説明

苗植機

【課題】苗を植え付けた後の苗植付体に付着した泥を剥離させることで、苗植付体による苗の植付をスムーズに行うことができる苗植機を提供すること。
【解決手段】底蓋が開放可能である複数の苗供給カップ41を載せた苗供給装置40の下方に位置してリンク機構3により所定の作動軌跡で上下動して圃場に苗を植え付ける苗植付体4aを備え、苗植付体4aの前方にスクレーパ70を配置したので、植付けた苗を倒すようなことがなく、良好な植付が行え、また、苗植付体4aのリンク機構3の上下駆動部Aにスクレーパ70の駆動機構Bを連繋したのでスクレーパ70の苗植付体4aに対して作用する駆動構成が簡潔で的確なスクレープ作用が行え、また、スクレーパ70と苗植付体4aの連携が適切となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、苗植付体を用いて苗を圃場に植え付ける苗植機の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
上下動機構により所定の作動軌跡で上下動して圃場に苗を植え付ける構成のくちばし状の苗植付体を左右に各々設け、該左右各々の苗植付体へ苗を供給する左右各々の苗供給装置を設け、前記苗供給装置は、苗を収容する複数の苗収容体となる苗供給カップと、該複数の苗供給カップを所定の配列ピッチでループ状に配置し順次苗植付体の上方を通過するように周回移動させる移動機構と、該移動機構により苗収容体が苗植付体の上方位置となる落下供給位置に移動すると苗収容体が収容する苗を上下動機構で上動した苗植付体へ落下供給させる苗落下供給機構とを備えた複数条植えの苗植機において、左右一方の苗植付体を移動できる植付位置変更機構を設けたものがある(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−84827号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記背景技術に記載の苗植機は、苗植付体が苗収容体から受け取った苗を下動させて圃場に植え付ける構成であるが、苗を植え付けた後の苗植付体には圃場の泥が付着して次回の苗の植付時に付着した泥が苗植付体から圃場への苗の移動を阻害することがある。
そこで、本発明の課題は、苗を植え付けた後の苗植付体に付着した泥を剥離させることで、苗植付体による苗の植付をスムーズに行うことができる苗植機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この発明は、上記課題を解決すべく次のような技術的手段を講じた。
すなわち、請求項1記載の発明は、走行装置(1)に苗をそれぞれ収納し、底蓋が開放可能である複数の苗供給カップ(41)を所定の搬送経路に沿って搬送する苗供給装置(40)を設け、該苗供給装置(40)の下方に苗供給装置(40)により搬送、供給された苗を圃場に植え付けるための苗植付体(4a)を有する苗植付装置(4)を設け、該苗植付装置(4)を所定の作動軌跡で上下動させるリンク機構(3)を走行装置(1)に設け、該リンク機構(3)を上下動させる植付伝動ケース(18)内の植付伝動機構を走行装置(1)に設けた苗植機において、
前記リンク機構(3)を上下動させる上下駆動部(A)を前記植付伝動機構に連結し、
前記植付伝動機構には、苗植付体(4a)に押圧したときに該苗植付体(4a)の汚れを取るスクレーパ(70)と、該スクレーパ(70)を前後方向に動作させる駆動機構(B)を設け、
前記上下駆動部(A)と駆動機構(B)は、上下駆動部(A)と駆動機構(B)に共通する駆動軸(53)を設け、該駆動軸(53)を介して互いに連動する構成を設けた苗植機である。
【0005】
請求項2記載の発明は、前記リンク機構(3)は、前記植付伝動機構にそれぞれ駆動中心を有する上下駆動部(A)の構成部材である駆動アーム(55)と駆動アーム(56)の駆動により上下動する上部リンク(3a)と下部リンク(3b)を含み、該下部リンク(3b)は、その一端部が、前記植付伝動機構に基部が回動自在に取り付けられ、かつ上下駆動部(A)の一構成部材である揺動アーム(60)の先端部に枢着され、上部リンク(3a)は、駆動機構(B)の一構成部材でもある前記植付伝動機構にそれぞれ駆動中心を有する駆動カム(61)と、該駆動カム(61)に接当するカムローラ(62)、該カムローラ(62)を先端に設け、前記植付伝動機構に固定支持された回動軸(64)を中心として揺動する揺動アーム(65)と、前記回動軸(64)と一体のスクレーパ(70)を先端に有する作動アーム(69)と連動する請求項1記載の苗植機である。
【0006】
請求項3記載の発明は、苗植付体(4a)の上部側には苗供給カップ(41)から供給される苗を受け入れる苗収納筒部(4a3)と該苗収納筒部(4a3)の下方に設けられ、下端部が開放自在の左右一対の苗植付片(4a1,4a2)を備え、スクレーパ(70)には左右一対の苗植付片(4a1,4a2)の外側面と内側面に接当する掻き取り部材(70a,70b)を備えている請求項2記載の苗植機である。
【0007】
本発明の実施例中のリンク機構(3)の上下駆動部(A)は、上部リンク(3a)、下部リンク(3b)、駆動軸(53)、第1回転軸(54)、第1駆動アーム(55)、第2駆動アーム(56)、駆動軸(57)、第2回転軸(58)及び揺動アーム(60)を含み、本発明の実施例中のスクレーパ(70)の駆動機構(B)は、駆動軸(53)、第1主動カム(61)、第1従動カムローラ(62)、揺動軸(63)、回転軸(64)、第1従動アーム(65)及び作動アーム(69)を含む。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の発明によれば、苗植付体(4a)の前方にスクレーパ(70)を配置したので、植え付けた苗を倒すようなことがなく、良好な植え付けが行える。
請求項1、2記載の発明によれば、苗植付体(4a)のリンク機構(3)の上下駆動部(A)とスクレーパ(70)の駆動機構(B)によりスクレーパ(70)を駆動させているので、スクレーパ(70)の駆動構成が簡潔で的確なスクレープ作用が行える。また、スクレーパ(70)と苗植付体(4a)の連携が適切となる(苗植付体が上昇した位置で短時間でスクレープできる)。
【0009】
請求項3記載の発明によれば、請求項2記載の発明の効果に加えて、スクレーパ(70)の一対の掻き取り部材(70a,70b)が、一対の苗植付片(4a1,4a2)の外側面と内側面をそれぞれ押圧して、前記側面に付着した泥を効果的に除くことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施例では、ねぎ等の苗を畝の間の溝部又は平地に植付ける苗植機を例にして図面と共に説明する。
図1に本発明の一実施形態による苗植機の側面図を示す。
なお、本実施例についての説明で前又は後というときは、操縦ハンドル2を配置した側を後とし、その反対側、即ちエンジン5を配置した側を前とする。そして、右又は左というときは、機体後部において機体前部側を前側として立つ作業者から見て右手側を右とし、左手側を左としていう。
【0011】
苗植機は、走行装置1と操縦ハンドル2を備えた機体に、昇降駆動するリンク機構3と連結して昇降動作する開閉可能なくちばし状の苗植付体4aを備えた苗植付装置4を設けた構成としている。
走行装置1は、図示例では、エンジン5と、該エンジン5の動力が伝達されて駆動回転する左右一対の後輪7,7と、転動自在に支持した左右一対の前輪6,6とを備えたものとしている。
【0012】
エンジン5の後部には、ミッションケース8を配置し、そのミッションケース8は、その左側部からエンジン5の左側方に延びるケース部分を有し、これがエンジン5の左側部と連結している。このケース部分にエンジン5の出力軸が入り込んでミッションケース8内の伝動機構に動力が伝達される構成となっている。ミッションケース8の左右両側部に伝動ケース9,9を回動自在に取り付け、この伝動ケース9,9の回動中心にミッションケース8から左右両外側方に延出させた車輪駆動軸9Aの先端が入り込んで伝動ケース9,9内の伝動機構に走行用の動力を伝達している。そして、走行用の動力は伝動ケース9,9内の伝動機構を介して、機体後方側に延びてその後端側側方に突出する車軸10,10に伝動され、後輪7,7が駆動回転するようになっている。
【0013】
また、伝動ケース9,9のミッションケース8への取付部には、上方に延びるアーム9B,9Bを一体的に取り付けている。昇降用油圧シリンダ15の図示しないピストンロッドの先端には横杆(図示せず)が取り付けられており、該横杆の左右端部が各々左右アーム9B,9Bに連結されている。そして、昇降用油圧シリンダ15が作動してそのピストンロッドが突出すると、これに伴い横杆及び左右アーム9B,9Bを介して伝動ケース9,9が下方に回動して、機体が上昇する。
【0014】
反対に、昇降用油圧シリンダ15のピストンロッドが収縮すると、左右の前記アーム9B,9Bは前方に回動し、これに伴い伝動ケース9,9が上方に回動して、機体が下降する。この昇降用油圧シリンダ15は、機体に対する圃場面(畝U)の高さを検出するセンサの検出結果に基づいて機体を圃場面(畝U)に対して設定高さになるよう作動するよう構成しており、また、操縦ハンドル2近傍に配置した操作具28の人為操作によって機体を上昇或は下降させるよう作動する構成ともしている。
【0015】
また、左右水平制御用油圧シリンダ13のピストンロッド(図示せず)が伸縮作動すると、左の伝動ケース9を上下動させ機体を左右に傾斜させる。この左右水平制御用油圧シリンダ13は、手動レバーの操作に基づいて機体を所望の左右傾斜姿勢になるように作動する構成にしている。
一対の前輪6,6は、車体に支持された左右一対の前輪支持フレーム16に取り付けられた車軸17に回転自在に取り付けられている。
【0016】
操縦ハンドル2は、ミッションケース8に前端部を固定した機体フレーム14の後端部に取り付けられている。機体フレーム14は、機体の左右中央から右側に偏った位置に配置されて後方に延び、また、前後中間部から斜め後上方に延びている。操縦ハンドル2は、機体フレーム14の後端部から左右に後方に延びてその各後端部を操縦ハンドル2のグリップ部2a,2aとしている。操縦ハンドル2の左右のグリップ部2a,2aは、作業者がそのグリップ部2a,2aを楽に手で握れるように適宜高さに設定する。なお、図例ではグリップ部2a,2aを左右に分かれた構成としているが、操縦ハンドル2の左右の後端部を互いに左右に連結してその連結部分をグリップ部2a,2aとしても良い。
【0017】
リンク機構3は上部リンク3aと下部リンク3bからなり、ミッションケース8内から苗植付け具駆動用の動力を受けて伝動する伝動機構を内装する植付け伝動ケース18に装着している。図例のように植付伝動機構を収納した植付伝動ケース18は、その前部がミッションケース8の後部に連結し、そこから後斜め上方に延びる第一ケース部18aと、この第一ケース部18aの上部左側部に固定され、左側方に延びる第二ケース部(図示せず)と、その第二ケース部の左端部に固定され、後斜め下方に伸びる第三ケース部18cを有するものとしている。これら第一ケース部18a〜第三ケース部18c内にリンク機構3を昇降駆動するための動力を伝達する伝動機構を内装している。
【0018】
なお、第一ケース部18a内に内装した伝動機構には、リンク機構3及び苗植付装置4をその昇降動最上位の位置で、又はその近傍位置で設定時間停止させる間欠駆動機構と、リンク機構3及び苗植付装置4の昇降動を停止させるクラッチ機構とを備えている。間欠駆動機構によって停止する時間は、該間欠駆動機構が備える変速機構によって調節され、この調節によって苗植付装置4による苗植付株間が変更調節されるようになっている。
【0019】
そして、リンク機構3は、後述の作動機構により上下揺動しながら昇降動し、その結果、苗植付装置4の下端部が側面視で上下に長い略楕円形状の軌跡(イ)で昇降動する。
【0020】
苗植付装置4には、下方に向かって伸び左右方向に開くくちばし状の苗植付体4aを設けている。そして、落下した苗を収納した苗植付装置4はリンク機構3によって、側面視で上下に長い略楕円形状の軌跡(イ)に従って下降して圃場内に挿入され、左右のくちばし状の苗植付体4aが機体左右方向に開放すると苗が圃場に植え付けられ、その後に苗植付装置4が上昇する。
【0021】
苗植付装置4の下端部が左側方から見て反時計回りに略楕円形状の軌跡(イ)で昇降回動する。従って、作業走行しながら苗植付装置4が上記回転方向で前記軌跡を描くように昇降回動すると、軌跡(イ)の下端部で苗植付装置4の下端部が圃場の畝の泥壌中に苗を植付け、くちばし状の苗植付体4aを備えた苗植付装置4は、機体左右方向に開いて苗植付装置4内の苗を畝の泥壌に放出する。そのため、苗植付装置4で苗の左右方向の隣接する畝の斜面に寄せられた泥が、再度苗の周辺に流入し易くなり、より鎮圧輪38,38で覆泥し易くなる。また、機体左右方向に開くことで、苗を溝部の泥壌中に植え付けて挿して上昇するときに植え付けた苗に苗植付装置4があたって苗の植付姿勢を乱すことを防止することができる。これは特にねぎ等のように長い苗を植え付ける場合に効果がある。
【0022】
苗供給装置40は機体の左右に配置したスプロケット(図示せず)の一方の回転軸51aと第一ケース部18aとを伝動軸52を介して連結することでエンジン5からの動力を伝動して左右のスプロケットを回転駆動させて苗供給カップ41を周回移動させる構成としている。
【0023】
苗供給装置40の上方には、多数の苗供給カップ41が等間隔で連結され、苗供給カップ41の周回移動軌跡に沿う移動を案内するガイド体42を苗供給カップ41…の周回移動軌跡の内側と外側とにそれぞれ設けている。これにより、苗供給カップ41…の周回移動が適確且つ円滑に行われる。
苗供給カップ41の周回移動中の所定位置で、その底蓋が開放してカップ41内の苗を苗植付体4aの上方開放口から苗植付体4aに供給する。
【0024】
ミッションケース8の右側部には第一株間調節レバーを設け、該第一株間調節レバーの操作によりミッションケース8内のギヤの噛み合いを変更して機体の走行速度に対する苗植付装置4の駆動を変速して苗の植付株間を変更できるようになっている。これとは別に、植付伝動ケース18の右側部には第二株間調節レバーを設け、該第二株間調節レバーの操作により植付伝動ケース18内のギヤの噛み合いを変更して機体の走行速度に対する苗植付装置4の間欠駆動周期を変更して苗の植付株間を変更できるようになっている。
【0025】
前記操縦ハンドル2の前側で苗供給装置40の後側には、操作パネル29を設けている。この操作パネル29には後輪7,7及び苗植付装置4の駆動を共に入切可能な主クラッチレバーと、油圧昇降シリンダ15による機体の昇降操作及び苗植付装置4のみの駆動の入切が行える植付・昇降(サブクラッチ)レバー(操作具)28とを設けている。また、操縦ハンドル2の左右それぞれの把持部2a,2aの下方にはサイドクラッチレバー30を設け、このサイドクラッチレバー30の操作により左右一対の後輪7,7の左右一方の駆動を断つようになっている。そして、オペレータが操縦ハンドル2を押し下げ前輪6,6を宙に浮かせた状態で左右一方のサイドクラッチレバー30を操作して左右一方の後輪7の駆動を断ち、該後輪7を中心に機体を旋回させるようになっている。
【0026】
次に苗植付装置4について苗植付装置4の側面図である図2により説明する。
図2に示すように、苗植付装置4は、先端が下方に向かうくちばし状の左右の苗植付片4a1,4a2を有する苗植付体4aと、該苗植付体4aの下端部が圃場面より上方となる位置と圃場面より下方となる位置とに昇降するように苗植付装置4を上下動させる上部リンク3aと下部リンク3bからなるリンク機構3と、くちばし状の苗植付体4aの下端部が閉じて上方から苗を受け入れて内側に苗を収容可能にする閉状態と、苗植付体4aの下端部が左右に開いて内側に収容した苗を下方に放出可能する開状態とに苗植付体4aを開閉する開閉機構を備えている。
【0027】
この苗植機は、苗植付体4aを左右に設定間隔で複数体並べて配備した複数条植の構成としている。本例では、苗植付体4aを左右に設定間隔で二体並べて配備した二条植えの構成としている。
【0028】
本実施例の苗植機では、苗植付体4aの前方にスクレーパ70を配置することで、苗植付作業工程の中で苗植付体に付着した泥を取り除く構成を備えている。
【0029】
苗植付体4aの上下作動は、植付伝動ケース18a内の駆動系から伝動ケース18cの側壁面に突出した駆動軸53,57と該駆動軸53,57により駆動される第1駆動アーム55と第2駆動アーム56を介してそれぞれ上部リンク3aと下部リンク3bが上下動することに伴って行われる。
【0030】
植付伝動ケース18内の駆動系に連結した第1駆動アーム55は前記駆動軸53により駆動され、該駆動軸53が第1駆動アーム55の基部側に固着されて、該第1駆動アーム55の先端部側に第1回転軸54を枢着し、該第1回転軸54には上部リンク3aの一端が回動自在に枢着している。従って駆動軸53が植付伝動ケース18内の駆動系により駆動すると、第1駆動アーム55の先端の第1回転軸54が駆動軸53を中心に回転し、第1駆動アーム55の回転で上部リンク3aが上下に動く。
【0031】
また、第2駆動アーム56の駆動軸57が植付伝動ケース18内の駆動系により駆動すると、第2駆動アーム56の先端部側に枢着した第2回転軸58が駆動軸57を中心に回転する。該第2回転軸58が下部リンク3bの中央部に枢着されているので、該第2駆動アーム56の回転で下部リンク3bも上部リンク3aと同様に第2駆動アーム56の回転で上下に動く。
【0032】
第1、第2駆動アーム55,56の先端部側にある各第1回転軸54,第2回転軸58が同期しながらそれぞれ駆動軸53,57を中心に回転し、第1回転軸54,第2回転軸58がそれぞれ上部リンク3a、下部リンク3bを上下動させることで苗植付体4aが上下動する。これら上部リンク3a、下部リンク3b、駆動軸53、第1回転軸54、第1駆動アーム55、第2駆動アーム56、駆動軸57、第2回転軸58及び揺動アーム60などをリンク機構3の上下駆動部Aとする。
【0033】
また、下部リンク3bの他端部側は植付伝動ケース18cに基部が揺動自在に連結している揺動アーム60の先端部に枢着している。揺動アーム60は、その基部が伝動ケース18の上側コーナ部に枢着しており、植付伝動ケース18c内の駆動系により駆動軸53,57の駆動により、第1駆動アーム55,第2駆動アーム56が各々駆動軸53,57を中心に回転し、上部リンク3a及び下部リンク3bが上下に動くが、その時に下部リンク3bに枢着されている揺動アーム60の揺動にて、苗植付体4aの下端の左右くちばし体(苗植付片)4a1,4a2が図1及び図2に示す軌跡(イ)を有する運動をする。
【0034】
苗植機の機体左側面から見た苗植付装置4を示す図2により、スクレーパ70が第1駆動アーム55の駆動に伴って動く構成を説明する。
第1駆動アーム55が取り付けられた植付伝動ケース18cの右側面に対向する左側面において第1駆動アーム55の駆動軸53に第1主動カム61が固着している。該第1主動カム61に第1従動カムローラ62が接当しており、第1従動カムローラ62の揺動軸63が第1主動カム61と同じ植付伝動ケース18cの側面に支持固定された回転軸64を中心に回動する第1従動アーム65の先端部にフリー回転可能に設けられている。
【0035】
従って、植付伝動ケース18c内の駆動系から動力が伝達される第1主動カム61が第1駆動アーム55の駆動軸53にて回転すると、その動きに連動して第1従動カムローラ62が第1従動アーム65の回転軸64を中心に揺動する。また第1従動アーム65の回転軸64にはスクレーパ70の駆動用の作動アーム69の基部が固着している。
【0036】
従って、第1駆動アーム55の駆動軸53を中心とする回動に伴って第1主動カム61が回動すると、該第1主動カム61に接当する第1従動カムローラ62が第1主動カム61のカム面に押されて作動し、該第1従動カムローラ62の作動に伴い、第1従動カムローラ62の揺動軸63と一体の第1従動アーム65が揺動し、該第1従動アーム65の揺動に連動して作動アーム69の先端に取り付けたスクレーパ70が前後方向(矢印C方向)へ移動する動作を繰り返す。これら駆動軸53、第1主動カム61、第1従動カムローラ62、揺動軸63、回転軸64、第1従動アーム65及び作動アーム69などをスクレーパ70の駆動機構Bとする。
【0037】
このように苗植付体4aの上下動用の一対のリンク部材である上部リンク3aと下部リンク3bの動きに合わせてスクレーパ70を前後方向(矢印C方向)へ動かし、スクレーパ70は苗植付体4aの左右くちばし体(苗植付片)4a1,4a2から離れた位置と左右くちばし体(苗植付片)4a1,4a2に接当する位置とに移動する。
【0038】
次に、苗植付体4aの左右一対のくちばし体(苗植付片)4a1,4a2の下端部側を開閉させる開閉用のリンク機構について説明する。
第1駆動アーム55の第1回転軸54は、該第1回転軸54に固着した第3駆動アーム73の回転軸として用いられ、第3駆動アーム73の中途部に設けられた回動軸74に第2従動カムローラ75が回動自在に取り付けられている。
【0039】
第2駆動アーム56の先端部の第2回転軸58に第2主動カム77を固着させて、第2主動カム77が回転する構成とし、第2駆動アーム56が駆動軸57を中心として回転すると、第2回転軸58が駆動軸57を中心に回転するので、該第2回転軸58を中心として第2主動カム77も回転する。
【0040】
該第2主動カム77は第2従動カムローラ75と接当しているので、第2駆動アーム56が、その駆動軸57を中心に回転すると第2主動カム77も第2回転軸58を中心に回転し、第2主動カム77の回転に伴い、第2主動カム77に接当する第2従動カムローラ75が揺動して第3駆動アーム73を揺動させる。
【0041】
また、第3駆動アーム73の先端部にワイヤWの一端が回動自在に取り付けられている。さらにワイヤWの他端はアーム81の先端に連結している。該アーム81は苗植付体4aの上端開口部を有する苗収納筒部4a3の側面に設けられた枢着軸80に回動自在に取り付けられている。
従って前記第2駆動アーム56の回転に伴い第3駆動アーム73が揺動すると、ワイヤWの他端は苗植付体4aの上端側面に設けられたアーム81を揺動させる。
【0042】
アーム81の回転軸80には該アーム81と約90°の角度でアーム81と一体のアーム82が設けられていて、該アーム82の先端には苗植付体4aの上方の苗収納筒部4a3の前面に設けた連結部材85が連結されている。連結部材85の先端が下動すると、苗植付体4aの左右のくちばし体4a1,4a2の下端は左右方向に開いて苗を開放する。
【0043】
従って第2駆動アーム56の回転軸57を中心とする矢印E方向への回転が始まると、第2主動カム77、第2従動カムローラ75、第3駆動アーム73及びワイヤWが順次連動し、ワイヤWがF方向に移動するとアーム81、82、85を経由して苗植付体4aの左右一対のくちばし体4a1,4a2の下端部が開放する。
【0044】
図3にスクレーパ70の底面図を示すように作動アーム69の先端にほぼ水平方向に平面を有するスクレーパ70は苗植付体の左右一対のくちばし体4a1,4a2の外側面と内側面の両方を清掃することができるように、くちばし体4a1,4a2の外側面に作用する大略「コ」字状の外側スクレーパ70aとくちばし体4a1,4a2の内側面に作用する先端が尖った大略三角形状の内側スクレーパ70bとからなる。外側スクレーパ70aと内側スクレーパ70bは大略「ヨ」字状の金属製スクレーパフレーム71に支持されたゴム製部材であり、くちばし体4a1,4a2の表面に付いた泥を擦り取るときに騒音が出ない。
【0045】
外側スクレーパ70aはスクレーパフレーム71に対して3箇所以上の止め部71a〜71cで支持することでゴム製の外側スクレーパ70aに腰を持たせせている。また、ゴム製の内側スクレーパ70bはスクレーパフレーム71の中央の突出片に1箇所71dの止め部で支持されている。
【0046】
外側スクレーパ70aの「コ」字状の先端部は突起部70a1としているので開いた一対のくちばし体4a1,4a2の外側に外側スクレーパ70aを挿入するときにスクレーパ70の突起部70a1をくちばし体4a1,4a2の外側面に沿って確実にくちばし体4a1,4a2の外側にスクレーパ70を挿入することができるようにした。
【0047】
また、内側スクレーパ70bの略三角形状の先端部は内側スクレーパ70bの両側にくちばし体4a1,4a2が入りやすくするためである。さらに、外側スクレーパ70aが金属製スクレーパフレーム71の下側に取り付けられていることで、スクレーパ70が上向きにめくれても金属製スクレーパフレーム71により支持され、ゴム製のスクレーパ70が切断され難い。また、内側スクレーパ70bの後方部位は幅広くなっているが、この後方部位も、その中央部を金属製スクレーパフレーム71で支持されているので、腰がでるためくちばし体4a1,4a2の後側の泥も容易に取ることができる。
こうして内外のスクレーパ70により苗植付体4aの内外面に付着した泥も一度の清掃動作で容易に落とすことができる。
【0048】
上記構成からスクレーパ70と苗植付体の構成は次のような作動とその作動による作用効果がある。
苗植付体4aで圃場に苗を植え付ける時、左右一対のくちばし体4a1,4a2の下端部は左右に開いて苗を開放し、その開いた開放状態のまま軌跡(イ)の動きで上方に移動するが、その開放状態の左右一対のくちばし体4a1,4a2の内外に内側スクレーパ70bと外側スクレーパ70aが入り込み、くちばし体4a1,4a2が上昇する過程で内側スクレーパ70bと外側スクレーパ70aによりくちばし体4a1,4a2の内側面と外側面に付着した泥が除かれる。
【0049】
またくちばし体4a1,4a2の内側に作用する内側スクレーパ70bの最大幅Aは一対のくちばし体4a1,4a2を最大限開いたときのくちばし体4a1,4a2の間隔よりも大きくなっている。更に、くちばし体4a1,4a2の内側に作用する内側スクレーパ70bの幅Bの形状ははくちばし体4a1,4a2の内側の形状に合わせた構成になっており、くちばし体4a1,4a2に入りやすいように肉厚を薄くしている。
【0050】
図4は、苗植付体4aの動きに対して苗植付体4aに作用するスクレーパ70の位置関係を示す説明図である。
図4(a)〜図4(h)に示すように苗植付体4aは軌跡(イ)(図2)に従って移動する過程で図4(a)〜図4(c)の間に苗植付体4aは下降して図4(c)に示す位置で苗を圃場に植え付けを行い、その後図4(d)〜図4(h)の間に苗植付体4aが上昇するが、苗植付体4aの上昇中にスクレーパ70の略三角形状の内側スクレーパ70bは苗植付体4aに対して垂直方向上方から苗植付体4aに向けて近づき、ほぼ図4(e)に示す位置でスクレーパ70の先端部が開いた左右一対のくちばし体4a1,4a2に挿入される。このときスクレーパ70の先端部が上方にめくれ、スムーズに苗植付体4a内に入り、図4(e)〜図4(g)の間でスクレーパ70が苗植付体4aの側面部にほぼ垂直方向から当たっている間に苗植付体4aが上昇するので、一対のくちばし体4a1,4a2に付いた泥を確実に落とすことができる。
【0051】
上記構成において、スクレーパ70を下端部で支持固定する作動アーム69の中間部と植付伝動ケース18cの係止部との間に設けられたスプリング83は、前記第1主動カム61に第1従動カムローラ62を接当する為の付勢用のスプリングである。
【0052】
上記したように、第1主動カム61の回動によりスクレーパ70の作動アーム69は支点64に支持された状態で前後揺動し、苗植付体4aが上動する過程でスクレーパ70が、苗植付体4aに対して図2の矢印Cに示す前後方向に動くように作用する。また、第1主動カム61とそれに接当した従動カム62の形状、これらカム61、62の伝動ケース18への取付位置の調整により任意の位置でスクレーパ70を苗植付体4aに当てることができる。
【0053】
また、苗植付体4aの上下動用の一対のリンク部材である上部リンク3aと下部リンク3bの動きに合わせて苗植付体4aを軌跡(イ)に示すように動かすことができ、また前記上部リンク3aと下部リンク3bに牽制装置が不要であるため、上部リンク3aと下部リンク3bの構造を軽量化でき、上部リンク3aと下部リンク3bの高速駆動が可能である。
【0054】
苗植付体4aの移動に合わせて第1主動カム61によりスクレーパ70が確実に苗植付体4a側に押し出されて苗植付体4a内にスクレーパ70が入り、さらにスプリング83により確実に元の位置に戻るため、上部リンク3aと下部リンク3bを高速作動させても、スクレーパ70が苗植付体4aに挿入される動作及び退避する動作が遅れることがなく、苗植付体4aの軌跡(イ)の短い区間で泥を落とすことができ、苗植付体4aの泥除去作用が確実に行える。また苗植え付け直後の苗植付体4aの高さ方向の比較的上方部位(図4(e)参照)からスクレーパ70が作用し始めるので苗をひっかけない。
【0055】
また苗植付体4aに挿入されるスクレーパ70は苗植付体4aの上方から入り下方へ抜けるかのような動きをするため、苗植付体4aの泥を上から下へ確実に落とすことができ、また、スクレーパ70に泥が溜まらない。
さらに、苗植付体4aの軌跡(イ)に対してスクレーパ70が苗植付体4aの泥を除去した後の苗植付体4aが上昇する過程でスクレーパ70が苗植付体4aから逃げている構成となっている。
【0056】
さらに、別実施例の構成の苗植付装置の側面図を図5に示す。
作動アーム69の先端のスクレーパ70の取り付け部の上下に一対の牽制ローラ90,91を設けており、スクレーパ70が作動して苗植付体4a内外壁の泥を落とす作用をする時に、該牽制ローラ90,91が苗植付体4aの外側壁に接当して、スクレーパ70の苗植付体4aに対する位置を適正に保つ為、適切な苗植付体4aの内外壁の泥落し作用が行える。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態による苗植機の側面図である。
【図2】図1の苗植機の機体左側面から見た苗植付装置を示す図で側面図である。
【図3】図1の苗植機のスクレーパの底面図である。
【図4】図1の苗植機の苗植付体と苗植付体に作用するスクレーパとの位置関係を示す説明図である。
【図5】本発明の他の例を示す苗植付装置の側面図である。
【符号の説明】
【0058】
1 走行装置 2 操縦ハンドル
3 リンク機構 4 苗植付装置
4a 苗植付体 4a1,4a2 苗植付片
4a3 苗収納筒部 5 エンジン
6 前輪 7 後輪
8 ミッションケース 9 伝動ケース
9A 車軸駆動軸 9B アーム
10 車軸 13 左右水平制御用油圧シリンダ
14 機体フレーム 15 昇降用油圧シリンダ
16 前輪支持フレーム 17 車軸
18 植付け伝動ケース
28 植付・昇降(サブクラッチ)レバー(操作具)
29 操作パネル 30 サイドクラッチレバー
38 鎮圧輪 40 苗供給装置
41 苗供給カップ 42 ガイド体
51a 回転軸 52 伝動軸
53 駆動軸 54 第1回転軸
55 第1駆動アーム 56 第2駆動アーム
57 駆動軸 58 第2回転軸
60 揺動アーム 61 第1主動カム
62 第1従動カムローラ 63 揺動軸
64 回転軸 65 第1従動アーム
69 作動アーム 70 スクレーパ
70a 外側スクレーパ 70b 内側スクレーパ
71 スクレーパフレーム
71a,71b,71c,71d 止め部
73 第3駆動アーム 74 回動軸
75 第2従動カムローラ 77 第2主動カム
80 枢着軸 81,82 アーム
83 スプリング 85 連結部材
90,91 牽制ローラ A リンク機構の上下駆動部
B スクレーパの駆動機構 W ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行装置(1)に苗をそれぞれ収納し、底蓋が開放可能である複数の苗供給カップ(41)を所定の搬送経路に沿って搬送する苗供給装置(40)を設け、該苗供給装置(40)の下方に苗供給装置(40)により搬送、供給された苗を圃場に植え付けるための苗植付体(4a)を有する苗植付装置(4)を設け、該苗植付装置(4)を所定の作動軌跡で上下動させるリンク機構(3)を走行装置(1)に設け、該リンク機構(3)を上下動させる植付伝動ケース(18)内の植付伝動機構を走行装置(1)に設けた苗植機において、
前記リンク機構(3)を上下動させる上下駆動部(A)を前記植付伝動機構に連結し、
前記植付伝動機構には、苗植付体(4a)に押圧したときに該苗植付体(4a)の汚れを取るスクレーパ(70)と、該スクレーパ(70)を前後方向に動作させる駆動機構(B)を設け、
前記上下駆動部(A)と駆動機構(B)は、上下駆動部(A)と駆動機構(B)に共通する駆動軸(53)を設け、該駆動軸(53)を介して互いに連動する構成を備えたことを特徴とする苗植機。
【請求項2】
前記リンク機構(3)は、前記植付伝動機構にそれぞれ駆動中心を有する上下駆動部(A)の構成部材である駆動アーム(55)と駆動アーム(56)の駆動により上下動する上部リンク(3a)と下部リンク(3b)を含み、
該下部リンク(3b)は、その一端部が、前記植付伝動機構に基部が回動自在に取り付けられ、かつ上下駆動部(A)の一構成部材である揺動アーム(60)の先端部に枢着され、
上部リンク(3a)は、駆動機構(B)の一構成部材でもある前記植付伝動機構にそれぞれ駆動中心を有する駆動カム(61)と、該駆動カム(61)に接当するカムローラ(62)、該カムローラ(62)を先端に設け、前記植付伝動機構に固定支持された回動軸(64)を中心として揺動する揺動アーム(65)と、前記回動軸(64)と一体のスクレーパ(70)を先端に有する作動アーム(69)と連動することを特徴とする請求項1記載の苗植機。
【請求項3】
苗植付体(4a)の上部側には苗供給カップ(41)から供給される苗を受け入れる苗収納筒部(4a3)と該苗収納筒部(4a3)の下方に設けられ、下端部が開放自在の左右一対の苗植付片(4a1,4a2)を備え、スクレーパ(70)には左右一対の苗植付片(4a1,4a2)の外側面と内側面に接当する掻き取り部材(70a,70b)を備えていることを特徴とする請求項2記載の苗植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−51237(P2010−51237A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219317(P2008−219317)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】