説明

蛍光ラベル化した心筋炎惹起性細胞株の樹立および自己免疫性心筋炎の病態解明への応用

【課題】蛍光蛋白質発現によりラベル化された心筋炎惹起性T細胞株を作製すること、ま
た、これを用いて自己免疫性心筋炎を発症したモデル動物を作製し、動物体内での蛍光ラ
ベル化T細胞の動態や心臓局所での病態形成を検討することにより、自己免疫性心筋炎の
病態解明に有用な手段を提供すること。
【解決手段】蛍光蛋白質発現トランスジェニック動物、特にGFP 発現トランスジェニック
ラットを心筋ミオシンペプチドで免疫し、この動物の体内で産生されたリンパ球を採取し
、心筋ミオシンの存在下で継代培養することにより蛍光蛋白質、特にGFP 発現により蛍光
ラベル化された心筋炎惹起性T細胞株を得ることができる。また、この蛍光ラベル化心筋
炎惹起性T細胞株を用いて、ラットなどの動物に心筋炎を発症させることができるため、
心筋炎発症モデル動物として、自己免疫性心筋炎の病態解明の手段を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光蛋白質発現によりラベル化された心筋炎惹起性細胞株、および該細胞株
の樹立方法、並びに該細胞株を用いて作製した自己免疫性心筋炎を発症した動物、および
該動物を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
拡張型心筋症(DCM) は、我が国での心移植レシピエントの大部分を占める致死的疾患で
ある。ドナーの絶対的不足という背景と絡め、病態解析およびこれに基づく特異的治療の
開発が社会的な急務である。 その主要な発症機序として、自己免疫性病態が論ぜられてき
た。Kodamaらは心筋特異的蛋白である心筋ミオシンに着目し、同蛋白免疫によるラット自
己免疫性心筋炎モデル(EAM) (非特許文献1) を開発した。このモデルはTリンパ球によ
る細胞性免疫が病態を形成し、反復免疫により拡張型心筋症を形成する。これまで自己抗
体を中心とする液性免疫が主病因論をなしていたが、このモデルの登場によりDCM におけ
る細胞性免疫が重要視されるに至った。
【0003】
実験的自己免疫性心筋炎 (EAM)は、健常ラットへの心筋炎惹起性T細胞株 (MTL)の移注
により再現される (tEAM:transfer EAM) 。しかし、MTL 移注後の体内動態や心臓局所で
の病態形成に関する検討は乏しい。病変惹起を担う免疫細胞の挙動を探索するには、標的
細胞のラベル化が不可欠である。ラベル化にはGFP など蛍光タンパクの遺伝子導入法が有
効であるが、非腫瘍性T細胞への遺伝子導入に関する報告は極めて乏しく、各種ウイルス
ベクター系や電気穿孔法、遺伝子銃などを用いても心筋炎惹起性T細胞への遺伝子導入を
行うことはできなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Kodama M et al, Circ. Res. 1991, 69:1042-1050
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、蛍光蛋白質発現によりラベル化された心筋炎惹起性T細胞株を作製す
ること、また、これを用いて自己免疫性心筋炎を発症したモデル動物を作製し、動物体内
での蛍光ラベル化T細胞の動態や心臓局所での病態形成を検討することにより、自己免疫
性心筋炎の病態解明に有用な手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、GFP 発現トランスジェニックラットを心筋ミオシンペプチドで免疫し、
この動物の体内で産生されたリンパ球を採取し、心筋ミオシンの存在下で継代培養するこ
とによりGFP 発現により蛍光ラベル化された心筋炎惹起性T細胞株 (セルライン) を樹立
できることを見出した。また、この蛍光ラベル化心筋炎惹起性T細胞株を用いて、ラット
に心筋炎を発症させることができることも見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は以下の通りである。
1.蛍光蛋白質発現によりラベル化された心筋炎惹起性T細胞株。
2.蛍光蛋白質が緑色蛍光蛋白質(GFP)である上記1記載の心筋炎惹起性T細胞株。

3.心筋ミオシンに特異的に反応するT細胞からなる上記1または2記載の心筋炎惹起性
T細胞株。
4.下記工程を含む、請求項1記載の心筋炎惹起性T細胞株の樹立方法:
(1) 蛍光蛋白質発現トランスジェニック動物に心筋ミオシンペプチドを接種する工程、
(2) 免疫された動物より、蛍光蛋白質を発現しているリンパ節細胞を採取し、該細胞を心
筋ミオシンペプチド含有培地中に静置する工程、
(3) 活性化細胞を分離し、この細胞をサイトカイン含有培地において増殖させ、細胞の増
殖が静止するところまで静置する工程、
(4) 上記(3) で得られる細胞と、動物の胸腺由来の抗原提示細胞とを、心筋ミオシンペプ
チド含有培地中に静置し、心筋ミオシンペプチドに特異的に反応する細胞を増殖させる工
程、
(5) 上記(3) および(4) の工程を繰り返し、継代培養を行う工程。
5.工程(1) における蛍光蛋白質発現トランスジェニック動物が、GFP発現トランスジ
ェニック動物である、上記4記載の心筋炎惹起性T細胞株の樹立方法。
6.上記1記載の心筋炎惹起性T細胞株を、抗原提示細胞と共に心筋ミオシンで抗原刺激
した後、活性化T細胞を採取し、この細胞をヒトを除く動物に移注することにより、蛍光
ラベル化T細胞を含む、心筋炎を発症した動物(ヒトを除く)を作製する方法。
7.蛍光ラベル化T細胞がGFP発現T細胞である、請求項6記載の作製方法。
8.上記6または7記載の方法により作製された、蛍光ラベル化T細胞を含む心筋炎発症
モデル動物としての、ヒトを除く動物。
9.ラットまたはマウスである上記8記載の動物。
10.自己免疫性心筋炎の病態解明のための、上記8または9記載のヒトを除く動物の使
用。
11.蛍光蛋白質発現心筋炎惹起性T細胞株を、抗原提示細胞と共に心筋ミオシンペプチ
ドで抗原刺激した後、活性化T細胞を採取し、この細胞をヒトを除く動物に移注すること
により、ヒトを除く動物に心筋炎を発症させる方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、これまで蛍光蛋白質の遺伝子導入ができなかった心筋炎惹起性T細胞に
ついて、蛍光蛋白質発現による標識が可能となり、得られた蛍光標識T細胞を用いて自己
免疫性心筋炎を発症したモデル動物を作製することが可能となった。この心筋炎発症モデ
ル動物においては、移注した心筋炎惹起性T細胞が蛍光ラベル化されており、その体内動
態や心臓局所での病態形成を検討することができるため、自己免疫性心筋炎の病態解明に
有用な手段となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】GFP発現心筋炎惹起性T細胞株(GFP-MTL)の細胞特性を示す図である。Aは、継代培養中の共焦点レーザー顕微鏡で緑色蛍光が確認できたことを示す。Bは、フローサイトメトリー法による検索の結果を示す図である。Cは、心筋ミオシンペプチド (CM2)またはConcanavalin A (ConA) 存在下での3Hサイミジン取り込みによる細胞増殖試験の結果を示す。
【図2】GFP発現心筋炎惹起性T細胞株(GFP-MTL)移注によるtEAMを示す図である。Aは、移注7日目の心臓肉眼所見であり、Bは、移注7日目の心筋組織の顕微鏡学的所見であり、Cは、移注7日目の心筋組織の共焦点レーザー顕微鏡での観察所見である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の、蛍光蛋白質発現により蛍光標識された心筋炎惹起性T細胞株 (セルライン)
は、蛍光蛋白質発現トランスジェニック動物、好ましくは緑色蛍光蛋白質(GFP) 発現トラ
ンスジェニック動物から作製する。より詳しくは、蛍光蛋白質発現トランスジェニック動
物を心筋ミオシンペプチドで免疫し、この動物の体内で産生されたリンパ球を採取し、心
筋ミオシンペプチドの存在下で培養することにより、心筋ミオシンに特異的に反応するT
細胞を富化し、継代培養することにより樹立できる。
【0011】
この樹立方法の一例として(1) 〜(4) の工程からなる方法を以下に説明する。
(1) 蛍光蛋白質発現トランスジェニック動物に心筋ミオシンペプチドを接種する工程。
蛍光蛋白質発現トランスジェニック動物としては、緑色蛍光蛋白質 (GFP)を発現す
るトランスジェニック動物、例えばGFP発現トランスジェニックラットやマウスが挙げ
られる (Okabe M. et al., FEBS Lett.407:313-319 (1997))。特に、Lew-Tg (CAG-EGFP)
の名称で分譲されているラットが入手の容易さから好適であり、このラットはほぼ全身の
組織細胞においてCAG プロモーターによりEGFPを発現し、励起光の照射により緑色蛍光を
出す。また、GFP発現トランスジェニック動物は、GFPcDNAを発現プラスミドに挿入
し、ラット受精卵に注入することにより作製することもできる。より詳しくは、pEGFP ベ
クターからのGFPcDNA をpCAGGS発現プラスミドに挿入し、Lewis ラットの受精卵に注入し
、トランスジェニックラットLew-Tg (CAG-EGFP) を作成することができる (Inoue H., et
al., Biochem Biophsy Res Commun, 2005) 。
【0012】
心筋ミオシンは動物に接種して実験的自己免疫性心筋炎を起こしうることが知られてお
り、心筋ミオシンのアミノ酸配列や抗原性を有する部分の配列に関しても既知であるので
、抗原性を有する部分ペプチドを適宜使用すればよい。例えば、ミオシンのaa.1539-1555
(Acetyl-KLELQSALEEAEASLEH-CONH2) の配列を有するペプチド (Wegmann KW, et al. J I
mmunol 1994; 153:892-900.)が例示できる。
【0013】
上記蛍光蛋白質発現トランスジェニック動物に、心筋ミオシンペプチドを必要に応じて
アジュバントと共に接種する。接種部位、接種方法は特に制限されないが、ラットやマウ
スに接種する場合は足底や尾基部に皮下接種するのが好ましい。
(2) 免疫された動物より、蛍光蛋白質を発現しているリンパ節細胞を採取し、該細胞を心
筋ミオシンペプチドを含有する培地中に静置する工程。
【0014】
心筋ミオシン接種後の動物の体内にミオシンに反応するリンパ球が産生されてから、例
えば接種9〜12日後に腋窩、膝窩または大腿リンパ節を摘出する。リンパ節より任意の方
法でリンパ節細胞を採取する。この際に、細胞が緑色蛍光を発光することを共焦点レーザ
ー顕微鏡などで確認しておく。採取したリンパ節細胞を心筋ミオシンペプチドを含有する
培地中に37℃、10%CO2 で数日間静置して、ミオシンペプチドという単一抗原に反応する
細胞のみに選択をかける。使用する心筋ミオシンペプチドは上記(1) の工程で使用するも
のと同じでよい。
(3) 活性化細胞を分離し、この細胞をサイトカイン含有培地において増殖させ、細胞の増
殖が静止するところまで静置する工程。
【0015】
上記(2) において得られた細胞から、NycoprepTMなどを重層液として用いる重層遠心法
などにより活性化細胞 (活発な増殖能を有する細胞) を分離し、サイトカイン含有培地で
37℃・10%CO2 条件下で増殖させる。サイトカイン含有培地としては、インターロイキン
-2 (IL-2) を主体とするサイトカイン含有培地であれば特に限定されないが、例えば、マ
ウス脾臓からの細胞浮遊液を、2.5g/mL Concanavalin Aを添加したR-medium (rat serum
に代わりmouse serum 使用) を用い、37℃・10%CO2 条件下で1昼夜静置させ得られた上
清であるCon A supernatent を含むTCGF-medium が好ましく使用できる。
【0016】
細胞増殖後、適宜細胞分割しながら、細胞の増殖が静止する、具体的には、細胞の形態
が大型円形から小型米粒様に変化するまで静置する。なお、液体窒素を用いての細胞凍結
保存は、この時相で行う。
(4) 上記(3) で得られる細胞と、動物胸腺由来の抗原提示細胞とを、心筋ミオシンペプチ
ド含有培地中に静置し、心筋ミオシンペプチドに特異的に反応する細胞を増殖させる工程

【0017】
抗原提示細胞としては、正常動物の胸腺由来のものが好ましく、例えば、naive Lewis
ラットから取り出した胸腺を金属メッシュ擦過し、5000rad の照射と洗浄を行ったものが
使用できる。抗原提示細胞と、3)で得られた細胞を1/20数前後用いる。通常、1×108
照射下胸腺細胞と5×106 のリンパ球培養細胞を混和する。細胞の混和物を、心筋ミオシ
ンペプチドを例えば25μg/mL を添加したR-mediumを用い、37℃・10%CO2 条件下で数日
静置させる。使用する心筋ミオシンペプチドは上記(1) の工程で説明した通りである。
(5) 上記(3) および(4) の工程を必要細胞数が得られるまで繰り返し、継代培養を行う工
程。
【0018】
上記のようにして樹立された蛍光蛋白質発現心筋炎惹起性T細胞は、蛍光ラベルされた
CD4 陽性T細胞であり(図1Aおよび1B参照)、心筋ミオシンに対して特異的な免疫原
性を有する(図1C参照)。蛍光蛋白質としてGFPを用いた場合、得られるT細胞は、
GFPにより緑色蛍光ラベルされている。
【0019】
このようにして得られた蛍光蛋白質発現心筋炎惹起性T細胞株を用いてラットやマウス
などの動物に、蛍光蛋白質を発現していない心筋炎惹起性T細胞と同様、自己免疫性心筋
炎を発症させることができる。これは後述の実施例2において実証されている。
【0020】
動物に心筋炎を発症させるには、蛍光蛋白質発現T細胞を、抗原提示細胞と共に心筋ミ
オシンペプチドで数日抗原刺激した後、例えば重層遠心法で中間層細胞として分離・採取
した活性化T細胞を、PBS 等に浮遊させ、これを動物に移注する。ラットやマウスの場合
は尾静脈から移注するのが好ましい。心筋炎の惹起に必要な細胞数は、通常5×106 〜2
×107 個/匹、好ましくは1×107 個/匹である。細胞の移注3〜5日目以降に心筋炎が
発症する。細胞移注後により3日目には肺臓と腸管膜リンパ節に蛍光ラベル化T細胞が認
められ、心臓組織内には5日目から出現した。すなわち、蛍光ラベル化T細胞は細胞移注
後一定のタイムラグをおいて心臓への浸潤をきたす。一方、蛍光ラベル化T細胞の心臓内
への浸潤は7日目をピークに減少へと転ずるが、心臓組織そのものの炎症細胞浸潤は増悪
傾向を続け、その構成の主体は蛍光蛋白質陰性のCD4 陽性T細胞 (ホスト由来細胞) であ
った (図2C参照) 。このように、心筋炎を構成するCD4 陽性細胞について、移注細胞と
ホスト由来細胞とを容易に見分けることができる。
【0021】
本発明によれば、蛍光蛋白質発現ラットを心筋炎惹起性T細胞株樹立のソースとして用
いることで、心筋炎惹起性T細胞のラベル化が可能となった。ラベル化細胞の活用により
、病相を変えることなくtEAMの病態解析へと応用できる。将来的には、免疫細胞の挙動を
顕微鏡下のライブ映像で捉えることが可能となり、長らく直接の観察が不可能であった心
臓組織での炎症動態の病因解明に繋がる。
【0022】
以下に本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらにより制限されるもの
ではない。
【実施例1】
【0023】
GFP発現心筋炎惹起性細胞株 (GFP-MTL)の樹立
1) 5週齢Lew-Tg (CAG-EGFP) ラットa)の足底もしくは尾基部に、心筋ミオシンペプチドaa
.1539-1555 (CM2)b)/ 完全フロイントアジュバント混和物を皮下注した。9-12日後に腋窩
、膝窩または大腿リンパ節を摘出した。
【0024】
a) Inoue H, et al. Biochem Biophys Res Commun 2005;329:288-95.
b) Acetyl-KLELQSALEEAEASLEH-CONH2 (Wegmann KW, et al. J Immunol 1994; 153:892-
900.) .
2)金属メッシュ擦過にてリンパ節細胞浮遊液を作成し、同細胞が共焦点レーザー顕微鏡で
緑色蛍光することを確認した。細胞浮遊液の洗浄を繰り返したうえでCM2 5μg/mLを添加
したR-mediumc)を用い、37℃・10%CO2 で2-3 日間静置させた。
【0025】
c) 94% DMEM, 1% L-glutamine, 1% MEM non-essential amino acid, 1% penicillin-st
reptomycin, 1% sodium pyruvate, 1% asperagine, 0.0004% β-mercaptoethanol, 1% r
at serum.
3) Nycoprep TMを重層液として用い、重層遠心法にて中間層に分離された細胞を採取した
。これをTCGF-medium d)内で37℃・10%CO2 条件下にて細胞増殖をさせ、適宜細胞分割し
ながら計5日前後静置させた。この際、細胞は大型円形から小型米粒様に経時的に変化し
た。
【0026】
d) 75% DMEM, 1% L-glutamine, 1% MEM non-essential amino acid, 1% penicillin-s
treptomycin, 1% sodium pyruvate, 1% asperagine, 0.0004% β-mercaptoethanol, 10%
horse serum, 10% Con A supernatent* .
*マウス脾臓からの細胞浮遊液を、2.5 μg/mL Concanavalin Aを添加したR-medium (ra
t serum に代わりmouse serum 使用) を用い、37℃・10%CO2 条件下で1 昼夜静置させ得
られた上清。
4) naive Lewisラットから取り出した胸腺を金属メッシュ擦過し、5000rad の照射と洗浄
を行ったうえで抗原提示細胞(APC) として用いる。1×108 の照射下胸腺細胞と5×106
のリンパ球培養細胞を5cm/5mL 培養皿に混和し、CM2 5μg/mL を添加したR-mediumを用
い、37℃・10%CO2 条件下で2日間静置させた。
5) 3)4) のステップを必要細胞数が得られるまで継代培養を繰り返した。
【0027】
(結果)
図1はGFP-MTL の細胞特性を示す図であり、図1Aは継代培養中にも共焦点レーザー顕
微鏡で緑色蛍光が確認可能であったこと、図1Bはフローサイトメトリー法による検索で
は、GFP+CD4+細胞であったこと、図1Cは 3Hサイミジン取り込みによる細胞増殖試験で
は、従来MTL と同様CM2 に抗原特異性を呈したことを示す。
【0028】
従って、樹立されたGFP-MTL は、GFP による緑色蛍光ラベルされたCD4 陽性T細胞であ
り (図1A、B) 、CM2 に特異的な免疫原性を有する (図1C) 。
【実施例2】
【0029】
GFP-MTLを用いたtEAMの作成
1)GFP-MTL をAPC とともにCM2 5μg/mL で2日間抗原刺激した後、重層遠心法で分離・
採取した中間層細胞 (活性化GFP-MTL)をPBS に浮遊させ、naive Lewis ラットの尾静脈か
ら移注させた。tEAMの惹起には、1×107 / 匹の細胞数を用いた。
2) GFP-MTL細胞移注3-5 日目以降に、心筋炎が発症した。
【0030】
(結果)
1) GFP-MTLは尾静脈からの細胞移注により、naive ラットに自己免疫性心筋炎を発症させ
た (図2A、B) 。これは、naive ラットのリンパ節細胞から樹立した細胞株 (従来MIT)
で惹起させた心筋炎 (従来tEAM) に比して、臨床像の差異はなかった (心筋炎マクロスコ
ア: 2.0 ±0.7 vs. 1.2 ±0.4, NS)。
2) GFP-MTL細胞移注により3日目には肺臓と腸管膜リンパ節にGFP-MTL が認められ、心臓
組織内には5日目からGFP-MIT が出現した。すなわち、GFP-MTL は細胞移注後一定のタイ
ムラグをおいて心臓への浸潤をきたす。一方、GFP-MTL の心臓内への浸潤は7日目をピー
クに減少へと転ずるが、心臓組織そのものの炎症細胞浸潤は増悪傾向を続け、その構成の
主体はGFP 陰性のCD4 陽性T細胞 (ホスト由来細胞) であった (図2C) 。このように、
心筋炎を構成するCD4 陽性細胞について、移注細胞とホスト由来細胞とを容易に分離する
ことが可能であった。
【0031】
図2はGFP-MTL 移注によるtEAMを示し、詳しくは、Aは移注7日目の心臓肉眼所見であ
り、心筋炎像として、心臓表面に粟粒様の白色調変化が散在することが分かる。これは、
従来tEAMでの肉眼像と酷似していた。Bは移注7日目の心筋組織の顕微鏡学的所見であり
、巣状の炎症細胞浸潤が散在し、高度な心筋線維の融解が見られた。炎症細胞は小円形細
胞と組織球、好中球で構成された。これは、従来tEAMでの心筋組織像と酷似していた。C
は移注7日目の心筋組織の共焦点レーザー顕微鏡での観察所見であり、CD4 陽性細胞 (赤
色発現;PEラベル抗体) は炎症巣の広範を占めたが (右上) 、GFP 陽性細胞 (緑色発現)
は少数かつ (左上)CD4共陽性 (黄色発現) であった (左下) 。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光蛋白質発現によりラベル化された心筋炎惹起性T細胞株。
【請求項2】
蛍光蛋白質が緑色蛍光蛋白質(GFP)である請求項1記載の心筋炎惹起性T細胞株。
【請求項3】
心筋ミオシンに特異的に反応するT細胞からなる請求項1または2記載のT細胞株。
【請求項4】
下記工程を含む、請求項1記載の心筋炎惹起性T細胞株の樹立方法:
(1) 蛍光蛋白質発現トランスジェニック動物に心筋ミオシンペプチドを接種する工程、
(2) 免疫された動物より、蛍光蛋白質を発現しているリンパ節細胞を採取し、該細胞を心
筋ミオシンペプチド含有培地中に静置する工程、
(3) 活性化細胞を分離し、この細胞をサイトカイン含有培地において増殖させ、細胞の増
殖が静止するところまで静置する工程、
(4) 上記(3) で得られる細胞と、動物胸腺由来の抗原提示細胞とを、心筋ミオシンペプチ
ド含有培地中に静置し、心筋ミオシンペプチドに特異的に反応する細胞を増殖させる工程

(5) 上記(3) および(4) の工程を繰り返し、継代培養を行う工程。
【請求項5】
工程(1) における蛍光蛋白質発現トランスジェニック動物が、GFP発現トランスジェ
ニック動物である、請求項4記載の心筋炎惹起性T細胞株の樹立方法。
【請求項6】
請求項1記載の心筋炎惹起性T細胞株を抗原提示細胞と共に心筋ミオシンで抗原刺激し
た後、活性化T細胞を採取し、この細胞をヒトを除く動物に移注することにより、蛍光ラ
ベル化T細胞を含む、心筋炎を発症した動物(ヒトを除く)を作製する方法。
【請求項7】
蛍光ラベル化T細胞がGFP発現T細胞である、請求項6記載の作製方法。
【請求項8】
請求項6または7記載の方法により作製された、蛍光ラベル化T細胞を含む心筋炎発症
モデル動物としての、ヒトを除く動物。
【請求項9】
ラットまたはマウスである請求項8記載の動物。
【請求項10】
自己免疫性心筋炎の病態解明のための、請求項8または9記載のヒトを除く動物の使用

【請求項11】
蛍光蛋白質でラベル化した心筋炎惹起性T細胞株を抗原提示細胞と共に心筋ミオシンで
抗原刺激した後、活性化T細胞を採取し、この細胞をヒトを除く動物に移注することによ
り、ヒトを除く動物に心筋炎を発症させる方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−155949(P2011−155949A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22369(P2010−22369)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【Fターム(参考)】