説明

蒸気タービンの組立方法

【目的】ケーシングの芯出し後の芯出し調整量を簡単に求めると共に、組立工程数を減少させて組立工期を短縮すると共に、上半静止部品の生産効率を高める。
【構成】内部ケーシングの内径を、上半組立状態と上半非組立状態とでそれぞれ計測して、その両状態の変化量を求める。また、この変化量に近似する変化量を蓄積している同種の蒸気タービンの各種データの中からケーシングの芯出し調整量を求める。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は蒸気タービンの組立方法に係り、特に、ケーシングの芯出し後の調整量を求める方法を改良した蒸気タービンの組立方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、蒸気タービンは図4の組立断面図に示すように構成され、ロータ1を軸受台2や内外2重のケーシング3により、ノズル4をケーシング3によりそれぞれ支持して組み立てており、ケーシング3内にロータ1を同心状に内蔵している。
【0003】ケーシング2は外部ケーシングとその内部に内蔵される内部ケーシングとを有し、これらケーシングはその軸方向に例えば高圧段と低圧段毎に4つのケーシングに分割されると共に、各段を通して水平面で上下に分割されている。また、下部ケーシングは高圧段では軸受台2により、低圧段では取付基礎台により同心状に支持されている。つまり、下部ケーシングは軸受台2と取付基礎台に芯出しされている。
【0004】ところで、蒸気タービンの回転体部品であるロータ1と静止部品であるノズル4との間隙は、通常は1mm以下と狭く、両者の接触により振動を生ずる一方、間隙の増加に伴う漏洩蒸気の増加により性能低下を起こすため、これらの間隙の管理は厳格に要求されている。しかし、ロータ1は長尺である上に、重量物であるので、軸受により支持された状態で弾性変形を生ずる上に、撓んだ状態で据え付けられている。
【0005】また、ケーシング3も高圧部のケーシングが鋳鋼製で、低圧部のものが溶接構造物であり、自重や内蔵される部品の荷重により種々変位を起こしている。したがって、回転部と静止部の間隙を意図したものにするためには、これらの変位を予め考慮して組み立てる必要がある。
【0006】従来、この種の蒸気タービンの組立は例えば図5のフローチャートに示す手順で行なわれており、これは回転部と静止部間の変位を考慮するために、まず、ケーシングの芯出しが行なわれる。
【0007】つまり、ケーシング3の下部にノズル4を組み込み、ケーシング3の上半も被せて実際の組立状態とし、ロータ1の中心軸を仮想して細いピアノ線を同心状に張り、このピアノ線とノズル4等の静止部との距離を計測している。
【0008】これにより、組込み状態の静止部、特にノズル4と回転体であるロータ1との位置関係が把握される。この計測は、上半組立状態でのワイヤリング作業と呼ばれている。
【0009】一般的な蒸気タービンでは、水平面で上下に分割されていて、下半側の部品を据え付け、芯出し調整を行ない、次に、この下半側に、ロータ1を組み込んでから、上半側の部品を組み立てていくことになる。
【0010】ノズル4も上下に分割されており、上半ノズルは下半ノズルに締め付けられて取り付けられるので、下半ノズルの芯出しによってノズル全体が位置決めされる。下半ノズルはそこに付属した支持金具と呼ばれる部品によって内部ケーシングに取り付けられると同時に調整される。
【0011】しかしながら、下半部品に、上半の部品を組み込んでいない状態では、ケーシングの変位等が異なり、さらに、ロータを組み込み上半部品を組み立てた状態とでは間隙が異なる。
【0012】そこで、実際の組立では、上半部品が組み立てられた状態では計測確認が困難であるので、上半組立状態と上半非組立状態との違いを予め把握しておき、上半非組立状態のときに、その違い分を考慮して下半側部品の芯出しを調整している。
【0013】例えば、下半側静止部品に、上半側静止部品を組み立てた状態で、ワイヤリング計測をしたときの結果が図6(A)のように得られたとする。ここで、数値は水平方向の計測された値の小さいものを基準にして相対値で示されている。
【0014】一方、上半非組立状態では図6(B)で示す相対値が得られたとすると、両者の計測値の差、特に上下方向の差である0.3mmを、上半非組立状態のときの芯出し調整量として考慮する。
【0015】つまり、この例の場合は、上半組立状態では上半非組立状態に比べて、静止部が相対的に0.3mmだけ下がるので、上半非組立状態では静止部品であるノズルを予め0.3mm上げておけば、上半を組み込んだときに0.3mm下がり、所定の間隙に調整されるという考え方である。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】従来は、この芯出し調整量を知るためにノズルの全段落について計測を行なっているが、大型の蒸気タービンでは50段程度と段数が多く、計測に非常に手間が掛かり、調整にも時間が掛かっている。
【0017】また、ノズルそのものは、本来の最終的な組込み時に必要であって、ただ単に組立用に重量を掛けるために用いるのは、組込み時期よりも早い製造を要求することになり、生産効率を悪くしている。このように従来の技術は計測調整の手間と生産効率の点で課題があった。
【0018】そこで本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、その目的は、芯出し調整量を求めるためのノズル等の上半側静止部品の組込みを行なわずに、同種類のタービンの組立データを用いることにより、芯出し調整量を求める一方、その芯出し調整量を、ケーシング等の静止部とロータとの相対位置の最小限の計測によって、再確認することにより静止部品の芯出し調整を簡単化すると共に、生産効率を高めることができる蒸気タービンの組立方法を提供することにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】本願の請求項1に記載の発明(以下、第1の発明という)は、ロータを内蔵する一方、上下に分割されるケーシングの芯出しを行なう工程を有する蒸気タービンの組立方法において、前記ケーシングの芯出しの調整量は、前記ケーシングの内部ケーシングの内径を、その上半を組み立てたときと、その上半を組み立てないときにそれぞれ計測して、その変化量を求め、この変化量に近似する変化量を蓄積している同種の蒸気タービンの各種データの中から求めることを特徴とする。
【0020】また、本願の請求項2に記載の発明(以下、第2の発明という)は、第1の発明における内部ケーシングとロータとの相対位置を、ケーシングの芯出し調整は、その内部ケーシングとロータとの間隙を、これらの内部ケーシングとロータとの複数の計測孔を通してそれぞれ計測した複数の計測値に基づいて求め、その間隙が所定値を超えているときに行なうことを特徴とする。
【0021】
【作用】
〈第1の発明〉
【0022】まず、ケーシングについては、これを支持する軸受台や取付基礎台等と中心を合せるためのワイヤリング計測を行ない、ケーシングの位置を調整して、その中心を軸受台や取付基礎等の中心に一致させる芯出しを行なう。そして、その後のケーシングの芯出し調整量は、このケーシングを有する蒸気タービンと同種の蒸気タービンに蓄積されているデータの中から求める。
【0023】この同種の蒸気タービンの特定・選択は、その内部ケーシングの上半組立時の内径と、上半非組立時の内径との差の変化量に近似している変化量をデータとして持っている蒸気タービンについて行なわれる。
【0024】したがって本発明によれば、従来例のように芯出し調整量を求めるために、下半部品に上半部品を組み立てる必要がないので、段数が非常に多い大型の蒸気タービンにおいても、芯出し調整量を著しく簡単に求めることができる上に、上半部をその組込み時期よりも早く生産する必要もないので、生産効率を上げることができる。
〈第2の発明〉
【0025】内部ケーシングとロータの複数の計測孔をそれぞれ通して内部ケーシングとロータとの間隙をそれぞれに計測し、これら複数の計測値に基づいて内部ケーシングとロータとの間隙を求め、芯出し調整を再確認する。そして、この間隙が所定値を超えているときはこの間隙が所定値を成すように内部ケーシングの芯出しを再度調整する。
【0026】したがって本発明によれば、内部ケーシングとロータとの間隙をこれらの複数の計測孔を通して計測するので、内部ケーシングの外面からこの外部ケーシングとロータとの間隙を簡単に計測することができる。このために、第1の発明の芯出し調整量を再度確認または調整することができ、芯出し精度を高めることができる。
【0027】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0028】図1は本願第1、第2の発明を含む一実施例のフローチャートであり、図中S1〜S11はフローチャートの各ステップを示す。本実施例は、前記した例えば図4で示す多段の大型蒸気タービンに適用されるものであるので、以下、この構成の説明を省略すると共に、図4で示す部分と共通する部分には同一符号を付している。まず、S1で、従来例と同様に所定の据付位置に据え付けた下部ケーシングの芯出しを行なう。
【0029】つまり、ケーシング3の内部ケーシングと外部ケーシングの下半の芯出しを高圧、低圧等の各セクションを通して行なうために、前記した従来例と同様にロータ1の中心に一致させてピアノ線を張ってワイヤリング計測を行なう。次に、各下部ケーシングの取付位置を、その中心が軸受台2や取付基礎の中心に一致するように調整して、芯出しを行なう。
【0030】この後、S2で、下部ケーシングの上半組立状態と上半非組立状態における変形を確認するためと、ケーシング3の形状や大きさによって異なる変形の特性を把握するために、内部ケーシングの下半に上半を組み付けて、その内部ケーシングの内径を例えば左右、上下方向の複数箇所でそれぞれ計測する。
【0031】つまり、内部ケーシングの下半に上半を組み立てたときの上半組立状態と、その上半を組み付けないときの上半非組立状態とでは、内部ケーシング自体の自重や形状により変形が生じ、その内径も相違するので、その内径変化量を求める。この内径変化量を求めた後は、内部ケーシングの上半を下半から取り外す。この後S3で、この下部ケーシングに、下半の静止部品の例えばノズル等を組み込み、S4で、上半非組立状態でワイヤリング計測を行なう。
【0032】次にS5ではS4で求めた上半非組立状態でのワイヤリング計測値と、S2で求めた内部ケーシングの内径変化量とを検討し、S6でこれらに近似するワイヤリング計測値と内径変化量とを有する同種の蒸気タービンについて蓄積された過去のデータからケーシングの芯出し調整量を引用する。
【0033】つまり、これまでには数多くの蒸気タービンの組立据付により、種々のタイプのケーシングについて変形、あるいは変位の計測データが蓄積されている。一般的には、同一形式の蒸気タービンにおいては、変位の傾向と量がほぼ同じであるので、これら蓄積されたデータを該当する形式の蒸気タービンに適用することができる。計測された内部ケーシングの内径の変化量は、同タイプの蒸気タービンにおける最も類似したデータの選択に用いられる。
【0034】この選択されたデータには、上半組立状態と非組立状態の違いが示されている。この差のデータを用いることによって、つまりケーシングの芯出し調整量を過去のデータから求めることによって、上半組立をせずに下半側部品を芯出しすることができる。これらデータの管理はコンピュータを用いて容易に行なわれ、同種の蒸気タービンの選択についても能率良く行なうことができる。
【0035】次にS7では、下部ケーシング等にノズル等の下半側静止部品を芯出しして組み込む。この芯出しの後は、S8で、直ちにロータ1を組み込み、従来技術のように上半を一旦組み付けた後、再び分解する工程を省略できるので、組立工事を短縮することができる。この後のS9では上部ケーシングやノズル等の上半部品を組み立てていく。
【0036】そしてS10では、内部ケーシング上半の組立完了後に、図2、図3に示すように、内部ケーシング3aの外周面よりノズル4とロータ1の間隙寸法を周方向の複数点において計測し、これにより選択されたデータによって行なわれた芯出し調整が適切であるか否かを確認することができる。
【0037】つまり、内部ケーシング3aには径方向の計測孔5aとその外周面の平面座5bとがそれぞれ形成されており、これらは計測に使用しないときはフランジを取り付けて蒸気の漏洩が生じないようにしている。この平面座5bは内部ケーシング3aの中心から正確な寸法Aによって加工されている。また、ノズル4のストリップ取付部にも計測孔4aと、その外周面で機械加工された平面座4bが形成されているが、この平面座4bには蒸気の洩れを防止するためのフランジは必要ない。
【0038】この平面座4bもノズル4の中心から正確にB寸法で加工されている。ロータ1の先端は正確にロータ1の中心からC寸法で機械加工されているので、これらは被計測面として精度上問題はない。この組立状態で各計測孔4a,5bの外周面から、例えば深さゲージの一種であるデプスマイクロメータを用いて、ノズル4までの寸法b、ロータ1までの寸法cを計測する。これらの寸法b,cを周方向の複数点で計測して、ノズル4とロータ1の相対距離である(b−c)を求める。次に、この(b−c)から、さらにノズル4のストリップ取付部の径方向の厚さを差し引くことにより、ノズル4とロータ1との相対距離(間隙)を求める。ノズル4のストリップ取付部の径方向の厚さは、その加工時の記録から求める。
【0039】そして、仮に、ここで計測したロータ1と内部ケーシング3aとの間隙が所定値より大きく外れ、許容範囲を超えている場合は内部ケーシング3a全体を支持しているサポートシムの厚さを調整することにより内部ケーシング3a全体の位置を移動させて調整することができる。
【0040】この時点での芯出し調整は、前記した過去のデータを用いて殆ど完了しているので、それ程大きな調整量にはならず、また、内部ケーシング3aだけを移動させるので、他の隣接するケーシングとの位置関係には何ら影響を及ぼさない。
【0041】
【発明の効果】以上説明したように本願第1の発明は、過去に蓄積された同種の蒸気タービンのデータの中から、そのケーシングの芯出し調整量を求めるので、その芯出し調整量を求めるために、下半静止部品に上半静止部品を一旦組み付けた後、再び上半部品を取り外すという工程を省略することができる。このために、芯出し調整量を簡単に求めることができる上に、上半静止部品をその組込み時期よりも早い時期に生産する必要がないので、生産効率を高めることができる。
【0042】また、本願第2の発明は、第1の発明によりケーシングの芯出しを調整した後にこのケーシングとロータとの間隙をそれらの計測孔を通してその外面より計測することにより、その芯出し調整量を再び確認し、あるいは、これらの間隙が所定値を超える場合には、再度ケーシングの芯出し調整を行なうので、ケーシングとロータとの間隙との精度を一層高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本願第1、第2の発明を含む蒸気タービンの組立方法の一実施例の組立手順を示すフローチャート。
【図2】図4の一部拡大正面図。
【図3】図2の側断面図。
【図4】一般的な大型蒸気タービンの組立断面図。
【図5】従来の蒸気タービンの組立方法の手順を示すフローチャート。
【図6】(A)は上半組立状態のワイヤリング計測の結果の一例を示す図であり、(B)は上半非組立状態のワイヤリング計測の結果の一例を示す図。
【符号の説明】
1 ロータ
2 軸受台
3 ケーシング
4 ノズル
4a,5a 計測孔
4b,5b 平面座

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ロータを内蔵する一方、上下に分割されるケーシングの芯出しを行なう工程を有する蒸気タービンの組立方法において、前記ケーシングの芯出しの調整量は、前記ケーシングの内部ケーシングの内径を、その上半を組み立てたときと、その上半を組み立てないときにそれぞれ計測して、その変化量を求め、この変化量に近似する変化量を蓄積している同種の蒸気タービンの各種データの中から求めることを特徴とする蒸気タービンの組立方法。
【請求項2】 ケーシングの芯出し調整は、その内部ケーシングとロータとの間隙を、これらの内部ケーシングとロータとの複数の計測孔を通してそれぞれ計測した複数の計測値に基づいて求め、その間隙が所定値を超えているときに行なうことを特徴とする請求項1記載の蒸気タービンの組立方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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