説明

苗植付装置

【課題】マット苗の底面に凹凸があっても、簡易な構成によって高精度の苗送りが確保できる苗植付装置を提供する。
【解決手段】苗植付装置3は、マット苗の一端からその一部を取分けて圃場に植付ける植付具164と、この植付具164による苗の取分け位置までマット苗を順次送る移送ベルト171によるマット苗移送機構を構成した苗載台163とを備えて構成され、上記移送ベルト171の表面には、相互に間隔を開けて散開配置した散開突起172と、移送ベルト171の幅方向に複数個が連続して並ぶ横列突起173とを形成し、散開突起172はその先端が細く尖った円錐体で横列突起173より高く、また、横列突起173はそれぞれを平頂の方形柱状に形成し、その前端縁と後端縁を移送ベルト171の幅方向に向けて配置したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マット苗からその一部の苗を取分けて圃場に植付ける植付具と、この植付具による取分け位置までマット苗を順次送る移送ベルトによるマット苗移送機構を設けた苗載台とを備える苗植付装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
苗植付装置は、特許文献1に記載のように、マット苗からその一部の苗を取分けて圃場に植付ける植付具と、この植付具までマット苗を順次送る移送ベルトによるマット苗移送機構を設けた苗載台とを備えて構成される。
移送ベルトの表面には、同文献の図3に示されるように、複数の突起と移送ベルトの幅方向に延びる複数の突条を形成することにより、マット苗の底面を受けて所定ピッチで順次送ることができる。
【0003】
しかし、マット苗を育生するための育苗箱は底面が均一な平坦とは限らず、この育苗箱に応じて、マット苗の底面に凹凸が生じる場合があり、そのようなマット苗は、上記移送ベルトによっても部分的に滑りを生じて所定の送り量が確保できないことがある。その結果、植付具が取分ける植付け苗束の苗量が変動して植付け斑による粗密を生じ、苗の育生管理において好ましくない。
【特許文献1】特開平11−46533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
解決しようとする問題点は、マット苗の底面に凹凸があっても、簡易な構成によって高精度の苗送りが確保できる苗植付装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、マット苗の一端からその一部を取分けて圃場に植付ける植付具と、この植付具による苗の取分け位置までマット苗を順次送る移送ベルトによるマット苗移送機構を構成した苗載台とを備える苗植付装置において、上記移送ベルトの表面には、相互に間隔を開けて散開配置した散開突起と、移送ベルトの幅方向に複数個が連続して並ぶ横列突起とを形成し、散開突起はその先端が細く尖った円錐体で横列突起より高く、また、横列突起はそれぞれを平頂の方形柱状に形成し、その前端縁と後端縁を移送ベルトの幅方向に向けて配置したことを特徴とする。
【0006】
上記構成の苗植付装置は、苗載台に投入されたマット苗について移送ベルトの表面の複数の散開突起の先端がマット苗の底面に食い込み、かつ、横列突起の頂縁角部がマット苗の底面と干渉して位置決めし、その前端縁と後端縁が移送方向、両側端縁が幅方向の位置ずれを防止することにより、マット苗は、マット苗移送機構の移送ベルトに対して縦横の滑りを生じることなく、移送ベルトの移送ピッチで順次移送され、苗の取分け位置において植付具によって苗が取分けられ、圃場に植付けられる。この場合において、移送ベルトの横列突起は、複数個の方形柱状の突起の集合体であることから、移送ベルトの送り方向とともに幅方向に関しても柔軟性が確保される。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、以下の効果を奏する。
請求項1の構成により、移送ベルトの幅方向を含む柔軟性が確保されるので、マット苗の底面に凹凸があっても、移送ベルトの縦横両方向に付いて横列突起がマット苗の底面の凹凸に沿って追従可能となり、横列突起の横並びの全幅におよぶ干渉位置決めが可能となる。その結果、マット苗は、マット苗移送機構の移送ベルトについて縦横に滑りを生じることなく、移送ベルトの移送ピッチで苗の取分け位置まで順次移送されることから高精度の苗送りによる均一な植付けが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の実施の形態について、以下に図面に基づいて詳細に説明する。
図1の側面図と図2の平面図に本実施例の乗用型田植機を示す。
図1と図2に示すように、乗用型田植機1は走行車両に昇降用リンク装置2で作業装置の一種である苗植付装置3を設けている。乗用型田植機1は駆動輪である左右各一対の前輪6、6および後輪7、7を有する四輪駆動車両である。
なお本明細書では田植機1の前進方向に向かって左右をそれぞれ左側と右側といい、前進方向を前側、後進方向を後側という。
【0009】
図1に示すように、ステップフロア19の下方にあるメインフレーム10にミッションケース11とエンジン12が前後に配設されており、またミッションケース11の前部からステアリングポスト14が上方に突設されている。
【0010】
そして、ステアリングポスト14の上端部にステアリングハンドル16とメータパネル17が設けられている。機体の上部には操縦用のフロアとなるステップフロア19が取り付けられ、エンジン12の上方部に操縦席20が設置されている。
【0011】
前輪6、6は、ミッションケース11の側方に転向可能に設けた前輪支持ケース22、22に軸支されている。後輪7、7は、後輪支持ケース24、24に軸支されている。また、左右の線引きマーカ223は、苗植付装置3の伝動ケース162の左右両端部に起立・転倒可能に設けられている。
【0012】
作業装置3は左右に往復動する苗載タンク163、1株分の苗を取分けて土中に植込む植込杆を有する植付具164、苗植付面を整地するフロート165,166(センターフロート165は接地センサとして機能する)等からなる。
【0013】
苗植付装置3の昇降は、メインフレーム10の後側に設けた昇降用リンク装置2を介して苗植付装置3を連結し、昇降シリンダ160の伸縮によって昇降させて、非作業位置に上昇したり、対地作業位置に下降したりすることができる。また、苗植付装置3への動力伝達は、前記エンジン12からPTO伝動軸167(図1)を介して行われ、このPTO伝動軸167の伝動を入り切りするPTO(植付)クラッチ(図示せず)を介して行われる。
【0014】
油圧式無段変速装置(HST)5はハンドル16の右側に設けられる変速レバー110によって変速操作される。この変速レバー110を中立位置に操作したときは、走行駆動停止状態とし、変速レバー110を前側へ操作することによって前進高速状態とし、中立位置から後側へ操作することによって後進高速状態として、変速レバー110の傾斜角度に応じて前、後進速度を増減速することができる。
【0015】
苗植付装置3は、田植機1に昇降用リンク装置2で昇降自在に装着されているが、その昇降機構と苗植付装置3の構成について説明する。
先ず、田植機1に基部が回動自在に設けられた一般的なリフトシリンダー160(図1)のピストン上端部を昇降用リンク装置2に連結し、リフトシリンダー160に圧油を供給・排出して、リフトシリンダー160のピストンを伸進・縮退させて昇降用リンク装置2に連結した苗植付装置3が上下動されるように構成されている。
【0016】
苗植付装置3は、昇降用リンク装置2の後部にローリング軸を介してローリング自在に装着されたフレームを兼ねる植付伝動ケース162と、該植付伝動ケース162に設けられた支持部材に支持されて機体左右方向に往復動する苗載台163と、植付伝動ケース162の後端部に装着され前記苗載台163の下端より1株分づつの苗を取分けて圃場に植え付ける植付具164と、植付伝動ケース162の下部にその後部が枢支されてその前部が上下揺動自在に装着された整地体であるセンター(センサー)フロート165・サイドフロート166等にて構成されている。センターフロート165、サイドフロート166は、圃場を整地すると共に植付具164にて苗が植付けられる圃場の前方を整地するべく設けられている。
【0017】
苗植付装置3の苗載台163には、植付具164による苗の取分け位置までマット苗を順次送る左右の移送ベルト171,171を植付け条毎に左右対称に平行に備える。これら左右の移送ベルト171,171は無端のゴムベルトであり、その表面側には、図3のベルト単体の要部側面図(a)とその正面図(b)に示すように、相互に間隔を開けて散開配置したいぼ状(スパイク状)の散開突起172…と、移送ベルトの幅方向に複数個が連続して並ぶ略下駄歯状配置の横列突起173…とを形成する。
【0018】
詳細には、図3(a)におけるA−A線拡大断面図を図4に示すように、散開突起172はその先端が細く尖った円錐体で横列突起173より高く、また、横列突起173はそれぞれ平頂の方形柱状に形成し、平頂の前端縁と後端縁を移送ベルトの幅方向に向けて配置したする。両移送ベルト171,171の裏面側には、不図示の送りローラのスプロケットと噛合する台形断面の歯174…を等配に横列突起173の位置を避けて形成する。
【0019】
上記構成の苗植付装置3は、苗載台163に投入されたマット苗について移送ベルト171,171の表面の複数の散開突起172…の先端がマット苗の底面に食い込み、かつ、横列突起173…の頂縁角部がマット苗の底面と干渉して位置決めし、その前端縁と後端縁が移送方向、両側端縁が幅方向の位置ずれを防止することにより、マット苗は、移送ベルト171,171に対して縦横の滑りを生じることなく、同移送ベルト171,171の移送ピッチで順次移送され、苗の取分け位置において植付具164によって苗が取分けられ、圃場に植付けられる。この場合において、移送ベルト171,171の横列突起173…は、複数個の方形柱状の突起の集合体であることから、移送ベルト173…の送り方向とともに幅方向に関しても柔軟性が確保される。
【0020】
したがって、マット苗の底面に凹凸があっても、移送ベルト171,171の縦横両方向について横列突起173…がマット苗の底面の凹凸に沿って追従可能となり、横列突起173…の横並びの全幅におよぶ干渉位置決めが可能となる。その結果、マット苗は、移送ベルトに対して縦横の滑りを生じることなく、移送ベルト171,171の移送ピッチで苗の取分け位置まで順次移送されることから、高精度の苗送りによる均一な植付けが可能となる。
【0021】
また、移送ベルトの別の構成例として、図5の配置構成図に示すように、植付け条毎に平行する左右の移送ベルト175,175の両内側範囲の所定幅内には、散開突起172…を配置した散開突起領域172aを形成し、残りの両外側範囲に横列突起173…を配置した横列突起領域173aを形成する。このように左右の移送ベルト175,175を構成することにより、マット苗の両側端の移送精度を確保することができるので、苗載台163がその往復端に来た時のマット苗の欠株を防ぐことができる。また、移送ベルト175,175の幅方向(左右方向)において散開突起領域172aと横列突起領域173aとを区分けしているので、移送ベルト175,175の移送方向にわたっていずれの領域172a,173aも存在するために移送の安定化が図れるとともに、散開突起172…および横列突起173…のうちの一方が苗の底面を押し上げることで他方の移送作用が十分に得られないようなことを回避でき、苗の状態にかかわらず苗の移送を適正に維持することができる。
【0022】
苗載台163の構成は、図6の要部正面図(a)とそのA―A線断面図(b)に示すように、左右の移送ベルト171,171の装着用長穴163s、163sにそれぞれ蓋176、176を設ける。それぞれの蓋176、176は、装着用長穴163s、163sを塞ぐとともに、左右のベルト171、171をそれぞれ持ち上げるように厚さ方向に高く突状に形成する。この突状の蓋176、176により、左右のベルト171、171の保持力を向上することができる。
【0023】
また、苗載台163の表面には、その要部横断面図を図7に示すように、左右のベルト171、171を受ける範囲にベルト送り方向に延びる突条177…を形成し、この突条177…を左右のベルト171、171の散開突起172…の幅方向位置と対応して配置する。このように苗載台163と移送ベルト171を対応して構成することにより、接触抵抗を抑えつつ、左右のベルト171、171の支持力を確保することができる。
【0024】
次に、乗用型田植機1の機体に設けた乗降用の格子型ステップ181は、図8の平面図(a)およびその格子部材の詳細図(b)に示すように、縦182…および横183…の各格子部材は、互いに隣接する区画183t、183bを単位としてそれぞれの高さ寸法を高低に形成して順次凹凸状に構成する。このように構成した格子型ステップ181は、表面の凹凸により、マット等を要することなく、簡易に滑り止め作用を確保することができる。
また、機体の両側に左右のステップを配置する場合にあっては、上記凹凸構造を格子型ステップ181の上下の両面について同様に構成することにより、左右部材の共通化によるコストダウンが可能となる。
【0025】
次に、畦クラッチのレバーガイド184は、図9の平面図に示すように、所要の長穴によるガイド穴184h、184hを形成し、その上端部を折り曲げてステップ受184tを形成し、これを操縦席の脇位置のレバー支持フレーム185に取付ける。上記レバーガイド184は、図10のレバー構成の透視側面図に示すように、ステップ受184tにステップ186を取付ける。このように構成することにより、ステップステー等の特段の支持部材を要することなく、コストダウンおよび重量軽減を図りつつ、ステップ186を機体に支持することができる。
【0026】
次に、除草剤散布機191は、乗用型田植機の別の構成例の側面図を図11に示すように、ミッド構成とし、エンジン12を機体前部に配置し、操縦席20の下方に送風機192と粒状施肥機193を配置する。このように構成することにより、作業性を向上することができる。
【0027】
また、除草剤散布機191の貯留タンクおよび繰出部が、操縦席20の後側(後方)で苗植付装置3の前側(前方)の位置に配置されており、施肥気93の送風機192、貯留タンクおよび繰出部が、操縦席20の下方位置に配置されており、施肥量が少なく容量の小さい除草剤散布機191の貯留タンクが、施肥機193の貯留タンクより後側で高い位置に配置されている。
【0028】
上記構成により、除草剤散布機191の貯留タンクは、容量が小さいので、操縦席20側から苗植付装置3への苗補給時に邪魔になりにくく、苗補給作業性が向上すること、後部に苗植付装置3があって後バランスになりがちな田植機において、機体の前後重量バランスを向上させ、ひいては走行性能が向上し、植付性能が良好に維持できること、および、容量が大きく比較的重量がある施肥機193の貯留タンクが低位に配置されることで、機体の低重心化が図れ、機体の転倒が抑えられて安全であること等の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】乗用型田植機の側面図である。
【図2】図1の乗用型田植機の平面図である。
【図3】移送ベルトの単体要部側面図(a)とその正面図(b)である。
【図4】図3(a)におけるA−A線拡大断面図である。
【図5】移送ベルトの表面突起の別の構成例の配置構成図である。
【図6】苗載台の要部正面図(a)とそのA―A線断面図(b)である。
【図7】苗載台要部の横断面図である。
【図8】格子型ステップの平面図(a)およびその格子部材の詳細図(b)である。
【図9】畦クラッチのレバーガイドの平面図である。
【図10】レバー構成の透視側面図である。
【図11】乗用型田植機の別の構成例の側面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 乗用型田植機
2 昇降用リンク装置
3 苗植付装置(作業装置)
6 前輪
7 後輪
10 メインフレーム(車体)
16 ステアリングハンドル
20 操縦席
162 植付伝動ケース
163 苗載台(苗載タンク)
163s 装着用長穴
164 植付具
165,166 フロート
167 PTO伝動軸
171 移送ベルト
172 散開突起
172a 散開突起領域
173 横列突起
173a 横列突起領域
175 移送ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マット苗の一端からその一部を取分けて圃場に植付ける植付具と、この植付具による苗の取分け位置までマット苗を順次送る移送ベルトによるマット苗移送機構を構成した苗載台とを備える苗植付装置において、
上記移送ベルトの表面には、相互に間隔を開けて散開配置した散開突起と、移送ベルトの幅方向に複数個が連続して並ぶ横列突起とを形成し、散開突起はその先端が細く尖った円錐体で横列突起より高く、また、横列突起はそれぞれを平頂の方形柱状に形成し、その前端縁と後端縁を移送ベルトの幅方向に向けて配置したことを特徴とする苗植付装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−325459(P2006−325459A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151962(P2005−151962)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】