説明

芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、及びその成形体

【課題】環境負荷の少ない非ハロゲン系・非リン系の化合物による芳香族ポリカーボネート樹脂の難燃化において、芳香族ポリカーボネート樹脂の優れた透明性を損なわずに、薄肉成形品とした場合も十分な難燃性を有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、金属塩化合物0.0001〜1重量部と、下記式(X)を満たすシリコーン化合物0.001〜3重量部とを含有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
2.5 ≦ ケイ素−炭素結合の数/ケイ素原子の数 ≦ 3 (X)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に関するものである。詳しくは、優れた透明性と難燃性とを兼備する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物と、これを成形してなる芳香族ポリカーボネート樹脂成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、耐熱性、機械物性、電気的特性に優れた樹脂であり、自動車材料、電気・電子機器材料、住宅材料等に幅広く利用されている。特に、難燃化された芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、コンピューター、ノートブック型パソコン、携帯電話、プリンター、複写機等のOA・情報機器の部材の構成材料として使用されている。
【0003】
また、芳香族ポリカーボネート樹脂の持つ高い光線透過率や低いヘーズに代表される優れた光学特性を活かして、芳香族ポリカーボネート樹脂は各種照明カバー、透過型ディスプレイ用保護カバーや、意匠面から透明部材によるハウジングを用いるような電気・電子機器等の、高い透明性が要求されるような用途に幅広く利用されている。
【0004】
一方で、これらの分野においては一般に、火災時の難燃性についても重視されているが、近年の製品・部材の軽量化・小型化に伴い、より高度な難燃性(薄肉難燃性)が要求されている。
【0005】
芳香族ポリカーボネート樹脂に難燃性を付与する手段としては、ハロゲン系、リン系、シリコーン化合物系、無機系、金属塩系の難燃剤、難燃助剤を配合する方法が試みられているが、近年、火災発生時や焼却処分時に有害なガスを発生することのない、安全で、かつ環境負荷の少ない難燃剤として、金属塩系難燃剤が有用な難燃剤として数多く検討されている。
【0006】
金属塩系難燃剤を用いて芳香族ポリカーボネート樹脂に難燃性を付与する手法としては、中でも、パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩を用いる手法や、芳香族スルホン酸の金属塩を用いる手法(例えば、特許文献1、2参照)等の提案がなされている。
【0007】
しかしながら、上述のような金属塩化合物単独で得られる難燃性には限界があり、特に薄肉成形体とした場合は、燃焼時の滴下を抑えることが難しく、消炎効果も不十分であり、満足するレベルの難燃性は得られないという課題を有していた。
【0008】
シリコーン化合物による芳香族ポリカーボネート樹脂の難燃化も試みられているが(例えば、特許文献3参照)、一般に使用される高分子量のシリコーン化合物(ポリガノシロキサン)は、少量添加しただけで、芳香族ポリカーボネート樹脂の透明性を阻害してしまうという致命的な欠点を有していた。
【0009】
一方、透明性を改善する方法としては、芳香族ポリカーボネートとの相容性に優れたシリコーン化合物を用いる方法(例えば、特許文献4参照)や特定のシラン化合物を用いる方法(例えば、特許文献5参照)等が提案されているが、このようなシリコーン化合物単独では、燃焼時間を短くする効果が十分に得られず、芳香族ポリカーボネートに高い難燃性を付与するには不十分であった。さらに、添加量が多くなる為、樹脂組成物の混練・成形時にガスが多量に発生する、樹脂成形体の外観が悪い、表面がべたつく、芳香族ポリカーボネート樹脂本来の良好な機械物性や熱物性等の諸物性も大幅に失われる、という様々な問題点も有していた。
【0010】
このような、課題に対し、燃焼時の滴下を抑制する為に、金属塩化合物とシリコーン化合物を同時に配合する手法が提案されている。例えば、特許文献6では、芳香族ポリカーボネート樹脂とパーフルオロアルカンスルホン酸アルカリ金属塩とアルコキシ基、ビニル基、及びフェニル基を有するシリコーン化合物からなる樹脂組成物が提案されている。
【0011】
また、例えば、特許文献7では、芳香族ポリカーボネート樹脂と有機アルカリ金属塩とエポキシ基を含有するシリコーン化合物からなる樹脂組成物が提案されている。
【0012】
さらに、有機/無機ブレンステッド酸アルカリ金属塩と特定のシラン化合物とを配合する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物(特許文献8参照)も提案されている。
【0013】
しかしながら、上述のような樹脂組成物では何れの場合も、透明性を示す指標であるヘイズ(濁度)が未だ大きく、実際には目視で白濁が確認できるレベルであり、高い透明性が要求される部材には到底使用できるものではなかった。
【0014】
また、芳香族ポリカーボネート樹脂とパーフルオロアルカンスルホン酸金属塩と特定の環状シロキサンとからなる樹脂組成物(例えば、特許文献9参照)も提案されているが、このような組成物も、金属塩化合物や、シリコーン化合物の添加量を少量とした場合は透明性に優れる傾向にあるものの、難燃性のレベルは低下する傾向にあり、さらに、中でも高い難燃性が得られる組成とした場合も、近年要求されるような高度な難燃性(具体的には厚さ1.6mm以下の成形体とした場合における米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)規格94に基づくV−0を達成できる難燃性)を得ることは困難であった。
【0015】
このように、従来においては、高い透明性と薄肉難燃性を同時に満足する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は未だ得られていないのが実状である。
【特許文献1】特開2000−169696号公報
【特許文献2】特開2001−181493号公報
【特許文献3】特公昭62−60421号公報
【特許文献4】特開2001−152005号公報
【特許文献5】特公平7−47687号公報
【特許文献6】特許第2719486号公報
【特許文献7】特許第3163596号公報
【特許文献8】特許第3503095号公報
【特許文献9】特表2003−531940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、環境負荷の少ない非ハロゲン系・非リン系の化合物による芳香族ポリカーボネート樹脂の難燃化において、芳香族ポリカーボネート樹脂の優れた透明性を損なわずに、薄肉成形品とした場合も十分な難燃性を有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物及び芳香族ポリカーボネート樹脂成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上述の課題に鑑み、芳香族ポリカーボネート樹脂と金属塩化合物とシリコーン化合物の配合物において、添加するシリコーン化合物の有機基と透明性及び難燃性の関係について鋭意検討した。
その結果、芳香族ポリカーボネート樹脂、金属塩化合物及びシリコーン化合物で構成される樹脂組成物において、特定の有機基量を持つシリコーン化合物、具体的には、ケイ素−炭素結合の数をケイ素原子の数で除した値が、2.5以上3以下であるシリコーン化合物を用いることによって、分散性、燃焼時の発泡性に優れ、その結果高度な透明性、難燃性を同時に有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0018】
即ち、本発明の第1の要旨は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、金属塩化合物0.0001〜1重量部と、下記式(X)を満たすシリコーン化合物0.001〜3重量部とを含有することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、に存する。
2.5 ≦ ケイ素−炭素結合の数/ケイ素原子の数 ≦ 3 (X)
【0019】
上記芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対するシリコーン化合物の含有量は、0.005〜2重量部であることが好ましい(請求項2)。
【0020】
また、上記シリコーン化合物は、全一価有機基中、フェニル基の占める割合が、50モル%以上のシリコーン化合物であっても良く(請求項3)、下記一般式(1)及び/又は(2)で表されるものであってもよい(請求項4)。
【0021】
【化1】

(式中、Rは一価の炭化水素基を示し、複数のRは互いに同一であっても、異なっていてもよい。Aは、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、又はアリールオキシ基を表す。)
【0022】
【化2】

(式中、Rは一価の炭化水素基を示し、複数のRは互いに同一であっても、異なっていてもよい。nは、0〜2の整数である。)
【0023】
また、上記シリコーン化合物は、トリフェニルシラノール及び/又は1,1,3,5,5−ペンタフェニル−1,3,5−トリメチルトリシロキサンであってもよい(請求項5)。
【0024】
上記金属塩化合物は有機酸のアルカリ金属塩化合物及び/又はアルカリ土類金属塩化合物(請求項6)、特にパーフルオロアルカンスルホン酸アルカリ金属塩及び/又は芳香族スルホン酸アルカリ金属塩であることが好ましい(請求項7)。
【0025】
また、上記芳香族ポリカーボネート樹脂は、溶融エステル交換法によって製造された芳香族ポリカーボネート樹脂であることが好ましい(請求項8)。
【0026】
本発明の第2の要旨は、上述の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂成形体、に存する。
【0027】
この芳香族ポリカーボネート樹脂成形体としては、照明器具用部材、又は電気・電子機器の外装部品が挙げられる(請求項10)。
【発明の効果】
【0028】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂の優れた透明性を損なわずに、薄肉成形品とした場合も十分な難燃性を有する。このような特長を有する本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、幅広い分野に適用することが期待できる。
【0029】
具体的には、電気・電子機器やその部品、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器などの各種用途に有用であり、特に電気・電子機器やOA機器、情報端末機器、家電製品のコネクター、基盤部品、電装部品のみならず、筐体、カバー部材、車輌外装・外板部品、内装部品、への適用が期待できる。
【0030】
このうち、電気・電子機器やOA機器、情報端末機器、家電製品のハウジング、カバー部材としては、より具体的にはパソコン、ゲーム機、テレビなどのディスプレイ装置、プリンター、コピー機、スキャナー、ファックス、電子手帳やPDA、電子式卓上計算機、電子辞書、カメラ、ビデオカメラ、携帯電話、電池パック、記録媒体のドライブや読み取り装置、マウス、テンキー、CDプレーヤー、MDプレーヤー、携帯ラジオ・オーディオプレーヤー等のハウジング、カバー、キーボード、ボタン、スイッチ部材が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明を更に詳細に説明する。尚、各種化合物が有する「基」は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、置換基を有していてもよいことを意味する。また、「(共)重合」とは「重合及び/又は共重合」を意味し、「アルカリ(土類)金属」とは「アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属」を意味する。
【0032】
[芳香族ポリカーボネート樹脂組成物]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、金属塩化合物0.0001〜1重量部と、特定のシリコーン化合物0.001〜3重量部とを含有するものである。
【0033】
{芳香族ポリカーボネート樹脂}
本発明における、芳香族ポリカーボネート樹脂は、具体的には、芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体、又はこれらに併せて少量のポリヒドロキシ化合物等を反応させてなる、直鎖又は分岐の熱可塑性芳香族ポリカーボネート(共)重合体である。
【0034】
本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂等のポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂単独(ポリカーボネート樹脂単独とは、ポリカーボネート樹脂の1種のみを含む態様に限定されず、例えば、モノマー組成や分子量が互いに異なる複数種のポリカーボネート樹脂を含む態様を含む意味で用いる。)や、ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂とのアロイ(混合物)の他、例えば、本発明の目的である難燃性を更に高める目的で、シロキサン構造を有するオリゴマー又はポリマーとの共重合体等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体をも含むものである。
【0035】
本発明における芳香族ポリカーボネート樹脂は、特に限定されるものではなく、従来公知の任意のものを使用できる。またその製造方法も任意であり、従来公知の任意の方法を採用できる。例えば、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマ−の固相エステル交換法等を挙げることができる。
【0036】
本発明において、芳香族ポリカーボネート樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0037】
<芳香族ジヒドロキシ化合物>
芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法において原料として使用される芳香族ジヒドロキシ化合物としては、具体的には次のようなものが挙げられる。
【0038】
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノ−ルA)、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=テトラブロモビスフェノ−ルA)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1−トリクロロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサクロロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン等のビス(ヒドロキシアリ−ル)アルカン類;
【0039】
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等のビス(ヒドロキシアリ−ル)シクロアルカン類;
【0040】
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等のカルド構造含有ビスフェノ−ル類;
【0041】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルエ−テル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエ−テル等のジヒドロキシジアリ−ルエ−テル類;
【0042】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリ−ルスルフィド類;
【0043】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリ−ルスルホキシド類;
【0044】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリ−ルスルホン類;
【0045】
ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル等:
【0046】
これらの中でも、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、特に耐衝撃性の点から2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノ−ルA)が好ましい。
【0047】
これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0048】
<カ−ボネ−ト前駆体>
芳香族ジヒドロキシ化合物と反応させるカ−ボネ−ト前駆体としては、カルボニルハライド、カ−ボネ−トエステル、ハロホルメ−ト等が使用される。より具体的には、ホスゲン;ジフェニルカ−ボネ−ト、ジトリルカ−ボネ−ト等のジアリ−ルカ−ボネ−ト類;ジメチルカ−ボネ−ト、ジエチルカ−ボネ−ト等のジアルキルカ−ボネ−ト類;二価フェノ−ルのジハロホルメ−ト等が挙げられる。
これらのカ−ボネ−ト前駆体もまた、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0049】
<界面重合法>
芳香族ポリカーボネート樹脂を界面重合法で製造する場合、反応に不活性な有機溶媒、及びアルカリ水溶液の存在下で、通常反応系をpH9以上に保ち、芳香族ジヒドロキシ化合物と、必要に応じて分子量調整剤(末端停止剤)および芳香族ジヒドロキシ化合物の酸化防止のための酸化防止剤を用い、ホスゲンと反応させた後、第三級アミン又は第四級アンモニウム塩等の重合触媒を添加して、界面重合を行うことによって芳香族ポリカーボネート樹脂を得る。
【0050】
分子量調節剤の添加時期は、ホスゲン化反応時から重合反応開始時までの間であれば特に限定されない。
なお、反応温度は、通常0〜40℃程度で、反応時間は、通常数分(例えば、10分)〜数時間(例えば、6時間)程度である。
【0051】
反応に不活性な有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素等;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等;が挙げられる。
また、アルカリ水溶液に用いられるアルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物が挙げられる。
これらはいずれも、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0052】
分子量調節剤としては、例えば一価のフェノ−ル性水酸基を有する化合物が挙げられ、具体的には、m−メチルフェノ−ル、p−メチルフェノ−ル、m−プロピルフェノ−ル、p−プロピルフェノ−ル、p−tert−ブチルフェノ−ル、及びp−長鎖アルキル置換フェノ−ル等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で併用してもよい。
分子量調節剤の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物100モルに対して50〜0.5モルであることが好ましく、中でも30〜1モルであることが好ましい。
【0053】
重合触媒としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン、ピリジン等の第三級アミン類;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等;が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0054】
<溶融エステル交換法>
溶融エステル交換法より芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する場合、例えば、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応を行う。
ここで使用される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジメチルカ−ボネ−ト、ジエチルカ−ボネ−ト、ジ−tert−ブチルカ−ボネ−ト等の炭酸ジアルキル化合物、ジフェニルカ−ボネ−ト、ジトリルカ−ボネ−ト等の置換ジフェニルカ−ボネ−ト等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で併用してもよい。
炭酸ジエステルは、中でもジフェニルカ−ボネ−ト及び/又は置換ジフェニルカ−ボネ−トであることが好ましく、特にジフェニルカ−ボネ−トが好ましい。
【0055】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、その末端水酸基量が熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼすので、末端水酸基量を従来公知の任意の方法によって適宜調整してもよい。
溶融エステル交換反応においては、通常、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物との混合比率や、エステル交換反応時の減圧度を調整して、所望の分子量および末端水酸基量に調整した芳香族ポリカーボネート樹脂を得ることができる。
【0056】
通常、溶融エステル交換反応においては、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステルを等モル量以上、中でも1.01〜1.30モルの量で用いることが好ましい。また、分子量及び末端水酸基量のより積極的な調整方法としては、反応時に別途、末端停止剤を添加する方法が挙げられ、この際の末端停止剤としては、一価フェノール類、一価カルボン酸類、炭酸ジエステル類が挙げられ、例えば、炭素数が9以上の一価フェノールや一価カルボン酸が好適に使用され、具体的には、p−プロピルフェノール、o−sec−ブチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、クミルフェノール、tert−オクチルフェノール、フェニルフェノール、ナフチルフェノール、4−ヒドロキシ−p−クオーターフェニル、ブチル安息香酸、オクチル安息香酸、フェニル安息香酸、ナフタレンカルボン酸等が挙げられ、炭酸ジエステル類としては、例えば、上記炭素数9以上の一価フェノールから誘導される炭酸ジエステル類が好適に使用され、具体的には、フェニルブチルフェニルカーボネート、ジ(ブチルフェニル)カーボネート、フェニルクミルフェニルカーボネート、ジ(ノニルフェニル)カーボネート、メチルフェニルナフチルフェニルカーボネート等が挙げられる。
【0057】
溶融エステル交換法により芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒は従来公知の任意のものを使用でき、中でも、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物が好ましい。また、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物などの塩基性化合物を併用してもよい。
【0058】
上記原料を用いた溶融エステル交換反応においては、通常100〜320℃の温度で、最終的には2mmHg(200Pa)以下の減圧下にて、芳香族ヒドロキシ化合物等の副生成物を除去しながら溶融重縮合反応を行えばよい。
【0059】
溶融重縮合は、バッチ式、連続式の何れの方法でも行うことができる。中でも、本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂や、本発明の樹脂組成物の安定性等を考慮すると、連続式で行うことが好ましい。
【0060】
溶融エステル交換法において、用いる触媒失活剤としては、該エステル交換反応触媒を中和する化合物、例えばイオウ含有酸性化合物又はそれより形成される誘導体を使用することが好ましい。
このような、触媒を中和する化合物の添加量は、例えば、触媒がアルカリ金属化合物の場合、触媒に含有されるアルカリ金属に対して0.5〜10当量、中でも1〜5当量であることが好ましく、更には得られる芳香族ポリカーボネート樹脂に対して、1〜100ppm、中でも1〜20ppmであることが好ましい。
【0061】
なお、本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂は、その分子構造中に分岐構造を有し、ハロゲンフリーである点等から、燃焼時の滴下防止効果や有毒ガス発生抑制が期待できる、溶融エステル交換法により製造されたものであることが好ましい。
【0062】
<分岐芳香族ポリカーボネート樹脂>
芳香族ポリカーボネート樹脂として、分岐ポリカーボネートを用いる際、その製造方法は特に制限はなく、従来公知の任意の製造方法を用いることができる。例えば、特開平8−259687号公報、特開平8−245782号公報等に記載の様に、溶融法(エステル交換法)により芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを反応させる際、触媒の条件又は製造条件を選択することにより、分岐剤を添加することなく、構造粘性指数が高く、加水分解安定性に優れた分岐芳香族ポリカーボネート樹脂を得ることができる。
【0063】
また、分岐芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する他の方法として、上述の芳香族ポリカーボネート樹脂の原料である、芳香族ジヒドロキシ化合物とカ−ボネ−ト前駆体の他に、三官能以上の多官能性芳香族化合物を用い、ホスゲン法、又は溶融法(エステル交換法)にて、これらを共重合する方法が挙げられる。
【0064】
三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、例えば、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)べンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のポリヒドロキシ化合物類;3,3−ビス(4−ヒドロキシアリ−ル)オキシインド−ル(=イサチンビスフェノ−ル)、5−クロロイサチン、5,7−ジクロロイサチン、5−ブロムイサチン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で併用してもよい。
中でも1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。
【0065】
多官能性芳香族化合物は、前記芳香族ジヒドロキシ化合物の一部を置換して使用することができ、その使用量は芳香族ジヒドロキシ化合物に対して0.01〜10モル%、中でも0.1〜3モル%であることが好ましい。
【0066】
溶融エステル交換法によって得られた分岐芳香族ポリカーボネート樹脂に含まれる分岐構造としては、具体的には、以下の一般式(3)〜(6)で表される構造が挙げられる。
【0067】
【化3】

【0068】
(式(3)〜(6)において、Xは、単結合、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基、又は、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO−で示される2価の基からなる群より選ばれるものを示す。)
【0069】
本発明に用いる分岐芳香族ポリカーボネート樹脂は、通常、構造粘性指数Nが1.2以上であり、この分岐芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることで、滴下防止効果(燃焼時に火のついた溶融樹脂の滴下を防止する効果)が増すので好ましい。ここで、構造粘性指数Nとは、例えば公知文献(小野木重治著「化学者のためのレオロジー」第15〜16頁)等に記載の値である。
【0070】
<分子量>
本発明における芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、溶液粘度から換算した粘度平均分子量[Mv]で、10000〜40000のものが好ましい。この様に、粘度平均分子量を10000以上とすることで機械的強度がより向上する傾向にあり、機械的強度の要求の高い用途に用いる場合により好ましいものとなる。一方、粘度平均分子量を40000以下とすることにより、流動性の低下をより抑制する傾向にあり、成形加工性の向上の観点からより好ましい。
【0071】
本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、中でも16000〜40000、特に18000〜30000であることが好ましい。また粘度平均分子量の異なる2種類以上の芳香族ポリカーボネート樹脂を混合してもよく、この際には、粘度平均分子量が上記好適範囲外である芳香族ポリカーボネート樹脂を混合してもよい。
【0072】
ここで粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10−40.83、から算出される値を意味する。また極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
【0073】
【数1】

【0074】
また、成形品外観の向上や流動性の向上を図るため、本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよいが、この場合、この芳香族ポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量[Mv]は、中でも1500〜9500、特に2000〜9000であることが好ましい。芳香族ポリカーボネートオリゴマーを用いる場合、その使用量は、芳香族ポリカーボネート樹脂の30重量%以下とすることが好ましい。
【0075】
<末端水酸基濃度>
本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、通常1000ppm以下であり、中でも800ppm以下、特に600ppm以下であることが好ましい。またその下限は、特に溶融エステル交換法で製造された芳香族ポリカーボネート樹脂では10ppm以上、中でも30ppm以上、特に40ppm以上であることが好ましい。
【0076】
芳香族ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度を10ppm以上とすることを特徴とするで、分子量低下を抑制し、樹脂組成物の機械的特性がより向上する傾向にあるので好ましい。また、末端基水酸基濃度を1000ppm以下にすることで、樹脂組成物の滞留熱安定性や色調がより向上する傾向にあるので好ましい。
【0077】
尚、末端水酸基濃度の単位は、芳香族ポリカーボネート樹脂重量に対する、末端水酸基の重量をppmで表示したものであり、測定方法は、四塩化チタン/酢酸法による比色定量(Macromol.Chem.88 215(1965)に記載の方法)による。
【0078】
<再生樹脂>
本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂は、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生された芳香族ポリカーボネート樹脂、いわゆるマテリアルリサイクルされた芳香族ポリカーボネート樹脂であってもよい。使用済みの製品としては、光学ディスク等の光記録媒体、導光板、自動車窓ガラス・自動車ヘッドランプレンズ・風防等の車両透明部材、水ボトル等の容器、メガネレンズ、防音壁・ガラス窓・波板等の建築部材等が好ましく挙げられる。また、製品の不適合品、スプルー、ランナー等から得られた粉砕品又はそれらを溶融して得たペレット等も使用可能である。再生された芳香族ポリカーボネート樹脂は、本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂のうち、80重量%以下であることが好ましく、中でも50重量%以下であることが好ましい。
【0079】
{金属塩化合物}
本発明における、金属塩化合物は、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも1種の金属塩化合物であり、このような化合物としては、有機系金属塩化合物、無機系金属塩化合物が例として挙げられるが、芳香族ポリカーボネート樹脂への分散性が良いという点から有機系金属塩化合物(有機酸のアルカリ(土類)金属塩化合物)が好ましい。
【0080】
有機系金属塩化合物としては、有機系スルホン酸金属塩化合物、有機系カルボン酸金属塩化合物、有機系ホウ酸金属塩化合物、有機系リン酸金属塩化合物等が例として挙げられるが、芳香族ポリカーボネート樹脂へ添加した場合の、熱安定性の点からスルホン酸金属塩、特にスルホン酸アルカリ(土類)金属塩が好ましい。
【0081】
有機系スルホン酸金属塩化合物としては、有機系スルホン酸リチウム(Li)塩化合物、有機系スルホン酸ナトリウム(Na)塩化合物、有機系スルホン酸カリウム(K)塩化合物、有機系スルホン酸ルビジウム(Rb)塩化合物、有機系スルホン酸セシウム(Cs)塩化合物、有機系スルホン酸マグネシウム(Mg)塩化合物、有機系スルホン酸カルシウム(Ca)塩化合物、有機系スルホン酸ストロンチウム(Sr)塩化合物、有機系スルホン酸バリウム(Ba)塩化合物等が挙げられ、この中でも特に、有機系スルホン酸ナトリウム(Na)塩化合物、有機系スルホン酸カリウム(K)塩化合物が好ましい。
【0082】
このような、金属塩化合物としては、例えばジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、(ポリ)スチレンスルホン酸ナトリウム、パラトルエンスルホン酸ナトリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、トリクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸カリウム、スチレンスルホン酸カリウム、(ポリ)スチレンスルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸カリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、トリクロロベンゼンスルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸セシウム、(ポリ)スチレンスルホン酸セシウム、パラトルエンスルホン酸セシウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸セシウム、トリクロロベンゼンスルホン酸セシウム等の芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩化合物、パ−フルオロブタンスルホン酸カリウム等のパーフルオロアルカンスルホン酸アルカリ金属塩化合物が挙げられる。この中でも特に、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸ナトリウム、パラトルエンスルホン酸カリウム、パ−フルオロブタンスルホン酸カリウムが透明性、難燃性のバランスに優れる為、好ましい。
【0083】
これらの金属塩化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0084】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の金属塩化合物の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.0001〜1重量部である。金属塩化合物の含有量が少なすぎると、得られるポリカーボネート樹脂組成物の難燃性が不十分となり、逆に多すぎても熱安定性の低下、ポリカーボネート樹脂成形品の外観不良や機械的強度の低下が生ずる場合がある。
【0085】
金属塩化合物の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、0.001〜0.5重量部であることが好ましく、中でも0.01〜0.4重量部、特に0.05〜0.3重量部であることが好ましい。
【0086】
{シリコーン化合物}
本発明で用いるシリコーン化合物は、下記式(X)を満たすものである(以下、ケイ素−炭素結合の数/ケイ素原子の数を「Si−C/Si」と表記することがある。)。
2.5 ≦ ケイ素−炭素結合の数/ケイ素原子の数 ≦ 3 (X)
【0087】
シリコーン化合物は、以下に示す4つの単位(M単位、D単位、T単位、Q単位)の少なくとも1種から構成される。なお、1量体(モノマー)のものはシラン化合物であり、シリコーン化合物(ポリマー)とは区別されるが、本発明においては、このシラン化合物をも含めて「シリコーン化合物」と称す。
【0088】
【化7】

【0089】
上記一般式(7)〜(10)において、Rは一価の炭化水素基を示し、同一の式中ないし一分子中にある複数のRは互いに同一であっても、異なっていてもよい。Rの具体例は、一般式(1),(2)におけるRの具体例として後述するものが挙げられる。
【0090】
シリコーン化合物におけるケイ素−炭素結合の数とは、ケイ素原子に直接結合する有機基の数を示し、ケイ素原子の数は、上述の構造単位の数を示す。従って、前述の式(X)における ケイ素−炭素結合の数をケイ素原子の数で除した値( ケイ素−炭素結合の数/ケイ素原子の数)は、シリコーン化合物1分子中における有機基の割合を示しており、上述の値が、2.5以上3以下という範囲にあるシリコーン化合物は、有機基の割合が極めて大きいシリコーン化合物であることを意味する。
【0091】
このように、有機基の割合が極めて大きいシリコーン化合物を用いることにより、芳香族ポリカーボネート樹脂への分散性が向上し、高度な透明性が得られ、さらに、燃焼時のシリコーン化合物のケイ素−炭素結合の分解反応による発泡性が向上し、極めて高い難燃効果が得られるという2つの効果が同時に得られる。
【0092】
このような、シリコーン化合物としては、MA、MM、MDM、MDDM、MTMM、MDDDA、MTDAM、MQMMA等が挙げられるが(ここでAは、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基又はアリールオキシ基を表す。)、中でも、下記一般式(1)及び/又は(2)で示されるシリコーン化合物が好ましい。
【0093】
【化1】

(式中、Rは一価の炭化水素基を示し、複数のRは互いに同一であっても、異なっていてもよい。Aは、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基又はアリールオキシ基を表す。)
【化2】

(式中、Rは一価の炭化水素基を示し、複数のRは互いに同一であっても、異なっていてもよい。nは、0〜2の整数である。)
【0094】
上記、Rは一価の炭化水素基を示し、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基等の炭素数1〜12のアルキル基;ビニル基、ブテニル基、アリル基の等の炭素数2〜10のアルケニル基;フェニル基、ナフチル基、トリル基等のアリール基;等が挙げられるが、この中ではフェニル基及びメチル基が工業上の入手のし易さから好ましい。
【0095】
本発明に用いる、シリコーン化合物は、中でも全一価有機基中、フェニル基の占める割合(以下、この割合を「フェニル基量」と称す。)が、50モル%以上であることが好ましく、60モル%以上であることが特に好ましい。シリコーン化合物のフェニル基量を、50モル%以上とすることで、分子自体の耐熱性が向上するため、熱可塑性樹脂への混練時、熱可塑性樹脂組成物の成形時のガスの発生が低下する傾向にあるため好ましい。また、フェニル基量が多いシリコーン化合物を用いることで、良好な難燃性が得られやすい傾向にあり、さらには芳香族ポリカーボネート樹脂への相容性がより向上し、分散性に優れ、その結果、透明性が向上する傾向にあるため、好ましい。
【0096】
本発明におけるシリコーン化合物としては、具体的には、トリフェニルシラン、トリフェニルシラノール、トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン、トリフェニルクロロシラン、ヘキサフェニルジシロキサン、1,1,3,3−テトラフェニル−1,3−ジメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラフェニル−1,3−ジビニルジシロキサン、1,3,3,5−テトラメチル−1,1,5,5−テトラフェニルトリシロキサン、1,1,3,5,5−ペンタフェニル−1,3,5−トリメチルトリシロキサン、1,1,1,3,5,5,5−ヘプタフェニル−メチルトリシロキサン等が挙げられるが、中でもトリフェニルシラノール、1,1,3,5,5−ペンタフェニル−1,3,5−トリメチルトリシロキサン、ヘキサフェニルジシロキサンが好ましく、特にトリフェニルシラノール、1,1,3,5,5−ペンタフェニル−1,3,5−トリメチルトリシロキサンが好ましい。これらのシリコーン化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0097】
本発明に用いるシリコーン化合物の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.001〜3重量部である。シリコーン化合物の含有量が少なすぎると、得られるポリカーボネート樹脂組成物の難燃性が不十分となり、逆に多すぎても熱安定性の低下、ポリカーボネート樹脂成形品の外観不良や機械的強度の低下が生ずる場合がある。
【0098】
本発明におけるシリコーン化合物の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、0.005〜2重量部であることが好ましく、中でも0.01〜1.5重量部、特に0.1〜1重量部であることが好ましい。
【0099】
本発明におけるシリコーン化合物は、金属塩化合物と同時に含有させることによって芳香族ポリカーボネート樹脂に高度な難燃性を付与する働きがある。なお、シリコーン化合物のみ、又は金属塩化合物のみでは効果が不十分であり、この2成分による相乗効果が本発明における芳香族ポリカーボネート樹脂組成物において重要な条件である。
【0100】
{その他の成分}
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、必要に応じて、本発明の効果である透明性、難燃性等の諸物性を損なわない範囲で、他の樹脂や各種樹脂添加剤を含有していてもよい。
【0101】
他の樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂などの熱可塑性ポリエステル樹脂;ポリスチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル−エチレンプロピレン系ゴム−スチレン共重合体(AES樹脂)などのスチレン系樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリメタクリレート樹脂、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)樹脂等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0102】
また、各種樹脂添加剤としては、従来公知の任意の、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、染顔料、難燃剤、滴下防止剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤・アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、防菌剤等から、適宜選択して使用すればよい。これらは2種以上を併用してもよい。
【0103】
以下、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に用いる添加剤について説明する。
【0104】
<熱安定剤>
熱安定剤としては、例えばリン系化合物が挙げられる。リン系化合物としては、従来公知の任意のものを使用できる。具体的には、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族又は第2B族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物等が挙げられる。これらの中でも、下記一般式(11)で表される有機ホスフェート化合物及び/又は下記一般式(12)で表される有機ホスファイト化合物が好ましい。
【0105】
O=P(OH)(OR3−m (11)
(上記式中、Rはアルキル基又はアリール基を示し、Rが複数ある場合、これらは互いに同一でも、異なっていてもよい。mは0〜2の整数を示す。)
【0106】
【化4】

(式中、Rはアルキル基又はアリール基を示し、2個のRは互いに同一でも、異なっていてもよい。)
【0107】
一般式(11)中、Rは炭素原子数1〜30のアルキル基又は炭素原子数6〜30のアリール基であることが好ましく、中でも炭素原子数2〜25のアルキル基であることが好ましい。またmは、1又は2であることが好ましい。
【0108】
一般式(12)中、Rは炭素原子数1〜30のアルキル基又は炭素原子数6〜30のアリール基であることが好ましい。一般式(12)で表される有機ホスファイトの好ましい具体例としては、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0109】
これらのリン系化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0110】
これらリン系化合物を配合する場合、その含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、0.001〜1重量部であることが好ましく、中でも0.01〜0.7重量部、特に0.03〜0.5重量部であることが好ましい。
【0111】
<酸化防止剤>
酸化防止剤としては、例えばヒンダ−ドフェノール系酸化防止剤が挙げられる。具体的には、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン,2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0112】
上記の中では、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。これら2つのフェノール系酸化防止剤は,チバ・スペシャルテイ・ケミカルズ社より、「イルガノックス1010」及び「イルガノックス1076」の名称で市販されている。
【0113】
酸化防止剤を配合する場合、その含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、通常0.001〜1重量部、中でも0.01〜0.5重量部であることが好ましい。酸化防止剤の含有量が少なすぎるとその効果が不十分であり、逆に多すぎても効果が頭打ちとなり経済的ではない。
【0114】
<離型剤>
離型剤としては、具体的には、脂肪族カルボン酸や、そのアルコールエステル、数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイル等が挙げられる。
【0115】
脂肪族カルボン酸としては、飽和又は不飽和の、鎖式又は環式の、脂肪族1〜3価のカルボン酸が挙げられる。これらの中でも炭素数6〜36の1価又は2価カルボン酸が好ましく、特に炭素数6〜36の脂肪族飽和1価カルボン酸が好ましい。このような脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸等が挙げられる。
【0116】
脂肪族カルボン酸エステルにおける、脂肪族カルボン酸としては、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。
エステルのアルコール部分としては、飽和又は不飽和の、鎖式又は環式の、1価又は多価アルコールが挙げられ、これらはフッ素原子、アリール基等の置換基を有していてもよい。中でも炭素数30以下の、1価又は多価飽和アルコールが好ましく、特に炭素数30以下、飽和脂肪族の、1価又は多価アルコールが好ましい。
【0117】
このようなアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。尚、この脂肪族カルボン酸エステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよく、更には複数の脂肪族カルボン酸エステルの混合物でもよい。
【0118】
脂肪族カルボン酸エステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0119】
数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素としては、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ−トロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。ここで脂肪族炭化水素とは、脂環式炭化水素も含まれる。またこれらの炭化水素化合物は、部分酸化されていてもよい。
【0120】
これら脂肪族炭化水素の中でも、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス又はポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、特にパラフィンワックスや、ポリエチレンワックスが好ましい。数平均分子量は中でも、200〜5000であることが好ましい。これらの脂肪族炭化水素は単一物質であっても、構成成分や分子量が様々なものの混合物であっても、主成分が上記の範囲内であればよい。
【0121】
ポリシロキサン系シリコーンオイルとしては、例えばジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等が挙げられる。
【0122】
これらの離型剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0123】
これらの離型剤を配合する場合、その含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、通常0.001〜2重量部、好ましくは0.01〜1重量部である。離型剤の含有量が少なすぎると、離型効果が十分に発揮されず、逆に多すぎても芳香族ポリカーボネート樹脂の耐加水分解性の低下や、射出成形時の金型汚染等が生ずる場合がある。
【0124】
<紫外線吸収剤>
紫外線吸収剤の具体例としては、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤の他、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、トリアジン化合物などの有機紫外線吸収剤が挙げられ、中でも有機紫外線吸収剤が好ましい。特に、ベンゾトリアゾール化合物、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチロキシ)フェノール、2,2’−(1,4−フェニレン)ビス[4H−3,1−ベンゾキサジン−4−オン]、[(4−メトキシフェニル)−メチレン]−プロパンジオイックアシッド−ジメチルエステルの群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0125】
ベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、メチル−3−〔3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネート−ポリエチレングリコールとの縮合物が挙げられる。また、その他のベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、2−ビス(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−2’−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレン−ビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール2−イル)フェノール〕[メチル−3−〔3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネート−ポリエチレングリコール]縮合物などが挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0126】
これらベンゾトリアゾール化合物の中でも、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチロキシ)フェノール、2,2’−メチレン−ビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール2−イル)フェノール〕等が好ましい。
【0127】
紫外線吸収剤を配合する場合、その含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、通常0.01〜3重量部、好ましくは0.1〜1重量部である。紫外線吸収剤の含有量が少なすぎると、耐候性の改良効果が不十分となる場合があり、逆に多すぎてもモールドデボジット等の問題が生じる場合がある。
【0128】
<染顔料>
染顔料としては、無機顔料、有機顔料、有機染料などが挙げられる。
無機顔料としては例えば、カーボンブラック、カドミウムレッド、カドミウムイエロ−等の硫化物系顔料;群青などの珪酸塩系顔料;酸化チタン、亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロ−、亜鉛−鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリ−ン、コバルトグリ−ン、コバルトブル−、銅−クロム系ブラック、銅−鉄系ブラック等の酸化物系顔料;黄鉛、モリブデ−トオレンジ等のクロム酸系顔料;紺青などのフェロシアン系顔料が挙げられる。
【0129】
有機顔料および有機染料としては、銅フタロシアニンブル−、銅フタロシアニングリ−ン等のフタロシアニン系染顔料;ニッケルアゾイエロ−等のアゾ系染顔料;チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系などの縮合多環染顔料;アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染顔料などが挙げられる。
【0130】
これらは単独で用いても、2種以上を任意の割合で併用してもよく、中でも熱安定性の点から、酸化チタン、カーボンブラック、シアニン系、キノリン系、アンスラキノン系、フタロシアニン系化合物等が好ましい。
【0131】
染顔料を配合する場合、その含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、通常5重量部以下、中でも3重量部以下、特に2重量部以下であることが好ましい。染顔料の含有量が多すぎると、耐衝撃性が低下する場合がある。
【0132】
<難燃剤>
難燃剤としては、従来公知の任意のものを使用できる。具体的には例えば、ハロゲン化ビスフェノールAのポリカーボネート、ブロム化ビスフェノール系エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノール系フェノキシ樹脂、ブロム化ポリスチレンなどのハロゲン系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤、有機金属塩系難燃剤、シリコーン系難燃剤、無機化合物系難燃(助)剤などが挙げられる。
【0133】
これらは単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で併用してもよい。中でも、環境汚染の可能性が極めて低い有機金属塩系難燃剤や、シリコーン系難燃剤、無機化合物系難燃(助)剤が好ましい。無機化合物系難燃(助)剤としては、タルク、マイカ、カオリン、クレー、シリカ粉末、ヒュームドシリカ、ガラスフレークが挙げられる。
【0134】
これらの難燃剤を配合する場合、その含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、通常0.0001〜30重量部であり、中でも0.01〜25重量部、特に0.1〜20重量部であることが好ましい。難燃剤の含有量が少なすぎると、難燃効果が不十分となり、逆に多すぎても耐熱性や機械物性が著しく低下する場合がある。
【0135】
<滴下防止剤>
滴下防止剤としては、従来公知の任意のものを使用でき、中でもフルオロオレフィン樹脂が好ましい。
フルオロオレフィン樹脂としては、通常、フルオロエチレン構造を含む重合体や共重合体が用いられ、例えば、ジフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合樹脂等が挙げられる。中でもテトラフルオロエチレン樹脂等が好ましく、このフルオロエチレン樹脂としては、フィブリル形成能を有するフルオロエチレン樹脂が好ましい。
【0136】
フィブリル形成能を有するフルオロエチレン樹脂としては、具体的には、三井・デュポンフロロケミカル社製テフロン(登録商標)6J、ダイキン化学工業社製ポリフロンF201L、ポリフロンF103等が挙げられる。また、フルオロエチレン樹脂の水性分散液として、三井デュポンフロロケミカル社製のテフロン(登録商標)30J、ダイキン化学工業社製フルオンD−1等が挙げられる。更に本発明においては、ビニル系単量体を重合してなる多層構造を有するフルオロエチレン重合体も使用することが出来、具体的には三菱レイヨン社製メタブレンA−3800等が挙げられる。
【0137】
これらのフルオロオレフィン樹脂を用いる場合、フルオロオレフィン樹脂の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して通常0.001〜3重量部である。フルオロオレフィン樹脂の含有量が少なすぎると、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の難燃性が不十分となり、逆に多すぎても透明性や耐熱性が著しく低下したり、ポリカーボネート樹脂成形品の外観不良や機械的強度の低下が生ずる場合がある。
【0138】
本発明におけるフルオロオレフィン樹脂の含有量は、更に芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、0.01〜1重量部であることが好ましく、中でも0.02〜0.5重量部、特に0.05〜0.3重量部であることが好ましく、透明性を維持させるという観点からは、0.075〜0.2重量部であることが最も好ましい。
【0139】
{製造方法}
芳香族ポリカーボネート樹脂と、金属塩化合物及び前述の特定のシリコーン化合物の特定量とを含有する本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法は特に制限されることはなく、従来公知の任意の樹脂組成物の製造方法を適用することができる。
【0140】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法としては、例えば、上述した芳香族ポリカーボネート樹脂、金属塩化合物及びシリコーン化合物、更に必要に応じて用いられるその他の添加成分を、タンブラ−やヘンシェルミキサ−などの各種混合機を用いて予め混合した後、バンバリ−ミキサ−、ロ−ル、ブラベンダ−、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニ−ダ−などで溶融混練する方法が挙げられる。
【0141】
また、各成分を予め混合せずに、又は、一部の成分のみ予め混合して、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練することにより、樹脂組成物を製造してもよい。更には、一部の成分を予め混合し押出機に供給して溶融混練することで得られる樹脂組成物をマスターバッチとし、再度、他の成分と混合して溶融混練することによって樹脂組成物を製造することもできる。
【0142】
中でも本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法においては、上述した金属塩化合物やシリコーン化合物を、予め樹脂成分でマスターバッチ化して、樹脂組成物を製造することによって、分散性、更には押出作業性が向上するので好ましい。また、上述した金属塩化合物の分散性向上の観点から、予め水や有機溶剤等の溶媒にこれを溶解してから、混練することもできる。
【0143】
[2]芳香族ポリカーボネート樹脂成形体
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体は、上述の本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を、従来公知の任意の樹脂成形方法により成形することにより得ることができる。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体を製造する方法は特に限定されず、熱可塑性樹脂について一般に用いられる成形法を用いることができる。
【0144】
芳香族ポリカーボネート樹脂成形体の製造方法としては、例えば、一般的な射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサ−ト成形、IMC(インモールドコ−ティング成形)成形法、押出成形法、シ−ト成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法等が挙げられる。また、ホットランナ−方式を使用した成形法を用いることもできる。
【実施例】
【0145】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。尚、以下において「部」は「重量部」を示す。
【0146】
[樹脂ペレット製造]
表2に記した各成分を、表3に記した割合(重量比)で配合し、タンブラーにて20分混合後、1ベントを備えた日本製鋼所社製(TEX30HSST)に供給し、スクリュー回転数200rpm、吐出量15kg/時間、バレル温度290℃の条件で混練し、ストランド状に押出された溶融樹脂を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化した。
【0147】
[UL試験用試験片の作成]
上述の製造方法で得られたペレットを120℃で5時間乾燥後、日本製鋼所製のJ50−EP型射出成形機を用いて、シリンダー温度290℃、金型温度80℃、成形サイクル30秒の条件で射出成形し、長さ125mm、幅13mm、厚さ1.58mmの試験片を成形した。
【0148】
[プレート状成形品の作成]
上述の製造方法で得られたペレットを120℃、5時間乾燥後、日本製鋼所製のJ50−EP型射出成形を用いて、シリンダー温度290℃、金型温度80℃、成形サイクル30秒の条件で射出成形し、長さ110mm、幅37mmで、厚さが2mmの部分と3mmの部分とを有する2段プレート試験片を成形した。
【0149】
得られた各試験片について、以下の評価を行い、結果を表3に示した。
【0150】
[燃焼性試験]
各芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の難燃性の評価は、UL試験用サンプルを温度23℃、湿度50%の恒温室の中で48時間調湿し、米国アンダーライターズ・ラボラトリー(UL)ULが定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験)に準拠して行なった。UL94Vとは、鉛直に保持した所定の大きさの試験片にバーナーの炎を10秒間接炎した後の残炎時間やドリップ性から難燃性を評価する方法であり、V−0、V−1及びV−2の難燃性を有するためには、以下の表1に示す基準を満たすことが必要となる。
【0151】
【表1】

【0152】
ここで残炎時間とは、着火源を遠ざけた後の、試験片の有炎燃焼を続ける時間の長さであり、ドリップによる綿着火とは、試験片の下端から約300mm下にある標識用の綿が、試験片からの滴下(ドリップ)物によって着火されるかどうかによって決定される。また5試料のうち、1つでも上記基準を満たさないものがある場合、V−2を満足しないとしてNR(not rated)と評価した。
【0153】
[透明性評価]
JIS K−7136に準拠し、上述の方法で製造したプレート状成形品(厚み3mmの部分)を試験片とし、日本電色工業社製のNDH−2000型ヘイズメーターで測定した。Haze(ヘイズ)は、樹脂の濁度の尺度として用いられる値であり、数値が小さい程、透明性が高いことを示し好ましい。
【0154】
【表2】

【0155】
【表3】

【0156】
表2,3より、本発明によれば、難燃性と透明性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物及び芳香族ポリカーボネート樹脂成形体が提供されることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、金属塩化合物0.0001〜1重量部と、下記式(X)を満たすシリコーン化合物0.001〜3重量部とを含有することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
2.5 ≦ ケイ素−炭素結合の数/ケイ素原子の数 ≦ 3 (X)
【請求項2】
芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対する前記シリコーン化合物の含有量が、0.005〜2重量部であることを特徴とする請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記シリコーン化合物が有する全一価有機基中、フェニル基の占める割合が、50モル%以上であることを特徴とする請求項1又は2の何れかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
前記シリコーン化合物が、下記一般式(1)で表されるシリコーン化合物及び/又は下記一般式(2)で表されるシリコーン化合物であることを特徴とする請求項1ないし3の何れかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

(式中、Rは一価の炭化水素基を示し、複数のRは互いに同一であっても、異なっていてもよい。Aは、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基又はアリールオキシ基を表す。)
【化2】

(式中、Rは一価の炭化水素基を示し、複数のRは互いに同一であっても、異なっていてもよい。nは、0〜2の整数である。)
【請求項5】
前記シリコーン化合物が、トリフェニルシラノール及び/又は1,1,3,5,5−ペンタフェニル−1,3,5−トリメチルトリシロキサンであることを特徴とする請求項4に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
前記金属塩化合物が有機酸のアルカリ金属塩化合物及び/又はアルカリ土類金属塩化合物であることを特徴とする請求項1ないし5の何れかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
前記金属塩化合物が、パーフルオロアルカンスルホン酸アルカリ金属塩及び/又は芳香族スルホン酸アルカリ金属塩であることを特徴とする請求項6に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
前記芳香族ポリカーボネート樹脂が、溶融エステル交換法によって製造された芳香族ポリカーボネート樹脂であることを特徴とする請求項1ないし7の何れかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1ないし8の何れかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
【請求項10】
照明器具用部材、又は電気・電子機器の外装部品であることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。

【公開番号】特開2009−155382(P2009−155382A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332322(P2007−332322)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】