説明

血液製剤浄化用材料および該材料を用いた浄化方法および浄化物

【課題】
本発明は、熱処理や膜濾過により殺菌あるいは菌の不活化することが難しい血球ならびに血漿を含む血液製剤から、赤血球、血小板もしくはアルブミンや血液凝固因子などの有用成分を保持した状態で、微生物、発熱性物質、細胞活性化物質、細胞活性化物質を産生する細胞ならびに薬剤などの除去対象物質を選択的に除去するための血液製剤浄化用材料、浄化方法および浄化物を提供することを課題とする
【解決手段】
尿素結合、チオ尿素結合、アミド結合、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、ピリジル基、ピリミジル基およびイミダゾール基のうちから選ばれる少なくとも一種の官能基が材料表面に固定されたことを特徴とする血液製剤浄化用材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体に投与するための赤血球製剤、全血製剤、合成血、新鮮凍結血漿、濃厚血小板、自己血液、臍帯血、造血幹細胞液など、熱処理や膜濾過により殺菌することが難しい細胞成分を含む血液製剤から、発熱性物質や発熱性物質を産生する細胞、微生物若しくは細胞活性化物質若しくは副作用の原因となるような薬剤などの有害成分を選択的に除去し、輸血時の副作用を軽減するための浄化用材料および該材料を用いた浄化方法あるいは該方法を用いて作製した細胞あるいは細胞を含む溶液を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
血液製剤は血球ならびに血漿を含んだ溶液であり、その特徴として、熱による滅菌が出来ないことがあげられる。加熱によりこれらの体液成分中の有用物質が失活してしまうためである。また、膜濾過による滅菌も知られているが、有用細胞と微生物などの除去対象成分の大きさが類似しているために、膜濾過によって有用細胞を保持したうえで、完全に無菌にすることは難しい。
【0003】
これまでに、体外循環材料として血液を浄化する材料は種々報告されてきている。例えば、サイトカインを除去する材料(特許文献1)やエンドトキシンを除去する液体処理カラム(特許文献2)が知られている。しかし、体外循環と異なり、血液製剤は採血後に長期間の保管を行うこと、また、保管後に製剤を体内に戻すという特別な操作を行うため、輸血や細胞移植等により、特有の副作用が発症することが知られており、血液製剤を浄化するための材料には体外循環による血液浄化材料とは異なった性能が要求される。また、血液製剤を作製するための血液の場合は、クエン酸を含む抗凝固剤を用いるため、カルシウムのキレートにより血小板の活性化が抑制されるなど体外循環時の抗凝固剤であるヘパリンやメシル酸ナファモスタットを用いる採血の場合と異なる条件での吸着性能を要求される。
【0004】
輸血等の細胞移植に伴う副作用発症の原因のひとつとしては、細菌汚染が知られており、採血あるいは骨髄採取時の穿刺部から保存液内への細菌混入が考えられる。例えば、冷蔵で保管する赤血球製剤でも長期保存によるエルシニア菌感染が問題となることもあり、常温保存が要求される血小板製剤では細菌汚染は、さらに重要な問題である。輸血においては、米国では21 例の細菌に汚染された血小板製剤によると考えられる敗血症死亡例(1986 年〜1991 年)がFDA(Food and Drug Administration:アメリカ食品医薬品局)に報告されている(非特許文献1)。実際、輸血による敗血症発生の頻度は,アメリカ合衆国では血小板製剤輸血5 万回につき1 回、赤血球輸血50万回につき1 回ともいわれ,輸血製剤の安全性を脅かす大きな要因となっている(非特許文献2、3)。本邦における血小板製剤の有効期限は採血後72 時間であるが、20〜24℃で振盪保存するため、細菌汚染が生じた場合には増殖して輸血後敗血症をひき起こす可能性がある。平成11年度〜16年度に日本赤十字社が実施した無菌試験の結果、血小板濃厚液では0.04%、赤血球濃厚液では0.05%の確立で菌が検出され(非特許文献4)、血液製剤の菌汚染は完全には防止することはできていない。血液製剤の細菌汚染を防ぐ方法には、1)採取時の消毒あるいは汚染血の除去により混入を防ぐ、2)細菌の増殖を最小限に抑える、3)汚染した製剤を検出する、4)細菌を何らかの方法で死滅させる、などの方法が考えられる。現在は献血においては、採血時の皮膚の消毒の徹底や、採取開始時に細菌が混入していると考えられる初流の30mLを廃棄することで採血血液中への細菌の混入を防ぐことが行われている(非特許文献5)が完全ではない。
【0005】
細菌混入の他に、血液製剤を投与したときの副作用として非溶血性の発熱が報告されている。非溶血性輸血副作用には、蕁麻疹、アナフィラキシー様反応、発熱反応、呼吸困難、輸血関連急性肺障害(TRALI)、血圧低下などがあげられる。血小板製剤の保存期間と輸血副作用の解析の結果、保存期間と輸血副作用の発生頻度および重篤度には関連があり、保存3日間を超えた製剤において副作用の頻度が高いことが報告された(非特許文献6)。そのため血液製剤の保存中に増加する発熱性物質あるいは細胞活性化物質によって輸血副作用が惹起される可能性が考えられた。1993 年、Muylleらは、細胞活性化物質である炎症性サイトカインであるインターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン−6(IL-6)、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α) に着目し、全血由来の血小板製剤において、これらのサイトカインが保存日数と混入白血球数に依存して増加すること、そのレベルは臨床症状を惹起しうるレベルであることを報告した(非特許文献7)。IL-1、IL-6、TNF-α はいずれも炎症反応の鍵となるメディエーターであり、また互いの相乗作用も知られている。IL-1 とTNF-α は、中枢でのプロスタグランジン合成を促し、そのプロスタグランジンは温度セットポイントを上昇させることで発熱を誘起する。またStack らは直接的な発熱作用はないものの、好中球走化作用を持つインターロイキン−8(IL-8) が高値になることを報告した。これらのサイトカインが、発熱などの非溶血性輸血副作用に関与することは、Muylleら及びHeddleらの臨床研究によって強く示唆されている(非特許文献8)。現在は、これらのサイトカインを産生する白血球を保存前に除去することにより保存中のサイトカイン濃度上昇を防止するために白血球除去フィルターによる前処理が行われている(特許文献3〜5)が副作用軽減には一定の効果はあるものの完全ではなく、さらに血小板製剤では保存中に血小板から産生されるRANTES、トランスフォーミング・グロウス・ファクター・ベータ1(TGF-β1)、可溶性血管皮細胞増殖因子(可溶性VEGF)、可溶性CD40 ligandが要因で非溶血性発熱が発症することが報告されている(非特許文献6)ことから、白血球除去に関係なく依然として非溶血性輸血副作用が発現している。また、白血球除去フィルターは白血球除去に特化したもので、産生されたサイトカインや細菌の除去性能は有していない。
【0006】
また、献血時に治療薬を服用している者は献血できないことになっているが、自己申告制であり、たとえ薬剤が混入した血液が血液製剤に混入したとしても、薬剤の検出は事実上不可能である。よって、薬剤が混入している血液製剤によって、非溶血性輸血副作用が発現している可能性も考えられる。
【特許文献1】特開2001−198213号公報
【特許文献2】特開平10−225515号公報
【特許文献3】特開平5−194243号公報
【特許文献4】特開平7−24066号公報
【特許文献5】特開平7−25776号公報
【非特許文献1】Japanese Journal of Transfusion and Cell Therapy, Vol. 52. No. 4 52(4):507-511, 2006.
【非特許文献2】Semin Hematol, Vol. 38(Suppl 11):20-26, 2001.
【非特許文献3】Dev. Biol, (Basel).108:59-67, 2002.
【非特許文献4】輸血情報0609-101、日本赤十字 血液事業本部 医薬情報課.
【非特許文献5】Japanese Journal of Transfusion Medicine, Vol. 49. No. 6 49(6):761- 766, 2003.
【非特許文献6】Japanese Journal of Transfusion Medicine, Vol. 47. No. 6 47(6):829- 836, 2002
【非特許文献7】Transfusion, 33(3):195-199, 1993.
【非特許文献8】N.Engl.J. Med., 331:625-628, 1994.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の従来技術の問題を解決し、熱処理や膜濾過により殺菌あるいは菌の不活化することが難しい血球ならびに血漿を含む血液製剤から、赤血球、血小板もしくはアルブミンや血液凝固因子などの有用成分を保持した状態で、微生物、発熱性物質、細胞活性化物質、細胞活性化物質を産生する細胞ならびに薬剤などの除去対象物質を選択的に除去するための血液製剤浄化用材料、浄化方法および浄化物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために下記の構成を有する。
1.尿素結合、チオ尿素結合、アミド結合、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、ピリジル基、ピリミジル基およびイミダゾール基のうちから選ばれる少なくとも一種の官能基が材料表面に固定されたことを特徴とする血液製剤浄化用材料。
2.下式に示す化学構造を材料表面に有することを特徴とする前記1に記載の血液製剤浄化用材料。
-X-(CH2)n-Y
X=尿素結合、チオ尿素結合、アミド結合および2級アミノ基、3級アミノ基のうちから選ばれる少なくとも一種の官能基
n=1〜20の整数
Y=水素、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基のうちから選ばれる少なくとも一種の官能基
3.直径100μm以下の繊維状担体により構成される前記1あるいは2に記載の血液製剤浄化用材料。
4.血液成分から発熱性物質、細胞活性化物質、細胞活性化物質を産生する細胞および薬剤を除去することを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載の血液製剤浄化用材料
5.前記発熱性物質が微生物あるいは微生物が産生する毒素であり、かつ前記細胞活性化物質がサイトカインおよび血小板活性化因子のいずれかであることを特徴とする前記4記載の血液製剤浄化用材料。
6.前記発熱性物質および細胞活性化物質の除去率が60%以上、かつ顆粒球の除去率が40%以上であることを特徴とする前記1〜5のいずれかに記載の血液製剤浄化用材料。
7.赤血球、アルブミンおよび血液凝固因子の除去率が30%以下であることを特徴とする前記1〜6のいずれかに記載の血液製剤浄化用材料。
8.前記1〜7のいずれかに記載された血液製剤浄化用材料を用いることを特徴とする血液製剤の浄化方法。
9.前記8記載の方法を用いて浄化された血液製剤。
【発明の効果】
【0009】
熱処理や膜濾過により殺菌あるいは不活化することが難しい血球ならびに血漿を含む溶液から有用成分を保持した状態で微生物、発熱性物質、細胞活性化物質、細胞活性化物質を産生する細胞ならびに薬剤を選択的に除去するための選択的除去材料および浄化方法および浄化物を提供することで、輸血時の副作用(蕁麻疹等のアレルギー反応、発熱、血圧低下等)の発症率が低く、安全性の高い血液製剤を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、熱処理や膜濾過により殺菌することが難しい血球ならびに血漿を含む溶液中から発熱性物質、細胞活性化物質、細胞活性化物質を産生する細胞ならびに薬剤を選択的に除去するための除去材料および該材料を用いた浄化方法あるいは該方法を用いて作製した血液製剤に関するものである。
【0011】
本発明において、血液製剤とは、濃厚赤血球、濃厚照射赤血球、洗浄赤血球、白血球除去赤血球、解凍赤血球濃厚液、合成血、新鮮凍結血漿、濃厚血小板、照射濃厚血小板、濃厚血小板HLA、人全血液、自己血液、臍帯血、造血幹細胞液等を指す。また、血液製剤浄化とは、上記の血液成分を献血または採取した時から、輸血または投与に用いるまでの期間中あるいは投与中に選択的浄化材料を用いて、血液製剤から微生物、発熱性物質、細胞活性化物質、細胞活性化物質を産生する細胞ならびに薬剤を選択的に除去処理することを言う。
【0012】
すでに水素結合を形成可能な化学構造を有しかつ材料の表面が微多孔質構造である材料が微生物除去性に優れていることは報告されている(特開2005−119号公報)。また、一方で、水素結合形成可能な官能基を有する材料がサイトカイン除去能に優れていることも報告されており(特開平10−147518号公報)、水素結合形成可能な官能基を有する材料がポリペプチド系抗生物質の除去に有用であることも報告されている(特開平10−85329号公報)。しかしながら、本発明においては、水素結合を形成可能な化学構造の内には、血液製剤中に含まれる細胞を活性化させてしまう化学構造が存在することを見出した。例えば、細胞を活性化しやすい官能基として水酸基があり、これを材料表面に有する場合は補体活性化作用が強い。また4級アミノ基の種類によっては溶血性を示す場合があり、これらの官能基が単独で高密度に表面に存在する材料は、本発明から除外されるものである。よって、本発明においては、材料表面に固定される官能基として、尿素結合、チオ尿素結合、アミド結合、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、ピリジル基、ピリミジル基、イミダゾール基のうちから選ばれる少なくとも一種の官能基に限定した。これらの官能基は、材料そのものが有する官能基ではなく、官能基を有する物質が材料に導入固定されるものである。
また、細胞成分を含んだ溶液中の有用成分には、尿素結合、チオ尿素結合、アミド結合、アミノ基を有する材料と親和性を有する場合があり、かかる有用成分の除去をできるだけ少なくするためには、材料の有する尿素結合、チオ尿素結合等の数を減少させ、それ以外の官能基で除去成分と親和性を有する官能基を導入し、除去成分の除去率を維持しつつ有用成分の除去率を低減すればよい。尿素結合、チオ尿素結合、アミド結合、アミノ基等の水素結合を形成する官能基以外の親和性を有する置換基としては疎水性基、中でも、炭素数4以上の脂肪族置換基あるいは芳香族置換基等の疎水性基を導入して固定することが好ましい。炭素数4以上の脂肪族の疎水性基としては、具体的には、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、芳香族置換基としてはベンジル基、フェニル基、3,3ジフェニルプロピル基等の炭化水素を含んだ化合物が挙げられる。また、サイトカイン等の発熱性成分を除去する性能を向上させる場合には、疎水性基の鎖長を制御し、官能基のlogP値(水/オクタノール分配係数)を2.5以上にすることなどが挙げられる。また、上記官能基を有する構造の内、下記構造を有する場合、スーパー抗原、サイトカインならびに細菌が除去されやすい。
-X-(CH2)n-Y
X=尿素結合、チオ尿素結合、アミド結合および2級あるいは3級アミノ基のうちから選ばれる少なくとも一種の官能基
n=1〜20の整数
Y=水素、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基のうちから選ばれる少なくとも一種の官能基
上記構造において、n数が増えると疎水性が増すが、n=2〜16がより好ましい。
【0013】
2種類以上の官能基が共存しているときの単位面積あたりあるいは単位重量あたりの官能基数の比を変化させる方法としては、全ての化合物を所定の比率で混合した溶液を反応させる1段階反応や、1回の反応で1種類の化合物を反応させ、反応させる化合物の数だけ反応を行う多段階反応のいずれもが用いられるが、操作の簡易さや反応時間の短縮等を考慮すると1段階反応が好ましい。これらの官能基や置換基を材料表面に導入する方法としては特に限定はなく、これらの官能基を側鎖あるいは主鎖に有するポリマーを合成した後に担体に成型する方法や、繊維等の表面にこれらの官能基を有する材料をコーティングする方法、あるいは担体を成形後に化学反応を用いて、担体表面に官能基を導入する方法が考えられる。ここで、示した担体の材料表面とは、血液製剤の浄化に用いたときに、血液製剤中の成分と直接接触する境界面を指す。
【0014】
また、該尿素結合、チオ尿素結合、アミド結合、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、ピリジル基、ピリミジル基およびイミダゾール基の仕込み量としては、少なすぎると発熱性物質、細胞活性化物質、細胞活性化物質を産生する細胞および薬剤の除去性能が得られにくくなる。また、多すぎると赤血球、アルブミンおよび血液凝固因子の除去率に影響を与えてしまう。例えば、ポリエチレンイミンを用い、さらにイソシアネートを反応させてアミノ基と尿素結合の両方を有する官能基を用いる場合、該ポリエチレンイミンの窒素数としては2から10が好ましい。また、反応性官能基としてクロルアセトアミドメチル基を有するポリスチレンにテトラエチレンペンタミンおよびクロロフェニルイソシアネートを反応させて固定化する場合、仕込量としてはポリスチレン繰り返し単位あたりテトラエチレンペンタミン0.005〜100.0モル、クロロフェニルイソシアネート0.005〜100.0モルが好ましく、テトラエチレンペンタミン0.01〜20.0モル、クロロフェニルイソシアネート0.01〜20.0モルがより好ましい。
血液成分から除去される対象物としては、人体や動物体内等の生体内に取り込まれた場合に体温の上昇を誘発する発熱性物質、血液製剤の保管中に細胞を活性化させる、あるいは輸血した後に、人体や動物体内等の生体内に取り込まれて生体内の細胞を活性化し、体温上昇やアレルギー誘導、血圧低下を誘導する細胞活性化物質あるいは血液製剤の腐敗防止や病気の治療等に用いられる薬剤が挙げられる。
【0015】
血液成分とは、献血時ならびに献血後に保存される濃厚赤血球、濃厚照射赤血球、洗浄赤血球、白血球除去赤血球、解凍赤血球濃厚液、合成血、新鮮凍結血漿、濃厚血小板、照射濃厚血小板、濃厚血小板HLA、洗浄血小板、人全血液、自己血液、臍帯血、造血幹細胞液等を指す。発熱性物質としては、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、連鎖球菌、アクネ菌等のグラム陽性細菌、あるいは大腸菌、緑膿菌等のグラム陰性細菌、あるいはアスペルギルス菌、カンジタ菌、等の真菌等の微生物や、あるいはこれらの微生物が産生する毒素、例えば、黄色ブドウ球菌の毒素である、黄色ブドウ球菌発熱性外毒素A(以下SEAと略す)、黄色ブドウ球菌発熱性外毒素B、黄色ブドウ球菌発熱性外毒素C、トキシックショックシント゛ロームトキシン―1(以下TSST-1と略す)、溶血毒素、ロイコシジン、コアグラーゼやプロテインA、コレラ菌のコレラ毒素、出血性大腸菌や赤痢菌の産生するベロ毒素、緑膿菌の産生する外毒素A、連鎖球菌の産生する発熱性外毒素などの分泌性の毒素や、リポポリサッカライド等の細菌自体を構成する化合物や細菌の遺伝子構成成分であるデオキシリボ核酸等が挙げられる。
【0016】
また、細胞活性化物質としては、白血球や血小板が産生するサイトカイン、たとえばインターロイキン−1β、インターロイキン−6、インターロイキン−8、腫瘍壊死因子−アルファ、RANTES、ベータ−トロンボグロブリン、血小板因子−4、トランスグローミングファクターβ1(TGF-β1)、可溶性血管内皮細胞増殖因子(可溶性VEGF)、可溶性CD40 ligand、sphingosine 1-phosphate、血小板活性化因子等が挙げられる。さらに、血小板から放出する細胞活性化物質は、血小板製剤では重要視されている。血小板製剤とは、血液成分のうち血小板のみを濃縮したものであるが、血小板より放出される細胞活性化物質が起因して輸血副作用が発現する。つまり、献血時に白血球除去をすることによって、白血球から放出される細胞活性化物質に起因する輸血副作用は軽減できるものの、血小板製剤では軽減処置ができない。また血小板製剤は22〜24℃で振盪保存することにより、細胞活性化物質の産生はしやすく、さらに細菌の増殖も容易な環境のため、血小板製剤中の細胞活性化物質の除去は有用性が高い。
【0017】
また、細胞活性化物質を産生する細胞としては、血液製剤に含まれる白血球が挙げられる。本発明でいう顆粒球とは好中球、単球、好酸球、好塩基球を示す。白血球の中でも活性化した好中球、単球、好酸球、好塩基球などの顆粒球は血液製剤保存中に細胞活性化物質を放出し、発熱、血圧低下、アレルギーなどの輸血副作用を惹起させる。またこれら細胞活性化物質の産生は、細菌汚染がみられた血液製剤では異常に亢進する。
【0018】
また、薬剤とは、血液に直接投与される薬剤、もしくは経口投与されて血中に存在する薬剤を示すものであり、抗生剤、抗真菌剤、解熱鎮痛剤、血圧降下剤、免疫抑制剤等が挙げられる。例えば、抗生剤としてはセファクロル、セフトリアキソン等のセフェム系抗生剤、ペニシリンG等のペニシリン系抗生剤、ゲンタマイシン、アミカシン、アルベカシン等のアミノグリコシド系抗生剤、バンコマイシン等のポリペプチド系抗生剤、クリンダマイシン等のリンコマイシン系抗生剤、レボフロキサシン等のキノロン系抗生剤等が挙げられ、抗真菌剤としてはアンフォテリシンBやミコナゾール等が挙げられ、解熱鎮痛剤としてはアセトアミノフェンが、免疫抑制剤としてはシクロスポリンA、タクロリムス等が挙げられる。その他にも、血圧降下剤、昇圧剤、ステロイド剤、利尿剤等が挙げられる。
【0019】
本発明において、血球成分とは赤血球成分、血小板成分あるいは顆粒球やリンパ球より構成される白血球成分を指し、中でも酸素運搬能を有する赤血球や血液凝固に重要である血小板は有用な成分である。また、有用な血漿成分とはアルブミン、グロブリンあるいはエンドトキシンとの結合活性を有するリポタンパク質などの血漿蛋白質成分、脂質成分、糖類成分あるいはホルモンやビタミン等が考えられる。電解質成分は体内の浸透圧の維持や神経や蛋白質が機能する上で重要な作用があり、本発明における血中電解質成分としては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、鉄イオン、マンガンイオン、クロールイオン等の陽イオンや塩素イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、重炭酸イオン等の陰イオンのいずれをも含む。
【0020】
本発明に係る血液製剤浄化用材料は、上記した「発熱性物質、細胞活性化物質、細胞活性化物質を産生する細胞および薬剤」を除去するものであるが、発熱性物質あるいは細胞活性化物質またはこれら両方の除去率が60%以上であり、かつ、顆粒球の除去率が40%以上であることが好ましい。
【0021】
また、赤血球、アルブミンおよび血液凝固因子の除去率が30%以下であることが好ましい。
【0022】
また、これらの物質の除去率の測定法としては種々考えられ、その違い、例えば除去材料と血液製剤または血液製剤を調製する前の溶液との体積比や被除去液中の夾雑物濃度や接触時間、撹拌の有無等により除去率が変動すると考えられる。
【0023】
本発明における除去率の測定を以下に示す。
【0024】
血球成分または血小板成分および血漿成分を含む溶液の除去試験では被除去物の溶液中の除去前初期濃度、初期菌液の濃度、あるいは初期血球数をCとし、浄化材料と接触させることによって浄化物を作製し、除去後の溶液中の濃度、菌液の濃度あるいは血球数をCとし、以下の算出方法により除去率(%)を求める。
【0025】
(C−C)/C ×100・・・・・・(1)式
また、本除去率を変動させる要因として被除去物質が含まれた溶液を除去材料に接触させる時間によって影響を与えることがしばしばある。よって、本除去率を測定する場合の接触時間を1〜10min.の条件で測定することにした。接触時間の算出方法は以下の通りである。
【0026】
接触時間(min.)=浄化材料の体積(cm3)/被除去物質が含まれた溶液の流量(mL/min.)
血液、血小板成分や血漿成分を含む溶液を試料として用いる場合には、健常成人より採血したヒトの試料を用いて試験を行う。抗凝固剤としては血液製剤を製造する際に使用する、クエン酸系の抗凝固剤であるCPD(Citrate Phosphate Dextrose)液やACD−A(Acid Citrate Dextrose-A)液を用いることが可能である。また、赤血球系製剤の場合は、赤血球機能の維持のためにMAP液が使用されるが、これらの溶液を含んでいてもよい。さらに、抗凝固剤としてヘパリン、メシル酸ナファモスタット、EDTAなども使用することができる。
【0027】
また、抗生剤等の薬剤の除去率の測定は0.15M塩化ナトリウムを含む0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)中に5mg/mlの濃度になるように牛血清アルブミン(フラクションV)を溶解させた溶液を用いる。これらについても上式(1)を用いて除去率を計算した。
【0028】
本発明において、材料の形態としては特に限定はなく、ビーズ、繊維、中空繊維、糸束、ヤーン、フェルト、スポンジ、ネット、編み地、織物等が用いられるが、溶液の浄化および細胞の選択的濾過材としてカラムやフィルターに充填して用いる場合には、繊維、布、ビーズ、フェルト、スポンジ、ネットが好ましく用いられる。また、繊維を用いた場合は繊維径によって除去性能がことなる場合がある。除去材料作製後の平均繊維径は100μm以下が好ましいが、細胞活性化物質を産生する顆粒球の除去性能を向上させるためには、活性化した顆粒球が接着しやすい10μm以下の繊維直径であることがより好ましい。平均繊維径の算出方法は、作製後の繊維をランダムに10視野以上を走査型電子顕微鏡により撮影し、その画像をさらに5箇所以上任意に選択し、画像解析ソフト等を用いて繊維径を計測し、その平均繊維直径を算出した。
【0029】
また、本材料は単独での使用のみならず、適当な基材に固定して他材料と混合して一つのカラムとして用いることもできる。固定化あるいは混合などの操作は、上記形状に加工する前に行っても良いし、加工した後に行っても良い。
【0030】
血液製剤の浄化方法としては、例えば、献血や採血時もしくは献血や採血後の保存前もしくは保存後の輸血前もしくは輸血時に血液製剤浄化用材料を内蔵する血液回路中に血液を通過させることにより実施することが出来る。また、浄化する対象はクエン酸系の抗凝固剤であるCPD液またはACD液、EDTA、ヘパリンなどの抗凝固剤を添加した全血や、濃厚赤血球、濃厚照射赤血球、洗浄赤血球、白血球除去赤血球、解凍赤血球濃厚液、合成血、新鮮凍結血漿、濃厚血小板、照射濃厚血小板、濃厚血小板HLA、人全血液、自己血液、臍帯血、造血幹細胞液を調製する前の血液や、調製した後の血液製剤を対象に浄化することができる。また、血液製剤浄化用材料を内蔵する血液回路には特に限定はなく、血液導入部および血液浄化材料格納部および血液導出部を有していればよく、抗凝固剤等の薬剤等の入用経路を有していることがより好ましい。また、血液回路中に本発明に記載の血液製剤浄化用材料の他に、白血球除去フィルター、カリウム吸着材料、微小凝集塊除去フィルターなどの他の除去用材料を内蔵していることや市販の医療用具製品との併用も考えられる。また、血小板製剤については、洗浄血小板を調製する際に、その操作過程で浄化することも可能である。
【0031】
血液浄化用材料の形態としては特に限定はなく、円筒状容器に綿状あるいは平膜をパイプに巻き付けた状態あるいは平膜を2枚の平板に挟み込んだ状態など、血液製剤浄化用材料の表面あるいは繊維の間を処理すべく血液が通過し接触するものであればよい。
【0032】
また、本発明における浄化物とは、上記の様に、血液製剤浄化用材料を充填した容器中を通過して除去成分を浄化する方法等により浄化した後の、濃厚赤血球、濃厚照射赤血球、洗浄赤血球、白血球除去赤血球、解凍赤血球濃厚液、合成血、新鮮凍結血漿、濃厚血小板、照射濃厚血小板、濃厚血小板HLA、人全血液、自己血液、臍帯血、造血幹細胞液のことである。該浄化物は、血液回路に取り付けられた保存用の容器内に貯留する、あるいは浄化後に浄化物をそのまま輸血することも可能である。保存中に除去対象物質濃度が血液製剤中で上昇する可能性がある場合には、保存前および輸血前の2段階でそれぞれ血液製剤浄化用材料により血液製剤を浄化することも考えられる。
【0033】
以下に実施例を用いて発明の詳細を記載するが、発明の内容が実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
<反応性ポリスチレン繊維への尿素結合含有化合物の導入:繊維Aの作製>
50重量比の海成分(46重量比のポリスチレンと4重量比のポリプロピレンの混合物
)と50重量比の島成分(ポリプロピレン)とからなる米国特許第4,661,260 号
明細書に記載の海島型複合繊維(厚さ:2.6デニール、島の数:16)50g(コントロール繊維Aとする)を50gのN−メチロール−α−クロロアセトアミド、400gのニトロベンゼン、400gの98重量%硫酸及び、0.85gのパラホルムアルデヒドからなる混合溶液中に浸し、20℃で1時間反応させた。繊維を反応溶液から取り出し、0℃の氷水5L中に投じて反応を停止させた後、水で洗浄し、次に、繊維に付着しているニトロベンゼンをメタノールで抽出除去した。この繊維を50℃で真空乾燥して、クロロアセトアミドメチル化架橋ポリスチレン繊維(以下AMPSt繊維と略す)71gを得た。
【0035】
テトラエチレンペンタミン2.90gをジメチルスルホキシド(以下DMSOと略す。)500mlに溶解した。この溶液に20gのAMPSt繊維(クロロ含量20mmol相当)を攪拌しつつ加えた。反応は25℃で6時間行った。その後AMPSt繊維をガラスフィルター上でDMSO500mlを加えて洗浄した。洗浄後、0.49gのパラクロロフェニルイソシアネートを溶解したDMSO150mlの溶液中にAMPSt繊維を3g加えた。反応は25℃で1時間行った。その後、ガラスフィルター上で60mlのDMSO及び蒸留水で洗浄した。最後に、ガラスフィルター上で反応後の繊維を3Lの蒸留水および生理食塩水で洗浄して−NH-((CH2)2NH)4-CO-NH-Ph-Clで示される官能基を付与した繊維(繊維A)を得た。繊維Aをランダムに20視野につき日立製作所製 走査型電子顕微鏡S−800より写真を撮影し、その写真をさらに5箇所任意に選択し画像解析ソフトWin ROOF(日本海計測特機株式会社)を用いて繊維径を計測した。その結果、平均繊維直径は56μmであった。
<反応性ポリスチレン繊維への尿素結合含有化合物の導入:繊維Bの作製>
36島の海島複合繊維であって、島が更に芯鞘複合によりなるものを、次の成分を用いて、紡糸速度800m/分、延伸倍率3倍の製糸条件で得た。
【0036】
島の芯成分;ポリプロピレン
島の鞘成分;ポリスチレン90wt%、ポリプロピレン10wt%
海成分;エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とし、共重合成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸3重量%含む共重合ポリエステル
複合比率(重量比率);芯:鞘:海=40:40:20
この繊維70wt%と、直径25μmのポリプロピレン繊維30wt%からなるシート状物を作製した後、ニードルパンチすることによって不織布を得た。この不織布を90℃の水酸化ナトリウム水溶液(3wt%)で処理して海成分の「エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とし、共重合成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸3重量%含む共重合ポリエステル」を溶解することによって、芯鞘繊維の直径が4μmで、嵩密度が0.05g/cm(総目付200g/m)の不織布を作製した(コントロール繊維B)。50gのN−メチロール−α−クロロアセトアミド、400gのニトロベンゼン、400gの98重量%硫酸及び、0.85gのパラホルムアルデヒドからなる混合溶液中に浸し、20℃で1時間反応させた。不織布を反応溶液から取り出し、0℃の氷水5L中に投じて反応を停止させた後、水で洗浄し、次に、不織布に付着しているニトロベンゼンをメタノールで抽出除去した。この不織布を50℃で真空乾燥して、クロロアセトアミドメチル化架橋ポリスチレン不織布(以下AMPSt不織布と略す)68gを得た。
【0037】
次に、n−セチルアミン3.9gをDMSO500mlに溶解した。この溶液に、20gのAMPSt不織布(クロロ含量20mmol相当)を攪拌しつつ加えた。反応は25℃で6時間行った。その後AMPSt不織布をガラスフィルター上でDMSO500mlを加えて洗浄した。その後、ガラスフィルター上で60mlのDMSO及び蒸留水で洗浄した。最後に、ガラスフィルター上で反応後の不織布を3Lの蒸留水および生理食塩水で洗浄して-NH-(CH2)16-Hで示される官能基を含有する化合物を付与した不織布(繊維B)を得た。繊維Bを繊維Aと同様な方法で繊維径を計測した。その結果、平均繊維直径は8μmであった。
(実施例2)血液中の微生物に対する除去特性
4人の正常ヒトから血液をそれぞれ100mL採取し、14mLのCPD液(組成:クエン酸ナトリウム26.3g/L、クエン酸3.27g/L、グルコース23.20g/L、リン酸二水素ナトリウム二水和物2.51g/L)をそれぞれの血液に加えて調製した全血溶液114mLに表皮ブドウ球菌Staphylococcus epidermidis(ATCC14990)を10 cfu/mLとなるよう添加した(ヒトa血液)。また、黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureus(ATCC 6538)、緑膿菌Pseudomonas aeruginosa(ATCC 9027)、大腸菌Escherichia coli(ATCC 8739)も同様にして全血溶液114mLにそれぞれの菌を10cfu/mLとなるよう添加した。このようにして調製された血液をそれぞれヒトb血液、ヒトc血液およびヒトd血液とする。次に、それぞれのヒト血液を25mLずつ4つに分注した。つぎに、実施例1で作製した繊維AまたはB、コントロール繊維AまたはBを充填したフィルターにて処理した。充填した血液製剤浄化用材料の容量は繊維A、Bならびにコントロール繊維A、Bともに10cm3とした。血液流量は10mL/min.とし、接触時間は1min.とした。またいずれのフィルターもγ線滅菌を実施した。次に、処理した後の血液を1mL採取し、その血液を培養し生菌数を確認し除去率を算出した。培地はSCD(Soybean Casein Digest)寒天培地(メルク(株))を用い、37℃で4日間の培養を行った。除去率は表1に示すとおりである。
【0038】
除去率(%)の算出方法は、以下の通りである。
【0039】
(C−C)/C×100・・・・・・(1)式
:除去前の溶液中の初期菌液の濃度、Cは除去後の溶液中の菌液の濃度である。
このように、微生物除去試験においてはコントロール繊維AおよびB(化学修飾前の繊維)では試験中に微生物が増殖してしまうのに対して、繊維Aおよび繊維Bでは繊維に微生物が吸着されることで菌数の低下が認められた。
【0040】
【表1】

【0041】
(実施例3)血液中の血球成分およびアルブミンに対する除去特性。
【0042】
実施例2で示した黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureus(ATCC 6538)を含むヒト血液bを処理した前後の血液を2mLずつ採取し赤血球数、白血球数、白血球分画(好中球数、単球数)、血小板数を自動血球計測装置(Sysmex XT-1800i)を用いて測定した。その結果は表2に示す。さらに、同様にしてフィルター処理前後の血液をそれぞれ2mLずつ採取し遠心分離して得られた血漿中のアルブミンを生化学分析装置(フジドライケム フジフィルム(株))を用いて測定し、血液凝固第8因子については、凝固時間法により測定した。その結果は表3に示した。
除去率(%)の算出方法は、以下の通りである。
【0043】
(C−C)/C ×100・・・・・・(1)式
:除去前の溶液中の初期血球数、初期濃度あるいは初期%、Cは除去後の溶液中の血球数、濃度あるいは%である。
【0044】
このように、血液中の血球成分およびアルブミンに対する除去特性は、赤血球やアルブミンの有用成分の除去率は30%以下であり、血液凝固第8因子の除去率についても30%以下であったが、細菌によって活性化された顆粒球(好中球、単球)は60%以上の除去率が認められた。なお、顆粒球は繊維径が細い繊維Bの方が高率に除去できることが示された。
【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
(実施例4)血小板成分および血漿成分を含む溶液中の微生物およびアルブミンおよび血液凝固因子に対する除去特性。
【0048】
4人の正常ヒトから血液をそれぞれ200mL採取し、28mLのCPD液(組成:クエン酸ナトリウム26.3g/L、クエン酸3.27g/L、グルコース23.20g/L、リン酸二水素ナトリウム二水和物2.51g/L)を加えて調製した全血228mLを室温で750 g×5分間遠心分離して、その血小板成分および血漿成分を分離して得られた血小板成分および血漿成分を含む溶液100mLを調製した。その溶液に表皮ブドウ球菌Staphylococcus epidermidis(ATCC14990)を10 cfu/mLとなるよう添加した(ヒトe溶液)。また、黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureus(ATCC 6538)、緑膿菌Pseudomonas aeruginosa(ATCC 9027)、大腸菌Escherichia coli(ATCC 8739)も同様にして血小板成分および血漿成分を含む溶液100mLにそれぞれの菌を10 cfu/mLとなるよう添加した。このようにして調製された溶液をそれぞれヒトf溶液、ヒトg溶液およびヒトh溶液とする。次に、それぞれのヒト血液を25mLずつ4つに分注し、実施例1で作製した繊維AまたはB、コントロール繊維AまたはBを充填したフィルターにて処理した。充填した血液製剤浄化用材料の容量は繊維A、Bならびにコントロール繊維A、Bともに10cm3とした。血液流量は輸血時を想定し、1mL/min.とし、接触時間は10min.とした。またいずれのフィルターも121℃、20分間の蒸気滅菌を実施した。次に、処理した後の血液を1mL採取し、その血液を培養し生菌数を確認し除去率を算出した。培養方法ならびに除去率の算出方法は実施例2と同様とした。
その結果は表4に示した。
【0049】
このように、血球成分を含まない血小板および血漿成分を含む溶液においても、微生物除去試験においてはコントロール繊維AおよびB(化学修飾前の繊維)では試験中に微生物が増殖してしまうのに対して、繊維Aおよび繊維Bでは繊維に微生物が吸着されることで菌数の低下が認められた。
【0050】
【表4】

【0051】
(実施例5)血小板成分および血漿成分を含む溶液に対する除去特性。
【0052】
実施例4で示した緑膿菌Pseudomonas aeruginosa(ATCC 9027)を含むヒト血液gを処理した前後の血液を2mLずつ採取し、実施例3と同様にしてフィルター処理前後の血液をそれぞれ2mLずつ採取し遠心分離して得られた血漿中のアルブミンを生化学分析装置(フジドライケム フジフィルム(株))を用いて測定し、血液凝固第8因子については、凝固時間法により測定した。その結果は表5に示した。
除去率(%)の算出方法は、以下の通りである。
【0053】
(C−C)/C ×100・・・・・・(1)式
:溶液中の初期濃度あるいは初期%、Cは除去後の溶液中の濃度あるいは%である。
【0054】
このように、血球成分を含まない血小板および血漿成分を含む溶液においても、アルブミンに対する除去率は30%以下であり、血液凝固第8因子の除去率も30%以下であることが示された。
【0055】
【表5】

【0056】
(実施例6)血小板成分および血漿成分を含む溶液中の細胞活性化物質に対する除去特性
正常ヒトから血液を50mL採取し、7mLのCPD液(組成:クエン酸ナトリウム26.3g/L、クエン酸3.27g/L、グルコース23.20g/L、リン酸二水素ナトリウム二水和物2.51g/L)を加えて調製した全血57mLを室温で750 g×5分間遠心分離して、その血小板成分および血漿成分を分離して得られた血小板成分および血漿成分を含む溶液25mLを調製した。その溶液にヒト天然型IL−1、IL−6、IL−8および黄色ブドウ球菌発熱性外毒素A(SEA)、トキシックショックシント゛ロームトキシン―1(TSST-1)を添加し、これらの濃度がそれぞれ500pg/mLとなるように調製した。
【0057】
次に、実施例1で作製した繊維AまたはB、コントロール繊維AまたはBを充填したフィルターにて処理した。充填した血液製剤浄化用材料の容量は繊維A、Bならびにコントロール繊維A、Bともに10cm3とした。血液流量は輸血時を想定し、1mL/min.とし、接触時間は10min.とした。またいずれのフィルターも25kGyのγ線滅菌を実施した。次に、除去前後のサイトカイン量を求め除去率を算出した。定量にはEIA法を用い、市販のキット(IL−1:R&D System社製ヒトIL−1βELISAキット、IL−6、IL−8、SEAおよびTSST−1:(株)鎌倉テクノサイエンス製)を用いた。その結果を表6に示す。
【0058】
このように、細胞活性化物質であるIL−1β、IL−6、IL−8、SEAおよびTSST−1が除去率60%以上で除去されることが示された。
【0059】
【表6】

【0060】
(実施例7)タンパク溶液中の薬剤の除去特性
タンパク溶液中の薬剤の除去率の測定は0.15M塩化ナトリウムを含む0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)中に5mg/mlの濃度になるように牛血清アルブミン(フラクションV)を溶解させた溶液25mL調製した。薬剤はバンコマイシン、ペニシリンGおよびアドレナリンとし、初期濃度をバンコマイシンおよびアドレナリンは50μg/mL、ペニシリンGは300μg/mLとした。薬剤が添加されたタンパク溶液を実施例1で作製した繊維AまたはB、コントロール繊維AまたはBを充填したフィルターにて処理した。充填した血液製剤浄化用材料の容量は繊維A、Bならびにコントロール繊維A、Bともに10cm3とした。血液流量は10mL/min.とし、接触時間は1min.とした。またいずれのフィルターも121℃、20分の蒸気滅菌を実施した。次に、除去前後の薬剤の濃度を測定し除去率を算出した。測定方法は、バンコマイシンは蛍光偏光免疫測定法で、ペニシリンGおよびアドレナリンはHPLCで測定した。その結果を表7に示す。
【0061】
このように、タンパク溶液中に含まれるバンコマイシン、ペニシリンGおよびアドレナリンは除去率60%以上で除去できることが示された。
【0062】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿素結合、チオ尿素結合、アミド結合、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、ピリジル基、ピリミジル基およびイミダゾール基のうちから選ばれる少なくとも一種の官能基が材料表面に固定されたことを特徴とする血液製剤浄化用材料。
【請求項2】
下式に示す化学構造を材料表面に有することを特徴とする請求項1に記載の血液製剤浄化用材料。
-X-(CH2)n-Y
X=尿素結合、チオ尿素結合、アミド結合および2級アミノ基、3級アミノ基のうちから選ばれる少なくとも一種の官能基
n=1〜20の整数
Y=水素、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基のうちから選ばれる少なくとも一種の官能基
【請求項3】
直径100μm以下の繊維状担体により構成される請求項1あるいは2に記載の血液製剤浄化用材料。
【請求項4】
血液成分から発熱性物質、細胞活性化物質、細胞活性化物質を産生する細胞および薬剤を除去することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の血液製剤浄化用材料
【請求項5】
前記発熱性物質が微生物あるいは微生物が産生する毒素であり、かつ前記細胞活性化物質がサイトカインおよび血小板活性化因子のいずれかであることを特徴とする請求項4記載の血液製剤浄化用材料。
【請求項6】
前記発熱性物質および細胞活性化物質の除去率が60%以上、かつ顆粒球の除去率が40%以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の血液製剤浄化用材料。
【請求項7】
赤血球、アルブミンおよび血液凝固因子の除去率が30%以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の血液製剤浄化用材料。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載された血液製剤浄化用材料を用いることを特徴とする血液製剤の浄化方法。
【請求項9】
請求項8記載の方法を用いて浄化された血液製剤。