説明

藻場造成礁及び海藻養殖方法

【課題】 周囲環境に悪影響を及ぼさず、自然と共生することができる藻場造成礁及び藻場を造成する方法を提供することである。
【解決手段】 番線を編んで作成された籠の中に、海藻の着底基質となる天然石及び可溶性材料の袋に入れられた魚かすを配置することによって形成される藻場造成礁が提供される。可溶性材料は、植物繊維又は生分解性プラスチックである。袋は好ましくは、天然石のほぼ中央に配置される。番線の径は好ましくは、3.2mm径〜5.0mm径である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は一般に、藻場造成礁及び海藻養殖方法に関する。より詳細には、本発明は、周囲環境に悪影響を及ぼさず、自然と共生することができる藻場造成礁及び海藻養殖方法に関する。
【0002】
【従来の技術】水深が5m以浅の浅海域には、種々の海藻が繁茂するため、魚類が産卵する場所、稚魚が身を隠す場所、貝類の餌場等として重要な場所になっている。しかし、海藻の生育に必要な栄養分の少ない貧栄養の海やサンゴ藻に覆われた磯焼けの海で藻場を造成するためには、(1)海藻の基質を確保すること、(2)適度な窒素、リン、珪素、及び微量金属などの海藻の生育に必要な栄養分を補給すること、(3)1日に約10〜14時間の約2000ルクス以上の日光による光量を確保すること、(4)海水の適切な水温と塩分濃度を維持すること、が必要となる。
【0003】これらの条件のうち、(3)と(4)の条件を満足させるには、経済的観点から見て自然の力に委ねざるを得ない。したがって、従来の藻場造成技術は主として、(1)と(2)の条件を如何に満足させるかに関心が向けられてきた。すなわち、(1)の条件に関しては、例えば、着底基質を確保する適当な大きさのコンクリートブロックを投入したり、或いは、無節石灰藻類で覆われた岩礁を水中爆破して粉砕する等の方策によって、新しい着底面を形成している。また、(2)の条件に関しては、麻袋などに化学肥料を詰めて海中に投棄することによって、栄養分の補給を行っている。さらに、多孔質材料に栄養素供給源を組み込んだブロックを海中に投入する方法も提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平5−308871号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、コンクリートブロックを投入して着底基質を確保する方法では、ブロックの着底率が風化により低下し、また着底しなくなったブロックが海底にゴミのように放置されるという弊害があり、水中爆破により着底基質を確保する方法では、周囲の生物や構造物に悪影響を及ぼすおそれがあるという弊害がある。また、化学肥料を詰めた麻袋などを海中に投棄する方法では、麻袋などから溶出する化学肥料を制御することができない、化学肥料が溶出した後の麻袋が海底にゴミとなって残る、更に大量の化学肥料が必要となるという弊害がある。また、特許文献1に記載されている方法では、ブロックが海中に残存するため、その材質次第では、環境に影響を及ぼすおそれがあり得るなど、環境共生に関する配慮がなされていない。
【0006】したがって、本発明は、周囲環境に悪影響を及ぼさず、自然と共生することができる藻場造成礁及び藻場を造成する方法を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】本願請求項1に記載の藻場造成礁は、3.2mm径〜5.0mm径の番線を編んで作成された籠の中に、海藻の着底基質となる天然石、及び、魚かすが収容された植物繊維又は生分解性プラスチック製の袋を、前記袋が前記天然石のほぼ中央に位置するように且つ上面がほぼ平らになるように配置することによって形成されることを特徴とするものである。
【0008】 本願請求項2に記載の海藻養殖方法は、前記請求項1に記載された藻場造成礁を用いることを特徴とするものである。
【0009】
【0010】
【0011】
【0012】
【0013】
【0014】
【発明の実施の形態】次に、本発明の好ましい実施の形態に係る藻場造成礁について説明する。本発明の好ましい実施の形態に係る藻場造成礁は、番線を編んで作成した籠を備えている。籠を作成する材料となる番線は、3.2mm径(#10)〜5.0mm径(#6)のものを使用するのが好ましい。籠の材料として番線を使用するのは、海藻類が栄養分を摂取する際に必要となる鉄分を補強するためである。また、番線の径を上述のようなものに規定したのは、この程度の径の番線であれば、海水中で数年で錆びて切れ、中に詰めた天然石が散乱して海底に異物として残らず、また番線も時間の経過とともに徐々に溶解していくため、周囲環境に悪影響を及ぼすことはないと考えられるからである。なお、籠は、後述する魚かすを入れた袋及び天然石を配置することができるものであれば、その寸法及び形状は問わない。
【0015】一方、栄養分とする魚かすを準備する。魚かすは、一般的には、水産加工場から出る残滓を蒸気で蒸して適当な温度に保持し、微生物を添加して攪拌したものを使用する。このようにして得られる魚かすは、原形を留めておらず、粉末状となっている。魚かすの成分の一例が、図1に示されている。
【0016】魚かすを詰める袋は、可溶性の材料で形成される。好ましい可溶性材料としては、わら等の植物繊維、生分解性プラスチックなどが挙げられる。
【0017】上述の袋に魚かすを詰め、魚かすが外部に出ないように、袋の開口部を縛る。
【0018】籠の中に、魚かすを詰めた袋と天然石が配置される。その際、魚かすを詰めた袋を天然石のほぼ中央に配置するのが好ましい。これは、中央に配置した方が、袋からの栄養分の溶出に時間を要し、施肥の効果が長時間持続することが期待できるからである。
【0019】籠の中に詰める天然石としては、一般的には、雑割石、雑石、ぐり石が使用されるが、それらの大きさ、形状、材質は任意のものでよい。
【0020】このようにして形成された、魚かすを詰めた袋と天然石が入った籠を海底の所望の場所に投入することによって、藻場造成礁として使用することができる。
【0021】次に、本発明の藻場造成礁の効果を実証するために行った実験について説明する。実験は、平成10年9月、平成11年10月、平成12年11月の3回にわたって北海道増毛町の古茶内海岸に袋詰めした魚かすをそれぞれ13,000kg、19,500kg、19,500kg埋設し、追跡調査(水質調査及び浅海生物調査)をすることによって実施した。埋設個所は、図2R>2に示されるように、古茶内海岸の海岸保全施設(異形ブロック)の背後の満潮時水位面付近とした。また、魚かすを詰める袋として、筵を二つ折りにして袋状にしたカマスを使用した。
【0022】平成12年11月に魚かすを投入した後に水質調査を行ったところ、投入直後に高濃度のアンモニア態窒素(NH4-N)とリン酸態リン(PO4-P)が検出されたが、これは、カマスから魚かすの栄養分が溶出した結果であると思われる。投入後20日を経過した時点でも、依然として高濃度のアンモニア態窒素が検出された。
【0023】浅海生物調査に関しては、調査測線上に出現した浅海生物についてWilcoxonのU検定を行ったところ、海藻類の出現種類数で有意の差が認められた。また、ホソメコンブの繁茂していた距線30mまでの地点で同様の検定を行ったところ、この場合にも、海藻類の出現種類数で有意の差が認められた。これらの結果から推定すると、古茶内海岸では海藻類の種類数が多く、ホソメコンブがここのみに見られたことから、これは施肥の効果と考えることができる。
【0024】本発明は、以上の発明の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0025】たとえば、前記実施の形態では、天然石と魚かすを入れた袋とを詰めた籠を海中に投入したが、着底基質が不要であり栄養分のみが必要な海域の場合には、魚かすを入れた袋を海底に埋設してもよい。
【0026】また、前記籠に引上げ用フックを取り付けることにより、海底に設置した後でも番線の強度があるうちは再度引き上げて、肥料の供給、海藻の成育状況などを観察することができる。また、藻場造成礁の上面が平らになるようにすることにより、ウニやアワビの移殖放流を可能にすることができる。さらに、前記藻場造成礁を用いることより、海藻を養殖することができる。
【0027】
【発明の効果】本発明によれば、海底に異物として残らない可溶性材料の袋及び番線を使用しているので、周囲環境に悪影響を及ぼさず、自然と共生することができる藻場造成礁及び藻場を造成する方法を得ることができる。また、従来は廃棄物として処理されていた魚かすを有効利用することができる。また、番線により、海藻類の栄養分となる鉄分を供給することができる。また、魚かすを入れた袋を天然石の中央に配置することにより、施肥の効果を長時間持続させることが期待できる。また、引上げ用フックを取付けることにより、養殖状況の観察などを容易にすることができる。さらに、上面を平らに形成することにより、移殖放流に対処することもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】袋に詰める魚かすの成分の一例を示した表である。
【図2】本発明の藻場造成礁の効果を実証するために行った実験において、袋の埋設個所を示した略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 3.2mm径〜5.0mm径の番線を編んで作成された籠の中に、海藻の着底基質となる天然石、及び、魚かすが収容された植物繊維又は生分解性プラスチック製の袋を、前記袋が前記天然石のほぼ中央に位置するように且つ上面がほぼ平らになるように配置することによって形成される藻場造成礁。
【請求項2】 請求項1に記載された藻場造成礁を用いる海藻養殖方法。

【図1】
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【図2】
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【特許番号】特許第3486874号(P3486874)
【登録日】平成15年10月31日(2003.10.31)
【発行日】平成16年1月13日(2004.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−332995(P2002−332995)
【出願日】平成14年11月18日(2002.11.18)
【審査請求日】平成15年6月19日(2003.6.19)
【早期審査対象出願】早期審査対象出願
【出願人】(594157418)株式会社ドーコン (20)
【出願人】(502417380)増毛土建株式会社 (1)
【出願人】(502417405)増毛漁業協同組合 (1)
【参考文献】
【文献】特開2001−169611(JP,A)
【文献】特開2000−262180(JP,A)
【文献】吉良道子他,魚かすを用いた海域施肥実験,平成14年度 日本水産工学会 学術講演会 講演論文集,2002年 5月24日,P.75−77