説明

落下水膜の振動抑制装置及び振動抑制方法

【課題】落下水膜13の振動を安定して抑制できる落下水膜の振動抑制方法を提供する。
【解決手段】水膜13の落下位置に障害物20を配置したり、斜めの底板を配置して、水膜13の落下距離を不均一に設定し、水膜各点の落下終了位置での水平方向の変位に位相差を発生させて、水膜背後の閉空間の圧力変動を相殺する。水膜背後の閉空間の圧力変動を抑えることにより、水膜振動は抑制される。水膜13の水量が多い場合でも、また、落下水膜13に風などの外乱が加わった場合でも、安定して水膜振動を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堰やダム等から落下する水膜の振動を抑制する装置とその抑制方法に関し、特に、落下水膜の振動に起因する低周波音の発生を防止するものである。
【背景技術】
【0002】
砂防ダムのような固定堰、あるいはゲートのような堰から水が膜状になって落下する場合、しばしば水膜振動が発生し、近隣の民家の障子や窓ガラスを振動させたり、ゲートそのものを振動させたりして問題となることがある。この水膜振動は、水膜背後空間の圧力変動が要因と考えられており、対策として、越流水膜をある幅で分割するスポイラー(水膜分離装置)を堰に設け、水膜背後と前方との圧力差を無くす方法が採られている。しかし、この方法を採用しても、水膜の厚さが厚い場合は、水が切れずに振動が発生する。
【0003】
本発明の発明者等は、先に、落下水膜の挙動について解析し、スポイラーに代わる落下水膜振動の抑制方法について提案している(下記非特許文献1)。
落下水膜の挙動解析には、図9の実験装置を使用した。この装置は、上部水槽10と下部水槽11とを備えており、上部水槽10の底に開けた幅aN、長さ300 mmのスリット12から水が下部水槽11へ落下し、落下高さhの水膜13が形成される。また、上部水槽10と下部水槽11との間には、スリット12からbだけ離れて垂直に立つ背面板14と、水膜13の両側に垂直に立つアクリル製の側板15、16とを具備しており、水膜13、側板15、16、背面板14及び下部水槽11内の水によって閉空間が形成されている(但し、側板15、16及び背面板14と上部水槽10の底との間には僅かな隙間が存在する)。また、上部水槽10は、ポンプで汲み上げた下部水槽11の水を上部水槽10に供給する給水管17と、ハニカム状の整流板18とを備えており、この整流板18の作用で、上部水槽10のスリット12上の水は、水位dの静かな液面を形成する。
【0004】
図10は、水膜振動が十分発達した状態での振動の一周期にわたる水膜形状と、閉空間内の圧力変動とを示している。(a)〜(h)の各水膜の右側が閉空間である。また、振動する水膜の山の一つに注目し、その山の各瞬間での位置を三角印で示している。
この図から、水膜振動が上から下へ向かう進行波的であること、水膜下部ほど振幅が増加していること、また、重力によって加速されるため、水膜下部ほど流速が速くなり波長が長くなっていることが分かる。閉空間内の圧力は、水膜振動と同じ振動数で周期的に変動しており、図10(a)に示すように、水膜最下部が開空間側(左側)に変位したときに圧力は最高となり、図10(e)に示すように、閉空間側(右側)に変位したときに最低となる。また、この水膜最下部の変位が最大(最小)となる付近で閉空間圧力は急に増加あるいは減少している。
【0005】
また、振動していない静止状態の水膜が振動を始める場合に、いくつかの異なる振動数の水膜振動が発生する(それぞれの振動数で水膜振動する各状態を「モード」と呼ぶことにする)。図11は、aN=3.1mm、h=620mm、d=250mmの場合に発生した(a)9.8Hzと(b)14.0Hzの二つの振動モードの水膜振動を示している。他の実験条件では1〜4のモードが観察された。
実験条件を同じにしても複数のモードが現れる。振動発生直後の落下水膜には複数の振動モードが混在しているが、どのモードが選択されるかというメカニズムは分からないが、短時間(2〜5秒程度)でいずれか一つのモードに落ち着く。ただ、複数のモードの中には、その条件により、発生し易いモードと発生し難いモードとが存在している。
【0006】
ここで、各モードにおいて、流体が上部水槽10から落下して下部水槽11の水面に達するまでの落下時間をT、その水膜13の振動数をfとして、S=T×fを求めると、実験結果は、
S=(整数値K)+ (約1/4)
と表されることを示している。このSは、落下時間の間に、ある位置の水膜が何回振動するかを示している。複数の水膜振動におけるSが同じ場合は、それらの水膜に含まれる波の数は等しい。
以下、Sに含まれる整数値Kが1であるモードを1stモード、Kが2であるモードを2ndモード、・・・と呼ぶことにする。図12には、1stモード(a)、2ndモード(b)、3rdモード(c)、4thモード(d)及び5thモード(e)の各振動の形を示している。
【0007】
これらの水膜振動は、図13(a)(実験装置(図9)の断面図)、図13(b)(図13(a)のA−A断面図)に示すように、水膜背後の閉空間を遮るバッフル板19を、下部水槽11の水面から、最低次モードの水膜振動の1/4波長に相当する位置に設けることで抑制できる(バッフル板19の位置は、図9にも点線で示している)。
これは、次のような理由による。
図14において、水膜の太線の領域は、落下水膜が閉空間の圧力に対して正の仕事をする領域を表し、水膜の細線の領域は、落下水膜が閉空間の圧力に対して負の仕事をする領域を表している。落下水膜中に含まれる1周期の波は、閉空間の圧力に対して、正の仕事をする領域と負の仕事をする領域との両方を含むから、正負の仕事がほぼ相殺される。従って、落下水膜に含まれるK個の波は、閉空間の圧力に大きな作用を及ぼさず、結果的に水面付近の1/4波長の水膜による仕事が、閉空間の圧力変動を生起し、水膜を振動させている。
【0008】
これは、図15の観測結果からも確かめることができる。図15(a)は、静かに流れ落ちる水膜(O)の上部に開空間側より短時間だけ空気を送り(A)、その外乱に基づいて継続的な水膜振動を発生させたときの水膜形状を示しており、図15(b)は、このときに測定した、水膜背後の閉空間における大気圧との圧力差p(細線)と、水膜最下部の水面での変位ηh(太線)とを、横軸に時間を取って示している。pとηhとは高い相関を有しており、落下水膜背後の閉空間の圧力変動が、主に水膜最下部付近の変位によって齎されることを示している。
この水膜最下部付近の変位によって発生した圧力変動は、閉空間を介して水膜の上流側を揺する圧力の基となり、それによって発生した水膜の乱れが、水膜最下部付近の変位を助長し、水膜の乱れと閉空間の圧力変動とのフィードバックループが形成される。
【0009】
これに対して、水面から1/4波長付近の高さにバッフル板19を取り付けた場合は、バッフル板19の下方で発生する圧力変動の影響がバッフル板19の上方に伝わり難くなる。その結果、フィードバックループが遮断され、水膜の乱れによる閉空間内の圧力変動が抑制され、水膜の振動が抑えられる。
また、下部水槽11の水面から最低次モードの振動の1/4波長位置にバッフル板19を取り付けた場合は、高次モードの振動の1/4波長位置が、すべてバッフル板19の下になるため、高次モードの振動で発生する圧力変動の影響もバッフル板19の上方には伝わらない。
【非特許文献1】佐藤勇一他「落下水膜の挙動に関する研究」日本機械学会機械力学・計測制御部門CD−ROM論文集(2004年9月)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、非特許文献1で提案した落下水膜の振動抑制方法では、バッフル板の下方で発生する圧力変動の影響がバッフル板の上方に伝わらないようにするため、バッフル板先端を落下水膜にできるだけ近づけて配置する必要があるが、バッフル板と水膜との距離が近いと、風圧等を受けた水膜がバッフル板に乗り上げる事態が起こり得る。このとき、バッフル板の上側において振動数がS(=(整数値K)+ (約1/4))の水膜振動が発生し、非特許文献1の方法では、この振動を抑えることができない。
そのため、この方法を実際の堰等に適用した場合、落下水膜の振動を安定して抑制することが難しい。
【0011】
本発明は、こうした問題点を解決するものであり、落下水膜の振動を安定して抑制することができる落下水膜の振動抑制方法と振動抑制装置とを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の落下水膜の振動抑制方法では、水膜の落下距離を不均一に設定し、水膜各点の落下終了位置での水平方向の変位に位相差を発生させて、水膜による発生圧力を相殺する。
水膜背後の空間の圧力変動を抑えることにより、水膜振動は抑制される。
【0013】
また、本発明の落下水膜の振動抑制方法では、水膜の落下距離を不均一にするために、水膜の落下位置に段差を設ける。
この段差により、水膜の落下距離は段階的に変化し、落下終了位置での水膜の一部の変位と他部の変位とが位相差を持つことになり、その位相差が水膜による発生圧力を相殺する。
【0014】
また、本発明の落下水膜の振動抑制方法では、水膜の落下距離を不均一にするために、水膜の落下位置に傾斜面を設ける。
この傾斜面により、水膜の落下距離は連続的に変化し、無限段の段差を設けたことに相当する。
【0015】
また、本発明の落下水膜の振動抑制方法では、水膜の落下距離を不均一にするために、水膜の発生位置に、傾斜辺を有する板を設け、水膜をこの傾斜辺を通って落下させる。
水膜振動の波面は、この傾斜辺と平行になり、水膜の落下距離は連続的に変化することになる。
【0016】
また、本発明の落下水膜の振動抑制装置は、水膜の落下距離を不均一に設定する落下距離規制手段を備えており、この落下距離規制手段が、水膜各点の落下終了位置での水平方向の変位に、水膜による発生圧力を相殺する位相差が発生するように、落下距離を規定する。
落下距離規制手段の作用で水膜背後の空間の圧力変動が抑えられ、水膜振動が抑制される。
【0017】
また、本発明の落下水膜の振動抑制装置は、落下距離規制手段として、水膜の落下位置に配置した段差を有している。
この段差が、水膜の落下距離は段階的に変化させる。
【0018】
また、本発明の落下水膜の振動抑制装置は、落下距離規制手段として、水膜の落下位置に配置した傾斜面を有している。
この傾斜面が、水膜の落下距離を連続的に変化させる。
【0019】
また、本発明の落下水膜の振動抑制装置は、落下距離規制手段として、水膜の発生位置に配置した傾斜辺を有する板を備えている。
水膜は、その波面が落下距離規制手段の板の傾斜辺と平行に落下するため、水膜の落下距離が連続的に変化する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の落下水膜の振動抑制方法及び振動抑制装置は、水膜の水量が多い場合でも、また、落下水膜に風などの外乱が加わった場合でも、安定して水膜振動を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態では、水膜の落下距離を段階的に違えるように構成した落下水膜の振動抑制装置について説明する。
この装置は、図1に示すように、下部水槽11に、落下水膜13の一部分だけが乗り上げる箱状の障害物20を備えている。その他の構成は、図9と変わりがない。この装置では、水膜13、側板15、16、背面板14、障害物20及び下部水槽11内の水によって閉空間が形成される(但し、側板15、16及び背面板14と上部水槽10の底との間には僅かな隙間が存在する)。
【0022】
図2は、水膜13の正面方向から障害物20を見た図であり、図2(a)は1つの障害物201を配置して、水膜の落下距離を2段階に設定した場合、図2(b)は2つの障害物202、203を配置して、水膜の落下距離を3段階に設定した場合を示している。
図3は、図1の装置の落下高さh=620mm、流出速度(上部水槽10のスリット12から放出される水膜の初速度)uN=1.82m/sに設定し、この装置の下部水槽11に、図2(a)の1つの障害物201を配置したときの障害物201の高さC1(mm)と、発生する水膜振動との関係を表に纏めている。
【0023】
図3の左端にはC1(mm)の値、次欄には「系の安定性」を記載し、その右側に、発生した水膜振動のS(=振動数f×落下時間T)の値を1stモード、2ndモード、3rdモード、4thモード及び5thモードの各モードに分けて記載している。
「系の安定性」は、常に振動が発生し「不安定」な状態を「U」、水膜を扇いだりして外乱を加えたときにのみ振動が発生する「準安定」な状態を「QS」、外乱を加えても振動が発生しない「安定」な状態を「S」で表している。
また、S=fTの計算に用いたf(周波数)は、水膜を撮影した高速ビデオの映像を解析して求めており、また、T(落下時間)は、初速度uNの流体が重力gの影響を受けて距離hだけ落下するときの時間を表す数式1に、便宜的にh=620mmを代入して算出している。
T={√(2gh+uN2)−uN}/g (数式1)
=0.215秒
そのため、Sにおける少数点以下の値は、大きな意味を持たず、Sの整数部分、即ち、どのモードの水膜振動が発生したかが意味を持つ。
【0024】
図3において、C1=0mmは障害物201を設置していない状態であり、この場合、2ndモードまたは3rdモードの振動が現れる。C1=0〜50mmの範囲では常に振動が発生し「不安定」である。また、C1=70、90mmでは「準安定」である。このように、障害物201の高さC1によって発生モードと安定性とが変化する。
【0025】
図4は、各モードの波形を、水面に相当する図の下端から上方向に正を取る座標で表し、各波形の上に図3で記載した各モードの振動発生位置(灰色部分)を重ね合わせて表示している。図中の破線は、各モードの水膜の変位が、水面での変位と逆位相になる高さを結んだ線である。
この図4から、障害物201の高さC1が破線近傍にあれば、水膜振動は発生せず、逆に、障害物201の高さC1が破線から離れていると、振動が発生し易い不安定な状態にあることが分かる。
【0026】
従って、あるモードにおける水面での水膜の変位と逆位相に当たる高さ付近に段差を設ければ、そのモードの振動発生が抑制できることを示している。
これは、水面に正(負)方向に変位した水膜が衝突して正 (負)の圧力が発生する場合に、段差部分では、負(正)方向に変位した水膜が障害物201に衝突して負 (正)の圧力を発生し、これらが相殺されて水膜を揺する圧力変化が生じないためである。
【0027】
このことから、様々な高さの段差を設け、各モードの振動発生を抑制することにより、水膜に外乱を加えても振動が発生しない「安定」な状態を作り出せることが分かる。
図5(a)は、この装置の下部水槽11に、図2(b)のように高さC2=150mmの障害物202と、高さC1の障害物203とを配置し、障害物203の高さC1を変えたときに発生する水膜振動を表に纏めている。この場合は、C1=50、70mmのときに「安定」な状態になる。
【0028】
この装置では、障害物202の高さC2が1stモード、2ndモード及び3rdモードの振動発生を抑えており、障害物203の高さC1が残りの4thモード及び5thモードの振動発生を抑える高さのとき「安定」状態になる。
また、図5(b)は、同様に、この装置の下部水槽11に、高さC2=200mmの障害物202と、高さC1の障害物203とを配置し、障害物203の高さC1を変えたときに発生する水膜振動を表示している。この場合は、C1=50〜90mmのときに「安定」な状態になる。
【0029】
この装置では、障害物202の高さC2が1stモード、2ndモード及び5thモードの振動発生を抑えており、障害物203の高さC1が残りの3rdモード及び4thモードの振動発生を抑える高さのとき「安定」状態になる。
また、図5(c)は、同様に、この装置の下部水槽11に、高さC2=250mmの障害物202と、高さC1の障害物203とを配置し、障害物203の高さC1を変えたときに発生する水膜振動を表示している。この場合は、C1=70mmのときに「安定」な状態になる。
【0030】
この装置では、障害物202の高さC2が1stモード及び4thモードの振動発生を抑えており、障害物203の高さC1が残りの2ndモード、3rdモード及び5thモードの振動発生を抑える高さのとき「安定」状態になる。
このように、この落下水膜の振動抑制装置では、水膜最下部が水面に落下衝突したときに発生する圧力変動に対して、位相差を持つ圧力変動を発生するように水膜の下端に段差を設けており、こうすることで、水膜背後の閉空間内部の圧力変動を相殺し、水膜の振動の発生を抑制することができる。
なお、水膜の下端における段差は、3以上に設定しても良い。
【0031】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態では、水膜の落下距離を連続的に変えて落下水膜の振動を抑制する装置について説明する。
この装置は、図6(斜視図)及び図7(a)(正面図)、図7(b)(側面図)に示すように、下部水槽11の水膜13の落下位置に斜めの底板22を備えており、また、上部水槽10の水出口の片側にアクリル製の三角板21を備えている。その他の構成は、図9と変わりがない。
【0032】
この装置では、上部水槽10のスリット12から流れ出た水が、三角板21に沿って流れ落ち、三角板21の斜辺を通過して始めて振動可能な水膜13となる。この水膜13の落下距離は、三角板21の斜辺位置から底板22までの長さとなる。また、水膜背後の閉空間は、水膜13、側板15、16、背面板14、底板22及び下部水槽11内の水によって形成される(但し、側板15、16及び背面板14と上部水槽10の底との間には僅かな隙間が存在する)。
【0033】
図8は、三角板21及び底板22の傾斜を種々変えたときに発生する水膜振動を表に纏めている。表中のS(=fT)の値は、水膜を撮影した高速ビデオの映像から求めたf(周波数)と、数式1のhに、便宜的に図7(a)の(620−Cd)(但し、Cdは立てかけた底板22の高さ)の値を代入して求めたT(落下時間)とを乗算して算出している。Sにおける少数点以下の値は、大きな意味を持たず、Sの整数部分、即ち、どのモードの水膜振動が発生したかが意味を持つ。
図8(a)は、三角板21の垂直な辺の長さCuをCu=0mm(即ち、三角板21が存在しない状態)に設定し、底板22を立てかける高さCdを変えたときに発生する水膜振動を表に纏めている。この場合、Cd=180mm〜300mmのときに「安定」状態になる。
【0034】
また、図8(b)は、三角板21をCu=80mmに設定し、底板22の高さCdを変えたときに発生する水膜振動を表示している。この場合も、Cd=180mm〜300mmのときに「安定」状態になる。
また、図8(c)は、三角板21をCu=120mmに設定し、底板22の高さCdを変えたときに発生する水膜振動を表示している。この場合には、Cd=200mm〜300mmのときに「安定」状態になる。
また、図8(d)は、三角板21をCu=160mmに設定し、底板22の高さCdを変えたときに発生する水膜振動を表示している。この場合、Cd=0〜60mm及びCd=240mm〜300mmのときに「安定」状態になる。
また、図8(e)は、三角板21をCu=200mmに設定し、底板22の高さCdを変えたときに発生する水膜振動を表示している。この場合は、Cd=0〜300mmの全てにおいて「安定」状態になる。
【0035】
図8から明らかなように、三角板21の傾斜が増加すると水膜振動は発生しにくくなり、実験範囲の中で最も傾斜のきついCu=200mm(図8(e))の条件では、どのCdにおいても水膜振動が発生しない。
一方、三角板21の斜辺と底板とが平行に近いと、水膜振動が成長し易く、不安定性が強い。
また、図8(a)から明らかなように、Cd=180mm以上の底板22のみを取り付けたときに振動は完全に抑制される。
また、図8(d)から明らかなように、Cu=160mmの三角板21のみを取り付けたときも完全に振動が抑制される。
【0036】
このように、水膜の発生箇所に三角板21を配置し、あるいは、水面に斜めの底板22を設けることにより、高い振動抑制の効果が得られる。これは、三角板21や底板22の設置が無限段の段差を設けることに相当し、その間に含まれる全ての振動モードが抑制されるためである。
即ち、上部水槽10のスリット12に三角板21を取り付けた場合は、水膜振動の波面が三角板21の斜辺と平行に斜めになり、水面に衝突したときの水膜の各点の変位に位相差が生じる。このとき各点で発生する圧力にも同じく位相差が生じて打ち消しあうために、水膜背後の閉空間における圧力変動が発生せず、水膜振動は抑制される。
【0037】
また、下部水槽11に斜めの底板22を設けた場合は、底板22に衝突した水膜の各点の変位に位相差が生じる。このとき各点で発生する圧力にも同じく位相差が生じて打ち消しあうために、水膜背後の閉空間での圧力変動が発生せず、水膜振動は抑制される。
一方、三角板21の斜辺と底板22とが平行に近い場合は、落下水膜の各点での落下距離が等しくなり、波面の衝突時の位相が揃ってしまうために水膜振動が発生する。
【0038】
このように、落下水膜の振動は、水膜の落下距離を不均一に設定し、落下終了位置における水膜の水平方向の変位に位相差を発生させて、水膜背後の閉空間の圧力変動を相殺することにより、抑制できる。
この方法に依れば、落下水膜の厚さに関わらず、水膜振動を安定的に抑えることが可能である。
なお、底板22の傾斜面は曲面であっても良く、三角板21の傾斜辺は曲線であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の落下水膜の振動抑制方法及び振動抑制装置は、堰やダムから落下する水膜の振動を効果的に抑制することが可能であり、この振動に起因する低周波音公害を防止するために、各所の堰やダム等で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1の実施形態における落下水膜振動抑制装置を模式的に示す斜視図
【図2】本発明の第1の実施形態における落下水膜振動抑制装置の障害物を示す図
【図3】本発明の第1の実施形態における1つの障害物の高さと、発生する振動モードとの関係を示す図
【図4】落下水膜の各モードにおける「不安定」及び「安定」な障害物の高さを示す図
【図5】本発明の第1の実施形態における2つの障害物の高さと、発生する振動モードとの関係を示す図
【図6】本発明の第2の実施形態における落下水膜振動抑制装置を模式的に示す斜視図
【図7】本発明の第2の実施形態における落下水膜振動抑制装置の正面図(a)と側面図(b)
【図8】本発明の第2の実施形態における底板及び三角板の高さと、発生する振動モードとの関係を示す図
【図9】落下水膜の挙動解析に用いた装置を示す斜視図
【図10】落下水膜の波形と閉空間の圧力との関係を示す図
【図11】落下水膜の振動モードを示す図
【図12】振動モードの5パターンを示す図
【図13】従来の落下水膜振動抑制装置を模式的に示す斜視図
【図14】落下水膜の下部の1/4波長分が閉空間の圧力変動を生起することを説明する図
【図15】落下水膜の下部の水平方向における変位と閉空間の圧力変動との関係を示す図
【符号の説明】
【0041】
10 上部水槽
11 下部水槽
12 スリット
13 水膜
14 背面板
15 側板
16 側板
17 給水管
18 整流板
19 バッフル板
20 障害物
21 三角板
22 底板
201 障害物
202 障害物
203 障害物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
落下水膜の振動を抑制する振動抑制方法であって、
水膜の落下距離を不均一に設定し、水膜各点の落下終了位置での水平方向の変位に位相差を発生させて、水膜による発生圧力を相殺する落下水膜の振動抑制方法。
【請求項2】
請求項1に記載の振動抑制方法であって、水膜の落下距離を不均一にするために、水膜の落下位置に段差を設ける落下水膜の振動抑制方法。
【請求項3】
請求項1に記載の振動抑制方法であって、水膜の落下距離を不均一にするために、水膜の落下位置に傾斜面を設ける落下水膜の振動抑制方法。
【請求項4】
請求項1に記載の振動抑制方法であって、水膜の落下距離を不均一にするために、水膜の発生位置に、傾斜辺を有する板を設け、水膜を前記傾斜辺を通って落下させる落下水膜の振動抑制方法。
【請求項5】
落下水膜の振動を抑制する振動抑制装置であって、
水膜の落下距離を不均一に設定する落下距離規制手段を備え、
前記落下距離規制手段は、水膜各点の落下終了位置での水平方向の変位に、水膜による発生圧力を相殺する位相差が発生するように、前記落下距離を規定する落下水膜の振動抑制装置。
【請求項6】
請求項1に記載の振動抑制装置であって、前記落下距離規制手段が、水膜の落下位置に配置された段差である落下水膜の振動抑制装置。
【請求項7】
請求項1に記載の振動抑制装置であって、前記落下距離規制手段が、水膜の落下位置に配置された傾斜面である落下水膜の振動抑制装置。
【請求項8】
請求項1に記載の振動抑制装置であって、前記落下距離規制手段が、水膜の発生位置に配置された傾斜辺を有する板である落下水膜の振動抑制装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−307441(P2006−307441A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−127850(P2005−127850)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年2月16日 国立大学法人埼玉大学主催の「平成16年度 理工学研究科博士前期課程機械工学専攻 学位論文発表会」において文書をもって発表
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)