説明

苦汁を用いた塩化カリウムの製造方法

【課題】 製塩工程から生成する苦汁は、多成分を含むため、高純度の塩化カリウムを選択的に回収するには、従来の冷却方法で対応することは難しく、十分な検討がなされていないのが現状である。製塩工程から生成する苦汁の性状に応じた新たな冷却方法を検討し、効率良く安価に純度の高い塩化カリウムを回収する技術が求められている。
【解決手段】本発明が提供する塩化カリウムの製造方法は、製塩工程から生成する苦汁の冷却方法を検討し、効率良く高純度の塩化カリウムを回収することを特徴とするものであり、製塩工程から生成する苦汁に水を添加して、一定温度に保持するよう調整された苦汁中に流入分散させて急冷却することにより、多成分で構成される苦汁中から選択的に塩化カリウムを析出させ、回収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥料及びその原材料、食品添加物、工業用材料として好適な塩化カリウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製塩方法には、海水をイオン交換膜電気透析法により濃縮して真空蒸発法等で加熱蒸発して煮詰め、塩化ナトリウムを析出分離して塩化ナトリウムを製造する場合が多い。(以下、これを製塩工程と言う。)
この製塩工程からは塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硫酸カルシウム等の多くの成分で構成される苦汁が生成する。この苦汁は、製塩工程の設備、運転条件等により異なるが、70℃以上の高温で生成する場合が多い。
当該苦汁は、上記の通り多くの塩類を含有して殆ど飽和状態で抜き出されることが多いため、僅かに冷却されるだけでも塩が析出する。静置冷却する場合、析出する結晶は、マグネシウム塩、カルシウム塩等を含んだ塩化カリウムと塩化ナトリウムの混合物となり、純度の高い塩化カリウムの結晶は得ることは難しい。
下記の先行技術には、苦汁から塩化カリウムを回収する方法が各種提案されている。
【0003】
特開昭55−56014の塩化カリウムの製造方法には、苦汁を冷却し、生成する塩化カリウムと塩化ナトリウムよりなる混合沈殿物を分離し、当該沈殿物に含まれる塩化ナトリウムを溶解するのに必要な水と沈殿物とを接触させて、含有する塩化ナトリウムを溶解分離し塩化カリウムを回収する方法である。この特許の苦汁の冷却方法は、塩化カリウムの溶解度の温度による差を利用した公知の方法を用いているのみで、冷却に関する具体的な技術開示はされていない。この特許は、冷却して回収した塩化カリウムと塩化ナトリウムの沈殿物と水を接触させて塩化ナトリウムを溶解除去して純度の向上を図ると言うものである。
特開平02−22122の塩化ナトリウムと塩化カリウムとの複合塩の製造方法には、一定温度の苦汁中に塩化ナトリウムを残存させて抜き出した後、苦汁を塩化カリウムの析出温度で冷却して、塩化ナトリウムと塩化カリウムの複合塩を製造する方法である。
この特許の苦汁の冷却方法も、先に示した先行技術と同様の公知の方法を用いているのみで、冷却に関する具体的な技術開示はされていない。むしろ積極的に塩化カリウムに塩化ナトリウム混在させて複合塩とすることを目的としている。
特開平09−1105の飛灰中の塩化カリウムの回収方法には、飛灰中の塩化カリウムや塩化ナトリウムを高温水に溶解させ、重金属等を分離した後、適当な温度に冷却して塩化カリウムを選択的に分離回収する方法であるが、予め塩化ナトリウムを溶解除去した塩化カリウムを含んだ溶融飛灰を、熱交換器で昇温した高温水で洗浄溶解して、これを冷却して塩化カリウムを回収する方法である。この特許の冷却方法も、公知の方法を用いているのみで、冷却に関する具体的な技術開示はされていない。この方法では、多成分が共存する苦汁から選択的に塩化カリウムを析出させ、回収することは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭55−56014号公報
【特許文献2】特開平02−22122号公報
【特許文献3】特開平09−1105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、従来から用いられている苦汁から塩化カリウムを回収する方法は、公知の塩化カリウムの温度による溶解度の差を利用して冷却析出させると言うのみで、冷却に関する具体的で新たな技術的開示はなされていない。製塩工程から生成する苦汁は、多成分を含むため、高純度の塩化カリウムを選択的に回収するには、従来の冷却方法では対応することが難しいにもかかわらず、十分な検討がなされて来なかったのが現状である。製塩工程から生成する苦汁の性状に応じた冷却方法を検討し、効率良く安価に純度の高い塩化カリウムを回収する新たな技術が求められている。
本発明は、このような従来の事情に鑑み、製塩工程から生成する苦汁の冷却方法を検討して、簡便で安価に高純度の塩化カリウムを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明が提供する塩化カリウムの製造方法は、製塩工程から生成する苦汁の冷却方法を検討し、効率良く高純度の塩化カリウムを回収することを特徴とするものである。
即ち本発明は、
(1) 製塩工程から生成する70℃以上の苦汁に水を0.5〜5重量%添加した苦汁を、20℃〜50℃の内から設定される一定温度に保持するよう調整された苦汁中に流入分散させて急冷却することにより、多成分で構成される苦汁中から選択的に塩化カリウムを析出させ、回収することを特徴とする苦汁を用いた塩化カリウムの製造方法である。
(2) (1)記載の冷却方法であって、冷却槽内の熱交換部の伝熱面積が、冷却槽の内容積に対して2m/m以上で構成し、冷却槽内の苦汁の流動状態がレイノルズ数で100000以上になるように攪拌され、製塩工程から生成する70℃以上の苦汁に水を0.5〜5重量%添加した苦汁を当該冷却槽内の苦汁に対して1分当たり1/150〜1/20の容量比で流入させることにより、冷却槽内の苦汁温度を20℃〜50℃の内から設定された一定温度に保持するように冷却して、多成分で構成される苦汁中から選択的に塩化カリウムを析出させて、回収することを特徴とする苦汁を用いた塩化カリウムの製造方法である。
【0007】
まず、製塩工程から生成する苦汁であるが、上記に記したように多くの塩類を含み、製塩工程の設備、運転条件等により異なるが、70℃以上、多くは80℃以上の高温で生成する。(以下、高温苦汁と言う。)苦汁は殆ど飽和状態で抜き出されることが多く、僅かに冷却されるだけでも塩が析出する。特に塩化カリウム、塩化ナトリウムが析出しやすく、カーナライト等の複塩、マグネシウムやカルシウムの塩化物、石膏が混入することがある。ゆっくり冷却する場合、例えば一昼夜タンク内で静置して冷却する場合にはこのような析出物になる場合が多い。
【0008】
高温苦汁を冷却する方法を鋭意検討した結果、冷却速度を早くすることにより塩化カリウムが選択的に析出し純度が上がると言う知見が得られたことから、本発明では、予め20℃〜50℃の内から設定された一定温度に保持するよう調整された苦汁中に、高温苦汁を流入分散させて急冷却するという方法を開発して、この目的を達成することができた。この方法を用いることにより、高温苦汁は、80℃以上の温度から設定温度まで短時間に冷却することができると言う特徴がある。従来、高温苦汁を冷却する場合、タンク内の鋼管型熱交換器で熱交換しながら所定の温度まで冷却する方法が用いられているが、常温近くまで冷却するには数十分以上、通常は数時間以上の時間を要し、本発明のように急冷却することは難しい。また、プレート式熱交換器等では冷却時間を短縮することはできるが、本発明のような急冷却は難しい。また析出塩の閉塞による安定運転にも問題がある。
以上説明したように、高温苦汁を急冷却する方法を開発したことが本発明は一つの特徴である。
【0009】
次に、苦汁は溶存している塩類が飽和状態にあるため、僅かな冷却により塩が析出する。上記に示したように、本発明の冷却方法を用いることにより、純度の高い塩化カリウムを析出させることができるが、苦汁の塩類組成によっては塩化ナトリウムの混入が抑制し切れない場合があるため、高温苦汁中に水を0.5〜5.0重量%添加して、僅かに未飽和の状態にする方法を考案した。塩化カリウムの溶解度は、温度による影響が大きく、僅かな冷却でも飽和状態になって析出するが、塩化ナトリウムの溶解度は温度の影響が小さいため、飽和になり難く、析出を抑制することができる。この方法を組み合わせることにより、安定して高純度の塩化カリウムを析出、回収することができる。
高温苦汁への水添加濃度は、0.5重量%〜5.0重量%である。0.5重量%未満では、苦汁を未飽和にするという効果が小さく、逆に5.0重量%を越えると、苦汁の濃度が低下し過ぎて、塩化カリウムの析出量が減少し、経済的でないことによる。好ましくは1.0〜4.0重量%である。苦汁には、多くの塩類が含まれており、製塩工程の運転条件により、塩類濃度、成分構成が変動する場合があるが、水添加を用いることにより対応することができる。本発明で設定した20℃〜50℃と言う温度は、20℃未満に設定すると、水添加で析出を抑えている塩化ナトリウムが析出しやすくなること、50℃を越える温度では、回収できる塩化カリウムの量が少なくなり経済的でないことによる。水添加に用いる水であるが、水道水、ドレン水、海水等、苦汁を希釈して未飽和することができるものであれば使用することができる。
この水添加と冷却方法を組み合わせた点が、本発明の大きな特徴である。
【0010】
なお、高温苦汁の冷却速度を上げることにより、塩化カリウムが選択的に析出し純度を上がると言う知見は、以下の試験により得ることができた。
10リットルの円筒形のステンレス容器に、75℃〜80℃の高温苦汁を7kg程度入れ、攪拌機を容器の中央に設置し100rpmで回転させながら、容器外面に水道水を流して冷却した。冷却速度は、水道水量を調整して行なった。
所定温度に冷却した苦汁は、冷却能力を大きくしても100μmの金網を張ったバケット式の遠心分離で600G、1分間脱水した。回収した結晶は、堀場製作所エネルギー分散形X線分析装置EMAX7000(以下、EDXと言う。)で分析した。塩化カリウムの純度は、大部分塩化ナトリウムの含有率で決まることから、冷却速度と塩化ナトリウムの関係を図1に示した。冷却速度は、℃/分で表し、また塩化ナトリウム濃度は、塩化カリウム中の塩化ナトリウム濃度を百分率で表した。図1から明らかなように、苦汁の冷却速度を上げると、塩化ナトリウム濃度が低くなる傾向、つまり塩化カリウムの純度が高くなる傾向があることが分る。塩化カリウムの溶解度は、高温から低温に低下するに従い大きく溶解度が下がるのに対して、塩化ナトリウムは温度変化による溶解度差が小さいため、冷却速度の高い条件下では塩化カリウムの過飽和度が急激に上がり選択的に析出してくるものと考えられる。
【0011】
次に、冷却速度を上げるために用いた冷却方法について以下に説明する。
20℃〜50℃の内から設定される一定温度に保持するよう調整された苦汁中に高温の苦汁を流入分散させて急冷却すると言う方法を実現するためには、まず高温苦汁から継続的に供給される熱エネルギーを効率良く系外に排出して、温度を一定に保持する必要がある。ここで、温度を一定に保持するとは、設定温度に対して5.0℃程度、好ましくは2.0℃程度の上下の温度変動に調整することである。
このために苦汁を攪拌冷却する方法を用いた。冷却槽は、一般的に用いられる円筒状のタンクの内部にコイル状の伝熱管を収め、攪拌機を取り付けたタンクコイル式熱交換器等を利用することができる。
本発明で用いる冷媒は、海水、水道水、地下水、工業用水等があるが、製塩工程の場合、原料である海水が豊富にありこれを利用するのが有利である。これらの冷媒の温度は、通常5℃〜30℃程度である。一方冷却温度は、20℃〜50℃の内から設定される一定温度に冷却する必要があり、冷媒と苦汁の温度差は小さい。通常熱交換器内の温度差は対数平均温度差(以下、温度差と言う。)で表す場合が多いが、本発明の冷却槽の温度差は、5℃〜15℃程度と小さく、温度差を大きくして冷却効率を上げるために、冷媒をクーリングタワーやチラーで冷却して温度を下げる方法も考えられるが、高温苦汁を冷却する場合、低温の冷媒を熱交換部に流すと、熱交換部の表面に主として塩化カリウム結晶が付着して表面を覆い冷却効率を低下させる場合が多いため、この方法を用いることは難しい。冷媒の温度は、15℃〜30℃が好ましい。
冷却槽の熱交換部の温度差が5℃〜15℃程度と小さいため、熱交換部の伝熱面積を大きくして冷却能力を高め、高温苦汁から供給される熱を効率良く冷媒に移動させる必要がある。
本発明では、冷却槽内の熱交換部の伝熱面積が、冷却槽の内容積に対して2m/m以上とすることにより槽内の温度を一定に保持することができる。伝熱面積は、槽内に収めたコイルに加えて、壁面等に設置したジャケット等を組み合わせて対応しても良い。
【0012】
冷却槽内の攪拌は、高温苦汁が流入した際、瞬時に分散冷却するために必須であり、塩化カリウムの析出、さらに冷却能力にも影響する。
攪拌は、通常の攪拌機、攪拌翼を用いることができる。攪拌は冷却槽内の苦汁の流動状態を決めることになり、局部的な温度の不均一による結晶析出異常等の問題が起こらないように、冷却槽内を十分に均一に攪拌する必要がある。
本発明では、冷却槽内の流動状態を表すレイノルズ数で100000以上にすることにより、このような問題を解決することができる。好ましくは150000以上である。
このような条件では、冷却槽の冷却能力は安定し、高温苦汁を効率良く分散冷却することができる。さらに苦汁中に析出した塩化カリウム結晶を流動させながら成長させ、冷却槽、熱交換部等への付着を抑制する作用も期待できる。ここで、レイノルズ数Reは、苦汁の密度ρ、粘度μ、攪拌翼直径d、攪拌翼回転数nとしRe=ρ×n×d/μにより算出した。攪拌機は、冷却槽の中央部でも偏心させて設置しても良い。攪拌翼は、パドル翼、スクリュー翼、ヘリカルリボン翼、アンカー翼等を使用することができる。
【0013】
高温苦汁を冷却するにあたり、20℃〜50℃の内の一定温度に保持するよう調整された苦汁中に高温苦汁を流入分散させて急冷却するためには、流入する高温苦汁量に対して、冷却槽内の苦汁量が少ないと、冷却能力との関係もあるが、温度変動を受けやすく、析出する塩化カリウムの純度、量にも影響する。連続的に流入する高温苦汁は、冷却槽内の苦汁の容量に対して1分当たり1/150〜1/20の容量比で流入するように設定することにより安定的に冷却することができる。1/150未満であると冷却槽の容積に比較して処理量が小さくなって経済的ではなく、1/20を越えると安定的に冷却することは難しくなる。高温苦汁の冷却槽への添加は、冷却槽内の苦汁の液面、又は液中に添加することができるよう配管、堰等を用いることができる。
冷却槽内の苦汁温度の計測は、熱電対、抵抗温度計等を用いることができ、冷却槽内の苦汁温度を一定に保持するために、熱交換部への冷媒の供給量を調整するようバルブ制御する方法を用いることができる。
以上、本発明の冷却方法は、20℃〜50℃の内の一定温度に保持するよう調整された苦汁中に高温苦汁を流入分散させて急冷却し、選択的に塩化カリウムを析出させること、冷却温度を一定に保持することにより、品質の安定した塩化カリウムを析出させることが大きな特徴である
【0014】
塩化カリウム結晶の粒子径は、高温苦汁の液組成、冷却温度、攪拌、冷却槽内での滞留時間等の影響を受ける。本発明では、これらの因子の影響は少なく、概ね安定した粒子径が得られた。
また、塩化カリウムの純度は、高温苦汁の組成、冷却温度、水添加濃度、冷却槽内での滞留時間、攪拌等の影響を受ける。本発明では、これらの因子の内、特に高温苦汁の組成、水添加濃度の影響が大きく、これらの因子を把握、調整すれば安定した純度の塩化カリウムが得ることができる。
【0015】
本発明により析出した塩化カリウムは、スラリー状で冷却槽から流出し、これを遠心分離等で固液分離してそのまま用いることができ、乾燥等の処理により乾燥品にすることもできる。さらには、洗浄又は溶解再結晶等の精製処理をすることもできる。
本発明により得られる塩化カリウムは、肥料、粗製海水塩化カリウムとして、さらに上記のような精製処理をすることにより食品添加物、工業、肥料等の用途にも利用することができる。
【発明の効果】
【0016】
製塩工程から生成する高温苦汁から塩化カリウムを析出、回収するにあたり、本発明の方法、つまり高温苦汁に水を0.5〜5重量%添加した苦汁を、20℃〜50℃の内に設定された一定温度に保持するよう調整された苦汁中に流入分散させて急冷却することにより、多成分で構成される苦汁中から選択的に塩化カリウムを析出、回収することより、効率良く簡便で安価に純度の高い塩化カリウムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】苦汁の冷却速度と析出した塩化カリウム中の塩化ナトリウム濃度の関係
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
試験に用いた冷却槽は円筒形のタンクで、内容量が1.2m、タンク中央部に攪拌機を取り付けた。その攪拌翼はパドル翼で、冷却管はタンク内側の壁面近くに取り付けられ、表面積が4mである。
この冷却槽に予め冷却された苦汁を1m張込み、60rpmで攪拌する。ここに85℃〜90℃の高温苦汁を1m/hr供給し、液面が一定になるように底部より抜き出す。高温苦汁には予めドレン水を3.1重量%添加する。冷却槽内の温度は45℃になるように冷却管に海水を流して冷却する。析出した塩化カリウムはタンク底から流出する苦汁にスラリー状に含まれる。塩化カリウムの回収は、タンクから流出する苦汁を100μmの金網を張った遠心分離で600G、1分間脱水して行なった。成分分析は、下記に示した通り、定量分析で行なった。なお、試験に用いた苦汁は、株式会社日本海水赤穂工場の製塩工程から生成したものであり、以下の実施例、比較例においても同様の苦汁を用いた。
【0020】
(分析方法)
サンプルの分析法として、EDXはカリウム、ナトリウムを定量して、KClはカリウム濃度×1.907、NaClは、ナトリウム濃度×2.542で換算して算出した。
定量分析は、農林水産省農薬環境技術研究所作成の1992年版肥料分析法を用いた。カリウムはテトラフェニルホウ酸ナトリウム重量法、またナトリウムは原子吸光測光法を用いて測定し、EDXと同様に換算して算出した。また、粒子径は、堀場製作所のレーザー回折散乱式粒度分布測定装置LA−300で溶媒としてエタノールを用いてメジアン径を測定した。
以下の実施例、比較例においても、同様の測定方法を用いた。
【実施例2】
【0021】
試験に用いた冷却槽は、実施例1と同様のタンクである。この冷却槽に予め冷却された苦汁を1m張込み、40rpmで攪拌する。ここに85℃〜90℃の高温苦汁を1m/hr供給し、液面が一定になるように底部より抜き出す。高温苦汁には予めドレン水を3.1重量%添加する。冷却槽内の温度は47℃になるように冷却管に海水を流して冷却する。析出した塩化カリウムはタンク底から流出する苦汁にスラリー状に含まれている。塩化カリウムの回収は、実施例1と同様に行なった。成分分析は、EDXを用いて行なった。
【実施例3】
【0022】
試験に用いた冷却槽は、実施例1と同様のタンクである。この冷却槽に予め冷却された苦汁を1m張込み、70rpmで攪拌する。ここに85℃〜90℃の高温苦汁を1m/hr供給し、液面が一定になるように底部より抜き出す。高温苦汁には予めドレン水を3.1重量%添加する。冷却槽内の温度は46℃になるように冷却管に海水を流して冷却する。析出した塩化カリウムはタンク底から流出する苦汁にスラリー状に含まれている。塩化カリウムの回収は、実施例1と同様に行なった。成分分析は、EDXを用いて行なった。
【実施例4】
【0023】
試験に用いた冷却槽は、実施例1と同様のタンクである。この冷却槽に予め冷却された苦汁を1m張込み、60rpmで攪拌する。ここに85℃〜90℃の高温苦汁を1m/hr供給し、液面が一定になるように底部より抜き出す。高温苦汁には予めドレン水を2.7重量%添加する。冷却槽内の温度は45℃になるように冷却管に海水を流して冷却する。析出した塩化カリウムはタンク底から流出する苦汁にスラリー状に含まれている。塩化カリウムの回収は、実施例1と同様に行なった。成分分析は、定量分析で行なった
【実施例5】
【0024】
試験に用いた冷却槽は、実施例1と同様のタンクである。この冷却槽に予め冷却された苦汁を1m張込み、60rpmで攪拌する。ここに85℃〜90℃の高温苦汁を0.6m/hr供給し、液面が一定になるように底部より抜き出す。高温苦汁には予めドレン水を3重量%添加する。冷却槽内の温度は45℃になるように冷却管に海水を流して冷却する。析出した塩化カリウムはタンク底から流出する苦汁にスラリー状に含まれている。塩化カリウムの回収は、実施例1と同様に行なった。成分分析は、定量分析で行なった。
【比較例1】
【0025】
製塩工程から生成する85℃の高温苦汁を10リットルの円筒形のステンレスタンクに入れ、一昼夜静置して44℃まで冷却した。析出した結晶をタンクからの採取し、実施例1と同様に脱水してサンプルとしEDX分析を行った。
【0026】
【表1】

【0027】
上記表1に示したように、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5で得られた塩化カリウムの純度は、何れも高く、80%を越えている。これに比較して比較例1の塩化カリウムは純度の低いものであった。
本発明で示した冷却方法を用いることにより、製塩工程から生成する多成分を含む高温苦汁から選択的に高純度の塩化カリウムを析出、回収できることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製塩工程から生成する70℃以上の苦汁に水を0.5〜5重量%添加した苦汁を、20℃〜50℃の内から設定される一定温度に保持するよう調整された苦汁中に流入分散させて急冷却することにより、多成分で構成される苦汁中から選択的に塩化カリウムを析出させ、回収することを特徴とする苦汁を用いた塩化カリウムの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の冷却方法であって、冷却槽内の熱交換部の伝熱面積が、冷却槽の内容積に対して2m/m以上で構成され、冷却槽内の苦汁の流動状態がレイノルズ数で100000以上になるように攪拌され、製塩工程から生成する70℃以上の苦汁に水を0.5〜5重量%添加した苦汁を当該冷却槽内の苦汁に対して1分当たり1/150〜1/20の容量比で流入させることにより、冷却槽内の苦汁温度を20℃〜50℃の内から設定された一定温度に保持できるように冷却して、多成分で構成される苦汁中から選択的に塩化カリウムを析出させて、回収することを特徴とする苦汁を用いた塩化カリウムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−57537(P2011−57537A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233856(P2009−233856)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000191135)株式会社日本海水 (19)