説明

衝撃吸収構造体及び人体保護具

【課題】衝撃吸収性、柔軟性、通気性、軽量性、環境温度維持性の全てを、高い次元で満足する衝撃吸収構造体及び人体保護具を提供すること。
【解決手段】外形形状が球状体であり、外部から加わる外力の大きさと方向に応じて弾性変形する複数の弾性球状体4と、複数の弾性球状体4を平面状または線状に集合させた弾性球状体4間に設けられ、複数の弾性球状体4の互いに乖離する対向球面により複数の貫通空隙を確保するとともに、外部から加わる構造体変形力に従って構造体形状が変形可能なように剛性を低く持たせて結合した軟結合構造5とを備えたものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃吸収構造体及び人体保護具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、人体保護具が知られ、装着時における蒸れの発生を防止する構成としたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この人体保護具は、ガンベルト状のベルトのポケットに緩衝体を収納して人体を衝撃から保護するものである。この緩衝体は、変形復元性を有する多孔質体と、この多孔質体を気密に包み込む袋体と、緩衝体の内部に気体を吸入させる吸気手段と、緩衝体の外部に気体を排出させる排気手段とを備えている。
【0004】
一方、従来から一般的にヘルメット用の緩衝材として発泡スチロールが知られており、ヘルメット裏面の曲面に沿って一様な半球を形成するように加工成形されてヘルメット裏面に設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−119956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の特許文献1の人体保護具の緩衝機能を発揮する多孔質体にあっては、柔軟性、軽量性に優れるが、人体に装着して使用するものであるので、特に夏場の装着による素材温度の上昇により、衝撃吸収性の低下や装着時の蒸れ等を生じさせる。
【0007】
この多孔質体は通気性が低いことから環境温度維持性が低く(温度が高くなりやすく)、また、比較的に尖った物等に対する衝撃吸収性も低い等、不都合な点が数多くみられた。
【0008】
一方、一般的なヘルメット用の緩衝材として用いられる発泡スチロールは、衝撃吸収性、軽量性は高いが、通気性、環境温度維持性能および柔軟性に乏しく、使用者の快適性の低下、ひいては、ヘルメット嫌いなどに繋がっている。
【0009】
また、その他の一般的に知られている緩衝材についても、上述したような一長一短があり、衝撃吸収性・柔軟性・通気性・軽量性・環境温度維持性の全ての性能を高い次元で満足するとは言い難い。
【0010】
そこで、本発明は、上記問題に着目してなされたものであり、衝撃吸収性、柔軟性、通気性、軽量性、環境温度維持性の全てを高い次元で満足する衝撃吸収構造体および人体保護具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の衝撃吸収構造体では、外形形状が球状であり、外部から加わる外力の大きさと方向に応じて弾性変形する複数の弾性球状体と、
前記複数の弾性球状体を平面状または線状に集合させた前記弾性球状体間に設けられ、前記複数の弾性球状体の乖離する対向球面により複数の貫通空隙を確保するとともに、外部から加わる構造体変形力にしたがって構造体形状が変形可能なように剛性を低く抑えて結合した軟結合構造と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の衝撃吸収構造体によれば、弾性球状体が球状であるために、全方位からの衝撃吸収性能を発揮する。また、弾性球状体間に形成された貫通空隙により高い通気性、軽量性が得られる。さらに、弾性球状体同士が「軟結合」されているので、この構造が設けられた部分の形状に追従変形するような高い柔軟性が得られる。また、通気性が高いので、通気性が低いことによる「蒸れ」や「熱のこもり」などの問題が発生せず、弾性球状体の周囲の環境温度が、上記衝撃吸収性が好適に発揮される環境温度から外れにくいものとなる。
【0013】
すなわち、本発明の衝撃吸収構造体は、衝撃吸収性、柔軟性、通気性、軽量性、環境温度維持性の全てを、高い次元で満足することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1の衝撃吸収構造体を有する保護帽子を示す外観図である。
【図2】実施例1の保護帽子の断面(模式図)を示し、衝撃を受けたときの作用を説明する図である。
【図3】(a)は、図2の保護帽子の側部に設けられた衝撃吸収構造体の平面図である。(b)は、その部分断面図を示し、(c)は、その斜視図を示す。
【図4】(a)は、図1および図2に示す保護帽子の頂天部の内部に設けた衝撃吸収構造体を示す平面図であり、(b)はその側面図である。
【図5】実施例1の衝撃吸収構造体が軟結合により構造変形した状態を示す作用説明図である。
【図6】(a)は、実施例1の衝撃吸収構造体の構造単位である弾性球状体の具体的な構造を示し、弾性球状体の通気孔による通気性を説明する図である。(b)は、弾性球状体が衝撃を吸収して弾性変形した状態を示す図である。
【図7】(a)は、実施例2の衝撃吸収構造体の平面図であり、(b)は、その側面図である。
【図8】(a)は、実施例3の衝撃吸収構造体を示す平面図であり、(b)は、その側面図である。
【図9】(a)は、実施例4の衝撃吸収構造体を示す平面図であり、(b)は、その側面図である。
【図10】本発明の実施例1に係る衝撃吸収構造体、発泡スチロール、衝撃吸収構造体の各性能の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る衝撃吸収構造体および人体保護具を実現するための形態を、図面を参照しながら、各実施例1〜4に基づいて説明する。
【実施例1】
【0016】
まず、構成を説明する。
【0017】
図1および図2に、本発明の実施例1に係る人体保護具としての保護帽子1を示す。図2は図1の保護帽子1の断面図を示す。
【0018】
保護帽子1は、通気性がよい布製素材により作られた人体保護具本体としての帽子本体1Bと、帽子本体1Bの側部と頂天部の内部に設けられた衝撃吸収シートとしてのシート状の衝撃吸収構造体2,3を有している。
【0019】
衝撃吸収構造体2は、帽子本体1Bの側部の高さ寸法とほぼ同一の縦巾に形成され、帽子本体1Bの側部の周りを覆うように設けられている。したがって、図1に示す帽子本体1Bの図示されていない部分の側部にも衝撃吸収構造体2が設けられている。
【0020】
一方、帽子本体1Bの頂天部の内部に設けられた衝撃吸収構造体3の円盤形状の形状と大きさ(直径など)は、帽子本体1Bの頂天部の形状および大きさと略同一に設定され、互いに一致するように形成されている。
【0021】
帽子本体1Bは、図2に示すように、部分的に2重構造となっており、この部分が衝撃吸収構造体の収納部として機能するシートポケットとなっている。このシートポケットは、人体Hの頭部曲面形状を複数分割した形状を呈するように形成されている。
【0022】
また、帽子本体1Bの2重構造部分には収納用の挿入口1Aが設けられており、この挿入口1Aを介して衝撃吸収構造体2,3をシートポケットに出し入れ可能となっている。
<帽子側部の衝撃吸収構造体>
図3に帽子本体1Bの側部に設けた衝撃吸収構造体2を示す。
【0023】
この衝撃吸収構造体2は、図3(a)に示すように、平面状に集合配置された複数の弾性球状体4と、複数の弾性球状体4に貫通されて弾性球状体4同士を縦と横の方向で互いに結合する合成樹脂糸5とを有している。この縦と横の方向は、図3(b)においては、手前と奥行方向および左右の方向となる。
【0024】
図3(a)に示すように、弾性球状体4を平面状に集合させることにより、弾性球状体4が対向する対向球面間に空隙4aが形成される。
【0025】
この空隙4aは、弾性球状体4同士の乖離した対向球面により複数の貫通した空隙として形成され、衝撃吸収構造体2の表面側から裏面側へと貫通するものであるため、衝撃吸収構造体2の通気路となっている。
【0026】
一方、合成樹脂糸5は、複数の弾性球状体4を互いに結合し、衝撃吸収構造体2の外部から加わる構造体変形力に従って衝撃吸収構造体2の形状が変形可能なように剛性を低く抑える結合(軟結合)をしている。本願では、このような軟結合を達成するための構造を全て軟結合構造という。
【0027】
<帽子本体頂天部の衝撃吸収構造体>
衝撃吸収構造体3は、図4に示すように、3重円状に線状に集合して配列された複数の弾性球状体4と、この円形状の複数の弾性球状体4を円周方向で貫通して互いに連結して数珠状とする合成樹脂糸5と、さらに、この並行する3つの合成樹脂糸5同士を円の径方向で連結する複数の合成樹脂糸5Aとを備えたものであり、全体として円盤状を呈している。
【0028】
この衝撃吸収構造体3では、合成樹脂糸5,5Aにより弾性球状体4同士を軟結合させている。隣接した弾性球状体4,4の間に空隙4aが形成される(図4参照)。
【0029】
<弾性球状体>
図3(b)や図6に示すように、各衝撃吸収構造体2,3を構成する個々の弾性球状体4は、外形形状が球状であり、外部から加わる外力の大きさと方向に応じて弾性変形するものである。
【0030】
この弾性球状体4は、ポリプロピレン樹脂製であり、中空に形成されている。そして、弾性球状体4には、その内側と外側を連通させる通気孔4b,4cがそれぞれ形成されている。
【0031】
この弾性球状体4は、殻の肉厚が約0.3mm、球の直径は約11mm、通気孔4b,4cの開口径が約6mmに形成されている。
【0032】
図3に示すように、各弾性球状体4は、その通気孔4b,4cが衝撃吸収構造体2,3の表面側と裏面側(図3(b)において上方側と下方側)とに向くように配向配置されている。この通気孔4b,4cと弾性球状体4の内部空間とにより、衝撃吸収構造体2,3の表面側と裏面側を連通させる上記空隙4aとは別の通気路を構成している。
【0033】
また、図3(b)に示すように、各弾性球状体4が互いに近接する球面頂部には、合成樹脂糸5を貫通させるための小さな糸孔4dが設けられている。
【0034】
なお、図5に示すように、合成樹脂糸5の端部には結び目5nが形成されており、この結び目5nにより、衝撃吸収構造体2,3がバラバラにならないようになっている。
【0035】
次に、作用を説明する。
【0036】
まず、実施例1の保護帽子1の衝撃吸収構造体2,3の作用を、「通気作用」、「衝撃吸収作用」、「追従変形作用」、「環境温度維持作用」および「軽量化作用」に分けて説明する。
【0037】
[通気作用(通気性)]
図3に示すように、弾性球状体4が平面状に集合してシート状を呈し、球状ゆえに弾性球状体4,4間に形成された空隙4a(図3(a)、図4(a)参照)が衝撃吸収構造体2,3の表面側から裏面側に通過する通気路として機能し、衝撃吸収構造体2,3の通気性が確保される(図2の矢印W3,W4等参照)。
【0038】
弾性球状体4が球状であるために、弾性球状体4と人体Hの表面や帽子本体1Bのシートポケットの裏面に略点接触するために接地面積が小さくなり、これによっても通気性が確保される(図2参照)。
【0039】
さらに、図3(b),(c)に示すように、弾性球状体4が中空であり、シート状の衝撃吸収構造体2,3の表面側から裏面側へと貫通するように各弾性球状体4に通気孔4b,4cが形成されているので、より通気性が高まる(図2の矢印W1,W2、図6(a)参照)。
【0040】
[衝撃吸収作用(衝撃吸収性)]
弾性球状体4が球状であるために、全方位からの衝撃吸収性能を発揮する。具体的には、図6(b)に示すように、どの入力方向(例えば黒塗矢印で示した方向)に対しても衝撃吸収性能を示す。従来のハニカム形状のブロック等のように一方向のみ優れた衝撃吸収性を示すというわけでなく、全方向に高い衝撃吸収性能を示す。
【0041】
加えて,弾性球状体4は外形形状が球状であることから、荷重が加わるに従い接触面が増え,人体の受側(人体の頭皮等)への局所的な荷重集中による傷害も緩和できる。
【0042】
弾性球状体4同士が軟結合されているので、衝撃吸収構造体2,3を設けた保護帽子1を装着したとき、あらゆる人Hの頭部形状にも追従変形し、個人差を吸収してフィットする(図2参照)。このため、保護帽子1を介して頭部に衝撃を受けたときに、この衝撃力が一箇所に集中せず分散する。さらに、このとき、物6の角部形状に対しても衝撃吸収構造体2のシート形状が追従変形し、衝撃力が均一に分散される。
【0043】
また、図2に示すように、弾性球状体4が中空であり、形成した通気孔4b,4cが人体Hの頭部とその頭部の曲面各部における法線方向の両方向に向いているので、衝撃を受けたときに物6と頭部表面とによって弾性球状体4が挟まれて、その通気孔4b,4cが略閉塞される。これにより、弾性球状体4が空気袋のように機能し、時間の経過とともに徐々に空気が抜けていくことから、特に衝撃吸収性が高いものとなる。
【0044】
[追従変形作用(柔軟性)]
衝撃吸収構造体2,3が、弾性球状体4同士が軟結合されているので、人によって異なる頭部等の身体形状に追従してフィットする。
【0045】
弾性球状体4自体も弾性変形するので、例えば身体表面の細かい凹凸形状に対応して追従変形する。
【0046】
つまり、構造体変形力が加わったときに、軟結合により変形力が均一に分散され全体的に柔軟に変形して一部のみが屈曲することがない。
【0047】
さらに、弾性球状体4の中央部を連結したことで、衝撃吸収構造体3,4が身体形状にフィットした場合でも、他方の衝突面側に衝撃吸収性の低下に繋がる大きな隙間が空かないようになっている。
【0048】
仮に、人体H側に位置する弾性球状体4の端部のみを結合した場合には、衝撃吸収構造体3,4の衝突面側に大きな隙間が空き易くなり、衝撃吸収性能の低下が生じる。そのため、弾性球状体4の人体H側の端部で結合したいのであれば、弾性球状体4間にある程度の隙間を設けて両端を結合する方が好ましい。
【0049】
[環境温度維持作用(環境温度維持性)]
衝撃吸収構造体2,3の通気性が確保されることで、衝撃吸収構造体2,3による「蒸れ」や「熱のこもり」が発生せず、衝撃吸収構造体2,3を構成する弾性球状体4の環境温度が変化しにくいものとなる。環境温度変化による弾性球状体4の衝撃吸収性能の低下が発生しにくいものとなる。
【0050】
[軽量化作用(軽量性)]
弾性球状体4,4間の空隙4aにより、衝撃吸収構造体2,3の軽量化される。例えば、ヘルメット裏面に用いる一般的な発泡スチロールでは、空隙がない一様な半球層状に形成されているが、本発明に係る実施例1の衝撃吸収構造体2,3では上記のように弾性球状体4,4間の空隙4aにより軽量化される。
【0051】
実施例1の弾性球状体4は中空であるので、その分さらに軽量化されることとなる。
【0052】
衝撃吸収構造体2,3は、その形状を維持するために、従来のハニカム状ブロックのように高質量樹脂を用いる必要がないことから、この点でも軽量性が高いといえる。
【0053】
具体的に説明すると、衝撃吸収構造体2,3は、合成樹脂糸5が直交するように串刺し状に複数の弾性球状体4に貫通されて可撓性のシート状を呈し、さらに個々の弾性球状体4は潰れても元の形状に戻る性質を有しているので、衝撃を吸収して衝撃吸収構造体2,3の全体が極端に構造体変形をしたとしても衝撃吸収構造体2,3が元の形状に戻ることが可能である。このことから、発泡スチロールやハニカム状ブロックのように、衝撃吸収構造体2,3の全体が不可逆的に崩れるということがなく、形状維持のために高質量の樹脂を用いる必要がない。
【0054】
[対比作用]
人体装着具に設けられ人体を衝撃から保護するためのフォーム材、発泡スチロールを比較例とする対比作用を説明する。
【0055】
図10(b)に示すフォーム材では、柔軟性、軽量性に特に優れるが、衝撃吸収性、環境温度維持性、通気性が低いことから、同様に各性能のバランスが全体的に悪いといえる。
【0056】
図10(c)に示すように、発泡スチロールでは、衝撃吸収性に優れ、ある程度の軽量性を有するものの、柔軟性、通気性および環境温度維持性が極端に低く、各性能のバランスが全体的に非常に悪いといえる。
【0057】
このため、フォーム材では、柔軟性、軽量性を損ねず通気性や環境温度維持性を高めることが求められる。発泡スチロールでは、衝撃吸収性を損ねず柔軟性、通気性および環境温度維持性を高めることが求められる。
【0058】
これに対し、本発明に係る実施例1の衝撃吸収構造体2では、これら課題を解決しうる上記各作用を有し、各性能を高次元で満足する(図10(a)参照)。
【0059】
次に、効果を説明する。
【0060】
(1)外形形状が球状であり、外部から加わる外力の大きさと方向に応じて弾性変形する複数の弾性球状体4と、複数の弾性球状体4を平面状や線状に集合させたときに弾性球状体4間に設けられ、複数の弾性球状体4の互いに乖離する対向球面により複数の貫通空隙4aを確保するとともに、外部から加わる構造体変形力にしたがって構造体形状が変形可能なように剛性を低く抑えて結合した軟結合構造5と、を備える。このため、上述した各作用により、衝撃吸収性、柔軟性、通気性、軽量性、環境温度維持性の全てを高い次元で満足する衝撃吸収構造体を提供することができる。
【0061】
従来の保護帽子等の人体保護具に含まれる衝撃吸収部材に代えて、本発明に係る衝撃吸収構造体を用いることで、従来のものに不足した性能を付加することも可能である。
【0062】
(2)弾性球状体4は、衝撃吸収構造体2,3の貫通空隙4aを介して、その表面側から裏面側へ通過する空気の流線W3,W4と平行な通気流線W1,W2を加える通気孔4b,4cを有するので、(1)の効果に加えて、さらに通気性の高い保護帽子1とすることができる。
【0063】
(3)弾性球状体4は、合成樹脂を素材とする中空の弾性球状体であるので、上記した衝撃吸収作用により、さらに通気性と衝撃吸収性、環境温度維持性を高めた保護帽子1を提供することができる。
【0064】
(4)軟結合構造を、平面状または線状に集合させた複数の弾性球状体4を合成樹脂糸5により連結した構造とすることで、(1)〜(3)の効果に加えて、高い柔軟性を有し、より高い次元で頭部形状の個人差を吸収して追従変形する保護帽子1を提供することができる。
【0065】
(5)普段使用する帽子を、通気性を持つ布製帽子本体と、前記布製帽子本体の裏面に設けられ、頭部曲面形状を分割した形状による複数のシートポケットと、前記複数のシートポケットのそれぞれに装填した衝撃吸収シートとを備えたものとしている。
【0066】
さらに、この衝撃吸収シートを、外径形状が球状であり、外部から加わる外力の大きさと方向に応じて弾性変形する複数の弾性球状体と、前記複数の弾性球状体を平面状または線状に集合させた前記弾性球状体間に設けられ、前記複数の弾性球状体の互いに乖離する対向球面により複数の貫通空隙を確保すると共に、外部から加わる構造体変形力にしたがって構造体形状が変形可能なように剛性を低く抑えて結合した軟結合構造と、を備える衝撃吸収構造体であって、所定の分割シート形状としたものとしている。
【0067】
そのため、普段使用する帽子に衝撃吸収構造体2,3を取り付けて衝撃吸収性、柔軟性、通気性、軽量性、環境温度維持性の全てを高い次元で満足する保護帽子1とすることができ、それにより帽子本来の快適さや意匠性が損なわれることがない。防災頭巾等を装着することのない日常生活で起きる突然の事故等による人体被害を極力抑えることができる。
【0068】
例えば、外出中に金属製のペンチ等のように比較的に先の尖ったものが上方から頭部に落下して直撃したような場合や、心臓病等で急に倒れて頭部をぶつけた場合、観光地の洞窟内や上りエスカレータで頭上注意といったところで意図せず頭部をぶつけたような場合でも、その衝撃を分散吸収して和らげることができる。
【実施例2】
【0069】
図7に、本発明に係る実施例2の衝撃吸収構造体7を示す。
【0070】
この衝撃吸収構造体7は、弾性球状体4と、これら弾性球状体4同士を軟結合する接着部8とを備えている。そして、弾性球状体4同士が接着部8により軟結合されて、軟結合構造をなしている。なお、同一の部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0071】
実施例2に係る衝撃吸収構造体7の構成によれば、接着部8により弾性球状体4間の空隙4aの開口面積が増大して通気性が高まり、保護帽子1の通気性も高まる。また、その結果として弾性球状体4周囲の温度環境が変化しにくくなるため、環境温度維持性も高くなる。
【0072】
接着部8に用いる接着剤の種類により衝撃吸収構造体7の部分的な軟結合の強弱の程度を変更することができるので、局所的に異なる剛性を示す所望の衝撃吸収構造体7を得ることができる。
【0073】
例えば帽子本体1Bの側部と頂天部とに適用した衝撃吸収構造体2,3を、帽子の形を決めたいときに、軟結合の強弱を局所的に変化させても良い。
【実施例3】
【0074】
図8に、本発明に係る実施例3の衝撃吸収構造体10を示す。
【0075】
この衝撃吸収構造体10は、上記実施例1,2とは異なり中実の弾性球状体11と、これら弾性球状体11同士を軟結合する細長の接着部9とを備えている。そして、弾性球状体11同士が接着部9により軟結合されて、軟結合構造をなしている。なお、同一の部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0076】
実施例3に係る衝撃吸収構造体10の構成によれば、実施例2の接着部9が実施例2の接着部8よりも細長であることにより、構造体の通気性がより高いものとなる。その一方で、弾性球状体11が中実であることにより、さらに構造体の衝撃吸収性能が高いものとなる。したがって、構造体の衝撃吸収性を損ねず通気性を高めることができる。
【0077】
例えば、夏季に装着する帽子はなるべく通気性が良いものを使用したいという需要があるところ、この衝撃吸収構造体10を設けた保護帽子1とすることで、需要に応じて高い通気性を確保することができる。また、夏季は汗等の汚れが発生しやすい季節であるが、弾性球状体11を中実とすることで、中空のものと比べて防汚性を高めることができる。
【実施例4】
【0078】
図9に、本発明に係る実施例4の衝撃吸収構造体12を示す。
【0079】
衝撃吸収構造体12は、弾性球状体11と、これら弾性球状体11同士を軟結合させる軟結合構造としての接着部8とを備えている。そして、弾性球状体11同士が接着部8により軟結合されて、軟結合構造をなしている。なお、同一の部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0080】
この実施例4に係る衝撃吸収構造体12の構成によれば、弾性球状体11同士を軟結合させる接着部8により、実施例3のものよりも空隙4aの開口面積が狭小化させているので、通気性が低くなる。
【0081】
つまり、弾性球状体11,11を軟結合する接着部の構成を、接着部9(実施例3参照)や接着部8のように変化させることにより、空隙4aの開口面積を調節して衝撃吸収構造体の通気性を調節している。
【0082】
例えば冬季にはなるべく保温性の高い帽子を装着したいという需要があるが、弾性球状体11を軟結合する部分を、実施例3より空隙4aが狭小となる接着部9とした衝撃吸収構造体12と冬季に適した布製素材を組み合わせて用いることにより、衝撃吸収構造体の通気性が好適に調節されて保温性が高い保護帽子1を提供することができる。
【0083】
これにより弾性球状体11の周囲の環境温度が、高い衝撃吸収性を示す環境温度に維持され、弾性球状体11の衝撃吸収性が損なわれない。この結果、衝撃吸収構造体12の柔軟性の低下を抑制することできる。
【0084】
以上、本発明に係る衝撃吸収構造体について、実施例1〜4に基づいて説明してきたが、本発明の要旨を逸脱しない限り構成の変更は許される。
【0085】
弾性球状体4や11同士の「軟結合」について、実施例1の衝撃吸収構造体2,3では柔軟性のある合成樹脂糸で実現し、実施例2〜4では柔軟性のある接着剤等で実現している。しかし、これらに限られず「軟結合」できるものであれば、どのような構成としてもよい。
【0086】
実施例1では弾性球状体4の肉厚、直径、通気孔を所定の大きさや長さに設定したが、所期の性能を発揮する限り、これらに限定されるものではない。
【0087】
弾性球状体4,11の材質は、どのような種類でもよく、弾性球状体4,11を構成する樹脂もポリプロピレンに限定されず、緩衝材として公知のもの(ポリプロピレン以外の他の樹脂や、樹脂以外の素材で公知のもの)の何れも用いることができる。
【0088】
弾性球状体4,11の形状は、どのような球形状であってもよく、例えば、断面が楕円形状のものや、長円形状のものを用いることができる。
【0089】
弾性球状体4,11の人体Hや被服等に接地する部分の形状を先細りとなるようにして接地面積を小さくすることで、全体の衝撃吸収体としての通気性をさらに向上させたり、低下させたり調節することができる。
【0090】
衝撃吸収構造体の全体的な形状は実施例1のようなものに限定されず、どのような形状(立体形状等)としてもよい。
【符号の説明】
【0091】
1・・・保護帽子(人体保護具)
1B・・・帽子本体(人体保護具本体)
2,3,7・・・衝撃吸収構造体
4a・・・空隙
4b,4c・・・通気孔
4d・・・糸孔
5,5A・・・合成樹脂糸
6・・・物
8,9・・・接着部
H・・・人体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外形形状が球状であり、外部から加わる外力の大きさと方向に応じて弾性変形する複数の弾性球状体と、
前記複数の弾性球状体を平面状または線状に集合させた前記弾性球状体間に設けられ、前記複数の弾性球状体の互いに乖離する対向球面により複数の貫通空隙を確保するとともに、外部から加わる構造体変形力にしたがって構造体形状が変形可能なように剛性を低く抑えて結合した軟結合構造と、を備えることを特徴とする衝撃吸収構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の衝撃吸収構造体において、
前記弾性球状体は、前記貫通空隙を介して構造体の表面側から裏面側へ通過する空気の流線と平行な通気流線を加える通気孔を有することを特徴とする衝撃吸収構造体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の前記衝撃吸収構造体において、
前記弾性球状体は、合成樹脂を素材とする中空の弾性球状体であることを特徴とする衝撃吸収構造体。
【請求項4】
請求項1から請求項3までの何れか1項に記載された衝撃吸収構造体において、
前記軟結合構造は、平面状または線状に集合させた前記複数の弾性球状体を合成樹脂糸により連結した構造であることを特徴とする。
【請求項5】
通気性を持つ人体保護具本体と、
前記人体保護具本体の裏面に設けられ、頭部曲面形状を分割した形状による複数のシートポケットと、
前記複数のシートポケットのそれぞれに装填した衝撃吸収シートと、を備え、
前記衝撃吸収シートは、
外径形状が球状であり、外部から加わる外力の大きさと方向に応じて弾性変形する複数の弾性球状体と、
前記複数の弾性球状体を平面状または線状に集合させた前記弾性球状体間に設けられ、前記複数の弾性球状体の互いに乖離する対向球面により複数の貫通空隙を確保すると共に、外部から加わる構造体変形力にしたがって構造体形状が変形可能なように剛性を低く抑えて結合した軟結合構造と、
を備える衝撃吸収構造体を、所定の分割シート形状とすることで構成したものである
ことを特徴とする人体保護具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−14855(P2013−14855A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148026(P2011−148026)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(591056927)一般財団法人日本自動車研究所 (26)
【Fターム(参考)】