説明

蓄熱型サイクルの膨張ピストン、ディスプレーサー、圧縮ピストン等のクランク角差の調整機構

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この出願の発明は、蓄熱型サイクルの膨張ピストン、ディスプレーサー、圧縮ピストン等のクランク角差の調整機構に関するものである。
【0002】蓄熱器を構成要素の一つとするヴィルミエ、スターリング、膨張ピストンを有するパルス管(以下、改良型パルス管式という)、タコニス等、或いはこれらの改良型の熱サイクル(以下、これらを熱サイクルという)の冷凍機、エンジン、ヒートポンプ等は、膨張ピストン、ディスプレーサー等(以下、膨張ピストンという)と圧縮ピストンとは、使用する熱サイクルと入力温度、出力、回転数、作動圧力、構成機器の特性等によって或る最適なクランク角差を保ちながら往復動させる必要がある。
【0003】この出願の発明は、
【0004】
【従来の技術】蓄熱器を構成要素の一つとするヴィルミエ、スターリング、膨張ピストンを有するパルス管(以下、改良型パルス管式という)、タコニス等、或いはこれらの改良型の熱サイクル(以下、これらを熱サイクルという)の冷凍機、エンジン、ヒートポンプ等では、膨張ピストン、ディスプレーサー等(以下、膨張ピストンという)が圧縮ピストンよりも進んだクランク角差(位相角差ともいい、またクランクピンが一個で圧縮ピストンと膨張ピストンを駆動する機構ではバンク角といい、膨張ピストンと圧縮ピストンが共に上死点にあるときにはクランク角差がゼロである)を保ちながら往復動される。
【0005】例えば、スターリングの冷凍機では、膨張ピストンを圧縮ピストンよりも90度を中心にして±30度の範囲内の一定の進んだ角度を維持して運転しないと高い効率が得られない。エンジンでも、入力温度が1000K前後で作動圧力の平均が100気圧では、90度を中心にして±15度の範囲内である。効率のクランク角差の依存性は、どの蓄熱型サイクルの冷凍機やエンジン、ヒートポンプでも存在し、入力温度、出力温度、出力、回転数、作動圧力、構成機器の特性等(以下、運転条件という)によって大きく異なる。
【0006】その詳細を、主として冷凍機使用の場合で説明する。
【0007】図1は、本出願人の提供する改良型パルス管式冷凍機の構成要素および流路の略図であり、図2はスターリング冷凍機の構成要素および流路の略図である。図1及び図2において、1はクランクシャフト1であり、図示しないモータと連結されて回転駆動される。2はクランクピン2であり、圧縮ピストン4のコネクティングロッド3を連結してストロークを決める。5は圧縮空間、6は圧縮シリンダである。7はフレキシブルホースであり、圧縮空間5と放熱器8を繋ぐ。9は蓄冷器、10はコールドヘッド、11はパルス管、12は膨張ピストン、20は膨張シリンダ、13は長い長さの膨張ピストン、14は低温度になる膨張空間、15は常温の膨張空間、16は長い長さの膨張シリンダ、17は膨張ピストンのコネクティングロッド、18はクランクピンである。
【0008】図1と図2の機器構成上の大きな差異は、膨張ピストンが長いか短いか、膨張空間が常温か低温度になるか、パルス管を使用しているかどうかである。運転条件の大きな差異は、膨張ピストン12、13が圧縮ピストンより何度進んだクランク角差を維持して往復動作がされるようコネクティングロッド17がクランクピン18に取付けられるかである。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】図3は、出力温度を80Kとする本出願人の提供する改良型パルス管式冷凍機(MPS)とスターリング冷凍機(Stirling)のCOP(冷凍出力/消費動力=成績係数)とクランク角差の依存性に関する実験値である。
【0010】図3に示されるように、改良型パルス管式冷凍機では、クランク角差が5度から50度の範囲内で冷凍出力が得られるが、最大出力が得られるクランク角差は、例えば、冷凍温度が80Kの時には約30度であるが、冷凍温度が40Kになると約20度になる。
【0011】即ち、冷凍温度(出力温度)と運転条件によって最適なクランク角差が異なることが明らかである。図3で右方に示されるスターリング冷凍機でも低温度が得られるクランク角差の範囲が異なるが、最大出力が得られる最適なクランク角差が存在することは改良型パルス管式冷凍機と同様である。このことは、スターリングサイクルのエンジンでも入力温度や運転条件によって最大効率が得られるクランク角差が存在し、90度を中心にして±15度の範囲内である。通常は、膨張ピストン用のクランクピンを圧縮ピストンより90度進んだクランクピンとすることによってクランク角差が固定され運転されているのが実情である。
【0012】最大効率を得るには、熱サイクルや運転条件の違いによって最適なクランク角差で膨張ピストンを運転しなければならないことが判る。
【0013】このため膨張ピストン用のクランクピンを熱サイクルや運転条件の違いによって効率が最大になるようなクランク角差でクランクシャフトに設けなければならない。しかし、熱サイクルや運転条件の違いや用途によって、その都度、固定されたクランク角差の異なるクランクシャフトを製作することは製作費が高くつくし、使用開始後に運転条件の変更が要求された場合は最大効率を得ることができない。
【0014】また、膨張ピストンを圧縮ピストンとは機械的に分離し独立に駆動する方式では、圧縮ピストンの駆動モータとは独立した別のモータを用い、或るクランク角差を維持しながら駆動する。このため、使用開始後に運転条件の変更が要求された場合でも最大効率を得ることはできるが、非常に高価なものとなる。
【0015】更に、クランクシャフトと偏心カムを直接ピンで接続・固定する方法もあるが、クランクシャフトの内部の油路からコネクティングロッドの内部の油路を介してガイドピストン部に供給される潤滑油がピンによる接続部から漏洩しガイドピストンの潤滑が不安定になっていた。
【0016】この出願の発明は、蓄熱型サイクルにおけるクランク角差を任意のクランク角差に簡単に調整し固定でき、ガイドピストン部を含めて潤滑も満足させることができる構造を得ることを課題とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため、この出願の請求項1の発明では、膨張ピストン、ディスプレーサー、圧縮ピストンのいずれかを往復動させる偏心カムをクランクシャフトに対して回転可能とし、クランクシャフトに形成した雄型スプラインと係合させる雌型スプラインを形成したクランク角差調整用フランジを偏心カムに隣接させ、接続ピンにより偏心カムとクランク角差調整用フランジとを接続・固定する構成とすることによって、クランク角差調整用フランジの雌型スプラインをクランクシャフトの雄型スプラインに係合させる際のクランクシャフトに対する偏心カムの回転方向位置の変更により圧縮ピストンと膨張ピストン或いはディスプレーサーとのクランク角差を調整できるようにした。
【0018】また、この出願の請求項2の発明では、上記の構成に加え、膨張ピストン、ディスプレーサー、圧縮ピストン等のクランク角差の調整機構において、前記偏心カムと前記クランクシャフトの摺動接触部に複数のシール部材を設置して、クランクシャフトの内部に形成した油路を通して偏心カムの摺動部、更にはコネクティングロッドの内部の油路を通してガイドピストン部に潤滑油を供給するするようにした。
【0019】
【作用】上記から明らかなように、この出願の請求項1の発明においては、クランク角差調整用フランジの雌型スプラインをクランクシャフトの雄型スプラインに係合させる際のクランクシャフトに対する偏心カムの回転方向位置の変更により圧縮ピストンと膨張ピストン或いはディスプレーサーとのクランク角差を調整できるので、熱サイクルや運転条件の違いにより最適なクランク角差が異なる場合でもクランク角差調整用フランジの雌型スプラインをクランクシャフトの雄型スプラインに係合させる際のクランクシャフトに対する偏心カムの回転方向位置を変えるだけで対応でき、最大効率を得ることが非常に安価に達成できるものである。
【0020】クランク角差の調節に関していえば、調節可能な最小角度は雄型スプラインと雌型スプラインの歯数が多ければ多い程小さくなり、更には偏心カム(またはクランク角差調整用フランジ)の接続ピン用のピン孔を複数にすることにより更に小さくできる。
【0021】そして、請求項2の発明では、更に、ピストンガイドぶを含めて潤滑が十分行える。
【0022】
【実施例】図4および図5は、この出願の発明の蓄熱型サイクルの膨張ピストンまたはディスプレーサーのクランク角差の調整機構の詳細を示すものである。
【0023】図4および図5において、図示しないモータ等で回転駆動されるクランクシャフト21には雄型スプライン22が形成されている。この雄型スプライン22と係合する雌型スプライン30はクランク角差調整用フランジ32に形成されている。このクランク角差調整用フランジ32のピン孔31に嵌入したネジ付き接続ピン33はクランクシャフト22に回転自在に支持された偏心カム28のピン孔27にも嵌合している。偏心カム28には膨張ピストン26のコネクティングロッド29の一端部が回転自在に連結している。クランクシャフト21のクランクピン25は圧縮ピストン23のコネクティングロッド24の一端部が回転自在に連結している。ピン孔27とピン孔31はクランクシャフトの軸中心から同一の距離になるよう形成されている。
【0024】35および36はシール部材である。入口37から供給される潤滑油がクランクシャフト21の内部に形成された油路38と偏心カム28の内部に形成された油路39を通してコネクティングロッド29の内部の油路40に至り、ガイドピストン部に供給される。
【0025】クランク角差の調整は、例えば、雄型スプライン22の溝および雌型スプライン30の山の数が36であるならば、10度毎に膨張ピストン26と圧縮ピストン23とのクランク角差を調整できる。
【0026】例えば、膨張ピストン26のクランク角差を圧縮ピストン23より90度進んだ位置に固定する時は、圧縮ピストン23を上死点に止めておき、膨張ピストン26を90度進めた位置でクランク角差調整用フランジ32のピン孔31を偏心カム28のピン孔27に合わせて接続ピン33を嵌入すればスプラインとともにクランク角差は固定される。尚、膨張ピストン26は、クランクシャフト21が回転し圧縮ピストン23が往復動しても、接続ピン33がピン孔31とピン孔27の両方に嵌入されない限り往復動をしない。
【0027】クランク角差調整用フランジ32のピン孔31は、雌型スプライン30が36山ならその軸中心からスプラインの隣接する山と山の角度が10度づつになり、この間に1個のピン孔ならば10度のみの調整である。ピン孔31を複数個設ければ、よりクランク角差の微調整が可能となる。微調整のための複数個のピン孔を設ける位置およびスプライン30の軸中心からの角度は、スプラインのどの山でも、隣接する山と山との間を複数に分割した角度の位置に設ければよい。但し、そのピン孔の中心は、膨張ピストン26の往復動用の偏心カム28のピン孔27と同じ位置になるように設ける。また、クランク角差の微調整をするため、偏心カム28に複数個のピン孔を設ければ、同様の微調整が可能となることは明らかである。
【0028】図示してないが、偏心カム28の油路34を避けた位置や固定用フランジに、2個から5個のピン孔を設け、軽量化とともにクランク角差が微調整できるようになっている。
【0029】尚、接続ピン33は、クランク角差の固定と同時に、クランクシャフトが導入され、これとは機械的には接続されていない膨張ピストン26の偏心カム28とを接続・固定して、膨張ピストン26の往復動をさせる機能を有する。
【0030】
【発明の効果】以上説明したように、(1)ヴィルミエ、スターリング、改良型パルス管式、タコニス等、或いはこれらの改良型の熱サイクルの冷凍機、ヒートポンプ、エンジンでは、膨張ピストンやディスプレーサーを圧縮ピストンとは異なるクランク角差を維持させながら往復動させる必要があるが、この出願の発明によれば、任意なクランク角差に調整し駆動することが可能なため上記のいかなる熱サイクルにも適応可能である、(2)部品数が少なく構造が簡単なため、製造も容易で高信頼度の冷凍機、ヒートポンプ、エンジン等を安価に提供できる、(3)複数の熱サイクルの冷凍機、エンジン、ヒートポンプを製造している企業にとっては、クランクシャフト、ガイドピストン、コネクティングロッド等からなるクランク部をほぼ同一の構造で生産できる、という極めて優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】この出願の発明が適用される改良型パルス管式冷凍機の概略を示す図である。
【図2】この出願の発明が適用されるスターリング冷凍機の概略を示す図である。
【図3】図1および図2の熱サイクルのCOPとクランク角差の依存性に関する実験データを示す図である。
【図4】この出願の発明の一実施例の要部の詳細を示す図である。
【図5】この出願の発明の一実施例の要部の詳細を示す図である。
【符号の説明】
1,21・・・クランクシャフトラケット
2・・・圧縮ピストン用のクランクピン
3,24・・・圧縮ピストン用のコネクティングロッド
4・・・圧縮ピストン
5・・・圧縮空間
6・・・圧縮シリンダ
7・・・フレキシブルホース
8・・・放熱器
9・・・蓄冷器
10・・・コールドヘッド
11・・・パルス管
12,13・・・膨張ピストン
14,15・・・膨張空間
16,20・・・膨張シリンダ
17,29・・・膨張ピストン用のコネクティングロッド
18・・・膨張ピストン用のクランクピン
22・・・雄型スプライン
27・・・偏心カムに形成されたピン孔
28・・・偏心カム
30・・・雌型スプライン
31・・・クランク角差調整用フランジに形成されたピン孔
32・・・クランク角差調整用フランジ
33・・・接続ピン
34,38,39,40・・・油路
35,36・・・シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】 蓄熱器を構成要素の一つとし、膨張ピストンやディスプレーサーが圧縮ピストンとは或るクランク角差を保持しながら往復動するヴィルミエ、スターリング、改良型パルス管式等、或いはこれらと類似する熱サイクルのヒートポンプ、冷凍機、エンジン等の蓄熱型サイクルにおいて、膨張ピストン、ディスプレーサー、圧縮ピストンのいずれかを往復動させる偏心カムをクランクシャフトに対して回転可能とし、クランクシャフトに形成した雄型スプラインと係合させる雌型スプラインを形成したクランク角差調整用フランジを偏心カムに隣接させ、接続ピンにより偏心カムとクランク角差調整用フランジとを接続・固定する構成とすることによって、クランク角差調整用フランジの雌型スプラインをクランクシャフトの雄型スプラインに係合させる際のクランクシャフトに対する偏心カムの回転方向位置の変更により圧縮ピストンと膨張ピストン或いはディスプレーサーとのクランク角差を調整できるようにしたことを特徴とする蓄熱型サイクルの膨張ピストン、ディスプレーサー、圧縮ピストン等のクランク角差の調整機構。
【請求項2】請求項1記載の蓄熱型サイクルの膨張ピストン、ディスプレーサー、圧縮ピストン等のクランク角差の調整機構において、前記偏心カムと前記クランクシャフトの摺動接触部に複数のシール部材を設置して、クランクシャフトの内部に形成した油路を通して偏心カムの摺動部、更にはコネクティングロッドの内部の油路を通してガイドピストン部に潤滑油を供給するするようにした構造を特徴とする蓄熱型サイクルの膨張ピストン、ディスプレーサー、圧縮ピストン等のクランク角差の調整機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【特許番号】特許第3264531号(P3264531)
【登録日】平成13年12月28日(2001.12.28)
【発行日】平成14年3月11日(2002.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−344664
【出願日】平成4年12月24日(1992.12.24)
【公開番号】特開平6−193988
【公開日】平成6年7月15日(1994.7.15)
【審査請求日】平成11年11月2日(1999.11.2)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000102418)エクテイー株式会社 (1)
【参考文献】
【文献】特開 平1−142365(JP,A)
【文献】特開 昭56−29038(JP,A)