説明

芝生用藻類防除剤

【課題】芝生地に発生する藻類の防除剤ならびにそれを芝生地に施用する藻類の防除方法を提供すること。
【解決手段】銅キレート(好ましくは、エチレンジアミン四酢酸銅二ナトリウムまたはその三水塩)をスラグ砂(好ましくは、SiO2 35〜48%、CaO 35〜45%、MgO 1〜10%およびFeO 0.3〜3%を含むスラグ砂)に担持させてなる芝生地に発生する藻類の防除剤を芝生地に施用することにより藻類を防除することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芝生地に発生する藻類の防除剤、ならびにそれを芝生地に施用する藻類の防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゴルフ場に代表される芝生の植生地においては、農薬の使用制限により、藻類の発生が目立つようになっており、芝生の生育不良や美観の低下が問題となってきている。
かかる問題の対処法としては、従来の殺菌剤、除草剤、殺藻剤の使用のほか、ある種の水溶性重合体の施用、鉄の水溶性硫酸塩の施用、鉄イオンと植物必須イオンとの併用が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−291905
【特許文献2】特開平11−106305
【特許文献3】特開2007−37519
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、水生生物への影響からゴルフ場での農薬の使用が制限されており、また残効性などの点で、これらの手法による藻類の防除は充分とはいえない。殊にゴルフ場のグリーンにおいては、藻類が繁茂すると、グリーンの美観を損ねるばかりでなく、養分や酸素の供給が抑えられ、芝生の生育に悪影響を及ぼす結果となる。また、グリーンでのパッティングクオリティーにも影響すると言われており、プレイヤーからの苦情の一つともなっている。このようなことから、特にグリーンのメンテナンスには、綿密且つ多用な作業を余儀なくされており、より効率的、省力可能な防除剤および防除方法の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる状況の下で、本発明は下記〔1〕〜〔11〕のごとく、ゴルフ場のグリーンなど、芝生地に発生する藻類の防除剤ならびにそれを芝生地に施用する藻類の防除方法を提供する。
〔1〕 銅キレートをスラグ砂に担持させてなる芝生地に発生する藻類の防除剤。
〔2〕 スラグ砂が、水砕化した鋳鉄スラグである前記〔1〕に記載の防除剤。
〔3〕 スラグ砂が、SiO2 35〜48%、CaO 35〜45%、MgO 1〜10%およびFeO 0.3〜3%を含むスラグ砂である前記〔1〕または〔2〕に記載の防除剤。
〔4〕 スラグ砂の粒径が、0.2〜4mmである前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の防除剤。
〔5〕 銅キレートが、エチレンジアミン四酢酸銅二ナトリウムまたはその三水塩である前記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の防除剤。
〔6〕 スラグ砂 100gあたりの銅含量が、0.005〜3gである前記〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の防除剤。
〔7〕 さらにポリビニルアルコール(部分けん化物)を含む前記〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の防除剤。
〔8〕 前記〔1〕〜〔7〕のいずれか1項に記載の防除剤を、芝生地に施用する藻類の防除方法。
〔9〕 防除剤の施用量が、50〜1000g/m2である前記〔8〕に記載の防除方法。
〔10〕 スラグ砂 100gあたりの銅含量が、0.005〜0.5gである前記〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の防除剤を、200〜500g/m2の割合でグリーンに施用する前記〔8〕または〔9〕に記載の防除方法。
〔11〕 スラグ砂 100gあたりの銅含量が、0.5〜3gである前記〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の防除剤を、50〜100g/m2の割合でグリーンに施用する前記〔8〕または〔9〕に記載の防除方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の防除剤は、これを、ゴルフ場で通常使用されている散布機などを用いてゴルフ場のグリーンなどの芝生植生地域に施用することにより、藻類を効率的に防除することができ、また芝生の健全な生育を促進することができることから、ゴルフ場で必要とされている芝生の管理作業の省力化にも繋がる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の防除剤において、スラグ砂(slag sand)としては、鋳鉄用キューポラ炉の溶解工程で発生するスラグを細かく粉砕したものであり、より具体的には、当該スラグを溶融状態から一気に水冷却して得られる水砕化スラグの使用が好ましい。
【0008】
スラグ砂は、SiO2 35〜48%、CaO 35〜45%、MgO 1〜10%およびFeO 0.3〜3%を含むスラグ砂であることが好ましく、またその粒径は、使用場面により変わり得るが、グリーン域の藻類の効率的な防除および芝生の生育促進の点で、0.2〜2mmの範囲、好ましくは0.3〜1.5mmの範囲である。
このような各種スラグ砂は、例えば、キューポラスグリーンとの商品名(株式会社日本グリーンアンドガーデン)で市販されている。
【0009】
また本発明で用いる銅キレートとは、金属銅と多座配位子からなる錯体を指し、かかる多座配位子としては、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)系、HEDTA(ヒドロキシエチルエチレンジアミン四酢酸)系、DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)系などが挙げられ、通常、エチレンジアミン四酢酸銅二ナトリウムやその三水塩が用いられる。これらの各種銅キレートは、例えばクレワット(CLEWAT)やEDTA・Cuなどの商品名(ナガセケムテックス株式会社)で販売されている。
【0010】
このような銅キレートの含有量は、使用場面により変わり得るが、通常、銅含量換算で、スラグ砂 100gあたり0.05〜3gである。
【0011】
本発明の防除剤には、その製剤の安定性を向上させるために、必要に応じ、上記の各成分に加え、粒状農薬に一般的に使用される結合剤を配合することもでき、かかる結合剤としては、α化デンプン、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、キサンタンガム、ポリビニルアルコール(部分けん化物)、ポリアクリル酸ナトリウム塩などが挙げられ、殊に、銅、シリカ、カルシウム、マグネシウム、鉄などの無機成分の徐放化能を有するポリビニルアルコール(部分けん化物)などの徐放化剤の使用が好ましく、かかる結合剤の含有量は、本発明の防除剤 100gあたり0.03〜0.3gである。
【0012】
本発明の防除剤が防除対象とする藻類は、グリーン域に発生するヒビミドロ類等の緑藻類、ユレモ類、ネンジュモ類などの藍藻類が挙げられる。
【0013】
本発明の防除剤の施用量は、目的によっても変わり得るが、50〜1000g/m2であり、より詳しくは、低濃度多量散布により、グリーン域の藻類の効率的な防除および芝生の生育促進を主目的とする場合には、スラグ砂 100gあたりの銅含量が0.005〜0.5gである本発明に係る防除剤を、200〜500g/m2の範囲で1〜2回/月の頻度で施用することが望ましく、また、高濃度少量散布により、グリーン域の藻類の効率的な防除および芝生の生育促進を主目的とする場合は、スラグ砂 100gあたりの銅含量が0.5〜3gである本発明に係る防除剤を、50〜100g/m2の範囲で、シーズン中に1〜2回施用することが望ましい。
【0014】
本発明の防除剤は、上記の市販の銅キレート剤およびスラグ砂、さらに必要に応じ前記結合剤の所定量を、それぞれの使用目的に応じ、混合した後、乾燥することにより調製することができる。
【0015】
本発明の防除剤を、グリーンなどの芝生の植生地域に施用するに際しては、何ら特殊な装置を必要とせず、ゴルフ場で通常使用されている粒状肥料散布機、目土散布機、播種機などを使用することにより、均一且つ簡便に散布することができる。
【実施例】
【0016】
以下、製造例および試験例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0017】
製造例1
市販のスラグ砂(キューポラスグリーン:粒径 0.3〜0.8mm) 100gに、市販の銅キレート(クワレットCu:銅として5.5%含有) 10mLを加え、かき混ぜながら水を蒸発させ、本発明の防除剤を得た。
【0018】
製造例2
市販のスラグ砂(キューポラスグリーン:粒径 0.3〜0.8mm) 100gに、市販の銅キレート(クワレットCu:銅として5.5%含有) 1mLを加え、かき混ぜながら水を蒸発させ、本発明の防除剤を得た。
【0019】
製造例3
市販のスラグ砂(キューポラスグリーン:粒径 0.3〜0.8mm) 100gに、市販の銅キレート(EDTA・Cu:銅として約13%含有) 20g及び市販のPVA(日本合成化学工業株式会社製、ゴーセノール GL05:15%溶液) 0.3mLを加え、かき混ぜながら水を蒸発させ、本発明の防除剤を得た。
【0020】
製造例4
市販のスラグ砂(キューポラスグリーン:粒径 0.3〜0.8mm) 100gに、市販の銅キレート(EDTA・Cu:銅として約13%含有) 10g及び市販のPVA(日本合成化学工業株式会社製、ゴーセノール GL05:15%溶液) 0.3mLを加え、かき混ぜながら水を蒸発させ、本発明の防除剤を得た。
【0021】
製造例5
市販のスラグ砂(キューポラスグリーン:粒径 0.3〜0.8mm) 100gに、市販の銅キレート(EDTA・Cu:銅として約13%含有) 4g及び市販のPVA(日本合成化学工業株式会社製、ゴーセノール GL05:15%溶液) 0.3mLを加え、かき混ぜながら水を蒸発させ、本発明の防除剤を得た。
【0022】
製造例6
市販のスラグ砂(キューポラスグリーン:粒径 0.3〜0.8mm) 100gに、市販の銅キレート(EDTA・Cu:銅として約13%含有) 2g及び市販のPVA(日本合成化学工業株式会社製、ゴーセノール GL05:15%溶液) 0.3mLを加え、かき混ぜながら水を蒸発させ、本発明の防除剤を得た。
【0023】
製造例7
市販のスラグ砂(キューポラスグリーン:粒径 0.3〜0.8mm) 100gに、市販の銅キレート(EDTA・Cu:銅として約13%含有) 1g及び市販のPVA(日本合成化学工業株式会社製、ゴーセノール GL05:15%溶液) 2mLを加え、かき混ぜながら水を蒸発させ、本発明の防除剤を得た。
【0024】
試験例1
直径10cmの植木鉢に、芝生(ベントグラス)を栽培した。それぞれの鉢に、製造例1及び2で製造した本発明の防除剤を4gずつ散布した。対照として、銅キレート・クレワットCuの水希釈液(100倍液および1000倍液、各5L/m2)(対照例1および2とする)、農薬(ダニコールFL:500倍液、1L/m2、3回処理)(対照例3とする)、スラグ砂(4g散布、対照例4とする)、無処理(対照例5とする)区を設け、藻類増殖の状態を約1年間観察した。
その結果を、表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
試験例2
直径10cmの植木鉢に、芝生(ベントグラス)を栽培した。それぞれの鉢に、製造例3及び4で製造した本発明の防除剤 0.8gずつ散布した。対照として、スラグ砂(0.8g散布、対照例6とする)区を設け、藻類増殖の状態および芝生の葉の成長状況を約3ヶ月間観察した。
その結果を、表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
試験例3
直径10cmの植木鉢に、芝生(ベントグラス)を栽培した。それぞれの鉢に、製造例7で製造した本発明の防除剤およびスラグ砂(対照例7とする)をそれぞれ2.4g散布した。18日後に芝生を刈り取り、芝生表面の藻類増殖の状態を観察した。観察後、同量の供試剤を追加散布し、その12日後に再び芝生を刈り取り、芝生表面の藻類増殖の状態を観察した。
その結果を、表3に示す。
【0029】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅キレートをスラグ砂に担持させてなる芝生地に発生する藻類の防除剤。
【請求項2】
スラグ砂が、水砕化した鋳鉄スラグである請求項1に記載の防除剤。
【請求項3】
スラグ砂が、SiO2 35〜48%、CaO 35〜45%、MgO 1〜10%およびFeO 0.3〜3%を含むスラグ砂である請求項1または2に記載の防除剤。
【請求項4】
スラグ砂の粒径が、0.2〜4mmである請求項1〜3のいずれか1項に記載の防除剤。
【請求項5】
銅キレートが、エチレンジアミン四酢酸銅二ナトリウムまたはその三水塩である請求項1〜4のいずれか1項に記載の防除剤。
【請求項6】
スラグ砂 100gあたりの銅含量が、0.005〜3gである請求項1〜5のいずれか1項に記載の防除剤。
【請求項7】
さらにポリビニルアルコール(部分けん化物)を含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の防除剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の防除剤を、芝生地に施用する藻類の防除方法。
【請求項9】
防除剤の施用量が、50〜1000g/m2である請求項8に記載の防除方法。
【請求項10】
スラグ砂 100gあたりの銅含量が、0.005〜0.5gである請求項1〜6のいずれか1項に記載の防除剤を、200〜500g/m2の割合でグリーンに施用する請求項8または9に記載の防除方法。
【請求項11】
スラグ砂 100gあたりの銅含量が、0.5〜3gである請求項1〜6のいずれか1項に記載の防除剤を、50〜100g/m2の割合でグリーンに施用する請求項8または9に記載の防除方法。

【公開番号】特開2010−202566(P2010−202566A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48979(P2009−48979)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(393000928)株式会社日本グリーンアンドガーデン (11)
【Fターム(参考)】