藻場形成方法及び藻場形成用種苗含有粘液
【課題】施工が容易であり、施工費用の低廉な藻場形成方法及びそれに用いる藻場形成用種苗含有粘液を提供する。
【解決手段】培養工程S1として、海藻の胞子体を培養する。次に、調製工程S2として、アルギン酸水溶液に砂と海藻の胞子体分散液とを入れて混合し、種苗含有粘液とする。さらに、付着工程S3として、調製工程S2で調整された種苗含有粘液をコーキングガンに充填し、それをダイバーが持ち、海底の増殖礁等の表面に押出して付着させる。
【解決手段】培養工程S1として、海藻の胞子体を培養する。次に、調製工程S2として、アルギン酸水溶液に砂と海藻の胞子体分散液とを入れて混合し、種苗含有粘液とする。さらに、付着工程S3として、調製工程S2で調整された種苗含有粘液をコーキングガンに充填し、それをダイバーが持ち、海底の増殖礁等の表面に押出して付着させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラメやカジメやホンダワラ等の海藻が繁茂する藻場を形成するための方法、及びそれに用いる藻場形成用種苗含有粘液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、本邦沿岸の海流の変化や、沿岸地域の開発その他の人間の活動等による沿岸海域の環境変化に伴い、海藻を餌とする魚介類の過食によって藻場が衰退するという「磯焼け」現象が問題となっている。
【0003】
「磯焼け」によって藻場の海藻類が衰退すると、海藻類を餌とするアワビ、サザエ等の魚介類や、藻場を棲家として生活する水産有用種の減少を招き、沿岸漁業において重大な被害を与える。このため、全国各地で大規模な藻場修復事業や人工的な藻場の造成が試みられている。
【0004】
従来、藻場の形成方法としては、コンクリート、プラスチック、網等を基材とした人工魚礁体や、海藻を定着させるためのロープや網等の基材を海中に設置することによって、海藻が定着しやすい場所を提供することが行われている。しかし、海中においてこれらの基材に海藻類が自然に付着し、成体となるには長い期間が必要である。このため、海藻を基材に人工的に付着させ、藻場の形成を促進することが試みられている。
【0005】
例えば、母藻移植法といわれる藻場形成方法では、母藻を接着剤等でコンクリートブロック等に固定し、これを海底に沈めることにより、母藻までの成長を待つことなく、迅速に藻場を形成することができる。
【0006】
また、スポアバック法といわれる藻場形成方法では、母藻を網地の袋(スポアバック)に入れて水中に浮かせる。これにより、スポアバックに入っている母藻から遊走子が放出され、これが周辺の海底に付着し、成長して海藻が繁殖する。
【0007】
さらに、種苗板法とよばれる藻場形成方法では、人工的に培養した配偶体が入っている水槽に種苗板を浸漬して配偶体を付着させ、その後配偶体が付着した種苗板を水槽内に入れ、配偶体をある程度まで成長させる。こうして海藻の種苗が定着した種苗板を海底に沈め、接着剤やボルトなどにより海底のブロックに固定する。これにより、海藻の種苗を海底で確実に生育させることができる。
【0008】
また、特許文献1には、海藻の配偶体の分散液を基材に付着させ、さらにこの基材に水溶性高分子を塗装することによって海藻の配偶体を固定化し、これを海中に沈めて海藻を生育させる藻場形成方法が記載されている。
【特許文献1】特開平2−86711号公報
【0009】
さらに、特許文献2には、種糸上で生育した海藻の種苗を種糸ごと基材に取りつけ、これを海底の藻場形成用ブロックに貼り付ける藻場形成方法が記載されている。
【特許文献2】特開2002−247925号公報(請求項4)
【0010】
また、特許文献3には、ロ−プやネットに大型褐藻類の胞子又は幼体を植生した種糸を絡め、藻場を造成しようとする海底の上部の海中に水平に設置する藻場形成方法が記載されている。
【特許文献3】特開2003−47353号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上記従来の藻場形成方法では、海藻を何らかの方法によって基材に固定化し、その固定化された海藻を基材ごと海中に設置する必要があった。このため、地上において基材に海藻を固定化する作業を行い、さらには海藻を固定化した基材を作業場から海まで搬送しなければならない。また、海藻を固定化した基材を海中に固定するためには、海中においてボルトによる固定等の作業が必要となる。このため、施工費用の高騰化を招来していた。
【0012】
本発明は、上記従来の問題に鑑みなされたものであり、施工が容易であり、施工費用の低廉な藻場形成方法及びそれに用いる藻場形成用種苗含有粘液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の藻場形成方法は、粘性を有する水溶液に海藻の種苗を混合して種苗含有粘液とする調製工程と、海中において該種苗含有粘液を岩盤や人工魚礁等の基材に付着させる付着工程とを備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の藻場形成方法では、まず調製工程において、粘性を有する液体に海藻の種苗が混合された種苗含有粘液が調製される。ここで海藻の種苗とは、生殖や生育によって藻類の葉体になるものすべてを含み、例えば、藻類の遊走子、胞子(果胞子、殻胞子等)、幼芽、葉体、葉体の粉砕物等を用いることができる。種苗含有粘液には粘性を有する液体が用いられているため、付着工程において容易に海底の岩盤や人工魚礁等の基材に直接付着させることができる。こうして基材に付着した種苗含有粘液には、海藻の配偶体や胞子体等生殖や生育によって藻類の葉体になるものが含まれているため、海流に流されることなく、基材に付着した状態で成長することができる。また、付着工程は海中において行われるため、海藻を付着させるための基材を地上で取り扱ったり、海藻を固定した基材を海底に搬送したりする作業はすべて不要となる。また、海藻を固定した基材を海中においてボルト締等で固定する作業も不用となる。
【0015】
したがって、本発明の藻場形成方法によれば、施工作業は簡単となり、施工費用を極めて低廉なものとすることができる。
【0016】
基材としては、海水中に自然に存在する岩や石、人工的に設置した木、竹、石、コンクリート、プラスチック、ゴム、金属等からなる人工魚礁体、網やロープからなる人工藻場等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
また、海藻の種類としては特に限定はなく、例えば、ワカメ、カジメ、アラメ、クロメ等のコンブ目の海藻や、ホンダワラ等に適用することができる。
【0018】
調製工程において用いられる、粘性を有する水溶液としては、海藻の配偶体又は胞子体の生育に悪影響を及ぼさず、種苗含有粘液を海底の基板に付着させるために必要な粘度を有する水溶液であれば用いることができる。このような水溶液として、例えば、天然物由来のものとして、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、カラゲナン、寒天(ガラクタン)、フノラン等の海藻含有物、かんしょデンプン、ばれいしょデンプン、タピオカデンプン、小麦デンプン、コーンスターチ等のデンプン類、にかわ、ゼラチン、コラーゲン等のタンパク質、等の水溶液が挙げられる。また、半合成物質としては、ビスコース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、可溶性デンプン、カルボキシメチルデンプン等のデンプン誘導体、アルギン酸アルキレングリコールエステル等のアルギン酸誘導体等の水溶液が挙げられる。さらに、合成物質としては、ポリエチレンクリコール、ポリプロピレンクリコール等のポリアルキレンクリコール類、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリルアミド等のアクリル樹脂及びその塩類、ポリビニルアルコール、ポリピニルピロリドン等のピニル樹脂、プチレンー(無水)マレイン酸、イソプチレンー(無水)マレイン酸、ブタジエンー(無水〉マレイン等のマレイン化合物及びその塩類、ポリピニルアルコールーポリ(メタ)アクリル酸等の共重合体、ホウ酸ナトリウム等でポリピニルアルコールを架橋した架橋ポリビニルアルコール及びアクリル繊維の加水分解物等の水溶液が挙げられる。また、これらの物質を2種類以上混合した水溶液であってもよい。
これらのなかでも、アルギン酸及び/又はアルギン酸塩水溶液は、海藻の配偶体又は胞子体やに絡みやすく、海底の岩盤や人工魚礁等への付着力にも優れ、海藻や人体に対する悪影響もないことから、特に好適に用いることができる。なお、アルギン酸やアルギン酸塩が溶解しないようにするため、あらかじめカルシウム等の多価イオン金属塩を添加して不溶化することもできるが、海水には多価金属イオンが含まれているため、あえて添加しなくてもよい。
【0019】
また、調製工程においては、粘性を有する水溶液に海藻の種苗とともに無機粒状物を混合することが好ましい。こうすれば、付着工程において無機粒状物が種苗含有粘液を岩盤等の基材にしっかりと付着するための錘の役割を担い、海底の岩盤や人工魚礁等に付着した種苗含有粘液が海流等によって剥がれることを防ぐことができる。無機粒状物としては、こうした錘の役割を担うことができるものであれば、用いることができる。無機粒状物の添加量は、種苗含有粘液の粘度等の条件に応じ、適宜最適な条件を選択すればよいが、通常10〜40質量%であり、さらに好ましくは20〜30質量%である。無機粒状物の添加量があまり少ないと、基材に付着するための錘としての効果が減少する。また、無機粒状物の添加量が多すぎると、種苗含有粘液の基材への付着力が弱くなる。
【0020】
本発明の藻場形成用種苗含有粘液は、本発明の藻場形成方法において用いられるものであり、粘性を有する液体に海藻の種苗が混合されていることを特徴とする。
【0021】
本発明の藻場形成用種苗含有粘液は、粘性を有する液体が用いられているため、海底の岩盤等に容易に付着させることができる。さらに、この藻場形成用種苗含有粘液には海藻の種苗が含まれているため、海流に流されることなく、岩盤や人工魚礁に付着した状態で成長することができる。また、海中において岩盤等に直接付着することができるため、施工作業が簡単で、施工費用も極めて低廉なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を適用した具体化した実施例を比較例と比較しつつ説明する。
【0023】
(実施例1)
実施例1では、アルギン酸水溶液にコンブ目の海藻であるサガラメの胞子体と砂とを混合し、これを海水中の各種の構造物に塗布した。以下にその工程(図1参照)の詳細を示す。
【0024】
培養工程S1
成熟したサガラメの母藻を水槽に入れ、数時間静置して遊走子を放出させる(図2参照)。ついで、遊走子をマイクロピペットで採取して別容器に移し、14時間明の長日下、水温20°Cで静置培養する。成長した配偶体が肉眼で確認できるようになった時点で、同様の照明及び水温の条件下、通気培養に切り替える(図3参照)。この培養条件は、配偶体の継続培養が可能な条件である。こうして得られた配偶体培養液をミキサーでカットし、10時間明の短日下、18°Cで通気培養し、さらに卵が形成された段階で再びミキサーでカットする。約3週間の培養を行うことにより、遊離胞子体分散液(35万個/g、固体の大きさ:0.2〜0.5mm)を得た(図4及び図5参照)。
【0025】
調製工程S2
上記培養工程S1によって調製した遊離胞子体分散液をろ過して遊離胞子体を取り出す。そして、アルギン酸を海水を溶かしたアルギン酸溶液(3質量%)を用意し、このアルギン酸水溶液50質量部に対して、遊離胞子体1質量部、砂(平均粒子径約0.5mm)10質量部の割合で混合し、種苗含有粘液を得る(図6参照)。
【0026】
付着工程S3
こうして調製した種苗含有粘液をコーキングガンに充填し、それをダイバーが持ち、水温下降期の約18℃の海(愛知県南知多町豊浜)に潜った。そして、図7及び図8に示すように、増殖礁の表面の付着物をへら等で取り除いてから、コーキングガンによってコンクリート製増殖礁の表面に種苗含有粘液を押出して付着させた(図9参照)。
【0027】
(比較例1)
比較例1では、実施例1を行った海域と同地域・同時期において、コンクリート製増殖礁の表面に何らの処理も施さなかった。
【0028】
<結果>
上記実施例1及び比較例1における施工後4ヶ月経過後の写真を図10及び図11に示す。実施例1では、10〜20cmに成長したサガラメの成体が多数認められたのに対し、比較例1では、サガラメの成体は全く認められなかった。
【0029】
(実施例2)
実施例2では、海水を満たした実験水槽内に設置されたコンクリート板に対して、種苗含有粘液を付着させた。他の条件は実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0030】
<結果>
上記実施例2では、施工後2ヶ月でサガラメの葉体が約3cmまで成長した。経過写真を図14及び図15に示す。
【0031】
(実施例3)
実施例3では、海水を満たした実験水槽内に設置された自然石に対して、種苗含有粘液を付着させた(図16参照)。他の条件は実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0032】
<結果>
上記実施例3においても、実施例2と同様、施工後2ヶ月でサガラメの葉体が約3cmまで成長した。経過写真を図17に示す。
【0033】
この発明は、上記発明の実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の藻場形成方法及び藻場形成用種苗含有粘液を用いることにより、アラメやカジメやホンダワラ等の海藻が繁茂する藻場を容易かつ低廉な価格で形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の藻場形成方法の工程図である。
【図2】実施例1で遊走子を採取したサガラメ母藻である。
【図3】サガラメ配偶体を培養中の写真である。
【図4】サガラメ胞子体を培養中の写真である。
【図5】サガラメ胞子体の顕微鏡写真である。
【図6】調製された種苗含有粘液の写真である。
【図7】藻場形成方法の工程を表わした模式図である。
【図8】増殖礁の表面の付着物をへら等で取り除いている写真である。
【図9】コーキングガンによって増殖礁の表面に種苗含有粘液を付着させている写真である。
【図10】実施例1施工後4ヶ月の写真である。
【図11】比較例1における4ヶ月経過時点の写真である。
【図12】種苗含有粘液を付着させたコンクリート板を斜めから見た写真である。
【図13】種苗含有粘液を付着させたコンクリート板を上から見た写真である。
【図14】実施例2施工後2ヶ月経過時点の写真である。
【図15】実施例2施工後2ヶ月経過時点の写真である。
【図16】種苗含有粘液を自然石に付着させたところの写真である。
【図17】実施例3施工後2ヶ月経過時の写真である。
【符号の説明】
【0036】
S1…培養工程
S2…調製工程
S3…付着工程
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラメやカジメやホンダワラ等の海藻が繁茂する藻場を形成するための方法、及びそれに用いる藻場形成用種苗含有粘液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、本邦沿岸の海流の変化や、沿岸地域の開発その他の人間の活動等による沿岸海域の環境変化に伴い、海藻を餌とする魚介類の過食によって藻場が衰退するという「磯焼け」現象が問題となっている。
【0003】
「磯焼け」によって藻場の海藻類が衰退すると、海藻類を餌とするアワビ、サザエ等の魚介類や、藻場を棲家として生活する水産有用種の減少を招き、沿岸漁業において重大な被害を与える。このため、全国各地で大規模な藻場修復事業や人工的な藻場の造成が試みられている。
【0004】
従来、藻場の形成方法としては、コンクリート、プラスチック、網等を基材とした人工魚礁体や、海藻を定着させるためのロープや網等の基材を海中に設置することによって、海藻が定着しやすい場所を提供することが行われている。しかし、海中においてこれらの基材に海藻類が自然に付着し、成体となるには長い期間が必要である。このため、海藻を基材に人工的に付着させ、藻場の形成を促進することが試みられている。
【0005】
例えば、母藻移植法といわれる藻場形成方法では、母藻を接着剤等でコンクリートブロック等に固定し、これを海底に沈めることにより、母藻までの成長を待つことなく、迅速に藻場を形成することができる。
【0006】
また、スポアバック法といわれる藻場形成方法では、母藻を網地の袋(スポアバック)に入れて水中に浮かせる。これにより、スポアバックに入っている母藻から遊走子が放出され、これが周辺の海底に付着し、成長して海藻が繁殖する。
【0007】
さらに、種苗板法とよばれる藻場形成方法では、人工的に培養した配偶体が入っている水槽に種苗板を浸漬して配偶体を付着させ、その後配偶体が付着した種苗板を水槽内に入れ、配偶体をある程度まで成長させる。こうして海藻の種苗が定着した種苗板を海底に沈め、接着剤やボルトなどにより海底のブロックに固定する。これにより、海藻の種苗を海底で確実に生育させることができる。
【0008】
また、特許文献1には、海藻の配偶体の分散液を基材に付着させ、さらにこの基材に水溶性高分子を塗装することによって海藻の配偶体を固定化し、これを海中に沈めて海藻を生育させる藻場形成方法が記載されている。
【特許文献1】特開平2−86711号公報
【0009】
さらに、特許文献2には、種糸上で生育した海藻の種苗を種糸ごと基材に取りつけ、これを海底の藻場形成用ブロックに貼り付ける藻場形成方法が記載されている。
【特許文献2】特開2002−247925号公報(請求項4)
【0010】
また、特許文献3には、ロ−プやネットに大型褐藻類の胞子又は幼体を植生した種糸を絡め、藻場を造成しようとする海底の上部の海中に水平に設置する藻場形成方法が記載されている。
【特許文献3】特開2003−47353号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上記従来の藻場形成方法では、海藻を何らかの方法によって基材に固定化し、その固定化された海藻を基材ごと海中に設置する必要があった。このため、地上において基材に海藻を固定化する作業を行い、さらには海藻を固定化した基材を作業場から海まで搬送しなければならない。また、海藻を固定化した基材を海中に固定するためには、海中においてボルトによる固定等の作業が必要となる。このため、施工費用の高騰化を招来していた。
【0012】
本発明は、上記従来の問題に鑑みなされたものであり、施工が容易であり、施工費用の低廉な藻場形成方法及びそれに用いる藻場形成用種苗含有粘液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の藻場形成方法は、粘性を有する水溶液に海藻の種苗を混合して種苗含有粘液とする調製工程と、海中において該種苗含有粘液を岩盤や人工魚礁等の基材に付着させる付着工程とを備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の藻場形成方法では、まず調製工程において、粘性を有する液体に海藻の種苗が混合された種苗含有粘液が調製される。ここで海藻の種苗とは、生殖や生育によって藻類の葉体になるものすべてを含み、例えば、藻類の遊走子、胞子(果胞子、殻胞子等)、幼芽、葉体、葉体の粉砕物等を用いることができる。種苗含有粘液には粘性を有する液体が用いられているため、付着工程において容易に海底の岩盤や人工魚礁等の基材に直接付着させることができる。こうして基材に付着した種苗含有粘液には、海藻の配偶体や胞子体等生殖や生育によって藻類の葉体になるものが含まれているため、海流に流されることなく、基材に付着した状態で成長することができる。また、付着工程は海中において行われるため、海藻を付着させるための基材を地上で取り扱ったり、海藻を固定した基材を海底に搬送したりする作業はすべて不要となる。また、海藻を固定した基材を海中においてボルト締等で固定する作業も不用となる。
【0015】
したがって、本発明の藻場形成方法によれば、施工作業は簡単となり、施工費用を極めて低廉なものとすることができる。
【0016】
基材としては、海水中に自然に存在する岩や石、人工的に設置した木、竹、石、コンクリート、プラスチック、ゴム、金属等からなる人工魚礁体、網やロープからなる人工藻場等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
また、海藻の種類としては特に限定はなく、例えば、ワカメ、カジメ、アラメ、クロメ等のコンブ目の海藻や、ホンダワラ等に適用することができる。
【0018】
調製工程において用いられる、粘性を有する水溶液としては、海藻の配偶体又は胞子体の生育に悪影響を及ぼさず、種苗含有粘液を海底の基板に付着させるために必要な粘度を有する水溶液であれば用いることができる。このような水溶液として、例えば、天然物由来のものとして、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、カラゲナン、寒天(ガラクタン)、フノラン等の海藻含有物、かんしょデンプン、ばれいしょデンプン、タピオカデンプン、小麦デンプン、コーンスターチ等のデンプン類、にかわ、ゼラチン、コラーゲン等のタンパク質、等の水溶液が挙げられる。また、半合成物質としては、ビスコース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、可溶性デンプン、カルボキシメチルデンプン等のデンプン誘導体、アルギン酸アルキレングリコールエステル等のアルギン酸誘導体等の水溶液が挙げられる。さらに、合成物質としては、ポリエチレンクリコール、ポリプロピレンクリコール等のポリアルキレンクリコール類、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリルアミド等のアクリル樹脂及びその塩類、ポリビニルアルコール、ポリピニルピロリドン等のピニル樹脂、プチレンー(無水)マレイン酸、イソプチレンー(無水)マレイン酸、ブタジエンー(無水〉マレイン等のマレイン化合物及びその塩類、ポリピニルアルコールーポリ(メタ)アクリル酸等の共重合体、ホウ酸ナトリウム等でポリピニルアルコールを架橋した架橋ポリビニルアルコール及びアクリル繊維の加水分解物等の水溶液が挙げられる。また、これらの物質を2種類以上混合した水溶液であってもよい。
これらのなかでも、アルギン酸及び/又はアルギン酸塩水溶液は、海藻の配偶体又は胞子体やに絡みやすく、海底の岩盤や人工魚礁等への付着力にも優れ、海藻や人体に対する悪影響もないことから、特に好適に用いることができる。なお、アルギン酸やアルギン酸塩が溶解しないようにするため、あらかじめカルシウム等の多価イオン金属塩を添加して不溶化することもできるが、海水には多価金属イオンが含まれているため、あえて添加しなくてもよい。
【0019】
また、調製工程においては、粘性を有する水溶液に海藻の種苗とともに無機粒状物を混合することが好ましい。こうすれば、付着工程において無機粒状物が種苗含有粘液を岩盤等の基材にしっかりと付着するための錘の役割を担い、海底の岩盤や人工魚礁等に付着した種苗含有粘液が海流等によって剥がれることを防ぐことができる。無機粒状物としては、こうした錘の役割を担うことができるものであれば、用いることができる。無機粒状物の添加量は、種苗含有粘液の粘度等の条件に応じ、適宜最適な条件を選択すればよいが、通常10〜40質量%であり、さらに好ましくは20〜30質量%である。無機粒状物の添加量があまり少ないと、基材に付着するための錘としての効果が減少する。また、無機粒状物の添加量が多すぎると、種苗含有粘液の基材への付着力が弱くなる。
【0020】
本発明の藻場形成用種苗含有粘液は、本発明の藻場形成方法において用いられるものであり、粘性を有する液体に海藻の種苗が混合されていることを特徴とする。
【0021】
本発明の藻場形成用種苗含有粘液は、粘性を有する液体が用いられているため、海底の岩盤等に容易に付着させることができる。さらに、この藻場形成用種苗含有粘液には海藻の種苗が含まれているため、海流に流されることなく、岩盤や人工魚礁に付着した状態で成長することができる。また、海中において岩盤等に直接付着することができるため、施工作業が簡単で、施工費用も極めて低廉なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を適用した具体化した実施例を比較例と比較しつつ説明する。
【0023】
(実施例1)
実施例1では、アルギン酸水溶液にコンブ目の海藻であるサガラメの胞子体と砂とを混合し、これを海水中の各種の構造物に塗布した。以下にその工程(図1参照)の詳細を示す。
【0024】
培養工程S1
成熟したサガラメの母藻を水槽に入れ、数時間静置して遊走子を放出させる(図2参照)。ついで、遊走子をマイクロピペットで採取して別容器に移し、14時間明の長日下、水温20°Cで静置培養する。成長した配偶体が肉眼で確認できるようになった時点で、同様の照明及び水温の条件下、通気培養に切り替える(図3参照)。この培養条件は、配偶体の継続培養が可能な条件である。こうして得られた配偶体培養液をミキサーでカットし、10時間明の短日下、18°Cで通気培養し、さらに卵が形成された段階で再びミキサーでカットする。約3週間の培養を行うことにより、遊離胞子体分散液(35万個/g、固体の大きさ:0.2〜0.5mm)を得た(図4及び図5参照)。
【0025】
調製工程S2
上記培養工程S1によって調製した遊離胞子体分散液をろ過して遊離胞子体を取り出す。そして、アルギン酸を海水を溶かしたアルギン酸溶液(3質量%)を用意し、このアルギン酸水溶液50質量部に対して、遊離胞子体1質量部、砂(平均粒子径約0.5mm)10質量部の割合で混合し、種苗含有粘液を得る(図6参照)。
【0026】
付着工程S3
こうして調製した種苗含有粘液をコーキングガンに充填し、それをダイバーが持ち、水温下降期の約18℃の海(愛知県南知多町豊浜)に潜った。そして、図7及び図8に示すように、増殖礁の表面の付着物をへら等で取り除いてから、コーキングガンによってコンクリート製増殖礁の表面に種苗含有粘液を押出して付着させた(図9参照)。
【0027】
(比較例1)
比較例1では、実施例1を行った海域と同地域・同時期において、コンクリート製増殖礁の表面に何らの処理も施さなかった。
【0028】
<結果>
上記実施例1及び比較例1における施工後4ヶ月経過後の写真を図10及び図11に示す。実施例1では、10〜20cmに成長したサガラメの成体が多数認められたのに対し、比較例1では、サガラメの成体は全く認められなかった。
【0029】
(実施例2)
実施例2では、海水を満たした実験水槽内に設置されたコンクリート板に対して、種苗含有粘液を付着させた。他の条件は実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0030】
<結果>
上記実施例2では、施工後2ヶ月でサガラメの葉体が約3cmまで成長した。経過写真を図14及び図15に示す。
【0031】
(実施例3)
実施例3では、海水を満たした実験水槽内に設置された自然石に対して、種苗含有粘液を付着させた(図16参照)。他の条件は実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0032】
<結果>
上記実施例3においても、実施例2と同様、施工後2ヶ月でサガラメの葉体が約3cmまで成長した。経過写真を図17に示す。
【0033】
この発明は、上記発明の実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の藻場形成方法及び藻場形成用種苗含有粘液を用いることにより、アラメやカジメやホンダワラ等の海藻が繁茂する藻場を容易かつ低廉な価格で形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の藻場形成方法の工程図である。
【図2】実施例1で遊走子を採取したサガラメ母藻である。
【図3】サガラメ配偶体を培養中の写真である。
【図4】サガラメ胞子体を培養中の写真である。
【図5】サガラメ胞子体の顕微鏡写真である。
【図6】調製された種苗含有粘液の写真である。
【図7】藻場形成方法の工程を表わした模式図である。
【図8】増殖礁の表面の付着物をへら等で取り除いている写真である。
【図9】コーキングガンによって増殖礁の表面に種苗含有粘液を付着させている写真である。
【図10】実施例1施工後4ヶ月の写真である。
【図11】比較例1における4ヶ月経過時点の写真である。
【図12】種苗含有粘液を付着させたコンクリート板を斜めから見た写真である。
【図13】種苗含有粘液を付着させたコンクリート板を上から見た写真である。
【図14】実施例2施工後2ヶ月経過時点の写真である。
【図15】実施例2施工後2ヶ月経過時点の写真である。
【図16】種苗含有粘液を自然石に付着させたところの写真である。
【図17】実施例3施工後2ヶ月経過時の写真である。
【符号の説明】
【0036】
S1…培養工程
S2…調製工程
S3…付着工程
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性を有する水溶液に海藻の種苗を混合して種苗含有粘液とする調製工程と、
海中において該種苗含有粘液を岩盤や人工魚礁等の基材に付着させる付着工程と、
を備えることを特徴とする藻場形成方法。
【請求項2】
前記粘性を有する水溶液はアルギン酸水溶液及び/又はアルギン酸塩水溶液であることを特徴とする請求項1記載の藻場形成方法。
【請求項3】
前記調製工程において、粘性を有する水溶液に海藻の種苗とともに無機粒状物を混合することを特徴とする請求項1又は2記載の藻場形成方法。
【請求項4】
無機粒状物は砂であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の藻場形成方法。
【請求項5】
粘性を有する液体に海藻の種苗が混合されていることを特徴とする藻場形成用種苗含有粘液。
【請求項1】
粘性を有する水溶液に海藻の種苗を混合して種苗含有粘液とする調製工程と、
海中において該種苗含有粘液を岩盤や人工魚礁等の基材に付着させる付着工程と、
を備えることを特徴とする藻場形成方法。
【請求項2】
前記粘性を有する水溶液はアルギン酸水溶液及び/又はアルギン酸塩水溶液であることを特徴とする請求項1記載の藻場形成方法。
【請求項3】
前記調製工程において、粘性を有する水溶液に海藻の種苗とともに無機粒状物を混合することを特徴とする請求項1又は2記載の藻場形成方法。
【請求項4】
無機粒状物は砂であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の藻場形成方法。
【請求項5】
粘性を有する液体に海藻の種苗が混合されていることを特徴とする藻場形成用種苗含有粘液。
【図1】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2007−53975(P2007−53975A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−243753(P2005−243753)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(000116622)愛知県 (99)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(000116622)愛知県 (99)
【Fターム(参考)】
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