説明

蓄光テグスおよびその製造方法

【課題】光などの外部刺激により発光し、光を取り除いた後においても極めて長時間残光輝度保持特性を有するとともに、優れた耐水性とテグスとして十分な強度を持つ蓄光テグスの提供。
【解決手段】アルカリ土類金属酸化物と希土類酸化物とからなる蓄光性蛍光体2.5〜20重量%を含有するポリアミド系樹脂組成物を溶融紡糸して得られるモノフィラメントからなり、本文中で定義する残光輝度保持率が40〜100%の範囲にあることを特徴とする蓄光テグス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光などの外部刺激により発光し、光を取り除いた後においても残光輝度保持特性を極めて長時間有するとともに、耐水性に優れた蓄光テグスおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蓄光性蛍光体を含有し、光などの外部刺激により光を蓄え、光を取り除いた後においても暗所で発光し続ける蓄光性繊維は従来から知られており、カーペット、ロープ、防獣糸や夜釣り用釣糸などの分野で幅広く利用されている。
【0003】
例えば、蓄光性蛍光体を含有する蓄光性繊維としては、直径が0.1〜20mm、引張強度が3kgf以上で、かつ蓄光性能を有する防獣糸(例えば、特許文献1参照)や、蓄光性蛍光体を含有するナイロン12からなる蓄光性蛍光繊維(例えば、特許文献2参照)などが知られている。しかしながら、これらの蓄光性繊維は、実際にテグスとして使用した場合には、十分な強度が得られないばかりか、特に結節強度が劣るために結束部分で糸切れしやすいなどの問題を抱えており、高強度が要求されるテグスへの利用は不適であった。
【0004】
また、特定の蓄光性蛍光体をポリアミドやポリオレフィンなどの熱可塑組性樹脂に配合した樹脂組成物からなり、蓄光性蛍光性能を有する繊維製品(例えば、特許文献3参照)も知られているが、この繊維は吸水すると残光輝度保持特性が著しく低下することから、蓄光テグスへの利用は不適であった。
【0005】
さらに、平均粒径2μm以下の蓄光性粒子を5重量%以上含有する繊維形成性ポリマーで構成された芯層と、芯層と同種の繊維形成性ポリマーで構成された鞘層からなる芯鞘複合繊維であって、芯層の外接円の半径rcと鞘層の外接円の半径rfが、式0.30≦rc/rf≦0.90を満足し、かつ、強度が3.5cN/dtex以上である蓄光性複合繊維(例えば、特許文献4参照)や、蓄光性粒子を含有する繊維形成性ポリマーを芯成分とし、かつ繊維形成性ポリマーを鞘成分とする複合繊維であって、芯成分の蓄光性粒子の含有量が複合繊維全体の2〜6質量%であり、60分経過後の残光輝度が2.0mcd/mである蓄光性複合繊維(例えば、特許文献5参照)などがすでに知られている。
【0006】
これらの複合繊維は、芯層に蓄光性粒子が含有されているため、吸湿による蓄光性粒子の失効を抑制することが期待できるが、テグスとして繰り返し使用すると、竿ガイド、リールおよび岩などとの接触により鞘成分が剥離して強度低下の原因となり、十分な耐久性が保持されにくいという問題があった。
【0007】
さらに、これらの複合繊維は、紡糸、延伸などの製糸時に芯成分と鞘成分が剥離し、繊維が白化しやすくなる傾向にあり、複合繊維が白化すると、糸の透明性が失われて発光性が低下するという問題が生じるばかりか、製糸性が安定しないためにコストが上がるなどの製造上の問題も生じやすかった。
【特許文献1】特開2000−83564号公報
【特許文献2】特開2004−211245号公報
【特許文献3】特開平8−127937号公報
【特許文献4】特開2001−131829号公報
【特許文献5】特開2002−105762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、光などの外部刺激により発光し、光を取り除いた後においても極めて長時間残光輝度保持特性を有するとともに、優れた耐水性とテグスとして十分な強度を持つ蓄光テグス、およびこの蓄光テグスを安定した製糸性および操業性のもとに製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明によれば、アルカリ土類金属酸化物と希土類酸化物とからなる蓄光性蛍光体2.5〜20重量%を含有するポリアミド系樹脂組成物を溶融紡糸して得られるモノフィラメントからなり、テグスサンプルを暗所に24時間以上放置して残光を消去した後、これに照度1400ルクスの光を5分間照射し、照射停止から3分後に輝度計で測定した残光輝度A(単位:mcd/m)と、同じサンプルを20℃の水中に24時間浸漬してから、これを暗所に24時間以上放置して残光を消去した後、これに照度1400ルクスの光を5分間照射し、照射停止から3分後に輝度計で測定した残光輝度B(単位:mcd/m)とから、式B/AX100で算出される残光輝度保持率が40〜100%の範囲にあることを特徴とする蓄光テグスが提供される。
【0010】
なお、本発明の蓄光テグスにおいては、
残光輝度保持率が60〜100%の範囲にあること、
蓄光性蛍光体の粒子表面にリン酸塩が被覆されていること、
JIS L1013−1999の8.5の規格に準じて測定した引張強度が450〜850MPa、かつJIS L1013−1999の8.6の規格に準じて測定した結節強度が250〜650MPaの範囲にあること
が、いずれも好ましい条件として挙げられ、これらの条件を満たした場合には、さらに優れた効果を取得することができる。
【0011】
また、本発明の蓄光テグスの製造方法は、アルカリ土類金属酸化物と希土類酸化物とからなる蓄光性蛍光体とポリアミド系樹脂との混合物を溶融紡糸機に供給して溶融紡糸するに際し、前記混合物をポリアミド系樹脂の融点よりも20〜80℃高い温度で溶融混練して押し出すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高強度で耐水性にも優れ、テグスとして繰り返し使用した場合においても、強度や残光輝度保持特性の低下が小さく、十分な耐久性を有する蓄光テグスを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0014】
本発明の蓄光テグスは、アルカリ土類金属酸化物と希土類酸化物とからなる蓄光性蛍光体2.5〜20重量%を含有するポリアミド系樹脂からなり、上記の残光輝度保持率が40〜100%の範囲にあることを特徴とするものである。
【0015】
まず、本発明で使用するアルカリ土類金属酸化物としては、特に限定されず種々のものを選択することができるが、例えば、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)およびBa(バリウム)の酸化物の中から1種類以上のものを使用することができる。
【0016】
また、本発明で使用する希土類酸化物は賦活剤として機能するものであり、その種類についても特に限定されず種々のものを選択することができるが、例えば、ランタノイド系、すなわちLa(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)の酸化物の中から1種類以上のものを使用することができる。
【0017】
そして、アルカリ土類金属酸化物と希土類酸化物とからなる蓄光性蛍光体は、例えばアルカリ土類金属酸化物に希土類酸化物をドープさせてなるものが一般的ではあるが、その具体的な例としては、式M1−XAl4−X(但し、式中のMはカルシウム、ストロンチウムおよびバリウムから選ばれる少なくとも1種の金属元素であり、Xは−0.33〜0.60の範囲の数値を示す)で表される化合物の結晶を粉砕・分級したアルカリ土類酸化物に、Eu(ユウロピウム)および/またはDy(ジスプロシウム)を式のMで表される金属元素に対し原糸比で0.001%以上10%以下添加されたものなどが挙げられる。
【0018】
なお、本発明で使用する蓄光性蛍光体については、レーザー回折散乱法で測定した際の平均粒径(累積粒度分布率50%(D50))が1.0〜5.0μmの範囲であることが、蓄光テグスの強度低下を抑えるという点から好ましい。
【0019】
次に、強度と残光輝度保持特性に優れた蓄光テグスを得るためには、蓄光テグス全体に占める蓄光性蛍光体の含有率が2.5〜20重量%、好ましくは4〜15重量%の範囲にあることが必要であり、蓄光性蛍光体の含有率がこの範囲を下回る場合は、残光輝度保持特性が低い蓄光テグスとなりやすくなるため、夜釣り用のテグスとして十分にその機能を発揮せず、逆に蓄光性蛍光体の含有量がこの範囲を上回ると、製糸安定性が低下するばかりか、強度に欠けた蓄光テグスとなりやすくなるため好ましくない。
【0020】
一方、本発明の蓄光テグスに使用されるポリアミド系樹脂としては、6ナイロン、66ナイロン、610ナイロン、612ナイロン、6/66ナイロン共重合体、6/12ナイロン共重合体およびナイロン三元共重合体などが挙げられ、特にこれに限定されるものではない。
【0021】
ここで、本発明における残光輝度保持率とは、蓄光性蛍光体が吸湿することにより残光輝度保持特性がどの程度低下するかを示す指標値であり、次の方法で求めた値である。
【0022】
まず、蓄光テグスを暗所に24時間以上放置して残光を消去した後、36W(40形)の電球を使用して、照度1400ルクスの光を蓄光テグスに5分間照射し、照射停止から3分後の残光輝度をA(単位:mcd/m)とする。
【0023】
次に、同じ蓄光テグスを20℃の水中に24時間漬けた後、再び暗所に24時間以上放置して残光を消去し、36W(40形)の電球を使用して、照度1400ルクスの光を蓄光テグスに5分間照射し、照射停止から3分後における残光輝度をB(単位:mcd/m)とする。
【0024】
そして、測定した残光輝度AおよびBの値から、式B/AX100により算出した値を残光輝度保持率(%)とする。
【0025】
この残光輝度保持率が高いほど、残光輝度保持特性の低下が少ない耐水性に優れた蓄光テグスであると言うことができる。
【0026】
そして、本発明の蓄光テグスは、上記方法により残光輝度保持率を評価した場合に、蓄光テグスとして十分その機能を発揮するためには、残光輝度保持率が40〜100%の範囲にあることが必要であり、好ましくは60〜100%の範囲である。
【0027】
本発明の蓄光テグスに、上記残光輝度保持特性を付与する方法は、後述する製造方法で説明する通り、アルカリ土類金属酸化物と希土類酸化物とからなる蓄光性蛍光体とポリアミド系樹脂との混合物を溶融紡糸機に供給して溶融紡糸する際の溶融温度条件に特徴があるが、蓄光性蛍光体の粒子表面に難溶性塩であるリン酸塩を被覆した場合には、耐水性の高い蓄光性蛍光体が得られるため、さらに優れた残光輝度保持特性が得られるという好ましい効果が得られる。
【0028】
つまり、難溶性塩であるリン酸塩を蓄光性蛍光体の粒子表面に被覆することにより、吸水性の高いポリアミド系樹脂を蓄光テグスの構成素材に使用した場合においても、吸湿による蓄光性蛍光体の失活をさらに抑制することができ、長期間に渡り高い残光輝度保持特性を有する蓄光テグスとなるのである。
【0029】
ここで、本発明で使用するリン酸塩としては、特に限定はされないが、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素ナトリウム二水和物、リン酸水素アンモニウムナトリウム四水和物、ヘキサメタリン酸ナトリウムなどが挙げられ、これらの塩類以外にカリウム塩なども使用することができる。
【0030】
また、蓄光性蛍光体の粒子表面にリン酸塩を被覆する方法としては、蓄光性蛍光体を乾式で混合する方法、リン酸塩水溶液中でスラリー状に混合する方法、およびリン酸溶液中で攪拌後脱水する方法などが挙げられるが、使用するアルカリ土類金属酸化物および希土類酸化物の種類に応じて、混合するリン酸塩の種類や量、加熱条件を適宜選択することができる。
【0031】
また、上記条件に加え、さらにステアリン酸アマイドを0.01〜1重量%、より好ましくは0.05〜0.5重量%の範囲で添加することにより、さらに撥水性の高い蓄光テグスとなり、残光輝度保持特性をより一層向上させることができる。
【0032】
さらに、本発明の蓄光テグスには必要に応じて、顔料、染料、耐候剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、結晶化抑制剤および可塑剤などの添加物を本発明の効果を阻害しない範囲で含有することも可能である。
【0033】
蓄光テグスの引張強度および結節強度は、蓄光テグスを製糸する際の延伸条件のみならず、含有する蓄光性蛍光体の含有量によっても影響される。
【0034】
本発明の蓄光テグスにおいては、蓄光性蛍光体の含有量が上記範囲を満たしておれば、高い残光輝度保持特性に加え、蓄光テグスとして十分な引張強度および結節強度が得られるが、本発明の蓄光テグスは、引張強度が450〜850MPa、さらには600〜850MPa、結節強度も250〜650MPa、さらには350〜650MPaであることが実用性の面から好ましい。
【0035】
さらに、本発明の蓄光テグスの直径は0.15mm〜1.5mmの範囲にあることが好ましい。つまり、直径がこの範囲を下回る場合は、強力が不足しやすくなり、逆に直径がこの範囲を上回る場合は、直径が太い割には強力が得られにくくなるために強度が低下しやすくなるばかりか、糸質が剛直となるためにリールに巻いた際にパラケが発生しやすくなり、さらにはリール、竿およびガイドなどに備え付けられた蓄光器を使用して蓄光テグスを発光させる場合には、蓄光器の中を通過しにくくなり、操作性の面で支障が生じやすくなる。
【0036】
さらにまた、蓄光テグスの断面形状は、その用途や特性に応じて適宜選択することができ、例えば円形、楕円形、扁平、正多角形および不定形な形状を含む多角形など、様々な形状挙げることができる。
【0037】
なお、ここで言う扁平とは楕円もしくは長方形のことを意味するが、数学的に定義される正確な楕円、長方形以外に概ね楕円、長方形またはこれに類似した形状も含み、正多角形とは数学的に定義される正多角形以外に、概ねこれに類似した形状も含むものである。
【0038】
次に、本発明の蓄光テグスの製造方法について説明する。
【0039】
本発明の蓄光テグスを製造するに際しては何ら特殊な製造装置を使用する必要はなく、例えば1軸または2軸のエクストルーダー型またはメルトプレッシャー型溶融紡糸機を使用することができる。
【0040】
例えば、1軸のエクストルーダー型溶融紡糸機を使用する場合は、蓄光性蛍光体と予め前乾燥したポリアミド系樹脂とを溶融紡糸機に供給し、溶融紡糸機内で溶融混練した後、口金孔から溶融した混合物を押し出す。
【0041】
しかし、ポリアミド系樹脂は比較的吸水性の高い樹脂であるため、従来の方法で溶融紡糸した場合は、ポリアミド系樹脂に含有する蓄光性蛍光体も吸湿し、残光輝度保持特性の低下を招きやすかった。
【0042】
そこで、上述でも説明した通り、残光輝度保持特性の高い蓄光テグスを得るためには、溶融紡糸するに際して、ポリアミド系樹脂の融点よりも20〜80℃、さらに好ましくは30〜60℃高い温度で溶融混練して押し出すことが必要である。
【0043】
これは、溶融温度が上記範囲を下まわる場合は、溶融紡糸機内で蓄光性蛍光体とポリアミド系樹脂の混練が不十分となり、延伸切れの原因となるばかりか、原料の噛み込み不良や押し出し不良を発生しやすく、逆に溶融温度が上記範囲を上回る場合は、熱による蓄光性蛍光体の失活を招くばかりか、ポリアミド系樹脂の粘度が低下し、低強度の蓄光テグスが得られやすくなるからである。
【0044】
次に、押し出された溶融物は、引き続き冷却媒体中に導かれて冷却固化される。なお、冷却媒体としては、例えば水やポリエチレングリコールなど挙げることができるが、モノフィラメントの表面から容易に除去でき、化学的、物理的に本質的な変化を与えないものであれば特に限定しない。
【0045】
そして、冷却固化された未延伸糸は、蓄光テグスとして必要な強度を得るために、加熱1段延伸または多段延伸される。この際に使用される熱媒体についても、空気、温水、蒸気、ポリエチレングリコール、グリセリンおよびシリコーンオイルなどが挙げられるが、モノフィラメントの表面から容易に除去でき、化学的、物理的に本質的な変化を与えないものであれば特に限定しない。
【0046】
また、延伸条件については、使用するポリアミド系樹脂によって異なるが、5.2〜6.6倍で延伸することが蓄光テグスとして十分な強度を得る上で好ましい。
【0047】
さらに、加熱延伸されたモノフィラメントは、必要に応じて加熱弛緩処理され、巻具に巻き取られる。
【0048】
こうして製造された本発明の蓄光テグスは、夜釣り用のテグスとして使用した場合に、蓄光テグスとして十分な強度を有し、テグスとして繰り返し使用した場合においても、従来の蓄光テグスにはない高い残光輝度保持特性を有するなどの特長を持つ。
【0049】
また、本発明の蓄光テグスは、ハリス、ショックリーダー、道糸、ルアーフィッシング用ライン、フライフィッシング用ラインなどのテグス全般に渡り利用することができ、中でも、蓄光性道糸、特にリールに巻いて使用され、かつ竿、ガイドまたはリールに設置された蓄光器の中を通過することにより発光する蓄光性道糸として使用した場合には、光を持続的に発光することができることから極めて好適である。
【0050】
さらに、リールに巻かれた道糸の中でも、疑似餌釣り用道糸、具体的にはルアーやワームを使用したルアーフィッシング用ライン、エギを使用したエギング用ライン、フライを使用したフライフィッシング用ラインなどの常に疑似餌を動かして魚を誘き寄せる釣りに利用される道糸として適用した場合は、キャスティングと巻取りを繰り返す間に、道糸が常に竿やリールに設置された蓄光器の中を常に通過するため、発光性およびその持続性を遺憾なく発揮することができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の蓄光テグスについて実施例に基づいて説明する。なお、実施例におけるポリアミド系樹脂の融点、蓄光テグスの物性および性能評価は以下の方法で行った。
【0052】
[ポリアミド系樹脂の融点]
PERKIN−ELMER製DSC7を使用し、JIS 7121に準じて、昇温速度10℃/分の条件で測定し、2nd−runのピーク温度を融点とした(単位:℃)。
【0053】
[蓄光テグスの直径]
ミツトモ社製デジタルマイクロメータ(型式No.293−421−20、精度±1μm)で測定した(単位:mm)。
【0054】
[蓄光テグスの引張強度、結節強度]
JIS L1013−1999の8.5および8.6の規定に準じて引張強力と結節強力を測定し、その値を蓄光テグスの断面積で割り返し、得られた値をそれぞれの引張強度と結節強度とした(単位:MPa)。
【0055】
[蓄光テグスの残光輝度保持率]
図1に示すように、蛍光剤を含まない厚さ10〜15mmの白色板2に蓄光テグス3を縦方向Wおよび横方向Lに均一に巻きつけてゆき、縦方向Wの巻き付け糸と横方向Lの巻き付け糸との重なり部分4の面積が10mm×10mm以上、かつ厚みが0.5mm以上になるようにし、測定用サンプル1を作成した。
【0056】
そして、作成したサンプル1を暗所に24時間以上放置して残光を消去した後、20℃の暗室内において、36W(40形)の電球(National製 LW100V36WL/1P)を使用して、照度1400ルクスの光をサンプル1に5分間照射し、照射停止から3分後、測定点となる重なり部分4の残光輝度A(単位:mcd/m)を輝度計(コニカミノルタ センシング社製 LS−100)を使用して測定した。
【0057】
次に、同じ蓄光テグスを20℃の水中に24時間漬けた後、風乾して水分を取り除き、上述と同じように測定用サンプル1を作成した。
【0058】
そして、作成したサンプル1を暗所に24時間以上放置して残光を消去した後、上述と同じ条件で光をサンプル1に5分間照射し、照射停止から3分後、測定点となる重なり部分4の残光輝度B(単位:mcd/m)を測定した。
【0059】
その後、得られた残光輝度AおよびBの値から、式B/AX100を用いて、残光輝度保持率(%)を求めた。
【0060】
[蓄光テグスの性能評価]
A.発光性
蓄光テグスを道糸としてリールに巻き、その道糸を竿に取り付けた蓄光器で発光させながら10時間夜釣りを行い、その結果を次の2段階で評価した。
○:糸筋が肉眼ではっきりと確認でき、10時間使用しても十分に視認できた、
×:10時間も経たないうちに、糸筋が肉眼で視認できなくなったか、または視認できても十分な明るさが得られなくなった。
【0061】
B.耐久性
蓄光テグスを道糸としてリールに巻き、その道糸を竿に取り付けた蓄光器で発光させながら10時間夜釣りを実施し、その結果を次の2段階で評価を行った。
○:魚が掛かった際に糸切れがなく、問題なく魚を取り込むことができた、
×:フッキング(あわせ)を行った際にショック切れが起きやすく、また魚が掛かった際に糸切れが頻繁に発生し、実用性に欠けていた。
【0062】
C.製糸性
製糸を6時間行い、その間に発生した糸切れ回数について、次の2段階で評価を行った。
○:糸切れ回数が1回/3時間未満であり、至って製糸性が良好であった、
×:糸切れ回数が1回/3時間以上であり、製糸性が困難であった。
【0063】
[実施例1]
蓄光性蛍光体(根本特殊化学社製 N夜光ルミノーバ GLL300FFS リン酸塩被覆無し)10重量%と6/66ナイロン共重合体(東レ社製 M6041 融点:195℃)90重量%との混合物にエチレンビスステアリン酸アマイド(ライオンアクゾ社製 アーモワックスEBSパウダー)を0.1重量%ブレンドし、この混合物をエクストルーダー型溶融紡糸機に供給して、235℃の温度で溶融混錬した後、孔径1.5mmの紡糸口金を通して紡出し、さらに10℃の冷却水中で冷却固化せしめた。
【0064】
次に、冷却固化された未延伸糸を100℃の蒸気浴中と218℃の乾熱浴中でトータル6.0倍に延伸し、さらに180℃の乾熱浴中で0.9倍の弛緩熱処理を施すことにより、直径0.285mmの蓄光テグスを作成した。
【0065】
[実施例2]
蓄光性蛍光体にリン酸水素二アンモニウムを被覆したこと以外は、実施例1と同じ条件で蓄光テグスを作成した。
【0066】
[実施例3]
溶融温度を225℃に変更したこと以外は、実施例2と同じ条件で蓄光テグスを作成した。
【0067】
[実施例4]
溶融温度を265℃に変更したこと以外は、実施例2と同じ条件で蓄光テグスを作成した。
【0068】
[実施例5]
蓄光性蛍光体の含有率を4重量%としたこと以外は、実施例2と同じ条件で蓄光テグスを作成した。
【0069】
[実施例6]
蓄光性蛍光体の含有率を18重量%としたこと以外は、実施例2と同じ条件で蓄光テグスを作成した。
【0070】
[比較例1]
溶融温度を295℃に変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で蓄光テグスを作成した。
【0071】
[比較例2]
溶融温度を295℃に変更したこと以外は、実施例2と同じ条件で蓄光テグスを作成した。
【0072】
[比較例3]
溶融温度を210℃に変更したこと以外は、実施例2と同じ条件で蓄光テグスを作成した。
【0073】
[比較例4]
蓄光性蛍光体の含有率を2重量%としたこと以外は、実施例2と同じ条件で蓄光テグスを作成した。
【0074】
[比較例5]
蓄光性蛍光体の含有率を25重量%としたこと以外は、実施例2と同じ条件で蓄光テグスを作成した。
【0075】
実施例および比較例で得られた蓄光テグスの各評価結果を表1に併せて記載する。
【0076】
【表1】

【0077】
表1の結果から分かるように、本発明の蓄光テグス(実施例1〜6)は高い残光輝度保持率とテグスとして十分な強度と兼ね備えたものであるため、実際に蓄光テグスとして使用した場合には、耐久性と発光性に優れるとともに、さらに製糸性に優れた実用性の高いものであった。
【0078】
これに対して、本発明の条件を満たさない蓄光テグス(比較例1〜5)は、引張強度、結節強度、残光輝度保持率、発光性、耐久性および製糸性の全ての項目を満足する蓄光テグス得ることができず、例えば、溶融紡糸機の溶融温度を高くした場合(比較例1および2)は、実施例1および2で得られた蓄光テグスに比べて残光輝度保持率が低いばかりか、引張強度および結節強度も低く、逆に紡糸温度を低くした場合(比較例2)は、溶融紡糸機内で蓄光性蛍光体とポリアミド系樹脂の混練が不十分となり、延伸切れの原因となるばかりか、原料の噛み込み不良や押し出し不良が発生し、蓄光性蛍光体の含有量が少ない場合(比較例4)は、十分な発光性を得ることができず、逆に蓄光性蛍光体の含有量が多い場合(比較例5)は、十分な強度が得られないために耐久性に欠けるばかりか、製糸中に糸切れが多発し、製糸性の低いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の蓄光テグスは、光などの外部刺激により発光し、光を取り除いた後においても極めて長時間残光輝度保持特性を有するとともに、優れた耐水性とテグスとして十分な強度を兼ね備えるなど、従来の蓄光テグスにはない優れた特性を有する。
【0080】
また、本発明の蓄光テグスは、その製糸中に糸切れの発生が少なく、製糸性にも優れたものである。
【0081】
したがって、本発明の蓄光テグスは、夜釣り用のテグスとして、ハリス、ショックリーダー、道糸、ルアーフィッシング用ライン、フライフィッシング用ラインなどのテグス全般に渡り広く利用することができ、中でも、蓄光性道糸、特にリールに巻いて使用され、かつ竿、ガイドまたはリールに設置された蓄光器の中を通過することにより発光する蓄光性道糸として使用した場合には、光を持続的に発光することができることから極めて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1は残光輝度保持率測定用サンプルの概略図である。
【符号の説明】
【0083】
1 サンプル
2 白色板
3 蓄光テグス
4 重なり部分
W 白色板の縦方向
L 白色板の横方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ土類金属酸化物と希土類酸化物とからなる蓄光性蛍光体2.5〜20重量%を含有するポリアミド系樹脂組成物を溶融紡糸して得られるモノフィラメントからなり、テグスサンプルを暗所に24時間以上放置して残光を消去した後、これに照度1400ルクスの光を5分間照射し、照射停止から3分後に輝度計で測定した残光輝度A(単位:mcd/m)と、同じサンプルを20℃の水中に24時間浸漬してから、これを暗所に24時間以上放置して残光を消去した後、これに照度1400ルクスの光を5分間照射し、照射停止から3分後に輝度計で測定した残光輝度B(単位:mcd/m)とから、式B/AX100で算出される残光輝度保持率が40〜100%の範囲にあることを特徴とする蓄光テグス。
【請求項2】
前記残光輝度保持率が60〜100%の範囲にあることを特徴とする請求項1記載の蓄光テグス。
【請求項3】
前記蓄光性蛍光体の粒子表面にリン酸塩が被覆されていることを特徴とする請求項1または2に記載の蓄光テグス。
【請求項4】
JIS L1013−1999の8.5の規格に準じて測定した引張強度が450〜850MPa、かつJIS L1013−1999の8.6の規格に準じて測定した結節強度が250〜650MPaの範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の蓄光テグス。
【請求項5】
アルカリ土類金属酸化物と希土類酸化物とからなる蓄光性蛍光体とポリアミド系樹脂との混合物を溶融紡糸機に供給して溶融紡糸するに際し、前記混合物をポリアミド系樹脂の融点よりも20〜80℃高い温度で溶融混練して押し出すことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の蓄光テグスの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−306831(P2007−306831A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−137750(P2006−137750)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】