説明

蛍光体混合物の分離方法

【課題】磁化率が異なる複数種類の蛍光体微粉末からなる混合物から、効率的に蛍光体を分離する方法を提供する。
【解決手段】磁化率の異なる複数種類の蛍光体からなる混合物を分散媒に分散させて作製した混合液140を、処理管100内に入れ、この混合液中に強磁性材料で形成されたフィルタ102を位置させるステップと、フィルタに磁場130を印加した状態で、処理管から混合液を排出して回収するステップと、フィルタを分散媒で洗浄し、この分散媒を回収するステップと、磁場を減少させた状態でフィルタを分散媒で洗浄し、この分散媒を回収するステップとを含み、分散媒は、高分子型分散剤の水溶液に低分子型界面活性剤を添加した溶液であり、回収液を新たな混合液として、各回収ステップを繰返す。微粉末の蛍光体に対してぬれ性の高い分散媒を使用するので、効率的に蛍光体を分離することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、勾配磁場による磁選技術を用いて、磁化率が異なる複数種類の蛍光体微粉末の混合物から、効率的に蛍光体を分離(完全に分離する場合に限らず、特定の蛍光体の純度を高くする精製をも含む)する蛍光体混合物の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体には、希少であり貴重な資源である希土類元素が多量に含まれている。例えば、プラズマディスプレイ及び蛍光ランプに使用される蛍光体にはTb、Eu等の高価な希土類元素が多量に含まれている。表1に示すように各種の蛍光体がディスプレイ用又はランプ用として使用されている。
【0003】
【表1】

【0004】
蛍光ランプ用蛍光体には、青色蛍光体としてBAM及びSCA、赤色蛍光体としてYOX及びYVO、緑色蛍光体としてLAPがある。単体で白色に発光する蛍光体としては、ハロリン酸カルシウム蛍光体(以下、ハロリン酸昼光色蛍光体ともいう)(CoolWhite、WarmWhite、Daylight)がある。ランプとしては、これら3色の蛍光体(青赤緑)を混合して白色を発光する三波長蛍光ランプと、ハロリン酸カルシウム蛍光体を用いた一般色蛍光ランプがある。
【0005】
蛍光ランプの製造工程で生じる蛍光体の廃棄物には、両者のランプが混合している場合がある。また、使用済みの蛍光ランプから回収された蛍光体においては、ハロリン酸カルシウム蛍光体と3色の蛍光体が混合している場合が多い。さらに、青色蛍光体は加熱等によって発光元素であるEu2+がEu3+に劣化するので、青色蛍光体は再利用できない場合がある。これらの理由によって、回収された蛍光体をそのまま利用することは難しい。そのため、複数種類の蛍光体の混合物から、蛍光体を種類ごとに分離することが要望されている。
【0006】
蛍光体を種別分離する方法として、ゼータ電位差を利用して捕集剤を用いて分離する方法(下記特許文献1参照)、水性又は油性溶媒による溶液分離を利用する方法(下記特許文献2参照)、帯電状態を利用する方法(下記特許文献3参照)等が知られている。しかし、これらの方法は分離を目的とする蛍光体ごとに試薬又は装置を変更する必要があり、多種の蛍光体を分離する場合に複雑な処理が必要となる欠点がある。また、これらの分離方法は、表面電位又は吸着特性を利用して分離するものであり、蛍光体の表面状態が製品加工等によって変化した場合には分離できない可能性もある。
【0007】
一方、蛍光体を分離するものでは無いが、高磁場勾配を利用して磁化率の異なる物質を分離する工業的方法として高磁場勾配磁選機を用いた方法が知られている。この方法は磁場中に強磁性のワイヤー、スチールウール等を詰めたカラムを配置してその中に分離対象物を流通させることにより、ワイヤー、スチールウール等に磁性体を付着(以下、磁着ともいう)させて分離する方法である(下記特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−83869号公報
【特許文献2】特開2004−262978号公報
【特許文献3】特開2004−137320号公報
【特許文献4】特開平11−47632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献4に開示されたような高磁場勾配磁選機を蛍光体の分離に適用することが考えられる。その場合、高磁場勾配磁選機は、非磁性体の中から磁性体を吸着して分離することには有効であるが、装置の構造上、微粉末の混合物にはそのまま適用することはできない。即ち、使用済みの蛍光ランプから回収された異種蛍光体の混合物は、微粉末の集合体であるので、ぬれ性が低く金属材料への吸着度が高いこと、また、蛍光体の種類による磁化率の差が小さいために分離効率が悪いことから、蛍光体の種別分離には高磁場勾配磁選機の適用が難しい。
【0010】
したがって、本発明は、磁化率が異なる複数種類の蛍光体微粉末の混合物から、効率的に蛍光体を分離する蛍光体混合物の分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的は、下記によって達成することができる。
【0012】
即ち、本発明に係る蛍光体混合物の分離方法は、磁化率の異なる複数種類の蛍光体からなる混合物を、分散媒中に分散させて混合液を作製するステップと、処理容器内に混合液を入れ、この混合液中に強磁性材料で形成されたフィルタを位置させる設置ステップと、フィルタに磁場を印加した状態で、処理容器から混合液を排出して回収する混合液回収ステップとを含み、分散媒は、高分子型分散剤の水溶液に低分子型界面活性剤を添加した溶液である。
【0013】
好ましくは、混合液回収ステップによる回収液を新たな混合液として、設置ステップ及び混合液回収ステップを繰返す。
【0014】
より好ましくは、蛍光体混合物の分離方法は、混合液回収ステップに続き、磁場を印加した状態でフィルタを分散媒で洗浄し、フィルタの洗浄に使用した分散媒を回収する洗浄ステップをさらに含む。
【0015】
さらに好ましくは、洗浄ステップによる回収液を新たな混合液として、設置ステップ、混合液回収ステップ、及び洗浄ステップを繰返す。
【0016】
好ましくは、蛍光体混合物の分離方法は、印加された磁場を減少させた状態で、フィルタを分散媒で洗浄し、フィルタの洗浄に使用した分散媒を回収する磁着物回収ステップをさらに含む。
【0017】
より好ましくは、磁着物回収ステップによる回収液を新たな混合液として、設置ステップ、混合液回収ステップ、及び磁着物回収ステップを繰返す。
【0018】
さらに好ましくは、蛍光体混合物の分離方法は、混合液回収ステップの前に、混合液中に位置させたフィルタに磁場を印加した状態で、フィルタを振動させるステップをさらに含む。
【0019】
好ましくは、高分子型分散剤は、ポリカルボン酸系高分子分散剤である。
【0020】
より好ましくは、低分子型界面活性剤は、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシアルキレン系非イオン界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、多価アルコール系非イオン性界面活性剤、又は、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウムを含有する中性洗剤である。
【0021】
さらに好ましくは、高分子型分散剤の濃度は0.02%〜3%であり、低分子型界面活性剤の濃度は0.004%〜0.1%である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、蛍光体混合物の分散媒として高分子型分散剤の水溶液に低分子型界面活性剤を添加した溶液を使用するので、蛍光体に対するぬれ性が高く、磁場を減少させた後に蛍光体がフィルタに付着したままになることを抑制することができ、効率的に蛍光体を種類ごとに分離することができる。
【0023】
蛍光体含有分散液の分離処理による回収液を対象として、さらに分離処理を繰返すことによって、特定の蛍光体の純度を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態に係る蛍光体混合物の分離方法に使用する装置の構成の概要を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る蛍光体混合物の分離方法を示すフローチャートである。
【図3】界面活性作用を持つ分散剤と付着性の評価結果とを対応させて示す表である。
【図4】実験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下の実施の形態では、同一の部品には同一の参照番号を付してある。それらの名称及び機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0026】
本実施の形態の分離対象である蛍光体混合物は、使用済みの蛍光ランプをリサイクル処理して回収された微粉末状(粒子径がμmオーダ、例えば10μm以下)の蛍光体の混合物等である。リサイクル処理によって得られた蛍光体は、通常、単一種類の蛍光体ではなく、青色蛍光体、赤色蛍光体、緑色蛍光体、白色蛍光体(ハロリン酸昼光色蛍光体)等の混合物である。したがって、これを再利用するためには、各色の蛍光体に分離することが不可欠である。
【0027】
図1を参照して、本実施の形態に係る蛍光体混合物の分離方法に使用される装置は、処理管100、フィルタ102、磁場発生部104、加振部106、投入部108、投入バルブ110、及び、排出バルブ112を備えている。
【0028】
処理管100は、投入部108から投入される溶液(以下、投入液ともいう)を一時的に収容する。フィルタ102は、強磁性材料で形成され、後述する蛍光体を分散させた分散液が通過可能な構造物(例えば、網目状構造物、繊維状材料の集合体)であり、処理管100内に配置される。フィルタ102は、例えば磁性ステンレス製エキスパンドメタル、ステンレスウール等で形成される。フィルタは、公知の勾配磁場を用いた磁選機においてはマトリックスとも呼ばれる。
【0029】
投入バルブ110は開閉可能であり、開かれた場合、投入液140を処理管100に投入し、閉じられた場合、投入液140の処理管100への投入を停止する。排出バルブ112は開閉可能であり、開かれた場合、処理管100内の液体を排出口から排出する。排出された液体は、回収容器114によって回収される。排出バルブ112が閉じられた場合、排出を停止し、投入された液体は処理管100内に保持される。
【0030】
磁場発生部104は、磁極(ポールピース)120、122と、コイル124、126とを備えている。磁場発生部104は、電源(図示せず)からコイル124、126に所定の電流が供給されると、電流値に応じた強さの磁場をフィルタ102が配置された領域に発生する。磁極120、122は、コイル124、126によって生じる磁場を収束させて、強力な磁場を形成するためのものである。磁極120、122を備えていなくても、所定の強度の磁場を形成できればよい。ここでは、磁場方向130が処理管100に直交する方向になるように磁場が形成されるが、処理管100に沿った方向に磁場を形成する電磁石を使用してもよい。例えば、処理管100を円筒形のソレノイドコイル内に配置してもよい。
【0031】
加振部106は、フィルタ102を振動させるために、処理管100を所定の振動数で振動させる。分離対象の蛍光体の粒子がμmオーダであるので、振動数は超音波等の高周波であることが望ましいが、100Hz以下の振動数であってもよい。
【0032】
本装置を使用した分離処理の概要は次の通りである。蛍光体混合物を所定の分散媒(液体)に分散させて、投入液140を作製する。投入バルブ110を開き、投入部108から投入液140を処理管100に投入する。この状態で、磁場発生部104によって、フィルタ付近に磁場を発生させる。これによって、強磁性材料のフィルタ102が磁化し、周囲に勾配磁場(磁場強度が一様で無く空間的に変化する磁場)を形成する。同時に、蛍光体も磁化するので、蛍光体は勾配磁場によって力を受け、フィルタ102に引き付けられ、フィルタ102に付着する。
【0033】
このとき、加振部106によって処理管100を振動させると、蛍光体の分離効率を上げることができる。蛍光体は、種類によって磁化率が異なるので、フィルタ102への付着強度が異なる。蛍光体の磁化率の例を表2に示す。磁化率の高い蛍光体粒子は、より強固にフィルタ102に付着し、振動を受けてもフィルタ102から離れ難い。一方、磁化率の低い蛍光体粒子は、振動によってフィルタ102に安定して付着できず、フィルタ102から容易に離れ、フィルタ102から遠ざけられる。したがって、フィルタ102を振動させることによって、混合している蛍光体の分離効率を上げることができる。
【0034】
【表2】

【0035】
表2において、各蛍光体の磁化率は、磁場強度が1000Gaussにおける単位質量(1g)当たりの磁化(eum/g)として表されている。なお、表2は一例であり、同じ色の蛍光体であっても、メーカーによって組成が異なることがあり得る。また、同じメーカーであっても、同じ色の蛍光体の組成が型番によって異なることがあり得る。
【0036】
その後、排出バルブ112を開けて、処理管100内の分散液を回収する。蛍光体ごとの回収率(初期に分散液に含まれていた量に対する回収された量の割合)は、磁化率が比較的低くフィルタ102に付着し難い(弱く付着する)蛍光体の値が高く、磁化率が比較的高くフィルタ102に付着し易い(強く付着する)蛍光体の値が低い。また、排出後に処理管100からフィルタ102を取出して、付着している蛍光体を回収すると、その回収率は、磁化率が比較的低くフィルタ102に付着し難い(弱く付着する)蛍光体の値が低く、磁化率が比較的高くフィルタ102に付着し易い(強く付着する)蛍光体の値が高い。したがって、回収された蛍光体混合物を分離対象として、上記の処理を繰返すことによって、混合されている蛍光体を、磁化率に応じて分離することができる。
【0037】
以下、図2を参照して、上記した蛍光体の分離方法及びそれに適した分散媒について、より詳細に説明する。
【0038】
ステップ200において準備を行なう。具体的には、フィルタ102を処理管100内に配置し、分離対象である蛍光体混合物を分散媒に分散させて蛍光体含有分散液を作製する。水を用いる場合、蛍光体粉末の凝集を防ぐために界面活性作用を持つ分散剤を添加することが必要である。
【0039】
分散剤としては市販の中性洗剤を用いることも可能であるが、強い発泡性のためにフィルタ102(磁性ステンレス製エキスパンドメタル、ステンレスウール等)を流通させたときに多量の泡が生じて消えにくいため、複数回の処理を行なうための支障となる。
【0040】
また、蛍光体へのぬれ性の良好でない分散剤を用いた場合には、磁場を下げた後に洗浄液を流し、磁化によりフィルタ102に付着した蛍光体(以下、磁着蛍光体ともいう)を回収する際に蛍光体のフィルタ102からの脱離が起きにくく蛍光体がフィルタ102に残留し易い。そのため、回収のために多量の洗浄液を必要とし、複数回の処理を行なうための支障となる。
【0041】
分散剤としては、蛍光体のぬれ性が良好であり、凝集を起こさず、分散液表面及び生じた泡表面に蛍光体が集まらないような分散性の良いものを用いることが必要である。具体的には、分散剤として、高分子型分散剤及び発泡性の低分子型界面活性剤を用い、これらを所定の割合で水に添加して、蛍光体を分散させるための分散媒を作製する。高分子型分散剤は、ポリカルボン酸系分散剤であることが望ましい。
【0042】
このような組合せの分散剤を用いることにより、後述するように、磁着蛍光体を回収するための洗浄後の残存蛍光体量を2%未満に抑え、且つ、処理後に短時間で泡層を消失させることができる。
【0043】
ステップ202において、フィルタ102に磁場を印加する。具体的には、磁場発生部104に通電して、フィルタ102を配置した領域に磁場を発生させる。印加磁場の大きさは、分離対象の蛍光体及びマトリックスの種類によって異なる。例えば、磁化率の高い緑色蛍光体を対象とし、線径の細いステンレスウールを用いる場合には1T以下であり、磁化率が高くない青色蛍光体等を対象とする場合には2T以上が好ましい。
【0044】
ステップ204において、蛍光体を分散させていない分散媒(以下、蛍光体非含有分散液ともいう)を、投入部108及び投入バルブ110を介して、フィルタ102の下端まで処理管100に投入する。
【0045】
ステップ206において、蛍光体含有分散液(蛍光体混合物を分散媒に分散させた液)を、投入部108及び投入バルブ110を介して、フィルタ102の上端まで処理管100に投入する。
【0046】
ステップ208において、蛍光体非含有分散液を、投入部108及び投入バルブ110を介して、所定量処理管100に投入する。これによって、処理管100内には、下から蛍光体非含有分散液、蛍光体含有分散液、及び蛍光体非含有分散液が滞留する。
【0047】
ステップ210において、加振部106により、処理管100を所定の振動数で、所定時間振動させる。
【0048】
ステップ212において、排出バルブ112を開放して、処理管100内の液体を全て排出し、回収容器114に回収する。上記したように混合されている蛍光体の磁化率に応じて、フィルタ102への付着強度が異なるので、最初に同じ量の蛍光体が含まれているとした場合、ステップ212で回収された液体には、磁化率が低い蛍光体ほど多く含まれている。
【0049】
ステップ214において、蛍光体非含有分散液で処理管100内を洗浄し、排出液を回収する。具体的には、排出バルブ112を閉めて、蛍光体非含有分散液を、投入部108及び投入バルブ110を介して、処理管100内に所定量投入する。その後、排出バルブ112を開けて、処理管100内の蛍光体非含有分散液を排出し、回収容器114に回収する。なお、回収液142が混合しないように、回収容器114は、例えば毎回異なる容器を使用する。
【0050】
ステップ216において、所定回数の洗浄が終わったか否かを判定する。即ち、ステップ214の洗浄及び回収処理を所定回数繰返し、その後ステップ218に移行する。なお、ステップ214の洗浄及び回収処理において、排出バルブ112を開けたまま、蛍光体非含有分散液を、流速を上げて処理管100内を通過させてもよい。
【0051】
ステップ218において、磁場発生部104に通電する電流値を減少させて、磁場強度を減少させる(0にする場合を含む)。例えば、磁場強度を0.2T未満に減少させる。
【0052】
ステップ220において、蛍光体非含有分散液で処理管100内を洗浄し、排出液を回収する。上記したように混合されている蛍光体の磁化率に応じて、フィルタ102への付着強度が異なるので、最初に同じ量の蛍光体が含まれているとした場合、ステップ220で回収された液体には、磁化率が高い蛍光体ほど多く含まれている。即ち、磁化率の高い蛍光体は、繰返し行なわれるステップ214の洗浄処理中にも、磁力によってフィルタ102に付着したままである可能性が高い。
【0053】
ステップ222において、終了するか否かを判定する。即ち、混合しないように複数回回収された回収液のうち何れか1回の回収液を用いて、ステップ202〜220の処理を繰返す。
【0054】
上記したように、ステップ212、220で回収された液体に含まれる各蛍光体の含有率は、処理前の蛍光体含有分散液に含まれていた各蛍光体の含有率と異なる。ステップ212による回収液は、ステップ206で投入された蛍光体含有分散液よりも、蛍光体混合物中の磁化率の最も低い蛍光体の含有率が高くなる。ステップ220による回収液は、ステップ206で投入された蛍光体含有分散液よりも、蛍光体混合物中の磁化率の最も高い蛍光体の含有率が高くなる。したがって、所定のステップの回収液を用いてステップ202〜220の処理を繰返すことによって、特定の蛍光体の含有率が高い回収液を得ることができる。例えば、ステップ212の回収液を、ステップ206で処理管100に投入することを繰返すことにより、回収液において、蛍光体混合物に含まれていた蛍光体のうち磁化率の最も低い蛍光体の含有率を高くすることができる。また、ステップ220の回収液を、ステップ206で処理管100に投入することを繰返すことにより、回収液において、蛍光体混合物に含まれていた蛍光体のうち磁化率の最も高い蛍光体の含有率を高くすることができる。したがって、繰返し回数が多くなるほど、特定の蛍光体の純度を高くすることができる。なお、どのステップの回収液を繰返し使用するかは、蛍光体混合物に最初に含まれる蛍光体の種類及含有率を分析して決定することが望ましい。
【0055】
以下に、蛍光体含有分散液及び蛍光体非含有分散液を作製するために使用する分散剤について、さらに詳細に説明する。
【0056】
蛍光体微粉末と分散液(分散剤を添加した水)とを混合し、振とうすることにより分散性が良好であるか否かを評価することができる。また、蛍光体がフィルタ102に付着しない分散剤が好ましい。これは、振とう液中にフィルタ102、例えばステンレス製エキスパンドメタルを入れて静置し、その後、フィルタ102(ステンレス製エキスパンドメタル)を取出して分散液で洗浄して、蛍光体の付着の有無を確認することで、評価することができる。
【0057】
界面活性作用を持つ種々の分散剤について付着性を調べた結果を、図3に示す。分散剤名の後ろに記載したパーセント値は、添加量(重量%)を意味する。分散性の列において、○が分散性良好、×が分散性不良、△がそれらの中間を意味する。発泡性の列の記載は、発泡性の有無、及び発泡性の強弱を意味する。付着性の列の記載は、フィルタ(ステンレス製エキスパンドメタル)への付着性を表し、○は全く付着性なし、×は高い付着性、△は若干付着性ありを意味する。
【0058】
付着性のある分散液を用いた場合には蛍光体分離後にフィルタ上に蛍光体が残り、多量の分散液で洗浄する必要があり好ましくない。図3において非発泡性(発泡性「無」)又は微発泡性(発泡性「弱」)の分散剤は、表面張力が高いものが多く、浸透性の強い低分子界面活性剤を添加することにより、ぬれ性を改善し、フィルタへの付着性をなくし、且つ、分散性を高めることが可能である。蛍光体のぬれ性が良好であり、フィルタに蛍光体が付着し難い分散液を作製するための分散剤として、主分散剤としての高分子型分散剤に、微量の浸透性の界面活性剤を添加する組合せを挙げることができる。
【0059】
主分散剤とする高分子型分散剤の例として、ポリカルボン酸系、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合系、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。分離後の蛍光体の使用を考えると、特にナトリウム等の灰分及びハロゲンの何れも含まないポリカルボン酸系分散剤(図3のNo.1及びNo.2参照)が好ましい。
【0060】
主分散剤の濃度としては、少なくとも蛍光体が凝集せず分散する濃度以上であることが必要である。一方、分散剤濃度が高すぎると、粘性が増加して分離効率が低下するおそれがあり、蛍光体分離後の分散剤除去に手間を要するため、分散剤は少ない方が好ましい。したがって、分散液中の分散剤の濃度(重量%)は、0.02%〜3%、好ましくは0.03%〜1%、より好ましくは0.03%〜0.3%である。
【0061】
微量添加する浸透性の界面活性剤(以下、添加剤ともいう)としては、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤等、何れの界面活性剤であっても良い。非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル、多価アルコール系非イオン性界面活性剤(後述の実施例1参照)等、陰イオン界面活性剤として直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム等、両性界面活性剤としてアルキルベタイン等を挙げることができる。また、添加剤として、上記の成分を含有する市販の中性洗剤を用いることもできる。分離後の使用を考えると、ナトリウム等の灰分及びハロゲンの何れも含まないポリオキシエチレンアルキルエーテル(図3のNo.11)等の非イオン性界面活性剤及びベタイン(図3のNo.22参照)等の両性界面活性剤が特に好ましい。添加剤(界面活性剤)の発泡性は、濃度1%において、JIS K3362で規定される起泡力試験による測定値が、直後80mm以上であることが好ましい。
【0062】
添加剤の濃度は、低すぎるとぬれ性の改善効果がなく、脱磁後の洗浄による磁着蛍光体回収後にも、フィルタに蛍光体が残留するので好ましくない。濃度が高すぎると、発泡が激しく、処理後に泡層が長時間残って分離後のろ過等による回収処理に支障を来す。このため分散液中の添加剤の濃度は、0.004%〜0.1%、好ましくは0.005%〜0.05%、より好ましくは0.01%〜0.02%である。また、添加剤を分散剤に添加した分散液の起泡力は、5分後に3mm未満が好ましい。
【0063】
上記では、処理管100内の蛍光体含有分散液の上下に蛍光体非含有分散液を配置したが、これに限定されず、上側の蛍光体非含有分散液は無くてもよい。また、蛍光体含有分散液内にフィルタ102が位置すれば、下側の蛍光体非含有分散液も無くてもよい。
【0064】
また、フィルタ102を加振する場合を説明したが、加振しなくてもよい。加振しなければ、加振する場合よりも分散効率は低下するが、処理の繰返し回数を多くすれば蛍光体を分離することは可能である。
【0065】
上記では、蛍光体含有分散液を処理管100内に保持する場合を説明したが、これに限定されない。蛍光体含有分散液内にフィルタ102を配置させた状態で、蛍光体含有分散液を保持できれば、管状に限らず任意形状の容器を使用することができる。
【0066】
上記では、所定強度以上の磁場を印加した状態でフィルタ102を洗浄する場合を説明したが、これに限定されない。所定強度以上の磁場を印加した状態で洗浄を行なわずに、磁場を減少させた状態でフィルタ102を洗浄して、磁着物を回収してもよい。
【0067】
上記では、回収液をそのまま処理対象として分離処理を繰返す場合を説明したが、これに限定されない。適宜、ろ過、乾燥処理等により回収液から微粉末状の蛍光体混合物を作製し、蛍光体の含有比率を分析した後、必要に応じて、この蛍光体混合物を用いて蛍光体含有分散液を作製し、上記の分離処理を実行してもよい。
【0068】
また、上記では、何れかのステップで回収された回収液を用いて、繰返し分離処理を行なう場合を説明したが、これに限定されない。回収液に含まれる蛍光体の含有率がほぼ同じであれば、それらの回収液を混合した液体に対して分離処理を行なってもよい。
【実施例1】
【0069】
以下に実験結果を示し、本発明の有効性を示す。
【0070】
図3に示した分散剤を主分散剤及び添加剤とする組合せで、水への配合濃度を変えて蛍光体非含有分散液を作製した。この分散液0.2L(リットル)に、青色蛍光体BAM(三菱化学株式会社製LP−B4、磁化率の実測値1.53×10−4H/m)及び赤色蛍光体YOX(三菱化学株式会社製LP−RE1、磁化率の実測値0.83×10−4H/m)各0.5gを分散させて、蛍光体含有分散液を作製した。この蛍光体含有分散液を分離処理の対象として、図2に示した手順にしたがって実験を行なった。なお、洗浄液には、各蛍光体含有分散液の作製に使用した蛍光体非含有分散液を用いた。
【0071】
公知のエリーズマグネチックス社製磁選機(モデルHIW L4−20K)を用い、フィルタ(マトリックス)にはSUS430製のステンレスウール(長さ約20cm、幅約5cm、厚さ約2cm)を使用した。本磁選機により、フィルタに2Tの磁場を印加した後、上記したように蛍光体非含有分散液及び蛍光体含有分散液を処理管に満たした。この状態で、振動装置としてオムロン株式会社製マッサージ器を用いて処理管に30秒間振動を加え、排出バルブを開けてフィルタに付着していない蛍光体を回収した。次に、1回目の洗浄として、一旦排出バルブを閉じ、0.5Lの洗浄液を処理管に投入した後、排出バルブを開けてフィルタを洗浄し、その排出液を回収した。さらに、2回目の洗浄として、排出バルブを開けたまま0.5Lの洗浄液で、流速を上げて再度フィルタを洗浄し、その排出液を回収した。その後、電源をOFFして磁場を0まで減少させ、0.5Lの洗浄液を流通させて、フィルタに磁着していた蛍光体を回収した。さらに、洗浄液約1Lを処理管に流通させ、フィルタに残存する蛍光体量を調べた。
【0072】
その結果を図4に示す。図4の「評価」の列には総合的な評価が記載されている。○は蛍光体の分離に適切な結果であった場合、×は不適切な結果であった場合を表す。PCA1は特殊ポリカルボン酸系分散剤である花王株式会社製ポイズ(登録商標)520、PCA2は特殊ポリカルボン酸系分散剤である花王株式会社製カオーセラ(登録商標)2000、PCA3はポリカルボン酸アンモニウム分散剤であるサンノプコ株式会社製ノプコサントRFA、LABはラウリン酸アミドプロピルベタインである花王株式会社製アンヒトール(登録商標)20AB、SPLSはポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムである花王株式会社製エマール(登録商標)20C、PAAEはポリオキシアルキレン系であるサンノプコ株式会社製SNウェット980、PAAEはポリオキシアルキレンアルキルエーテルである日本乳化剤株式会社製Newcol 2308LY、多価アルコールは多価アルコール系非イオン性界面活性剤であるサンノプコ株式会社製ノプコウェットSN−20Tを表す。
【0073】
「混合液流通」の列には、最初の回収液を分析した結果が記載されている。各セルの上段は、赤色蛍光体と青色蛍光体の比率(重力%)であり、下段は総重量を示す。例えば、No.1では、最初の回収液から、合計248mgの蛍光体が回収され、その内訳は、赤色蛍光体が58%、青色蛍光体が42%であったことを示している。「1回目洗浄」の列には、1回目の洗浄の回収液を分析した結果が、同様に記載されている。「2回目洗浄」の列も同様である。「磁着物回収」の列には、磁場を減少させた状態での回収液に関して、「残存量」の列には、最後の洗浄によって回収された蛍光体(フィルタに残っていた蛍光体)に関して、同様に記載されている。なお、No.19は、フィルタに振動を加えなかった場合の結果を示す。
【0074】
図4に示した蛍光体の含有率から分かるように、実験全体において、最初の回収液(混合液流通の列)においては磁化率の低い赤色蛍光体の比率が高く、洗浄を繰返すと青色蛍光体の比率が上昇し、磁場を減少させた状態の洗浄による回収液(磁着物回収の列)では青色蛍光体の比率が高かった。これは、赤色蛍光体と青色蛍光体との磁化率の違いに依る。
【0075】
主分散剤として、高分子型分散剤の顔料分散用特殊ポリカルボン酸系高分子界面活性剤である花王株式会社製ポイズ(登録商標)520を単独で用いた場合(No.1参照)、磁着物回収後の再洗浄時の残存蛍光体は6%以上(初期量1000mgに対して62mg)と多かった。
【0076】
添加剤として発泡性界面活性剤のラウリン酸アミドプロピルベタインである花王株式会社製アンヒトール(登録商標)20ABを用い、その濃度を変化させた場合、濃度0.003%(No.2参照)では、残存蛍光体量が多かった。しかし、濃度0.015%〜0.05%の範囲(No.3、No.4参照)では、残存蛍光体量が少なくなり、有効であった。濃度が0.05%を越えると残存蛍光体量は少なかったが、発泡性が増加し、泡層の消失に1時間以上を要した。
【0077】
主分散剤の濃度を下げた場合、No.5のように0.03%でも残存蛍光体量は1.2%(初期量1000mgに対して12mg)と少なく、有効であった。図4には示していないが、分散剤の濃度が0.015%の場合には、蛍光体粉末が凝集し、分散しなかった。
【0078】
添加剤の種類に関して、発泡性界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(花王株式会社製エマール(登録商標)20C)、若しくは中性洗剤(アルキルエーテル硫酸エステルナトリウムを含有する花王ファミリーフレッシュ)、又は、微発泡性であるポリオキシアルキレン系非イオン界面活性剤(サンノプコ株式会社製SNウェット980)、若しくはポリオキシアルキレンアルキルエーテル(日本乳化剤製Newcol2308−LYをそれぞれ濃度0.015%で添加した場合(No.6〜No.9参照)も残存蛍光体量は少なく、有効であった。
【0079】
主分散剤として、高分子型分散剤であるセラミック粉末分散用特殊ポリカルボン酸系分散剤である花王株式会社製カオーセラ(登録商標)2000、又は、ポリカルボン酸アンモニウム分散剤であるサンノプコ株式会社製ノプコサントRFAを濃度0.15%で用い、発泡性界面活性剤を濃度0.015%で添加した場合(No.10及びNo.11参照)も残存蛍光体量は少なく、有効であった。
【0080】
添加剤として非泡性界面活性剤であるp−トルエンスルホン酸Naを濃度0.2%で添加した場合(No.12参照)、残存量が10%を超え、有効ではなかった。
【0081】
主分散剤として高分子型でないポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(ツイーン20)を濃度0.05%で用い、これに添加剤としてLABを濃度0.01%で添加した場合(No.13参照)、主分散剤としてポリオキシエチレンソルビタントリオレエート(ツイーン85)を濃度0.05%で用い、これに添加剤としてLABを濃度0.015%で添加した場合(No.14参照)、主分散剤として高分子型でない微発泡性のポリオキシアルキレンアルキルエーテル(PAAE)を濃度0.15%で用い、これに添加剤としてLABを濃度0.03%で添加した場合(No.15参照)、及び、主分散剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルを主成分とする市販食器洗浄機用洗剤を濃度0.15%で用い、これに添加剤としてLABを濃度0.01%で添加した場合(No.16参照)においても、蛍光体の残存量が多く、有効ではなかった。
【0082】
主分散剤として無機分散剤であるヘキサメタリン酸ナトリウムを濃度0.15%で用いた場合(No.17参照)、残存量が多く、有効ではなかった。
【0083】
主分散剤として市販の中性洗剤を濃度0.15%で用いた場合(No.18参照)、分離効率は良好であり、残存量は1%未満であったが、24時間後でも回収液上に泡層が存在していた。
【0084】
No.3と同じ主分散剤及び添加剤の組合せを用い、振動を加えなかった場合(No.19参照)、最初の回収液(混合液流通)中に含まれる蛍光体の総量がNo.3の場合よりも多く、青色蛍光体の比率がNo.3の場合よりも低い。これは、磁化した蛍光体のフィルタへの付着効率が悪いこと、特に磁化率の高い青色蛍光体のフィルタへの付着効率が悪いことを表している。したがって、加振することによって、分離効率を高くすることができる。
【0085】
以上のように、No.3〜No.11の主分散剤及び添加剤の組合せが適切であった。これらの場合、最初の回収液(混合液流通)には、約60%の比率で赤色蛍光体が含まれるので、この回収液を用いて分離処理を繰返すことによって、純度の高い赤色蛍光体を得ることができる。1回目の洗浄によって得られる回収液(1回目洗浄)にも、約60%の比率で赤色蛍光体が含まれるので、同様に純度の高い赤色蛍光体を得ることができる。
【0086】
また、磁場を減少させた状態の回収液(磁着物回収)には、60%を超える比率で青色蛍光体が含まれるので、この回収液を用いて分離処理を繰返すことによって、磁場を減少させた状態の回収液から純度の高い青色蛍光体を得ることができる。
【実施例2】
【0087】
青色蛍光体BAM(三菱化学株式会社製LP−B2、磁化率の実測値1.8×10−4H/m)、緑色蛍光体LAP(三菱化学株式会社製LP−G2、磁化率の実測値1.6×10−3H/m)及び赤色蛍光体YOX(三菱化学株式会社製LP−RE1、磁化率の実測値0.83×10−4H/m)各1.0gを分散させた蛍光体含有分散液0.2Lを作製し、蛍光体の分離処理を行なった。分散媒には、実施例1のNo.3と同様に、主分散剤として、高分子型分散剤の顔料分散用特殊ポリカルボン酸系高分子界面活性剤である花王株式会社製ポイズ(登録商標)520を用い、添加剤として、ラウリン酸プロピルベタインである花王株式会社製アンヒトール(登録商標)20ABを用いた。これらを、それぞれ濃度0.15及び0.015%で水に混合して、分散媒(蛍光体非含有分散液)を作製し、これに上記の3色の蛍光体を分散させ、蛍光体含有分散液を作製した。
【0088】
実験結果を、表3に示す。
【0089】
【表3】

【0090】
表3から、最初の流通の回収液(混合液流通の列)には、緑色蛍光体がほとんど含まれておらず、この回収液から得られた混合物は、赤色及び青色蛍光体の混合物であると言える。これには、磁化率の低い赤色蛍光体が多く含まれている。1回目の洗浄による回収液(1回目洗浄の列)では青色蛍光体の比率が増加し、2回目の強めの洗浄による回収液(2回目洗浄の列)では青色蛍光体が多く含まれるようになった。これは、3色の蛍光体のうち磁化率が最も低い赤色蛍光体が、1回目洗浄までに多く排出されたためである。
【0091】
磁場を減少させた状態での洗浄(磁着物回収の列)による回収液では、緑色蛍光体の含有率が80%であった。これは、緑色蛍光体の磁化率が高く、安定してフィルタに磁着していたことを表している。さらに、再洗浄による回収液(残留量の列)には、蛍光体はほとんど残っていなかった。
【0092】
以上のことから、実施例1で適切であった主分散剤及び添加剤の組合せは、緑色蛍光体を含む蛍光体混合物の分離にも有効であることが分かる。また、蛍光体混合物から緑色蛍光体を分離することは、青色及び赤色蛍光体の分離よりも容易であることが分かる。
【実施例3】
【0093】
実施例2と同じ主分散剤及び添加剤を用いて、蛍光体非含有分散液を作製し、これに青色蛍光体BAM(三菱化学株式会社製LP−B4、磁化率の実測値1.5×10−4H/m)及びハロリン酸昼光色蛍光体(日亜化学製Daylight、磁化率の実測値0.39×10−4H/m)各1.0gを分散させて、蛍光体含有分散液0.2Lを作製し、蛍光体の分離処理を行なった。印加磁場の強度は2Tである。
【0094】
その結果を、表4に示す。
【0095】
【表4】

【0096】
表4から、最初の流通の回収液(混合液流通の列)には、磁化率の低いハロリン酸昼光色蛍光体が多く含まれ、洗浄を繰返すと青色蛍光体の比率が増加し、磁場を下げた状態での洗浄による回収液(磁着物回収の列)には青色蛍光体が多かった。また、再洗浄による回収液(残留量の列)には、蛍光体はほとんど残っていなかった。したがって、実施例1で適切であった主分散剤及び添加剤の組合せは、ハロリン酸昼光色蛍光体の分離にも有効であることが分かる。
【符号の説明】
【0097】
100 処理管
102 フィルタ
104 磁場発生部
106 加振部
108 投入部
110 投入バルブ
112 排出バルブ
114 回収容器
120、122 磁極
124、126 コイル
130 磁場方向
140 投入液
142 回収液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化率の異なる複数種類の蛍光体からなる混合物を、分散媒中に分散させて混合液を作製するステップと、
処理容器内に前記混合液を入れ、該混合液中に強磁性材料で形成されたフィルタを位置させる設置ステップと、
前記フィルタに磁場を印加した状態で、前記処理容器から前記混合液を排出して回収する混合液回収ステップとを含み、
前記分散媒は、高分子型分散剤の水溶液に低分子型界面活性剤を添加した溶液であることを特徴とする蛍光体混合物の分離方法。
【請求項2】
前記混合液回収ステップによる回収液を新たな混合液として、前記設置ステップ及び前記混合液回収ステップを繰返すことを特徴とする請求項1に記載の蛍光体混合物の分離方法。
【請求項3】
前記混合液回収ステップに続き、前記磁場を印加した状態で前記フィルタを前記分散媒で洗浄し、前記フィルタの洗浄に使用した前記分散媒を回収する洗浄ステップをさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の蛍光体混合物の分離方法。
【請求項4】
前記洗浄ステップによる回収液を新たな混合液として、前記設置ステップ、前記混合液回収ステップ、及び前記洗浄ステップを繰返すことを特徴とする請求項3に記載の蛍光体混合物の分離方法。
【請求項5】
印加された前記磁場を減少させた状態で、前記フィルタを前記分散媒で洗浄し、前記フィルタの洗浄に使用した前記分散媒を回収する磁着物回収ステップをさらに含むことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の蛍光体混合物の分離方法。
【請求項6】
前記磁着物回収ステップによる回収液を新たな混合液として、前記設置ステップ、前記混合液回収ステップ、及び前記磁着物回収ステップを繰返すことを特徴とする請求項5に記載の蛍光体混合物の分離方法。
【請求項7】
前記混合液回収ステップの前に、前記混合液中に位置させた前記フィルタに前記磁場を印加した状態で、前記フィルタを振動させるステップをさらに含むことを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の蛍光体混合物の分離方法。
【請求項8】
前記高分子型分散剤は、ポリカルボン酸系高分子分散剤であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の蛍光体混合物の分離方法。
【請求項9】
前記低分子型界面活性剤は、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシアルキレン系非イオン界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、多価アルコール系非イオン性界面活性剤、又は、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウムを含有する中性洗剤であることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の蛍光体混合物の分離方法。
【請求項10】
前記高分子型分散剤の濃度は、0.02%〜3%であり、
前記低分子型界面活性剤の濃度は、0.004%〜0.1%であることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の蛍光体混合物の分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−184282(P2012−184282A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46339(P2011−46339)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「希少金属代替材料開発プロジェクト/蛍光体向けテルビウム・ユーロピウム使用量低減技術開発及び代替材料開発/高速合成・評価法による蛍光ランプ用蛍光体向けTb、Eu低減技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】