説明

花粉破裂抑制方法

【課題】花粉の破裂を抑制できる技術を提供する。
【解決手段】濁度測定法にて測定するペクチン水溶液の濁度が0.1以上の水溶液の多価金属塩(A)を含有する組成物を、花粉と接触させることを特徴とする花粉破裂抑制方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は花粉破裂抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スギ花粉の大量飛散とディーゼルエンジン排ガス由来の大気汚染が原因と考えられている花粉症が社会問題化している。窓の開閉や外出時の衣服によって屋外の花粉が室内へと持ち込まれ、近年の住宅は気密性が高い事から、持ち込まれた花粉は蓄積していく。持ち込まれた花粉に対して鼻腔内等でのアレルゲン溶出を抑制すれば、住環境内での快適性は一段と増すものであると考えられる。
【0003】
花粉をケアする第一の方法としては、特許文献1〜7に記載の如く特定のアレルゲン不活化成分とアレルゲン物質を接触させて花粉アレルゲンを不活化させる方法等が知られている。
花粉をケアする第二の方法としては、特許文献8に記載の如く特定のカチオン性界面活性剤により花粉を破壊しアレルゲンを強制的に溶出させ不活化させる方法が知られている。
花粉をケアする第三の方法としては、特許文献9〜11に記載の如く鼻腔内に侵入した花粉の破裂を防止し、アレルゲンの溶出が抑制されている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−16941号公報
【特許文献2】特開2002−128680号公報
【特許文献3】特開平6−279273号公報
【特許文献4】特開2000−264837号公報
【特許文献5】特開2003−334240号公報
【特許文献6】特開2001−247467号公報
【特許文献7】特許公表2004−510717号公報
【特許文献8】特開平9−157152号公報
【特許文献9】特開平7−258070号公報
【特許文献10】特開2000−109425号公報
【特許文献11】特開2001−240547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記第一の方法では、これらアレルゲン不活化成分と花粉を接触させることによって、花粉表面に存在するアレルゲンを不活化できたとしても、花粉アレルゲンは花粉内部にも存在し、これが鼻腔内部で鼻汁と接触することで破裂しアレルゲンが放出されるといった挙動をとることから、これらアレルゲン不活化方法の効果は不充分である。
前記第二の方法は、住環境内外での処理を想定した場合、噴霧した処理液が短時間で乾燥する為、2段階の工程(工程1:花粉を破裂させる、工程2:溶出したアレルゲンを不活化させる)が瞬時に行われる場面でしか効果が発揮できない。
前記第三の方法は、住環境内外の花粉をケアするには最も有効であると考えられるが、該公報は何れも鼻腔内洗浄時に特定成分を花粉と接触させる事で効果を発現するものであり、鼻腔外に存在する花粉に対しては有効な効果は見出せなかった。
従って、本発明においては、住環境内外で花粉を処理することで、鼻腔中、目の角・結膜表面又は、口腔内等での花粉の破裂を抑制できる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定の多価金属塩で花粉を処理することで、優れた花粉破裂抑制効果が得られることが明らかとなり、本発明に至った。
【0007】
前記課題を解決するために本発明においては以下の手段を提案する。
濁度測定法にて測定するペクチン水溶液の濁度が0.1以上の水溶性の多価金属塩(A)を含有する組成物を、花粉と接触させることを特徴とする花粉破裂抑制方法である。
花粉破裂抑制方法においては、前記組成物を、繊維類に付着した花粉および/または住環境に存在する花粉に噴霧することが好ましい。
また、花粉破裂抑制方法においては、前記多価金属塩(A)がアルミニウム、亜鉛、鉄、スズ、チタン、銅、ニッケル及びコバルトから選ばれる1種以上の金属の塩であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明においては、主に、鼻腔中、目の角・結膜表面又は、口腔内等での花粉の破裂を抑制できる技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、濁度測定法にて測定するペクチン水溶液の濁度が0.1以上の水溶性の多価金属塩(A)を含有する組成物(以下、「本組成物」ということがある)を、花粉と接触させることを特徴とする花粉破裂抑制方法である。すなわち、多価金属塩(A)は花粉破裂抑制剤として作用する。
【0010】
本組成物は、水、他の任意成分と共に(A)成分を添加し、混合し、溶解することにより得ることができる。
【0011】
「濁度測定法にて測定するペクチン水溶液の濁度が0.1以上の水溶性の多価金属塩(A)」
水溶性とは、25℃の水100gへの溶解量が0.1g以上であることを示す。+
【0012】
「濁度測定法にて測定するペクチン水溶液の濁度」は以下の様にして求める。
1質量%濃度のペクチン水溶液2mLに、0.2質量%濃度の多価金属塩水溶液2mLを25℃で添加して攪拌する。
ペクチンは、製品名:GENU pectin type LM-102AS-J[ゲニュー株式会社製]を用いる。
この溶液に蒸留水4mL添加して、濁度計を用いて、660nmにおける吸光度、すなわち濁度を測定する。濁度計は、製品名:SPECTRONIC 20+ [Spectronic Instruments社製]を用いる。測定容器は外径約18mmで内径約16mmの試験管を用いる。
なお、濁度の測定値において、純水をブランクとしてその場合の濁度を0とし、試験管を取り出して遮光した状態の濁度を無限大とする。
前記の方法により得られた前記多価金属塩水溶液の濁度を上記「濁度測定法にて測定するペクチン水溶液の濁度」(以下、「濁度」と略記する)とする。
【0013】
本発明においては、(A)成分の濁度が大きい程、花粉を破裂抑制する効果が高いためため好ましい。濁度は0.1以上であることが必要であり、より好ましくは0.2以上であり、さらに好ましくは0.4以上である。上限値は特に限定するものではないが、実質的には2以下(好ましくは2.0以下)とされる。
【0014】
(A)成分は、アルミニウム、亜鉛、鉄、スズ、チタン、銅、ニッケル及びコバルトから選ばれる1種以上の金属塩であることが好ましい。塩を形成する対イオンとしては、Cl、SO2−などが挙げられる。
これらの中でも、アルミニウム、亜鉛、鉄の塩が好ましく、例えば塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、明礬、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、などが挙げられる。
そして特に好ましいのはアルミニウムの塩であり、例えば塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、アルミニウム明礬を挙げることができ、塩化アルミニウムが好ましい。
(A)成分は1種または2種以上混合して用いることができる。
【0015】
(A)成分の組成物中の配合量は、例えば0.01〜40質量%、好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは0.5〜5質量%とされる。下限値以上とすることにより効果が向上する。上限値以下にすることにより、コストの点で有利である
【0016】
「任意成分」
本組成物には、水と(A)成分の他に、以下に例示する様な任意成分を配合することができる。
本組成物のpHは、効果の点から、中性か酸性であることが好ましく、好ましくはpH1〜7、より好ましくは3.0〜6.0、特に4.0〜6.0の範囲である。この範囲にすることにより、(A)成分が花粉に均一に作用し易い。
pHは硫酸、水酸化ナトリウム(通常水溶液で用いる)等のpH調整剤を1種または2種以上用いて調整することができる。
また、この他に本組成物に配合可能な任意成分を以下に例示する。それぞれの成分は1種または2種以上混合して用いることができる。
ただし、クエン酸、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)などのキレート能の高いキレート剤は、本発明の効果を低下させることがあるので、悪影響しない程度に配合することが好ましく、前記キレート剤は、実質的に本組成物中に含有しないことがより好ましい。
(1) ノニオン、カチオン、アニオン界面活性剤
(2) シリコーン化合物、変性シリコーン化合物
(3) ポリエチレングリコール
(4)メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール
(5)グリコール系溶剤等の皮膜形成防止剤
(6)パラトルエンスルホン酸ナトリウム、キュメンスルホン酸ナトリウム、エタノール等の低温安定化剤
(7)カルボキシルメチルセルロース、ポリエチレンイミン誘導体等の再汚染防止剤
(8)プロテアーゼ、リパーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ等の酵素製剤
(9)ジスチルビフェニル型蛍光剤等の蛍光剤
(10)ジブチルヒドロキシトルエン等の酸化防止剤
(11)ケーソンCG/ICP等の抗菌剤
(12)溶剤、及び安定化剤を含有する香料組成物等の香料
【0017】
本発明において、(A)成分を含む本組成物を花粉に接触させ、好ましくは乾燥させる。すると、花粉が体内に取り込まれても、鼻腔中、目の角・結膜表面又は、口腔内での該花粉の破裂を抑制することができる。
【0018】
「適用例」
花粉破裂抑制方法は、洗浄剤、繊維処理剤といった雑貨のほか、化粧品、医薬部外品、医薬品などを使用する各種の場面に適用するこができる。
また、付着などした花粉を処理する対象である被処理物は、住環境外に存在するものや住環境内に存在するものであってもよい。ここで、住環境とは人が存在する閉鎖空間に相当するもの全体を指し、いわゆる住居(家、ビルなど)の他、車なども含むものとする。
具体的には、住環境内で適用する場合、その対象は住環境(住居)を構成する壁面、床等へ散布、繊維製品、家具、玩具、ぬいぐるみなどへの噴霧などのあらゆるものが挙げられる。また、空気中の浮遊花粉を処理するために、住環境内の空間に散布することもできる。
住環境外で適用する場合、その対象はスギ雄花やヒノキ雄花へ直接噴霧、スギ山林、ヒノキ山林へヘリコプターからの散布などのあらゆるものが挙げられる。スギ等の立ち木や山林に散布する場合には、受粉抑制の目的でも使用できる。
また、風の強い日のポレンクラウドなどの空気中の浮遊花粉を処理するために、住環境外の空間に散布することもできる。
【0019】
(A)成分を含む組成物を花粉に接触させる方法としては、具体的には、
(i)本組成物を、花粉に対して噴霧する方法
(ii)本組成物を、花粉の付着した場所に噴霧する方法
(iii)花粉をつけた植物に噴霧する方法
などが挙げられる。
また、
(iV)洗浄時に本組成物を花粉に接触させることもできる。
例えば洗浄液中に(A)成分または(A)成分を溶解した本組成物を添加し、洗浄する方法、すすぎ液に(A)成分または(A)成分を溶解した本組成物を添加してすすぐ方法などが挙げられる。
【0020】
より具体的には、前記(i)としては、本組成物を、エアゾール、ディスペンサー容器などのスプレーに詰めて、花粉に噴霧する方法が挙げられる。さらに具体的には、例えば、消臭剤、抗菌・抗カビ剤、殺虫剤、ダニ忌避剤、殺ダニ剤、除湿剤、空中散布剤、芳香剤に配合しておき、これを噴霧する方法である。
前記(ii)としては、本組成物を不織布、紙、織物、布製品、シート、スポンジ、綿棒、モップなどの掃除用具に付着や吸収させて、これを用いて対象物をふく方法、お掃除液に(A)成分を含む本組成物を配合し、これを用いて対象物をふく方法が挙げられる。
前記(iii)としては、スギ山林、ヒノキ山林へ、本組成物をヘリコプターから散布する方法や、花木の種苗を育成する際、受粉をコントロールするために、特定の植物に本組成物を噴霧する方法が挙げられる。
前記(iV)としては、洗剤、すすぎ剤、繊維処理剤、柔軟剤、などの洗浄に用いるものに多価金属塩(A)を含む本組成物を配合しておき、これを用いて洗浄を行う方法が挙げられる。
【0021】
本発明においては、特に繊維類に付着した花粉および/または住環境に存在する花粉に噴霧することが、特に効果的であり、好ましい。
例えば、繊維製品や住環境へのスプレー製品に多価金属塩(A)を含む本組成物を用いると好ましい。
【0022】
また、本組成物を、空調機、空気清浄機、除湿機、乾燥機、換気装置等のフィルター、マスク等に付着させて、もしくは含浸させて使用することもできる。上記フィルター、マスク等の表面で本組成物が乾燥する可能性もあるので、吸水性および/または吸湿性を有する物質および/または水分等の液体を補給する装置を併用するなどして、空気中の湿気や水分等の液体がフィルター、マスク等に補給されるように構成することが好ましい。
【0023】
また、本発明は特にスギ、ヒノキの花粉の処理に適している。
【0024】
花粉の破裂を抑制することができる作用は定かではないが、以下の様に推測することができる。
花粉の殻は複数層から形成され、その中にはペクチンを含有する層がある。そして、殻には水が入る隙間がある。花粉内部に水分が浸透すると内部が膨張し、殻が破れることによって花粉内部が露出する、すなわち破裂することが考えられる。花粉が破裂することにより、殻の内部のアレルゲンが放出される。
ところが、花粉を純水中に投入しても花粉は容易に破裂しない。しかし、鼻汁などの体液中に投入すると花粉は容易に破裂する。純水は花粉の殻内に浸入し難く、鼻汁などの体液は殻の隙間を通ってその内部に容易に侵入すると考えられる。
ペクチンと反応させるとその濁度が大きくなる(A)成分は、花粉の殻に存在するペクチンに作用し、ペクチン間を架橋させることが考えられる。そして、その架橋によって強固なペクチン層が形成されて殻が強固となり、花粉の破裂を防いでいると考えられる。
【実施例】
【0025】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、組成についての単位「%」は特に断りがない限り「質量%」である。
【0026】
(試験例1〜12、比較試験例1〜3)
表1に示す各種多価金属塩について、その濁度を測定した。結果を表1に示す。
なお、多価金属塩において、陰イオンの種類を変えてもその濁度に差は見られなかった。
【0027】
【表1】

【0028】
(実施例1〜6、比較例1〜3)
表1に示した結果から、濁度0.1以上のもの(実施例1〜6)と、濁度0.1以下のもの(比較例1〜3)を分別した。そして、表2に示す各種多価金属塩について、水を加えて濃度1%の組成物とし、これを「評価試料」とした。スギ花粉は、神奈川県南足柄市に植林されて生育したスギより採取したものを用いた。そして、そのスギ花粉の破裂抑制率を下記の方法で求めた。結果を表2に示す。
なお多価金属塩において、陰イオンの種類を変えてもその破裂抑制率に差は見られなかった。
【0029】
「スギ花粉の破裂抑制効果の評価」
以下の方法にしたがって花粉破裂抑制効果を評価した。
【0030】
「評価試料」10mLにスギ花粉100mgを添加し、常温にて5分間静置後、300rpmで5分間遠心分離した。沈殿物を取り出しさらにろ過し、その花粉を25℃、湿度60%で15時間乾燥した。
人工鼻汁液(Na(0.2678%)+K(0.1%)+Ca2+(0.003%)+Mg2+(0.0015%)+Cl(0.5606%)を含みアンモニアでpH9に調整した水溶液)0.5mLにこの処理した花粉を約0.6mgを添加し、37℃にて5分間放置し、このときに破裂している花粉の数と、破裂していない花粉の数を計測した。
なお花粉の数の計測は、評価試料をマイクロスコープで拡大写真(200倍)を撮影し、目視で測定した。マイクロスコープとしては、VH−7000(製品名)[キーエンス社製]を用いた。
以上のようにして測定した花粉の数から、下記式に基づいて破裂していない花粉の割合を算出した。
花粉破裂抑制率(%)=(破裂していない花粉数/(破裂した花粉数+破裂していない花粉数))×100
【0031】
【表2】

【0032】
表2の結果より、本発明の実施例では花粉の破裂を抑制する効果が高いことが確認できた。
なお、実際の鼻水でも花粉破裂が抑制され、鼻腔内でも同様な効果が得られた。
【0033】
(実施例7〜9、比較例4)
表2に示した結果から、破裂抑制率の異なる各種多価金属塩を選んだ。そして表3に示す配合組成で、バランス量の水を加えるとともに、材料を混合してこれを「評価試料」とした。なお表3において、配合単位は「質量%」であり、配合量の合計は100質量%である。そして、そのスギ花粉の破裂抑制率を上記の「スギ花粉の破裂抑制率の評価」方法で求めた。結果を表3に示す。
評価基準:破裂抑制率70%以上は○、破裂抑制率40%以上70%未満は△、破裂抑制率40%未満は×
【0034】
【表3】

【0035】
*1 「ポリエーテルシリコーン」:下記化学式で示される構造をもつ実験室合成品
【0036】
【化1】

【0037】
表3の結果より、本発明の実施例では花粉の破裂を抑制する効果が高いことが確認できた。
なお、実際の鼻水でも花粉破裂が抑制され、鼻腔内でも同様な効果が得られた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
濁度測定法にて測定するペクチン水溶液の濁度が0.1以上の水溶性の多価金属塩(A)を含有する組成物を、花粉と接触させることを特徴とする花粉破裂抑制方法。
【請求項2】
請求項1に記載の花粉破裂抑制方法において、前記組成物を、繊維類に付着した花粉および/または住環境に存在する花粉に噴霧する花粉破裂抑制方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の花粉破裂抑制方法において、
前記多価金属塩(A)がアルミニウム、亜鉛、鉄、スズ、チタン、銅、ニッケル及びコバルトから選ばれる1種以上の金属の塩である花粉破裂抑制方法。


【公開番号】特開2006−169694(P2006−169694A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−366652(P2004−366652)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】