説明

蓄熱装置およびこれを備える空気調和装置

【課題】熱交換器の腐食を抑制した小型軽量高品質の蓄熱装置と、これを用いた快適で省エネの高い空気調和装置を提供することを目的とする。
【解決手段】蓄熱装置20Aは、水からなる蓄熱溶液で構成される蓄熱溶液層11と、蓄熱溶液層11に浸漬された蓄熱熱交換器22を内部空間に配置し、蓄熱溶液層11には酸化マグネシウムなどの微溶解性塩基性物質14が浸漬されている。マグネシウム系の微溶解性塩基性物質14は、水質PHが最大でも10.5までしか上昇しないうえに、腐食を誘発する酸性イオンを捕捉して中和して液性PHを中性から弱アルカリ性に長期間維持するので、蓄熱熱交換器22の腐食が抑制されその耐食性が長期間維持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱溶液として水溶液を利用した蓄熱装置と、当該蓄熱装置を備える空気調和装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
水は、その比熱容量が他の物質と比較して相対的に大きく、常温で液体であり、さらに低価格であることから、蓄熱装置の蓄熱溶液(蓄熱材、蓄熱媒)として広く利用されている。水を蓄熱溶液として利用する場合、一般的には、エチレングリコール等の二価アルコールを「不凍液」として添加した、二価アルコール水溶液として用いられる。具体的には、このような蓄熱溶液を用いた蓄熱装置は、例えば、特許文献1には、空気調和機の冷凍サイクルに組み込まれ、水を主成分とする蓄熱材を有する蓄熱容器を備えた大気開放型の蓄熱装置の構成が開示されている。このような蓄熱装置について、空気調和機に応用した構成も含めて、より具体的な一例を図7(a),(b)を参照して説明する。
【0003】
図7(a)は、特許文献1に開示される従来の蓄熱装置910の断面を示している。蓄熱装置910は、金属製の蓄熱槽901および金属製の蓋体902から蓄熱容器が構成され、蓄熱槽901の内部空間には蓄熱材903が収納されている。この蓄熱材903としては、低温における凍結を防止するために、水を主成分とし30%のエチレングリコールを混合したブラインが用いられている。また、蓄熱槽901の内部空間であって、蓄熱材903に浸漬する位置には、複数の放熱用熱交換器904および複数の吸熱用熱交換器905が設けられている。
【0004】
蓄熱材903は、蓄熱容器の外部に設けられた蓄熱ヒータ906および放熱用熱交換器904からの放出される熱を蓄え、当該熱を吸熱用熱交換器905で回収する。吸熱用熱交換器905の内部には冷媒(図示せず)が流れているので、蓄熱材903から熱を回収することで、冷媒に熱が伝達されて高温となる。従来の蓄熱装置910は、このような蓄熱および熱回収を利用して、特許文献1に開示される冷凍サイクル(図示せず)における暖房立ち上げ特性を改善する。
【0005】
蓄熱材903の表面には、例えば3mmの膜厚を有する油膜907が設けられており、この油膜907によって、蓄熱材903の蒸発による減少を抑制するように構成されている。また、蓋体902には、開口908が設けられているので、蓄熱材903の蒸発または熱膨張により蓄熱容器の内部圧力を過度に高めないように構成されている。また、開口908には、大気に蒸気を過度に放出しないように、蒸気抑制手段(図示せず)が設けられている。さらに、油膜907および蓋体902の間には、空気層909が形成されている。これにより、蓄熱材903の温度上昇に伴う熱膨張により、その一部が開口908(および蒸気抑制手段)を経由して蓄熱容器の外に溢れないように構成されている。
【0006】
図7(b)は、前記構成の蓄熱装置910を空気調和機の冷凍サイクルに組み込んだ構成を示している。空気調和機は、室内ユニット911、膨張弁(図示せず)、室外ユニット912、圧縮機913およびこれらをつなぐ配管916を備えている。室内ユニット911は、室内側熱交換器(図示せず)を備え、室外ユニット912は室外側熱交換器(図示せず)を備え、配管の内部には冷媒が流れている。また、室内ユニット911、膨張弁、室外ユニット912および圧縮機913によって暖房用ヒートポンプが構成されている。
【0007】
さらに、室内ユニット911につながる配管916のうち、冷媒が流れる方向の下流側
と、圧縮機913につながる配管916のうち、冷媒が流れる方向の上流側とをつなぐように、バイパス配管914が設けられている。このバイパス配管914は、吸熱用熱交換器905を備えており、二方弁915を開くことで、冷媒が流れるように構成されている。
【0008】
前記構成によれば、冷媒は圧縮機913によって高温高圧となり、図中矢印m1(黒く塗りつぶしたブロック矢印)に沿って配管916内を流れ、蓄熱装置910に達する。そして、放熱用熱交換器904により高温の冷媒から熱が放熱され、蓄熱装置910内の蓄熱材903に蓄熱される。同時に、蓄熱材903は、蓄熱装置910に併設された蓄熱ヒータ906によってさらに加熱されて、例えば93〜97℃まで昇温するので、蓄熱ヒータ906からの熱も蓄熱材903に蓄熱される。
【0009】
これら蓄熱により高温となった蓄熱材903は、二方弁915を開くことにより、図中矢印m3(白抜きのブロック矢印)で示す方向に沿ってバイパス配管914に流れる冷媒を、吸熱用熱交換器905を介して加熱する。蓄熱材903により温められた(蓄熱材903から熱を回収した)冷媒は圧縮機913へ達し、最終的には室内側熱交換器を備える室内ユニット911まで流れ、この室内ユニット911で熱交換することにより、暖房用温風が生成される。なお、熱交換後に低温となった冷媒は、図中矢印m2で示す方向に沿って配管916を流れ、室外ユニット912を介して圧縮機913まで戻ることになる。
【0010】
また、特許文献2には、水和塩を主成分とする潜熱蓄熱材を蓄熱槽内に充填した蓄熱装置において、潜熱蓄熱材の表面上に水分蒸発防止膜を設けた構成が開示されている。具体的には、潜熱蓄熱材として、酢酸ナトリウム三水和塩に増粘剤としてのキサンタンガムを1〜2%混ぜたものが例示され、当該潜熱蓄熱材の表面上に、水分蒸発防止膜としてパラフィンまたは高分子膜等が例示されている。なお、水分蒸発防止膜は、水分を透過させにくい材質であれば基本的に何でもよく、液体状でも固体状でもよいが、蓄熱材の表面との間に空隙があると水分がある程度蒸発してしまうことから、可撓性のある材質が好ましいことが開示されている。
【0011】
また、特許文献3には、家庭用の暖房・給湯機器用、及び電子部品の冷却用に用いる蓄熱材組成物であって、水分蒸発防止剤を含む構成が開示されている。具体的には、蓄熱材組成物として、酢酸ナトリウム3水塩等の水和塩型蓄熱材に、過冷却防止剤、水、増粘剤および、伝熱促進材を所定範囲の組成で混合し融解攪拌したものが例示され、さらに、当該蓄熱材組成物に、水分蒸発防止剤として流動パラフィンを添加したものが例示されている。なお、水分蒸発防止剤は、蓄熱材に不溶で比重が軽く沸点の高いものであれば流動パラフィンに限定されず、例えば、動植物油、シリコーンオイル等の合成油、有機溶剤等も例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平10−288359号公報
【特許文献2】特開昭64−10098号公報
【特許文献3】特開2000−119643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、前記従来の蓄熱装置910で使用する蓄熱材903は、長期間使用すると例えば、水を主成分とし30%のエチレングリコールを混合したブラインの場合、空気中の酸素によりエチレングリコールが酸化されて酸性の有機酸が生成し、これに伴う水質の酸性化により放熱用熱交換器904および吸熱用熱交換器905が腐食する例が極稀に
あった。また、水を主成分とした蓄熱材3の場合でも、水の液性がPH5〜6といった酸性であると同様に、放熱用熱交換器904および吸熱用熱交換器905が腐食する例が極稀にあった。
【0014】
この課題解決のため、放熱用熱交換器904および吸熱用熱交換器905は、ステンレスでも例えばSUS316という耐食性の極めて優れた材料を使用して対応しているのだが、腐食が激しい使用形態の場合、その表面を電解研磨して耐食性をさらに高めたり、表面積を大きくして受熱負荷を低減したり、板厚を厚くしたりして、耐食性向上を図っている。このため、蓄熱装置が高価になるや重くなるという課題が新たに発生していた。一方、使用期間が短くて腐食量が少ない場合は、銅を使用できるがその場合その板厚を厚くして耐食を確保しているが、これにともなって蓄熱装置が重くなるという課題が新たに発生していた。さらに、これら熱交換器の腐食は、例えば100℃といった高温で発生するので、蓄熱装置をこの様な高温まで上昇させて使用することができない課題もあった。
【0015】
本発明は、前記課題を解決するために、蓄熱溶液層にマグネシウム系の微溶解性塩基性物質を浸漬してそのPHを中性から弱アルカリ性に保持し、このPH液性により熱交換器の腐食を抑制した小型軽量高品質の蓄熱装置と、これを用いた快適で省エネの高い空気調和装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る蓄熱装置は、前記の課題を解決するために、少なくとも水からなる蓄熱溶液で構成される蓄熱溶液層と、蓄熱溶液層に浸漬された熱交換器を、その内部空間に配置した蓄熱容器を備え、蓄熱溶液層には、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、珪酸マグネシウム、金属マグネシウムの少なくとも1種を主成分とする微溶解性塩基性物質を浸漬しているとした。
【0017】
マグネシウム系の微溶解性塩基性物質は、水質PHが最大でも10.5の弱アルカリ性までしか上昇しないうえに、腐食を誘発する酸性イオンを捕捉して中和し、蓄熱溶液層の液性PHを中性から弱アルカリ性に長期間維持する性質がある。その結果、蓄熱装置は、このPH液性により熱交換器の腐食が抑制されその耐食性が長期間維持できるとともに、板厚を薄くできしかも、腐食抑制のための種々のメカ機構や制御機構が不要となるので、小型軽量高品質の蓄熱装置となる。
【0018】
前記蓄熱装置において、微溶解性塩基性物質を、酸化マグネシウムの濃度を70%以上好ましくは85%以上とし、残部を各種の金属酸化物(珪酸、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化カルシウム、硼酸)とすると、中和能力や寿命の一層の向上が図れた。またさらに、1500〜2300℃で焼成し粒径を1〜15mmとした酸化マグネシウム系微溶解性塩基性物質とすると、中和能力や寿命のさらに一層の向上が図れた。
【0019】
前記蓄熱装置において、蓄熱溶液の具体的な構成は特に限定されないが、蓄熱溶液が水だけでなく、二価アルコールを含む水溶液である例を好ましく挙げることができ、蓄熱溶液が氷点以下となっても凍結を回避することができる。またさらに、二価アルコールの酸化を防止する酸化防止液を混合した蓄熱溶液にすると、有機酸の生成量が低減して、マグネシウム系の微溶解性塩基性物質の寿命が向上するので長期間に渡って、腐食を誘発する酸性イオンを捕捉して中和し、蓄熱溶液層の液性PHを中性から弱アルカリ性に維持できる。その結果、熱交換器の耐食性をさらに長期間一層良好なものとすることができる。
【0020】
前記蓄熱装置において、蓄熱溶液層の上部に蒸発防止層を配置し、この蒸発防止層は、少なくとも1種の不水溶性溶媒からなる溶媒組成物から構成し、溶媒組成物の融点は常温未満であり、不水溶性溶媒は、炭素数が24〜44の範囲内にある炭化水素の少なくとも
いずれかを含んでいることが好ましい。前記構成によれば、溶媒組成物が特定範囲の炭素数を有する炭化水素を含んでいるため、有機酸が僅かしか生成しないうえに、空気中の酸素が蓄熱溶液に浸入し難くなる。このことで、マグネシウム系の微溶解性塩基性物質の寿命が向上するので長期間に渡って、腐食を誘発する酸性イオンを捕捉して中和し、蓄熱溶液層の液性PHを中性から弱アルカリ性に維持でき、蓄熱熱交換器の腐食低減をさらに一層確実なものとすることができる。これに加えて、蒸発防止層により、蓄熱溶液層は蒸発が抑制されるので補充の必要がなく、長期間良好な蓄熱特性を維持できる。
【0021】
前記蓄熱装置においては、蓄熱溶液層を加熱する加熱源と、蓄熱溶液層に蓄熱された熱を回収する蓄熱熱交換器とをさらに備えている構成であってもよい。また、加熱源は、蓄熱溶液層の外部に設けられ、蓄熱熱交換器は、蓄熱容器の内部で、蓄熱溶液に浸漬する位置に設けられている構成であると好ましい。この構成によれば、加熱源を備えることで、より好適な蓄熱が可能となるとともに、蓄熱熱交換器を備えることで、蓄熱した熱を好適に回収できるとともに、加熱源として、例えば、蓄熱溶液層の外部に位置する圧縮機等、加熱機能以外の機能を有する機器を用いれば、廃熱を有効に蓄熱して回収することができる。
【0022】
前記蓄熱装置においては、蓄熱容器は、加熱源を囲むように設けられていることが好ましい。この構成によれば、加熱源の周囲に蓄熱容器が位置するため、加熱源からの熱を効率的に蓄熱することができる。
【0023】
前記蓄熱装置においては、蓄熱容器は、熱伝導性部材を介して加熱源と接触していることが好ましい。この構成によれば、熱伝導性部材を介して蓄熱容器および加熱源が接触しているので、加熱源からの熱を効率的に蓄熱容器に伝導させることができる。
【0024】
本発明に係る蓄熱装置は、蓄熱を行うためのどのような分野にも好適に用いることができるが、代表的な一例として、空気調和装置を挙げることができる。つまり、本発明には、前記構成の蓄熱装置を備える空気調和装置も含まれる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、蓄熱熱交換器の腐食を抑制し信頼性の向上した蓄熱装置と、これを用いた快適で省エネの高い空気調和装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態1に係る蓄熱装置の構成の一例を示す模式的断面図
【図2】本発明の実施の形態1に係る蓄熱装置の効果特性図(水質PHと銅イオン濃度の特性図)
【図3】本発明の実施の形態2に係る蓄熱装置の構成の一例を示す模式的断面図
【図4】本発明の実施の形態2に係る蓄熱装置の効果特性図(蒸発防止層の組成分析図)
【図5】(a)本発明の実施の形態2に係る蓄熱装置の構成の一例を示す横断面図、(b)(a)に示す蓄熱装置の縦断面図
【図6】本発明の実施の形態3に係る空気調和装置の構成の一例を示すブロック図
【図7】(a)従来の蓄熱装置の構成の一例を示す断面図、(b)(a)に示す蓄熱装置を備える空気調和装置の構成の一例を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0028】
(実施の形態1)
[蓄熱装置の構成]
まず、本実施の形態に係る蓄熱装置の具体的な構成について、図1を参照して具体的に説明する。
【0029】
図1に示すように、本実施の形態に係る蓄熱装置20Aは、少なくとも水からなる蓄熱溶液で構成される蓄熱溶液層11と、この蓄熱溶液層11に浸漬された蓄熱熱交換器22をその内部空間に配置しておりさらに、蓄熱溶液層11には、微溶解性塩基性物質14が浸漬されている。そして、微溶解性塩基性物質14は、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、珪酸マグネシウム、金属マグネシウムの少なくとも1種を主成分としている。
【0030】
蓄熱容器21は、箱部211および蓋部212から構成されている。箱部211は、蓄熱容器21の本体であって、略直方体形状を有し、その上面が上部開口213となっている。箱部211の内部空間は、蓄熱溶液層11を貯えることができるように構成され、当該内部空間は上部開口213を介して外部空間とつながっている。蓋部212は、箱部211の上部開口213を覆うように設けられ、その一部に、箱部211の内部空間とつながる通気孔214が設けられている。したがって、蓄熱容器21の内部空間は、箱部211の上部開口213が蓋部212で閉じられた状態であっても、通気孔214を介して外気と連通している。
【0031】
箱部211および蓋部212は、内部空間で蓄熱溶液層11を安定して保持できる材料および形状で構成されていればよく、材料としては、一般的には、ステンレス(SUS)またはPPS樹脂などの繊維強化プラスチック(FRP)が用いられ、形状としては、一般的には、直方体状または立方体状等が挙げられる。また、箱部211の内部容積についても特に限定されず、蓄熱装置20Aの使用条件等に応じて適切な容積となるように設計されればよい。
【0032】
次に、蓄熱容器21内に形成される各層の構成について、図1を参照して具体的に説明する。前記のとおり、蓄熱容器21の内部には、蓄熱溶液が貯えられることで蓄熱溶液層11が形成されているが、さらにこの上方には用途に応じて、通気孔214から流入する外気により空気層12を形成してもよい。したがって、この様な用途の場合、蓄熱容器21の内部には、蓄熱溶液層11、空気層12が下側からこの順で形成されていることになる。蓄熱溶液層11および空気層12の層厚については、特に限定されず、蓄熱容器21の形状、内部空間の容積、熱膨張による蓄熱溶液の体積増分等の諸条件に応じて、適切な厚みが設定されればよい。つまり、熱膨張によって蓄熱溶液が通気孔214から漏れ出さない空間的余裕(空気層12)が形成されるのであれば、蓄熱溶液層11および空気層12の層厚はどのような値であってもよい。
【0033】
蓋部212に設けられる通気孔214は、蓄熱容器21の内部の圧力上昇を緩和するために、空気層12を形成する内部空気を蓄熱容器21の外部に流出させたり、蓄熱溶液から生ずる蒸気または溶存空気等を外部に放出させたりするよう構成されている。また、蓄熱容器21の内外で空気層12を構成する空気が必要以上に流動したり、蓄熱容器21から生ずる蒸気が必要以上に放出されて蓄熱溶液等が減少したりすることを抑制するように、その開口面積は最適化されていればよい。なお、通気孔214の位置、形状、個数等の具体的構成については特に限定されず、圧力上昇の緩和と、蓄熱溶液等の減少の抑制を実現できるような構成であればよい。また、通気孔214は、蓋部212ではなく箱部211の上部に設けられても良いし、双方に設けられても良い。圧力上昇などに対する内圧調整する手段として、例えば、蓋部212において内部空気に接する位置に嵌合される、蓋
ピンホールを有するゴム材からなるものを用いることができる。
【0034】
蓄熱熱交換器22は、図1に示すように、蓄熱容器21の内部全体に広がるように設けられる配管状の構成であり、内部に熱交換用の熱媒体(便宜上、熱交換媒体と称する。)を流動可能とする構成となっている。また、蓄熱熱交換器22が設けられる位置は、蓄熱容器21の内部で、蓄熱溶液層11に浸漬する位置となっている。
【0035】
蓄熱熱交換器22の両端である流入口部221および流出口部222は、蓋部212を貫通して蓄熱容器21の上方から外部に露出しており、これら流入口部221および流出口部222に、熱交換媒体を流動させる外部配管が接続される。また、蓄熱熱交換器22の大部分を構成する本体配管部223は、大部分がつづら折れ状に構成されており、流入口部221から流出口部222に至るまで、本体配管部223が一筆書き可能(unicursal)な形状となっている。この本体配管部223のほとんどは、蓄熱溶液層11に浸漬されている。そして、流入口部221から流出口部222に向かって本体配管部223の内部を熱交換媒体が流通することにより、蓄熱溶液層11と熱交換媒体との間で熱交換を行う。蓄熱熱交換器22の具体的な構成や材質は特に限定されず、公知の構成を好適に用いることができる。
【0036】
蓄熱熱交換器22による蓄熱および熱回収の方法は特に限定されないが、例えば、次の2種類の方法を用いることができる。
【0037】
まず、第一の方法は、蓄熱熱交換器22を放熱源として利用する方法である。具体的には、高温の熱交換媒体(例えば、温水または高温の冷媒等)を本体配管部223内に流通させる間に、熱交換媒体が蓄熱している熱を蓄熱溶液層11に放熱することで、蓄熱溶液層11に熱を蓄熱する。そして、図1には示さないが、蓄熱熱交換器22とは別に、熱交換器を設け、この熱交換器内に低温の熱交換媒体(例えば、冷水または低温の冷媒等)を流通させることで、蓄熱溶液層11から熱を回収する。なお、この蓄熱および熱回収となる構成は、逆の構成も可能である。
【0038】
次に、第二の方法は、蓄熱容器21の外部または内部に、図1には図示しない熱供給機器(蓄熱熱交換器22とは別の熱交換器、あるいは加熱源)を併設する方法である。具体的には、熱供給機器から蓄熱溶液層11に熱が蓄熱され、蓄熱熱交換器22内に低温の熱交換媒体を流通させることにより、蓄熱溶液層11から熱を回収し、蓄熱熱交換器22の流出口部222に接続された図示しない熱利用機器に伝達する。
【0039】
本発明の効果について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明する。
[蓄熱装置の効果検証]
効果検証に使用した蓄熱装置20Aを、実施例に基づいて具体的に説明する。蓄熱容器21として、PPS樹脂(ポリフェニレンサルファイド樹脂)を成型して、箱部211と蓋部212を得た。次に、箱部211の内部空間に、銅の蛇管からなる蓄熱熱交換器22と酸化マグネシウム系の微溶解性塩基性物質14を浸漬しさらに、市水に塩素イオンや硫酸イオンなどの酸性イオンを混合して初期PH5.2に調整した蓄熱溶液を注入して蓄熱溶液層11とし、蓋部212を箱部211に積層して蓄熱装置20Aは完成である。なお、蓄熱装置20Aは、箱部211に蓋部212を極微少な隙間を設けて積層して、蓄熱溶液の蒸発および圧力上昇を極力抑制防止している。
【0040】
実施例および比較例における各種・評価は次に示すようにして行った。効果確認実験は、初期PH5.2の蓄熱溶液に、種々の微溶解性塩基性物質14を浸漬し、所定条件(80℃で14日)で試験した前後の特性を評価した。評価した特性は、試験前(初期)と試験後の蓄熱溶液のPH、銅製の蓄熱熱交換器22の耐腐食性、微溶解性塩基性物質14の
寿命であり、特性測定値に応じて「優れる」「良好」「不充分」「極度に劣る」の4段階でランク分けし、その各々を「◎」「○」「△」「×」の記号で表現している。
【0041】
溶液PHは、試験前(初期)と試験後の蓄熱溶液の液性PHを測定したものである。PH調整効果は、蓄熱溶液に混合されている塩素イオンや硫酸イオンなどの酸性イオンを捕捉して中和し,溶液PHを中性から弱アルカリ性にできるかを評価する項目である。この実験においては、試験前(初期)のPHが5.2と同一値であることから、試験後のPHで評価し、PHが7〜10.5であれば「◎」、PHが6〜7および10.5〜11であれば「○」、PHが5.5〜6および11〜11.5であれば「△」、PHが5未満および11.5以上であれば「×」と評価した。
【0042】
熱交換器の耐腐食性は、熱交換器の耐腐食性を評価する項目であり、蓄熱溶液に溶出している銅イオン濃度で評価した。この実験においては、全ての実施例において試験前(初期)の銅イオン濃度が0ppmであることから、試験後の溶出銅イオン濃度が1ppm未満であれば「◎」、1〜3ppmであれば「○」、3〜10ppmであれば「△」、10ppmを超えれば「×」と評価した。
【0043】
微溶解性塩基性物質の寿命は、微溶解性塩基性物質14の寿命を評価する項目である。具体的には、加速促進試験後(耐久後)に蓄熱溶液に溶解しているマグネシウムイオン濃度(mg/L)を測定し、その濃度に蓄熱溶液の液量(L)を乗じた値X(mg)を、蓄熱溶液の液性PH低下を誘発する有機酸を捕捉するに必要なマグネシウム量X(mg)とした。一方、試験前(初期)に投入した微溶解性塩基性物質14の量をY(mg)とすると、その中に含有されるマグネシウム量M(mg)は、微溶解性塩基性物質14の組成から計算した分子量をA(g)、マグネシウムの分子量を24(g)とすると、M=Y×(24/A)となる。そこで、加速促進試験の前(初期)に投入した微溶解性塩基性物質14に含有されるマグネシウム量Mから、有機酸捕捉に必要なマグネシウム量Xを差し引くと、残存するマグネシウム量Z(Z=M−X)が判明する。最後に、残存するマグネシウム量Zを、初期に投入した微溶解性塩基性物質14の量Yで除すると、残存マグネシウム量Zの初期投入微溶解性塩基性物質Yに占める割合T(T=Z/Y)が判明する。残存マグネシウム量Zの初期投入微溶解性塩基性物質Yに占める割合Tが大きいほど、寿命が長いとなる。
【0044】
そこで、この実験においては割合Tが、0,6以上であれば「◎」、0.4〜0.6であれば「○」、0.2〜0.4であれば「△」、0.2以下であれば「×」と評価した。
【0045】
総合判定は、PH調整効果、銅製の熱交換器の耐腐食性、微溶解性塩基性物質の寿命、の各評価項目を総合的に評価した。各評価項目で◎が1個以上あって他が○であり、△や×がなければ、総合判定を「◎」として評価した。また、各評価項目のいずれも○であり、◎や△や×がなければ、総合判定を「○」として評価した。また、各評価項目のうち1個でも△があれば、他に◎と○があっても、総合判定を「△」として評価した。また、各評価項目のうち1個でも×があれば、他に◎や○や△があっても、総合判定を「×」として評価した。
【0046】
検討に用いた微溶解性塩基性物質14は、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、珪酸マグネシウム、金属マグネシウムであり、いずれもマグネシウム成分を主成分とする材料である。
【0047】
(本発明の実施例1)
蓄熱容器内に、初期PH5.2の市水を用いた蓄熱溶液の中に、酸化マグネシウムの微溶解性塩基性物質14を浸漬し、所定条件にて試験した後の特性を評価した結果の纏めで
ある。その結果を表1に示す。
(本発明の実施例2)
微溶解性塩基性物質14として水酸化マグネシウムを使用した以外は、前記実施例1と同様にして前記各評価を行った。その結果を表1に示す。
(本発明の実施例3)
微溶解性塩基性物質14として炭酸マグネシウムを使用した以外は、前記実施例1と同様にして前記各評価を行った。その結果を表1に示す。
(本発明の実施例4)
微溶解性塩基性物質14として珪酸マグネシウムを使用した以外は、前記実施例1と同様にして前記各評価を行った。その結果を表1に示す。
(本発明の実施例5)
微溶解性塩基性物質14として金属マグネシウムを使用した以外は、前記実施例1と同様にして前記各評価を行った。その結果を表1に示す。
(従来例)
微溶解性塩基性物質14を使用しない以外は、前記実施例1と同様にして前記各評価を行った。その結果を表1に示す。
(比較例)
微溶解性塩基性物質14として酸化カルシウムを使用した以外は、前記実施例1と同様にして前記各評価を行った。その結果を表1に示す。
(本発明の評価結果)
(表1)は、初期PH5.2の市水を用いた蓄熱溶液に、種々の微溶解性塩基性物質14を浸漬し、所定条件(80℃1ヶ月)にて加速促進試験した後の特性を評価した結果の纏めである。
【0048】
【表1】

【0049】
本発明は、マグネシウム系の微溶解性塩基性物質14を使用しているので、試験後の蓄熱溶液はPH7.6〜8.6となって良好なPH調整効果を有しておりこれに伴って、蓄熱熱交換器22である銅の耐腐食性も良好になっている。またさらに、微溶解性塩基性物質14は、寿命も良好であった。
【0050】
一方、従来例は、微溶解性塩基性物質14を使用していないので、試験後の蓄熱溶液は、PH5.2のままであり、これに伴って蓄熱熱交換器22である銅の耐腐食性が極度に劣るとなった。また、比較例として用いた酸化カルシウムの微溶解性塩基性物質は、液性がPH11.9まで上昇し、これに伴って蓄熱熱交換器22である銅の耐腐食性が不充分となった。PHが12弱まで上昇した理由は、酸化カルシウム等のカルシウム系塩基性物質は、PHが最大12.5まで上昇する性質があるので、この影響を受けたためと思われる。またさらに比較例として、ナトリウムやカリウム等の塩基性物質を使用して同様な試験をおこなったが、いずれも液性がPH13近辺まで上昇し、これに伴って蓄熱熱交換器22である銅の耐腐食性が確保できなくなったので、検討から除外した。
[蓄熱装置の効果検証2]
同様の効果確認実験を、蟻酸やグリコール酸を混合してPH5に調整したエチレングリ
コール水溶液を使用した蓄熱溶液にて行い、種々の微溶解性塩基性物質14を浸漬し、所定条件(80℃で1ヶ月)にて試験した前後の特性を前述の様に評価した。この蓄熱溶液は、脱イオン水の約70%にニ価アルコールであるエチレングリコールを30%と微量の添加溶液を混合した溶液を基本にしており、この基本溶液が長期使用されることによって生成する蟻酸やグリコール酸を予め混合してPH5に調整した蓄熱溶液である。
【0051】
本発明は、マグネシウム系の微溶解性塩基性物質14を使用しているので、試験後の蓄熱溶液はPH7〜9となって良好なPH調整効果を有しておりこれに伴って、蓄熱熱交換器22である銅の耐腐食性も良好になっている。またさらに、微溶解性塩基性物質14は、寿命も良好であった。一方、従来例は、微溶解性塩基性物質14を使用していないので、試験後の蓄熱溶液は、PH5のままであり、これに伴って蓄熱熱交換器22である銅の耐腐食性が極度に劣るとなった。また、比較例として用いた酸化カルシウムの微溶解性塩基性物質は、液性がPH12まで上昇し、これに伴って蓄熱熱交換器22である銅の耐腐食性が不充分となった。
【0052】
蓄熱溶液の30%を占めるエチレングリコールは、長期間使用すると、構成成分であるドロキシル基(−OH)が溶存酸素により酸化されてグルコール酸や蟻酸などの有機酸を生成する。このため、従来例の様に微溶解性塩基性物質14がないと、エチレングリコールの水溶液を用いた蓄熱溶液は、長期間使用すると、有機酸が生成して液性が酸性側にシフトし、これにともなって、蓄熱熱交換器22である銅は、耐腐食性が不充分となる。本発明の様に、適度な中和能力を有するマグネシウム系の微溶解性塩基性物質14を使用すると、生成する有機酸を、微溶解性塩基性物質14が捕捉して適度に中和し液性PHを中性から弱アルカリ性にするので、蓄熱熱交換器22である銅の耐腐食性は良好となった。また、過度な中和能力を有する酸化カルシウム系の微溶解性塩基性物質だと、生成する有機酸を捕捉はできるが、過剰に中和して液性PHを12まで高め過ぎて、蓄熱熱交換器22である銅は、耐腐食性が不充分となった。
[水質PHと溶出銅イオン濃度との関係]
上記の効果を明確にするため、PHの異なる水溶液に銅管を浸漬して加速促進試験した後に溶出する銅イオン濃度を測定した。図2は、PHと溶出銅イオン濃度の相関をグラフ化した特性図である。溶出銅イオン濃度は、PHが6〜11、好ましくはPHが7〜10.5の領域が少なく、PH6以下の酸性領域およびPH11以上のアルカリ領域になると、急激に増大することがわかる。この理由を説明する。銅は、水中に溶解している酸素(溶存酸素と称す)との電池作用により、腐食して銅イオンとなって溶出するが、PHが7〜10.5の中性から弱アルカリの領域では、溶存酸素によって酸化銅の不動態が形成されるので、耐食性が向上して銅イオンは僅かしか溶出しない。ところが、PH6以下の酸性領域になると、酸化銅の不動態が溶解してCu2+の銅イオンになり多く溶出し、PH11以上のアルカリ領域になると、酸化銅の不動態が溶解してCuO2―やHCuOの銅イオンになり多く溶出すると考えられている。
【0053】
水溶液のPHを支配する要因は、水溶液に溶解している酸性イオンとアルカリイオンの量の大小であり、有機酸などの酸性イオンが多いとPHは酸性になり、マグネシウムなどのアルカリ性イオンが多いとPHはアルカリになる。マグネシウム系の微溶解性塩基性物質14は、水溶液に浸漬するとマグネシウムイオンが溶出してPHをアルカリ側にシフトさせるがそのPHは約10.5までしか上昇しないし、PH低下を誘発する有機酸などの酸性イオンを捕捉してPH低下を防止する性質がある。そのため、これら微溶解性塩基性物質14を浸漬した蓄熱溶液層11は、そのPHが10.5以上は上昇しないし、予め生成する有機酸の量を予測して中和に必要な微溶解性塩基性物質14の量を浸漬すると、そのPHは6未満になることはない。その結果、銅イオンが僅かしか溶出しないPH6〜10.5に蓄熱溶液層11の液性を調整することができる。
[最適な微溶解性塩基性物質の組成]
検討したマグネシウム系の微溶解性塩基性物質14のうち、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、金属マグネシウムは、寿命が長いという観点で優れているがこの中で特に、酸化マグネシウムは、焼成により粒状となるので取り扱いが簡単、水素等のガス発生がないので安心して使用できるという利点があった。そこで、以後の検討は、酸化マグネシウム主成分とする材料で行なった。
【0054】
酸化マグネシウムは、微溶解性塩基性物質14として優れた中和特性を有するが、水中で長期間浸漬すると、溶解二酸化炭素を吸収して塩基性炭酸マグネシウムを生成し、中和能力が低下するとともに寿命が短くなる課題がある。これを防止するため、酸化マグネシウムに、金属酸化物の少量の副成分を混合することを試みたところ、酸化マグネシウムの濃度を70%以上好ましくは85%以上とし、残部を各種の金属酸化物(例えば、珪酸、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化カルシウム、硼酸)とすると、良好な結果が得られた。この理由は、酸化マグネシウムは、これら金属酸化物との複合酸化物になると、融点が低下して低温度で焼成できることとで、結晶が発達して安定な酸化物となり、溶解二酸化炭素の吸収性が大幅に低下して塩基性炭酸マグネシウムが生成し難くなると考えられる。また、これら酸化マグネシウムを主成分とする組成物は、粒状となるので取り扱いが簡単、適度に溶解して酸性イオンを捕捉し液性PHを中性から弱アルカリに調整する利点を有していた。この中で特に、良好な結果が得られた具体的な組成を以下に記載する。
【0055】
組成物(1)は、珪酸(SiO2)を3〜0.05%、好ましくは1〜0.1%混合し、残部を酸化マグネシウムとした組成物である。組成物(2)は、酸化アルミニウム(AL2O3)を2〜0.01%、好ましくは1〜0.03%混合し、残部を酸化マグネシウムとした組成物である。組成物(3)は、珪酸(SiO2)3〜0.05%と酸化アルミニウムの2〜0.01%を混合し、残部を酸化マグネシウムとした組成物である。組成物(4)は、酸化鉄(Fe2O3)を7〜0.01%、好ましくは1〜0.02%混合し、残部を酸化マグネシウムとした組成物である。組成物(5)は、珪酸(SiO2)3〜0.05%と酸化アルミニウムの2〜0.01%と酸化鉄(Fe2O3)の7〜0.01%を混合し、残部を酸化マグネシウムとした組成物である。組成物(6)は、酸化カルシウム(CaO)の15〜0.1%、好ましくは3〜0.1%混合し、残部を酸化マグネシウムとした組成物である。組成物(7)は、珪酸(SiO2)3〜0.05%と酸化アルミニウムの2〜0.01%と酸化鉄(Fe2O3)の7〜0.01%と酸化カルシウム(CaO)の15〜0.1%を混合し、残部を酸化マグネシウムとした組成物である。また、これ以外に、酸化硼素(B2O3)を3〜0.01%、好ましくは1〜0.02%混合し残部を酸化マグネシウムとした組成物や、酸化硼素に前述の組成物(1)〜(7)の金属酸化物をさらに混合し残部を酸化マグネシウムとした組成物としても良い。
[最適な機微溶解性塩基性物質の焼成温度と粒径]
酸化マグネシウムは、水酸化マグネシウムあるいは炭酸マグネシウム等の原料を焼成して製造するが一般的である。そこで、この原料の焼成温度について、前述の酸化マグネシウムを主成分とする組成物(1)〜(7)について検討したところ、1500〜2300℃で焼成すると、溶解二酸化炭素の吸収性が大幅に低下して塩基性炭酸マグネシウムが生成し難くなる、粒状となるので取り扱いが簡単、適度に溶解して酸性イオンを捕捉し液性PHを中性から弱アルカリに調整する利点を有することが判明した。また、この中で特に、1600〜2100℃で焼成した物は、極めて良好であった。この理由は、酸化マグネシウムは融点が2800℃の材料であるが、これら金属酸化物は融点が約1700〜2600℃の材料である。このため、これら金属酸化物を混合した酸化マグネシウムは、融点が低下して1500〜2300℃で焼成することができその結果として、この様な低温度で焼成した酸化マグネシウムは、結晶が発達して安定な酸化物となるためと考えられる。また、逆に、2300℃を超えて焼成した酸化マグネシウムは、過酸化状態となって本来と僅かに結晶が異なる酸化物となり、溶解し難くなって、酸性イオンを捕捉し液性PHを中性から弱アルカリに調整する特性が低下する課題があった。また、1500℃未満で焼
成した酸化マグネシウムは、溶解二酸化炭素の吸収性があるので中和能力が低下するとともに寿命が短くなる課題や、粒状となり難いので取り扱いが不便の課題があった。
【0056】
酸化マグネシウムの粒径について検討したところ、前述の組成物(1)〜(7)を1500〜2300℃で焼成した後、粒径が1〜15mm、好ましくは2〜12mmに破砕したものが、適度に溶解して酸性イオンを捕捉し液性PHを中性から弱アルカリに調整する利点を有することが判明した。この理由は、粒径が15mmを越えると、表面積が小さいので溶解し難くなって、酸性イオンを捕捉し液性PHを中性から弱アルカリに調整する特性が低下する課題があり、粒径が1mm未満だと、粉状となるので取り扱いが不便の課題があるためである。
【0057】
これらの結果より、微溶解性塩基性物質14は、酸化マグネシウムを主成分とした材料とし、MgOが98.70〜99.10%、CaOが0.60〜0.90%、SiO2が0.15〜0.20%、Fe2O3が0.05〜0.10%、AL2O3が0.05〜0.10%、B2O3が0.02〜0.05%の組成物(粒径3〜10mm)を使用し、1800℃焼成品および2000℃焼成品で再度、効果確認実験を行なった。
【0058】
この効果確認実験は、前述の初期PH5.2の市水を用いた蓄熱溶液(1)と、前述の蟻酸やグリコール酸を混合してPH5に調整したエチレングリコール水溶液を使用した蓄熱溶液(2)の両方で行なっているが、試験後の蓄熱溶液はいずれもPH7〜9となって良好なPH調整効果を有しておりこれに伴って、蓄熱熱交換器22である銅の耐腐食性も良好になった。
[蓄熱溶液の組成]
蓄熱溶液層11を構成する蓄熱溶液は、少なくとも水から構成される蓄熱媒(thermal−storage medium)であればよい。蓄熱溶液は、水のみから構成されてもよいが、水に溶解または分散が可能な種々の添加剤を含んでもよい。特に本実施の形態では、凍結防止剤(不凍液)として、二価アルコールを含んでいることが好ましい。蓄熱溶液が、二価アルコールを含む水溶液であれば、氷点(常温常圧で0℃)以下であっても、当該蓄熱溶液の凍結を回避することができる。
【0059】
前記二価アルコールとしては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチルペンタジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。これらの中でも、コスト面および凍結防止剤としての使用実績の観点から、エチレングリコールまたはプロピレングリコールが好ましく用いられる。これら二価アルコールは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、凍結防止剤は、前記二価アルコールに限定されず、二価アルコール以外の化合物または組成物であってもよい。
【0060】
蓄熱溶液は、二価アルコールを含む水溶液である場合、この二価アルコールの酸化を防止する酸化防止液(例えば、亜硝酸ナトリウム)を0.数%混合した蓄熱溶液にすると、有機酸の生成量が一層低減し熱交換器の耐食性をさらに一層確実なものとすることができる。なお、酸化防止液は、ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンE(トコフェロール)、BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)、エリソルビン酸ナトリウム、コーヒー豆抽出物(クロロゲン酸)、緑茶抽出物(カテキン)、ローズマリー抽出物を使用しても同様な効果が得られ、その具体的な種類や量は特に限定されない。
【0061】
また、蓄熱溶液に添加される添加剤の具体的な種類も特に限定されず、前記凍結防止剤以外に、過冷却防止剤、増粘剤、伝熱促進材、水分蒸発防止剤、腐食防止剤、防錆剤(蓄
熱容器21が金属製の場合)等、蓄熱材組成物の分野で公知の種々の添加剤を用いることができる。これら添加剤の添加量、添加方法等も特に限定されず、公知の範囲または手法を好適に用いることができる。
【0062】
前述の効果確認実験で使用した蓄熱溶液層11を構成する蓄熱溶液(2)の組成について説明する。エチレングリコール30%濃度とした蓄熱溶液は、沸点が103℃で凍結温度がー15℃の特性を有する。微量添加する添加溶液は、銅の防錆剤であるアゾール類(例えば、ベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾトリアゾール、トリルトリアゾールなど)や、防黴剤(例えば、安息香酸ナトリウムなど)、エチレングリコールの酸化を防止する酸化防止液(例えば、亜硝酸ナトリウムなど)である。
【0063】
これら効果確認実験は、(3)エチレングリコール85%と水15%の混合溶液(沸点が130℃で凍結温度がー43℃)、(4)プロピレングリコール85%と水15%の混合溶液(沸点が120℃で凍結温度がー53℃)、(5)プロピレングリコール30%と水70%の混合溶液(沸点が102℃で凍結温度がー15℃)でもおこなった。マグネシウム系の微溶解性塩基性物質14を浸漬した蓄熱溶液は、試験後のPHが7〜9となって良好なPH調整効果を有しておりこれに伴って、蓄熱熱交換器22である銅の耐腐食性も良好になった。なお、この様な効果確認実験において、エチレングリコールやプロピレングリコール等の二価アルコールに、その酸化を防止する酸化防止液(例えば、亜硝酸ナトリウム)を混合した溶液の蓄熱溶液にすると、有機酸の生成量が低減できる利点が生じその結果、さらに良好なPH調整効果と熱交換器(銅製)の耐腐食性が得られた。
【0064】
本発明について、実施例および比較例に基づいて具体的に説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【0065】
(実施の形態2)
前記実施の形態1においては、蓄熱装置20Aは蓄熱容器21内に、蓄熱溶液層11が配置され用途に応じてさらにこの上方に空気層12を積層する構成となっているが、本実施の形態2においては図3に示すように、蓄熱溶液層11と空気層12の間に、蓄熱溶液の蒸発を防止または抑制する蒸発防止層13が配置される構成となっている。
[蓄熱容器内の層構成]
図3に示すように、本実施の形態に係る蓄熱装置20Bは、前記実施の形態1に係る蓄熱装置20Aと同一の構成を有しているが、蓄熱容器21内には、下から順に蓄熱溶液層11と蒸発防止層13と空気層12が形成される構成となっている。
【0066】
蒸発防止層13は、蓄熱溶液層11を構成する蓄熱溶液の蒸発を防止または抑制する(蒸発防止機能を実現する)層であり、常温で液体である種々のオイル(少なくとも1種の不水溶性溶媒からなる溶媒組成物で構成させる有機溶媒)を使用することができる。また、蒸発防止層13は、85〜100弱%(重量%)が不水溶性溶媒からなる溶媒組成物であり、残部が酸化防止剤等の添加剤の混合物で構成されている例を、好ましく用いることができる。なお、図3には示さないが、蒸発防止層13は、複数層となってもよい。2層以上の蒸発防止層13が形成されている場合、それぞれの蒸発防止層13は異なる組成の溶媒組成物で構成され、互いに混合せずに独立して層形成されてもよいし、蒸発防止層13同士で混合したりするように構成されてもよい。
【0067】
この溶媒組成物に用いられる不水溶性溶媒は、極性が実質的に無い無極性溶媒、常温で水と実質的に混合せずに水層から遊離した単層となる程度に極性が低い低極性溶媒等であって、少なくとも常温の範囲内で液体を示せばよい。この不水溶性溶媒としては、具体的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカ
ン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、シクロヘキサン等の飽和アルカン類;トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族アルカン類;1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、四塩化炭素、塩化メチレン(ジクロロメタン)等のハロアルカン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル類;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、エチルtert−ブチルエーテル、フラン等のエーテル類;ポリアルファオレフィンワックス、パラフィンワックス、シリコーンオイル等の鉱油類;コーン油、大豆油、ごま油、菜種油、米油、椿油、ベニバナ油、パーム核油、ヤシ油、綿実油、ヒマワリ油、エゴマ油、オリーブオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、グレープシードオイル、マスタードオイル、魚油等の食用油脂;ひまし油、アブラキリ油等の工業用油脂;等を挙げることができるが、これらに限定されない。これら不水溶性溶媒は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、溶媒組成物が複数種類の不水溶性溶媒を含む場合、有効な蒸発防止機能を実現できるのであれば、それぞれの溶媒の組成も特に限定されない。
[蒸発防止層の最適組成]
本実施の形態で、特に好ましい蒸発防止層13は、溶媒組成物の融点が常温未満であり、不水溶性溶媒はその炭素数が24〜44の範囲内にある炭化水素の少なくともいずれかを含んでいるとした組成物を、挙げることができる。不水溶性溶媒を構成する炭化水素は、鎖式または脂環式の飽和アルカン類(もしくは、限りなく飽和アルカン類に近い炭化水素であり、以下これらを飽和アルカン類と称す)である。具体的には、前記範囲内の炭素数を有する成分を含むポリアルファオレフィンワックスまたはパラフィンワックス、鉱油等を例示することができる。この組成物の蒸発防止層13を使用すると、蓄熱熱交換器22の腐食を低減できる利点と、蓄熱溶液層11を構成する蓄熱溶液の蒸発を一層防止または抑制する利点が得られた。
【0068】
図4は、検討した蒸発防止層13に関し、不水溶性溶媒のGC―MS分析装置による組成分析結果であるが、炭素数が24〜44の範囲内にある炭化水素の少なくともいずれかを含んでいるとした組成物であることがわかる。
【0069】
この不水溶性溶媒の炭素構造について説明する。一般論であるが、飽和アルカン類(飽和炭化水素とも称する)は、炭素数が4以下だと常温で気体、炭素数が5〜約18で常温で液体、炭素数が約18を越えると常温で固体である。この一般論の規則性は、炭素が直線状に配列して枝分かれのない直鎖構造の飽和アルカン類で成立する話しであり、枝分かれのある飽和アルカン類にすると、炭素数が約18を越えても常温で液体となる。そこで例えば、炭素8〜10のα―オレフィン(末端に二重結合があり他は単結合の構造を有する不飽和アルケン)を重合反応したあと水素化処理すると、炭素数が24〜44の範囲内にある炭化水素の少なくともいずれかを含んでいる飽和アルカン類が生成する。しかも、この飽和アルカンは、重合反応の工夫で枝分かれを多く有する飽和アルカン類になっているので、常温で液体となっている。本実施の形態で使用する合成油や半合成油さらに鉱油は、この製法を用いて得られる不水溶性溶媒を85〜100弱%(重量%)混合して、使用している。
【0070】
この様な数字領域の炭素数の炭化水素は、炭素数を制御することが現在の技術では難しいので、成り行き任せのところが多い。そのため、炭素数が24未満の炭化水素になると、直鎖構造の飽和アルカン類になり易いので揮発性の高い液体が生成して、直ぐに揮発して寿命が短い課題がある。また逆に、炭素数が45以上の炭化水素になると、常温で固体に成り易いので取り扱いが難しい課題がある。この様に、揮発し難くて寿命が長い、常温で液体で取り扱いが簡単の理由から、不水溶性溶媒は、炭素数が24〜44の範囲内にある炭化水素の少なくともいずれかを含んでいるとした組成物とした。またこれに加えて、この不水溶性溶媒は、有機酸が生成し難く、気密性が高いので蓄熱溶液の蒸発を防止また
は抑制ししかも空気中の酸素が蓄熱溶液に浸入しがたい利点が有る。
[蒸発防止層の腐食低減効果の効果検証]
効果検証方法とその結果を、実施例に基づいて具体的に説明する。前述実施の形態1に記載した効果検証方法と異なる点は、蒸発防止層13が蓄熱溶液層11と空気層12の間に配置された点と、脱イオン水に予め極微量のマグネシウム溶液を混合して初期PH7に調整した蓄熱溶液を注入して蓄熱溶液層11とした点と、酸化マグネシウム系の微溶解性塩基性物質14の固形物を浸漬していない点である。蓄熱溶液の中に酸化マグネシウム系の微溶解性塩基性物質14の固形物を浸漬すると、この影響で蓄熱溶液の水質PHが変化するのだが、この効果検証においては、微溶解性塩基性物質14の固形物を浸漬していない。このため、蒸発防止層13から生成する有機酸が水質PHに与える影響を明確にできた。
【0071】
実施例および比較例における各種・評価は次に示すようにして行った。効果確認実験は、初期PH7.0の蓄熱溶液に、種々の蒸発防止層13を積層し、所定条件(20℃で2週間後さらに100℃で2週間)で試験した前後の特性を評価した。評価した特性は、蓄熱溶液の蒸発防止効果と、試験前(初期)と試験後の蓄熱溶液のPHであり、特性測定値に応じて「優れる」「良好」「不充分」「極度に劣る」の4段階でランク分けし、その各々を「◎」「○」「△」「×」の記号で表現している。
【0072】
蓄熱溶液の蒸発防止効果は、蓄熱溶液層11および蒸発防止層13の所定条件における重量減少量を、蒸発防止層13の単位面積と試験期間の積で除した値で評価した値である。この値が大きいほど、蓄熱溶液層11および蒸発防止層13の重量が大きく減少するので、蓄熱溶液の蒸発防止効果がないことを意味する。逆に、この値が小さいほど、蓄熱溶液層11および蒸発防止層13の重量がほとんど減少しないので、蓄熱溶液の蒸発防止効果が優れることを意味する。20℃の重量減少量が、3mg以下/cm・dayであれば「◎」、3〜6mg/cm・dayであれば「○」、6〜10mg/cm・dayであれば「△」、10mg以上/cm・dayであれば「×」と評価した。また、100℃の重量減少量が、0.1g以下/cm・dayであれば「◎」、0.1〜0.2g/cm・dayであれば「○」、0.2〜0.3g以下/cm・dayであれば「△」、0.3g以上/cm・dayであれば「×」と評価した。
【0073】
溶液PHは、試験前(初期)と試験後の蓄熱溶液の液性PHを測定したものである。有機酸の抑制効果は、蒸発防止層13から有機酸がどれだけ生成してPH低下が起こっているかを評価する項目であり、有機酸の生成量が多いほど試験後のPHが低下して酸性側にシフトする傾向を活用している。この実験においては、試験前(初期)のPHが7.0と同一値であることから試験後のPHで評価し、PHが6.5〜7.0であれば「◎」、PHが6.0〜6.5であれば「○」、PHが5.5〜6.0であれば「△」、PHが5.5未満であれば「×」と評価した。
【0074】
総合判定は、蓄熱溶液の蒸発防止効果と有機酸の抑制効果の各評価項目を総合的に評価した。各評価項目いずれも◎であり、○や△や×がなければ、総合判定を「◎」として評価した。また、各評価項目のいずれも○と◎であり、△や×がなければ、総合判定を「○」として評価した。また、各評価項目のうち1個でも△があれば、他に◎と○があっても、総合判定を「△」として評価した。また、各評価項目のうち1個でも×があれば、他に◎や○や△があっても、総合判定を「×」として評価した。
【0075】
検討に用いた蒸発防止層13は、以下の通リである。
(本発明の実施例A)
蒸発防止層13は、溶媒組成物の融点が常温未満であり、不水溶性溶媒はその炭素数が24〜44の範囲内にある炭化水素の少なくともいずれかを含んでいる組成物を使用した
実施例である。この蒸発防止層13は、流動点がー31℃で分解開始温度が260℃の組成物であり、図4はこの組成物の不水溶性溶媒に関するGC―MS分析装置の分析結果である。蓄熱容器内に、初期PH7.0の脱イオン水を用いた蓄熱溶液注入しその上部に、蒸発防止層13を積層し、所定条件にて試験した後の特性を評価した結果の纏めを表2に示す。
(従来例A)
蒸発防止層13として、C1532の飽和炭化水素を使用した以外は、前記実施例Aと同様にして前記各評価を行った。その結果を表2に示す。この蒸発防止層13は、融点が10℃で、沸点が270℃の組成物である。
(従来例B)
蒸発防止層13として、シリコーン油を使用した以外は、前記実施例Aと同様にして前記各評価を行った。その結果を表2に示す。この蒸発防止層13は、流動点がー40℃で、分解開始温度が250℃の組成物である。
(従来例C)
蒸発防止層13として、油脂(脂肪酸エステル)を使用した以外は、前記実施例Aと同様にして前記各評価を行った。その結果を表2に示す。この蒸発防止層13は、流動点がー20℃で、分解開始温度が200℃の組成物である。
(比較例I)
蒸発防止層13として、C2348の飽和炭化水素を使用した以外は、前記実施例Aと同様にして前記各評価を行った。その結果を表1に示す。この蒸発防止層13は、融点が46℃で、沸点が200℃の組成物である。
(比較例II)
蒸発防止層13として、C1000のエチレン樹脂を使用した以外は、前記実施例Aと同様にして前記各評価を行った。その結果を表1に示す。この蒸発防止層13は、融点が80℃で、分解開始温度が160℃の高分子樹脂であり、C45の炭素数を有する炭化水素が現在の技術では得られないので、これの代替品として評価に使用した。
(本発明の評価結果)
(表2)は、初期PH7.0の脱イオン水を用いた蓄熱溶液に、種々の蒸発防止層13を積層し、所定条件(20℃で2週間後さらに100℃で2週間)で試験した結果の纏めである。
【0076】
【表2】

【0077】
本発明の実施例Aは、溶媒組成物の融点が常温未満であり、不水溶性溶媒はその炭素数が24〜44の範囲内にある炭化水素の少なくともいずれかを含んでいる組成物を、蒸発防止層13として使用しているので、蓄熱溶液の蒸発防止効果と有機酸の抑制効果の両方に優れている。
【0078】
一方、従来例A〜Cは、蓄熱溶液の蒸発防止効果と有機酸の抑制効果が、両方とも不充分であった。また、特に従来例Aは、所定条件(20℃で2週間後さらに100℃で2週間)で試験すると、蓄熱溶液層と蒸発防止層が全て揮発してしまう問題が生じた。またさ
らに比較例I、IIも、蓄熱溶液の蒸発防止効果と有機酸の抑制効果が、両方とも不充分であった。
【0079】
本発明の実施例Aにおいて蒸発防止層13として使用した不水溶性溶媒が、蓄熱熱交換器22の腐食を一層低減できる理由を説明する。蓄熱熱交換器22で使用する銅は、前述の図2に示す様に、水溶液のPHが酸性であるほど、腐食して銅イオンを多く溶出する。従って、蒸発防止層13で使用する不水溶性溶媒は、有機酸が生成し難い材料が望まれる。有機酸は、α―オレフィンから多く生成し、飽和アルカン類からは僅かしか生成しない性質がある。その点、蒸発防止層13で使用するこの組成物の不水溶性溶媒は、飽和アルカン類(もしくは、限りなく飽和アルカン類に近い炭化水素)であるので有機酸が僅かしか生成せず、蓄熱溶液のPHが酸性側にシフトし難い。
【0080】
また、蓄熱熱交換器22で使用する銅は、空気中の酸素が蓄熱溶液に浸入して溶存酸素が多くなるほど、腐食して銅イオンを多く溶出する。従って、蒸発防止層13で使用する不水溶性溶媒は、空気中の酸素が蓄熱溶液に浸入しがたい材料が望まれており、空気中の酸素は、気密シールが充分であれば、蓄熱溶液に浸入し難い性質がある。その点、蒸発防止層13で使用する不水溶性溶媒は、常温で液体であるので気密シールが充分となり、空気中の酸素が蓄熱溶液に浸入しがたい。この様な観点からも、この不水溶性溶媒が、蓄熱熱交換器22の腐食を一層低減できる利点を有する。
【0081】
なお、溶媒組成物は、不水溶性溶媒以外に公知の他の成分を含んでもよい。具体的には、例えば、酸化防止剤、腐食防止剤、防錆剤、消泡剤等を例示することができる。これら添加剤の添加量、添加方法等も特に限定されず、公知の範囲または手法を好適に用いることができる。溶媒組成物の具体的な組成は特に限定されないが、本実施の形態では、前述したように、少なくとも1種の不水溶性溶媒が85〜100弱%(重量%)の範囲内であり、添加剤を含む混合物が残部(最大15重量%の範囲内)である構成を好ましく挙げることができる。もちろん、蒸発防止層13に要求される性能、蓄熱装置20Bの使用環境等の諸条件により、組成を適宜設計できることはいうまでもない。
【0082】
溶媒組成物の温度条件は特に限定されないが、常温(5〜35℃)の範囲内で液体であることが好ましいため、流動点は常温未満であると好ましい。また、後述するように、溶媒組成物の流動点は、蓄熱溶液の凝固点より低いことが好ましい。蓄熱溶液が凝固するまで蓄熱装置20Bの温度が低下しても、溶媒組成物は流動性を保持できるので、低温の状態でも蒸発防止機能を有効に実現することができる。また、蓄熱溶液が凝固しても溶媒組成物は凝固していないので、蓄熱溶液の凝固に伴う体積膨張を緩和することが可能となり、圧力緩和機能をさらに一層確実なものとすることができる。特に、溶媒組成物が、炭素数が24〜44の範囲内にある炭化水素を含んでいれば、蒸発防止層13の低温における流動性をより良好に保持することができる利点も有る。
【0083】
このように、蒸発防止層13が蓄熱容器21内に形成されることで、蓄熱溶液層11の蒸発防止機能を向上させることができる。それゆえ、蓄熱容器21内で蓄熱溶液を安定して保持することができ、取り扱い性に優れた蓄熱装置20Bを得ることができる。これに加えて、蒸発防止層13により、蓄熱溶液層11は蒸発が抑制されるので補充の必要がなく、長期間良好な蓄熱特性を維持できる。また、この組成物の不水溶性溶媒は、有機酸が僅かしか生成しないうえに、空気中の酸素が蓄熱溶液に浸入し難い。このことで、マグネシウム系の微溶解性塩基性物質の寿命が向上するので長期間に渡って、腐食を誘発する酸性イオンを捕捉して中和し、蓄熱溶液層の液性PHを中性から弱アルカリ性に維持し、蓄熱熱交換器22の腐食低減をさらに一層確実なものとすることができる。
【0084】
蓄熱溶液層11および蒸発防止層13のいずれも、複数の成分を特定の組成で調製した
組成物となっていてもよい。この場合、蓄熱溶液層11は、水を含む蓄熱溶液組成物で構成されていることになり、蒸発防止層13は、炭素数が24〜44の範囲内にある炭化水素を含む溶媒組成物で構成されていることになる。
【0085】
(実施の形態3)
前記実施の形態1に係る蓄熱装置20A、または前記実施の形態2に係る蓄熱装置20Bは、いずれも蓄熱容器21および蓄熱熱交換器22から構成されていたが、本実施の形態3に係る蓄熱装置20Cは、さらに加熱源26を備え、加熱源26の廃熱を蓄熱可能とする構成となっている。この構成について、図5(a)および(b)を参照して具体的に説明する。
【0086】
図5(a)および(b)に示すように、本実施の形態に係る蓄熱装置20Cは、蓄熱容器23、蓄熱熱交換器24に加えて、熱伝導性部材25および加熱源としての圧縮機26を備えている。なお、図5(a)におけるV1−V1矢視断面が、図5(b)に示す蓄熱装置20Cの縦断面図に相当する。また、図5(b)におけるV2−V2矢視断面が、図5(a)に示す蓄熱装置20Cの横断面図に相当する。
【0087】
蓄熱容器23は、前記実施の形態1における蓄熱容器21と同様に、箱部231および蓋部232から構成され、箱部231の上部開口233を閉じるように蓋部232が取り付けられている。箱部231の形状は、前記実施の形態1または2における箱部211と同様に、実質的に略直方体形状であるが、蓄熱溶液を蓄えるための内部空間の形状は、前記箱部211とは異なり、図5に示すように、圧縮機26の側面を囲むように、略U字状の横断面を有している。箱部231の内部には、図1や図3に示すように、蓄熱熱交換器24が設けられ、この大部分を浸漬するように、蓄熱溶液層11が形成されている。また、蓄熱溶液層11の上方には、蒸発防止層13が積層され、さらに、蒸発防止層13の上方には、蓋部232に設けられる通気孔234を介して流入する外気によって空気層12が形成されている。
【0088】
圧縮機26は空気調和装置に用いられる冷媒を圧縮するものであって、公知の構成を有するものが用いられる。なお、図5(a),(b)では、説明の便宜上、圧縮機26は模式的に外形のみを示している。圧縮機26の外形は、本実施の形態では、図5(a),(b)に示すように、略直方体形状であって、当該直方体形状の4つの側面のうち、3つの側面を囲むように蓄熱容器23が位置している。蓄熱容器23(箱部211)の内部空間は、前記のとおり略U字状の横断面を有しているので、当該U字状の横断面における陥凹部位となる領域に圧縮機26が位置することで、圧縮機26の周囲の少なくとも一部が蓄熱容器23により囲まれることになる。
【0089】
このように圧縮機26の周囲に蓄熱容器23が位置していれば、圧縮機26は蓄熱容器23と実質的に一体化しているため、圧縮機26で生じた廃熱は、蓄熱容器23の外部に逃げることがほとんど無く、蓄熱容器23内の蓄熱溶液層11に伝達される。それゆえ、外部機器である圧縮機26を加熱源として用いることができ、圧縮機26からの廃熱を効率的に蓄熱することができる。
【0090】
ここで、圧縮機26の側面と蓄熱容器23との間には、層状の熱伝導性部材25が設けられていることが特に好ましい。圧縮機26は蓄熱容器23内で蓄熱溶液層11に直接接しても良いが、この場合、圧縮機26の側面に防水処理を施す必要がある。一方、蓄熱容器23の形状を圧縮機26に合わせて、略U字状の断面を有するように構成してもよいが、蓄熱容器23の加工が煩雑となってコストが上昇することに加え、蓄熱容器23の外面と圧縮機26の側面との密着性を高めることが難しくなる。それゆえ、本実施の形態のように、熱伝導性部材25を設けることが好ましい。
【0091】
熱伝導性部材25の具体的な構成は特に限定されず、圧縮機26の周囲を覆うことができ、かつ、圧縮機26からの熱を蓄熱溶液層11に良好に伝達できるものであればよい。具体的には、例えば、銅、銀、アルミニウムまたはこれらの合金で形成される金属シート;黒鉛または金属の粒子を樹脂組成物中に分散させた熱伝導シート;黒鉛または金属の粒子をゲル状組成物中に分散させた熱伝導グリース;等を挙げることができる。
【0092】
このように、蓄熱容器23が熱伝導性部材25を介して圧縮機26と接触していることで、圧縮機26からの熱を蓄熱装置20Cにより良好に回収することができる。特に、熱伝導性部材25が熱伝導シートであれば、樹脂組成物として可撓性材料、例えば、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエンゴム)、シリコーンゴム等のエラストマー材料を選択すれば、圧縮機26の側面に凹凸が存在しても、当該圧縮機26と蓄熱容器23との接触性を良好なものとできるため、圧縮機26から蓄熱容器23への熱伝導を、より一層円滑なものとすることができる。
【0093】
そして、本実施の形態においても、蓄熱容器23内には、前記実施の形態2で説明した蒸発防止層13とが形成されている。それゆえ、これら層によって蒸発防止機能、漏出防止機能および圧力緩和機能のいずれの機能も良好に実現されるので、蓄熱容器23内で蓄熱溶液を安定して保持することができ、取扱性に優れた蓄熱装置20Cを得ることができる。
【0094】
なお、本実施の形態においては、加熱源として圧縮機26を例示したが、これに限定されず、空気調和装置等、本発明に係る蓄熱装置20Cが適用される機器が備える他の加熱源であってもよい。また、加熱源は、蓄熱溶液層11の外部に設けられているものであればよく、必ずしも蓄熱容器23の外部でなくてもよい。また、加熱源は、その周囲が蓄熱容器23に囲まれていなくてもよい。例えば、圧縮機26が広い平坦な側面を有しているのであれば、蓄熱溶液層11を平坦面同士で接触させるのみの構成としてもよい。また、本実施の形態では、蓄熱容器23は、圧縮機26の周囲を囲んでいるが、例えば、圧縮機26の底面または上面を囲んでもよい。加熱源が圧縮機26以外のものであっても同様である。
【0095】
(実施の形態4)
前記実施の形態1から3は、いずれも蓄熱装置の構成を例示するものであったが、本実施の形態においては、前記構成の蓄熱装置の代表的な適用例である空気調和装置の一例について、図6を参照して具体的に説明する。
【0096】
[空気調和装置の構成]
図6に示すように、本実施の形態に係る空気調和装置30は、冷媒配管により互いに接続された室内機31および室外機32から構成されており、室外機32は、前記実施の形態3に係る蓄熱装置20Cを備えている。室内機31および室外機32および外部配管310は、管継手40を介して室内機内部配管311と室外機内部配管である第1配管301および第2配管302に接続されている。
【0097】
室内機31の内部には、室内機内部配管311および室内熱交換器33等が設けられ、室外機32の内部には、蓄熱装置20C、圧縮機26、室外機の各種内部配管、室外熱交換器34、各種弁部材等が設けられている。そして、室内機31および室外機32は、前記のとおり、外部配管310により互いに接続されているので、前記構成によって空気調和装置30の冷凍サイクルが構成されている。なお、以下の説明では、冷媒配管(室内機内部配管311、外部配管310、および室外機の各種内部配管)内において、冷媒の流れる方向の上流側または下流側を、単に上流側または下流側と略す。
【0098】
室内機31の構成について具体的に説明すると、外部配管310に接続されている室内機内部配管311は、室内熱交換器33に接続されている。また、室内機31の内部には、室内熱交換器33に加えて、送風ファン(図示せず)、上下羽根(図示せず)、左右羽根(図示せず)等が設けられている。
【0099】
室内熱交換器33は、送風ファンにより室内機31の内部に吸込まれた室内空気と、室内熱交換器33の内部を流れる冷媒との間で熱交換を行い、暖房時には熱交換により暖められた空気を室内に吹き出す(図中ブロック矢印)一方、冷房時には熱交換により冷却された空気を室内に吹き出す。上下羽根は、室内機31から吹き出される空気の方向を必要に応じて上下に変更し、左右羽根は、室内機31から吹き出される空気の方向を必要に応じて左右に変更する。なお、図6においては、説明の便宜上、室内機31の詳細な構成(前記送風ファン、上下羽根、左右羽根等)については、記載を省略している。
【0100】
室外機32の構成について具体的に説明すると、室外機32の内部には、圧縮機26、蓄熱装置20Cおよび室外熱交換器34に加えて、ストレーナ35、膨張弁42、四方弁41、第1電磁弁43、第2電磁弁44、アキュームレータ36等が設けられている。また、外部配管310に接続されている第1配管301および第2配管302のうち、第1配管301は圧縮機26の吐出口(図示せず)に接続されている。それゆえ、圧縮機26は、室内機31内の室内熱交換器33に接続されていることになる。
【0101】
圧縮機26は、前記実施の形態3で説明したように、蓄熱装置20Cの蓄熱容器23に実質的に一体化するように設けられており、圧縮機26の周囲は、熱伝導性部材25を介して蓄熱溶液層11が位置している。蓄熱溶液層11の上面には蒸発防止層13が形成されている。なお、図6においては、説明の便宜上、蓄熱容器23を構成する蓋部232と空気層12については記載を省略している。蓄熱容器23の内部には、蓄熱溶液層11に浸漬するように蓄熱熱交換器24が設けられ、流入口部(図示せず)が第6配管306に接続されている。第6配管306には第2電磁弁44が設けられている。
【0102】
また、外部配管310に接続されている第1配管301および第2配管302のうち、第2配管302は、室外機内部配管である第3配管303と第6配管306とに分岐している。第2配管302はストレーナ35を備えており、前記のとおり一方が外部配管310に接続され、他方が膨張弁42を介して第3配管303に接続されている。また、第6配管306は、ストレーナ35の上流側において第2配管302から分岐している。
【0103】
第3配管303は、膨張弁42および室外熱交換器34を接続し、室外熱交換器34は、第4配管304を介して圧縮機26の吸入口(図示せず)に接続されている。また、第4配管304における圧縮機26側には、液相冷媒および気相冷媒を分離するためのアキュームレータ36が設けられている。また、圧縮機26の吐出口は、第1配管301に接続されているとともに、当該第1配管301における圧縮機26の吐出口と四方弁41との間からは、第5配管305が分岐している。第5配管305には第1電磁弁43が設けられている。第1配管301は、圧縮機26の吐出口から室内熱交換器33の中間位置の、室外機32の側に配置されている。
【0104】
第2配管302から分岐した第6配管306は、前記のとおり、蓄熱熱交換器24の流入口部(図示せず)に接続されているが、蓄熱熱交換器24の流出口部(図示せず)は、第7配管307を介して第4配管304に接続されている。第7配管307は、アキュームレータ36から見て上流側の位置で、第4配管304から分岐している。
【0105】
また、第1配管301および第4配管304の中間部は、四方弁41により接続されて
いる。具体的には、第1配管301においては、第5配管305が分岐する位置から上流側に四方弁41が設けられ、第4配管304においては、第7配管307が分岐する位置から上流側で、室外熱交換器34に接続する位置から下流側となる位置に四方弁41が設けられている。
【0106】
ここで、室外機内部配管のうち、第4配管304はヒートポンプ循環路を構成し、第5配管305および第6配管306は、冷媒バイパス路を構成している。つまり、本実施の形態に係る空気調和装置30は、ヒートポンプ式の構成を有している。この構成であれば、後述するように、除霜運転に並行してノンストップで暖房運転を行うことができる。この点については後述する。
【0107】
なお、圧縮機26および蓄熱装置20Cを除く各機器または部材(冷媒配管、管継手40、室内熱交換器33、送風ファン、上下羽根、左右羽根、室外熱交換器34、ストレーナ35、膨張弁42、四方弁41、第1電磁弁43、第2電磁弁44、アキュームレータ36等)の具体的な構成は特に限定されず、公知の構成を好適に用いることができる。また、圧縮機26および蓄熱装置20Cを含む各機器および部材の個数、配置等についても、図6に示す構成に限定されず、ヒートポンプ式の構成を実現できる他の配置であってもよい。
【0108】
また、圧縮機26、送風ファン、上下羽根、左右羽根、四方弁41、膨張弁42、第1電磁弁43、第2電磁弁44等は、制御装置(図示せず、例えばマイクロコンピュータ)に電気的に接続されており、当該制御装置により制御される。
【0109】
[空気調和装置の動作]
次に、前記構成の空気調和装置30の動作について、通常暖房運転、並びに、除霜・暖房運転を例に挙げて、図6を参照して具体的に説明する。
【0110】
まず、通常暖房運転について説明する。この場合、第1電磁弁43および第2電磁弁44は閉制御されており、圧縮機26の吐出口から吐出された冷媒は、第1配管301を流れて四方弁41から外部配管310、室内機内部配管311を介して室内熱交換器33に達する。室内熱交換器33では、室内空気との熱交換により冷媒が凝縮する。この冷媒は、室内熱交換器33から、第2配管302を流れて膨張弁42に達し、膨張弁42で減圧される。減圧された冷媒は、第3配管303を通って室外熱交換器34に達する。室外熱交換器34では、室外空気との熱交換により冷媒が蒸発し、この冷媒は、第4配管304を流れて四方弁41から圧縮機26の吸入口へ戻る。圧縮機26で発生した熱(廃熱)は、圧縮機26の外壁から熱伝導性部材25を介して、蓄熱容器23内の蓄熱溶液層11に蓄積される。
【0111】
次に、除霜・暖房運転について説明する。前記通常暖房運転中に室外熱交換器34に着霜が発生し、さらに着霜した霜が成長すると、室外熱交換器34の通風抵抗が増加して風量が減少し、室外熱交換器34内の蒸発温度が低下する。そこで、室外熱交換器34の配管温度を検出する温度センサ(図示せず)が、非着霜時に比べて、蒸発温度が低下したことを検出すると、制御装置から通常暖房運転から除霜・暖房運転への指示が出力される。
【0112】
通常暖房運転から除霜・暖房運転に移行すると、第1電磁弁43および第2電磁弁44は開制御され、上述した通常暖房運転時の冷媒の流れに加え、圧縮機26の吐出口から出た気相冷媒の一部は第5配管305および第1電磁弁43を流れ、第3配管303を流れる冷媒に合流して、室外熱交換器34を加熱し、凝縮して液相化する。その後、第4配管304を流れて四方弁41およびアキュームレータ36を介して圧縮機26の吸入口へと戻る。
【0113】
また、第2配管302における室内熱交換器33およびストレーナ35の間で分流した液相冷媒の一部は、第6配管306および第2電磁弁44を介して、蓄熱熱交換器24で蓄熱溶液層11から吸熱することで、蒸発および気相化する。気相冷媒は、第7配管307を流れて、第4配管304を流れる冷媒に合流し、アキュームレータ36から圧縮機26の吸入口へ戻る。
【0114】
アキュームレータ36に戻る冷媒には、室外熱交換器34から戻る液相冷媒が含まれているが、この液相冷媒に、蓄熱熱交換器24から戻る高温の気相冷媒が混合されることで、液相冷媒の蒸発が促進され、アキュームレータ36を通過して液相冷媒が圧縮機26に戻ることが回避され、圧縮機26の信頼性の向上を図ることができる。
【0115】
除霜・暖房開始時に霜の付着により氷点下となった室外熱交換器34の温度は、圧縮機26の吐出口から出た気相冷媒によって加熱されて、零度付近で霜が融解する。霜の融解が終わると、室外熱交換器34の温度は再び上昇し始める。この室外熱交換器34の温度上昇を前記温度センサで検出すれば、制御装置は除霜が完了したと判断し、当該制御装置から除霜・暖房運転から通常暖房運転への指示が出力される。
【0116】
このように、本実施の形態では、空気調和装置30がヒートポンプ式であるので、暖房運転時、または、冬季に室外熱交換器34に着霜が生じた場合であっても、冷媒バイパス路である第5配管305および第6配管306に冷媒を流して、蓄熱の回収および除霜を行うことができる。それゆ、除霜運転に並行して暖房運転を行うことができるので、例えば、冬季の寒い朝等であっても、短時間で暖房を行うことができる。また、圧縮機26からの廃熱を有効に回収できるので、省エネルギーの運転が可能となる。
【0117】
さらに、蓄熱装置20Cは、前記実施の形態3で説明したように、蓄熱容器23内に蒸発防止層13が形成されているので、蓄熱溶液の過剰な蒸発を有効に防止できる(蒸発防止機能の実現)とともに、蓄熱溶液が蓄熱容器21の外部に漏れ出したり空気層12へ露出したりすることを抑制でき(漏出防止機能の実現)、さらに、蓄熱溶液層11の圧力が大きく上昇しても、蒸気または遊離気体の一部が液状の蒸発防止層13から空気層12に抜け出るため、圧力が過剰に上昇することがなく、蓄熱溶液の圧力上昇にも十分対応することができる(圧力緩和機能の実現)。
【0118】
なお、本実施の形態では、空気調和装置30がヒートポンプ式の構成となっているが、これに限定されず、ヒートポンプ式以外の構成であってもよいことはいうまでもない。また、蓄熱装置20Cに代えて、前記実施の形態1または2で説明した蓄熱装置20Aまたは20Bを備えてもよいし、本発明の範囲内である他の構成の蓄熱装置を備えてもよい。さらに、本実施の形態では、加熱源として圧縮機26を用いているが、加熱源としては、電気ヒータ等の他の機器を用いてもよい。
【0119】
さらに、本実施の形態では、本発明に係る蓄熱装置20A〜20Cを適用する例として空気調和装置を例示したが、もちろん本発明はこれに限定されず、空気調和装置以外でも、蓄熱装置を備える各種機器に好適に用いることができる。具体的には、例えば、冷蔵庫、給湯器、ヒートポンプ式洗濯機を挙げることができる。
【0120】
また、本発明は前記各実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、蓄熱装置および空気調和装置に好適に利用できるだけでなく、冷蔵庫、給湯器、ヒートポンプ式洗濯機等にも有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0122】
11 蓄熱溶液層
12 空気層
13 蒸発防止層
14 微溶解性塩基性物質
20A,20B,20C 蓄熱装置
21,23 蓄熱容器
22,24 蓄熱熱交換器
25 熱伝導性部材
26 圧縮機(加熱源、加熱器)
214,234 通気孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水からなる蓄熱溶液で構成される蓄熱溶液層と、前記蓄熱溶液層に浸漬された熱交換器と、その内部空間に前記蓄熱溶液層と前記熱交換器を配置した蓄熱容器とを備え、前記蓄熱溶液層には、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、珪酸マグネシウム、金属マグネシウムの少なくとも1種を主成分とする微溶解性塩基性物質を浸漬している蓄熱装置。
【請求項2】
前記微溶解性塩基性物質は、珪酸及び/又は酸化アルミニウムが少なくとも少量混合された酸化マグネシウムを主成分とした材料である請求項1に記載の蓄熱装置。
【請求項3】
前記微溶解性塩基性物質は、酸化鉄が少なくとも少量混合された酸化マグネシウムを主成分とした材料である請求項1又は2に記載の蓄熱装置。
【請求項4】
前記微溶解性塩基性物質は、酸化カルシウムが少なくとも少量混合された酸化マグネシウムを主成分とした材料である請求項1から3のいずれか1項に記載の蓄熱装置。
【請求項5】
前記微溶解性塩基性物質は、酸化マグネシウムを主成分とし1500〜2300℃で焼成した材料である請求項1から4のいずれか1項に記載の蓄熱装置。
【請求項6】
前記微溶解性塩基性物質は、粒径が1〜15mmの酸化マグネシウムを主成分とした材料である請求項1から5のいずれか1項に記載の蓄熱装置。
【請求項7】
前記蓄熱溶液が、二価アルコールを含む水溶液である請求項1から6のいずれか1項に記載の蓄熱装置。
【請求項8】
前記蓄熱溶液が、二価アルコールの酸化を防止する酸化防止液を含む水溶液であることを特徴とする請求項7項に記載の蓄熱装置。
【請求項9】
前記蓄熱溶液層の上部に蒸発防止層を配置し、前記蒸発防止層は、少なくとも1種の不水溶性溶媒からなる溶媒組成物から構成し、前記溶媒組成物の流動点は常温未満であり、前記不水溶性溶媒は、炭素数が24〜44の範囲内にある炭化水素の少なくともいずれかを含んでいるとした請求項1から8のいずれか1項に記載の蓄熱装置。
【請求項10】
前記熱交換器は、前記蓄熱溶液層に蓄熱された熱を回収する蓄熱熱交換器であり、前記蓄熱溶液を加熱する加熱源をさらに備えた請求項1ないし9のいずれか1項に記載の蓄熱装置。
【請求項11】
前記加熱源は、前記蓄熱溶液層の外部に設けられ、前記蓄熱熱交換器は、前記蓄熱容器の内部で前記蓄熱溶液層に浸漬する位置に設けられていることを特徴とする請求項10に記載の蓄熱装置。
【請求項12】
前記蓄熱容器は、前記加熱源を囲むように設けられていることを特徴とする請求項10または11に記載の蓄熱装置。
【請求項13】
前記蓄熱容器は、熱伝導性部材を介して前記加熱源と接触していることを特徴とする請求項10から12のいずれか1項に記載の蓄熱装置。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載の蓄熱装置を備えることを特徴とする空気調和装置。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−72929(P2012−72929A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216442(P2010−216442)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【特許番号】特許第4760994号(P4760994)
【特許公報発行日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)