説明

蘇生の間に正しいチューブ位置を判断する方法およびシステム

患者への気管チューブの挿入を制御するためのシステムおよび方法であって、インピーダンス測定をするために患者の胸部に接続されるように使用される少なくとも2つの電極と、インピーダンス測定を実行する測定器とを有し、前記測定器は、第1測定の間のインピーダンス変化から選択された特性を示す第1データセットを記憶する記憶手段と、第2インピーダンス測定の特性を示す第2データセットと前記第1データセットとを比較し、前記測定値の間の差分を評価するとともに評価信号を出力する評価手段とを具備しており、
前記第1および第2データセットは、挿入された気管チューブの有無による肺膨張の間に測定されたインピーダンス変動量を示すことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気管チューブまたは同様なものが蘇生の間正しい位置にあるか判断するためのシステムおよび方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
気管挿管は、蘇生の間に気道を確保するいくつかの方法の1つであり、特に保護された気道がないときに使用される。これを実行するためのガイドラインの事例は、「心肺蘇生および緊急心臓血管介護(Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care)」についての「ガイドライン2000」の中のI−98からI−102ページに説明されている。
【0003】
気管挿管は、一般に、難しい技術であると考えられている。ワング(Wang)その他による「将来のための予備経験、気管内挿管の病院外でのマルチセンタ評価(Preliminary experience with prospective, multi-centered evaluation of out-of-hospital endotracheal intubation)」蘇生 58 (2003) 49-58を参照。訓練不足の提供者は、処置の間、被害者に厄介な問題を引き起こす可能性がある。その厄介な問題としては下記のようなものが見られる。それには、口腔咽頭への外傷と、容認できないほど長い期間なされなかった換気と、遅れたまたはなされなかった胸部圧迫と、食道または右主茎気管支内挿管と、チューブ固定の失敗と、チューブの置き間違いの認識失敗とがある。
【0004】
ワーツ(Wirtz)その他による1つの研究「都市の救急部門における医療補助員による気管内チューブについての認識されない食道の換気位置の割合と結果(Rate and Outcomes of Unrecognized Esophagel Placement of Endotracheal Tubes by Paramedics in an Urban Emergency Department)」,学術的緊急医療編(Academic Emergency Medicine Volume)11、Number 5 591-592、では、食道挿管が前記事例のうちの10%で起こるとともに、右主茎挿管が前記事例について18%の頻度で起こることが記載されている。肺換気が長時間にわたって抑制されるので、食道挿管は不良転帰に関連する。
【0005】
チューブが正しく配置されても、患者が移動されている間にチューブ強制除去(dislodgement)が生じる可能性がある。ワング(Wang)その他により、742の挿管された患者からチューブ強制除去による22の事故が報告されている。強制除去は、チューブの不十分な固定に関連しているとともに、医療補助員によって認識されていない可能性がある。
【0006】
チューブの位置決めを判断するための標準的な方法は、聴診である。これは、感覚を鋭くするために定期的な訓練が必要な難しい技術である。入院前にそれを設定することは、ノイズと動きのためにしばしば錯綜する。
【0007】
また、呼気終末のCO2検出器が使用されるが、この技術は心臓が停止している患者には好適ではない。また、食道検出装置が使用される。これは、挿管の後にチューブに接続される気球または注入器(syringe)である。この概念は、空気が食道内のチューブから排出されないようにすることができる、ということである。これは、費用の追加を意味する別個の装置であるとともに、その処理が圧迫および換気を提供することを妨げる。さらに、食道検出装置がチューブの中に粘液を吸い込むという事故が起きており、その結果、間違ったチューブ位置を間違って指示するとともに、そのチューブの使用を妨げる。また、それは、挿管の前に嘔吐が気道に入るという危険性があるとともに、嘔吐が食道の検出装置に偽陽性検出をもたらすチューブの閉塞をする可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記問題点を回避しながら、チューブの位置決めについて信頼できる指示を提供できるとともに、除細動器などの既存の救命具に組み込むことが可能な方法およびシステムを提供することである。
【0009】
インピーダンス測定は、生体組織についての情報をもたらすことが可能であることが知られている。これは、体の上または中に配置されている電極によって通常実行されるとともに、その電極を介して変化する電圧または電流を印加することによって通常実行される。2つ以上の電極による前記インピーダンス測定は、当業者にそういうものとして知られているとともに、そのような測定システムの事例は、US4540002、US5807270およびWO2004/049942で記載されている。後者の刊行物で説明されているインピーダンスは、多くの電極を使用して選択された深さで測定することができる。
【0010】
WO2004/004541 Wikでは、患者の胸の表面に付けられている電極であって、ほぼ一定の電流を供給する電流源に接続されている電極を使用するシステムが記載されている。また、前記電極に接続されている測定装置には、計器用増幅器と、低域通過フィルタと、精密整流器とが具備されている。この刊行物に記載されている解決策の原理は、基準値ZOの測定である。この測定値ZOは、患者が呼吸していない間の前記電極間のインピーダンスの1つの測定値を示す。この解決策に関連する問題点は、インピーダンスは、一定ではないが、電極の適用時間と、その人の体重と、電極の位置とに依存する、ということである。本発明の目的は、そのような異なる条件下で信頼できる測定値を出す解決策を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
その発案されたシステムは、呼吸運動を測定するために患者の胸部に付けられた複数の電極を使用することによって前記チューブの位置決めを制御する代替方法およびシステムを提供する。そのような電極および測定システムとしては、EP1157717に記載されている解決策などの他の案件が知られている。このEP1157717案件は、除細動器に関連づけた使用をするためにパラメータを測定するとともに、その機器のユーザにフィードバックを提供する結果、ユーザがCPRを実行することを助ける。前記知られている案件の1つであるEP1057498は、患者の皮膚に付けられた電極を使用して血液循環を測定する。
【0012】
したがって、本発明の目的は、気管チューブの位置決めをしている間に患者の呼吸運動をモニタリングすることによって、気管チューブの位置決めを向上させる手段を提供することである。前記手段は、体のインピーダンス測定に基づいている。
【0013】
上記目的は、添付の特許請求の範囲に記載されているような方法およびシステムによって達成される。
【0014】
他の救命具に組み合わされたとき、胸部圧迫のような活動が前記インピーダンスに影響する可能性があるという問題があるので、測定の読み取りをより困難にする。本発明の好適実施形態によれば、このような偽信号を除去するためにEP1073310に記載された種類の適応フィルタリングの使用を有する。また、前記適応フィルタリングは当業者にそういうものとして知られている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、実施形態として本発明を図示する添付図面を参照して以下で説明される。
【0016】
図1に示した本発明に係るシステムは、患者の胸部24に装着される少なくとも2つの電極21と、前記電極に接続されたインピーダンス測定システムと、前記インピーダンス測定システムに接続されたマイクロコンピュータと、前記マイクロコンピュータに接続されたディスプレイ装置とを有する。前記インピーダンス測定システムとマイクロコンピュータとディスプレイ装置とは、全て処理装置22の中に配置されている。
【0017】
図示された処理装置22は、例えば、チューブの位置を引っ込めるまたは調整するために、EP1215993に記載されているものと同一手法でユーザに指示するもの、または警報信号音を単に引き起こすもののような、ユーザにフィードバックを提供するための視覚手段または聴覚手段を具備していることとしてもよい。
【0018】
図2に示す本発明の好適実施形態に係る前記装置は、下記のステップにしたがって使用されるように構成されている。
1.装置をオンにする。患者の胸部24に電極21を接続する。
2.バックおよびフェースマスク23を使用して、気道が開くように患者の頭と顎を配置する。
3.バッグで患者に換気している間であって、マスク漏れが極わずかである間、それぞれのマスク換気によって生じたインピーダンス変化の大きさを測定する。
4.マスク換気Zmによって生じる代表的なインピーダンス変化の大きさを記憶する。
5.患者に挿管する。
6.チューブを使用して患者に換気している間、それぞれの挿管換気によって生じたインピーダンス変化の大きさを測定する。
7.それぞれの挿管換気Ztによって生じたインピーダンス変化の代表的な大きさを記憶する。
8.ZtとZmを比較する。Zt=>Zmの場合、挿管が成功したと判断する。
9.Zt<Zmの場合、 右主茎挿管のおそれがあるとみなす。そのチューブを約2cm引っ込めるとともに、ステップ6から繰り返す。
10.依然Zt<Zmの場合、そのチューブを完全に引っ込める。
11.バッグとマスクを使用して、患者に換気する。
12.ステップ5からの挿管処理手順を繰り返すこととする。
【0019】
患者が標準のバッグで換気されるとき、代表的なインピーダンス変化量は0.5−1.0オームであるが、いくつかのタイプの体はこれから外れる。大きい体は0.50オームと同程度の低さとなる場合があり、小さい体は1オームより大きくなる場合がある。また、肺と胸に関連する機械的な条件は偏差を与える可能性があり、これには肺水腫、肺癌、外傷、溺死、外的要素などが含まれる。インピーダンス変動量の実施例を示す図が図3,4,5に示されており、これは以下でより詳細に説明される。
【0020】
ZtとZmは、例えばある期間での平均振幅のような、各状態における代表的なインピーダンス変化を示す単数(single number)によって表現することができる。また、より詳細な統計的分析としては、標準偏差などのような、ZtとZmを示すより大きなセットの値を使用することができる。
【0021】
本発明の1つの実施形態によれば、前記システムは体外除細動器が組み込まれている。そのような実施形態の長所は、コストとスペースと時間の節約である。通常、除細動器は、患者の胸部に装着された複数の電極と、前記電極に接続されたインピーダンス測定システムと、前記インピーダンス測定システムに接続されたマイクロコンピュータと、前記マイクロコンピュータに接続されたディスプレイ装置とに配置されている。したがって、前記技術を一体化することは、設計の問題である。
【0022】
前記システムの代表的な設計特性:
電極は、望ましくは両方の肺の上の胸部上に配置される。前記インピーダンス測定システムは、10ミリオームの分解能がある。前記測定システムのダイナミックレンジは、代表的な除細動器電極が使用されているとき、0オームから250オームである。前記インピーダンス測定システムは0.1〜3mAのほぼ一定の交流電流を使用するとともに、その交流周波数は通常30kHzから200kHzの範囲にある。
【0023】
前記マイクロコンピュータは、ステップ4および7のインピーダンス変化を記憶するように設定しておくことができ、さらにステップ8−10でのZmとZtの比較を促進するように設定しておくことができる。また、前記マイクロコンピュータは、ステップ1−12を通してユーザを完全に誘導するように設定しておくことができ、可聴式入力要求、テキスト、絵文字、ビデオまたは可聴式ガイドと可視式ガイドとのいくつかの組み合わせを使用するように設定しておくことができる。
【0024】
他の実施形態の一つとしては、単に挿管サポートと換気サポートとを容易にするように設定されたスタンドアロン装置が挙げられる。そのようなスタンドアロン装置は、どのようにCPRが実行されるか記載されているとともに、どのように患者がCPRに応答するかが記載されているEP1057451の胸部圧迫センサまたは他のセンサを使用して、EP1157717に記載されているように、CPRフィードバックを容易にするように、さらに展開することができる。CPRへの患者の応答は、EP1215993のECG解析と呼気終末CO2測定値とを使用して決定することができる。
【0025】
また、チューブ位置決めの確認は、胸部圧迫の間にでき、前記システムは、EP1073310に詳細に記載されている原理の例えばデジタル適応フィルタなどの適応フィルタに拡張され、その原理が引用によってここに組み込まれている。しかしながら、このアプリケーションでは、それは、基準入力として胸部圧迫センサからの信号を使用して、インピーダンス信号上の偽信号がフィルタにかけられる。このフィルタは、胸部上に配置されたセンサへの圧力または加速を使用して、前記胸部で測定された運動のような、胸部圧迫の間に行われる測定のための異なるタイプを考慮に入れることができる。
【0026】
これらのパラメータを測定することにより、胸部圧迫の影響は、例えば胸部圧迫をしないで取得した信号のような基準信号と測定信号との間の最大相関関係(correlation)を計算することで、挿管の制御を得るためのインピーダンス信号から除去することができる。
【0027】
図3は、インピーダンス変化(トップ)と胸部圧迫の深さ(ボトム)との経跡(traces)を示している。連続した15圧迫の間に2つの換気があることは、呼吸信号における2つのピークのところのように、図の当初で明白である。ここで、換気は、フェースマスクおよびバックを使用して供給される。挿管は7時22分に実行されたが、その時以降、インピーダンス信号が消滅している。したがって、Zm<Zt、およびチューブが置き違えられたことが示される。図2に示されているように、前記チューブは引っ込められるかまたは取り外されることとなる。
【0028】
図4は、インピーダンス波形をデジタル適応フィルタにかけたものの径跡(トップ)と、対応インピーダンスの生の信号(中央)と、胸部圧迫深さ波形(ボトム)とを示す。換気は、前記トップの径跡で明白である。胸部圧迫は、インピーダンスの生の信号の中に偽信号(artifact)を引き起こすが、この偽信号は、事実上、デジタル適応フィルタによって取り除かれる。
【0029】
図5は、良好な挿管の一例を示している。トップと中央の径跡は、挿管が実行されたときに、長い間隔をもって続けて生じる2つの換気(Zm)を示す。そして、換気と胸部圧迫が再開する。我々は、挿管Ztの後のインピーダンス信号の大きさを見ることができる。ここで、ZtはZmよりも大きい。
【0030】
上記で説明された本発明は、認識の自動化と記憶されたインピーダンスデータの比較とを主に目的としているが、前記比較は、実施中に、図3−5に示すような、曲線を点検することによる手作業で実行してもよい。そして、差し込まれたチューブのあるなしについての両方のデータ抜粋をユーザが見ることを可能にするために、前記記憶されたデータは、十分に長い期間保持される。
【0031】
また、本発明は、2つの電極のみを使用することで説明されたが、例えば、選択された深さでのより正確なインピーダンス測定のために、例えば、皮膚インピーダンスによる外乱を低減するために、2つよりも多い電極を本発明にしたがって使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明が使用されている患者を示す。
【図2】本発明に係る好適方法の概要図を示している。
【図3】チューブが置き違えられた状態での測定値を示す。
【図4】本発明の好適実施形態に係る信号フィルタリングを示す。
【図5】良好な挿管を示している測定値を示す。
【符号の説明】
【0033】
21 電極
22 処理装置
23 フェースマスク
24 胸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者への気管チューブの挿入を制御するための方法であって、
少なくとも2つの電極を患者の胸部に置くステップと、
例えばマスク換気を使用して、患者の肺に換気している間にインピーダンス変動量を測定するとともに、挿管をしない状態の代表的な変動量Zmを示す第1データセットを生成して記憶するステップと、
チューブを気管に挿入するステップと、
チューブを挿入されている患者の肺に換気している間にインピーダンス変動量を測定するとともに、挿管をした状態の代表的な変動量Ztを示す第2データセットを生成するステップと、
チューブ挿入の有無によるインピーダンスの変化を示す前記第1および第2データセットを評価するとともに、この評価に基づき前記セット間の差分を示す信号を生成するステップとを有し、
前記電極は、該電極間のインピーダンスを測定するために測定手段に接続されていることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記評価信号は、前記チューブの位置を引っ込めるまたは調整する必要があることを示すユーザへのフィードバックである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ZtとZmのそれぞれは、例えば平均振幅のような、各状態における代表的なインピーダンス変化を示す単数によって構成されているとともに、
Zt<Zmの場合、前記評価信号が警報信号となる請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記評価は、適応フィルタの使用を有する請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記挿管は、胸部圧迫の間に実行され、
前記適応フィルタは、前記インピーダンス信号における胸部圧迫偽信号(artifact)の除去に使用される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
患者への気管チューブの挿入を制御するためのシステムであって、
インピーダンス測定をするために患者の胸部に接続されるように使用される少なくとも2つの電極と、
インピーダンス測定を実行する測定器とを有し、
前記測定器は、
第1測定の間のインピーダンス変化から選択された特性を示す第1データセットを記憶する記憶手段と、
第2インピーダンス測定の特性を示す第2データセットと前記第1データセットとを比較し、前記測定値の間の差分を評価するとともに評価信号を出力する評価手段とを具備しており、
前記第1および第2データセットは、挿入された気管チューブの有無による肺膨張の間に測定されたインピーダンス変動量を示すことを特徴とするシステム。
【請求項7】
前記評価手段は、前記セット間の相違点の手動評価のために、例えば画面上に視覚的に示すカーブのような、前記データセットを視覚的に示す表示手段を有する請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記第1および第2データセットは、選択された期間の間の平均振幅を示すとともに、
前記評価手段は、これらの平均振幅を比較することに使用される請求項6に記載のシステム。
【請求項9】
前記評価に基づいて警報信号を出力する聴覚手段または視覚手段を有する請求項6に記載のシステム。
【請求項10】
除細動器に一体化されている請求項6に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−506450(P2008−506450A)
【公表日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−521425(P2007−521425)
【出願日】平成17年7月12日(2005.7.12)
【国際出願番号】PCT/NO2005/000259
【国際公開番号】WO2006/006870
【国際公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(506260076)レーダル・メディカル・エーエス (3)