説明

衝撃波利用捕鯨用銛先

【課題】製造工程が簡便で、かつ、鯨体に命中したときには導爆線へ確実に伝爆でき、一方、鯨体不命中時には導爆線への伝爆が妨げられ、作業者が安全に回収することができる衝撃波利用捕鯨用銛先を提供すること。
【解決手段】衝撃波利用捕鯨用銛先に具備された雷管の底部と導爆線の先端とが、その間に空隙部を有するように離間して配置され、該空隙部に水分と反応することにより硬化する硬化剤が充填されてなることを特徴とする衝撃波利用捕鯨用銛先。該硬化剤としては好ましくは、シラン系の硬化剤が用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鯨体命中時に確実に起爆し、不命中時には安全に回収できる衝撃波利用捕鯨用銛先に関する。
【背景技術】
【0002】
導爆線の衝撃波を利用した捕鯨用銛先には、通常、さく薬としてペンスリット等の高性能爆薬を心薬とする高爆速の導爆線を充填したものが知られている。(例えば、特許文献1参照)
【0003】
衝撃波利用捕鯨用銛先は、鯨体不命中時にこの銛先を海中より回収する際、雷管の不慮の爆発によって導爆線に伝爆するという危険性を有する。
【0004】
特許文献2及び3に、導爆線を充填した捕鯨用銛先において、該導爆線を起爆する雷管の底部と、これに対向する導爆線の先端との間に空隙部を設け、その空隙部に海水を吸収して膨潤する吸水性樹脂を介在させたものが開示されている。そのような構造にすることで、鯨体に不命中になった銛先の雷管が不慮に爆発しても、雷管の起爆力が海水にて膨潤した吸水性樹脂の存在により弱められ、導爆線には伝爆せず不爆となり、安全に回収できるようにしている。
【0005】
そのような衝撃波利用捕鯨用銛先において空隙部に吸水性樹脂を介在させる際には従来、導爆線導入パイプ内の空隙部に、(イ)所定量の粉末状吸水性樹脂を不織布で包んだものを充填し金網で蓋をする、(ロ)粉末状吸水性樹脂を充填し不織布で蓋をする、(ハ)吸水性のシートを折りたたみ充填する等の手段を用いていた。
【0006】
しかし、それら空隙部に吸水性樹脂を充填する構造の衝撃波利用捕鯨用銛先においては、該空隙部と、該空隙部に充填させる吸水性樹脂と、の位置的関係、量的関係の調整に精度が求められ、使用する導爆線あるいは対象とする鯨体に適合させた種々の大きさの銛先に応じ、その都度、最適量、最適充填形態を試行錯誤により探索する必要があり、その設計が非常に困難である。
【0007】
すなわち、空隙部を大きく採るほど安全性が向上するが、命中時の導爆線への確実な伝爆性が損なわれる。一方、伝爆性を重視し、空隙部をより小さくすると安全性が低下し、取扱が困難になる。
該空隙部の大きさを可能な限り小さくすることが、より小型かつ軽量で簡便な衝撃波利用捕鯨用銛先の製造に資するものと考えられるが、従来の衝撃波利用捕鯨用銛先は安全性を確保するためにこの空隙部を大きく選択することを余儀なくされており、確実な伝爆性を両立することが困難であった。
そのため、新規な構造を有する衝撃波利用捕鯨用銛先が求められている。
【0008】
【特許文献1】特開昭57−21797号公報
【特許文献2】特開昭59−21998号公報
【特許文献3】特開2007−333333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記した課題に鑑みなされたものであり、製造工程がより簡便で、かつ、鯨体に命中したときには、導爆線へ確実に伝爆でき、一方、不命中時には、導爆線への伝爆が妨げられ、作業者が安全に回収することができる衝撃波利用捕鯨用銛先を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の(1)又は(2)に示すものである。
【0011】
(1)導爆線巻装具に巻装された導爆線と、該導爆線に伝爆するための雷管と、を具備した衝撃波利用捕鯨用銛先において、
導爆線の先端部と対向する雷管底部が、空隙部を有するように離間して配置され、
該空隙部に、水と反応することにより硬化する硬化剤が充填されてなることを特徴とする衝撃波利用捕鯨用銛先。
【0012】
(2)前記硬化剤が、シラン系硬化剤であることを特徴とする前記(1)に記載の衝撃波利用捕鯨用銛先。該シラン系硬化剤として好ましくはアルコキシシランを用いることができる。
【発明の効果】
【0013】
導爆線の一端を導爆線導入パイプに導入し、該導爆線の先端部に空隙部を設け、該空隙部にアルコキシシラン等に代表される。水と反応して硬化する硬化剤を充填した衝撃波利用捕鯨用銛先は鯨体命中時には雷管の起爆によって確実に導爆線に伝爆する。一方、鯨体不命中時には、該硬化剤が充填された空隙部に海水が浸入し、空隙部内で強固な硬化物が速やかに形成されるため、事後的に雷管が暴発した場合でも、導爆線には伝爆せず、安全に回収することができる。
【0014】
さらに、該硬化物は、従来の吸水性樹脂より格段に優れた伝爆抑制効果が得られるため、空隙部をより小さく設定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は本発明の衝撃波利用捕鯨用銛先の銛頭部にネジ込み装着した縦断面図である。先端に飛しょう状態のバランスを調節する銛先前蓋1を有する鋼製外筒2の内部には、紙筒3にコイル状に巻かれた導爆線4が収納されている。この導爆線4の先端は、コイルの中心軸に沿って設けられた導爆線導入パイプ5に挿入され、その導爆線先端部は空隙部6を介して雷管7と対向するよう配置されている。この空隙部6には、水によって硬化反応する硬化剤が充填されている。銛先は銛頭部14にネジ11によって固定されている。心管部は、雷管7と、摩子棒12及び摩子薬13よりなり、鯨体命中時に引き抜かれる摩子棒12は摩子薬13中を貫通しており、また、摩子薬13の端面は雷管7と同一軸上で対向している。
【0017】
この衝撃波利用捕鯨用銛先を装着した銛が鯨体に発射され命中すると同時にワイヤーにより摩子棒12が引っ張られ、その摩擦により摩子薬13が発火し、雷管7がその火を受けて爆発し、硬化剤が充填された空隙部6を介して対向する導爆線4を起爆させる。導爆線4の爆発により、鋼製外筒は鯨体内において破壊されるが、高爆速(6000〜7000m/s)の導爆線により発せられる衝撃波の作用によって、鯨を即死せしめることができる。一方、不命中により海水に没した場合は、鋼製外筒2に穿設した海水流入孔15を通って海水が銛先中に流入する。一般に銛は高速度で打出されるために、飛しょう中に銛先内部は減圧状態となり、水没すると銛先に海水が速やかに浸入し、空隙部にまで到達する。
【0018】
本発明は、上記した衝撃波利用捕鯨用銛先に係るものであり、導爆線が充填され、該導爆線を起爆する雷管の底部と、これに対向する導爆線の先端との間に空隙部を設け、該空隙部に水と反応する硬化剤を介在させることを特徴とした衝撃波利用捕鯨用銛先である。
【0019】
前記水と反応する硬化剤としては、例えばシラン系硬化剤やウレタン系硬化剤が挙げられる。
【0020】
それらの中でも、アルコキシシランからなるシラン系硬化剤は、水を開始剤としたゾル−ゲル法により硬化するものであり、すばやく硬化することができ好適に使用することができる。
ここで、すばやく硬化するとは、浸水した後、概ね60秒以内に硬化することを示す。
そのようなアルコキシシランとしては、四官能基性のテトラアルコキシシラン、三官能基性のトリテトラアルコキシシランが挙げられ、それぞれ市販のものを用いることができる。
【0021】
本発明に使用し得るアルコキシシランとしては、具体的にはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、3―グリシドキシトリメトキシシラン、3―グリシドキシトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエチキシシラン等が挙げられる。
【0022】
さらにアルコキシシランは、液状を呈するものが一般的であるため、空隙部から流れ出る可能性がある。したがって液体保持性のある材料や他の粉体材料と混合して、空隙部に充填することもできる。
【0023】
前記液体保持性のあるものとしてはポリウレタン等のプラスチックを発泡成型したスポンジが挙げられる。また前記粉体は、特に制限されず、火薬である導爆線を使用しているので、安全性を考慮した粉体材料を使用することができる。
そのような、粉体材料としては例えば、無機化合物又は有機化合物からなる粉体材料が挙げられ、具体的には粉末状の吸水性樹脂、水により増粘する天然高分子等が挙げられる。
【0024】
さらにアルコキシシランは、空隙部より流出する恐れがあり、かつ空気中の水分により反応を開始する可能性がある。そこで導爆線導入パイプ5の先端を耐水性の材質からなるキャップ8によって閉塞してもよい。その際、海水を空隙部に浸入させるため、該キャップに少なくとも1箇所以上の通水用の穴を穿孔しておくことが望ましい。
前記キャップ8に穿孔される穴の直径は、海水を適切な速度にて浸水させるため、適切な大きさにすることが好ましい。すなわち、穴が小さすぎる場合、浸水速度が遅くなり、60秒以内に硬化できない。このような条件を満たすため、穿孔する穴の直径を0.001mm以上、より好ましくは、直径は0.01mm以上であることが望ましい。
一方、穴の直径は、空気中の水分を忌避するために、大きすぎても不具合が生じる恐れがある。すなわち、穴が大きすぎる場合、空気中の水分が空隙部6に必要以上に浸入し、保存時あるいは使用時における海水浸水前に硬化を開始してしまう場合が生じる。このような条件を満たすため、穿孔する穴の直径を2mm以下、より好ましくは、直径は0.5mm以下としておくことが望ましい。
【0025】
衝撃波利用捕鯨用銛先において、導爆線の先端部と雷管底部との間に存在する空隙部6の長さが所定長以上であると、鯨体命中時に雷管7が起爆しても導爆線4が伝爆しない場合がある。
一方、空隙部の長さが極端に短い場合には鯨不命中時において、鯨の体液及び血液、あるいは海水流入した際にも、雷管7が起爆すれば導爆線4に伝爆してしまい、安全性が不十分となる場合もある。
本発明に用いるシラン系硬化剤を空隙部6に充填させることで、海水浸水時により速やかに硬化し、その硬化物は優れた伝爆抑制効果を有する。これにより空隙部をより短く設計することができる。
【0026】
従来構造の衝撃波利用捕鯨用銛先においては、この導爆線先端と雷管との離間距離である空隙部の長さについては、安全性の観点から、少なくとも20mmを超える距離を採らなくてはならなかった。しかしながら、20mmを超える離間距離をとることで確実な伝爆性を確保することが困難であった。
本発明に使用するシラン系硬化剤を充填して用い、この離間距離を20mm以下、好ましくは10〜20mmにまで小さくしたにもかかわらず、不命中時の伝爆を確実に遮断でき、安全な回収が可能となった。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例を挙げより詳細に説明する。なお、本発明は実施例によって何ら制限されるものではない。
【0028】
実施例1
水と反応し硬化する硬化剤であるシラン系硬化剤として、信越化学株式会社製、テトラメトキシシランを用い、液体保持剤として三晶株式会社製メイプログアーCSA200/50と混合させ、硬化剤混合物を完成させた。該硬化剤混合物を20mmの間隔とした空隙部6に挿入し、導爆線導入パイプ先端に、キャップ8として直径0.05mmの穴をあけた粘着テープ(セロテープ(登録商標)、ニチバン株式会社製)を貼り、衝撃波利用捕鯨用銛先を完成させた。
【0029】
実施例2
水と反応し硬化する硬化剤であるウレタン系硬化剤として、アルファ化研株式会社製、アルファレジンWを用い、液体保持剤として三晶株式会社製メイプログアーCSA200/50と混合させ、硬化剤混合物を完成させた。さらに該硬化剤混合物を20mmの間隔とした空隙部6に挿入し、導爆線導入パイプ先端に、キャップ8として直径0.05mmの穴をあけた粘着テープ(セロテープ(登録商標)、ニチバン株式会社製)を貼り、衝撃波利用捕鯨用銛先を完成させた。
【0030】
実施例1、2の衝撃波利用捕鯨用銛先において、鯨体命中後を想定し、海水に浸さなかったサンプルの起爆試験を行った結果、作製1ヵ月後においても、硬化剤混合物は硬化せず、導爆線4には全て伝爆した。また鯨体不命中時を想定し、1分及び5分間海水に浸した後、起爆試験を行った結果、硬化剤混合物が硬化し、雷管7が起爆しても導爆線4には全て伝爆しなかった。
【0031】
比較例1
20mmの間隔とした空隙部6に吸水性樹脂を挿入し、導爆線導入パイプ先端に、キャップ8として直径0.05mmの穴をあけた粘着テープ(セロテープ(登録商標)、ニチバン株式会社製)を貼り、衝撃波利用捕鯨用銛先を完成させた。
【0032】
比較例2
20mmの間隔とした空隙部6にスポンジを挿入し、導爆線導入パイプ先端に、キャップ8として直径0.05mmの穴をあけた粘着テープ(セロテープ(登録商標)、ニチバン株式会社製)を貼り、衝撃波利用捕鯨用銛先を完成させた。
【0033】
比較例1、2の衝撃波利用捕鯨用銛先において、鯨体命中後を想定し、海水に浸さなかったサンプルの起爆試験を行った結果、作製1ヵ月後においても、導爆線4には全て伝爆した。しかし鯨体不命中時を想定し、1分及び5分間海水に浸した後、起爆試験を行った結果、雷管7が起爆すると導爆線4は完全に不爆化とならず、一部起爆した。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の衝撃波利用捕鯨用銛先を銛頭部にネジ込み装着した縦断面図
【符号の説明】
【0035】
1 銛先前蓋
2 鋼製外筒
3 紙筒
4 導爆線
5 導爆線導入パイプ
6 空隙部
7 雷管
8 キャップ
11 ネジ
12 摩子棒
13 摩子薬
14 銛頭部
15 海水流入孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導爆線巻装具に巻装された導爆線と、該導爆線に伝爆するための雷管と、を少なくとも具備する衝撃波利用捕鯨用銛先において、
導爆線先端と雷管底部とが、空隙部を介して離間して配置され、
該空隙部に、水と反応することにより硬化する硬化剤が充填されてなることを特徴とする衝撃波利用捕鯨用銛先。
【請求項2】
前記硬化剤が、シラン系硬化剤であることを特徴とする請求項1に記載の衝撃波利用捕鯨用銛先。

【図1】
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【公開番号】特開2009−293810(P2009−293810A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144673(P2008−144673)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)