説明

衣服

【課題】位相がずれず、かつ、持ち運びが容易な雑音遮断装置に用いることができる衣服を提供する。
【解決手段】本発明に係る衣服は、被験者の生体信号の測定を妨害する外界からの雑音を遮断する衣服110であって、表生地111または裏生地112となる導電性の布と、前記布に取り付けられ、前記生体信号を増幅する信号処理部120とを備え、信号処理部120のGNDは、前記布に電気的に接続される。また、信号処理部120は、衣服110を貫通する棒状の棒部材123と、棒部材123に嵌合した状態において、信号処理部120を衣服110に固定する固定部材122と、信号処理部120が衣服110に固定された状態において、前記布と電気的に接続されるGND電極124とを備えてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣服に関し、特に、被験者の生体信号の測定を妨害する外界からの雑音を遮断する衣服に関する。
【背景技術】
【0002】
スポーツ科学等の分野において、筋肉の活動状態を正確に把握するために、NMU(Neuro Muscler Unit)の活動を測定する方法が知られている。従来のNMUの測定は、針電極を筋肉に刺して測定を行っていたが、被験者に苦痛を伴うという問題がある。これに対し、複数の電極を皮膚表面上に貼付し測定を行う方法が知られている。複数の電極を皮膚表面上に貼付し測定を行う方法は、皮膚表面上に貼付した複数の電極により、複数の表面筋電位を測定する。測定した複数の表面筋電位からNMUの活動を推定することができる。
【0003】
このような被験者の皮膚表面上に電極を貼付して生体信号を測定する場合、電極の接触電気抵抗の大きさにより、商用電源由来のノイズ(雑音)など種々の外来ノイズが大きく介入してくる。これらの外来ノイズに比して脳波または筋電位などの生体信号は非常に微弱であるため、生体信号の測定におけるノイズ除去は重要である。
【0004】
従来の生体信号の計測におけるノイズ対策としては、フィルタを使用する方法およびシールドルームを使用する方法(例えば、特許文献1参照。)がある。
【特許文献1】特開2001−196785号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、フィルタを使用した場合には、計測した生体信号の位相がずれてしまう。具体的には、商用電源由来のノイズ(50Hzまたは60Hz)の除去にノッチフィルタが用いられる。ノッチフィルタは、除去周波数(50Hzまたは60Hz)の前後で測定信号の位相を反転させることでノイズを除去する。計測信号の位相が反転しても被験者が力を入れている/入れていない程度の判定を行うことはできる。しかし、多数の表面筋電位を測定しNMUの活動を推定する場合には、測定した表面筋電位の位相が重要となる。よって、多数の表面筋電位を測定しNMUの活動を推定する場合には、測定信号の位相がずれるフィルタは用いることができない。
【0006】
一方、シールドルームを使用する場合は、測定信号の位相のずれは生じないが、シールドルームの移動が困難であるという問題がある。また、特許文献1に記載のシールドルームのように折り畳み可能とした場合でも、持ち運びは容易ではない。
【0007】
そこで、本発明は、位相がずれず、かつ、持ち運びが容易な雑音遮断装置に用いることができる衣服を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る衣服は、被験者の生体信号の測定を妨害する外界からの雑音を遮断する衣服であって、表生地または裏生地となる導電性の布と、前記布に取り付けられ、前記生体信号を増幅する増幅手段とを備え、前記増幅手段のGNDは、前記布に電気的に接続される。
【0009】
この構成によれば、被験者が脱着可能な衣服の表生地または裏生地となる導電性の布に、増幅手段のGNDが接続される。これにより、被験者の皮膚表面上に貼付した電極等から生体信号を測定する場合、導電性の布がシールドの役割をはたし雑音を遮断することができる。また、本発明に係る衣服は、被験者が脱着可能であり持ち運びを容易に行うことができる。また、本発明に係る衣服は、測定した生体信号の位相がずれるフィルタを用いないので、測定した生体信号の位相がずれることはない。
【0010】
また、前記増幅手段は、前記衣服を貫通する棒状の棒部材と、前記棒部材に嵌合した状態において、前記増幅手段を前記衣服に固定する固定部材と、前記増幅手段が前記衣服に固定された状態において、前記布と電気的に接続されるGND電極とを備えてもよい。
【0011】
この構成によれば、棒部材を衣服に突き刺し、逆方向(衣服の表面から棒部材を突き刺した場合の衣服の裏面側)から固定部材を嵌合することで、容易に増幅手段を衣服に装着することができる。また、導電性の布とGND電極を容易に電気的に接続することができる。よって、測定する生体信号の種類に応じ、容易に使用する増幅手段の個数または種別を変更することができる。
【0012】
また、前記衣服は、導電性の表生地と、導電性の裏生地と、前記表生地と前記裏生地との間に形成され、前記表生地と前記裏生地とを電気的に絶縁する絶縁生地とを備え、前記増幅手段のGNDは、前記表生地および前記裏生地の一方に接続され、前記増幅手段の電源は、前記表生地および前記裏生地の他方に接続されてもよい。
【0013】
この構成によれば、表生地および裏生地の一方をGNDとして用い、他方を電源に用いることができる。これにより、複数の増幅手段または種々の機能を有する処理部を衣服に装着して使用する場合において、複数の増幅手段または種々の機能を有する処理部の電源およびGNDを衣服の表生地および裏生地から供給することができる。よって、本発明に係る衣服は、各増幅手段等に個別に電源を供給する配線等が不要であり、表生地および裏生地に電圧を供給するだけでよく、配線数等を削減することができる。
【0014】
また、前記増幅手段は、前記衣服を貫通する棒状の第1の棒部材と、前記第1の棒部材に嵌合した状態において、前記第1の棒部材と電気的に接続され前記増幅手段を前記衣服に固定する第1の固定部材と、前記増幅手段が前記衣服に固定された状態において、前記表生地および前記裏生地のうち一方と電気的に接続される第1の電極とを備え、前記第1の固定部材は、前記増幅手段が前記衣服に固定された状態において、前記表生地および前記裏生地のうち他方と電気的に接続され、前記第1の棒部材および前記第1の電極のうち一方は前記増幅手段のGND端子であり、他方は前記増幅手段の電源端子であってもよい。
【0015】
この構成によれば、第1の棒部材を衣服に突き刺し、逆方向(衣服の表面から第1の棒部材を突き刺した場合の衣服の裏面側)から第1の固定部材を嵌合することで、容易に増幅手段を衣服に装着することができる。また、衣服の表生地および裏生地に増幅手段のGNDおよび電源を接続することができる。よって、測定する生体信号の種類に応じ、容易に使用する増幅手段の個数または種別を変更することができる。
【0016】
また、前記増幅手段は、増幅した信号を前記表生地および前記裏生地のうち前記増幅手段の電源が接続されているほうに出力する出力手段を備えてもよい。
【0017】
この構成によれば、増幅手段が出力する信号を伝送する経路を電源電圧が供給される表生地または裏生地と共有することができる。よって、生体信号の測定時における配線数等を削減することができる。
【0018】
また、前記衣服は、さらに、前記表生地および前記裏生地のうち前記増幅手段のGNDが接続されているほうをGNDレベルとし、前記表生地および前記裏生地のうち前記増幅手段の電源が接続されているほうに電圧を供給する給電手段を備え、前記給電手段は、前記衣服を貫通する棒状の第2の棒部材と、前記第2の棒部材に嵌合した状態において、前記第2の棒部材と電気的に接続され、前記給電手段を前記衣服に固定する第2の固定部材と、前記給電手段が前記衣服に固定された状態において、前記表生地および裏生地のうち一方と電気的に接続される第2の電極とを備え、前記第2の固定部材は、前記給電手段が前記衣服に固定された状態において、前記表生地および前記裏生地のうち他方と電気的に接続され、前記給電手段は、前記第2の棒部材および前記第2の電極のうち一方をGNDレベルとし、他方に電圧を供給してもよい。
【0019】
この構成によれば、衣服に容易に取り外しできる給電手段により、表生地と裏生地との間に、増幅手段の電源電圧を供給することができる。これにより、外部から電源電圧を供給する必要がないので、外部と衣服との配線を削減することができる。また、電源を供給する配線がなくなることで、被験者は、導電性衣服を着用し生体信号を測定する時、容易に身体を動かすことが可能となる。
【0020】
また、前記増幅手段のGNDは、前記裏生地に接続されてもよい。
【0021】
この構成によれば、衣服の内側の裏生地をGNDとする。これにより、表生地に印加される電源および出力信号に起因するノイズを遮断することができる。よって、高い雑音遮断効果を実現することができる。
【0022】
また、前記衣服は、さらに、被験者の皮膚表面上に貼付可能な第3の電極を備え、前記増幅手段は、前記第3の電極が受信した生体信号を増幅してもよい。
【0023】
この構成によれば、被験者の皮膚表面上に貼付した第3の電極より被験者の生体信号を受信し、増幅することができる。
【0024】
また、前記衣服は、複数の前記第3の電極と、前記各第3の電極が受信した生体信号をそれぞれ増幅する複数の増幅手段とを備えてもよい。
【0025】
この構成によれば、複数の第3の電極により、第3の電極の位置を変更することなく複数の位置の生体信号を測定することができる。また、複数の位置の生体信号を同時に測定することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、位相がずれず、かつ、持ち運びが容易な雑音遮断装置に用いることができる衣服を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明に係る雑音遮断装置の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
(実施の形態1)
本実施の形態に係る雑音遮断装置は、生体信号の測定において、被験者が雑音遮断効果を有する衣服を着用し、測定箇所を衣服で覆う。また、衣服に取り付けられた信号処理部により測定した生体信号の増幅等を行う。
【0029】
まず、本実施の形態に係る雑音遮断装置の構成を説明する。
【0030】
図1は、本実施の形態に係る雑音遮断装置の構成を模式的に示す外観図である。
【0031】
図1に示す雑音遮断装置100は、被験者の筋電位信号を測定する。また、雑音遮断装置100は、筋電位信号の測定を妨害する外部からの雑音(ノイズ)を遮断する。雑音遮断装置100は、導電性衣服110と、信号処理部120および150と、電極130および160と、配線140および170と、給電部180とを備える。
【0032】
導電性衣服110は、絶縁性の布を介して表生地および裏生地となる導電性の布を有する被験者が奪着可能な衣服である。
【0033】
信号処理部120および150は、導電性衣服110に取り外し可能であり、被験者の筋電位信号の測定時には、導電性衣服110に取り付けられる。信号処理部120および150は、測定した筋電位信号の処理を行う。また、信号処理部120および150のGNDは、導電性衣服110の裏生地である裏面(内側)の導電性の布112と接続され、電源および信号出力端子は、導電性衣服110の表生地である表面(外側)の導電性の布111と接続される。
【0034】
電極130および160は、被験者の筋電位信号を受信する電極である。電極130および160は、例えば、被験者の皮膚表面上に貼付可能な平面形状の電極である。
【0035】
配線140は、電極130と信号処理部120とを電気的に接続する。配線170は、電極160と信号処理部150とを電気的に接続する。
【0036】
給電部180は、導電性衣服110の裏面(内側)の導電性の布112をGNDレベルとし、導電性衣服110の表面(外側)の導電性の布111に電圧を供給するバッテリー等である。
【0037】
図2は、被験者200に対する電極130および160の装着例を示す図である。
【0038】
電極130および160は、被験者の皮膚表面上に貼付される。例えば、被験者の上腕部の筋電位信号を測定する場合には、図2に示すように電極130および160が被験者の上腕部の皮膚表面上に貼付される。なお、図1および図2において説明の簡略化のため電極および信号処理部の数は2としているが、2以上であってもよい。また、電極および信号処理部の数は1であってもよい。
【0039】
図3は、信号処理部120の構成を模式的に示す斜視図である。なお、信号処理部150も図3と同様の構成である。
【0040】
図3に示すように、信号処理部120は、基板上に実装された信号処理回路121と、導電性衣服110を貫通する棒状の棒部材123と、棒部材123に取り外し可能な固定部材124とを備える。例えば、信号処理部121は、数cm角の基板上に形成される。
【0041】
図4は、信号処理部120を導線性衣服110に装着した状態における信号処理部120および導線性衣服110の断面構造を模式的に示す図である。
【0042】
図4に示すように、導電性衣服110は、表面(外側)の導電性の布111と、裏面(内側)の導電性の布112と、導電性の布111と導電性の布112との間に形成される絶縁性の布113とを備える。例えば、導電性の布111は、導電性衣服110の表面の全面に形成され、導電性の布112は、導電性衣服110の裏面の全面に形成される。また、信号処理部120は、信号処理回路121と、固定部材122と、棒部材123と、電極124とを備える。
【0043】
電極124は、信号処理部120のGND電極であり、信号処理回路121の裏面に形成される。電極124は、信号処理部120を導電性衣服110に装着した状態において、導電性衣服110の裏面の導電性の布112と接触し、電気的に接続される。
【0044】
棒部材123は、信号処理部120の電源および信号処理部120が処理した信号が出力される。信号処理部120は、棒部材123を導電性衣服110の裏面から差し込み、貫通させ、表面側から固定部材122で固定することで、導電性衣服110に装着される。固定部材122を棒部材123に固定した状態において、固定部材122と棒部材123とは電気的に接続される。例えば、棒部材123と固定部材122との接続方法は、固定部材122を棒部材123に嵌め込む方法、または、棒部材123を雄ネジとし固定部材122を雌ネジとする方法を用いることができる。また、固定部材122は、導電性衣服110の表面の導電性の布111と接触し、電気的に接続される。すなわち、信号処理部120の電源および信号出力端子は、導電性衣服110の表面の導電性の布111と電気的に接続される。また、導電性衣服110に信号処理部120を装着した状態において、棒部材123と導電性衣服110の裏面の導電性の布112は、電気的に絶縁されている。例えば、棒部材123の先端部分(固定部材122と接続される部分)以外を、絶縁体で覆うことで、棒部材123と導電性の布112とを電気的に絶縁することができる。なお、信号処理部150および給電部180も、信号処理部120と同様の手段により導電性衣服120に装着される。
【0045】
このように、信号処理部120、150および給電部180は、導電性衣服110の裏面側から棒状部材123を差し込み、導電性衣服110の表面側から固定部材122で固定することで、容易に導電性衣服110に装着することができる。また、信号処理部120、150および給電部180は、導電性衣服110から容易に取外すことができる。よって、被験者に対する筋電位信号の測定条件に応じ、信号処理部の個数および種別を容易に変更することができる。
【0046】
図5は、被験者200が導電性衣服110を装着し、筋電位信号を測定する状態を模式的に示す図である。図5に示すように被験者200は、導電性衣服110を着用した状態で、筋電位信号の測定が行われる。導電性衣服110は、被験者の皮膚表面に貼付された電極130、160、配線140および170を覆い、電極130、160、配線140および170に対する外部からのノイズ(雑音)を除去する効果がある。よって、被験者200が導電性衣服110を着用することで、筋電位信号の測定におけるノイズの影響を低減することができる。また、被験者200は、導電性衣服110を着用した状態で、任意に身体を動かすことができる。さらに、本実施の形態に係る雑音遮断装置100は、従来のノイズを除去するためのシールドルームに比べ、持ち運びが容易である。
【0047】
次に、本実施の形態に係る雑音遮断装置100の動作を説明する。
【0048】
図6は、本実施の形態に係る雑音遮断装置100の機能ブロック構成を模式的に示す図である。なお、図6において、説明の簡略化のため信号処理部150は図示していないが、信号処理部120と同様の構成である。
【0049】
給電部180は、電源181と、スイッチ182とを備える。
【0050】
電源181は、導電性の布112をGNDレベルとし、DC電圧を導電性の布111に供給する。
【0051】
スイッチ182は、電源181と導電性の布111との間に形成される。スイッチ182は、信号処理部120が信号を出力しない間はONし、信号処理部120が信号を出力する間はOFFとなる。すなわち、信号処理部120が信号を出力していない間は、給電部180は、導電性の布111にDC電圧を供給し容量C1を充電する。また、信号処理部120が信号を出力している間は、給電部180は、導電性の布111にDC電圧を供給しない。
【0052】
信号処理部120は、処理部300と、ダイオードD1と、容量C2とを備える。
【0053】
容量C2は、ノード400と、導電性の布112(GND)との間に接続される。
【0054】
ダイオードD1は、導電性の布111と、処理部300の電源端子に接続されるノード400との間に接続される。処理部120が信号を出力していない間は、給電部180により導電性の布111に供給された電圧は、ダイオードD1を介してノード400に供給される。また、容量C2に電荷が蓄えられる。信号処理部120が導電性の布111にLレベルの信号を出力している間は、ダイオードD1により容量C2に蓄えられた電荷は、導電性の布111に抜けない。よって、ノード400の電圧レベルは保持される。これにより、信号処理部120が導電性の布111にLレベルの信号を出力している間も、処理部300に電源電圧が供給される。
【0055】
処理部300は、電源端子にノード400が接続され、GND端子に導電性の布112が接続される。
【0056】
図7は、処理部300の構成を示すブロック図である。図7に示すように、処理部300は、増幅部310と、A/D(Analog/Digital)変換部320と、P/S(Parallel/Serial)変換部330と、出力部340と、電源供給部350とを備える。
【0057】
増幅部310は、電極130において検出された筋電位信号を増幅する。
【0058】
A/D変換部320は、増幅部310により増幅されたアナログ信号をディジタル信号に変換する。例えば、A/D変換部320は、アナログ信号を8ビット並列のディジタル信号に変換する。
【0059】
P/S変換部330は、A/D変換部が変換した8ビットの並列信号を直列信号に変換する。
【0060】
出力部340は、P/S変換部330が変換した直列信号を導電性の布111に出力する。例えば、出力部340は、Lレベルの信号またはHi−Z出力を行う。信号処理部120が信号を出力する直前まで、給電部180のスイッチ182はONしており、容量C1にHレベルの電圧が充電される。信号処理部120がLレベルの信号を出力する場合には、出力部340は、容量C1に充電されている電圧をGNDに引き抜くことで導電性の布111の信号レベルをLレベルにする。また、信号処理部120がHレベルの信号を出力する場合には、出力部340は出力をHi−Zとすることで、導電性の布111の信号レベルはHレベルを保持する。このように、出力部340は、Lレベルの信号またはHi−Z出力を行うことで、導電性の布111の信号レベルの制御を行う。これにより、出力部340は、Hレベルの信号を導電性の布111に出力する場合と比べ、大きな電力を必要としない。よって、信号の出力時(導電性の布111に電圧が供給されていない時)であっても、容量C2に充電された電荷により、処理部300を動作させることができる。
【0061】
電源供給部350は、ノード400の電圧を入力として、増幅部310、A/D変換部320、P/S変換部330および出力部340に電源電圧を供給する。
【0062】
以上より、本実施の形態に係る雑音遮断装置100は、電極130および160で受信した筋電位信号を信号処理部120および150で増幅および変換し、導電性衣服110の表面の導電性の布111に出力することができる。また、信号処理部120および150は、給電部180により導電性の布111に供給された電圧を電源電圧として動作することができる。これにより、信号処理部120および150に電源電圧を供給する配線を個別に必要としない。また、信号処理部120が処理した信号の出力用の配線を個別に必要としない。よって、雑音遮断装置100の配線数を削減することができる。これにより、被験者200に電極130および160を貼付した状態でも、被験者200は容易に導電性衣服110を脱着することができる。また、被験者200は、導電性衣服110を着用した状態で容易に身体を動かすことができる。
【0063】
なお、導電性の布111に出力された信号は、有線で外部装置に送信することが可能である。または、信号処理部120等と同形状の導電性衣服110に装着可能な無線送信機能を有する無線送信部を用いることで、導電性の布111に出力された信号を外部装置に無線で送信することが可能である。
【0064】
また、上記説明において、導電性衣服110の表面の導電性の布111を電源および信号伝送に用い、導電性衣服110の裏面の導電性の布112をGNDに用いているが、導電性衣服110の表面の導電性の布111をGNDに用い、導電性衣服110の裏面の導電性の布112を電源および信号伝送に用いてもよい。また、上記説明において、信号処理部120および150は、導電性衣服110の裏面から棒部材123を差し込み導電性衣服110に固定しているが、導電性衣服110の表面から棒部材123を差し込んでもよい。さらに、上記説明において、電極124をGND端子とし、固定部材122を電源端子および信号出力端子としているが、電極124を電源端子および信号出力端子とし、固定部材122をGND端子としてもよい。
【0065】
また、上記説明において、信号処理部120および150は、個別の処理部として導電性衣服110に装着されているが、1つの信号処理部が被験者の皮膚表面上に貼付する複数の電極を備え、複数の信号の処理(増幅および変換等)を行ってもよい。
【0066】
また、上記説明において、導電性衣服110には、信号処理部120、150および給電部180のみが装着されているが、信号処理部120等と同形状の様々な機能を有する処理部を装着してもよい。例えば、導電性衣服110に、外部機器(パーソナルコンピュータ等)との信号の入出力を制御する入出力部、無線送信機能を有する無線送信部、無線受信機能を有する無線受信部、信号処理部120および150が出力する信号等を記憶する記憶部、信号処理部120および150が出力する信号等を処理する処理部、信号処理部120および150等の導電性衣服110に装着されている各処理部を制御する制御部、および、筋電位の測定結果または測定状態(例えば、測定中にはLEDが点灯する等)の表示を行う表示部等を装着してもよい。さらに、上述した複数の機能のうち2以上の機能を有する処理部を装着してもよい。
【0067】
また、上記説明において、電極130および160は、被験者200の皮膚表面上に貼付する電極としたが、被験者の筋肉に差し込む針状の電極であってもよい。
【0068】
また、上記説明において、導電性の布111は、導電性衣服110の表面の全面に形成され、導電性の布112は、導電性衣服110の裏面の全面に形成されるとしたが、導電性の布111は、導電性衣服110の表面の一部に形成され、導電性の布112は、導電性衣服110の裏面の一部に形成されてもよい。例えば、図2に示すように被験者の上腕部の筋電位信号を測定する場合には、導電性衣服110の被験者の上腕部を覆う部分にのみ導電性の布111および112を形成してもよい。
【0069】
また、上記説明において、導電性衣服110は、図1に示すように、長袖の上着であるが、これに限定されるものではない。例えば、導電性衣服110は、半袖の上着であってもよい。また、下半身の筋電位信号等を測定する場合には、導電性衣服110は、ズボンまたはスカート状等であってもよい。
【0070】
次に、本実施の形態に係る雑音遮断装置100の効果を証明する実験結果について説明する。
【0071】
実験条件を以下に示す。被験者200の前腕橈側部にAg/AgCl電極130および160をペーストを介して2箇所に貼り付け、被験者200が導電性衣服110を着用した状態で、筋電位信号の測定を行なった。信号処理部120および150のGNDは、導電性衣服110の裏面の導電性の布112に接続し、信号処理部120および150の電源および出力信号は、導電性衣服110の表面の導電性の布111に接続した。信号処理部120および150の増幅部310は、カットオフ周波数が5Hzの1次パッシブHPF(High Pass Filter)と、カットオフ周波数が1000Hzの1次パッシブLPF(Low Pass Filter)と、差動増幅器を用いた非反転最大1000倍の増幅回路とから構成した。A/D変換部320は、2kHzでA/D変換を行い、出力部340が出力した信号をPC(パーソナルコンピュータ)に記録した。
【0072】
図8は、信号処理部120および150のGNDを導電性衣服110の裏面の導電性の布112と接続せずに開放し、被験者200が力を入れていない状態(以下、「安静時」と称す。)における筋電位信号の測定波形を示す図である。ここで、GNDを開放したとは、信号処理部120および150の電源およびGNDを外部のバッテリーから供給し、導電性衣服110の裏面の導電性の布112と、信号処理部120、150およびバッテリーのGNDとが接続されていない状態を意味する。図8に示すように、信号処理部120および150のGNDを開放した場合には、基本周波数を50Hzとする商用電源に起因するノイズが測定信号に混入する。
【0073】
図9は、従来のシールドルームを用いた場合の筋電位信号の測定波形を示す図である。図9の期間T1は、安静時の筋電位信号の測定波形であり、期間T2は、被験者200が力を入れた状態(以下、「筋活動時」と称す。)における筋電位信号の測定波形である。図9に示すように、従来のシールドルームを用いることで、基本周波数を50Hzとする商用電源に起因するノイズは遮断され、安静時(期間T1)には筋電位信号は変動せず、筋活動時(期間T2)には筋活動に応じた変動を有する筋電位信号が測定される。
【0074】
図10は、本実施の形態に係る雑音遮断装置100を用いた場合の、安静時の筋電位信号の測定波形を示す図である。図10に示すように、本実施の形態に係る雑音遮断装置100を用いることで、図9の期間T1に示す従来のシールドルームを用いた場合と同様に、基本周波数を50Hzとする商用電源に起因するノイズは遮断されることが分かる。また、安静時において筋電位信号が変動しない状態を測定することができる。
【0075】
図11は、本実施の形態に係る雑音遮断装置100を用いた場合の、筋活動時の筋電位信号の測定波形を示す図である。図11に示すように、本実施の形態に係る雑音遮断装置100を用いることで、図9の期間T2に示す従来のシールドルームを用いた場合と同様に、基本周波数を50Hzとする商用電源に起因するノイズは遮断されることが分かる。また、筋活動時において筋活動に応じた筋電位信号の変動を測定することができる。
【0076】
以上より、本実施の形態に係る雑音遮断装置100は、信号処理部120および150のGNDを導電性衣服110の裏面の導電性の布112に接続することで、筋電位信号の測定における外界からの雑音を遮断することができる。また、本実施の形態に係る雑音遮断装置は、従来のシールドルームと同等の雑音遮断効果を実現することができる。
【0077】
また、信号処理部120および150のGNDを導電性衣服110の裏面の導電性の布112に接続し、信号処理部120および150の電源を導電性衣服110の表面の導電性の布111からでなく外部より供給し同様の測定を行った。信号処理部120および150の電源を外部から供給した場合にも、図10および図11と同様の測定結果が得られた。すなわち、信号処理部120および150のGNDを導電性衣服110の裏面の導電性の布112に接続することで、外界からの雑音を遮断する効果が得られることが分かる。
【0078】
また、信号処理部120および150のGNDを導電性衣服110の表面の導電性の布111に接続し、信号処理部120および150の電源および出力信号を導電性衣服110の裏面の導電性の布112に接続し、同様の測定を行った。信号処理部120および150のGNDを導電性衣服110の表面の導電性の布111に接続し、信号処理部120および150の電源および出力信号を導電性衣服110の裏面の導電性の布112に接続した場合においても、図10および図11と同様の筋電位信号が測定された。しかしながら、信号処理部120および150のGNDを導電性衣服110の表面の導電性の布111に接続し、信号処理部120および150の電源および出力信号を導電性衣服110の裏面の導電性の布112に接続した場合には、裏面の導電性の布112の電圧レベルの変動に起因するノイズが測定波形に混入することが確認された。
【0079】
図12は、信号処理部120および150のGNDを導電性衣服110の表面の導電性の布111に接続した場合の、筋電活動時における筋電位信号の測定波形のスペクトラムを示す図である。図12に示すように、信号処理部120および150のGNDを導電性衣服110の表面の導電性の布111に接続した場合には、裏面の導電性の布112の電圧レベルの変動に起因する約375Hzのノイズ500が測定波形に混入する。図13は、信号処理部120および150のGNDを導電性衣服110の裏面の導電性の布112に接続した場合の、筋電活動時における筋電位信号の測定波形のスペクトラムを示す図である。図13に示すように、信号処理部120および150のGNDを導電性衣服110の裏面の導電性の布112に接続した場合には、図12に示すノイズ500と同様のノイズは、測定波形に混入しない。すなわち、よりノイズを削減するためには、導電性衣服110の裏面の導電性の布112を信号処理部120および150のGNDと接続するほうが好ましいといえる。さらに、導電性衣服110の裏面の導電性の布112に信号処理部120および150が処理した信号を出力し、外部とのデータ通信を行う場合には、データ通信における通信レートに依存したノイズが、筋電位信号の測定波形に混入する。一方、信号処理部120および150のGNDを導電性衣服110の裏面の導電性の布112に接続し、表面の導電性の布111をデータ通信に用いることで、データ通信における通信レートに依存したノイズを遮断し、筋電位信号の測定波形に対するノイズの影響を低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、筋電位信号測定等の生体信号の測定を妨害する外界からの雑音を遮断する衣服に適用でき、特に、スポーツ科学、生物物理学、在宅医療等における生体情報計測システムに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本実施の形態に係る雑音遮断装置の構成を示す外観図である。
【図2】筋電位信号測定時における電極の装着例を示す図である。
【図3】信号処理部の構成を模式的に示す斜視図である。
【図4】信号処理部を導電性衣服に装着した状態における信号処理部および導電性衣服の断面構造を示す図である。
【図5】本実施の形態に係る雑音遮断装置による筋電位信号測定時の状態の一例を示す図である。
【図6】本実施の形態に係る雑音遮断装置の機能ブロック構成を示す図である。
【図7】処理部300の構成を示すブロック図である。
【図8】信号処理部のGNDを開放した状態における筋電位信号の測定波形を示す図である。
【図9】従来のシールドルームを用いた場合の筋電位信号の測定波形を示す図である。
【図10】本実施の形態に係る雑音遮断装置による安静時における筋電位信号の測定波形を示す図である。
【図11】本実施の形態に係る雑音遮断装置による筋活動時における筋電位信号の測定波形を示す図である。
【図12】信号処理部のGNDを導電性衣服の表面の導電性の布に接続した場合の、測定波形のスペクトラムを示す図である。
【図13】信号処理部のGNDを導電性衣服の裏面の導電性の布に接続した場合の、測定波形のスペクトラムを示す図である。
【符号の説明】
【0082】
100 雑音遮断装置
110 導電性衣服
111、112 導電性の布
113 絶縁の布
120、150 信号処理部
121 信号処理回路
122 固定部材
123 棒部材
124 電極
130、160 電極
140、170 配線
180 給電部
181 電源
182 スイッチ
200 被験者
300 処理部
310 増幅部
320 A/D変換部
330 P/S変換部
340 出力部
350 電源供給部
C1、C2 容量
D1 ダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の生体信号の測定を妨害する外界からの雑音を遮断する衣服であって、
表生地または裏生地となる導電性の布と、
前記布に取り付けられ、前記生体信号を増幅する増幅手段とを備え、
前記増幅手段のGNDは、前記布に電気的に接続される
ことを特徴とする衣服。
【請求項2】
前記増幅手段は、
前記衣服を貫通する棒状の棒部材と、
前記棒部材に嵌合した状態において、前記増幅手段を前記衣服に固定する固定部材と、
前記増幅手段が前記衣服に固定された状態において、前記布と電気的に接続されるGND電極とを備える
ことを特徴とする請求項1記載の衣服。
【請求項3】
前記衣服は、
導電性の表生地と、
導電性の裏生地と、
前記表生地と前記裏生地との間に形成され、前記表生地と前記裏生地とを電気的に絶縁する絶縁生地とを備え、
前記増幅手段のGNDは、前記表生地および前記裏生地の一方に接続され、
前記増幅手段の電源は、前記表生地および前記裏生地の他方に接続される
ことを特徴とする請求項1記載の衣服。
【請求項4】
前記増幅手段は、
前記衣服を貫通する棒状の第1の棒部材と、
前記第1の棒部材に嵌合した状態において、前記第1の棒部材と電気的に接続され前記増幅手段を前記衣服に固定する第1の固定部材と、
前記増幅手段が前記衣服に固定された状態において、前記表生地および前記裏生地のうち一方と電気的に接続される第1の電極とを備え、
前記第1の固定部材は、前記増幅手段が前記衣服に固定された状態において、前記表生地および前記裏生地のうち他方と電気的に接続され、
前記第1の棒部材および前記第1の電極のうち一方は前記増幅手段のGND端子であり、他方は前記増幅手段の電源端子である
ことを特徴とする請求項3記載の衣服。
【請求項5】
前記増幅手段は、増幅した信号を前記表生地および前記裏生地のうち前記増幅手段の電源が接続されているほうに出力する出力手段を備える
ことを特徴とする請求項3または4記載の衣服。
【請求項6】
前記衣服は、さらに、
前記表生地および前記裏生地のうち前記増幅手段のGNDが接続されているほうをGNDレベルとし、前記表生地および前記裏生地のうち前記増幅手段の電源が接続されているほうに電圧を供給する給電手段を備え、
前記給電手段は、
前記衣服を貫通する棒状の第2の棒部材と、
前記第2の棒部材に嵌合した状態において、前記第2の棒部材と電気的に接続され、前記給電手段を前記衣服に固定する第2の固定部材と、
前記給電手段が前記衣服に固定された状態において、前記表生地および裏生地のうち一方と電気的に接続される第2の電極とを備え、
前記第2の固定部材は、前記給電手段が前記衣服に固定された状態において、前記表生地および前記裏生地のうち他方と電気的に接続され、
前記給電手段は、前記第2の棒部材および前記第2の電極のうち一方をGNDレベルとし、他方に電圧を供給する
ことを特徴とする請求項4または5記載の衣服。
【請求項7】
前記増幅手段のGNDは、前記裏生地に接続される
ことを特徴とする請求項3〜6のいずれか1項に記載の衣服。
【請求項8】
前記衣服は、さらに、
被験者の皮膚表面上に貼付可能な第3の電極を備え、
前記増幅手段は、前記第3の電極が受信した生体信号を増幅する
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の衣服。
【請求項9】
前記衣服は、複数の前記第3の電極と、
前記各第3の電極が受信した生体信号をそれぞれ増幅する複数の増幅手段とを備える
ことを特徴とする請求項8記載の衣服。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−291566(P2007−291566A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−121591(P2006−121591)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【出願人】(506144112)函館圏公立大学広域連合 (8)
【Fターム(参考)】