説明

衣類

【課題】熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いて、衣類の端縁部を処理し、又は衣類を構成する複数の部品を接合する場合に、端縁部や接合部の伸縮性に優れた衣類を提供する。
【解決手段】熱可塑性ポリウレタン樹脂で衣類生地が溶融接着された接着部を有する衣類であって、前記接着部が衣類の端縁部、及び/又は、生地部品を複数接合して衣類を構成するための部品接合部であり、該接着部の伸長回復性試験における80%R/Sが35%以上であり、かつ該接着部の残留歪が18%以下である衣類を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリウレタン樹脂を衣類の端縁部及び/又は衣類を構成する複数の部品の接合部に配置し、加熱によって該熱可塑性ポリウレタン樹脂を溶融させて、該端縁部及び/又は該接合部を溶融接着させた衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衣類の端縁部や衣類を構成する部品の接合部は、糸により縫製されることが一般的であるが、近年、縫製を行うことなく接着樹脂テープを用いて衣類の端縁部を形成する方法(特許文献1参照)や熱融着テープにより複数の生地部品を接合して製作された衣類(特許文献2参照)が提案されている。
【0003】
しかしながら、例えばショーツのウェスト部やブラジャーの上下辺テープ等、着用状態で衣類を人体に固定する部分に使用する際には、弾性の回復性が劣るためズレが発生する問題、あるいは、伸縮性リボンや縁取りテープを用いる場合に接着部が厚くなり着用快適性に劣るという問題等があり、より一層の改善が望まれていた。
【0004】
接着樹脂テープとして一般的に用いられるホットメルト樹脂としては、ポリウレタン系、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリエチレン系、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アタクチックポリプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル系、ポリ酢酸ビニル系及びアクリル系等の樹脂が挙げられるが、伸縮性、耐寒性、耐水性及び接着部分のソフト感を保つためにはポリウレタン系の樹脂が好適である。
【0005】
ポリウレタン樹脂のソフトセグメント成分としてポリエーテルが一般的に用いられる。中でもテトラヒドロフラン(以下、THFと記す)の重合体であるポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下、PTMGと記す)を用いたポリウレタン樹脂は、弾性特性、低温特性及び耐加水分解性等の点に優れているため、種々の分野で使用されている。しかし、PTMGを用いたポリウレタン樹脂の例えばフィルムから得られたテープでは、伸長時にソフトセグメントが結晶化することにより弾性機能の低下が生じる。また、PTMGを用いたポリウレタンテープでは、熱接着性を確保するために融点の低いポリマー設計にした場合、テープの弾性機能が著しく低下してしまうという問題もある。
【0006】
これら弾性機能の改良を目的として種々のジオールを用いてポリウレタン中のソフトセグメントの結晶化を抑える試みが行われてきたが、未だ、上記の弾性機能を十分に満足する水準まで達しているポリウレタン(例えばポリウレタンフィルム)に関して記載された文献はない。
【0007】
例えば、共重合タイプのポリエーテルポリオールをポリウレタンのソフトセグメントとして使用することが従来提案されている。ネオペンチルグリコールが共重合したポリエーテルグリコール(特許文献3)、及び共重合ポリエーテルグリコールを用いたポリウレタン(特許文献4)が夫々記載されている。しかしこれらの技術では、共重合率が低いため、テープやフィルム状に成型した場合の強度、伸度及び弾性回復率等の機械的特性を向上させたポリウレタンテープを得ることは難しい。また、THFと3−アルキルテトラヒドロフランとの共重合ポリオールを用いたポリウレタン(特許文献5)が記載されているが、この文献には伸縮時の伸長回復性についての記述はない。また、ネオペンチルグリコール及び/又は3−メチル−1,5−ペンタンジオールを8〜85モル%共重合したポリウレタンによって弾性機能が改良されることが記載されている(特許文献6)が、熱可塑性ポリウレタン及びそれを用いた衣類等に関する開示はない。
【0008】
【特許文献1】特開2007−211369号公報
【特許文献2】特開2005−226175号公報
【特許文献3】特開昭61−120830号公報
【特許文献4】米国特許第4,658,065号明細書
【特許文献5】特開平5−239177号公報
【特許文献6】特開平2−49022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いて、衣類の端縁部を処理し、及び/又は衣類を構成する複数の部品を接合する場合に、衣類の端縁部や接合部の伸縮性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の構成は以下のとおりである。
【0011】
[1] 熱可塑性ポリウレタン樹脂で衣類生地を溶融接着した接着部を有する衣類であって、
前記接着部が衣類の端縁部、及び/又は、生地部品を複数接合して衣類を構成するための部品接合部であり、
前記接着部の伸長回復性試験における80%R/Sが35%以上であり、かつ
前記接着部の残留歪が18%以下である、衣類。
【0012】
[2] 前記熱可塑性ポリウレタン樹脂が、
(i)有機ポリイソシアネート化合物を、
(ii)分子量が300〜30,000のポリアルキレンエーテルジオール化合物であって、下記の構造単位(A):
【化1】

並びに構造単位(B):
【化2】

及び/又は構造単位(C):
【化3】

からなり、かつ下記式(1):
0.08≦(MB+MC)/(MA+MB+MC)≦0.85 (1)
{式中、MA、MB及びMCは、それぞれ、ポリアルキレンエーテルジオール化合物中に存在する構造単位(A)、(B)及び(C)のモル数である。}
を満たすもの
と反応させて得られる構造を含有する、上記[1]に記載の衣類。
【0013】
[3] 前記熱可塑性ポリウレタン樹脂が、イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物からなる鎖延長剤に由来する構造をさらに含有する、上記[2]に記載の衣類。
【0014】
[4] 前記イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物がジオール類である、上記[3]に記載の衣類。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いて衣類の端縁部を処理し、及び/又は衣類を構成する複数の生地部品を接合する場合に、衣類の端縁部や接合部の厚みが増すことなく、伸縮性が著しく向上し、着用時に動きに追随してずれない衣類が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明が対象とする衣類は、衣類全般を包含し、例えば、ショーツ、シャツ、キャミソール、スリップ、ボディスーツ、ブリーフ、トランクス、肌着、ガードル、ブラジャー、スパッツ、腹巻き、パンティストッキング、タイツ、靴下等のインナーウェア、水着、トレーニングウェア、レオタード、スキーウェア、各種競技用スポーツウェア、アウトドア用ウェア等のスポーツウェア、Tシャツ、ジャケット、セーター、ベスト、パンツ、スカート、カットソー、コート、ジャンパー等のアウターウェア、各種衣類や服飾品の裏地、手袋、帽子、マフラー等の服飾品、パジャマ、ガウン等のナイトウェア、介護用ウェア等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
本発明の衣類は、例えば木綿、羊毛、麻、シルク等の天然繊維、レーヨン、キュプラ等の再生繊維、アセテート、トリアセテート等の半合成繊維、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリウレタン弾性繊維、アクリル系繊維、ポリプロピレン系繊維、塩化ビニル系繊維等の化合繊から選ばれる1種の又は複数種を組合せた素材から形成された織布、不織布、編物等であることができる。
【0018】
本発明の衣類における端縁部の構造としては、例えば衣類の端縁部を折り返し、その内面同士を接着固定した折り返し構造等が挙げられるが、これに限定するものではない。
また、本発明における衣類を構成する複数の生地部品の接合としては、以下の例、
−衣類の構造部品、例えば前身頃生地部品と後身頃生地部品等の接合、及び
−衣類本体と装飾部品、例えばポケット、レース、リボン、モチーフ、アップリケ、エンブレム、織ネーム、ファスナー等との接合
が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0019】
本発明の衣類は、熱可塑性ポリウレタン樹脂で衣類生地を溶融接着してなる接着部を有する。該接着部は、衣類の端縁部、及び/又は、生地部品を複数接合して衣類を構成するための部品接合部である。接着部においては、伸長回復性の指標である、後述する伸長回復性試験における80%R/Sが、35%以上、好ましくは40%以上、さらに好ましくは45%以上である。80%R/Sが35%より低いと、着用時にバックパワーが不足するため、着用時に適度なフィット感が得られないという問題や、衣類がズレ下がる等の問題が生じる。
【0020】
接着部の残留歪は18%以下であり、好ましくは16%以下、さらに好ましくは15%である。残留歪が18%を超えると、伸長後の生地の戻りが悪くなるため、着用時に衣類がズレ下がる問題や、寸法変化が大きいため商品としての耐久性が悪化する等の問題がある。
【0021】
上記の80%R/Sは以下の方法で求めることができる。すなわち、長手方向に80%以上接着部を含むように短冊型(幅3cm、長さ15cm)にサンプリングしたテープ状のサンプルを作製する。なお、接着部が12cmに満たない場合は、接着部が80%を超えるようにサンプル長を設定するものとする。引張試験機(例えば、テンシロン万能試験機 RTC−1210A:(株)オリエンテック社製)を使用し、20℃65%RHの条件下で、サンプルの長手方向に伸長するようチャックの掴み代を上下各2.5cmにしてサンプルを挟み、300mm/分で100%伸長した後、回復させる。伸長回復性測定のS−Sカーブから、L1を80%伸長時の応力、L2を100%伸長後80%まで回復した際の応力として、80%R/Sを下記式により求める。
80%R/S=L2/L1×100
【0022】
また上記の残留歪は、上記S−Sカーブの伸長回復後の応力ゼロとなった伸度L3として求める。
【0023】
本発明の衣類における接着部に配置される熱可塑性ポリウレタン樹脂の形状は特に限定されないが、加工性等の点からフィルム、テープ、紐状物又は繊維状物であることが好ましい。衣類の端縁部又は部品接合部が直線状である場合には、熱可塑性ポリウレタン樹脂の断面は扁平な形状であることが好ましく、フィルム、テープ、扁平の紐、扁平断面のモノフィラメント等が好ましく挙げられる。端縁部又は部品接合部が曲線状である場合、熱可塑性ポリウレタン樹脂の断面は円に近い形状であることが好ましく、円に近い断面の紐状物、モノフィラメント又はマルチフィラメント等が好ましく挙げられる。
【0024】
熱可塑性ポリウレタン樹脂としては、有機ポリイソシアネート化合物とポリアルキレンエーテルジオールとを反応させて得られた構造を含有するポリウレタンを用いることができる。さらに、イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物を鎖延長剤として用いることができる。
【0025】
より好ましくは、本発明において用いられる熱可塑性ポリウレタン樹脂は、
(i)有機ポリイソシアネート化合物(以下、有機ポリイソシアネート化合物(i)ともいう。)を、
(ii)分子量が300〜30,000のポリアルキレンエーテルジオール化合物であって、下記の構造単位(A):
【化4】

並びに構造単位(B):
【化5】

及び/又は構造単位(C):
【化6】

からなり、かつ下記式(1):
0.08≦(MB+MC)/(MA+MB+MC)≦0.85 (1)
{式中、MA、MB及びMCは、それぞれ、ポリアルキレンエーテルジオール化合物中に存在する構造単位(A)、(B)及び(C)のモル数である。}
を満たすもの(以下、ポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)ともいう。)
と反応させて得られる構造を含有する。
【0026】
有機ポリイソシアネート化合物(i)としては、分子内に少なくとも2個以上のイソシアネート基を有する化合物、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、メチレン−ビス(4−フェニルイソシアネート)、メチレン−ビス(3−メチル−4−フェニルイソシアネート)、2,4−トリレンジイソシアネート、2、6−トリレンジイソシアネート、m−又はp−キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチル−キシリレンジイソシアネート、m−又はp−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジメチル−1,3−キシリレンジイソシアネート、1−アルキルフェニレン−2,4又は2,6−ジイソシアネート、3−(α−イソシアネートエチル)フェニルイソシアネート、2,6−ジエチルフェニレン−1,4−ジイソシアネート、ジフェニル−ジメチルメタン−4,4−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、メチレン−ビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、1,3−又は1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート及びイソフォロンジイソシアネート等が挙げられる。
【0027】
ポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)は、上記の構造単位(A)と構造単位(B)及び/又は構造単位(C)とからなり、かつ、上記式(1)で定義されるように、側鎖にメチル基を持つセグメントを8モル%以上かつ85モル%以下含む。側鎖にメチル基を持つセグメントが8モル%以上85モル%以下である場合、種々の弾性機能、例えば破断伸度及び弾性回復性に優れた熱接着ポリウレタンフィルムを形成できる熱可塑性ポリウレタン樹脂が得られる。よって熱可塑性ポリウレタン樹脂を該熱接着ポリウレタンフィルムの形状で衣類の接着に用いることにより、衣服の端縁部や接合部の伸縮性をより向上させることができる。側鎖にメチル基を持つセグメントの範囲は、より好ましくは下記式(2)、さらに好ましくは下記式(3)で示す範囲である。
0.09≦(MB+MC)/(MA+MB+MC)≦0.45 (2)
0.09≦(MB+MC)/(MA+MB+MC)≦0.30 (3)
(式(2)及び(3)中、MA、MB及びMCは前述の式(1)において説明したのと同じ意味である。)
【0028】
ポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)は、例えば、THFと、ネオペンチルグリコール及び/若しくは3−メチル−1,5−ペンタンジオール、又はそれらの脱水環状低分子化合物、例えば、3,3−ジメチルオキセタンとを、特開昭61−123628号公報に記載の方法に従って、水和数を制御したヘテロポリ酸を触媒として反応させることにより製造される。得られる共重合ジオールは、所定の分子量、共重合成分構成及び共重合比となるように、反応の方法及び条件を種々変化させることによって容易に製造できる。
【0029】
該ポリアルキレンジオール化合物(ii)を構成するネオペンチル単位及び/又は3−メチル−1,5−ペンチレン単位は、テトラメチレン単位に対してランダム状あるいはブロック状のいずれで分布していてもよく、ヘテロポリ酸触媒を用いた反応ではブロック状又はランダム状いずれにも分布させることができ、得られるポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)の結晶性を種々効果的に変えることが可能であり、本発明で用いる熱可塑性ポリウレタン樹脂の特性に合わせて各々の結晶性を持つジオールを製造することができる。
【0030】
本発明で用いられるポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)の数平均分子量は300〜30,000であることが好ましく、より好ましくは500〜5,000で、さらに好ましくは900〜2,000である。数平均分子量が300より小さいとテープの伸度が低くなり、着用時に引き伸ばすことが難しい傾向がある。また、数平均分子量が30,000より大きいとテープの強度が低くなる傾向がある。
【0031】
ポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)は、他のジオールとして、例えば数平均分子量250〜20,000程度のジオール、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール及びポリオキシペンタメチレングリコール等のホモポリエーテルジオール、炭素原子数2から6の2種以上のオキシアルキレンから構成される共重合ポリエーテルジオール、アジピン酸、セバチン酸、マレイン酸、イタコン酸、アゼライン酸及びマロン酸等の二塩基酸の1種又は2種以上とエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール,1,3−プロピレングリコール,2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール,1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、1,10−デカンジオール、1,3−ジメチロールシクロヘキサン及び1,4−ジメチロールシクロヘキサン等のグリコールの1種又は2種以上とから得られたポリエステルジオール、ポリエステルアミドジオール、ポリエステルエーテルジオール、ポリ−ε−カプロラクトンジオール及びポリバレロラクトンジオール等のポリラクトンジオール、ポリカーボネートジオール、ポリアクリルジオール、ポリチオエーテルジオール若しくはポリチオエステルジオール、又はこれらジオールの共重合物、等と任意の割合に混合すること等により併用できる。
【0032】
熱可塑性ポリウレタン樹脂は、イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物(iii)からなる鎖延長剤に由来する構造をさらに含有できる。イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物(iii)としては、例えば、(イ)低分子量のジオール、例えばエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、1,10−デカンジオール、1,3−ジメチロールシクロヘキサン又は1,4−ジメチロールシクロヘキサンヒドラジン、(ロ)炭素原子数2〜10の直鎖又は分岐した脂肪族、脂環族又は芳香族の活性水素を有するアミノ基を持つ化合物で例えばエチレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヒドラジン、カルボジヒドラジド、アジペン酸ジヒドラジド又はセバシン酸ジヒドラジド、(ハ)1官能性アミノ化合物、例えば第2級アミン、すなわちジメチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、メチル−n−プロピルアミン、メチル−イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、メチル−n−ブチルアミン、メチル−イソブチルアミン又はメチルイソアミルアミン、(ニ)水、(ホ)上記ポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)のうち有機ポリイソシアネート化合物(i)と反応していないもの、(ヘ)公知の数平均分子量250〜5,000程度のジオール類及び(ト)一価のアルコール類等が挙げられる。好ましくはジオール類であり、特に1,4−ブタンジオール及び/又は炭素原子数が4〜8のジアルキレングリコールがさらに好ましい。
【0033】
有機ポリイソシアネート化合物(i)と、イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物(iii)とは、各々単独で用いてもよいが、必要に応じて予め混合して用いてもよい。
【0034】
ポリウレタン化反応の操作に関しては、公知のポリウレタン化反応の技術を用いることができる。例えば、ポリアルキレンエーテルジオール(ii)と有機ポリイソシアネート化合物(i)とを、1:1.1〜1:3.5(当量比)の割合で有機ポリイソシアネート化合物(i)過剰の条件下で反応させ、ウレタンプレポリマーを合成した後、該プレポリマー中のイソシアネート基に対して、イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物(iii)を添加し、反応させることもできる。あるいは、有機ポリイソシアネート化合物(i)、ポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)、及びイソシアネート基と反応する活性水素含有化合物(iii)を同時に1段で反応させるワンショット重合法でも反応させることができる。
【0035】
ポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)に対する有機ポリイソシアネート化合物(i)の当量比が小さい方が熱接着剥離応力が高くなる点では好ましく、より好ましくは1:1.1〜1:3.0、さらに好ましくは1:1.3〜1:2.0、特に好ましくは、1:1.5〜1:1.9である。
【0036】
一方、ポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)に対する有機ポリイソシアネート化合物(i)の当量比がある程度大きい方が熱接着後の補強材としてのパワーを保持する点で好ましく、より好ましくは1:1.5〜1:3.5、さらに好ましくは1:1.8〜1:3.0、特に好ましくは、1:1.9〜1:2.7である。
【0037】
いずれの場合も、有機ポリイソシアネート化合物(i)のイソシアネート基と、ポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)の水酸基、及びイソシアネート基と反応する活性水素含有化合物(iii)の活性水素の合計とが概ね当量になるように反応させることが好ましい。
【0038】
上記のポリウレタン化反応においては、必要に応じ、触媒及び安定剤等を添加することができる。触媒としては例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジブチル錫ジラウレート及びオクチル酸第一錫等が挙げられ、安定剤としては、ポリウレタン樹脂に通常用いられる他の化合物、例えば紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、耐ガス安定剤、帯電防止剤、着色剤、艶消し剤及び充填剤等が挙げられる。
【0039】
上述のような構成を採用すれば、融点が低いポリマー設計によって、熱接着性に優れるだけでなく、応力保持率も高い熱可塑性ポリウレタン樹脂を得ることができる。本発明においては、この熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いて衣類の端縁部を処理し、及び/又は複数の生地部品を接合するので、低温(例えば130℃程度)接着でも高い熱接着剥離応力、高い応力保持率が得られるため、洗濯に対する耐久性(特に耐熱性)を発現できる。
本発明において用いる熱可塑性ポリウレタン樹脂の、フローテスターによって測定される融点(溶出開始温度)は80℃以上、130℃未満であることがより好ましく、82℃以上、125℃未満がさらに好ましく、85℃以上、120℃未満が特に好ましい。なお上記融点は以下の方法で測定できる。すなわち、フローテスター(例えば島津フローテスターCFT−500D型((株)島津製作所製))を使用し、サンプル量1.5g、ダイ(ノズル)の直径0.5mm、厚み1.0mmの条件下で、294Nの押出荷重を加え、初期設定温度100℃で240秒間予熱した後、3℃/分の速度で等速昇温し、その際に描かれるプランジャーストローク−温度曲線を求める。等速昇温されるに従い、サンプルは徐々に加熱され、ポリマーが流出し始める。このときの温度を融点(溶出開始温度)とする。具体的には、図1に示すように、プランジャーストローク−温度曲線の立ち上がり部の接線と立ち上がり前の傾きが最小となる点の接線との交点を求め溶出開始温度とする。
【0040】
一方、熱接着後の補強材としてのパワーを保持するためには、本発明で用いられる熱可塑性ポリウレタン樹脂は、MFR(メルトフローレイト)が15以上、25以下であることが好ましく、17以上、24以下がより好ましく、18以上、23以下がさらに好ましい。MFRが15より低いと、熱接着力が小さくなる傾向がある。一方、25より大きいと補強材としてのパワーが小さくなる傾向がある。MFRは一定条件下における流動性(すなわちせん断粘性)の指標であり、MFRが上記の範囲である場合、優れた弾性機能を好適に発現することができる。MFRはメルトインデクサーによって測定できる。
【実施例】
【0041】
本発明を実施例でさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。実施例及び比較例における測定値は、下記の測定法により求めたものである。
【0042】
[融点(溶出開始温度)の測定]
島津フローテスターCFT−500D型((株)島津製作所製)を使用し、サンプル量1.5g、ダイ(ノズル)の直径0.5mm、厚み1.0mmの条件下で、294Nの押出荷重を加え、初期設定温度100℃で240秒間予熱した後、3℃/分の速度で等速昇温し、その際に描かれるプランジャーストローク−温度曲線を求めた。等速昇温されるに従い、サンプルは徐々に加熱され、ポリマーが流出し始めた。このときの温度を融点(溶出開始温度)とした。具体的には、図1に示すように、プランジャーストローク−温度曲線の立ち上がり部の接線と立ち上がり前の傾きが最小となる点の接線との交点を求め溶出開始温度とした。
【0043】
[MFR(JIS K 7210(1995))の測定]
東洋精機製作所社製メルトインデクサーS−101型を用いて、190℃、荷重2.16kgで実施した。
【0044】
[80%R/S及び残留歪測定]
熱可塑性ポリウレタン樹脂によって衣類生地が接着された衣類において、長手方向に80%以上接着部を含むように短冊型(幅3cm、長さ15cm)にサンプリングしたテープ状のサンプルを作製した。なお、接着部が12cmに満たない場合は、接着部が80%を超えるようにサンプル長を設定するものとする。引張試験機(テンシロン万能試験機 RTC−1210A:(株)オリエンテック社製)を使用し、20℃65%RHの条件下で、テープの長手方向に伸長するようチャックの掴み代を上下各2.5cmにしてサンプルを挟み、300mm/分で100%伸長した後、回復させた。図2に、本発明における伸長回復性測定のS−Sカーブの模式図を示す。L1を80%伸長時の応力、L2を100%伸長後80%まで回復した際の応力とし、80%R/Sを下記式により求めた。
80%R/S=L2/L1×100
【0045】
また、残留歪は、伸長回復後のS−Sカーブの応力ゼロとなった伸度L3として求めた。
【0046】
[着用評価]
熱可塑性ポリウレタン樹脂をショーツのウエスト部と股ぐりの端縁部及び脇の接合部に配置し、加熱によって生地と該樹脂とを溶融接着して作製したショーツにつき、パネラー10名に着用してもらい、8時間後に着用感とショーツのズレに関して以下の基準で判定してもらい、着用感については○を付けたの合計人数をカウントし、フィット感については10名の合計点数で算出した。
【0047】
(着用感)
○: 着用時に接着部が気にならず、快適である。
×: 着用時に接着部が肌にあたる気がして不快である。
(フィット感)
5点: 非常にフィットし、動きに追随して快適である。
3点: フィット感は物足らないが、ズレることはない。
1点: フィット感が弱く、ズレ落ちる感じがする。
【0048】
[厚み測定]
衣類のウェスト部の端縁部及び脇の接合部の厚みを厚み計(マイクロメータ PK−1012:(株)ミツトヨ社製)で測定した。
【0049】
[実施例1]
ポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)として、共重合組成MB/(MA+MB)が0.1である、旭化成せんい株式会社製PTXG1800を使用し、PTXG1500g、及び有機ポリイソシアネート化合物(i)として4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート365gを、窒素ガス気流下80℃において180分間攪拌しつつ反応させて、両末端にイソシアネート基を有するポリウレタンプレポリマーを得た。ついで、これを急速に25℃まで冷却した後、イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物(iii)として1,4−ブタンジオール56.3gを上記ポリウレタンプレポリマーに添加して30分間攪拌してポリウレタンを得た。
【0050】
このポリウレタンに、酸化防止剤としてアデカ製AO−60を9g、黄変防止剤としてアデカ製LA−36を9g混合した後、テフロン(登録商標)トレイに払い出し、トレイごと130℃の熱風オーブン中で3時間アニーリングして熱可塑性ポリウレタン樹脂を得た。この熱可塑性ポリウレタン樹脂はMFR(190℃)が8.0であり、熱可塑性の特性を有していた。
【0051】
この熱可塑性ポリウレタン樹脂を、ホーライ社製粉砕機UG−280型にて、3mm程度の粉末に粉砕して熱可塑性ポリウレタン樹脂粉末を作製し、さらにこれをテクノベル社製二軸押出機KZW15TW−45HGにて溶融押出し成形した。幅150mm、リップ幅1.0mmのTダイスよりダイス温度200℃で剥離紙(リンテック(株)社製)上に溶融物を押出し、厚み200μmのフィルムを得た。このフィルムをスリット加工し、6mm幅のスリットテープを得た。このテープの融点(溶出開始温度)は114℃であった。
【0052】
40ゲージ2枚筬のトリコット編機を使用し、フロント筬(F)にナイロン22dtex/7fフルダル糸、バック筬(M)にスパンデックス22dTを用い、組織はデンビー組織で編成、通常の方法で染色、仕上げを行い、コース数72/インチ、ウェル数72/インチ、厚み320μmの編地を得た。この編地をショーツのパターンに裁断し、ウェスト部及び股ぐり部の端に沿うように6mm幅の上記のテープを配置し、テープの幅の分を折り返して、熱プレス機(OA350型;アサヒ試験用プレス機(大阪アサヒ(株)社製)で圧力0.2MPa、温度100℃で10秒接着した。また、テープをショーツの脇の接合部に配置し、同様に熱プレスで接着し実施例1のショーツを得た。こうして得た実施例1の衣類につき、ウェスト部を、接着テープの長手方向が長手方向になるように短冊型(幅3cm、長さ15cm)にサンプリングし、80%R/S及び残留歪を測定するとともに、別途着用評価及びウェスト部の端縁部の厚み測定を実施した。
【0053】
[実施例2]
ショーツの脇の接合部を、接着テープの長手方向が長手方向になるように短冊型(幅3cm、長さ15cm)にサンプリングする以外は実施例1と同様の方法で各種評価を行った。
【0054】
[実施例3]
スリットテープの厚みを100μmとする以外は実施例1と同様の方法で各種評価を行った。
【0055】
[実施例4]
実施例1と同様の方法で得た熱可塑性ポリウレタン樹脂粉末を直径50mmの単軸押出機にて溶融押出し、幅30mm、厚み0.2mmの紡口より扁平な繊維状に押出し、延伸後、巻取って幅8mm、厚み170μmの扁平糸を得た。この扁平糸を用い、実施例1と同様の方法で、生地に熱プレスし実施例3のショーツを得、実施例1と同様の評価を行った。
【0056】
[実施例5]
PTXG1800の使用量を1400g、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの使用量を389.4g、1,4−ブタンジオールの使用量を35gにする以外は実施例3と同様にして、実施例5のショーツを得、実施例1と同様の評価を行った。なおこのときの熱可塑性ポリウレタン樹脂のMFR(190℃)は18であった。
【0057】
[比較例1]
ポリアルキレンエーテルジオールとして、旭化成せんい株式会社製PTMG1,000を使用し、当該PTMG1400g及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート490.6gを、窒素ガス気流下80℃において180分間攪拌しつつ反応させて、両末端にイソシアネート基を有するポリウレタンプレポリマーを得た。ついで、これを25℃まで冷却した後、1,4−ブタンジオール50.4gを上記ポリウレタンプレポリマーに添加して30分間攪拌した。このポリウレタンに、酸化防止剤としてアデカ製AO−60を9g、黄変防止剤としてアデカ製LA−36を9g混合した後、テフロン(登録商標)トレイに払い出し、トレイごと130℃の熱風オーブン中で3時間アニーリングしてポリウレタン樹脂を得た。このポリウレタン樹脂はMFR(190℃)が7.8であり、熱可塑性の特性を有していた。
【0058】
このポリウレタン樹脂を、ホーライ社製粉砕機UG−280型にて、3mm程度の粉末に粉砕してポリウレタン樹脂粉末を作製し、さらにこれをテクノベル社製二軸押出機KZW15TW−45HGにて溶融押出し成形した。幅150mm、リップ幅1.0mmのTダイスよりダイス温度200℃で剥離紙上に溶融物を押出し、厚み200μmのフィルムを得た。このフィルムをスリット加工し、6mm幅のスリットテープを得た。このテープを実施例1と同様の方法で生地に熱プレスし、比較例1のショーツを得、実施例1と同様の評価を行った。
【0059】
[比較例2]
比較例1と同様の方法で得たポリウレタン樹脂粉末を実施例4と同様の方法で押出して幅8mm、厚み170μmの扁平糸とし、この扁平糸を用いて実施例4と同様の方法で、生地に熱プレスし比較例2のショーツを得、実施例1と同様の評価を行った。
【0060】
[比較例3]
スパンデックス155dtexにナイロン44dtex/24fをカバリングした被覆弾性糸を伸縮素材として用いて経編組織に編成した6mm幅の細幅編物をショーツのウェスト部及び股ぐり部に配置し、細幅編物の上下面を比較例1と同様の方法で得たスリットテープで挟み込んで3層構造とし、生地の3層構造の幅の分を折り返し、熱プレス機で圧力0.2MPa、温度130℃で10秒接着した。また、ショーツの脇の接合部を比較例1と同様の方法で接着し、比較例3のショーツを得、実施例1と同様の評価を行った。
【0061】
以上の各実施例及び比較例における80%R/S、残留歪、着用感、フィット感、及びウェスト部の厚みの結果を表1に示す。表1の結果より、本発明の衣類は、着用感及びフィット感が良好でズレ落ちる感じがなく、また衣類の端縁部及び接合部が厚くならずに快適であることが分かる。
【0062】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の衣類は、衣類の端縁部や接合部を薄くすることができ、さらに衣類の端縁部や接合部の伸縮性を著しく向上することができ、例えばインナーウェア、スポーツウェア、アウターウェア、ナイトウェア、介護用ウェア等に好適に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明における溶出開始温度について説明する図である。
【図2】本発明における伸度回復性測定のS−Sカーブの模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリウレタン樹脂で衣類生地を溶融接着した接着部を有する衣類であって、
前記接着部が衣類の端縁部、及び/又は、生地部品を複数接合して衣類を構成するための部品接合部であり、
前記接着部の伸長回復性試験における80%R/Sが35%以上であり、かつ
前記接着部の残留歪が18%以下である、衣類。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリウレタン樹脂が、
(i)有機ポリイソシアネート化合物を、
(ii)分子量が300〜30,000のポリアルキレンエーテルジオール化合物であって、下記の構造単位(A):
【化1】

並びに構造単位(B):
【化2】

及び/又は構造単位(C):
【化3】

からなり、かつ下記式(1):
0.08≦(MB+MC)/(MA+MB+MC)≦0.85 (1)
{式中、MA、MB及びMCは、それぞれ、ポリアルキレンエーテルジオール化合物中に存在する構造単位(A)、(B)及び(C)のモル数である。}
を満たすもの
と反応させて得られる構造を含有する、請求項1に記載の衣類。
【請求項3】
前記熱可塑性ポリウレタン樹脂が、イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物からなる鎖延長剤に由来する構造をさらに含有する、請求項2に記載の衣類。
【請求項4】
前記イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物がジオール類である、請求項3に記載の衣類。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−95808(P2010−95808A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265638(P2008−265638)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)