説明

蛍光物質担持体

【課題】基体に担持させる蛍光物質の量を増大させることができる蛍光物質担持体を実現する。
【解決手段】多数の繊維12が絡み合って形成された不織布で基体14を形成すると共に、上記不織布を構成する繊維12の表面に蛍光体16を担持した蛍光物質担持体10である。上記繊維12は、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリプロピレン等の樹脂繊維、レーヨン等のセルロース系の化学繊維、ガラス繊維、金属繊維等の短繊維から成る。上記蛍光物質担持体10は、多数の繊維12が立体的に絡み合って形成され、単位体積当たりの繊維12の表面積が極めて大きい不織布を構成する繊維12の表面に、蛍光体16を担持せしめたことから、基体14に担持する蛍光体16の量を飛躍的に増大させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基体に蛍光体、蛍光ガラス等の蛍光物質を担持させて成る蛍光物質担持体に係り、特に、基体に担持させる蛍光物質の量を増大させることができる蛍光物質担持体に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体や蛍光ガラス等の蛍光物質は、紫外線等の光の照射を受けると、この光を所定波長の可視光等の光に波長変換して放射する性質を備えていることから、例えば、図8に示すように、基体70の表面に蛍光体72を層状に被着した蛍光物質担持体74を形成し、この蛍光物質担持体74を、例えば、夜間の道路標識等、各種表示のための用途等に使用することが行われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記蛍光体74から放射される光の輝度は、蛍光体74の量に略比例することから、蛍光物質担持体74の輝度を向上させるためには、基体70に担持させる蛍光体72の量をできるだけ多くするのが望ましい。
しかしながら、上記従来の蛍光物質担持体74にあっては、蛍光体72が基体70の表面に層状に配置されていることから、基体70表面に担持できる蛍光体72の量には限界があった。
【0004】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、基体に担持させる蛍光物質の量を増大させることができる蛍光物質担持体の実現にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するため、本発明に係る蛍光物質担持体にあっては、多数の繊維が絡み合って形成された不織布で基体を形成すると共に、上記不織布を構成する繊維に、蛍光体、蛍光ガラス等の蛍光物質を担持したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の蛍光物質担持体にあっては、多数の繊維が絡み合って形成され、単位体積当たりの繊維の表面積が極めて大きい不織布を構成する繊維に、蛍光体、蛍光ガラス等の蛍光物質を担持せしめたことから、基体に担持する蛍光物質の量を飛躍的に増大させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面に基づき、本発明に係る蛍光物質担持体の実施形態を説明する。
図1及び図2は、本発明に係る蛍光物質担持体10を示すものであり、該蛍光物質担持体10は、多数の繊維12が絡み合ってシート状に形成された不織布より成る基体14と、図3及び図4に示すように、上記不織布を構成する繊維12の表面に被着・担持された蛍光物質としての蛍光体16とから成る。
尚、蛍光体16は、図4に示したように、繊維12の表面に緻密な層状態で被着・担持される場合の他、繊維12表面の蛍光体16の粒子間に微小な隙間が存在する状態で粗く被着・担持される場合もある(図示省略)。
【0008】
上記繊維12は、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリプロピレン等の樹脂繊維、レーヨン等のセルロース系の化学繊維、ガラス繊維、金属繊維等の短繊維から成り、その直径は5〜20μm、長さは0.5〜20mm程度である。
尚、長さが50〜100mm程度の長繊維から成る繊維12を用いることも勿論可能である。
【0009】
多数の上記繊維12が絡み合ってシート状に形成された不織布は、繊維12間に多数の空隙18(図3参照)が形成されており、また、多数の繊維12が立体的に絡み合っているため、単位体積当たりの繊維12の表面積が極めて大きいものである。
尚、上記繊維12の繊維密度や、不織布の厚さ、目付等を適宜調整することにより、不織布を構成する繊維12の総表面積を任意に増減可能である。
【0010】
上記蛍光体16は、紫外線等の光の照射を受けると、この光を所定波長の可視光等の光に波長変換するものであり、例えば以下の組成のものを用いることができる。
紫外線等の光を赤色可視光に変換する赤色発光用の蛍光体16として、MS:Eu(Mは、La、Gd、Yの何れか1種)、0.5MgF・3.5MgO・GeO:Mn、2MgO・2LiO・Sb:Mn、Y(P,V)O4:Eu、YVO4:Eu、(SrMg)3(PO4):Sn、Y:Eu、CaSiO:Pb,Mn等がある。
また、紫外線等の光を緑色可視光に変換する緑色発光用の蛍光体16として、BaMgAl1627:Eu,Mn、ZnSiO4:Mn、(Ce,Tb,Mn)MgAl1119、LaPO4:Ce,Tb、(Ce,Tb)MgAl1119、YSiO:Ce,Tb、ZnS:Cu,Al、ZnS:Cu,Au,Al、(Zn,Cd)S:Cu,Al、SrAl:Eu、SrAl:Eu,Dy、SrAl1425:Eu,Dy、YAl12:Tb、Y(Al,Ga)12:Tb、YAl12:Ce、Y(Al,Ga)12:Ce等がある。
更に、紫外線等の光を青色可視光に変換する青色発光用の蛍光体16として、(SrCaBa)(PO)Cl:Eu、BaMgAl1627:Eu、(SrMg)7:Eu、Sr7:Eu、Sr:Sn、Sr(PO4Cl:Eu、BaMgAl1627:Eu、CaWO4、CaWO4:Pb青色蛍光体、ZnS:Ag,Cl、ZnS:Ag,Al、(Sr,Ca,Mg)10(PO)Cl:Eu等がある。
上記赤色発光用の蛍光体16、緑色発光用の蛍光体16、青色発光用の蛍光体16を適宜選択・混合して用いることで、種々の色の発色が可能である。
尚、蛍光体16は、有機、無機の蛍光染料や、有機、無機の蛍光顔料を含むものである。
【0011】
以下において、上記蛍光物質担持体10の製造方法について説明する。
先ず、ポリプロピレン等の高融点材料より成る繊維12を、ポリエチレン等の低融点材料より成る繊維20で被覆した所定長さの複合繊維22(図5参照)を多数準備し、カード法やエアレイ法等を用いて、これら多数の複合繊維22より成るシート状の集積体(ウェブ)を形成する。
次に、複合繊維22を構成する低融点材料より成る繊維20の融点より高く、且つ、高融点材料より成る繊維12の融点より低い温度で、複合繊維22より成る上記シート状の集積体を加熱して低融点材料より成る繊維20のみを溶融させると共に、粒子状の蛍光体16を上記集積体に吹き付ける。
この結果、高融点材料より成る繊維12の交差部分が、溶融した低融点材料より成る繊維20を介して接着することにより、不織布より成る上記基体14が形成されると共に、粒子状の蛍光体16が、溶融した低融点材料より成る繊維20を介して、不織布を構成する繊維12の表面に接着・担持され、上記蛍光物質担持体10が完成する。
上記製造方法にあっては、高融点材料より成る繊維12を低融点材料より成る繊維20で被覆した複合繊維22を用い、低融点材料より成る繊維20のみを溶融させて接着剤として機能させることにより、不織布の形成と蛍光体16の担持を略同時に行うことができるので、極めて製造容易である。
【0012】
尚、上記製造方法以外にも、例えば、蛍光体16の分散液中に不織布より成る基体14を浸漬した後乾燥させることにより、不織布を構成する繊維12の表面に蛍光体16を被着・担持させることもできる。
【0013】
上記蛍光物質担持体10の基体14である不織布の繊維12表面の蛍光体16に、紫外線等の光が照射されると、この光が所定波長の可視光等の光に波長変換されて放射されるのである。
而して、上記蛍光物質担持体10にあっては、多数の繊維12が立体的に絡み合って形成され、単位体積当たりの繊維12の表面積が極めて大きい不織布を構成する繊維12の表面に、蛍光体16を担持せしめたことから、従来の蛍光物質担持体74の如く蛍光体72を基体70表面に層状に被着した場合に比べ、基体14に担持する蛍光体16の量を飛躍的に増大させることができる。
【0014】
尚、基体14を不織布で構成した上記蛍光物質担持体10の強度を向上させるため、図6に示すように、表面に蛍光体16を担持させたシート状の織布24を、基体14の外面に接合しても良い。
この織布24は、樹脂繊維、ガラス繊維、金属繊維等の多数の繊維(図示せず)を縒る等して形成した繊維の集合体より成る紐26を、略格子状に織り込むと共に、該織布24を構成する紐26の表面に蛍光体16を担持させることにより形成されている(図7)。この織布24は、紐26間に多数の空隙28が形成されている。
図6においては、基体14の底面に上記織布24を接合した場合が示されているが、基体14の上面に上記織布24を接合したり、或いは、基体14の外面を上記織布24で被覆した状態で接合しても良い。
【0015】
上記織布24と蛍光物質担持体10の基体14外面との接合は、例えば、接着剤(図示せず)を介して行うことができる。
また、上記した複合繊維22を用いて蛍光物質担持体10を製造する場合においては、溶融した低融点材料より成る繊維20を介して、高融点材料より成る繊維12の交差部分を接着することにより基体14を形成すると共に、粒子状の蛍光体16を不織布を構成する繊維12の表面に接着・担持させ、更に、溶融した低融点材料より成る繊維20を介して、上記織布24を蛍光物質担持体10の基体14外面に接着すれば良い。
【0016】
上記においては、不織布を構成する繊維12の「表面」に蛍光体16を担持せしめた場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、透明樹脂等より成る透光性の繊維12に粒子状の蛍光体16を練り混むことにより、不織布を構成する繊維12に蛍光体16を担持させても良い。
この場合、例えば、未硬化状態の透明樹脂中に、粒子状の蛍光体を所定量混合した後、透明樹脂を延伸、硬化させ、その後、所定の長さに切断することにより、蛍光体16が練り混まれた多数の繊維を形成し、斯かる蛍光体16が練り混まれた多数の繊維を用いて不織布を形成すれば良い。
【0017】
蛍光物質としては、上記した蛍光体16だけでなく、蛍光ガラスや蛍光樹脂等、紫外線等の光の照射を受けた場合に、この光を所定波長の可視光等の光に波長変換する全ての物質を含むものである。
蛍光ガラスは、ガラス材料に蛍光材料を添加して形成される透明体であり、また、蛍光樹脂は、エポキシ樹脂等の樹脂材料に蛍光材料を添加して形成される透明体である。これら蛍光ガラスや蛍光樹脂を粒子状と成し、基体14である不織布を構成する繊維12の表面に被着・担持させることにより、上記蛍光物質担持体10を形成することができる。
【0018】
また、蛍光ガラスや蛍光樹脂等より成る蛍光繊維(図示せず)を用いて基体14である不織布を形成することにより、本発明の蛍光物質担持体10と成すこともできる。
以下において、ゾルゲル法によって、蛍光ガラスより成る蛍光繊維の形成方法を説明する。蛍光ガラスは、上記の通り、ガラス材料に蛍光材料を添加して形成される透明体である。ガラス材料としては、例えば、酸化物ガラス、珪酸系ガラス、フツ燐酸塩系ガラス等を用いることができる。また蛍光材料としては、例えば、希土類元素の2価及び3価のEu、Tb、Sm等、或いは、Mn、Zn等を単体或いは複数組み合わせて用いることができる。蛍光材料を構成するこれら元素の原子は、通常陽イオン状態となっており、紫外光等の光の照射を受けて励起され、イオン固有の色の可視光を発光するものである。
【0019】
ゾルゲル法は、SiO、ZnO、Y等の金属アルコキシドを出発物質として、その加水分解、重合反応を利用してガラスを合成するものであり、溶液状態から出発するため、希土類イオン等の蛍光材料を均一に添加することができるものである。
先ず、SiO、ZnO、Y等の金属アルコキシド、金属アセチルアセトネート、金属カルボキシレート等の金属有機化合物と、該金属有機化合物の加水分解のための水と、メタノール、DMF(ヂメチルフォルムアミド)等の溶媒と、アンモニア等、上記金属有機化合物の加水分解・重合反応の調整剤と、希土類元素の2価及び3価のEu、Tb、Sm等の蛍光材料(発光中心)とを調合し、均質で透明な溶液状態の蛍光ガラス材料を作製する。
【0020】
次に、上記溶液状態の蛍光ガラス材料を、例えば200℃程度の比較的低温で加熱等することにより、溶媒を蒸発させると共に、上記金属有機化合物の加水分解・重合反応を一部進行させて、溶液状態の蛍光ガラス材料を粘性ゾル状と成す。
次に、粘性ゾル状の蛍光ガラス材料を延伸した後、800℃〜1000℃の温度で加熱・焼成して、蛍光ガラス材料の重合を完全に進行させることにより、ゲル状の細長い蛍光繊維を形成し、この蛍光繊維を、所定の長さに切断すれば、蛍光ガラスより成る多数の蛍光繊維を形成することができる。
斯かる蛍光ガラスより成る多数の蛍光繊維を用いて基体14である不織布を形成すれば、上記蛍光物質担持体10が完成する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る蛍光物質担持体を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明に係る蛍光物質担持体を模式的に示す部分拡大図である。
【図3】本発明に係る蛍光物質担持体を構成する繊維を模式的に示す拡大図である。
【図4】本発明に係る蛍光物質担持体を構成する繊維を模式的に示す断面図である。
【図5】複合繊維を示す概略断面図である。
【図6】表面に蛍光体を担持させた織布を、蛍光物質担持体の基体の外面に接合した状態を模式的に示す正面図である。
【図7】表面に蛍光体を担持させた織布を模式的に示す平面図である。
【図8】従来の蛍光物質担持体を示す断面図である。
【符号の説明】
【0022】
10 蛍光物質担持体
12 繊維
14 基体
16 蛍光体
22 複合繊維
24 織布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の繊維が絡み合って形成された不織布で基体を形成すると共に、上記不織布を構成する繊維に、蛍光体、蛍光ガラス等の蛍光物質を担持したことを特徴とする蛍光物質担持体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−303527(P2008−303527A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203701(P2008−203701)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【分割の表示】特願2003−336825(P2003−336825)の分割
【原出願日】平成15年9月29日(2003.9.29)
【出願人】(000122690)岡谷電機産業株式会社 (135)
【Fターム(参考)】