説明

蛍光性ランタニド錯体

光誘起電子移動を蛍光制御原理とする蛍光性ランタニド錯体を提供する。センサー置換基及び錯基を有する2−キノリノール置換体とランタニドイオン(Ln3+)とから成る錯体である。液相でこの錯体を被測定物と共存させ、該錯体の蛍光を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
この発明は、2−キノリノール置換体とランタニドイオンとから成る新規な錯体に関し、より詳細には、光誘起電子移動により蛍光強度を制御できる長寿命蛍光性の2−キノリノール置換体とランタニドイオンとから成る新規な錯体に関する。
従来技術
蛍光性ランタニド錯体は長い蛍光寿命、鋭い蛍光スペクトル、大きいストークスシフトなど通常の蛍光性有機化合物とは大きく異なる蛍光特性を持つことが知られている(Richardson,F.S.;Chem.Rev.1982,82,541−552.;足立吟也「希土類物語 先端材料の魔術師」産業図書;足立吟也「希土類の化学」化学同人)。この蛍光の特徴を利用し、時間分解測定でその蛍光を測定することで、蛍光寿命の短い他の有機化合物の蛍光や励起散乱光を排除し、ランタニド錯体から発する蛍光のみを特異的に検出することができる。このため測定系のバックグラウンドの蛍光を抑えることが可能となるため、通常の有機化合物の蛍光を用いた蛍光検出系と比較し、S/N比の高い高感度な検出が可能となる。これまで、標識化試薬として様々な蛍光性ランタニド錯体が開発され、時間分解イムノアッセイや時間分解DNAハイブリダイゼーションにおいて用いられ、その検出感度の増大が報告されている(Morton,R.C.et al.Anal.Chem.1990,62,1841;Seveus,L.et al.Microsc.Res.Tech.1994,28,149;Mathis,G.Clin.Chem.1993.39.1953−1959)。このような特徴を持つ蛍光性ランタニド錯体の蛍光を制御することにより、分析対象物を高感度に感知することのできるプローブの開発が可能となる。
近年、蛍光性ランタニド錯体自身をセンサーとして利用する試みが行われ、分析対象物の有無により蛍光特性の変化するランタニド錯体の開発が行われている(DeSilva,A.P et al.Chem.Rev.1997,97,1515;Bissell,R.A.et al.In Fluorescent Chemosensors for Ion and Moleclule Recognition;Garnik,A.W.,Ed.;ACS Symposium Series 538;American Chemical Society;Washington DC.1993;Chapter4)。その主な蛍光制御方法はランタニドの水の配位数を変化させるもの、クロモフォア自身を変化させるものに分けられる。
これまで通常の有機化合物においては、光誘起電子移動を蛍光の制御方法とする蛍光プローブが多数開発されている。光誘起電子移動は蛍光の消光機構として広く受け入れられている原理であり、それは電子供与部位から蛍光色素部位への電子移動によるものである。蛍光性ランタニド錯体の蛍光を光誘起電子移動で制御することが可能であれば、さらに光誘起電子移動を蛍光制御原理とする高感度な検出を可能とするプローブを設計し、開発することが可能となる。
光誘起電子移動により下式(化4)のようなランタニド錯体の蛍光を制御する試みはいくつか報告されている(Chem.Comm.2000,473−474;Chem.Comm.1997,1891−1892)。

【発明が解決しようとする課題】
しかし、現在までに報告された光誘起電子移動により蛍光を制御可能とするランタニド錯体は、消光機構が十分に機能しないためバックグラウンドとなる蛍光が大きく蛍光の変化が十分に得られない、また、錯体のランタニド金属への配位が不十分であるため有機溶媒中でしか蛍光を発しないなどの欠点を持つ。これらの欠点を克服することで、実際に様々な系で実用が可能となる蛍光性ランタニド錯体を基にしたプローブの開発が可能となる。
本発明は、光誘起電子移動を蛍光制御原理とする蛍光性ランタニド錯体を提供することを目的とする。この錯体は、水中で安定にランタニドと錯生成し、水中で機能を発すること、また、蛍光の制御は完全であり消光時に全く蛍光を持たないことが求められる。
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、このような課題が、センサー置換基及び錯基を有する2−キノリノール置換体とランタニドイオンとから成る錯体により解決されることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、下式(化1)

で表される2−キノリノールの3〜8位のいずれか2つの位置に、下式
−C2(n−m)−(C5−o)(−NR
(式中、nは1〜5の整数、mは0〜2であってn−1以下の整数、oは1又は2であり、Rは、H、アルキル基、COX(Xはアルキル基又はペプチド(このペプチドの末端アミノ基が上記COと結合している。)を表す。)、又は−CHCH(NYCHCHNY(式中、Yは、それぞれ異なっていてもよく、H、アルキル基、又は下式(化2)

を表し、pは0〜3の整数を表す。)を表し、RはH又はアルキル基を表す。)
で表されるセンサー置換基及び錯基を有する2−キノリノール置換体、並びにランタニドから成り、該ランタニドイオンが該錯基と錯体結合し、該2−キノリノール置換体と該ランタニドとのモル比が1:0.9〜1.1である蛍光性ランタニド錯体である。ここでランタニド(lanthnide)は58Ce〜71Luのいずれかの元素を意味する。
前記錯基は、下記のいずれかのキレーター(化3)

(式中、IDAはiminodiacetic acid、MIDAはmethyliminodiacetic acid、NTAはnitrilotriacetic acid、EDTAはethylenediaminetetraacetic acid、HEDTAは2−hydroxyetyletylenediaminetriacetic acid、HMDTAはhexamethylenediaminetetraacetic acid、DTPAはdiethylenetrinitilopentaacetic acid、TTHAはtriethylenehexanitilopentaacetic acid、DOTAは1,4,7,10−tetraazacyclododecane−1,4,7,10−tetraacetic acid、DO3Aは1,4,7,10−tetraazacyclododecane−1,4,7−triacetic acid、NOTAは1,4,7−azacyclononane−1,4,7−triacetic acidを意味する。)に基づくものであって、そのいずれか一つのN原子が−CH(CONH)−(式中、qは0又は1、好ましくは1を表す。)を介して前記2−キノリノールと結合することが好ましい。
キレーターとしては、(i)DTPAと(vi)DOTAが好ましい。
2−キノリノールの7位,3位または4位にアミノ基を常法により付加し、このアミノ基を介して、カルボン酸を有するキレーターとアミド結合により、これらのキレーターと2−キノリノールを結合させることができる。
前記2−キノリノールにおけるセンサー置換基及び錯基の置換位置はそれぞれ7位、4位又は3位が好ましく、更に、前記2−キノリノールにおける前記錯基の置換位置としては順番に7位、4位、3位が好ましく、前記センサー置換基の置換位置としては順番に4位、3位、7位が好ましい。また、前記錯基は、前記2−キノリノールの7位に結合し、前記センサー置換基が前記2−キノリノールの4位又は3位に結合する、又は前記錯基が前記2−キノリノールの4位に結合し、前記センサー置換基が前記2−キノリノールの3位又は7位に結合する、又は前記錯基が前記2−キノリノールの3位に結合し、前記センサー置換基が前記2−キノリノールの4位又は7位に結合することが好ましい。
更に、前記センサー置換基において、少なくとも一つのアミノ基(−NR)が2価炭化水素基(−C2(n−m)−)に対してベンゼン環(C5−o)のパラ位に位置し、oが1であり、前記アルキル基がメチル基であることが好ましく、nが1であり、mが0であることがより好ましい。
本発明の錯体は、一般的に2−キノリノール置換体とランタニドをアセトニトリル、メタノール、水など極性溶媒中で約等量混合し、1時間程度攪拌または1〜12時間程度の加熱還流することによる作ることができる。
更に、本発明は、液相で、上記のいずれかの錯体を被測定物と共存させ、該錯体の蛍光を測定することにより、該被測定物の性質を知る方法である。
この溶媒としては、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、メタノールなど極性溶媒を用いることが好ましく、より好ましくは水を用いる。その溶媒中の、該錯体の濃度は0.1nM〜0.1mMが好ましく、該被測定物の濃度は0.1nM〜0.2mMが好ましい。
例えば、加水分解酵素等を測定対象として本発明の錯体を用いると、この測定対象により該錯体のセンサー部分が分解され、その結果錯体の蛍光強度に変化を及ぼしたり、あるいは本発明の錯体のセンサー部がCa2+,Zn2+,Hと配位結合することにより該錯体の蛍光強度に変化を及ぼしたり、あるいは本発明の錯体のセンサー部がNOや一重項酸素などと化学反応することにより該錯体の蛍光強度に変化を及ぼしたりするため、本発明の錯体はこれら測定対象のプローブとして機能する。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の錯体の構成を示す。
第2図は、本発明の錯体のセンサー機能の原理を示す。aはセンサー部がが電子供与性の高いもの、bはセンサー部が電子供与性の低いものの場合を示す。
第3図は、本発明の錯体の反応機構の例を示す。1)は、カスパーゼ等の加水分解酵素と反応する反応基をPETセンサー部分に取り込んだ例、2)は、亜鉛イオンと配位結合する反応基をPETセンサー部分に取り込んだ例、3)は、水素イオンが付加する反応基をPETセンサー部分に取り込んだ例、4)は、一酸化窒素と反応する反応基をPETセンサー部分に取り込んだ例を示す。
第4図は、製造例1〜3で製造した化合物8,11,15の合成経路を示す。
第5図は、製造例1〜3で製造した化合物8,11,15の合成経路を示す。
第6図は、製造例1〜3で製造した化合物8,11,15の合成経路を示す。
第7図は、DTPA−cs124のユウロピウム(III)錯体の吸収スペクトルを示す。
第8図は、化合物8のユウロピウム(III)錯体の吸収スペクトルを示す。
第9図は、化合物11のユウロピウム(III)錯体の吸収スペクトルを示す。
第10図は、化合物15のユウロピウム(III)錯体の吸収スペクトルを示す。
第11図は、化合物8(上)、11(中)及び15(下)のテルビウム(III)錯体の蛍光スペクトルを示す。
第12図は、化合物8(上)、11(中)及び15(下)のユウロピウム(III)錯体の蛍光スペクトルを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の錯体は、第1図に示すように、センサー置換基から成るセンサー部分と、錯基を含む2−キノリノール置換体とランタニドから成る蛍光団から成る。
この錯体を測定対象と液相、特に水中で、共存させ、測定対象がセンサー部のアミノ基と反応すると、この錯体の蛍光に変化が起こるため、これを観察することにより、測定対象の性質を知ることが可能となる。
例えば、アミノ基が電子供与性の高いもの(例えば、センサー部がアニリン)の場合には第2図(a)の左に示すように蛍光団から蛍光の発光が無いが、このような反応により、このアミノ基が電子供与性の低いもの(例えば、アセトアニリド)へ変化すると、第2図(a)の右に示すように、蛍光団において蛍光が発光するようになる。逆の場合には、第2図(b)に示すように測定対象との反応により蛍光が消える。このような蛍光を調べることにより、本発明の錯体と測定対象との相互作用を知ることが可能になる(このようなPETセンサーの原理についてはDeSilva,A.P et al.1997,97,1515を参照されたい)。
このような原理に基づいて、本発明の錯体をプローブとして応用する例として以下の例を挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。各例の反応機構を第3図に示す。
1)カスパーゼ等の加水分解酵素と反応する反応基(ペプチド:DEVD)をPETセンサー部分に取り込んだ例
カスパーゼ等の加水分解酵素の特異的検出が可能となる。カスパーゼ等の加水分解酵素の細胞内生成を可視化することができる。この応用はアポトーシス等の生命現象のメカニズム解析に非常に有効である。カスパーゼ等の加水分解酵素の活性測定に応用でき,カスパーゼ等の加水分解酵素の阻害剤のハイスループットスクリーニングにも応用できる。
従来有機蛍光プローブに応用した例はないが、本発明の錯体は蛍光強度の変化を確実に起こすことができるので応用対象となる。
2)亜鉛イオンと配位結合する反応基をPETセンサー部分に取り込んだ例
Zn2+の特異的検出が可能となる。Zn2+の細胞内生成を可視化することができる。
Zn2+測定を有機蛍光プローブに応用した例にはHirano.T.et al.J.Am.Chem.Soc.2000,122,12399.がある。
3)水素イオンが付加する反応基をPETセンサー部分に取り込んだ例
pHの変化を長寿命蛍光の強度変化として測定することが可能となる。pHの変化測定を有機蛍光プローブに応用した例にはSelinger,B.K.;Aust.J.Chem.1977,30,2087がある。
4)一酸化窒素と反応する反応基をPETセンサー部分に取り込んだ例
NOの特異的検出が可能となる。NOの細胞内生成を可視化することができる。NO合成酵素の活性測定に応用でき、NO合成酵素の阻害剤のハイスループットスクリーニングにも応用できる。
NOとの反応を有機蛍光プローブに応用した例には、Kojima,H.et al.Anal.Chem.1998,70,2446がある。
【発明の効果】
従来通常の有機化合物に対してPET機構を用いた蛍光の制御は行われていたが、本発明の錯体はランタニド錯体へのPET制御により従来の有機化合物と比較して約100万倍程度寿命の長い蛍光を制御できる点が新規である。このため,時間分解蛍光測定が可能となりより精度の高い測定が可能となる。現在までにランタニド錯体を用いて時間分解測定を行った例はあるが,長寿命蛍光の強度を測定対象との反応で制御した例は存在しなかった。本発明は測定対象に応じて長寿命蛍光測定を行うことができる初めての例であり、本発明の錯体はより幅広い応用が期待できる。
以下、実施例にて本発明を例証するが、本発明を限定することを意図するものではない。
本実施例では、ランタニドイオン(Ln3+)と1対1の安定な錯体を形成するDTPAをキレーターとし、2−キノリノール誘導体であるcs124を蛍光団とする下式(化5)

で表されるDTPA−cs124を基本骨格とした。これにPETセンサーを組み込んだランタニド錯体のデザイン、合成を行った。PETセンサーとしては電子供与性の高いアニリンと電子供与性の低いアセトアニリドを選択した。
電子供与性の高いPETセンサーからは蛍光団への電子移動が起きるため蛍光を発しない。しかし、電子供与性の低いPETセンサーからは電子移動が起こらないために蛍光を持つと考えられる。
実施例で用いる各化合物を合成した。その合成経路を第4〜6図に示す。各化合物番号は、第4〜6図中の化合物番号に対応している。
製造例1
この製造例では化合物8を合成した。
4−ニトロフェニル酢酸(4402mg,24.3mmol)を塩化チオニル(20ml)、ジクロロメタン(20ml)に溶解し、2時間加熱還流した。塩化チオニルを減圧下で留去し、固体を得た。この固体をジクロロメタン(30ml)に溶解した後、その溶液を、メルドラム酸(3499mg,24.3mmol)とN.N−ジエチルイソプロピルアミン(5840mg,49.8mmol)を溶解したジクロロメタン(20ml)溶液に氷冷下一時間かけて滴下し、この溶液をさらに2時間室温で撹拌した。この反応液に0.1N塩酸(50ml)を加え、ジクロロメタンで抽出した。この反応液を減圧下で留去し得られた固体をエタノール(100ml)に溶解し、2時間加熱還流した。この反応液を減圧下で留去し、4℃で一晩放置し固体を得た。これをエタノールで再結晶し化合物2(5298mg,21.1mmol)を得た。黄色結晶。収率87%。
H−NMR(CDCl,300MHz):1.29(t,3H,J=7.1),3.52(s,2H),4.00(s,2H),4.21(q,2H,J=7.1),7.41(d,2H,J=8.8),8.21(d,2H,J=8.8),13C−NMR(CDCl,75MHz):14.1,48.9,49.0,61.7,123.8,130.1,130.5,140.6,166.8,198.8
MS(EI):251
化合物2(5297mg,21.1mg)とm−フェニレンジアミン(2290mg,21.2mmol)を混合し、140度で12時間加熱した。得られた固体にメタノールを加え、析出した黄色固体を桐山ロートで濾取し、化合物3(1876mg,6.34mmol)を得た。黄色固体。収率30%。
H−NMR(DMSO−d,300MHz)4.15(s,2H),5.75(br,2H),5.91(s,1H),6.35(d,1H,J=2.1),6.39(dd,1H,J=8.4,2.1),7.34(d,1H,J=8.4),7.55(d,2H,J=8.8),8.15(d,2H,J=8.8),11.24(s,1H)13C−NMR(DMSO−d,75MHz)37.0,96.8,109.2,110.6,115.5,123.6,125.7,129.9,141.3,146.1,147.3,149.2,151.1,162.3
MS(EI):295
化合物3(295mg,1.0mmol)と9−フルオレニルメチルオキシカルボニルクロリド(297mg,1.23mmol)をジオキサン(40ml)、0.5N炭酸ナトリウム水溶液(20ml)に溶解し室温で12時間撹拌した。反応液に水を加え、生じた固体を桐山漏斗で濾取し、この固体をメタノール、水で順次洗浄した。この固体をエタノールで再結晶し、化合物4(410mg,0.79mmol)を得た。無色結晶。収率79%。
H−NMR(DMSO−d,300MHz)
4.29−4.33(m,3H),4.48(d,2H,J=6.8),6.20(s,1H,k),7.12(d,1H,J=8.7),7.31−7.44(m,4H),7.55−7.62(m,3H),7.66(s,1H),7.74(d,2H,J=7.5),7.89(d,2H,J=7.5),8.17(d,2H,J=8.7),10.02(s,1H),11.65(s,1H)13C−NMR(DMSO−d,75MHz)36.8,46.5,65.8,103.6,113.0,113.9,119.7,120.2,123.6,125.1,125.5,127.1,127.7,130.0,140.0,140.8,141.1,143.7,146.2,146.8,148.9,153.2,161.9
MS(FAB):518
化合物4(385mg,0.74mmol)と鉄粉(273mg,4.96mmol)をエタノール(40ml)、酢酸(20ml)に溶解し、2時間加熱還流した。反応液をセライト濾過した後、反応液を減圧下で留去し得られた固体をシリカゲルクロマトグラムで精製し鉄を除き、化合物5(200mg)を混合物として得た。この混合物である化合物5(200mg)をジオキサン(40ml)、0.5N炭酸ナトリウム水溶液(20ml)に溶解し、反応液に炭酸ジブチル(300μl)を加え、室温で12時間撹拌した。この反応液に水を加え、これを酢酸エチルで抽出し、抽出液を減圧下で留去した。得られた固体をシリカゲルクロマトグラムで精製し、化合物6(111mg,0.18mmol)を得た。白色固体。収率36%(2工程)
H−NMR(DMSO−d,300MHz)1.52(s,9H),4.09(s,2H),4.38(t,1H,J=6.6),4.55(d,2H,J=6.6),6.15(s,1H),7.17−7.23(m,3H),7.39−7.51(m,6H),7.68−7.71(m,2H),7.82(d,2H,J=7.6),7.97(d,2H,J=7.6),9.34(s,1H),10.07(s,1H),11.64(s,1H)
13C−NMR(DMSO−d,75MHz)28.1,36.7,46.6,65.8,78.9,103.6,112.9,114.1,118.3,119.0,120.2,125.2,125.5,127.1,127.7,129.1 131.7,137.9,140.0,140.8,140.9,143.7,150.5,152.8,153.3,162.1
MS(FAB)588
化合物6(104mg,0.18mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド(10ml)に溶解し、ピペリジン(1ml)を加え、室温で2時間撹拌する。反応液を減圧下で留去し、得られた固体をシリカゲルクロマトグラムで精製し、化合物7(63mg,0.17mmol)を得た。淡黄色固体。収率97%。
H−NMR(DMSO−d,300MHz)1.39(s,9H),3.87(s,2H),5.66(s,2H),5.74(s,1H),6.28(d,1H,J=2.0),6.32(dd,1H,J=9.6 2.0),7.06(d,2H,J=8.4),7.28−7.33(m,3H),9.20(s,1H),11.11(s,1H)13C−NMR(DMSO−d,75MHz)28.1,36.8,78.9,96.8,109.4,110.4,
114.9,118.2,125.7,129.0,132.2,137.8,141.1,150.7,150.9,152.8,162.4
MS(FAB)366
無水DTPA(44mg,0.12mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド(10ml)に溶解し、トリエチルアミン(400μl)を加える。さらにN,N−ジメチルホルムアミド(10ml)に溶解した化合物7(37mg,0.10mmol)を20分、反応液に滴下する。室温で2時間撹拌後、水4mlを加え、反応液を減圧下で留去する。得られた固体にトリフルオロ酢酸(5ml)を加え、室温で1時間撹拌する。反応液を減圧下で留去し得られた固体を高速液体クロマトグラフィーで精製し、化合物8(19mg,0.03mmol)を得た。無色固体。収率30%。
H−NMR(CDOD,300MHz)3.05−3.30(m,4H),3.35−3.60(m,12H),4.19(s,2H),4.29(s,2H),6.12(s,1H),7.22−7.33(m,5H,),7.68(d,1H,J=7.9),7.94(s,1H),
13C−NMR(CDOD,75MHz)
MS(FAB)641
製造例2
この製造例では化合物11を合成した。
製造例1に示した化合物6の合成と同様に、化合物4(209mg,0.41mmol)から混合物である化合物5(172mg)を得た。これを酢酸(50ml)に溶解し、無水酢酸(10ml)を加える。30分間加熱環流し、反応液を減圧下で留去する。得られた固体をシリカゲルクロマトグラムで精製し、化合物9(169mg,0.32mmol)を得た。白色固体。収率79%。
H−NMR(DMSO−d,300MHz)2.00(s,3H),3.95(s,2H),5.71(s,2H),5.81(s,1H),6.34(d,1H,J=2.1),6.39(dd,1H,J=8.6 2.1),7.16(d,2H,J=8.4),7.37(d,1H,J=8.6),7.48(d,2H,J=8.4),9.86(s,1H),11.16(s,1H)
13C−NMR(DMSO−d,75MHz)171.3,168.1,162.1,153.2,150.3,143.7,140.9,140.8,140.0,137.8,132.8,129.1,127.7,127.1,125.5,125.2,120.2,119.2,114.1,112.9,103.6,65.8,46.6,36.7,24.0 FABMS(M+1)
化合物9(167mg,0.32mmol)から化合物7の合成法と同様に化合物10(94mg,0.31mmol)を得た。淡黄色固体。収率97%。
H−NMR(DMSO−d,300MHz),2.00(s,3H),4.04(s,2H),4.31(t,1H,J=6.9),4.47(d,2H,J=6.9),6.09(s,1H),7.14(d,1H,J=8.4),7.18(d,2H,J=8.7),7.31−7.44(m,4H),7.63(d,2H,J=8.7),7.61−7.65(m,2H,7.75(d,2H,J=7.6),7.90(d,2H,J=7.5),9.89(s,1H),10.00(s,1H),11.57(s,1H)
13C−NMR(DMSO−d,75MHz)168.1,162.4,150.9,150.6,141.1,137.6,133.2,129.0,125.7,119.1,114.9,110.4,109.4,96.8,36.8,23.9 FABMS(M+1)308
無水DTPA(43mg,0.12mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド(10ml)に溶解し、トリエチルアミン(400μl)を加える。さらにN,N−ジメチルホルムアミド(10ml)に溶解した化合物10(31mg,0.10mmol)を20分、反応液に滴下する。室温で2時間撹拌後、水4mlを加え、反応液を減圧下で留去する。得られた固体を高速液体クロマトグラフィーで精製し、化合物11(30mg,0.04mmol)を得た。無色固体。収率40%。
H−NMR(CDOD,300MHz)3.05−3.30(m,4H),3.40−3.65(m,12H),4.09(s,2H),4.36(s,2H),6.20(s,1H),7.10−7.18(m,3H),8.25(d,2H,J=8.3),7.67(s,1H,J=8.0),7.97(s,1H)
13C−NMR(CDOD,75MHz) FABMS(M+1)683
製造例3
この製造例では化合物15を合成した。
ジクロロメタン(30ml)に溶解したフェニルアセチルクロリド(化合物12,2319mg,15.0mmol)をメルドラム酸(2160mg,14.9mmol)とN.N−ジエチルイソプロピルアミン(3877mg,30.0mmol)を溶解したジクロロメタン(30ml)に氷冷下一時間かけて滴下し、この溶液をさらに2時間室温で撹拌した。この反応液に0.1N塩酸を50ml加え、ジクロロメタンで抽出した。この反応液を減圧下で留去し得られた固体をエタノール(100ml)に溶解し、2時間加熱還流した。この反応液を減圧下で留去して、化合物12(2737mg,13.3mmol)を得た。淡黄色液体。収率88%。
H−NMR(DMSO−d,300MHz)1.16(t,3H,J=6.9),3.64(c,2H),3.85(s,2H),4.06(q,2H,J=6.9),7.00−7.41(m,5H)
13C−NMR(CDCl,75MHz)200.3,166.9,133.0,129.3,128.5,127.0,61.1,49.7,48.0,13.8
MS(EI):251
化合物13(1200mg,0.17mmol)から化合物3の合成法と同様に化合物14(555mg,2.22mmol)を得た。淡黄色固体。収率38%。
H−NMR(DMSO−d,300MHz)4.01(s,2H),5.73(s,2H),5.83(s,1H)6.34(d,1H,J=2.1),6.38(dd,1H,J=8.7 2.1),7.17−7.32(m,5H),7.41(d,2H,J=8.7),11.18(s,1H)
13C−NMR(DMSO−d,75MHz)162.4,151.0,150.5,141.2,138.8,128.8,128.4,126.3,125.7,115.1,115.0,110.4,109.5,96.9,37.3,FABMS(M+1)251
化合物14(38mg,0.15mmol)から化合物11の合成法と同様に化合物15(37mg,0.06mmol)を得た。無色固体。収率40%。
H−NMR(CDOD,300MHz)3.05−3.30(m,4H),3.35−3.60(m,12H),4.13(s,2H),4.35(s,2H),6.18(s,1H),7.12−7.23(m,6H),7.68(s,1H),7.96(s,1H)
13C−NMR(CDOD,75MHz) FABMS(M+1)626
以下の実施例では、製造例1〜3で得た化合物8、11及び15を用いて錯体を作り、その蛍光特性を評価した。
【実施例1〜3】
化合物8、11及び15をジメチルスルホキシドに溶解し、10mMのstock solutionを作製した。また、塩化テルビウム(III)6水和物をジメチルスルホキシドに溶解し、10mMのstock solutionを作製した。作製した化合物8、11及び15の各溶液に、等量の塩化テルビウム(III)6水和物の溶液を添加し、室温で30分放置して、化合物8、11及び15のテルビウム(III)錯体作製した。これを100mM HEPES緩衝液(pH7.4)で希釈し、8μMとしその蛍光を測定した。
【実施例4〜6】
化合物8、11及び15をジメチルスルホキシドに溶解し、10mMのstock solutionを作製した。また、塩化ユウロピウム(III)6水和物をジメチルスルホキシドに溶解し、10mMのstock solutionを作製した。作製した化合物8、11及び15の各溶液に、等量の塩化ユウロピウム(III)6水和物の溶液を添加し、室温で30分放置して、化合物8、11及び15のユウロピウム(III)錯体を作製した。これを100mM HEPES緩衝液(pH7.4)で希釈し、8μMとしその蛍光を測定した。
これらユウロピウム(III)錯体及びDTPA−cs124のユウロピウム(III)錯体の吸収スペクトル(5μM in 100mM HEPES Buffer(pH7.4))を第7〜10図に示す。
蛍光は時間分解測定により測定した。いずれの錯体についても励起波長330nm、Delay Time 0.05ms、Gate Time 1.00msとしてその蛍光を測定した。また、蛍光寿命は励起波長330nm、蛍光波長は各テルビウム錯体は545nm、各ユウロピウム錯体は615nmとして測定した(各8μM in 100mM HEPES Buffer(pH7.4))。
化合物8,11,15のテルビウム(III)錯体の蛍光スペクトル第11図に示し、その蛍光寿命と水配位数を表1に示す。

また、化合物8,11,15のユウロピウム(III)錯体の蛍光スペクトル第12図に示し、その蛍光寿命と水配位数を表2に示す。


化合物15のテルビウム(III)錯体、ユウロピウム(III)錯体はいずれも強い蛍光を持つ。その蛍光強度はDTPA−cs124のテルビウム(III)錯体、ユウロピウム(III)錯体とほぼ同等であった。また、蛍光寿命にも変化は見られなかった。カルボスチリルの4位のベンジル基への変化は蛍光特性に変化を与えなかった。
化合物11のテルビウム(III)錯体、ユウロピウム(III)錯体はいずれも強い蛍光を持つ。しかし、化合物8のテルビウム(III)錯体、ユウロピウム(III)錯体はいずれも蛍光を全く持たず、蛍光寿命は測定できなかった。カルボスチリルの4位の置換基の電子密度が上昇することで、4位置換基からカルボスチリルへの光誘起電子移動が生じ、化合物8のテルビウム(III)錯体、ユウロピウム(III)錯体は蛍光を全く発しなかった。
これによりテルビウム(III)錯体、ユウロピウム(III)錯体をはじめとするランタニド錯体の蛍光を制御することが可能となることが示された。この錯体は水中で安定に錯体を生成し、蛍光の制御が完全であり、水中で機能することが明らかとなった。この結果から、光誘起電子移動による電子供与部位を適切な分析対象物のセンサーとし、電子供与能が変化するならば、さまざまな分析対象物に対して高感度に感知できるプローブの開発が可能となることがわかる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(化1)

で表される2−キノリノールの3〜8位のいずれか2つの位置に、下式
−C2(n−m)−(C5−o)(−NR
(式中、nは1〜5の整数、mは0〜2であってn−1以下の整数、oは1又は2であり、Rは、H、アルキル基、−COX(Xはアルキル基又はペプチドを表す。)、又は−CHCH(NYCHCHNY(式中、Yは、それぞれ異なっていてもよく、H、アルキル基、又は下式(化2)

を表し、pは0〜3の整数を表す。)を表し、RはH又はアルキル基を表す。)で表されるセンサー置換基及び錯基を有する2−キノリノール置換体、並びにランタニドから成り、該ランタニドイオンが該錯基と錯体結合し、該2−キノリノール置換体と該ランタニドとのモル比が1:0.9〜1.1である蛍光性ランタニド錯体。
【請求項2】
前記錯基が下記のいずれかのキレーター(化3)

に基づくものであって、そのいずれか一つのN原子が−CH(CONH)−(式中、qは0又は1を表す。)を介して前記2−キノリノールと結合する請求項1に記載の錯体。
【請求項3】
前記錯基が前記2−キノリノールの7位に結合し、前記センサー置換基が前記2−キノリノールの4位又は3位に結合する、又は前記錯基が前記2−キノリノールの4位に結合し、前記センサー置換基が前記2−キノリノールの3位又は7位に結合する、又は前記錯基が前記2−キノリノールの3位に結合し、前記センサー置換基が前記2−キノリノールの4位又は7位に結合する請求項1又は2に記載の錯体。
【請求項4】
前記センサー置換基において、少なくとも一つのアミノ基(−NR)が2価炭化水素基(−C2(n−m)−)に対してベンゼン環(C5−o)のパラ位に位置し、oが1であり、前記アルキル基がメチル基であることが好ましく、nが1であり、mが0である請求項1〜3のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項5】
nが1であり、mが0である請求項1〜4のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項6】
液相で請求項1〜3のいずれか一項に記載の錯体を被測定物と共存させ、該錯体の蛍光を測定することにより、該被測定物の性質を知る方法。

【国際公開番号】WO2004/074254
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502699(P2005−502699)
【国際出願番号】PCT/JP2004/001680
【国際出願日】平成16年2月17日(2004.2.17)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】