説明

蛍光エマルジョン

本発明は、蛍光エマルジョン、その使用およびそれを含むラベル化試薬に関する。本発明の蛍光エマルジョンは、その中に少なくとも1つの小滴が分散された、少なくとも1つの水性の連続相を含み、該油相の小滴が界面活性剤の層により安定化されており、波長λ1で吸収し、λ1と異なる波長λ2で放出するドナー蛍光ラベル、およびドナー蛍光ラベルの放出波長λ2で吸収するアクセプターラベルから形成される、互いに異なる少なくとも1対のラベルを含むこと;ドナー蛍光ラベルおよびアクセプターラベルが、油相小滴中にそれらの1つをカプセル化すること、および油相小滴/水相の界面にそれらの他方を結合するか、または油相小滴中にそれらの他方をカプセル化することのいずれかにより、密接して保たれること;およびそれが少なくとも1つの両親媒性界面活性剤および少なくとも1つの可溶化脂質を含むことを特徴とする、水中油型である。本発明の蛍光エマルジョンは、光学蛍光イメージング、特に光学蛍光生物医学イメージングの分野に適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光エマルジョン、その使用およびそれを含むラベル化試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
検出されたシグナルの拡散成分の活用に基づく光学イメージング技術は、それらが拡散物、より具体的には厚い(thick)拡散物を精査することを可能にするので、どんどん開発されている。
【0003】
生物医学イメージング分野で、これらの技術は、例えば癌性腫瘍の検出および場所に対しての慣用の技術:X線写真術、X 線断層撮影法、陽電子放出断層撮影法および磁気共鳴イメージングの代替手段を、例えば拡散光トモグラフィーによって提供する。これらの技術において、非イオン化照射の可視の波長範囲、より正確には生物組織が吸収極小を有する赤色または近赤外の波長範囲が、異常な吸収領域および/または拡散領域の存在を検出するために用いられる。
【0004】
最近になって、光学蛍光分子イメージング技術が、特定の蛍光ラベルの使用のおかげで、どんどん開発されている。好ましくは、これらは関心ある標的細胞、例えば癌細胞に結合し、非特異的なラベルとは対照的により良い検出を提供する。これらの技術の目的は、間隙中の蛍光ラベルを見つけることができるばかりでなく、それらの濃度も測定することができ、それによって、間接的に、腫瘍を見つけることならびに腫瘍の形ならびにその生物活性についての情報を得ることを可能にする。
【0005】
拡散媒体中への光の伝播に用いる機器は、用いられる光源:連続;周波数変調された;時間調節されたにより3つのカテゴリーに分けられ得る。歴史的に、連続光源を用いる機器が最初に開発された。しかしながら、それらは、数ある中でも、組織の拡散性についての情報を与えない欠点を有しており、それゆえ、それは推測的に与えられざるを得ない。時間調節されたおよび周波数変調されたアプローチは、フーリエ変換に関係があり、情報において両方ともより富んでいる。光源/検出機のペアを用いるただ一つの収集で、例えば均質媒体のそれぞれμaおよびμsで表される光学吸収および等方散乱性を測定することを可能にする。
【0006】
光学蛍光分子イメージング技術において、蛍光ラベルまたは蛍光コントラスト剤が、検討される拡散組織に注入され、検討される領域に特異的か非特異的のいずれかで局在化される。次いで、該組織に、帯域フィルターもしくは低域フィルターを用いて得られる準単色光源あるいはレーザー光が当てられる。光源からの光は組織中で拡散され、いくつかの光子が蛍光ラベルまたは蛍光体分子に達し、それらが吸収する光源によってもたらされるエネルギーを、赤色の方にシフトさせた波長での蛍光放出によって再放出する。
【0007】
蛍光体自身によって放出される光は、検討される拡散組織中を伝播し、端部に達し、そこから現れる。励起シグナルを遮断し、蛍光性光子のみを収集するために、あらかじめフィルターをかけられた、カメラ、増感カメラ、光ファイバーのようなイメージング装置または別のイメージング装置によって収集されるのが、この出力光である。
【0008】
ヒトおよび動物の組織にとって、光源よって放出される光の波長および、蛍光体によって再放出される蛍光による波長は、ヒトおよび動物の組織が最も少なく吸収するのがこれらの波長であるので、治療ウィンドウ領域(therapeutic window region)と呼ばれる、赤色または近赤外にある。具体的には、血液はより短波長で、水はより長波長での光の吸収に関与する。
【0009】
それゆえ、これらの波長、すなわち640〜900 nmの間の波長で吸収および放出する蛍光分子または蛍光体が選択される。
現在のところ、蛍光分子は、検討される組織中にそれ自体ではなく、光学プローブの形態で注入される。この光学プローブは、一般的に、例えば、有機蛍光体、ランタニド錯体、あるいは発光半導体ナノクリスタル(CdSe、CdTe、InP、Siなどのような「量子ドット」)であり得る蛍光分子からなる分子の集まりである。
【0010】
これらの光学プローブは、1つ以上の次の物質:
a)特定の生物学的工程をイメージングすることができる生物学的リガンド。そのようなリガンドとしては次のものが挙げられる:
i)生物学的ターゲティングリガンド:それは、ある細胞(例えば、S. Achilefuによる文献(Technology in Cancer Research & Treatment, 2004, 3, 393-408)に記載される腫瘍細胞)またはある器官の特異的認識を可能にする生物学的物質(抗体、ペプチド、糖類など)または化学的物質(例えば、葉酸)である、
【0011】
ii)所定の生物活性、例えば、酵素活性のためのラベルである生物学的リガンド。例えば、これらの生物学的リガンドは、所定のプロテアーゼにより切断され得るペプチドであり、その末端にラベルの蛍光の阻害剤がグラフトされるであろう。このタイプのリガンドは、C.H.Tungによる文献(Biopolymers, 2004, 76, 391-403)に報告されるように、プロテアーゼの酵素活性を特異的に撮像することを可能にする。別の例は、ラベルを該ラベルの蛍光の阻害剤から分離するジサルファイド(disulphide)ブリッジを含む生物学的リガンドからなる。そして、この生物学的リガンドにより、例えば、番号FR 2 888 938のもとに公開されるフランス特許出願に記載されるように、細胞における光学プローブの内在化を特異的に撮像することが可能となる;
【0012】
b)ステルス剤:これは、光学プローブを免疫系に認識されないようにし(ステルス)、有機体内での循環時間を増加させ、その排出を遅らせるために光学プローブに添加される物質である;
c)「集合ベクター(assembly vector)」:これは、蛍光ラベルおよび/または生物学的ターゲティングリガンドおよび/またはステルス剤および/または1以上の他の機能性(例えば、薬物送達、他のイメージング様式、治療機能)を集めることを可能にできる物質である。
【0013】
蛍光分子はまたエマルジョン中に含まれ得る。
しかしながら、蛍光ラベルなしのヒトまたは動物の組織は、内因性の蛍光または自己-蛍光と呼ばれる固有の蛍光を有し、それは偽性(spurious)シグナルを付加する。励起または不完全に遮断された励起の非弾性散乱も偽性シグナルを生み出す。
【0014】
さらに、蛍光分子によって再放出される蛍光は広いスペクトルを有する。それゆえ、以後、ドナー蛍光ラベルとも呼ばれる、異なる蛍光分子からのシグナルを得ることを困難にし、同時に、それは、ほとんどまたは全く多重化が不可能であることを意味する。
最後に、現在のところ、蛍光分子(蛍光ラベル)が有機体に送達されるとき、存在する光学プローブは測定することができない。
【0015】
光学蛍光イメージングの別の適用分野は、ホスト媒体(host medium)中での関心ある物質の送達、形、サイズまたは状態の変化をモニターすることに対してである。
例えば、それはヒトもしくは動物における薬物の送達、または植物における農薬の送達、またはこのヒト、動物もしくは植物の特定の器官、あるいはこれらの細胞、組織もしくは器官の代表的な合成媒体における細胞もしくは組織における薬物の送達をモニターすることであり得る。
【0016】
また一方、ホスト媒体は、有機体またはその経路(path)をモニターすることが望まれる特定の物質を含む合成または天然の媒体でもあり得る。
また一方、光学蛍光イメージングは、ナノ粒子のサイズにおける進展をモニターするため、またはこれらのナノ粒子が破裂するときを知るため、またはラベルの放出速度を測定するために、ナノエマルジョンを研究するのにも用いられ得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
それゆえ、本発明の目的は、これら全ての適用に用いることができ、その中にエマルジョンが注入されるホスト媒体の自己-蛍光による偽性シグナルを阻害および抑制さえもでき、そして/またはいくつかの蛍光ラベルの同時使用を可能にし、そして/またはホスト媒体中の関心ある薬物または物質の送達、形またはサイズ等の変化をモニターすることができる蛍光エマルジョンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この目的のため、本発明は、波長λ1で吸収し、λ1と異なるλ2で放出するドナー蛍光ラベル、およびドナー蛍光ラベルの放出波長λ2で吸収するアクセプターラベルから形成される、互いに異なる少なくとも1対のラベルを含むことを特徴とし、ドナー蛍光ラベルおよびアクセプター蛍光ラベルが、油相小滴中にそれらの一方をカプセル化することにより、ならびに油相小滴/水相の界面にそれらの他方を結合するか、または油相小滴中にそれらの他方をカプセル化するのいずれかにより、密接して保たれることを特徴とし、少なくとも1つの両親媒性(amphiphilic)界面活性剤の分子および少なくとも1つの可溶化脂質の分子を含むことを特徴とする、油相の小滴が界面活性剤の層により安定化され、該小滴が分散された水性の連続層を含む水中油型の蛍光エマルジョンを提供する。
【0019】
本発明の蛍光エマルジョンの第一の好ましい実施態様において、アクセプターラベルは、波長λ1およびλ2と異なる波長λ3を有する光エネルギーの形態でドナー蛍光ラベルによって放出される光エネルギーを再放出する。
本発明の蛍光エマルジョンの第二の好ましい実施態様において、アクセプターラベルは光エネルギーの形態でドナーラベルによってもたらされる光エネルギーを全く再放出しないかまたはほとんど再放出しない。
本発明の蛍光エマルジョンの全ての実施態様において、波長λ1、λ2およびλ3は、両端を含んで640〜900 nmの間である。
【0020】
好ましくはまた、本発明による蛍光エマルジョンの全ての実施態様において、油相小滴は両端を含んで10〜200 nmの間の平均直径を有する。
本発明の蛍光エマルジョンの全ての実施態様の第一の変形において、ドナー蛍光ラベルおよびアクセプターラベルは、それぞれ互いに独立して、親油性または両親媒性であり、油相小滴中にカプセル化されることによって密接して保たれる。
【0021】
この第一の変形および第一の好ましい実施態様において、ドナー蛍光ラベルは、1,1'-ジオクタデシル-3,3,3',3'-テトラメチルインドジカルボシアニン過塩素酸塩(DiD)およびアクセプターラベルは、1,1'-ジオクタデシル-3,3,3',3'-テトラメチルインドトリカルボシアニン アイオダイド(DiR)である。
この第一の変形の別の好ましい実施態様において、ドナー蛍光ラベルは、1,1'-ジオクタデシル-3,3,3',3'-テトラメチルインドトリカルボシアニン アイオダイド(DiR)およびアクセプターラベルはインドシアニングリーン(ICG)である。
【0022】
本発明の蛍光エマルジョンの全ての実施態様の第二の変形において、ドナーラベルまたはアクセプターラベルのいずれかは両親媒性であり、かつ油相小滴の膜に直接結合することによって油相小滴/水相の界面に結びつけられ、他方は油相小滴中にカプセル化されている。
本発明の蛍光エマルジョンの全ての実施態様の第三の変形において、ドナー蛍光ラベルまたはアクセプターラベルのいずれかは、界面活性剤分子に結合することによって油相小滴/水相の界面に結びつけられ、他方は油相小滴中にカプセル化されている。
この変形および第一の実施態様において、界面活性剤分子に結合するラベルは、共有結合により、これらの界面活性剤分子に結合する。
【0023】
この変形の第二の実施態様において、界面活性剤分子に結合するラベルは、ジサルファイドブリッジまたはペプチドブリッジまたはヒドラゾン結合によって、これらの界面活性剤分子に結合する。
本発明は、ホスト媒体中の関心ある薬物または物質の送達をモニターするためのラベル化試薬の製造のための、本発明により蛍光エマルジョンの使用も提案する。
【0024】
本発明は、本発明によるエマルジョンおよび油相小滴中にカプセル化された関心ある薬物または物質を含むホスト媒体中の関心ある薬物または物質の送達をモニターするためのラベル化試薬も提案する。
本発明は、本発明による蛍光エマルジョンおよびドナー蛍光ラベルかまたはアクセプターラベルのいずれかに結合した関心ある薬物または物質を含むホスト媒体中の関心ある薬物または物質の送達をモニターするためのラベル化試薬も提案する。
【0025】
最後に、本発明は、光学蛍光イメージング用のラベル化試薬の製造のための、本発明によるエマルジョンの使用を提案する。
本発明は、以下の説明的記載を読むと、よりよく理解されるであろうし、それらの他の特徴的有利性がより明確になるであろう。
【0026】
エマルジョンは、連続相および分散相で構成される2つの不混和性の液体物質の混合物である。ある物質は、第2の物質(連続相)中に小滴の形態(分散相)で分散する。混合物は、乳化剤または界面活性剤と呼ばれる、2つの相の間の界面にある両親媒性分子の作用により、安定なままでいる。エマルジョンは、準安定性の超分子構造である。これらの構造は、ポリマーソームおよびミセルと区別されるものである。
【0027】
ポリマーソーム(リポソームを含むファミリー)は、直径数十〜数千nmの小胞である。これらの小胞は、小胞内の媒体を外部の媒体(2つの媒体は同じ性質(水性)である)から分離すること可能にする界面活性剤の1つ以上の二重層で構成される。
ミセルは、自己集合した界面活性剤の凝集物からなり、直径数ナノメートルである。該界面活性剤は、それらの親水性部分を外部(溶媒)に向け、それらの疎水性鎖をミセルの中心へ向けるようにして組織化される。
【0028】
エマルジョンは、コントラスト剤の製造のために既に用いられている。これら全てのエマルジョンにおいて、表示を可能にするように、ラベルが所望の技術により導入される。
したがって、特許出願US 2005/00079131は、油滴が10〜200 nmの間の平均直径を有し、それが用語のナノエマルジョン、またはミニエマルジョンもしくは超微細エマルジョン、あるいはサブミクロンエマルジョンの一般的に許容される定義に対応し、蛍光体が油滴を囲む界面活性剤の層内に存在し、該エマルジョンが安定化されることを可能にする、水中油型のエマルジョンを記載している。この特許出願において、蛍光体は補助的イメージング剤であるという事実は別として、主のイメージング剤は大きい原子数(Z)を有する成分であり、この蛍光体は、蛍光体によって放出される光エネルギーを吸収する別のラベルとの組み合わせで用いられていない。
【0029】
今、ヒトおよび動物の組織の自己-蛍光による偽性の蛍光シグナルの問題を解決するため、種々の蛍光ラベルの同時使用を可能にするため、あるいは物質、例えば薬物がホスト物質中に送達されるときおよび送達されるかどうかを測定すことを可能にするために、本発明は、以後、ドナー蛍光ラベルと呼ばれる蛍光体ばかりでなく、アクセプターラベルも用い、該ドナーラベルは、その光エネルギーをアクセプターラベルに移し、そしてアクセプターラベルはこのエネルギーを、蛍光の形態であるが、ドナー蛍光ラベルの蛍光の放出波長と異なる波長で、または非発光エネルギーの形態、例えば熱エネルギーの形態のいずれかで復元するであろう。
【0030】
より正確には、前記課題を解決するため、本発明は、FRETまたはRETと呼ばれる、蛍光共鳴エネルギー移動の現象に基づく。このエネルギー移動は、励起状態のドナー蛍光ラベルが、すぐ近くに位置する(そこから数ナノメーター)アクセプターラベルにそのエネルギーを移す、非放射工程である。アクセプターラベルはそれ自身が蛍光体であるとき、それは、ドナー蛍光ラベルによって移されたエネルギーを、蛍光の形態でも再放出する。この場合、FRETは、特に、ドナー蛍光ラベルの蛍光を減少し、アクセプターのそれを増加する効果を有し、また光学蛍光イメージングによる読み取りの蛍光波長を変調する効果を有する。FRETはまた、蛍光の寿命を変調する効果を有する。
【0031】
ドナー蛍光ラベルの蛍光波長の変化は、特に、ヒトおよび動物の組織の光学蛍光イメージングにおいて多大である。具多的には、既に述べられたように、ヒトおよび動物の組織の場合、蛍光は赤色または近赤外で起こらなければならず、その波長範囲でドナー蛍光ラベルなしの組織も固有の蛍光を有する。アクセプターラベルの使用の結果、蛍光は赤色の方にシフトされる。さらに、組織の偽性蛍光が非常に減じられるか、または存在さえもしないのいずれかの波長範囲にシフト(再度赤色または近赤外に)される蛍光をフィルターにかけることが可能である。その結果、アクセプターラベルの蛍光は、帯域(band-pass)および/または高域フィルターにかけられ、組織の偽性の蛍光シグナルが非常に弱くなる範囲にシフトされ得る。それゆえ、所望のシグナル/偽性シグナルの比は増加する。
【0032】
しかしながら、アクセプターラベルも、「失活剤(quencher)」と呼ばれるもの、すなわち、ドナー蛍光ラベルによって移された伝達光エネギーを吸収するが、蛍光の光エネルギーの形態でこのエネルギーを再放出しないラベルになり得る。事実、それは光エネルギーを吸収し、エネルギーの別の形態、例えば熱エネルギーの形態でそれを復元する。この場合、ドナー蛍光ラベルの蛍光は、もし完全に阻止されなければ、とにかく非常に抑制されており、検出されるであろうものは、ドナー蛍光ラベルの蛍光の再現である。
【0033】
本発明で用いられるエネルギー移動の現象は、2つの条件:
1) アクセプターラベルがドナー蛍光ラベルによって放出される波長の範囲で吸収するとき;および
2) ドナー蛍光ラベルとアクセプターラベルが、一緒に直接結合しないで、互いに接近しているとき
が満たされるときに起こる。
【0034】
エマルジョン中に、ドナー蛍光ラベルおよびアクセプターラベルを導入することによって、それが、第一の実施態様において、ドナー蛍光ラベルおよびアクセプターラベルを油(油相)小滴中にカプセル化することを可能にし、それによってそれらが互いから規定された距離に保たれることを可能にすることで、第2の条件を満たすことが可能となる。
【0035】
しかしながら、ラベルの一方のみがカプセル化され、他方が直接的または間接的のいずれかで、他方のラベルがカプセル化される油滴の膜に結合し得る。この場合も、2つのラベル間に適当な距離が維持される。
【0036】
両ラベルが油滴中にカプセル化されるため、これら2つのラベルは、親油性でなければならないか、または例えば脂肪鎖のグラフトによって親油性にされていなければならないのいずれかであるか、あるいはそれらは小滴を構成する油相中に高い溶解性を有する両親媒性でなければならない。
【0037】
ラベルが直接的に膜に結合されるため、該ラベルは両親媒性でなければならないか、またはその当初の親油性または親水性により、親油性鎖または親水性鎖のグラフトによって両親媒性にされなければならない、そして油相中のその溶解性は、それが油相小滴中にカプセル化された状態にするのに十分であってはならない。しかしながら、前記ラベルは、それを安定化するために、本来それら自身が両親媒性であり、エマルジョンの界面活性剤の層中に存在する界面活性剤分子により油滴の膜に結合され得る。
【0038】
界面活性剤分子は、共有結合、あるいは例えばジサルファイドブリッジ、ヒドラゾン結合または開裂可能なブリッジによるその他のいずれかで結合され得る。そのような開裂可能なブリッジは、酸化還元電位の変化により切断および開裂されるジサルファイドブリッジであり得る。それはまた、pHの変化に感受性があり、このことがさらに、正常細胞より大きな酸性のpHをしばしば有する腫瘍細胞を表示することが望まれるときに有利である、ヒドラゾン結合であり得る。したがって、アクセプターラベルがそれ自身蛍光性でないラベルで、その結果、ドナー蛍光ラベルの蛍光が回収されるときか、またはアクセプターラベル自身が、ドナー蛍光ラベルの蛍光を感知することによって蛍光を放出し、もはやアクセプターラベルの蛍光を放出しないときのいずれかのときに、細胞の癌性特徴が示される。開裂可能なブリッジはまた、ペプチドブリッジ、例えばメタロプロテアーゼのようなプロテアーゼ、または特定の腫瘍の型で過剰に発現され得るカテプシンによって開裂されることができるペプチドブリッジであり得る。
【0039】
要約すると、ドナー蛍光ラベル/アクセプターラベルのあらゆるペアが、本発明のエマルジョン中で用いられ得るし、これらのラベルは、両方が油滴の内部に位置するか、またはそれらの一方がその外部表面で油滴の膜に直接的かまたは間接的のいずれかで結合し、それらの他方が油滴内にあるのいずれかであり得る、但し、アクセプターラベルは、ドナー蛍光ラベルの放出波長λ2で吸収し、そしてドナー蛍光ラベル自身はλ2と異なる波長λ1で吸収する。該アクセプターラベルは、それ自身蛍光体であってもよく、この場合、それは波長λ1およびλ2と異なる波長λ3で放出しなければならない。このことは、ペアのラベルは互いに異なっていることを意味する。
【0040】
本発明のエマルジョンは、ヒトまたは動物である、ホスト媒体中の組織に注入されることが具体的に意図されるので、ドナー蛍光ラベルは、近赤外波長範囲、すなわち640 nm〜900 nmの間にある波長範囲で吸収および放出されなければならない。その結果として、アクセプターラベルそれ自身もまたこの同じ波長範囲で吸収しなければならない場合、およびそれ自身が蛍光性であるとき、それはこの同じ波長範囲で再放出しなければならない。
【0041】
好ましくはまた、本発明で用いられるエマルジョンは、ヒトまたは動物の組織の細胞中でエマルジョンの内在化を可能にするように、ナノエマルジョン、すなわち10〜200 nmの間、より好ましくは両端を含んで10〜80 nmの間のサイズを有する油滴である。
【0042】
本発明の文脈内で、用語「小滴」は、実際の油滴、および用いられる油が結晶化可能な油である、水中油型のエマルジョンから生じる固体粒子の両方を意味する。この場合、そのようなエマルジョンは固形エマルジョンと言われる。
【0043】
用いることができる油は、植物または動物起源の天然油、合成油およびそれらの混合物から選択される生体適合性油である。これらの油は、エマルジョンの形成の前に、化学的または物理的修飾をしないで用いられる。
【0044】
そのような油の中でも、特に、植物起源の油、その中でも特に大豆油、パーム油、落花生油、オリーブ油、亜麻油、ブドウ種油およびヒマワリ油;動物起源の油、その中でも特に魚油;合成油、その中でも特にトリグリセリド、ジグリセリドおよびモノグリセリドが挙げられる。前記油は、単独または混合物として用いられ得る。
これらの油は、初めて圧搾したもの、精製またはエステル交換された(interesterified)油であり得る。
【0045】
本発明の特に好ましい実施態様によれば、これらの油は、水に非常に難溶性、すなわち、例えば大豆油のような、一般に8未満であり、より好ましくは3〜6の間の親水性-親油性バランス(HLB)を有するものから選択される。
【0046】
好ましい一つの実施態様によれば、油相は、少なくとも10重量%の、20℃における粘度が100 cP以上である油で構成される(粘度の値は、例えば、Handbook of Chemistry and Physics, CRC Press, 第88版, 2007にまとめられる)。油相におけるそのような油の存在により、エマルジョン中に配合されたラベルに、インビボ時間分解蛍光イメージングのために特に好適な蛍光寿命を与えることができる。
【0047】
エマルジョンは、エマルジョン内で油滴を安定化のための界面活性剤の層を形成するために、界面活性剤、および特に少なくとも一つの両親媒性界面活性剤を含む。
【0048】
これらの両親媒性界面活性剤(固体部分を含む)は、一般に8〜30個の炭素原子を含む直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和または不飽和の鎖を含む親油性部分を有する化合物から選択される。それらは、リン脂質、コレステロール、リゾ脂質、スフィンゴミエリン、トコフェロール、糖脂質、ステアリルアミン、天然または合成起源のカルジオリピン;ソルビタンエステルのような、エーテルまたはエステル官能基により親水性の基に結合している脂肪酸で構成される分子、例えば、Sigma社によりSpan(登録商標)の名称で販売されるソルビタンモノオレエートおよびモノラウレート;重合脂質;ICI Americas Inc社によりTween(登録商標)の商品名で、およびUnion Carbide Corp社によりTriton(登録商標)の商品名で販売される非イオン性界面活性剤のような、ポリエチレンオキシド(PEG)の短鎖にコンジュゲートしている脂質;スクロースモノラウレートおよびジラウレート、スクロースモノパルミテートおよびジパルミテート、ならびにスクロースモノステアレートおよびジステアレートのような糖エステルから選択され;前記界面活性剤は単独または混合物として用いることができる。
【0049】
本発明によれば、両親媒性界面活性剤は、好ましくは、大豆レシチン、リン脂質およびコレステロールのような天然起源で、同化できる(生体適合性である)界面活性剤である。
本発明において好ましい両親媒性界面活性剤はレシチンである。
本発明のエマルジョンは、両親媒性界面活性剤と組み合わせた、可溶化脂質を含む。可溶化脂質は、大量の界面活性剤、特に両親媒性界面活性剤が溶解するのを可能にする。
【0050】
したがって、一方では、それは、このことが望まれるとき、分散相が小直径を有するエマルジョン、すなわちナノエマルジョンの製造を可能にし、他方では、非常にとりわけ、ラベルが親油性かまたは両親媒性であるとき、多数のラベルが本発明のエマルジョンに溶解することを可能にし、そしてよりよく溶解されると、これらはより大量に存在し得るので、多数のラベル分子が界面活性剤、特に両親媒性界面活性剤にグラフト化されるのを可能にする。それゆえ、エマルジョンの光学的性質が改善される。
【0051】
可溶化脂質は、両親媒性界面活性剤が溶解することを可能にする、両親媒性界面活性剤に親和性を有する脂質である。両親媒性界面活性剤がリン脂質であるとき、一つの適当な可溶化脂質はグリセロール誘導体および特にグリセロールの脂肪酸によるエステル化によって得られるグリセリドである。用いられる可溶化脂質は、有利には、用いられる両親媒性界面活性剤によって選択される。一般的に、所望の可溶化を確保するために、それは類似の化学構造を有するであろう。それは油またはワックスであり得る。
【0052】
好ましい可溶化脂質は、特にリン脂質の場合、脂肪酸、特に飽和脂肪酸、そして具体的には8〜18個の炭素原子、またはより好ましくは12〜18個の炭素原子を含む飽和脂肪酸のグリセリドである。
0重量%〜20重量%のC8 脂肪酸、0重量%〜20重量%のC10 脂肪酸、10重量%〜70重量%のC12 脂肪酸、5重量%〜30重量%のC14 脂肪酸、5重量%〜30重量%のC16 脂肪酸および5重量%〜30重量%のC18 脂肪酸を含む、飽和脂肪酸のグリセリドが好ましい。
【0053】
Gattefosse社によりSuppocire(登録商標) NCの商品名で販売される、室温で固体の半合成グリセリドが特に好ましい。N-タイプのSuppocire(登録商標)製品は、脂肪酸とグリセロールとの直接エステル化によって得られる。それらはC8〜C18 の飽和脂肪酸の半合成グリセリドであり、その質-量(quali-quantitative)の組成は、次の表に示される。
【0054】
【表1】

【0055】
可溶化脂質の量は、油相に存在する両親媒性界面活性剤の性質および量によって、非常に変化し得る。
上記のように、本発明のエマルジョンに用いることができるラベルの性質は、それらが蛍光イメージングと共存できるという条件で、重要でなく、もし、それらがヒトまたは植物の組織で用いられる場合は、それらは640〜900 nmの間の波長で吸収および放出するという条件およびドナー蛍光ラベル放出とアクセプターラベル吸収の間でスペクトル交換があるとの条件である。
少なくとも一つのラベルは蛍光ラベル、すなわち蛍光体でなければならない。
【0056】
そのようなラベルは、近赤外域で吸収および放出する基で官能化された脂肪酸アナログ、スフィンゴ脂質、ステロイド、多糖類およびリン脂質、ならびにそれらの両親媒性誘導体であり得る。具体的には、シアニン、ローダミン、フルオレセイン、クマリン、スクアライン、アズレン、キサンテン、オキサジンおよび4,4-ジフルオロ-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン(ボロンジピロメテン)の誘導体、ならびに前記蛍光体の両親媒性誘導体も挙げられる。
【0057】
例として、より具体的に、Invitrogen社により商品名Bodipy(登録商標)665/676(Ex/Em.)で販売される製品;Invitrogen社によりリファレンスD-307の下で販売される1,1'-ジオクタデシル-3,3,3',3'-テトラメチルインドジカルボシアニン過塩素酸塩(DiD)およびInvitrogen社によりリファレンスD-12731の下で販売される1,1'-ジオクタデシル-3,3,3',3'-テトラメチルインドトリカルボシアニン アイオダイド(DiR)のようなジアルキルカルボシアニンの両親媒性誘導体が挙げられる。
本発明の好ましい実施形態によれば、蛍光体は、ジアルキルカルボシアニンの両親媒性誘導体から選択される。
【0058】
それ自身が蛍光性であるとき、アクセプターラベルは、それがドナー蛍光ラベルと共存できるという条件で、ドナー蛍光ラベルに対しての上記のものと同じ化合物から選択され得る。
【0059】
アクセプターラベルそれ自身が蛍光ラベルでないとき、あらゆる失活剤分子が好適であり得る。例として、近赤外で放出するドナー蛍光ラベル蛍光を阻害または除去するために、Dabcyl(登録商標)および誘導体、ならびにBHQ-1、BHQ-2またはBHQ-3のようなBlack Hole Quencher(登録商標)(BHQ)製品(Biosearch Technologiesから);Nanogold Particles(登録商標)(Nanoprobesから);Eclipse Dark Quencher(登録商標)(Epoch Bioscienceから);Elle Quencher(登録商標)(Oswellから);Cy7Q (Amersham Biosciencesから);Fluoquench(商標)670およびFluoquench(商標)680のようなFluoquench(商標)製品 (Interchimから);ならびにQSY(登録商標)7、QSY(登録商標)9およびQSY(登録商標)21のようなQSY(登録商標)染料(Molecular Probesから)が挙げられる。
【0060】
好ましくは、本発明のエマルジョンは、エマルジョンの安定性を改善するために、補助界面活性剤(cosurfactants)、特にステルス性補助界面活性剤を含む。
そのようなステルス性補助界面活性剤は、好ましくは、親水性部分がポリエチレンオキシド鎖(PEOまたはPEG)で完全にまたは部分的に構成され、そのPEO単位の数が好ましくは2〜500の間の範囲である両親媒性分子である。ステルス性補助界面活性剤はまた、例えば、デキストランのような多糖類化合物であり得る。
【0061】
本発明により、用いることができるステルス性補助界面活性剤の例として、ポリエチレングリコール/ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)コンジュゲート化合物、Brij(登録商標)(例えば、Brij(登録商標)35、58、78または98)の商品名でICI Americas Inc社により販売される製品のようなポリエチレングリコールの脂肪酸エーテル、Myrj(登録商標)(例えば、Myrj(登録商標)45、52、53または59)の商品名でICI Americas Inc社により販売される製品のようなポリエチレングリコールの脂肪酸エステル、およびPluronic(登録商標)(例えば、Pluronic(登録商標)F68、F127、L64またはL61)の商品名でBASF AG社により販売される製品またはSynperonic(登録商標)(例えば、Synperonic(登録商標)PE/F68、PE/L61またはPE/L64)の商品名でUnichema Chemie BV社により販売される製品のようなエチレンオキシド/プロピレンオキシドブロックコポリマーが特に挙げられる。
【0062】
本発明のエマルジョンの油滴の周縁に位置する界面活性剤の層は、関心ある生物活性を標的とする少なくとも1つのターゲティング剤を含み、前記ターゲティング剤は、生物学的リガンドに共有結合している親水性部分を有する両親媒性グラフト補助界面活性剤で構成される。ターゲティング剤の存在により、特定の関心ある生物学的工程を標的とすることができる。
【0063】
本発明の1つの有利な実施態様によれば、前記ターゲティング剤は、次の式(I):
【化1】

【0064】
[式中:
- Aは、両親媒性グラフト補助界面活性剤(CoTA)の親油性部分であり、
- X1およびX2は、同一であるか、または異なって、前記補助界面活性剤(CoTA)の親水性部分を構成し、例えば、N、O、PおよびSから選択される1以上のヘテロ原子、および/または、例えば、C1〜C4アルキル、C1〜C4アルコキシもしくはアリール基から選択される1以上の基、またはエーテル、エステル、アミド、カルボニル、カルバメート、尿素、チオ尿素およびジサルファイド官能基から選択される1以上の官能基で任意に置換、挿入および/または終結されてもよい飽和もしくは不飽和の直鎖状または分枝鎖状の炭素ベースの鎖から選択されるフレキシブルスペーサーアームで構成され;
- Y1およびY2は、同一であるか、または異なって、それぞれX1およびB1、X2およびB2に共有結合で結合し得る化学基から選択され;
【0065】
- B1およびB2は、同一であるか、または異なって、生物学的リガンドであり、末端の1つは、それぞれX1、X2と形成する共有結合に含まれ;
- nは、1〜20の間(境界値を含む)の整数であり;
- qは、0または1に等しい整数であり;
- mは、0〜20の間(境界値を含む)の整数であるが、q =0の場合、m =0と理解され;
- pは、0〜10の間(境界値を含む)の整数であり;
- Rは、0〜10の間(境界値を含む)の整数である]
の化合物から選択される。
【0066】
式(I)のターゲティング剤中に存在するグラフト補助界面活性剤CoTAの親油性部分(A)は、周縁の界面活性剤の層内の油滴の表面に自らを固定することができる。それは、飽和もしくは不飽和の直鎖状または分枝鎖状のC6〜C26アルキル鎖で特に構成され得る。
上記の式(I)の化合物のスペーサーアームX1およびX2を構成するCoTAの親水性部分は、ポリオキシエチレンまたはデキストラン単位で構成される鎖から特に選択され得る。
【0067】
本発明の1つの有利な実施態様によれば、B1/B2単位にX1/X2を結合させる共有結合(官能基Y1/Y2)は、B1/B2とのその反応の前にCoTAの親水性部分が最初から有する化学的官能基と、それぞれX1、X2とのそれらの反応の前に生物学的リガンドB1/B2が有する相補的な化学官能基との間の反応から誘導される。非制限的で非排他的な例として:
- 結果としてアミド結合が形成される、アミンおよび例えばN-スクシンイミジル基で活性化されるエステルの反応;
- 結果としてオキシム結合が形成される、オキシアミンおよびアルデヒドの反応;および
- 結果としてチオエーテル結合が形成される、マレイミドおよびチオールの反応、
から得られる共有結合が特に挙げられる。
【0068】
上記の式(I)のターゲティング剤のB1/B2単位として用いられ得る生物学的リガンドの中でも、次のものが特に挙げられる:
i)ペプチド、例えば、RGDペプチド(直鎖状または環化)、それらの誘導体およびそれらのアナログ(例えば:オクテオトレート(octeotrate)ペプチド、ソマトスタチンのアナログ、ボンベシン、ニューロテンシン、EGF、VIPなどのアナログ);タンパク質、抗体、それらの誘導体またはそれらのアナログ;グルコースのような単糖類、オリゴ糖類、多糖類、それらの誘導体およびそれらのアナログ;オリゴヌクレオチド、DNA、それらの誘導体およびそれらのアナログ;ターゲティング活性が関心ある領域の細胞表面において過剰発現する受容体によるこれらのリガンドの分子認識による、葉酸エステル、ビスホスフォネートパミドロネートおよび有機金属錯体のような有機分子のようなある細胞を特異的に標的とすることができる生物学的リガンド;
【0069】
ii)所定の生物活性、例えば酵素活性のためのラベルである生物学的リガンド。そのようなリガンドの例として、例えば、ラベルの蛍光の阻害剤がグラフトされる末端において所定のプロテアーゼにより切断され得るペプチドが挙げられる。このタイプのリガンドは、プロテアーゼの酵素活性を特異的に撮像することを可能にする(C.H.Tung、上記)。別の例は、その蛍光の阻害剤からラベルを分離するジサルファイドブリッジを含む生物学的リガンドである。そして、そのような生物学的リガンドにより、例えば、特許出願FR 2 888 938で記載されるように、細胞における光学プローブの内在化を特異的に撮像することが可能となる。
【0070】
グラフト補助界面活性剤CoTAへの生物学的リガンドのカップリングは、乳化の前かまたは乳化の後のいずれかに行われ得る。後者の場合、採用される化学反応が、エマルジョンのコロイド安定性と共存できることが必要である。それらは、過度に酸性でもなく過度に塩基性でもないpH(pH5〜11)で、水性溶液中において特に行われるべきである。
【0071】
本発明によるエマルジョンの連続相は、水性相であり、好ましくは、水および/またはリン酸緩衝液、例えば、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)のような生理学的に許容される緩衝液あるいは塩化ナトリウム溶液で構成される。
【0072】
本発明によるエマルジョンは、エマルジョンを調製するための当業者に知られたあらゆる通常の方法、例えば、次の工程を含む方法によって調製され得る:
a)溶媒の蒸発後に、分散相のための均質な油性プレミックスを得るように、例えば、クロロホルムのような有機溶媒中に種々の生体適合性の油性成分を混合することからなる、エマルジョンの分散相のための油性プレミックスの調製。ドナー蛍光ラベルおよび/またはアクセプターラベルが親油性でかつ油滴中にカプセル化できるとき、それらはこの油性プレミックスに加えられ、均質に混合される。可溶化脂質も油性プレミックスに、ラベルと同時かまたは別々のいずれかで加えられる。ドナー蛍光ラベルおよび/またはアクセプターラベルが、両親媒性であり、かつ油相中での十分な溶解性を有するとき、それらはこの工程a)に統合される;
【0073】
b)水性相において、好ましくは高温の状況下で、少なくとも1つの両親媒性界面活性剤、および好ましくは少なくとも1つの補助界面活性剤、特にステルス性補助界面活性剤および任意に関心ある生物活性をターゲティングする少なくとも1つのターゲティング剤を混合することによるエマルジョンの連続相の調製。前記ターゲティング剤は、生物学的リガンドに共有結合している親水性部分を有する両親媒性グラフト補助界面活性剤で構成される。ドナー蛍光ラベルおよび/またはアクセプターラベルが、親水性であり、かつ界面活性剤分子、特に両親媒性界面活性剤分子に結合することができるか、または両親媒性であり、油相に低い溶解性を有し、かつ界面活性剤分子に結合することができるとき、それらは調整方法のこの工程b)で加えられる;および
【0074】
c)分散相への連続相の添加および油滴の平均直径が好ましくは10 nmより大きい均質なエマルジョンが得られるまでの得られた混合物の乳化。この乳化は、例えば、4〜10分間、超音波処理機を用いて行われ得る。
【0075】
一般的に:
− ラベルまたはラベル類が親油性であるとき、それらは油性プレミックスに加えられ、エマルジョンが形成されるとすぐに油滴中にカプセル化されるであろう;
− ラベルまたはラベル類が親水性であるとき、それらは水性の連続相に加えられ、最終のエマルジョン中で界面活性剤分子に結合するであろう;そして
− それらが両親媒性であるとき、それらが最も可溶性である相によって、油相または水性の連続相に加えられる。もしそれらが十分な親油性を有すれば、それらの油相での良好な溶解性のために、油相に加えられるとき、エマルジョンが形成されるとすぐにエマルジョンの油滴中にカプセル化されるであろう;あるいは、それらは、それらの親油性部分により油滴の膜に結合するであろう、一方、それらの親水性部分は界面活性剤の層中に存在するであろう。
【0076】
1つの特定の実施態様によれば、エマルジョンの油相が少なくとも1つの植物油もしくは動物油またはC8〜C18の脂肪酸グリセリドに富む少なくとも1つの結晶性油で構成されるとき、エマルジョンを安定化するために用いられる界面活性剤は、上記の工程b)の間に分散相へ完全にまたは部分的に組み込まれ得る。この実施態様は、本発明によるエマルジョンの調製の間のリポソーム形成を防ぐことを可能とし、前記界面活性剤が大豆レシチンであるときに特に有利である。
【0077】
エマルジョンの使用の前に、該エマルジョンを、例えば、50/50に希釈し、例えば、濾過により滅菌することが好ましい。さらに、この濾過工程により、エマルジョンの調製の間に形成されたかもしれない凝集物を除去することが可能となる。
【0078】
上で十分に記載および説明したように、本発明による蛍光エマルジョンは、インビボまたはインビトロで関心ある活性を検出するために特に用いられ得る。
それゆえ、本発明の第2の主題は、本発明によりかつ上記の少なくとも1つの蛍光エマルジョンを含むことを特徴とする、関心ある活性をモニターするためのラベル化試薬である。
本発明の1つの特定の好ましい実施態様によれば、該試薬はインビボの診断試薬である。
【0079】
最後に、本発明の主題は、蛍光イメージングおよび特に時間分解蛍光(パルス蛍光)イメージングによりインビボで関心ある活性をモニターするための、ならびに/または薬物のような治療用手段の開発および最適化に役立つためのラベル化試薬の製造のための上記の少なくとも1つの蛍光エマルジョンの使用である。実際に、そのような試薬は:
- 蛍光イメージングにより、好ましくは非侵襲的蛍光イメージングにより、動物、任意にヒトにおける癌性細胞の検出;
- 蛍光イメージングにより、好ましくは非侵襲的蛍光イメージングにより、動物、任意にヒトにおけるアテローム斑の検出;
【0080】
- 蛍光イメージングにより、好ましくは非侵襲的蛍光イメージングにより、動物、任意にヒトにおける神経変性疾患に特徴的なβ-アミロイド線維の検出;
- 蛍光イメージングにより、好ましくは非侵襲的蛍光イメージングにより、動物、任意にヒトにおける酵素的過程のインビボモニタリング;
- 蛍光イメージングにより、好ましくは非侵襲的蛍光イメージングにより、動物における遺伝子発現のインビボモニタリング;
- 蛍光イメージングにより、好ましくは非侵襲的蛍光イメージングにより、動物における治療の評価;あるいは
- ホスト媒体における、薬物または関心ある活性成分もしくは物質の生体内分布、それらの調節された送達、およびそれらの有効性のモニタリング
を可能にする。用語「ホスト媒体」は、意図されたターゲットへの分布もしくは送達がモニターされ得る、ヒト、動物、植物またはその他のあらゆる合成もしくは天然の媒体を意味すると理解される。
【0081】
しかしながら、本発明のエマルジョンは、ナノエマルジョンの性質、例えばそれらが破壊される瞬間またはそれらがラベルを放出する速度を測定するために、例えばナノエマルジョンを研究するためのような多くのその他の適用にも用いられ得る。
本エマルジョンが、ヒトまたは動物の組織における光学蛍光イメージングに用いられるとき、ドナー蛍光ラベルは、640〜900 nmの間の波長範囲で放出および吸収しなければならず、そして、アクセプターラベルはこの同じ範囲で吸収しなければならない。アクセプターそれ自身が蛍光性であるとき、それはこの波長範囲で放出しなければならない。さらに、この場合、好ましくは、油滴は両端を含んで10〜200 nmの間の平均直径を有する。
【0082】
その他の場合において、もちろん、ラベルの放出および吸収の波長は、特定のホスト媒体によって決定され得る。
本発明のエマルジョンの使用は、多くの利点を与える。
【0083】
先ず第1に、それは、アクセプターラベルの蛍光をホスト媒体の自己-蛍光がより低い波長範囲にシフトすることによって、蛍光ラベルの非存在下で起こるホスト媒体の自己-蛍光による偽性シグナルを低くすることを可能にする。
このようにして、所望のシグナル/偽性シグナルの比が改善される。
したがって、多重化を行うために、異なった情報を得ること、すなわち、特定の領域を異なってラベルすることが可能となる。
【0084】
このことを行うために、ドナー蛍光ラベルのみを含む第1のエマルジョン、ならびにドナー蛍光ラベルおよび適当なアクセプター蛍光ラベルが含まれるエマルジョンが注入されるだろう。2つのフィルターのセットで撮像を明らかにすることで、種々のエマルジョンが蓄積しているそれぞれの領域を表示することが可能となる。ドナー蛍光ラベルからの蛍光のみが存在する領域が、対応するエマルジョンの蓄積に対応し、一方、アクセプターラベルからの蛍光のみが見られる領域が、ドナー蛍光ラベルおよびアクセプターラベルを含むエマルジョンの蓄積の領域に対応する。ラベルは2つのラベルに共通する吸収領域中の同じレーザーで励起され得るか、あるいは、それらは、一方はドナー蛍光ラベルのみを、他方はアクセプターラベルのみを励起するように2つの異なる波長で励起され得る。さらに、このことは、アクセプターラベルの蛍光のみが見られる領域を表示することを可能にする。ラベルのそれぞれの特異性により、得られる情報は相補的である。
【0085】
物質または薬物の送達をモニターするため、例えば物質または薬物にラベルの1つを結合することが可能であり、この薬物または物質に結合したラベルが、油滴中に他のラベルと一緒にカプセル化される。
薬物(もしくは物質)またはフリーのラベルが小滴から離れるとき、ドナー蛍光ラベルの蛍光が再び現れる。
しかしながら、各成分−薬物もしくは物質、ドナー蛍光ラベルおよびアクセプターラベル−に対して、油滴内、界面活性剤により直接または間接的に油滴膜に結合しているの3つの配置が可能である。
【0086】
これらの適用全てに対して、好ましいドナー蛍光ラベル/アクセプターラベルのペアは、DiR/ICGのペアである。該ドナー蛍光ラベルは、1,1'-ジオクタデシル-3,3,3',3'-テトラメチルインドトリカルボシアニン アイオダイド(DiR)であり、それは親油性あり、該アクセプターラベルは、インドシアニングリーン(ICG)であり、それは両親媒性である。このペアによって、80%を超える高いFRET効率が得られる。
【0087】
本発明のエマルジョンへ導入のための別の特に好ましい好適なペアは、DiD/DiRのペアである。
このペアにおいて、ドナー蛍光ラベルは、1,1'-ジオクタデシル-3,3,3',3'-テトラメチルインドジカルボシアニン過塩素酸塩(DiD)であり、それは親油性あり、アクセプターラベルは、1,1'-ジオクタデシル-3,3,3',3'-テトラメチルインドトリカルボシアニン アイオダイド (DiR)であり、それもまた親油性である。
【0088】
ピコ秒レーザーを用いて、635 nmでDiR蛍光体を励起することにより、および時間の関数として蛍光を記録することにより、DiDからDiRへのエネルギー移動が明らかにされる。
ドナー蛍光ラベルおよびアクセプターラベルのそれぞれの濃度に関しては、これらの濃度が少なくとも互いに等しくなければならないことは、当業者に明確であろう。
しかしながら、2つのラベルの接近をさらに改善するため、およびアクセプターラベルそれ自身が蛍光ラベルであるとき、アクセプターラベルの蛍光シグナルを増加するためにも、本発明のエマルジョンにおいて、ドナー蛍光ラベルの濃度より10〜20倍のアクセプターラベル濃度を用いることが好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの油相の小滴が分散されている、少なくとも1つの水性の連続相を含み、該油相の小滴が界面活性剤の層により安定化されている、
− 波長λ1で吸収し、λ1と異なる波長λ2で放出するドナー蛍光ラベル、およびドナー蛍光ラベルの放出波長λ2で吸収するアクセプターラベルから形成される、互いに異なる少なくとも1対のラベルを含むこと;
− ドナー蛍光ラベルおよびアクセプターラベルが、油相小滴中にそれらの1つをカプセル化すること、および油相小滴/水相の界面にそれらの他方を結合するか、または油相小滴中にそれらの他方をカプセル化することのいずれかにより、密接して保たれること;および
− それが少なくとも1つの両親媒性界面活性剤および少なくとも1つの可溶化脂質を含むこと
を特徴とする、水中油型蛍光エマルジョン。
【請求項2】
アクセプターラベルが、波長λ1およびλ2と異なる波長λ3を有する光エネルギーの形態で、ドナー蛍光ラベルによって放出される光エネルギーを再放出することを特徴とする、請求項1に記載の蛍光エマルジョン。
【請求項3】
アクセプターラベルが、光エネルギーの形態でドナーラベルによりもたらされる光エネルギーを全く再放出しないかまたはほとんど再放出しない、請求項1に記載の蛍光エマルジョン。
【請求項4】
波長λ1、λ2およびλ3が、両端を含んで640〜900 nmの間であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載の蛍光エマルジョン。
【請求項5】
油相小滴が両端を含んで10〜200 nmの間の平均直径を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1つに記載の蛍光エマルジョン。
【請求項6】
ドナー蛍光ラベルおよびアクセプターラベルが、互いに独立して、親油性または両親媒性であり、それらが油相小滴中にカプセル化されることによって、密接して保たれることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1つに記載の蛍光エマルジョン。
【請求項7】
ドナーラベルまたはアクセプターラベルのいずれかが、両親媒性であり、かつ油相小滴の膜に直接結合することによって、油相小滴/水相の界面に結びつくことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1つに記載の蛍光エマルジョン。
【請求項8】
ドナー蛍光ラベルまたはアクセプターラベルのいずれかが、両親媒性界面活性剤分子に結合することによって、油相小滴/水相の界面に結びつくことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1つに記載の蛍光エマルジョン。
【請求項9】
界面活性剤分子に結合するラベルが、共有結合によってこれらの界面活性剤分子に結合することを特徴とする、請求項8に記載のエマルジョンの使用。
【請求項10】
両親媒性界面活性剤分子に結合するラベルが、ジサルファイドブリッジまたはペプチドブリッジまたはヒドラゾン結合によって、これら両親媒性界面活性剤分子に結合することを特徴とする、請求項8に記載の蛍光エマルジョン。
【請求項11】
ドナー蛍光ラベルが1,1'-ジオクタデシル-3,3,3',3'-テトラメチルインドジカルボシアニン過塩素酸塩(DiD)であり、アクセプターラベルが1,1'-ジオクタデシル-3,3,3',3'-テトラメチルインドトリカルボシアニン アイオダイド(DiR)であることを特徴とする、請求項6に記載の蛍光エマルジョン。
【請求項12】
ドナー蛍光ラベルが1,1'-ジオクタデシル-3,3,3',3'-テトラメチルインドトリカルボシアニン アイオダイドであり、アクセプターラベルがインドシアニングリーン(ICG)であることを特徴とする、請求項6に記載の蛍光エマルジョン。
【請求項13】
ホスト媒体中の関心ある薬物または物質の送達をモニターするためのラベル化試薬を製造するための、請求項1〜11のいずれか1つに記載の蛍光エマルジョンの使用。
【請求項14】
ラベル化試薬が、請求項1〜12のいずれか1つに記載のエマルジョン、および油相小滴中にカプセル化された関心ある薬物または物質を含むことを特徴とする、ホスト媒体中の関心ある薬物または物質の送達をモニターするためのラベル化試薬。
【請求項15】
ラベル化試薬が、請求項1〜12のいずれか1つに記載のエマルジョン、およびドナー蛍光ラベルまたはアクセプターラベルのいずれかに結合した関心ある薬物または物質を含むことを特徴とする、ホスト媒体中の関心ある薬物または物質の送達をモニターするためのラベル化試薬。
【請求項16】
光学蛍光イメージング用のラベル化試薬を製造するための、請求項1〜12のいずれか1つに記載の蛍光エマルジョンの使用。

【公表番号】特表2011−530577(P2011−530577A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522565(P2011−522565)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【国際出願番号】PCT/IB2009/006766
【国際公開番号】WO2010/018460
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(510120333)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
【住所又は居所原語表記】25, rue Leblanc, Batiment  Le Ponant D , 75015 PARIS, France
【Fターム(参考)】