説明

蓄冷式冷凍機

【課題】冷媒の臨界温度よりも低い温度への冷却を行うに際して冷凍性能を向上させることができる蓄冷式冷凍機を提供すること。
【解決手段】給排気のタイミング(a)〜(d)と冷媒膨張空間の容積との関係において、次の3つの条件の少なくとも1つを満たすようにする。(1)給気平均位相角とディスプレーサが冷媒膨張空間の容積を最小にするときの位相角との差が、−15°から25°までの範囲内に収まるようにする。(2)排気平均位相角とディスプレーサが冷媒膨張空間の容積を最大にするときの位相角との差が、−15°から40°までの範囲内に収まるようにする。(3)給気平均位相角とディスプレーサが冷媒膨張空間の容積を最小にするときの位相角との差、および、排気平均位相角とディスプレーサが冷媒膨張空間の容積を最大にするときの位相角との差、の平均が−15°から25°までの範囲内に収まるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷熱を蓄冷する蓄冷材を使用する蓄冷式冷凍機に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄冷式冷凍機には、シリンダへの冷媒ガスの給気および排気を行う一つの方式として、コンプレッサとシリンダとの間に設けられた給排気切替弁により、コンプレッサで圧縮された高圧冷媒をシリンダ内へ給気し、シリンダ内で膨張した冷媒をコンプレッサの低圧側へ排気するGM(ギフォード・マクマホン)型が知られており、クライオポンプやMRIなどの超電導機器の冷却用として実用化されている。
【0003】
圧損や熱交換損失が無い理想的なGM冷凍機の冷凍サイクルについて図11および図12を参照して説明する。
【0004】
図11に示されるように、GM冷凍機は、冷却ステージ11、冷媒膨張空間12aを有するシリンダ12、蓄冷材13aが充填されたディスプレーサ13、コンプレッサ14、排気配管15、給気配管16、給排気切替弁17などから構成され、シリンダ12内を往復動するディスプレーサ13の動きに同期して給排気切替弁17が給気弁の開閉および排気弁の開閉を行う冷凍サイクルにより冷媒膨張空間12aに寒冷を発生させる。理想的なGM冷凍機においては、図11の(a)〜(d)に示されるような冷凍サイクルが適用される。
【0005】
図11の(a)は、給気開始の状態を示している。このとき、ディスプレーサ13は最下部に位置し、冷媒膨張空間12aの容積が最小となり、給排気切替弁17の操作により給気弁が開き、シリンダ12内に高圧の冷媒がコンプレッサ14から給気配管16を通じて導入される。給気弁は開いた状態のまま、ディスプレーサ13が上がると、冷媒膨張空間12aの容積が増加し、高圧の冷媒が冷媒膨張空間12aに導入される。
【0006】
図11の(b)は、給気完了直前の状態を示している。このとき、ディスプレーサ13は最上部に位置し、冷媒膨張空間12aの容積が最大となり、冷媒膨張空間12aには高圧冷媒が導入されている。この直後、給排気切替弁17の操作により給気弁が閉じ、給気は完了する。
【0007】
図11の(c)は、排気開始の状態を示している。このとき、給排気切替弁17の操作により排気弁が開き、シリンダ12内の冷媒が排気弁から排気配管15を通じてコンプレッサ14の低圧側に導入され、シリンダ12内が高圧から低圧に減圧される。排気弁は開いた状態のまま、ディスプレーサ13が下がると、冷媒膨張空間12aの容積が減少し、冷媒がコンプレッサ14の低圧側へと導かれる。
【0008】
図11の(d)は、排気完了直前の状態を示している。このとき、ディスプレーサ13は最下部に位置し、冷媒膨張空間12aの容積が最小となり、コンプレッサ14の低圧側には冷媒が導入されている。この直後、給排気切替弁17の操作により排気弁が閉じ、排気が完了する。この排気完了後は、給排気切替弁17の操作により給気弁が開き、図11の(a)の状態に戻る。
【0009】
このような図11の(a)〜(d)に示されるサイクルの周期的な繰り返しにより、冷媒膨張空間12aにて寒冷が発生し、冷却ステージ11、あるいは冷却ステージ11に取付けられた被冷却体が冷却される。その際、ディスプレーサ13の中に収納されている蓄冷材13aは、高温高圧の冷媒を徐々に冷却しながら、ある程度温度の下がった状態で冷媒を冷媒膨張空間12aに導き、逆に膨張時に温度が低下した冷媒がコンプレッサ14へと戻る排気過程においては、次のサイクルで導入される高圧高温の冷媒を冷却するために、低圧低温の冷媒により蓄冷材を冷却しながら、冷媒自身は蓄冷材により温まりながら、排気弁を介してコンプレッサ14の低圧側へと導かれる。
【0010】
図12は、図11の(a)〜(d)に示される冷凍機における給排気のタイミングと冷媒膨張空間12aの容積との関係を示すグラフである。横軸は、1サイクルを360°とし、かつ、ディスプレーサ13が最下部に位置し冷媒膨張空間12aの容積が最小となる点を位相角の基準(0°)とした場合の位相角を示す。縦軸は、冷媒膨張容積および給気弁・排気弁の各開閉状態を示す。グラフ中、実線は冷媒膨張空間12aの容積(冷媒膨張容積)を示しており、点線は給気弁の開閉状態を示しており、一点鎖線は排気弁の開閉状態を示している。また、図12のグラフの中には、便宜上、図11中の状態(a)〜(d)の各々を示す符号が該当する箇所に記されている。
【0011】
この例では、通常のGM冷凍機と同様、ディスプレーサ13は正弦波的な単振動で運転されており、位相角180°のときにディスプレーサ13は最上部に位置し、冷媒膨張空間12aの容積が最大となり、位相角360°のときにディスプレーサ13は最下部に位置し、冷媒膨張空間12aの容積が最小となる(すなわち、基準となる位相角0°の状態に戻る)。また、位相角0°のときに給気弁が開き(状態(a))、シリンダ12内の圧力は上昇する。位相角180°直前で給気弁が閉じ(状態(b))、位相角180°で排気弁が開き(状態(c))、シリンダ12内の圧力は低下する。排気弁は位相角360°直前まで開いた状態にあり(状態(d))、シリンダ12内は低い圧力を維持している。
【0012】
すなわち、給気弁および排気弁の開閉タイミングは、次のようになっている。
【0013】
・給気弁が開く位相角:0°
・給気弁が閉じる位相角:180°
・排気弁が開く位相角:180°
・排気弁が閉じる位相角:360°
給気が開いているのは0°〜180°の期間であり、その期間の平均位相角は90°となっている。また、排気弁が開いているのは180°〜360°の期間であり、その期間の平均位相角は270°となっている。
【0014】
以下では、給気弁が開いている期間の平均位相角を「給気平均位相角」と称し、排気弁が開いている期間の平均位相角を「排気平均位相角」と称す。
【0015】
ここで、給気弁および排気弁の開閉タイミングを統合して表す指標の一つとして、給気弁・排気弁が開いている期間の平均位相角(以下、「給排気平均位相角」と称す。)を次のように定義する。
【0016】
給排気平均位相角=(給気平均位相角+(排気平均位相角−180°))/2
上式の中の(排気平均位相角−180°)は、排気弁が開いている期間の平均位相角と、ディスプレーサ13が最上部に位置し冷媒膨張空間の容積が最大となる位相角180°との差を表している。図12に示した例では、給排気平均位相角=(90°+(270°−180°))/2=90°となる。圧損や熱交換損失の無い理想的な冷凍機では、図12に示される給排気平均位相角=90°のタイミングが最も冷媒膨張空間内のPV仕事量が大きく、冷凍能力が大きくなる。
【0017】
ただし、実際の冷凍機では、ディスプレーサ内に充填されている金属メッシュ、あるいは微細球状の蓄冷材の隙間を通って冷媒が給気、排気されるため、そこでの圧損などを考慮して、若干早めのタイミングで給気弁および排気弁の開閉を行っている。図13は、代表的なGM冷凍機における給気弁および排気弁の開閉タイミングをグラフで示したものである。図13の例では、給排気平均位相角=55°となっている。
【0018】
なお、GM冷凍機の冷媒の給排気を行うバルブ機構に関する先行技術としては、特許文献1〜4が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特公平6−21724号公報
【特許文献2】特開平4−139357号公報
【特許文献3】特開2004−53157号公報
【特許文献4】特開2001−91078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
ところで、給気弁および排気弁の最適な開閉タイミングは、冷凍機の冷却温度によって異なる。特に、使用する冷媒の臨界温度よりも低い温度への冷却を行う蓄冷式冷凍機においては、前述のタイミングを適用しても、その冷凍性能を十分に発揮させることができない。
【0021】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、冷媒の臨界温度よりも低い温度への冷却を行うに際して冷凍性能を向上させることができる蓄冷式冷凍機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の一態様による蓄冷式冷凍機は、冷却ステージと、前記冷却ステージに一端が取り付けられたシリンダと、冷媒流路空間が確保されるように蓄冷材が充填されており、前記シリンダ内を往復動して当該シリンダ内の前記冷却ステージ側の冷媒膨張空間の容積を増減させるディスプレーサと、前記シリンダ内で膨張した冷媒を回収して圧縮するコンプレッサと、前記コンプレッサにより圧縮された冷媒を前記シリンダ内へ給気するための給気弁の開閉動作と前記シリンダ内で膨張した冷媒を排気するための排気弁の開閉動作とを交互に行う給排気切替弁と、前記ディスプレーサの動きに前記給排気切替弁の動きを同期させる冷凍サイクルを実施する駆動機構とを具備し、前記冷凍サイクルにおいて前記給気弁が開いている期間の平均位相角と前記ディスプレーサが前記冷媒膨張空間の容積を最小にするときの位相角との差が、−15°から25°までの範囲内に収まることを特徴とする。
【0023】
本発明の他の態様による蓄冷式冷凍機は、冷却ステージと、前記冷却ステージに一端が取り付けられたシリンダと、冷媒流路空間が確保されるように蓄冷材が充填されており、前記シリンダ内を往復動して当該シリンダ内の前記冷却ステージ側の冷媒膨張空間の容積を増減させるディスプレーサと、前記シリンダ内で膨張した冷媒を回収して圧縮するコンプレッサと、前記コンプレッサにより圧縮された冷媒を前記シリンダ内へ給気するための給気弁の開閉動作と前記シリンダ内で膨張した冷媒を排気するための排気弁の開閉動作とを交互に行う給排気切替弁と、前記ディスプレーサの動きに前記給排気切替弁の動きを同期させる冷凍サイクルを実施する駆動機構とを具備し、前記冷凍サイクルにおいて前記排気弁が開いている期間の平均位相角と前記ディスプレーサが前記冷媒膨張空間の容積を最大にするときの位相角との差が、−15°から40°までの範囲内に収まることを特徴とする。
【0024】
本発明の他の態様による蓄冷式冷凍機は、冷却ステージと、前記冷却ステージに一端が取り付けられたシリンダと、冷媒流路空間が確保されるように蓄冷材が充填されており、前記シリンダ内を往復動して当該シリンダ内の前記冷却ステージ側の冷媒膨張空間の容積を増減させるディスプレーサと、前記シリンダ内で膨張した冷媒を回収して圧縮するコンプレッサと、前記コンプレッサにより圧縮された冷媒を前記シリンダ内へ給気するための給気弁の開閉動作と前記シリンダ内で膨張した冷媒を排気するための排気弁の開閉動作とを交互に行う給排気切替弁と、前記ディスプレーサの動きに前記給排気切替弁の動きを同期させる冷凍サイクルを実施する駆動機構とを具備し、前記冷凍サイクルにおいて前記給気弁が開いている期間の平均位相角と前記ディスプレーサが前記冷媒膨張空間の容積を最小にするときの位相角との差、および、前記排気弁が開いている期間の平均位相角と前記ディスプレーサが前記冷媒膨張空間の容積を最大にするときの位相角との差、の平均が−15°から25°までの範囲内に収まることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、冷媒の臨界温度よりも低い温度への冷却を行うに際して冷凍性能を向上させることができる蓄冷式冷凍機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1の(a)〜(d)は、本発明の第1の実施形態に係る蓄冷式冷凍機の冷凍サイクルの一例を示す図。
【図2】図2は、図1の(a)〜(d)に示される冷凍機における給排気のタイミングと冷媒膨張空間の容積との関係を示すグラフ。
【図3】図3は、「給気平均位相角」を変化させて3W熱負荷入熱時の冷却温度を測定した試験結果を示すグラフ。
【図4】図4は、「排気平均位相角」を変化させて3W熱負荷入熱時の冷却温度を測定した試験結果を示すグラフ。
【図5】図5は、「給排気平均位相角」を変化させて3W熱負荷入熱時の冷却温度を測定した試験結果を示すグラフ。
【図6】図6は、「給排気平均位相角」を変化させて室温部における配管の流量の時間平均値(=循環冷媒の平均流量)を測定した結果を示すグラフ。
【図7】図7は、本発明の第2の実施形態に係る蓄冷式冷凍機の一例を示す図。
【図8】図8は、本発明の第3の実施形態に係る蓄冷式冷凍機の一例を示す図。
【図9】図9は、本発明の第4の実施形態に係る蓄冷式冷凍機の一例を示す図。
【図10】図10は、本発明の第5の実施形態に係る蓄冷式冷凍機の一例を示す図。
【図11】図11の(a)〜(d)は、圧損や熱交換損失が無い理想的なGM冷凍機の冷凍サイクルを示す図。
【図12】図12は、図11の(a)〜(d)に示される冷凍機における給排気のタイミングと冷媒膨張空間の容積との関係を示すグラフ。
【図13】図13は、従来の代表的なGM冷凍機における給気弁および排気弁の開閉タイミングと冷媒膨張空間の容積との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0028】
(第1の実施形態)
まず、図1〜図6を参照して、本発明の第1の実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る蓄冷式冷凍機の冷凍サイクルの一例を示す図である。なお、前述の図11と共通する要素には同一の符号を付している。
【0029】
この第1の実施形態に係る蓄冷式冷凍機は、例えば超電導磁石装置に適用されるGM冷凍機であり、蓄冷材の少なくとも一部に磁性蓄冷材を用いると共に、冷媒にヘリウムを用い、冷媒の臨界温度よりも低い温度への冷却を行うものである。当該冷凍機は、図11の場合と同様、冷却ステージ11、冷媒膨張空間12aを有するシリンダ12、蓄冷材13aが充填されたディスプレーサ13、コンプレッサ14、排気配管15、給気配管16、給排気切替弁17などを有する。
【0030】
冷却ステージ11は、図示しない冷却対象となる被冷却体に取り付けられるものである。
【0031】
シリンダ12は、一端に冷却ステージ11が取り付けられており、また、上下に往復動するディスプレーサ13を収容している。
【0032】
ディスプレーサ13は、シリンダ12内を上下に往復動するものであり、当該シリンダ12内の冷却ステージ11側の冷媒膨張空間12aの容積を増減させる。このディスプレーサ13の中には、蓄冷器があり、隙間に冷媒流路空間が確保されるように蓄冷材13aが充填されている。蓄冷材13aは、例えば、磁性蓄冷材である。
【0033】
コンプレッサ14は、シリンダ12内で膨張した冷媒を回収して圧縮する圧縮機である。
【0034】
排気配管15は、シリンダ12内から排気弁を介して排気される冷媒をコンプレッサ14の低圧側に送る配管である。
【0035】
給気配管16は、コンプレッサ14により圧縮された高圧の冷媒を給気弁へ送る配管である。
【0036】
給排気切替弁17は、コンプレッサ14により圧縮された冷媒をシリンダ12内へ給気するための給気弁としての機能と、シリンダ12内で膨張した冷媒を排気するための排気弁としての機能とを兼ね備えた切替弁であり、左右に往復動し、給気弁の開閉動作と排気弁の開閉動作とを交互に行う。
【0037】
また、図示しない駆動機構により、ディスプレーサ13の動きに給排気切替弁17の動きを同期させる冷凍サイクルが実施される。特に、本実施形態の冷凍サイクルにおいては、前述の給排気平均位相角が従来よりも小さくなるようにしている。また、給気弁の開いている期間が従来よりも短くなるようにしている。すなわち、従来よりも早めに給気・排気を完了させることにより、シリンダ12内に給気する、あるいはシリンダ12内から排気する冷媒の量を制限し、室温部における配管15,16の流量を低減させ、これによりコンプレッサ14の負担(処理流量)を軽減させて圧縮比を増加させ、結果的に冷凍性能を向上させることを図っている。
【0038】
具体的には、次の3つの条件のうちの少なくとも1つを満たすようにする。
【0039】
(1)給気平均位相角(β1)とディスプレーサ13が冷媒膨張空間12aの容積を最小にするときの位相角(α1)との差(β1−α1)が、−15°から25°までの範囲内に収まるようにする。
【0040】
(2)排気平均位相角(β2)とディスプレーサ13が冷媒膨張空間12aの容積を最大にするときの位相角(α2)との差(β2−α2)が、−15°から40°までの範囲内に収まるようにする。
【0041】
(3)給気平均位相角(β1)とディスプレーサ13が冷媒膨張空間12aの容積を最小にするときの位相角(α1)との差(β1−α1)、および、排気平均位相角(β2)とディスプレーサ13が冷媒膨張空間12aの容積を最大にするときの位相角(α2)との差(β2−α2)、の平均({(β1−α1)+(β2−α2)}÷2)が−15°から25°までの範囲内に収まるようにする。
【0042】
以下、給気弁および排気弁の開閉タイミングの具体例について、図1および図2を参照しながら説明する。
本実施形態の蓄冷式冷凍機においては、例えば、図1の(a)〜(d)に示されるような冷凍サイクルが適用される。
【0043】
図1の(a)は、給気開始の状態を示している。このとき、ディスプレーサ13は、例えば、まだ最下部に到達していない下降途中の位置にある。すなわち、冷媒膨張空間12aの容積が最小となる前に、給排気切替弁17の操作により給気弁が開く。これにより、シリンダ12内に高圧の冷媒がコンプレッサ14から給気配管16を通じて導入される。給気弁は開いた状態のまま、ディスプレーサ13が最下部まで下がり、ディスプレーサ13が上がると、冷媒膨張空間12aの容積が増加し、高圧の冷媒が冷媒膨張空間12aに導入される。
【0044】
図1の(b)は、給気完了直前の状態を示している。このとき、ディスプレーサ13は、例えば、最下部から上昇し始めた上昇途中の位置にある。この直後、給排気切替弁17の操作により給気弁が閉じ、給気は完了する。
【0045】
図1の(c)は、排気開始の状態を示している。このとき、ディスプレーサ13は、例えば、まだ最上部に到達していない上昇途中の位置にある。すなわち、冷媒膨張空間12aの容積が最大となる前に、給排気切替弁17の操作により排気弁が開く。これにより、シリンダ12内の冷媒が排気弁から排気配管15を通じてコンプレッサ14の低圧側に導入される。排気弁は開いた状態のまま、ディスプレーサ13が最上部まで上がり、ディスプレーサ13が下がると、冷媒膨張空間12aの容積が減少し、冷媒がコンプレッサ14の低圧側へと導かれる。
【0046】
図1の(d)は、排気完了直前の状態を示している。このとき、ディスプレーサ13は、例えば、まだ最下部に到達していない位置にある。この直後、給排気切替弁17の操作により排気弁が閉じ、排気が完了する。この排気完了後は、給排気切替弁17の操作により給気弁が開き、図1の(a)の状態に戻る。
【0047】
図2は、図1の(a)〜(d)に示される冷凍機における給排気のタイミングと冷媒膨張空間12aの容積との関係を示すグラフである。グラフの見方は、前述の図12と同様である。
【0048】
図2の例は、前述の3つの条件(1)〜(3)の全てを満たすものであり、例えば給排気平均位相角を12°としており、従来よりも小さい値となっている。また、給気弁の開いている期間は位相角にして46°程度であり、従来よりも短くなっている。
【0049】
このように、従来よりも早めに給気・排気を完了させることにより、シリンダ12内に給気する、あるいはシリンダ12内から排気する冷媒の量を制限し、給気弁・排気弁での流量を低減することができる。このような制限をしても、使用する冷媒の臨界温度よりも低い温度の冷却を行う蓄冷式冷凍機においては、冷媒膨張空間12aに流入、あるいは吐出される冷媒の量は、冷媒の圧力変化に対する密度変化が理想気体よりも小さくなるため、寒冷に寄与する冷媒の量は大きく変化しない。逆に、給気弁・排気弁での流量を制限することにより、コンプレッサ14の負担(処理流量)が軽減され、コンプレッサ14の特性上、圧縮比が増加し、冷凍性能が増すことになる。
【0050】
図3〜図6は、それぞれ、図1に示される蓄冷式冷凍機と同じ構造のものを試験対象として、「給気平均位相角」を変化させて3W熱負荷入熱時の冷却温度を測定した試験結果を示すグラフ、「排気平均位相角」を変化させて3W熱負荷入熱時の冷却温度を測定した試験結果を示すグラフ、「給排気平均位相角」を変化させて3W熱負荷入熱時の冷却温度を測定した試験結果を示すグラフ、「給排気平均位相角」を変化させて室温部における配管15,16の流量の時間平均値(=循環冷媒の平均流量)を測定した結果を示すグラフである。試験には、図1に示した蓄冷式冷凍機と同じ構造のものを使用した。なお、図4の横軸においては、排気平均位相角から180°を引いた値を用いている。すなわち、冷媒膨張空間12aが最大となる位相角180°との位相差に置き換えている。
【0051】
図3のグラフによれば、従来の蓄冷式冷凍機に採用されていない給気平均位相角=−15°〜25°において、冷却温度が4.4K以下となり、一方、図4のグラフによれば、従来の蓄冷式冷凍機に採用されていない排気平均位相角−180°=−15°〜40°において、冷却温度が4.4K以下となり、また、図5のグラフによれば、従来の蓄冷式冷凍機に採用されていない給排気平均位相角=−15°〜25°において、冷却温度が4.4K以下となり、それぞれにおいて、ヘリウムの液化・超電導磁石の冷却に適した性能が得られることが分かる。また、図6のグラフによれば、図5で説明した給排気平均位相角=−15°〜25°において、平均流量が0.7g/s以下となり、コンプレッサ14の負担を軽減する効果が得られることが分かる。
【0052】
このように、第1の実施形態によれば、従来よりも早めに給気・排気を完了させることにより、シリンダ12内に給気する、あるいはシリンダ12内から排気する冷媒の量を制限し、室温部における配管15,16の流量を低減させ、これによりコンプレッサ14の負担(処理流量)を軽減させて圧縮比を増加させ、結果的に冷凍性能を向上させることが可能となる。
【0053】
(第2の実施形態)
次に、図7を参照して、本発明の第2の実施形態について説明する。
なお、この第2の実施形態においては、図1に示した第1の実施形態の構成と共通する部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。以下では、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0054】
前述の第1の実施形態の冷凍サイクルでは、従来と比べて給気弁が早いタイミングで閉じるため、次に排気弁が開くまでの給排気の両弁が閉じている時間が長くなる。この間、ディスプレーサ13は上昇を続け、冷媒膨張空間12aの容積は増加しているため、シリンダ12内の冷媒は高温側から低温側へと蓄冷材13aにより冷却されながら移動する。このとき冷媒の温度が低下するため、シリンダ12内の圧力は低下する。圧力低下により、冷媒の密度も低下するが、高圧の冷媒を冷媒膨張空間12aの容積が最大となるまで導入する図12のような冷凍サイクルと比較して、冷媒膨張空間12a内に導入される冷媒の量が少ないため、冷凍能力を向上させる上で限界がある。そこで、この第2の実施形態では、冷媒膨張空間12a内に導入される冷媒の量の低下を抑え、冷凍能力をより一層向上させるための手法を示す。
【0055】
図7は、本発明の第2の実施形態に係る蓄冷式冷凍機の一例を示す図である。なお、前述の図1と共通する要素には同一の符号を付している。
【0056】
この第2の実施形態に係る蓄冷式冷凍機は、前述の第1の実施形態(図1)に示した冷媒膨張空間12aを有するシリンダ12、および、蓄冷材13aが充填されたディスプレーサ13に代えて、冷媒膨張空間22aを有するシリンダ22、および、蓄冷材23aが充填されたディスプレーサ23を備える。特に、蓄冷材23aの隙間の冷媒流路空間の容積は、冷媒膨張空間22aの容積の最大値よりも大きい。
【0057】
すなわち、ディスプレーサ23の蓄冷器内に充填されている蓄冷材23aの隙間の冷媒流路空間が大きいと、圧力低下量が低減され、冷媒膨張空間22a内への冷媒流量を減らさないようにすることができる。具体的には、ディスプレーサ23の蓄冷器内のガス空間の容積(=ディスプレーサ13の蓄冷器内の蓄冷材充填容積Vから、蓄冷材23aが占めている容積(充填率x)を除いた容積(=V×(1−x))を、冷媒膨張空間22aの最大容積(ディスプレーサ23が最上部に位置するときの容積)以上にする。
【0058】
この第2の実施形態によれば、冷媒膨張空間22a内に導入される冷媒の量の低下を抑えることができ、冷凍能力をより一層向上させることができる。
【0059】
(第3の実施形態)
次に、図8を参照して、本発明の第3の実施形態について説明する。
なお、この第3の実施形態においては、図7に示した第2の実施形態の構成と共通する部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。以下では、第2の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0060】
この第3の実施形態では、最終段に位置する冷却ステージにて所望の到達温度をより一層効率よく得られるようにし、冷凍能力をより一層向上させるための手法を示す。
【0061】
図8は、本発明の第3の実施形態に係る蓄冷式冷凍機の一例を示す図である。なお、前述の図7と共通する要素には同一の符号を付している。
【0062】
この第3の実施形態に係る蓄冷式冷凍機は、前述の第2の実施形態(図7)に示した冷媒膨張空間22aを有するシリンダ22、および、蓄冷材23aが充填されたディスプレーサ23に代えて、冷媒膨張空間22aを有するシリンダ32、および、蓄冷材33aが充填されたディスプレーサ33、ならびに、冷媒膨張空間42aを有するシリンダ42、および、蓄冷材43aが充填されたディスプレーサ43を備える。特に、シリンダ42の長手方向の途中に、冷媒膨張空間22aとは異なる別の冷媒膨張空間42aを備えている。
【0063】
すなわち、内部多段方式を採用し、最終冷却段に至る途中の温度レベルにて、冷媒膨張空間22aとは異なる冷媒膨張空間42aにより中間温度部を冷却するようにしている。
【0064】
この第3の実施形態によれば、最終段に位置する冷却ステージにて所望の到達温度をより一層効率よく得ることができ、冷凍能力をより一層向上させることができる。
【0065】
(第4の実施形態)
次に、図9を参照して、本発明の第4の実施形態について説明する。
なお、この第4の実施形態においては、図7に示した第2の実施形態の構成と共通する部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。以下では、第2の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0066】
この第4の実施形態においても、最終段の冷却ステージにて所望の到達温度をより一層効率よく得られるようにし、冷凍能力をより一層向上させるための手法を示す。
【0067】
図9は、本発明の第4の実施形態に係る蓄冷式冷凍機の一例を示す図である。なお、前述の図7と共通する要素には同一の符号を付している。
【0068】
この第4の実施形態に係る蓄冷式冷凍機は、前述の第2の実施形態(図7)に示した冷媒膨張空間22aを有するシリンダ22、および、蓄冷材23aが充填されたディスプレーサ23に代えて、冷媒膨張空間22aを有するシリンダ52、蓄冷材53aが充填されたディスプレーサ53、蓄冷材63aが充填されたディスプレーサ63、および、予冷段(途中段)101を備える。特に、シリンダ52の長手方向の途中に、予冷用冷凍機103もしくは冷媒により伝熱板102を通じて冷却される予冷段101を備えている。
【0069】
すなわち、予冷用冷凍機103もしくは冷媒により熱交換器を通じて予冷段101を冷却する外部予冷方式を採用している。
【0070】
この第4の実施形態によれば、最終段の冷却ステージにて所望の到達温度をより一層効率よく得ることができ、冷凍能力をより一層向上させることができる。
【0071】
(第5の実施形態)
次に、図10を参照して、本発明の第5の実施形態について説明する。
なお、この第5の実施形態においては、図1に示した第1の実施形態の構成と共通する部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。以下では、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0072】
この第5の実施形態では、冷媒膨張空間22a内の冷媒の冷凍サイクルにおける圧力変動による温度変動幅を低減し、冷凍能力をより一層向上させるための手法を示す。本手法は、前述のいずれの実施形態にも適用可能である。
【0073】
図10は、本発明の第5の実施形態に係る蓄冷式冷凍機の一例を示す図である。なお、前述の図1と共通する要素には同一の符号を付している。
【0074】
この第5の実施形態に係る蓄冷式冷凍機は、前述の第1の実施形態(図1)に示した冷却ステージ11に代えて、冷却ステージ71を備える。特に、冷却ステージ71には、一定以上の大きな熱容量を有する部材を用いている。
【0075】
すなわち、冷却ステージ71には被冷却体との伝熱とは無関係に、熱容量の大きい部材を使用することで、冷媒膨張空間22a内の冷媒の冷凍サイクルにおける圧力変動による温度変動幅を低減することができるので、理想的な等温膨張サイクルに近づけることができ、冷凍効率を一層向上させることができる。この手法は、特に冷媒の比熱に比較し構成材料の比熱が小さくなる4Kレベルの冷却においては、冷凍サイクルによる温度振幅が大きくなるため、有効となる。
【0076】
この第5の実施形態によれば、冷媒膨張空間22a内の冷媒の冷凍サイクルにおける圧力変動による温度変動幅を低減することができるので、理想的な等温膨張サイクルに近づけることができ、冷凍効率を一層向上させることができ、冷凍能力をより一層向上させることができる。
【0077】
本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0078】
11,71…冷却ステージ、12,22,32,42,52…シリンダ、12a,42a…冷媒膨張空間、13,23,33,43,53,63…ディスプレーサ、13a,23a,33a,43a,53a,63a…蓄冷材、14…コンプレッサ、15…排気配管、16…給気配管、17…給排気切替弁、101…予冷段、102…伝熱板、103…予冷用冷凍機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却ステージと、
前記冷却ステージに一端が取り付けられたシリンダと、
冷媒流路空間が確保されるように蓄冷材が充填されており、前記シリンダ内を往復動して当該シリンダ内の前記冷却ステージ側の冷媒膨張空間の容積を増減させるディスプレーサと、
前記シリンダ内で膨張した冷媒を回収して圧縮するコンプレッサと、
前記コンプレッサにより圧縮された冷媒を前記シリンダ内へ給気するための給気弁の開閉動作と前記シリンダ内で膨張した冷媒を排気するための排気弁の開閉動作とを交互に行う給排気切替弁と、
前記ディスプレーサの動きに前記給排気切替弁の動きを同期させる冷凍サイクルを実施する駆動機構とを具備し、
前記冷凍サイクルにおいて前記給気弁が開いている期間の平均位相角と前記ディスプレーサが前記冷媒膨張空間の容積を最小にするときの位相角との差が、−15°から25°までの範囲内に収まることを特徴とする蓄冷式冷凍機。
【請求項2】
冷却ステージと、
前記冷却ステージに一端が取り付けられたシリンダと、
冷媒流路空間が確保されるように蓄冷材が充填されており、前記シリンダ内を往復動して当該シリンダ内の前記冷却ステージ側の冷媒膨張空間の容積を増減させるディスプレーサと、
前記シリンダ内で膨張した冷媒を回収して圧縮するコンプレッサと、
前記コンプレッサにより圧縮された冷媒を前記シリンダ内へ給気するための給気弁の開閉動作と前記シリンダ内で膨張した冷媒を排気するための排気弁の開閉動作とを交互に行う給排気切替弁と、
前記ディスプレーサの動きに前記給排気切替弁の動きを同期させる冷凍サイクルを実施する駆動機構とを具備し、
前記冷凍サイクルにおいて前記排気弁が開いている期間の平均位相角と前記ディスプレーサが前記冷媒膨張空間の容積を最大にするときの位相角との差が、−15°から40°までの範囲内に収まることを特徴とする蓄冷式冷凍機。
【請求項3】
冷却ステージと、
前記冷却ステージに一端が取り付けられたシリンダと、
冷媒流路空間が確保されるように蓄冷材が充填されており、前記シリンダ内を往復動して当該シリンダ内の前記冷却ステージ側の冷媒膨張空間の容積を増減させるディスプレーサと、
前記シリンダ内で膨張した冷媒を回収して圧縮するコンプレッサと、
前記コンプレッサにより圧縮された冷媒を前記シリンダ内へ給気するための給気弁の開閉動作と前記シリンダ内で膨張した冷媒を排気するための排気弁の開閉動作とを交互に行う給排気切替弁と、
前記ディスプレーサの動きに前記給排気切替弁の動きを同期させる冷凍サイクルを実施する駆動機構とを具備し、
前記冷凍サイクルにおいて前記給気弁が開いている期間の平均位相角と前記ディスプレーサが前記冷媒膨張空間の容積を最小にするときの位相角との差、および、前記排気弁が開いている期間の平均位相角と前記ディスプレーサが前記冷媒膨張空間の容積を最大にするときの位相角との差、の平均が−15°から25°までの範囲内に収まることを特徴とする蓄冷式冷凍機。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の蓄冷式冷凍機において、前記冷媒流路空間の容積は、前記冷媒膨張空間の容積の最大値よりも大きいことを特徴とする蓄冷式冷凍機。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の蓄冷式冷凍機において、前記シリンダの長手方向の途中に、前記冷媒膨張空間とは異なる別の冷媒膨張空間を備えていることを特徴とする蓄冷式冷凍機。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の蓄冷式冷凍機において、前記シリンダの長手方向の途中に、別の冷凍機もしくは冷媒により冷却される予冷段を備えていることを特徴とする蓄冷式冷凍機。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の蓄冷式冷凍機において、蓄冷材の少なくとも一部に磁性蓄冷材を用い、冷媒にヘリウムを用いたことを特徴とする蓄冷式冷凍機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−281527(P2010−281527A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136510(P2009−136510)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)