説明

船舶

【課題】蓄電池の利用により必要時期に一定量の電力補完を確実に行うことができると共に、その分だけ主発電機の運転停止による排出ガスの削減により環境負荷の低減を可能とし、さらに蓄電池の重量というマイナス面を逆に有効に活用することができる船舶を提供する。
【解決手段】電源装置10は、主発電機11により発電された電力のうち船内負荷12を越えた分により充電される蓄電池14と、主発電機11の運転停止時に蓄電池14の出力を主発電機11に代わって給電する充電制御器15と、を有し、蓄電池14を、船底に固定バラストとして配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主発電機により発電された電力を船内負荷に給電する電源装置を備えた船舶に関し、そのうち特に自動車運搬船に適用されるものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般の船舶において電源装置は、ディーゼル機関を用いた複数台の主発電機と、同じくディーゼル機関を用いた1台の非常用発電機とを有して成り、通常時は、複数台の主発電機により船舶で使用される船内負荷に対する給電を行い、主発電機が故障する等の異常発生時には、非常用発電機に切り替えて船内負荷に対する給電を行うように構成されていた。
【0003】
ところで、最近は船舶の大型化により、船舶の全負荷容量の増加に伴って主発電機も大型化しており、特に自動車を専門に運ぶ自動車運搬船(略してPCC(Pure Car Carrier)、PCTC(Pure
Car & Truck Carrier))においては大型化の傾向が顕著である。このような船舶とその主発電機の大型化は、そのまま排ガスの増大につながるものであり、特に湾港内での排ガスの増大は重大な環境問題となっていた。
【0004】
ここ最近の地球環境問題に対する関心の高まりに伴い、前述した船舶においても太陽光や風力等再生可能でクリーンなエネルギーの利用が注目されている。これらのエネルギーはクリーンではあるが、周囲の気象条件により発電量が変動するため、その活用にあたっては工夫が必要である。具体的な工夫としては、例えば特許文献1に開示されたものが一つの解決策を示している。
【0005】
すなわち、主発電機により発電された電力が給電される船舶の主給電系統の下位に接続される複数の分電盤と、太陽電池の発電した電力を出力する太陽光発電装置を備え、複数の分電盤のうち特定の電力負荷が接続される特定の分電盤は、主発電機からの電力と太陽光発電装置からの電力が並列に接続されて供給されるように構成されている。ここで太陽電池の発電した電力は、その都度供給されて、通常電源の発電量を節約、補完するものであり、敢えて蓄電池を備えていない点に特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−315195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述した特許文献1に開示された従来の技術において、太陽電池による発電量は、気象条件の悪化等により十分な発電量が得られない場合も多く、気象条件に大きく左右されやすいものであり、必要時期に一定量の電力補完の確実性はないという問題があった。
【0008】
かかる問題を解決すべく、太陽光により発電された電力を蓄電池に蓄え、必要な時にこれを取り出すように構成すれば、ある一定量の電力需要に対して確実に対応できるが、長期耐用の船舶用鉛蓄電池の場合には、大容量および大重量となるため、前述した特許文献1の段落0008にも記載のとおり、無用のデッドカーゴ重量の増加につながるとして船舶への適用は敬遠されていた。
【0009】
本発明は、以上のような従来の技術が有する問題点並びに最近の大型自動車運搬船が安定性を確保するため船底部付近に固定バラストまたは海水バラストを搭載していることに着目してなされたものであり、蓄電池の利用により必要時期に一定量の電力補完を確実に行うことができると共に、その分だけ主発電機の運転停止による排出ガスの削減により環境負荷の低減を可能とし、さらに蓄電池の重量というマイナス面を逆に有効に活用することができる船舶を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達成するための本発明の要旨とするところは、以下の各項の発明に存す
る。
[1]主発電機(11)により発電された電力を船内負荷(12)に給電する電源装置(10)を備えた船舶(1)において、
前記電源装置(10)は、
前記主発電機(11)により発電された電力のうち船内負荷(12)を越えた分により充電される蓄電池(14)と、
前記主発電機(11)の運転停止時に前記蓄電池(14)の出力を前記主発電機(11)に代わって給電する制御手段(15)と、を有し、
前記蓄電池(14)を、船底に固定バラストとして配置したことを特徴とする船舶(1)。
【0011】
[2]前記電源装置(10)は、
航行時に、前記主発電機(11)により発電された電力のうち船内負荷(12)を越えた分を前記蓄電池(14)に充電する一方、
非航行時に、前記主発電機(11)の運転を停止し、前記制御手段(15)により前記蓄電池(14)の出力を前記主発電機(11)に代わって給電することを特徴とする[1]に記載の船舶(1)。
【0012】
[3]前記電源装置(10)は、
太陽光エネルギーにより発電する太陽電池(17)をさらに有し、
前記太陽電池(17)により発電された電力は、全て前記蓄電池(14)に充電されることを特徴とする[1]または[2]に記載の船舶(1)。
【0013】
[4]自動車運搬船に適用されることを特徴とする[1],[2]または[3]に記載の船舶(1)。
【0014】
前記本発明は次のように作用する。
前記[1]に記載の船舶(1)によれば、電源装置(10)によって、主発電機(11)により発電された電力が船内負荷(12)に給電され、主発電機(11)により発電された電力のうち船内負荷(12)を越えた分は蓄電池(14)に充電される。そして、主発電機(11)の運転停止時には、制御手段(15)により、前記蓄電池(14)の出力が主発電機(11)に代わって船内負荷(12)に給電される。
【0015】
これにより、比較的小さな船内負荷(12)に対しては、主発電機(11)の運転を停止した状態でも、該主発電機(11)に代わって蓄電池(14)から給電することができる。すなわち、蓄電池(14)の利用により、必要時期に一定量の電力補完を確実に行うことができる、
【0016】
また、蓄電池(14)の利用分だけ、主発電機(11)の運転停止による排出ガスの削減となり、環境負荷を低減することが可能となる。しかも、蓄電池(14)は船底に固定バラストとして配置されるので、船舶(1)のバランスを蓄電池(14)の重量によって安定した状態に保つことができる。
【0017】
前記[2]に記載の船舶(1)によれば、電源装置(10)によって、航行時には主発電機(11)により発電された電力のうち船内負荷(12)を越えた分が蓄電池(14)に充電される。一方、非航行時には、主発電機(11)の運転を停止し、制御手段(15)により蓄電池(14)の出力が主発電機(11)に代わって船内負荷(12)に給電される。
【0018】
これにより、主発電機(11)の稼働が当然必要な航行時においては、その余剰電力を蓄電池(14)に効率良く充電することができる。一方、港湾内での着桟・荷役時等のように非航行時において、船内負荷(12)が比較的小さな場合には、その必要な電力を蓄電池(14)で賄うことが可能となるため、特に人的影響の大きな港湾内での環境に対して十分に配慮することができる。
【0019】
前記[3]に記載の船舶(1)によれば、電源装置(10)は、太陽光エネルギーにより発電する太陽電池(17)をさらに有し、この太陽電池(17)により発電された電力は、全て前記蓄電池(14)に充電される。このように、クリーンなエネルギーを利用した余剰発電分を使って、前記蓄電池(14)への充電を補完することができ、十分な蓄電池(14)の出力を確保することで、非航行時においてより大きな船内負荷(12)への対応も可能とし、さらには非常用発電機を省略することも可能となる。
【0020】
前記[4]に記載の船舶(1)によれば、自動車運搬船に適用する。このような大型の船舶(1)においては、なおさら蓄電池(14)が大型化しても、その重量増加というマイナス面を逆に有効に船底の固定バラストとして活用することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る船舶によれば、電源装置は、主発電機により発電された電力のうち船内負荷を越えた分により充電される蓄電池と、主発電機の運転停止時に蓄電池の出力を主発電機に代わって給電する制御手段と、を有し、前記蓄電池を船底に固定バラストとして配置したから、蓄電池の利用により必要時期に一定量の電力補完を確実に行うことができると共に、その分だけ主発電機の運転停止による排出ガスの削減により環境負荷の低減を可能とし、さらに蓄電池の重量というマイナス面を逆に有効に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係る船舶に装備される電源装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る船舶を模式的に示した側面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る船舶を模式的に示した背面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る船舶における蓄電池の配置の変形例を模式的に示した背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づき本発明を代表する実施の形態を説明する。
図1は、本実施の形態に係る船舶1に装備される電源装置10の概略構成を示すブロック図である。図2は、船舶1を模式的に示した側面図であり、図3は、同じく船舶1を模式的に示した背面図である。以下に、船舶1を自動車運搬船に適用した場合を例に説明する。
【0024】
船舶1である自動車運搬船は、輸出入する自動車を専門に運搬する構造を有した船であり、その船型は一般の船舶とは大きく異なり、図2、図3に示すように、船倉部分は大量の自動車を搭載できるように縦長のずんぐりとした船型となっている。造船業界では、略してPCC(Pure Car Carrier)またはPCTC(Pure Car & Truck Carrier)と言う。
【0025】
図1に示すように、本実施の形態に係る船舶1の電源装置10は、主発電機11により発電された電力のうち船内負荷12を越えた分を充電機器13を介して充電する蓄電池14と、主発電機11の運転停止時に蓄電池14の出力を主発電機11に代わって給電する充電制御器(制御手段)15等を有して成る。なお、電源装置10は、船内の適所に設置されている。
【0026】
主発電機11は、具体的にはディーゼル発電機であり、ディーゼルエンジンで発電機を回して発電させ、その電力を制御して、船内負荷12に給電するものである。船内負荷12は、図示省略した配電盤により、使途別に分けられて、それぞれ必要な電力が給電される。
【0027】
充電機器13は、主発電機11により発電された電力のうち船内負荷12を越えた分を蓄電池14に充電させるものである。蓄電池14は、一般に広く利用されている鉛蓄電池でも良いが、長期耐用の船舶用鉛蓄電池の場合は、大容量および大重量となる。もちろん鉛蓄電池に限られるものではなく、蓄電池は近年自動車産業と結びつき、リチウムイオン電池等の二次電池の急速な技術革新により、蓄電システムの高機能化、軽量化、低価格化が進んでいる。かかる技術環境を踏まえ、全く新しい蓄電池を活用しても良い。
【0028】
ここで蓄電池14は、図2および図3に示すように、船底付近に固定バラストとして配置されている。本実施の形態に係る蓄電池14は、船底におけるほぼ中央の中心線付近に配置されているが、例えば図4に示すように、船底のほぼ中央の左右両側に一対に分けて配置するようにしても良い。なお、船底には図示省略したが、固定バラストを成す蓄電池14とは別に、必要に応じてバラスト水(海水)を注入するタンクが配置されている。
【0029】
充電制御器15は、蓄電池14の充電状況を監視し過剰な放電を防止するための制御手段であり、蓄電池14の出力は充電制御器15によりコントロールされながら、主発電機11に代わって船内負荷12に給電される。また、インバータ16は、蓄電池14より充電制御器15を介して出力される直流電力を交流電力に変換するものである。なお、電源装置10には、蓄電池14を備えたことにより、非常用発電機は装備されていないが、万一の故障等に備えて非常用発電機も別途装備しても良い。
【0030】
また、電源装置10は、太陽光エネルギーにより発電する太陽電池17をさらに有している。太陽電池17は、前記充電制御器15を介して蓄電池14に接続されており、充電制御器15の制御によって、太陽電池17により発電された電力は蓄電池14に充電されるように設定されている。図示省略したが太陽電池17の主要部である平面パネルは、図2に示す船舶1の上甲板上に設置される。
【0031】
次に、船舶1の作用について説明する。
本実施の形態に係る船舶1によれば、電源装置10によって、主発電機11により発電された電力が船内負荷12に給電され、主発電機11により発電された電力のうち船内負荷12を越えた分は蓄電池14に充電される。そして、主発電機11の運転停止時には、充電制御器15による制御の下、前記蓄電池14の出力が主発電機11に代わって船内負荷12に給電される。
【0032】
これにより、比較的小さな船内負荷12に対しては、主発電機11の運転を停止した状態でも、該主発電機11に代わって蓄電池14から給電することができる。すなわち、蓄電池14の利用により、必要時期に一定量の電力補完を確実に行うことができる。また、その分だけ主発電機11の運転停止による排出ガスの削減となり、環境負荷を低減することが可能となる。
【0033】
しかも、図2および図3に示すように、蓄電池14は船底に固定バラストとして配置される。これにより、蓄電池14は、船舶1の安定性向上に積極的に利用されることになる。
【0034】
このような船舶1によれば、湾港内における着桟・荷役時等の非航行時に、主発電機11を使用せずに運転を停止し、蓄電池14に溜めた電力により船内負荷12の必要電力を賄う。ここでの必要電力は、船内の照明や換気等に関わる負荷であるが、蓄電池14の出力が主発電機11に代わって船内負荷12に給電されるため、いわゆる陸電供給を行わなくてもゼロエミッションが実現され、環境に優しいシステムが提供できる。
【0035】
一方、非航行時の必要電力量に見合う容量を有する蓄電池14には、航海中等の航行時に主発電機11により発電された電力のうち船内負荷12を越えた分が充電される。要するに、主発電機11の発電量のうち、船内負荷12への給電分の他、少なくとも一部を蓄電池14の充電に供給すれば足りる。
【0036】
さらに、電源装置10は、太陽光エネルギーにより発電する太陽電池17を有しており、航海中に太陽電池17により発電された電力は、全て蓄電池14に充電される。このように、クリーンなエネルギーを利用した余剰発電分を使って、前記蓄電池14への充電を補完することができ、十分な蓄電池14の出力を確保することで、非航行時においてより大きな船内負荷への対応も可能となり、さらには非常用発電機を省略することも可能となる。
【0037】
特に、船舶1を適用した自動車運搬船は、大型で広い上甲板を有しているため、太陽電池17の主要部である平面パネルの設置面積を十分に確保することが可能となり、なおさら太陽電池17による十分な発電量を獲得することができる。ここで蓄電池14が大型化しても、その重量増加というマイナス面を逆に有効に船底の固定バラストとして活用することができる。
【0038】
次に、最近の大型自動車運搬船を例に採り、定量的な説明を加える。
船舶1の上甲板上における太陽電池17の平面パネルの設置面積を約3330m2と想定すると、太陽光による年間発電期待量は約39万kWh/年(低緯度航行の場合は約47万 kWh/年)となり、航海日数10日では約1.1〜1.3万kWh、20日では2.1〜2.6万kWhとなる。
【0039】
非航行時である着桟・係留・荷役時の必要電力量を、所定の電力表に基づき約33120kWhと想定すると、航海日数10日で必要電力量の約1/3を、航海日数20日で必要電力量の約2/3を太陽電池17による太陽光発電でカバーすることが可能である。なお、太陽電池17の発電電力が不足したとしても、主発電機11からの給電によって蓄電池14には蓄電される。
【0040】
蓄電池14の容量は、現状の鉛蓄電池の性能をベースとすれば92000kWhとなるが、リチウムイオン電池の最近の目標性能をベースにすれば41000kWhとなり、さらに改善が期待される。太陽光発電にプラスして、航海時における主発電機11で補完して蓄電池14に蓄電することにより、前記航海時における必要電力量を確保することができる。
【0041】
以上、本発明の実施の形態を図面によって説明してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。例えば、前記電源装置10では太陽電池17を備えているが、太陽電池17を省いて構成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係る船舶は、特に大型の自動車運搬船に適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1…船舶
10…電源装置
11…主発電機
12…船内負荷
13…充電機器
14…蓄電池
15…充電制御器
16…インバータ
17…太陽電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主発電機により発電された電力を船内負荷に給電する電源装置を備えた船舶において、
前記電源装置は、
前記主発電機により発電された電力のうち船内負荷を越えた分により充電される蓄電池と、
前記主発電機の運転停止時に前記蓄電池の出力を前記主発電機に代わって給電する制御手段と、を有し、
前記蓄電池を、船底に固定バラストとして配置したことを特徴とする船舶。
【請求項2】
前記電源装置は、
航行時に、前記主発電機により発電された電力のうち船内負荷を越えた分を前記蓄電池に充電する一方、
非航行時に、前記主発電機の運転を停止し、前記制御手段により前記蓄電池の出力を前記主発電機に代わって給電することを特徴とする請求項1に記載の船舶。
【請求項3】
前記電源装置は、
太陽光エネルギーにより発電する太陽電池をさらに有し、
前記太陽電池により発電された電力は、全て前記蓄電池に充電されることを特徴とする請求項1または2に記載の船舶。
【請求項4】
自動車運搬船に適用されることを特徴とする請求項1,2または3に記載の船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−79416(P2011−79416A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232994(P2009−232994)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(593172223)今治造船株式会社 (15)