構造物1の高さHsに対して中央部付近に複数の通風孔2を形成することにより、効果的に上部構造物1の受ける風圧を低減することができる。また、通風孔2が形成される二段の組合せは、図示したものに限定されず、上甲板D、Aデッキ11a、Bデッキ11b、Cデッキ11c及びナビゲーションデッキ11dの中から任意に選択することができる。各デッキにおいて、通風孔2は、床面部に沿って形成されてもよいし、天井部に沿って形成されてもよい。特に、Aデッキ11aの天井部及びCデッキ11cの床面部に沿って通風孔2を形成した場合には、通風孔2を上部構造物1の高さHsに対して30%以上70%以下の高さの範囲内に形成することができる。
【0039】
図3(c)に示した第四実施形態は、通風孔2を船体の上下方向に三段に配置したものである。例えば、通風孔2は、Aデッキ11a、Bデッキ11b及びCデッキ11cの天井部に沿うように形成される。具体的には、上甲板DとAデッキ11aの間、Aデッキ11aとBデッキ11bとの間及びBデッキ11bとCデッキ11cとの間にそれぞれ仕切面11gを配置することにより、通風孔2を構成する空間を形成している。このように、通風孔2を船体の上下方向に複数形成することにより、上部構造物1の表面積をより低減することができるとともに、後方に送流できる流量をより増大させることができ、風圧抵抗をより低減することができる。
【0040】
かかる第四実施形態では、通風孔2は、上部構造物1の高さHsに対して10%以上60%以下の高さの範囲内に形成されている。このように、第三実施形態の通風孔2に加えて、上甲板Dに近い部分にも通風孔2を形成することにより、上甲板D付近で滞留し易い風を取り込んで後方に送流することができ、効果的に上部構造物1の受ける風圧を低減することができる。また、通風孔2が形成される三段の組合せは、図示したものに限定されず、上甲板D、Aデッキ11a、Bデッキ11b、Cデッキ11c及びナビゲーションデッキ11dの中から任意に選択することができる。各デッキにおいて、通風孔2は、床面部に沿って形成されてもよいし、天井部に沿って形成されてもよい。
【0041】
図4(a)に示した第五実施形態は、通風孔2をCデッキ11cの天井部に沿って形成したものである。具体的には、Cデッキ11cとナビゲーションデッキ11dとの間に仕切面11gを配置することにより、通風孔2を構成する空間を形成している。このように、ウィング部11eを有する箇所に通風孔2を形成するようにしてもよい。この場合も、通風孔2は、配置位置における上部構造物1の横幅Xsに対して、70%以上の開口幅を有することが好ましい。なお、通風孔2は、Cデッキ11cの床面部に沿って形成してもよい。
【0042】
かかる第五実施形態では、通風孔2は、上部構造物1の高さHsに対して70%以上80%以下の高さの範囲内に形成される。また、第五実施形態に対して、第一乃至第三実施形態を適宜組み合わせることにより、通風孔2は、上部構造物1の高さHsに対して10%以上80%以下、30%以上80%以下又は50%以上80%以下の高さの範囲内に形成される。特に、通風孔2をAデッキ11aの床面に沿って形成したものと第五実施形態とを組み合わせることにより、通風孔2を上部構造物1の高さHsに対して20%以上80%以下の高さの範囲内に形成することができる。
【0043】
図4(b)に示した第六実施形態は、通風孔2を操舵室12の床面部に沿って形成したものである。具体的には、ナビゲーションデッキ11dとコンパス甲板12aとの間に仕切面11gを配置することにより、通風孔2を構成する空間を形成している。このように、操舵室12に通風孔2を形成するようにしてもよい。この場合も、通風孔2は、配置位置における上部構造物1の横幅Xsに対して、70%以上の開口幅を有することが好ましい。
【0044】
かかる第六実施形態では、通風孔2は、上部構造物1の高さHsに対して80%以上90%以下の高さの範囲内に形成される。また、第六実施形態に対して、第一乃至第五実施形態を適宜組み合わせることにより、通風孔2は、上部構造物1の高さHsに対して10%以上90%以下、30%以上90%以下、50%以上90%以下又は70%以上90%以下の高さの範囲内に形成される。
【0045】
図5(a)に示した第七実施形態は、通風孔2を構成する船首側開口部21及び船尾側開口部22の両方をそれぞれ左舷側と右舷側とに配置したものである。すなわち、船首側開口部21及び船尾側開口部22の両方が、船体の左右方向に複数形成されている。かかる構成により、各船首側開口部21から取り込んだ風を各船尾側開口部22から吐き出すことができる。ここでは、吹抜部11fの後方で通風孔2を連通させているが、仕切り部材により、左舷側と右舷側とに通風孔2を完全に分離するようにしてもよい。
【0046】
図5(b)に示した第八実施形態は、通風孔2を構成する船首側開口部21及び船尾側開口部22をそれぞれ一つずつ中心線Lに沿って中心部に配置したものである。例えば、図示したように、吹抜部11fが、居住区11の正面又は背面を構成する壁面から離間している場合には、船首側開口部21又は船尾側開口部22を左右方向に分離しないようにしてもよい。なお、吹抜部11fが壁面から離間している場合であっても、船首側開口部21の中心部から通風孔2内に流入した風が、吹抜部11fを囲む壁面部23に衝突することを考慮して、第一実施形態のように、船首側開口部21を左舷側と右舷側とに分離するようにしてもよい。
【0047】
図5(c)に示した第九実施形態は、図5(a)に示した第七実施形態において、船首側開口部21を左舷側及び右舷側のそれぞれに二つずつ形成したものである。このように、複数の船首側開口部21を形成することにより、船首側開口部21間の壁面により通風孔2の強度を向上させることができる。
【0048】
図5(d)に示した第十実施形態は、図5(b)に示した第九実施形態において、船尾側開口部22を左舷側及び右舷側のそれぞれに分離して形成したものである。通風孔2に流入した風は、吹抜部11fを囲む壁面部23によって左右に分離され、吹抜部11fの背面側を流れる風の流量は少ない。そこで、かかる第十実施形態では、船尾側開口部22を左右に分離して配置することにより、不要な開口部を低減し、船尾側開口部22間の壁面により通風孔2の強度の向上を図っている。
【0049】
図6(a)に示した第十一実施形態は、通風孔2の船首側開口部21の上部にスクリーン24を配置したものである。このように、船首側開口部21の上部を覆う庇を構成するスクリーン24を配置することにより、上部構造物1の正面に沿って上昇する風を効果的に通風孔2に案内することができる。したがって、スクリーン24は、下方から上昇してくる風を通風孔2に案内できる形状であれば、図示したような鉤状断面に限定されるものではなく、円弧状断面等の曲面形状であってもよいし、テーパ面等の平面形状であってもよい。
【0050】
図6(b)に示した第十二実施形態は、通風孔2に、船首側開口部21及び船尾側開口部22のそれぞれに向かって流路が拡張した拡張部25を形成したものである。かかる拡張部25を形成することにより、通風孔2の入口部及び出口部を拡張した形状に構成することができ、風を取り込み易く及び吐き出し易くすることができる。拡張部25は、例えば、テーパ面やR面により構成され、船首側開口部21又は船尾側開口部22に向かって徐々に流路が拡張するように形成されている。なお、ここでは、船首側開口部21側及び船尾側開口部22側の両方に拡張部25を形成したが、船首側開口部21側又は船尾側開口部22側の一方にのみ拡張部25を形成するようにしてもよい。
【0051】
なお、上述した第一乃至第十二実施形態において、通風孔2は、船体の前後方向に直進する場合、すなわち、船首側開口部21の配置高さHf=船尾側開口部22の配置高さHaの場合、について説明したが、上部構造物1の構造や居住区11内の構造によっては、船首側開口部21の配置高さHf>船尾側開口部22の配置高さHa、又は船首側開口部21の配置高さHf<船尾側開口部22の配置高さHaとなるように通風孔2を構成するようにしてもよい。
【0052】
続いて、上述した風圧抵抗低減構造を採用した船舶について説明する。ここで、図7は、本発明に係る船舶の実施形態を示す図であり、(a)はタンカーの概略側面図、(b)はカーゴシップの概略側面図、を示している。
【0053】
図7(a)及び(b)に示した実施形態は、船体31の上甲板Dに立設された上部構造物1を有する船舶3であって、上部構造物1に、例えば、上述した実施形態に係る風圧抵抗低減構造を有するものである。
【0054】
図7(a)に示した船舶3は、タンカーの場合を図示したものである。一般に、タンカー(船舶3)は、船首32から船尾33に向かって長尺に形成された船体31を有し、上部構造物1は船体31の船尾33側に配置されていることが多い。上部構造物1の前方の船体31には複数のカーゴタンク34が配置されている。そして、上部構造物1には、船体31の前後方向に貫通する通風孔2が形成されている。したがって、本発明に係る船舶3によれば、船舶3の上部構造物1に通風孔2を形成したことにより、上部構造物が風を受ける表面積を低減することができるとともに、上部構造物の外周を迂回しようとする風の一部を取り込んで後方に送流することができ、上部構造物が受ける風圧を低減することができ、船舶の風圧抵抗を低減することができる。
【0055】
また、図7(b)に示した船舶3は、カーゴシップの場合を図示したものである。一般に、カーゴシップ(船舶3)は、船首32から船尾33に向かって長尺に形成された船体31を有し、上部構造物1は船体31の船首32側に配置されている場合もある。上部構造物1の後方における上甲板D下の船体31内には輸送物を収容する空間が形成されている。そして、上部構造物1には、船体31の前後方向に貫通する通風孔2が形成されている。このように、上部構造物1が船首32側に配置されている場合であっても、本発明に係る風圧抵抗低減構造を適用することができ、図7(a)に示したタンカーと同様の効果を奏する。
【0056】
なお、ここでは、船舶3としてタンカー及びカーゴシップの場合について説明したが、バルクキャリア等の他の貨物船やフェリー等の輸送船であっても、風に曝される上部構造物1を有する船舶3であれば、本発明を適用することができる。
【0057】
本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0058】
1 上部構造物
2 通風孔
3 船舶
21 船首側開口部
22 船尾側開口部
23 壁面部
24 スクリーン
25 拡張部
31 船体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の上甲板に立設された上部構造物を有する船舶の風圧抵抗低減構造であって、
前記上部構造物の一部に、前記船体の前後方向に貫通する通風孔を形成した、ことを特徴とする船舶の風圧抵抗低減構造。
【請求項2】
前記通風孔は、前記船体の上下方向又は左右方向に複数形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の船舶の風圧抵抗低減構造。
【請求項3】
前記通風孔は、前記船体の左右方向に扁平状に形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の船舶の風圧抵抗低減構造。
【請求項4】
前記通風孔は、前記上部構造物内に形成されたデッキの天井部又は床面部に沿って形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の船舶の風圧抵抗低減構造。
【請求項5】
前記通風孔は、配置された高さにおける前記上部構造物の横幅に対して、70%以上100%未満の開口幅を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の船舶の風圧抵抗低減構造。
【請求項6】
前記通風孔は、前記上部構造物の高さ対して、10%以上90%以下、20%以上80%以下、30%以上70%以下又は40%以上60%以下の高さのいずれかの範囲内に形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の船舶の風圧抵抗低減構造。
【請求項7】
前記通風孔は、500mm以上1000mm以下の開口高さを有する、ことを特徴とする請求項1に記載の船舶の風圧抵抗低減構造。
【請求項8】
前記通風孔は、前記上部構造物の正面側に形成された船首側開口部と、前記上部構造物の背面側に形成された船尾側開口部と、前記船首側開口部と前記船尾側開口部とを連通する空間を形成する壁面部と、を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の船舶の風圧抵抗低減構造。
【請求項9】
前記通風孔は、前記船首側開口部の上部に配置されたスクリーンを有する、ことを特徴とする請求項8に記載の船舶の風圧抵抗低減構造。
【請求項10】
前記通風孔は、前記船首側開口部又は前記船尾側開口部に向かって流路が拡張した拡張部を有する、ことを特徴とする請求項8に記載の船舶の風圧抵抗低減構造。
【請求項11】
船体の上甲板に立設された上部構造物を有する船舶であって、
前記上部構造物に請求項1乃至請求項10のいずれかに記載の船舶の風圧抵抗低減構造を有する、ことを特徴とする船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−17022(P2012−17022A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155665(P2010−155665)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(502422351)株式会社アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド (159)