説明

芳香族ポリカーボネート樹脂組成物及び成形体

【課題】芳香族ポリカーボネート樹脂の熱分解によるアウトガスの発生を抑制し、耐熱性と耐衝撃性を兼ね備えた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】芳香族ポリカーボネート樹脂(A)並びにポリオルガノシロキサンゴム及びポリアルキル(メタ)アクリレートゴムを含む複合ゴムに一種以上のビニル系単量体がグラフト重合されてなるシリコーン/アクリル複合ゴム系グラフト共重合体(B)を含有し、カルシウムイオン含量が3ppm以下である芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂の熱分解によるアウトガスの発生を抑制し、耐熱性と耐衝撃性を兼ね備えたポリカーボネート樹脂組成物、及びそれらを成形して得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、汎用エンジニアリングプラスチックとして透明性、耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性などに優れ、その優れた特性から、自動車分野、OA機器分野、電気・電子分野等の材料として、工業的に広く利用されている。
電気・電子機器筐体、家電製品等の用途を中心に、最近では携帯電話の電池パックや記憶媒体カバーなどは、小型化、軽量化、高機能化等を目的として年々薄肉化されている。そこで、電気・電子機器筐体用の成形体には、高温成形によるアウトガス(シルバーストリーク)が無く、耐衝撃性等の機械的特性が良好であり、かつ、耐熱性、発色性に優れた樹脂材料が求められている。
【0003】
ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂100重量部に対し、ポリオルガノシロキサン及びポリアルキル(メタ)アクリレートを含む複合ゴムに、1種以上のビニル系単量体単位から構成されるビニル系重合体がグラフトしたシリコーン/アクリル複合ゴム系グラフト共重合体であって、該グラフト共重合体の数平均粒子径が300〜2000nmであり、ポリオルガノシロキサン含有量が20〜70質量%、複合ゴム含有量が70〜90質量%であることを特徴とするシリコーン/アクリル複合ゴム系グラフト共重合体を1〜100重量部含有した樹脂組成物が提案されている(特許文献1)。
しかし、特許文献1には、高温成形された際のアウトガスの発生に関する記載がなく、その条件で成形された耐衝撃性や耐熱性に関する記載もない。
【0004】
芳香族ポリカーボネート、及び該芳香族ポリカーボネートを触媒的に劣化させる重合助剤を本質的に含まないように乳化重合プロセスによって調製された耐衝撃性改良剤を混合して含む、改善された熱安定性及び重合体の劣化に対する改善された抵抗性を有する耐衝撃性ポリカーボネートポリマー組成物が提案されている(特許文献2)。
しかし、特許文献2にも、高温成形された際のアウトガスに関する記載がなく、また実施例にはポリカーボネートを劣化させない金属塩の明確な数値の記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−359889号公報
【特許文献2】特開平11−158365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、芳香族ポリカーボネート樹脂の熱分解によるアウトガスの発生を抑制し、耐熱性と耐衝撃性を兼ね備えた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行ったところ、芳香族ポリカーボネート樹脂とシリコーン/アクリル複合ゴム系グラフト共重合体からなる樹脂に対し、カルシウムイオン含有量を3ppm以下に抑えることで、特にアウトガスの発生を抑制することができる優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の開発に成功した。
【0008】
すなわち、本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)並びにポリオルガノシロキサンゴム及びポリアルキル(メタ)アクリレートゴムを含む複合ゴムに一種以上のビニル系単量体がグラフト重合されてなるシリコーン/アクリル複合ゴム系グラフト共重合体(B)を含有し、カルシウムイオン含量が3ppm以下である芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【0009】
また、本発明は、上記芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形体に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、芳香族ポリカーボネート樹脂の熱分解によるアウトガスの発生を抑制しながら、耐熱性と耐衝撃性を兼ね備えたポリカーボネート樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<芳香族ポリカーボネート樹脂(A)>
本発明に使用される芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、芳香族ヒドロキシ化合物又はこれと少量のポリヒドロキシ化合物をホスゲン又は炭酸のジエステルと反応させることによって得られる、分岐していてもよい熱可塑性芳香族ポリカーボネート重合体又は共重合体である。芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の製造方法は、特に限定されず、公知の方法、すなわち、ホスゲン法(界面重合法)、溶融法(エステル交換法)等が採用される。本発明では、溶融法で製造され、かつ、末端のOH基量が調整された芳香族ポリカーボネート樹脂を使用することもできる。
【0012】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)としては、以下に限定されるものではないが、ユーピロンS−1000、ユーピロンS−2000、ユーピロンS−3000、ユーピロンH−3000もしくはユーピロンH−4000(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製)又はパンライトL1250、パンライトL1225もしくはパンライトK1300(帝人化成(株)製)などの芳香族ポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0013】
<シリコーン/アクリル複合ゴム系グラフト共重合体(B)>
本発明においてシリコーン/アクリル複合ゴム系グラフト共重合体(B)(以下、複合ゴム系グラフト共重合体と略す)は、複合ゴムに1種以上のビニル系単量体単位から構成されるビニル系重合体がグラフトしたものである。
【0014】
複合ゴムを構成するポリオルガノシロキサンとしては、ジメチルシロキサン単位を構成単位として含有する重合体である。ポリオルガノシロキサンを構成するジメチルシロキサンとしては、3員環以上のジメチルシロキサン系環状体が挙げられ、3〜7員環のものが好ましい。具体的にはヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上混合して用いられる。これらの中でも、粒子径分布を制御しやすいことから、主成分がオクタメチルシクロテトラシロキサンであることが好ましい。
【0015】
ポリオルガノシロキサンとしては、ビニル重合性官能基含有シロキサンを構成成分として含有するものが好ましい。ここで、ビニル重合性官能基含有シロキサンとは、ビニル重合性官能基を含有しかつジメチルシロキサンとシロキサン結合を介して結合しうるものである。ビニル重合性官能基含有シロキサンの中でも、ジメチルシロキサンとの反応性を考慮するとビニル重合性官能基を含有する各種アルコキシシラン化合物が好ましい。具体的には、β−メタクリロイルオキシエチルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメトキシジメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルエトキシジエチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルエトキシジエトキシメチルシラン及びδ−メタクリロイルオキシブチルジエトキシメチルシラン等のメタクリロイルオキシシラン、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン等のビニルシロキサン、p−ビニルフェニルジメトキシメチルシラン等のビニルフェニルシラン、さらにγ−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシロキサンが挙げられる。これらビニル重合性官能基含有シロキサンは単独で又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0016】
また、ポリオルガノシロキサンは、シロキサン系架橋剤によって架橋されていてもよい。シロキサン系架橋剤としては、3官能性又は4官能性のシラン系架橋剤、例えば、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられる。
【0017】
ポリオルガノシロキサンの製造方法としては特に制限はなく、例えば、以下の製造方法を採用できる。
まず、ジメチルシロキサンと、必要に応じてビニル重合性官能基含有シロキサンとを含む混合物又はさらにシロキサン系架橋剤を含む混合物を乳化剤と水によって乳化させてラテックスを調製し、そのラテックスを微粒子化した後、酸触媒を用いて高温下で重合させ、次いでアルカリ性物質により酸を中和してポリオルガノシロキサンラテックスを得る。この製造方法において、ラテックスの調製方法としては、高速回転による剪断力で微粒子化するホモミキサーを用いる方法、高圧発生機による噴出力で微粒子化するホモジナイザー等を使用して高速攪拌により混合する方法などが挙げられる。これらの中でも、ホモジナイザーを使用する方法は、ポリオルガノシロキサンラテックスの粒子径の分布が狭くなるので好ましい方法である。
【0018】
重合の際の酸触媒の混合方法としては、シロキサン混合物、乳化剤及び水とともに一括して添加し、混合する方法と、シロキサン混合物が微粒子化したラテックスを高温の酸水溶液中に一定速度で滴下して混合する方法等が挙げられるが、ポリオルガノシロキサンの粒子径を制御しやすいことから、ミセル形成能のない酸水溶液を一括して添加し混合する方法が好ましい。
【0019】
重合温度は、50℃以上が好ましく、70℃以上であることがさらに好ましい。また、重合時間は、酸触媒をシロキサン混合物、乳化剤及び水とともに混合し、微粒子化させて重合する場合には、通常2時間以上、好ましくは5時間以上である。
重合の停止の際に添加されるアルカリ性物質としては、例えば、苛性ソーダ、苛性カリ、炭酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0020】
また、上記製造方法で使用される乳化剤としてはジメチルシロキサンを乳化できれば特に制限されないが、アニオン系乳化剤が好ましい。アニオン系乳化剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム等が挙げられ、これらの中でも、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0021】
ポリオルガノシロキサンの重合に用いられる酸触媒としては、脂肪族スルホン酸、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸、脂肪族置換ナフタレンスルホン酸などのスルホン酸類及び硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸類が挙げられる。これらの酸触媒は、1種で又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中でも、ミセル形成能のない硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸を使用すると、ポリオルガノシロキサンラテックスの粒子径分布を狭くすることができ、さらに、ポリオルガノシロキサンラテックス中の乳化剤成分に起因する成形体の外観不良を低減させることができるという点で好ましい。
【0022】
複合ゴムを構成するポリアルキル(メタ)アクリレートは、アルキル(メタ)アクリレート単位と多官能性アルキル(メタ)アクリレート単位とを構成成分として含有する重合体である。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート及びヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−ラウリルメタクリレート等のアルキルメタクリレートが挙げられ、これらを単独で又は2種以上併用できる。
これらの中でも、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性及び成形体の光沢を考慮すると、特にn−ブチルアクリレートが好ましい。
【0023】
多官能性アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、アリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上併用できる。
【0024】
多官能性アルキル(メタ)アクリレート単位の含有量には特に制限はないが、ポリアルキル(メタ)アクリレート100質量%中の0.1〜2.0質量%であることが好ましく、0.3〜1.0質量%であることがより好ましい。多官能性アルキル(メタ)アクリレートの含有量が0.1質量%未満では、複合ゴムのモルフォロジーが変化して、かえって衝撃強度が低下する傾向があり、さらに、多官能性アルキル(メタ)アクリレートがグラフト交叉剤を兼ねている場合、粉体回収性、粉体特性などが低下することがある。また、多官能性アルキル(メタ)アクリレートの含有量が2.0質量%を超えると、衝撃強度が低下するおそれがある。
【0025】
上記のポリオルガノシロキサンとポリアルキル(メタ)アクリレートからなる複合ゴムを製造するには、まず、ポリオルガノシロキサン成分のラテックス中に、上記アルキル(メタ)アクリレート成分及び多官能性アルキル(メタ)アクリレート成分を添加し、ポリオルガノシロキサン中に含浸させた後、公知のラジカル重合開始剤を作用させて重合する。この製造方法において、ポリオルガノシロキサンラテックスにアルキル(メタ)アクリレートを添加する方法としては、ポリオルガノシロキサンラテックスに全量を一括して添加する方法、ポリオルガノシロキサンラテックス中に一定速度で滴下して添加する方法が挙げられる。
また、重合に用いるラジカル重合開始剤としては、酸化剤・還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤が用いられる。特に硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩・ロンガリット・ハイドロパーオキサイドを組み合わせたレドックス系開始剤が好ましい。
【0026】
上記複合ゴムの存在下で1種以上のビニル系単量体をラジカル重合して、複合ゴムにビニル系重合体からなるグラフト部を形成することで複合ゴム系グラフト共重合体が得られる。本発明で使用できるビニル系単量体としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族アルケニル化合物、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物である。これらを単独又は二種以上を併用して用いることができる。
【0027】
複合ゴム系グラフト共重合体の具体的な製造方法としては、乳化グラフト重合による方法が挙げられる。この乳化グラフト重合による製造方法では、複合ゴムのラテックスにビニル系単量体を加え、ラジカル重合法により一段であるいは多段でグラフト重合して、複合ゴム系グラフト共重合体ラテックスを得る。次いで、この複合ゴム系グラフト共重合体ラテックスを、凝固剤を溶解した熱水中に投入し、塩析、固化することによりグラフト共重合体を分離し、粉末状で回収する。
【0028】
複合ゴム系グラフト共重合体ラテックスの塩析の際に添加される凝固剤としては、例えば、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、などの金属塩が挙げられる。その中でも、酢酸カルシウムが特に好ましい。
【0029】
粉体状で回収される複合ゴム系グラフト共重合体(B)は、含まれるカルシウムイオン量を低減するために、十分に洗浄して除去する必要がある。洗浄除去方法としては、特に制限されるものではないが、洗浄効率を高めるために、水、又はメタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの炭素原子数4 以下のアルコールが好ましく、特に水、メタノールが好ましい。溶剤による洗浄処理は、複合ゴム系グラフト共重合体(B)を含むラテックスを凝固した後脱水する際、好ましくは水及び/メタノールを用いて洗浄する方法が挙げられる。また、グラフト共重合前述の溶剤のうち、水を用いることが経済的、環境負荷の観点から好ましい。
【0030】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、カルシウムイオン含量が3ppm以下である。カルシウムイオン含量が3ppmを超える場合は、特に300℃以上で高温成形する際に芳香族ポリカーボネート樹脂を触媒的に分解するため、アウトガスの発生や、成形後の耐熱性、耐衝撃性の低下に繋がる。カルシウムイオン含量は2ppm以下であることが好ましく、1ppm以下であることがより好ましい。
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物カルシウム含量を3ppm以下とするためには、例えば、前段落に記載したような十分に洗浄された複合ゴム系グラフト共重合体(B)を用いればよい。
【0031】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、防炎加工剤、ドリップ防止剤(例えば、フッ素化ポリオレフィン、シリコーン及びアラミド繊維)、滑剤及び離型剤、例えば、ペンタエリトリトールテトラステアレート、成核剤、帯電防止剤、安定剤、充填材及び強化剤(例えば、ガラス繊維、炭素繊維、マイカ、カオリン、タルク、CaCO3 及びガラスフレーク)並びに色素及び顔料を用いることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
樹脂の溶融混練方法は特に制限されるものではなく、例えば、2軸押出機等の通常の混練機で回分的又は連続的に混練する溶融混合方法が好ましい。
【0033】
このようにして得られた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、従来公知の任意の各種
成形方法を用いて、成形体を得ることができる。特に300℃以上の高温で成形する際に、本発明の樹脂組成物は、アウトガスの発生を抑制しながら、耐熱性と耐衝撃性を兼ね備えた優れた成形体を得ることができる。用途としては特に制限はなく、自動車分野、OA機器分野、電気・電子分野等の材料として、工業的に広く利用することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、本実施例において「部」及び「%」は、特に断らない限り「質量部」及び「質量%」を意味する
【0035】
・ カルシウムイオン量の定量
試料0.25gを分解容器に量り取り、硝酸8mlをマイクロウエーブ(湿式分解)にて分解させ。冷却後、フッ化水素酸2 ml入れ再度マイクロウエーブで処理し、蒸留水で50mlにメスアップし検液とした。この検液をICP発光分析装置(IRIS Interpid II XSP:Thermo社製)を用いてカルシウムイオン量を定量した。
【0036】
・ ペレットの作製
φ30mm、L/D=28の同方向二軸押出機(池貝(株)製PCM−30)を用い、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、複合ゴム系グラフト共重合体(B)、他の成分を溶融混練し、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物ペレットを得た。
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)として、ユーピロンS−2000(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製)を使用した。
【0037】
(3)アウトガス性の評価
住友SE100DU射出成形機(住友重機械(株)製)とホットランナーを有する金型を用い、(2)で作成したペレットを成形温度が310℃、金型温度が90℃の条件で、縦100mm×横100mm×高さ2mmの試験片を成形した。1ショット成形後、2分ずつ滞留させながら連続して3ショット成形して、成形体のシルバーストリークの本数を目視で確認し、アウトガス性の指標とした。
◎ : 最良 (0本)
○ : 良 (1〜2本)
× : 悪 (3〜10本)
×× : 最悪 (10本以上)
【0038】
(4)シャルピー衝撃試験測定
JIS K 7111に準じてシャルピー衝撃強度を測定した。(試験片:縦80.0mm×横10.0mm×厚み3mm、−30℃にて測定。)
【0039】
<シリコーン/アクリル複合ゴム系グラフト共重合体の製造>
テトラエトキシシラン2部、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン2部及びオクタメチルシクロテトラシロキサン96部を混合して、シロキサン系混合物100部を得た。これにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.00部を溶解した蒸留水150部を添加し、ホモミキサーにて10000rpmで5分間攪拌した後、ホモジナイザーに20MPaの圧力で2回通して、安定な予備混合オルガノシロキサンエマルションを得た。
次いで、冷却コンデンサーを備えたセパラブルフラスコに、上記エマルションを入れた後、硫酸0.20部と蒸留水49.8部との混合物を3分間にわたり投入した。次いで、80℃に加熱した状態で7時間温度を維持してから冷却し、続いて、得られた反応物を室温で6時間保持した後、苛性ソーダ水溶液で中和して、ポリオルガノシロキサンラテックス(L−1)を得た。
このようにして得られたラテックスを180℃で30分間乾燥して固形分を求めたところ、29.8%であった。また、このラテックスの数平均粒子径dnは384nm、質量平均粒子径dw は403nmであり、粒子径分布を示すdw /dn は1.05であった。
【0040】
上記によって得たポリオルガノシロキサンラテックス(L−1)33.56部(ポリマー換算で10.0部)をセパラブルフラスコに採取し、蒸留水200部を添加混合したのち、ブチルアクリレート58.8部、アリルメタクリレート1.2部、t−ブチルハイドロパーオキサイド0.3部の混合物を添加した。
【0041】
このセパラブルフラスコに窒素気流を通じることによりフラスコ内雰囲気の窒素置換を行い、50℃まで昇温した。液温が50℃となった時点で硫酸第一鉄0.001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.003部、ロンガリット0.24部を蒸留水10部に溶解させた水溶液を添加しラジカル重合を開始せしめた。アクリレート成分の重合を完結させるため、1時間この状態を維持し、ポリオルガノシロキサンゴムとブチルアクリレートとの複合ゴムのラテックスを得た。
【0042】
このラテックスの液温が65℃に低下したのち、メチルメタクリレート28部、ブチルアクリレート2部、t−ブチルハイドロパーオキサイド0.20部の混合液を1時間にわたって滴下し重合した。滴下終了後、温度60℃以上の状態を1時間保ったのち冷却し、ポリジメチルシロキサンとポリブチルアクリレートとから成る複合ゴムにメチルメタクリレート・アクリル酸エチル共重合体をグラフト重合させたグラフト複合ゴムのラテックスを得た。
【0043】
次いで、酢酸カルシウムを1質量%の割合で溶解した水溶液500部を60℃に加熱、攪拌し、この中に複合ゴム系グラフト共重合体のラテックス340部を徐々に滴下し凝固した。そして、粉体状の複合ゴム系グラフト共重合体を得た。
【0044】
得られた複合ゴム系グラフト共重合体100部に対して、表1の洗浄倍率に従って水を加えた後、攪拌機の付いたフラスコにて15分間洗浄を行い、回収後、乾燥して複合ゴム系グラフト共重合体(B−1)〜(B−3)を得た。
【0045】
次いで、複合グラフト共重合体(B−1)〜(B−3)中に含まれるカルシウムイオン量の定量を行った。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表2に従って各原材料を配合した。
この配合物を同方向二軸押出機(機種名「PCM−30」、(株)池貝製)に供給し、300℃で溶融混練し、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。得られた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを用いて、310℃にて評価用の試験片を作成して諸物性の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
実施例1〜4から明らかなように、カルシウムイオン量が3ppm以下である本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、高温成形時のアウトガスの発生が抑制されており、耐熱性、耐衝撃性に優れていた。
【0050】
比較例1〜5のカルシウムイオン量を3ppm以上含有している芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、実施例と比較して顕著にアウトガスの発生が確認され、耐熱性が低位であった。カルシウムイオンを3ppm以上含有していることから、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂が分解しているために、耐熱性や耐衝撃性が低下したと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)並びに
ポリオルガノシロキサンゴム及びポリアルキル(メタ)アクリレートゴムを含む複合ゴムに一種以上のビニル系単量体がグラフト重合されてなるシリコーン/アクリル複合ゴム系グラフト共重合体(B)
を含有し、カルシウムイオン含量が3ppm以下である芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られる成形体。

【公開番号】特開2012−211341(P2012−211341A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2012−173005(P2012−173005)
【出願日】平成24年8月3日(2012.8.3)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】