説明

蓄熱方法及び蓄熱システム

【課題】蓄熱密度が高く、信頼性に優れた蓄熱方法及び蓄熱システムを提供する。
【解決手段】蓄熱材3から水を脱離することによって蓄熱し、かつ、前記脱離した水を前記蓄熱材3と反応させることによって放熱する蓄熱システムであって、前記蓄熱材3を収容する反応容器1と、前記蓄熱材3を加熱または冷却する熱媒体が流通する伝熱管4と、前記伝熱管4に伝熱面積を拡大する複数のフィン5と、前記フィン5間に前記蓄熱材3への熱移動を妨げる熱遮蔽部68とを備え、蓄熱運転時に、前記反応容器1の空間圧力を大気圧以下にして運転する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱方法及び蓄熱システムに関する。
【背景技術】
【0002】
熱エネルギーを蓄える蓄熱システムは、従来から省エネルギー技術として有効である。また、近年、CO2ヒートポンプや燃料電池コージェネレーションシステムを利用した給湯機器が注目されているが、これらの機器を小型化し、設置性の向上を図るために、高密度蓄熱技術の開発が待望されている。
【0003】
従来からの蓄熱技術を大別すると、顕熱蓄熱、潜熱蓄熱および化学蓄熱に分類される。
【0004】
特に、化学蓄熱は顕熱、潜熱に加えて化学反応による反応熱を取り出すことができるため、他の蓄熱方法と比較して利用可能な熱量が大きくなる特徴がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、蓄熱時に発生する水蒸気を凝縮し、水として貯留する化学蓄熱システムが記載されている。この蓄熱システムの運転動作について説明すると、蓄熱時には減圧下で蓄熱材を加熱し、脱離した水蒸気を凝縮部で冷却する。そうすることによって、発生した水蒸気を液体(水)として貯蔵する。このときに、凝縮熱を回収することができる。そして、放熱時に蓄熱材に戻すことにより、水和(化学)反応を起こし、反応熱を取り出すことができる。したがって、貯留部の体積を必要以上に増大させることなく、運転動作を行うことが可能である。
【0006】
一方、特許文献2に示されるように、水和塩を蓄熱材として用いて、蓄熱運転を行うと、水和塩から脱離した水分が沸騰する現象(減圧沸騰)が発生する。蓄熱運転時の脱水速度を高め、蓄熱システムの効率を上げるには、この減圧沸騰を促進する必要がある。
【0007】
減圧沸騰は沸騰(核沸騰)現象の一種であるため、沸騰と同様の手段で現象を促進することができる。
【0008】
従来の沸騰現象の促進手段としては、例えば、特許文献2に示されるように、伝熱面に気泡核となる割れ目やくぼみ、または微細な傷を設けることで、沸騰現象の促進が行われている。通常、平滑な面では液体の飽和温度(蒸気が発生する温度、ここではTsとする)に対して、伝熱面の温度(ここではTwとする)を上げる、つまり、ある一定の過熱度ΔT(Tw−Ts)に到達しなければ、沸騰は発生しない。そこで、上述に示すように伝熱面に気泡核となる割れ目やくぼみ、または微細な傷を設けることで、必要な過熱度ΔTを下げ、伝熱面を必要以上に加熱しなくても、沸騰が起こるようにしている。
【0009】
なお、本明細書では、蓄熱過程および放熱過程を含む熱サイクルにおいて実質的に蓄熱できる熱エネルギー(熱量)を「蓄熱量」、蓄熱材量の単位体積(または単位重量)当たりの蓄熱量を「蓄熱密度」という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4388596号公報
【特許文献2】特許第1693800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来から蓄熱システムでは、放熱運転時の熱交換量を向上させるために、金属性の熱交換器(伝熱管及びフィン)を蓄熱材に浸漬することがよく行われる。そのため、特許文献1に示されるように、特に水和塩を蓄熱材として用いた場合には、金属の溶出反応(腐食)が起こりやすくなる。
【0012】
したがって、特許文献2に示されるように蓄熱材に浸漬した熱交換器(伝熱管及びフィン)の伝熱面に割れ目やくぼみ、または微細な傷を設けると、孔食(局所的な腐食の進行)の要因となる。さらに、伝熱面の割れ目やくぼみ、または微細な傷を気泡核として、減圧沸騰が促進されるので、発生した気泡が熱交換器(伝熱面やフィン)に衝突してしまい、削傷が生じやすくなり、金属の溶出が加速されてしまう。
【0013】
このように、従来の発明では減圧沸騰を促進し、かつ、金属の溶出反応(腐食)を抑制することは難しい。
【0014】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、減圧沸騰を促進し、かつ、金属の溶出反応(腐食)を抑制することにより、蓄熱密度が高く、かつ信頼性に優れた蓄熱システムを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記従来の課題を解決するために、本発明の蓄熱システムは、水を脱離することによって蓄熱し、かつ、水と反応することによって放熱する蓄熱材と、前記蓄熱材を収容する蓄熱材容器と、前記蓄熱材を加熱または冷却する熱媒体を流通する伝熱管と、前記伝熱管に伝熱性能を向上させるための複数のフィンと、前記フィンの間に設けられ、前記伝熱管から前記蓄熱材への熱移動を妨げる熱遮蔽部とを備え、蓄熱運転時に、前記蓄熱材容器の空間圧力を大気圧以下にする蓄熱システムである。
【0016】
上記構成によると、伝熱管からの熱移動により、熱遮蔽部が加熱される。さらに伝熱管と熱遮蔽部とのすき間が気泡核として作用するため、蓄熱材の飽和温度と伝熱面の温度の差である過熱度ΔTを下げ、容易に沸騰を起こすことができる。つまり、蓄熱材からの脱水速度を向上させ、効率的な蓄熱運転が可能となる。それゆえ、短い蓄熱運転時間で、より多くの水蒸気を水として回収することができるので、放熱運転時の水和反応熱をより多く取り出すことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、蓄熱時の減圧沸騰を促進により、蓄熱材からの脱水速度を向上させることができる。それゆえ、より短時間で、多くの水蒸気を水として回収することができる。したがって、放熱運転時の水和反応熱を多く取り出すことが可能となるので、より蓄熱システムの蓄熱密度を向上させることができる。さらに、減圧沸騰により発生した気泡が要因となる伝熱管の腐食を抑制することができるため、信頼性に優れた蓄熱システムの実現が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態の蓄熱システムの構成図
【図2】本実施形態の蓄熱システムの蓄熱材加熱部を示す図
【図3】蓄熱材加熱部の他の実施形態を示す図
【図4】本実施形態の蓄熱システムの動作を説明するための図
【図5】本実施形態の蓄熱システムにおける傾斜部13の構成を説明するための図
【図6】本実施形態の蓄熱運転時における蓄熱材の温度と塩濃度との関係を例示する図
【図7】本実施形態の蓄熱システムの蓄熱運転終了時の蓄熱材容器2と水貯留部17の空間圧力を示した図
【図8】貯留されている水の温度とヘッドエネルギーの関係図
【図9】本発明の他の実施形態の蓄熱システムの構成図
【発明を実施するための形態】
【0019】
第1の発明は、水を脱離することによって蓄熱し、かつ、水と反応することによって放熱する蓄熱材と、前記蓄熱材を収容する蓄熱材容器と、前記蓄熱材を加熱または冷却する熱媒体を流通する伝熱管と、前記伝熱管に伝熱性能を向上させるための複数のフィンと、前記フィンの間に設けられ、前記伝熱管から前記蓄熱材への熱移動を妨げる熱遮蔽部とを備え、蓄熱運転時に、前記蓄熱材容器の空間圧力を大気圧以下にする蓄熱システムである。
【0020】
上記構成によると、伝熱管からの熱移動により、熱遮蔽部が加熱される。さらに伝熱管と熱遮蔽部とのすき間が気泡核として作用するため、蓄熱材の飽和温度と伝熱面の温度の差である過熱度ΔTを下げ、容易に沸騰を起こすことができる。つまり、蓄熱材からの脱水速度を向上させ、効率的な蓄熱運転が可能となる。それゆえ、短い蓄熱運転時間で、より多くの水蒸気を水として回収することができるので、放熱運転時の水和反応熱をより多く取り出すことができる。
【0021】
第2の発明は、特に、第1の発明において、前記熱遮蔽部は、前記伝熱管の上流側よりも下流側の方が多く配置されるように構成されている。伝熱管を流通する熱媒体は、蓄熱材と熱交換しながら、伝熱管の上流側から下流側へと移動する。したがって、伝熱管の上流側では伝熱面の温度が高く、それに伴って過熱度も高くなるので沸騰が起こりやすいが、一方、下流側では起こりにくくなる。それゆえ、上記構成によると、下流側に熱遮蔽部を多く配置するため、過熱度ΔTが下がり、下流側においても沸騰が起こりやすくなる。この効果により、蓄熱容器内で均一に沸騰を促進することができるため、脱水速度を向上させ、より効率的な蓄熱運転が可能となる。
【0022】
第3の発明は、特に、第1または第2の発明において、前記熱遮蔽部の熱伝導率が前記伝熱管の熱伝導率より低くなるように構成されている。これによれば、熱遮蔽部の温度が上昇しやすくなるので、過熱度ΔTが下がりやすく容易に沸騰を起こすことが可能となる。
【0023】
第4の発明は、特に、第1から第3のいずれか1つの発明において、前記熱遮蔽部の材質が金属であり、前記蓄熱材に浸漬した際の前記熱遮蔽部の自然浸漬電位が、前記伝熱管の自然浸漬電位より低くなるように構成されている。蓄熱材に浸漬された異種金属同士が接触すると、自然浸漬電位が低い金属の方が優先的に溶出(腐食)する。伝熱管が腐食により破損し、熱媒体が蓄熱材中に漏れ出してしまうと、もはや蓄熱システムとして機能しなくなり、伝熱管の方を腐食しにくい構成にすることが望ましい。上記構成によると、熱遮蔽部の方が伝熱管より自然浸漬電位が低くなるので、伝熱管の腐食を抑制することができる。
【0024】
第5の発明は、特に、第1から第3のいずれか1つの発明において、熱遮蔽部の材質が樹脂で構成されている。これによれば、異種金属の接触を無くすことができ、伝熱管の腐食をより効果的に抑制することができる。
【0025】
第6の発明は、特に、第1から第3のいずれか1つの発明において、熱遮蔽部の材質がセラミックスで構成されている。これによれば、セラミックスは表面が多孔質であり、気泡核が生じやすいため、さらに沸騰を促進することができる。また、蓄熱材による腐食を
より効果的に抑制することが可能となる。
【0026】
第6の発明は、水を脱離することによって蓄熱し、かつ、水と反応することによって放熱する蓄熱材と、前記蓄熱材を収容する蓄熱材容器と、前記蓄熱材を加熱または冷却する熱媒体が流通する伝熱管と、前記伝熱管に伝熱性能を向上させるための複数のフィンと、前記フィンの間に設けられ、前記伝熱管から前記蓄熱材への熱移動を妨げる熱遮蔽部とを備えた蓄熱システムにおいて、蓄熱運転時に、前記蓄熱材容器の空間圧力を大気圧以下にする蓄熱方法である。
【0027】
これによると、蓄熱材からの脱水速度を向上させ、効率的な蓄熱運転が可能となる。それゆえ、短い蓄熱運転時間で、より多くの水蒸気を水として回収することができるので、放熱運転時の水和反応熱をより多く取り出すことができる。
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0029】
(実施の形態)
以下、図面を参照しながら、本発明による蓄熱システムの実施の形態を説明する。図1は、本実施形態の蓄熱システムの構成図である。本実施形態では、蓄熱材として、脱水反応によって蓄熱し、吸水反応によって放熱する蓄熱材を用いる。
【0030】
本実施形態の蓄熱システムは、上方に開放した第1の開口部21を有し、蓄熱材3を収容する反応容器1と、蓄熱運転時に蓄熱材3を加熱する熱媒体が流通する伝熱管4と、前記反応容器1の上方に配置され、前記蓄熱材3を加熱することによって前記蓄熱材3から脱離した水蒸気を凝縮させて凝縮水を得る凝縮部12と、前記凝縮部12より滴下した凝縮水を移動させる傾斜部13とを備える。反応容器1には、伝熱管4を流通する熱媒体から蓄熱材3への熱移動を向上させるためのフィン5と、放熱運転時に蓄熱材3に水を供給するための散水部15とが設けられている。反応容器1、傾斜部13、伝熱管4、フィン5および凝縮部12は、何れも蓄熱材容器2内に配置されている。
【0031】
図2は本実施形態の蓄熱システムの蓄熱材加熱部を示す図である。図2により、蓄熱運転時の蓄熱材容器2内で起こる現象を詳細に説明する。加熱された熱媒体が伝熱管4を流通すると、温度差により、蓄熱材3または熱遮蔽部68に熱が移動する。蓄熱材容器2内が大気圧以下に減圧され、蓄熱材3がその空間圧力での飽和温度に対して、ある一定の過熱度を持った温度に到達すれば、蓄熱材3から水分が脱離するとともに沸騰が起こる。本発明の実施形態では、伝熱管4と熱遮蔽部68とのすき間が気泡核となるため、この部分では沸騰が発生する過熱度が下がり、水分の脱離が活発に起こるようになる。したがって、沸騰促進ができるため、蓄熱材3からの脱水速度の向上が可能となる。
【0032】
熱遮蔽部68の材質は伝熱管4よりも熱伝導率が低い物質を用いればよい。そうすれば、伝熱管4からの熱移動を妨げやすくなるので、熱遮蔽部68に接している蓄熱材3の温度が上昇しやすくなり、沸騰を促進することができる。
【0033】
一方、蓄熱システムによく用いられる潜熱蓄熱材は金属の溶出(腐食)反応を促進する場合が多い。また、沸騰により発生した気泡が、伝熱管4またはフィン5に衝突してしまうと、さらに機械的損傷(削傷)を誘引してしまい、溶出(腐食)反応を加速してしまう。そのため、特に伝熱管4が破損した場合には、もはや蓄熱システムが機能しなくなるため、これらの現象に対しては十分な対策が必要になる。そこで、熱遮蔽部68の材質としては、伝熱管4よりも自然浸漬電位の低い金属、プラスチックまたセラミックスを使用し、伝熱管4を構成する金属からの溶出(腐食)反応を抑制する。
【0034】
図3は蓄熱材加熱部の他の実施形態を示す図である。図3において、矢印69は加熱された熱媒体の流通方向である。熱媒体が流通する下流側では、熱媒体の温度が下がり、蓄熱材3への熱が移動しにくくなる。したがって、蓄熱材3の温度が上昇しにくく、沸騰が起こりにくい。そこで、図3に示すように熱媒体の流通方向の下流側に、熱遮蔽部68を多く設置する。そうすれば、沸騰に必要な加熱度が下がり、下流側であっても沸騰が起こりやすくなるため、蓄熱材容器2内での均一な沸騰が可能とる。したがって、蓄熱運転時の脱水速度向上により、効率的な運転が可能となる。
【0035】
図4は本実施形態の蓄熱システムの動作を説明するための図である。図4により、蓄熱材3から脱離した水の移動をより詳細に説明する。加熱された熱媒体が伝熱管4を流通すると、蓄熱材3が加熱され、蓄熱材から脱離した水蒸気25は、第1の開口部21から、傾斜部13に設けた第2の開口部24を通過し、凝縮部12で冷却されて、凝縮水(液体の水26)になる。凝縮水は液膜となり、ある一定の量になると重力の作用により、水滴となって、下方に設置されている傾斜部13に滴下する。この際、傾斜部13に滴下した凝縮水の大きさに対して、傾斜角29がある一定の角度以上であれば、凝縮水は第1の水輸送経路14に向かって流れ出す。
【0036】
図5は本実施形態の蓄熱システムにおける傾斜部13の構成を説明するための図である。図5に示すように、傾斜部13は第1の水輸送経路14を構成する反応容器1の外壁を含む鉛直面64から、鉛直面からの距離が最大となる凝縮部12を含む鉛直面65までの全域に配置する。
【0037】
傾斜部13の材質は撥水性であっても、親水性であってもよいが、表面に滴下した凝縮水を容易に所望の方向へ移動させるためには、撥水性であることが好ましい。本明細書では、表面に置かれた水滴の接触角θが90°を超えると撥水、90°未満であれば親水性とする。また、傾斜部13は、蓄熱運転による容器内の圧力変化に耐える強度を有することが好ましい。また、傾斜部13をプラスチックや金属で作製し、凝縮部12と向かい合う面に撥水性を付与する表面処理を加えても、同様の効果を得ることができる。
【0038】
一方、傾斜部13に設けた第2の開口部24に凝縮水26が流入し、蓄熱材3から脱離した水蒸気25の流動抵抗となり、脱水速度が低下するおそれがある。特に凝縮部12の冷却面の濡れ性が親水性の場合には、傾斜部13に滴下する水滴が大きくなり、第2の開口部24に流入しやすくなる。しかし、本実施形態のように、撥水性を有した表面に第2の開口部24を設けると、毛細管現象により凝縮水26の流入を防ぐことができる。第2の開口部の相当直径(ここで、相当直径とは第2の開口部24の断面と等価な円径の直径とする)が小さいほど、毛細管現象により、凝縮部12より滴下した水滴の流入を効果的に防ぐことができる。一方、第2の開口部24の相当直径を小さくしすぎると、水蒸気の流動抵抗の増大を招いてしまう。そこで、凝縮部12の冷却面として銅を用いた場合の水滴径と、その水滴の流入を防ぐのに必要な第2の開口部24の相当直径を計算により求めた。その結果、水滴径は7.4mmであり、必要な相当直径は0.90mmであった。本実施例では、凝縮水の流入をより確実に防止するため、第2の開口部24の相当直径を0.75mmとした。
【0039】
本実施形態では、凝縮水は、傾斜部13の構造により、傾斜部13の上面から、蓄熱材容器2の内壁と反応容器1との間を下方に向かって流出する。ここでは、蓄熱材容器2の内壁と反応容器1との間における凝縮水が通過する経路14を「第1の水輸送経路」と称する。なお、第1の水輸送経路14は、図示する経路に限定されない。第1の水輸送経路14の配置にかかわらず、傾斜部13の上面が第1の水輸送経路14に近づくにつれて位置が低くなる構造を有していれば、凝縮水を第1の水輸送経路14に誘導させることがで
きる。
【0040】
本実施形態では、蓄熱材3として、塩化カルシウム、臭化カルシウム、硫酸マグネシウムから選ばれた少なくとも1種の化合物を含む潜熱蓄熱材を用いることができる。例えば、塩化カルシウムの水和物、臭化カルシウムの水和物などを用いてもよい。ここでは、塩化カルシウム・6水和物を用いる。
【0041】
第1の開口部21に水蒸気透過手段を設置してもよい。これにより、減圧運転時の蓄熱材3の飛散を防ぐことができる。水蒸気透過手段は、水蒸気を透過させるが、液体の水を透過させない構造体であればよく、例えば気液分離膜を用いて構成されていてもよい。気液分離膜は、気体を通過させるが液体を通過させない膜であり、例えば中空糸や活性炭やポリテトラフルオロエチレン、または撥水処理を施したポリビニリデンフオライド、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを含む膜である。この好ましくは、水滴を通さずに水蒸気のみを微細孔を介して通す透湿膜を用いればよい。
【0042】
本実施形態の蓄熱システムは、さらに、蓄熱材容器2の外部に設けられ、凝縮部12によって凝縮された凝縮水を貯留する水貯留部17と、凝縮水を貯留する水貯留部17と、凝縮水を蓄熱材容器2から水貯留部17に輸送する第2の水輸送経路16と、放熱運転時に、水貯留部17に貯留された水を水貯留部17から反応容器1内に供給する水供給経路20とを備えてもよい。水供給経路20は、水貯留部17と反応容器1に配置された散水部15とを接続している。このような構成により、蓄熱運転時には、第1の水輸送経路14を通過した凝縮水は、第2の水輸送経路16により水貯留部17に輸送されて貯留される。蓄熱運転時に水貯留部17に貯留された貯留水は、放熱運転時に、水供給経路20を通過して散水部15まで輸送され、散水部15から反応容器1内に供給されて蓄熱材と反応(水和反応)する。この反応により、蓄熱材に蓄えられた熱が放出される。
【0043】
第2の水輸送経路16には、反応容器1と水貯留部17との間で水が移動することを制御する弁32が設けられていることが好ましい。さらに、水貯留部17に貯留されていた水を加熱する貯留水加熱部19を備えていることが好ましい。これにより、放熱運転時に、加熱した貯留水と蓄熱材とを反応させることができるので、取出し熱量を増加させることができる。蓄熱運転時に貯留水を加熱するときは、加熱された貯留水が反応容器1に逆流することを防止するために弁32を閉じておくことが好ましい。
【0044】
<蓄熱動作>
次に、蓄熱材として塩化カルシウム・6水和物を用いる場合を例に、図1に示す蓄熱システムの蓄熱運転時の動作を説明する。
【0045】
本実施形態では、弁32を開けた状態で、蓄熱材3を加熱するとともに、凝縮部12で凝縮した水を蓄熱材容器2から取り出して水貯留部17に貯留する(以下、第1の蓄熱工程という)。続いて、弁32を閉じることによって、蓄熱材容器2と水貯留部17との間で水が移動することを遮断する。この状態で、蓄熱材3をさらに加熱して、蓄熱材3の温度をさらに上げる(以下、第2の蓄熱工程)とともに、水貯留部17に貯留されていた貯留水を加熱してもよい。
【0046】
以下、図面を参照しながら、蓄熱工程の動作をより詳しく説明する。
【0047】
図6は、本実施形態の蓄熱運転時における蓄熱材の温度と塩濃度との関係を例示するグラフである。図6に示す曲線(A)が第1の蓄熱工程に相当し、直線(B)が第2の蓄熱工程に相当する。
【0048】
下記式(1)から分かるように、塩化カルシウム・6水和物は加熱されると脱水反応を生じて塩化カルシウム水溶液と塩化カルシウム・2水和物との混合物になるとともに、熱(ΔH)を蓄える(右向きの反応)。一方、塩化カルシウム水溶液と塩化カルシウム・2水和物との混合物は、水と反応して塩化カルシウム・6水和物になるとともに、熱(ΔH)を放出する(左向きの反応)。なお、本明細書では、蓄熱している状態(ここでは塩化カルシウム水溶液と塩化カルシウム・2水和物との混合物)を単に「蓄熱状態」、放熱後の状態(ここでは塩化カルシウム・6水和物)を単に「放熱状態」という。
【0049】
【化1】

【0050】
まず、第1の蓄熱工程を開始する前に、弁32〜37を全て閉じておく。弁32を開放し、真空ポンプ等の減圧装置により蓄熱材容器2及び水貯留部17の圧力を下げる。蓄熱材容器2及び水貯留部17の圧力が所定の値まで下がれば、弁32を閉じる。
【0051】
続いて、第1の蓄熱工程を開始する。ここでは、冷媒回路10により反応容器1内の蓄熱材3を加熱する。また、膨張装置8を流通した後の冷媒を凝縮部12に流通させることによって、蓄熱材の加熱と同時に、蓄熱材から脱離した水蒸気の冷却を行う。このとき、図6の曲線(A)に示すように、水和物である蓄熱材3は固体から液体に相変化し、続いて濃縮により水和数が減少しはじめる。この反応は上式(1)の右方向の反応に相当する。蓄熱材3から脱離した水分は水蒸気となり、第1の開口部21から第2の開口部24を通過して、凝縮部12に到達する。凝縮部12に到達した水蒸気は冷却されて液滴(凝縮水26)となり、重力により下方向に滴下する。滴下した水滴は、傾斜部13により、第1の水輸送経路14に誘導される。第1の水輸送経路14を通過した後、第2の水輸送経路16を経て、水貯留部17で貯留される。
【0052】
図6に示すように本実施形態によれば、第1の蓄熱工程により、蓄熱材3の温度が60℃に到達したときに、塩濃度を60%まで高めることができる。この工程において、蓄熱材3を相変化温度まで昇温させるための顕熱、相変化温度での蓄熱材の融解潜熱、固液共存状態の蓄熱材3を相変化温度から60℃まで昇温させるための顕熱、および、蓄熱材3の脱水反応による反応熱を蓄えることが可能である。また、第1の蓄熱工程では、蓄熱材3で冷却された後、第2熱交換部(熱媒加熱部)9で加熱される前の熱媒の温度Tmは、蓄熱材3の温度上昇に伴って60℃まで上昇する。
【0053】
この後、弁32を閉じて、蓄熱材容器2と水貯留部17との間の水の移動を遮断する。これによって、第1の蓄熱工程を終了する。
【0054】
続いて、第2の蓄熱工程を行う。
【0055】
蓄熱材3で冷却された後、(熱媒加熱部)9で加熱される前の熱媒の温度Tmが高くなると、ヒートポンプ回路10のCOPがそれにつれて低下してしまう。したがって、蓄熱材3をさらに加熱する場合には、熱媒と水貯留部17に貯留された水との熱交換により、第2熱交換部(熱媒加熱部)9で加熱される前の熱媒の温度Tmを低くすることが好ましい。
【0056】
したがって、第2の蓄熱工程では、まず、弁33及び弁34を開き、ポンプ30により水貯留部17内の貯留水を第3熱交換部(貯留水/熱媒熱交換部)18に送る。第3熱交
換部(貯留水/熱媒熱交換部)18において、反応容器1内を流通した後の熱媒と水貯留部17で貯留されていた貯留水とが熱交換され、熱媒の温度Tmを下げるとともに、貯留されていた貯留水を加熱することができる。加熱された貯留水は、再び水貯留部17に戻される。
【0057】
蓄熱材の温度を80℃まで昇温させた後、第2の蓄熱工程を終了する。本実施形態では、このときの水貯留部17の温度は40℃であった。
【0058】
第2の蓄熱工程が終了すると、すべての弁を閉じた状態にして蓄熱材3の加熱を停止する。
【0059】
<放熱動作>
次に、本実施形態の蓄熱システムの放熱運転時の動作を説明する。
【0060】
本実施形態では、上記蓄熱動作の後、水貯留部17内の貯留水を反応容器1に供給し、蓄熱状態の蓄熱材3と反応させることによって放熱を行う。また、放熱時に蓄熱材から放出された熱の回収を、伝熱管4において、給水口40より供給された市水と蓄熱材3とを熱交換させることにより行う。
【0061】
しかし、蓄熱材3を収容している蓄熱材容器2の空間圧力が水貯留部17の空間圧力より高いときには、圧力差が抵抗になり、ポンプ等の輸送機器によらなければ水貯留部17に貯留されている水を蓄熱材容器2に供給することはできない。
【0062】
図7は本実施形態の蓄熱システムの蓄熱運転終了時の蓄熱材容器2と水貯留部17の空間圧力を示した図である。蓄熱材容器2及び水貯留部ともに、容器内の収容物の飽和蒸気圧が空間圧力になる。したがって、図7に示すように蓄熱材容器2の方が水貯留部17より、空間圧力が高いため、ポンプ等の輸送機器によらなければ水貯留部17に貯留されている水を供給できない。
【0063】
そこで、放熱運転時に水貯留部17から貯留されている水を供給する前に、第3熱交換部(貯留水/熱媒熱交換部)18で加熱する。
【0064】
貯留されている水の温度が上昇していけば、水貯留部17の空間圧力は高くなっていく。
【0065】
したがって、蓄熱材容器2の空間圧力より高くなれば、圧力差により貯留されている水を供給することができる。そこで、圧力差により、貯留されている水を供給するエネルギーを見積もるために、下記式(2)で示すヘッドエネルギー(E)を計算により求めた。
【0066】
【化2】

【0067】
ここで、ΔPは水貯留部17と蓄熱材容器2の空間圧力の圧力差、ρは水の密度、gは重力加速度である。なお、蓄熱材容器2の空間圧力は80℃、塩濃度60%の塩化カルシウム・水和物の飽和蒸気圧を用いた。図8は貯留されている水の温度とヘッドエネルギーの関係を示した図である。図8に示すように、50℃近くまで加熱すればヘッドエネルギーが生じることが分かる。さらに、貯留された水を80℃以上に加熱すれば、蓄熱材容器2と水貯留部17の高さ差が4mあっても、供給することが可能なことが分かる。
【0068】
また、図1に示すように空間圧力検出部66、67を蓄熱材容器2、水貯留部17にそれぞれ備えておけば、空間圧力を正確に検知することができる。
【0069】
そして、本実施形態では反応容器1の下部の設けた散水部15より、貯留された水が供給される。この際、水貯留部17より蓄熱材容器2の空間圧力が低いので、供給された水は減圧沸騰を起こす。また、供給された水が蓄熱材3中を下から上に流通するように供給しているので、減圧沸騰が起こると、蓄熱材3の全体が激しく攪拌される。したがって、蓄熱材と水との水和(化学)反応を均一かつ迅速に促進することができる。
【0070】
以上のように、本実施形態によれば、蓄熱動作時の熱交換器の腐食を抑制しつつ、迅速に蓄熱材からの脱水反応を促進することができる。したがって、放熱動作時の取り出し熱量を多くすることができるため、蓄熱密度の高い蓄熱システムを実現が可能となる。
【0071】
本実施形態の蓄熱システムの構成は、図1に示した構成に限定されない。例えば、図9に示すように、複数の反応容器1を備えていてもよい。その場合、複数の反応容器1を鉛直方向に積層し、各反応容器1内における蓄熱材3の厚さを低減してもよい。これにより、蓄熱材3の深さ方向に働く圧力(ヘッド)の値を小さくできるので、脱水反応をさらに促進することができる。
【0072】
また、本実施形態では貯留部17に貯留されていた水は、ヒートポンプ回路10を熱源として加熱しているが、電気ヒータや他の機器の排熱を用いてもよい。
【0073】
放熱時に回収された熱の利用手段は給湯に限定されず、例えば暖房機器などに利用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明に係る蓄熱システムは、給湯器、空調設備、工業廃熱の貯蔵等に利用することができ、特に、給湯器に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0075】
1 反応容器
2 蓄熱材容器
3 蓄熱材
4 伝熱管
5 フィン
6 圧縮機
7 蒸発器
8 膨張装置
9 第2熱交換部(熱媒加熱部)
10 冷媒回路
11 熱媒回路
12 凝縮部
13 傾斜部
14 第1の水輸送経路
15 散水部
16 第2の水輸送経路
17 水貯留部
18 第3熱交換部(貯留水/熱媒熱交換部)
19 貯留水加熱部
20 水供給経路
21 第1の開口部
22 給湯口
24 第2の開口部
25 水蒸気
26 凝縮水
29 傾斜角
30 ポンプ
32〜38 弁
39 温度検知手段
40 給水口
41〜43 弁
44〜46 三方弁
64 反応容器の外壁を含む鉛直面
65 鉛直面64からの距離が最大となる凝縮部12を含む鉛直面
66、67 圧力検出手段
68 熱遮蔽部
69 加熱された熱媒体の流通方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を脱離することによって蓄熱し、かつ、水と反応することによって放熱する蓄熱材と、前記蓄熱材を収容する蓄熱材容器と、前記蓄熱材を加熱または冷却する熱媒体が流通する伝熱管と、前記伝熱管に伝熱性能を向上させるための複数のフィンと、前記フィンの間に設けられ、前記伝熱管から前記蓄熱材への熱移動を妨げる熱遮蔽部とを備え、蓄熱運転時に、前記蓄熱材容器の空間圧力を大気圧以下にすることを特徴とした蓄熱システム。
【請求項2】
前記熱遮蔽部は、前記伝熱管の上流側よりも下流側の方が多く配置されたことを特徴とする請求項1に記載の蓄熱システム。
【請求項3】
前記熱遮蔽部の熱伝導率が前記伝熱管の熱伝導率より低いことを特徴とする請求項1または2に記載の蓄熱システム。
【請求項4】
前記熱遮蔽部の材質が金属であり、前記蓄熱材に浸漬した際の前記熱遮蔽部の自然浸漬電位が、前記伝熱管の自然浸漬電位より低いことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の蓄熱システム。
【請求項5】
前記熱遮蔽部の材質が樹脂である請求項1から3のいずれか1項に記載の蓄熱システム。
【請求項6】
前記熱遮蔽部の材質がセラミックスである請求項1から3のいずれか1項に記載の蓄熱システム。
【請求項7】
水を脱離することによって蓄熱し、かつ、水と反応することによって放熱する蓄熱材と、前記蓄熱材を収容する蓄熱材容器と、前記蓄熱材を加熱または冷却する熱媒体が流通する伝熱管と、前記伝熱管に伝熱性能を向上させるための複数のフィンと、前記フィンの間に設けられ、前記伝熱管から前記蓄熱材への熱移動を妨げる熱遮蔽部とを備えた蓄熱システムにおいて、蓄熱運転時に、前記蓄熱材容器の空間圧力を大気圧以下にすることを特徴とした蓄熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−167892(P2012−167892A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30485(P2011−30485)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)