説明

藺草の染色方法、及び藺草製品の製造方法

【課題】藺草製品から可及的に根白発生を低減させることのできる藺草の染色方法、及び藺草製品の製造方法を提供する。
【解決手段】茶抽出液を霧状化した環境下で、藺草を所定時間晒して染色した。また、前記茶抽出液は酸化防止剤が添加されていることとした。また、泥染めした藺草を仕分けする仕分工程と、この仕分工程により仕分けされた藺草を加湿する加湿工程と、この加湿工程により加湿された藺草を織機により織成する織成工程と、を有する藺草製品の製造方法において、前記加湿工程に用いる加湿用液を茶抽出液として、当該加湿工程により前記藺草を染色する藺草製品の製造方法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藺草製品である畳表や茣蓙などに用いられる藺草の染色方法、及び前記藺草製品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、藺草製品の製造は、a)泥染めした藺草を仕分けする仕分工程と、b)この仕分工程により仕分けされた藺草を加湿する加湿工程と、c)この加湿工程により加湿された藺草を織機により織成する織成工程とを有する製造方法により製造されている。仕分工程の前には、通常、刈り取った藺草を泥水中に浸漬して泥染めする工程と、その後、火力で乾燥させる乾燥工程が行われる。このような工程を経ることにより、藺草本来の独特な緑色が保持される。
【0003】
他方、市場からの要望に応じ、近年では、畳などの藺草製品において抗菌処理が施されたものが提供されている。本出願人は、茶汁中に藺草を浸漬して染色し、畳表や茣蓙に相応しい落ち着いた色に染色しつつ、茶中に含まれるカテキンの抗菌作用によって、抗菌効果のある衛生的な藺草製品を提案した(特許文献1を参照。)。
【特許文献1】特開平11−303367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の藺草製品は、確かに抗菌効果が認められ、かつ落ち着いた風合いの色に仕上がるものの、藺草本来の色とは微妙に異なってしまうことが避けられなかった。また、藺草製品がもともと有する課題であった所謂「根白」の解消は図れるものではなかった。
【0005】
ここで、「根白」とは、藺草の長さ方向において、その中央部に比べて根元部分が白くなっていることを指しており、圃場で生育する藺草は、その根元の部分が圃場中で皮に覆われていることから(製品とするために皮は剥かれる)、どうしても根白が生じてしまうのである。
【0006】
この根白が畳表や茣蓙などに多く表れてしまうと、いかにも品質が劣るかのように見えるため、根白部分となる藺草の根元を切断して使用することがあるが、その分コスト高になってしまう。そもそも、藺草として、機能的には何ら問題のない部分を廃棄するのは如何にも不経済である。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、きわめて容易に藺草製品から可及的に根白発生を低減させることのできる藺草の染色方法、及び藺草製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)茶抽出液を霧状化した環境下で、藺草を所定時間晒して染色する藺草の染色方法とした。
【0009】
(2)上記(1)の藺草の染色方法において、前記茶抽出液は酸化防止剤が添加されていることを特徴とする。
【0010】
(3)泥染めした藺草を仕分けする仕分工程と、この仕分工程により仕分けされた藺草を加湿する加湿工程と、この加湿工程により加湿された藺草を織機により織成する織成工程と、を有する藺草製品の製造方法において、前記加湿工程に用いる加湿用液を茶抽出液として、当該加湿工程により前記藺草を染色する藺草製品の製造方法とした。
【0011】
(4)上記(3)の藺草製品の製造方法において、前記茶抽出液は酸化防止剤が添加されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、藺草本来の色に、藺草の根本部分までがしっかりと、かつ極めて容易に染め上げることができ、藺草製品に表れる根白を可及的に防止することができる。しかも、茶成分に含まれるカテキンにより抗菌効果が生起される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本実施形態に係る藺草の染色方法は、茶抽出液を霧状化した環境下で、藺草を所定時間晒することによるものである。
【0014】
すなわち、図所定の筐体内に藺草を収容し、この筐体内に茶抽出液をミスト化して引き込む。ミスト化するための手段は限定されず、また筐体内にミストを引き込む手段も限定されない。好ましくは、ミスト化した茶抽出液を循環させて筐体内に充満させるようにする。
【0015】
そして、例えば4〜6時間程度、藺草を晒しておくと、藺草は藺草本来の緑色に染まり、しかも、元来白っぽくなっている根本部分までも染めることが可能となる。したがって、その後、織成して得た畳表や茣蓙などの藺草製品では、所謂「根白」が目立たなくなり、品質向上に寄与することができる。なお、本実施形態では、茶抽出液を霧状化した環境下で藺草を晒す時間は5時間としている。
【0016】
実験的に確かめたことであるが、藺草に対し、茶抽出液を、例えばスプレーなどで単に霧吹きしても、染色結果としては緑色ではなく、むしろ黄色に近い色になってしまい、藺草本来の緑色には染まらないことが分かっているが、上述した染色方法によれば、藺草本来の緑色には染め上げることが可能である。
【0017】
しかも、茶に含まれるカテキンの抗菌作用によって、抗菌効果のある衛生的な藺草製品とすることができる。
【0018】
上述した藺草の染色方法において、前記茶抽出液に予め酸化防止剤を添加しておくとよく、酸化防止剤を添加することにより、茶抽出液が変質、変色することを防止することができる。
【0019】
ところで、茶抽出液としては、染色度合の面から、その濃度は4〜5%の抽出液を用いることが好ましい。お茶から抽出液を作り出すには5%が限度でこれ以上濃くは抽出することが不可能であることと、濃度が4%未満であると、染色効果が十分に生起されず、藺草本来の緑色よりも薄くなってしまうからである。なお、実験結果から4%の抽出液の場合は、染色効果は生起されるが5%抽出液で染色した場合よりも染色度合いは若干落ちることが分かったため、ここでは5%抽出液を用いている。
【0020】
本実施形態に係る藺草の染色方法を、畳表などの藺草製品の製造工程中における加湿工程に適用することができる。
【0021】
すなわち、藺草製品の製造方法としては、染めした藺草を仕分けする仕分工程と、この仕分工程により仕分けされた藺草を加湿する加湿工程と、この加湿工程により加湿された藺草を織機により織成する織成工程と、を有する。かかる藺草製品の製造方法において、前記加湿工程に用いる加湿用液を、前述した茶抽出液として、当該加湿工程により前記藺草を染色するのである。
【0022】
図1は、本実施形態における藺草製品の製造方法の工程を示す説明図である。
【0023】
図示するように、先ず、収獲工程1では、藺草を刈り取り、その後、泥染工程2において、刈り取った藺草を埴土を水に混ぜて作った泥水中に浸漬していわゆる泥染を行う。泥染後の藺草は、火力乾燥して収納保管しておく。
【0024】
次いで、仕分工程3において、藺草を最終製品に適した長さで仕分けし、頭部と元部とを切り揃える。
【0025】
そして、加湿工程4において、藺草に本来のしなやかさを戻すとともに、後の織成工程5を円滑に行わせ、仕上げを良好にするために、適当な水分量で加湿する。本実施形態では、この加湿工程4において、加湿用に使用する加湿用液として、前述の茶抽出液を用い、この加湿工程4において加湿しながら藺草を染色している。すなわち、加湿工程4に染色工程が含まれることになる。
【0026】
その後、織成工程5において、加湿・染色された藺草を織機などを用いて例えば畳表に加工する。
【0027】
次いで、仕上工程6により、織成した製品を仕上げるとともに火力乾燥する。藺草製品は、こうした手順で作られて出荷されるのである。
【0028】
図2は、上述した加湿工程4と織成工程5とを示す模式的説明図であり、図示するように、加湿工程4では後述する加湿装置10が用いられる(図3参照)。
【0029】
そして、この加湿装置10に用いる加湿用液として、本実施形態では茶抽出液を用いるのであるが、茶抽出液は、例えば秋冬番茶を用いて生成することができる。
【0030】
例えば、茶の濃度が5%の茶抽出液を20リットル作る場合について説明する。
【0031】
番茶1.25Kgを、木綿などで形成されたさらし袋20に収容し、25リットルの水を入れてガスコンロなどの加熱装置で沸騰させた缶体30に投入する。途中、さらし袋20を揺らしながら湯全体に茶が均一に抽出されるようにするとともに、消火後、約6分程度そのままにしておく。
【0032】
そして、缶体30の外側に水をかけながら冷却し、冷めた時点で茶を収容したさらし袋20を缶体30から取り出す。
【0033】
次いで、酸化防止剤40として、アスコルビン酸を48g添加する。そして、例えば、冷蔵庫50などを用いて茶抽出液を強制的に冷却する。この冷却は、抽出液の酸化進行を抑制するためである。
【0034】
図3は加湿装置の模式的説明図である。上述してきたようして得た茶抽出液は、図3に示す加湿装置10のタンク11に収容される。
【0035】
加湿装置10は「カシ取り機」とも呼ばれることがあり、周知の構造であって、図示するように、藺草の束を収容可能な加湿空間12を形成した筐体13と、この筐体13に付設した前記タンク11と、このタンク11内の茶抽出液を、図示しないポンプにより筐体13の天井部に形成した受皿部15に汲み上げる給水路16と、受皿部15の底面に形成した複数の透孔から滴下する茶抽出液を受ける細かい網目の金網からなる多層のフィルタ17を収容するフィルタ収容部17aと、このフィルタ収容部17aを縦断するように送風可能とし、その先端が前記加湿空間12を形成する一側端板に連通連結する一方、基端を加湿空間12の他側端板に連通連結した循環風路18と、この循環風路18の基端側に配設した送風ファン19とを備えている。14は筐体13の一側端板を覆うように形成されたジャケット部であり、上端をフィルタ収容部17aに連通連結するとともに、下端を筐体13の底部を介してタンク11と連通連結している。すなわち、このジャケット部14は循環風路18の一部を形成することになる。
【0036】
かかる加湿装置10を用いた加湿工程4について説明すると、加湿空間12内に、藺草の束を収納しておき、タンク11内に収容した茶抽出液をポンプで汲み上げて受皿部15に送るとともに、送風ファン19を駆動する。
【0037】
茶抽出液は、受皿部15の透孔から滴下して、目の細かいフィルタ17を通過しながら送風ファン19により送られた風によって微粒子のように裁断されミスト化され、空気とともにジャケット部14から加湿空間12内に送られる。すなわち、茶抽出液のミストが含まれた湿った空気が加湿空間12内に送られることになる。この湿った空気は循環風路18を循環しており、受皿部15からは茶抽出液が常時フィルタ17に滴っているため、加湿空間12内は常に高湿度下の環境にある。
【0038】
このように、茶抽出液が霧状となって存在する高湿度の加湿空間12内において、藺草の束を5時間程度晒す。
【0039】
その結果、後工程の織成工程5に適した湿気が藺草に与えられるとともに、藺草全体が藺草本来の緑色に可及的に近似した色で染色される。茶抽出液は茶色に近い色でありながら、染色された藺草は藺草本来の緑色に近似した色となるのである。そして、かかる藺草は根本部分までがしっかりと染色されているため、その後の織成工程5において、織機を用いて織成して得られた藺草製品に表れる根白は可及的に少なくなり、藺草製品の品質向上に大きく寄与することができる。
【0040】
また、本実施形態における茶抽出液に含まれるカテキン量は0.4%であり、得られた畳表などの藺草製品は、抗菌・消臭作用を奏するため、衛生志向の強い近年の消費者に広く受け入れられるものとなる。
【0041】
本実施形態では、藺草製品の製造工程における加湿工程4で具体的に説明したように、藺草の染色(加湿)時間を5時間程度としている。
【0042】
通常、藺草製品を製造する場合、加湿時間は6時間程度である。これは、6時間を大きく切ってしまうと、織成に必要なしなりなどが足らずに、織成時に藺草が切断されてしまったりするおそれがあり、また、6時間を大きく越えてしまうと、藺草の含水率が必要以上に高くなり、かえって織成し難くなる場合があるからである。しかも、加湿時間が長いと、藺草本来の色が落ちて変色してしまうおそれがある。
【0043】
しかし、本実施形態によれば、5時間、あるいは4時間半であっても、通常の藺草製造工程における加湿時間である6時間と同程度の湿気を藺草に付与することができた。したがって、本実施形態では、通常の加湿の時間より1時間から1時間30分も短縮でき、製造効率が向上するとともに、コスト低減が可能である。
【0044】
以上、本発明を、実施形態を通して説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0045】
茶抽出液の濃度なども適宜変更することができる。また、茶としても秋冬番茶に限定されない。また、加湿装置10は、単独に藺草の染色装置としても好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】藺草製品の製造工程を示す説明図である。
【図2】加湿工程及び織成工程を示す模式的説明ずである。
【図3】加湿装置の模式的説明図である。
【符号の説明】
【0047】
10 加湿装置
11 タンク
12 加湿空間
13 筐体
14 ジャケット部
15 受皿部
16 給水路
17 フィルタ
18 循環風路
19 送風ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶抽出液を霧状化した環境下で、藺草を所定時間晒して染色することを特徴とする藺草の染色方法。
【請求項2】
前記茶抽出液は酸化防止剤が添加されていることを特徴とする請求項1記載の藺草の染色方法。
【請求項3】
泥染めした藺草を仕分けする仕分工程と、
この仕分工程により仕分けされた藺草を加湿する加湿工程と、
この加湿工程により加湿された藺草を織機により織成する織成工程と、
を有する藺草製品の製造方法において、
前記加湿工程に用いる加湿用液を茶抽出液として、当該加湿工程により前記藺草を染色することを特徴とする藺草製品の製造方法。
【請求項4】
前記茶抽出液は酸化防止剤が添加されていることを特徴とする請求項3記載の藺草製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−57666(P2009−57666A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−226931(P2007−226931)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000201641)全国農業協同組合連合会 (69)
【Fターム(参考)】